――日曜日、自分こと『
昨日の天気予報の通り、今朝から結構な量の雨が降り続いているらしい。この雨は一日中降る見通しらしいので、せっかくの休日にこの天気を残念がる人も多いだろう。
雨音に混じってピポポ…と電子音のようなものが聞こえてきた。自分にとってはすっかり慣れてしまったこの音のする方へ視線を向けた。
音の出どころ――自分のベッドの傍らには黒髪の少女が立っている。彼女はこの家の家族の一員であるのだが、自分は彼女が寝ている姿を見た事が無く、どれだけ早起きしても彼女は自分の寝床の側にいるのだ。
まだ眠い目をこすりながら自分は彼女に挨拶する。
「おはよう。ゼットン」
「…おはようございます。サツキ」
洗面所で顔を洗った後に黒髪少女―ゼットン―と共にリビングへ向かった。既に朝食は出来ているらしく、リビングの方から美味しそうな匂いがしてくる。
リビングに入ると赤髪の女性が朝食を載せたちゃぶ台に座っていた。こちらに気づいた女性はこちらに声を掛けてくる。
「おはよう。サツキ、ゼットン。朝ごはんはもう出来ているよ」
「おはよう。母さん、またお茶漬けなんだ」
「ああ、眼兎龍茶漬けだよ。今回は新茶を使っているから冷めないうちに食べてね」
我が家の朝食には結構な頻度でお茶漬けがでる。それも一般には出回っておらず、どこからか仕入れてくるか分からない『眼兎龍茶』というお茶を使っている。一度どこから手に入れて来ているのか聞いたことがあるのだが結局はぐらかされてしまった怪しいものなのであるのだが美味いのは確かだった。
しかしいくら美味くてもこう何度も出されるとありがたみが薄くなるというか、飽きる。
一応茶の時期などを変えているらしいが、どうにも自分の味覚では判別できない。
そんな生意気なことを考えながらお茶漬けをすすっていると、リビングにスーツを着た黒髪の女性が姿を現す。
その女性もこちらに「おはよう」と挨拶してきた。
「父さん、今朝は起きるのが早いね」
「今日は仕事疲れが上手くとれたんだよ。そういうサツキは何時も早いな、やはり子供の身体には活力が満ち溢れているものなのだな」
「…そもそもサツキは元々貴方のように休日の昼までぐーたら寝ているようなダメ人間ではありません」
「母さんや、思うのだがなぜゼットンは私に対しては辛辣なんだろう!?」
「日頃の行いと言うものかな。まあそれよりせっかく早起きしたんだから父さんも新茶の茶漬けを食べたまえ。」
こうして食卓には我が家のメンバーが揃った。
改めて、自分の家族を簡単に紹介しておこう。
まずは父さんだ。
自分からはどう見てもグラマラスな体型の美女にしかみえないのだが、なぜか家族以外の人間には男性に見えているらしく、戸籍上は自分の養父ということになっている。
本人も父と呼べと言っているので父さんと呼んでいるのだが、彼女のような女性を父というのは他には某騎士王の子である叛逆の騎士くらいのものだろう。
そんな父は家ではぐーたらしている姿を見ることの方が多いが、平日は仕事に行っていて、夜遅くに帰ってくることも多い。
仕事は何をやっているのかはよくわからないのだが、相当高給な仕事をしているらしく、我が家は金に困らず裕福な暮らしをしている。
一家の大黒柱であり、休日には息子の自分と遊ぶ時間を作ってくれる、いい父親だとは思う。
女性だけど。
次に母さん。
畳の上でちゃぶ台に座っているのが様になっている、父とは対照的に鮮やかな服装が素敵な女性だ。
前述の通り、眼兎龍茶という茶が大好きで、我が家にはたまに近所におすそ分けされるほどの大量の眼兎龍茶が貯蔵されている。
けれども大抵の家事はそつなくこなし、養子である自分に惜しみない愛情を注いでくれるいい人だ。
こう書くと日本では絶滅危惧種である良妻賢母に見えてくるのだが。
「サツキ。今日は生憎雨だが父さんが買ってきたマ〇オパーティで遊ばないか?ゼットンもどうだい?」
「ア・ナ・タ」
「あっ」
「ごめんねサツキ。お母さんちょっとお父さんと席を外すから先にゼットンと朝食食べてて」
「TVゲームの類は買い与えるなと言っただろう!!私はサツキを退化した猿ではなくまともな奴に育てたいんだ!悪影響が出たらどうする!」
「いつも思うが君はその件に関して神経質になりすぎなんじゃないか…?みながみな地球人に悪影響を与えているわけではないだろう。パーティゲームくらいいいじゃないか」
「私は実際に地球人たちが堕落していく様を見てきたのだよ!この地球もだいたい同じだ。彼にゲームを与えるなら独楽や双六で十分だ」
「君はやけにレトロな物にこだわるな…家のテレビもブラウン管だし。なにはともあれパーティゲームはそんなものではない。他者との交流を育めるものだ。それで彼は堕落しないよ。きっとね。」
「そこまで言うなら考えなくもないが…念のため遊ばせるなら必ず私も参加するぞ。少しでも悪影響があるようなら即刻処分するからな。」
「それでいい。サツキを信じろ」
なぜか自分が電子機器に触れるのを頑なに嫌がるのだ。お陰で将来携帯を使わせてもらえるか分からないし、碌にゲームも買ってもらえない。
最後にゼットンだ。
彼女はなんというか、ちょっと特殊だ。
自分がこの家に来た日に出会ったのだが、どうも戸籍上この家の子ではないらしい。
近所では自分の姉ということで通っているのだが。
彼女との関係もどうにもハッキリと言いにくい。
姉弟かと言われると違う気がするし、他人同士だと言うのもアレな話だ。
出会って数年経っているのだが、表情をあまり変えず、口数も少ないと言うのもあるが彼女はいまだに謎が多い。
家に居るときはよく行動を共にしているが、自分が外出している時などはなにをしているのかよく分かっていない。学校には通っていないらしく、ならば家にいるのかというとそれも違うらしい。
だが自分が外で怪我をしそうになったりした時にはいきなりその場に現れて自分を助けてくれる。とても有難いのだが、礼を言う前にかき消すように姿を消してしまっていることはザラだ。
前に一度昼間になにをしているのか聞いたことがあるが、当然の如くスルーされ結局分からず仕舞いだった。
そんな感じで一癖も二癖もある面子が揃っているが、現状今の暮らしに不満はない。
血は繋がっていないが、皆自分を家族として扱ってくれるし、自分もそれに応えたい。
正直言って今の状況は『前世』より幸福だと思う。これから家族に支えられるだけじゃなく、こちらからも支えられあえる人間に成長したいと思っている。
もっとも――――
―――実は彼女たちは人間ではないのだけれども。
事の発端は数年前に遡る。
駄文ご閲覧ありがとうございました。