光の巨人のいない世界で怪獣娘達との話   作:クォーターシェル

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お久しぶりです。コロナ禍に負けないよう頑張りたいです。


12話 一角娘とだだっ子

夏休みも後半になって今日は何をしようかと玄関を出た時、

 

「やあ」

 

ぱりーんという音と共にそんな声が聞こえてきた。

声のした方を見てみると其処に一人の少女が立っていた。

 

「こんにちは。バキシムさん」

 

鮮やかな青い服と橙色の髪、その頭から生える角。そんな特徴をもった彼女の名はバキシム。超獣というカテゴリに分類される怪獣だ。

彼女もこの夏休みの内に知り合った怪獣の一人で、原作では人を騙していたキャラでもあったので始めは警戒していたが、考えてみれば自分を態々騙すメリットはあるかと言われると特になさそうだった。

 

「呼び捨てでいいよ。敬語も使わなくていいしさ」

 

「そうかな?じゃあ今日は何か用があるの?」

 

「今日は暇ができたから、サツキの所にいこうと思って」

 

「そう。俺はどっかに遊びに行こうとしてたんだけど、バキシムも来る?」

 

「いいね。何かして遊ぼうか!」

 

この夏に何人かの怪獣と知り合ったけど、バキシムはその中でもピグモンと並んで人(?)当たりのいい性格でコミュ強とも言うべきか、他の怪獣たちとも初対面でも仲良くやれてたりする。

その為、他の子供と遊ぶ時に問題なく混ざることができる怪獣でもある。彼女と一緒なら人の多い所でもいいだろう。

 

ちょっと遠出して噴水のある公園にいって涼みながら遊ぶのもいいかもしれない。そんなことを考えていると。

 

「着いたわ!ここが現世ね!」

 

「おや?」

 

「ん?」

 

『門』から知らない少女が出てきた。また新しい怪獣だろうか?

少女の容姿は紫色の髪に角が生えていてセーラー服とスクール水着のような衣装に身を包み背中から蝙蝠のような羽が生えている。

これまた原型が分かりづらいが蝙蝠みたいな怪獣とか?

 

「あの子は誰だろう?」

 

「あの子は確かザンドリアスだよ」

 

知っているのかバキシム!?

ザンドリアスと言えばウルトラマン80などに登場する怪獣だ。初登場時では親と喧嘩して地球に来たという類を見ない理由で出現したんだったか。

取り敢えず彼女と会話してみることにしよう。

 

「あの、ザンドリアスさん?」

 

「…なによ?貴方誰?」

 

「自分は江戸川皐月って言うんですけど…ザンドリアスさんはどうしてこっちに?」

 

「ああ、なんか噂になってる子だよね…どうしたもこうしたも向こうにいるのが飽きたからこっちに来たのよ」

 

飽きたって…原作並みにアレな理由だな。別に門番を気取っている訳じゃないけど、そんな理由で居座られると困る。なんとか『門』の向こうに帰ってもらいたいのだけど。

 

「その、いつまでここにいる予定なんですか?」

 

「ずっと退屈してたし、当分の間こっちにいるわよ」

 

「当分!?」

 

「なによ!?なんか文句でもあるわけ?」

 

これは参ったな…このまま放っておいたら絶対騒ぎを起こしそうだし、かといってだだっ子怪獣の異名の通り素直に話を聞いてくれるタイプとは思えないしなあ。

 

「ねえザンドリアスちゃん」

 

とここでバキシムがザンドリアスに話しかけた。

 

「ん?貴女は?」

 

「私はバキシム。貴女と同じように『門』の向こう側からきた超獣だよ」

 

「ふーん。それで何よ?」

 

「いや、貴女こっちの世界に来たばっかりだから、案内が必要だと思って」

 

「案内?」

 

「うん、私は貴女より先にこっちに来てるし、割とこっちに明るいんだ」

 

そう、バキシムは原作で人間に変身していたこともあってか、人間の世界をあまりしらない怪獣が多いのに珍しく人間の世界に詳しい。それが人の多い場所に連れていってもいい理由の一つである。

 

「だから先輩として言わせてもらうけど、この星は人間の世界だしそこでやっていくためのルールが必要だよ?ねえ?」

 

と、こちらに振られる。

 

「まあね」

 

ザンドリアスは訝しげに

 

「ルールね…、それで何が言いたいのよ?」

 

「だからね、こちらの世界にいる間私たちと一緒に行動しない?メリットは安全にこっちを楽しめるよ」

 

こっちも巻き込むのか。まあ今までもゴモラとか人間世界に不慣れな子の相手もしたし、別にいいんだけど。

 

「うーん…そうね…確かに右も左も分からないから案内はいるかも…」

 

相手は納得しかけているけどまだ問題はある。自分は小声で

 

「バキシム。この子がこっちにいる間住むところとかどうするの?悪いけど犬猫じゃないんだし家に置いてけるか分からないよ」

 

と疑問を呈した。

 

「ああ、それならこっちの世界の私の隠れ家に置いとくよ。彼女一人くらいなら平気平気」

 

…いつの間に隠れ家なんて用意していたんだ?

いくら何でも順応早くない?ヤプール恐るべし…

 

「それならいいんだけど…」

 

「よし決めた!その話乗るわよ!」

 

ザンドリアスはどうやらこちらの提案を受けてくれるようだ。

 

「で?どこに案内してくれる訳?」

 

「そうだね。先ずはこの町を案内したほうがいいかな?サツキも協力よろしくね」

 

「うん。じゃあこの近所を案内するよ」

 

こうして自分達はザンドリアスに町を案内することになった。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

商店街や公園など町のスポットを紹介して回る事数時間。

大体のところは回ったかな?

 

「これで、家の近所は大体かな?ザンドリアスさんはどうでした?」

 

「そおね、まあまあだったかな。殺風景な向こう側よりは全然良かったわよ」

 

ザンドリアスは案内の途中色々と興味を示していた。気に入ったものはあったのだろうか。

 

「じゃあ満足しました?」

 

「全っ然よ!せっかく来たのに半日其処らで満足する訳ないじゃない!」

 

うーん。どうやらまだまだこちらの世界に飽きる気は無さそうだ。

 

「そういえばサツキだっけ?あんた年下でしょ」

 

年下…そうなのだろうか?一応自分は精神はともかく小学生で、ザンドリアスは実年齢は分からないが外見は中学生くらいなのだが。

 

「そう…なんでしょうか」

 

「なんかあんたみたいな子供に敬語使われるとムズムズするから使わなくていいわよ。」

 

「そうですか?なら普通に話しますけど」

 

「そうそう。サツキはちょっと固くなりすぎだよー?他の友達にも敬語使う時と使わない時あるけどどうなの?」

 

「いや、同年代くらいならまだしも明らかに年上の見た目してたりすると自然に…」

 

なんだろうね?後は距離の近さとかかな。ピグモンやシーボーズは最初の方にできた友達だし。

 

「話を戻すけど、他にも色々な所見てみたいのよ!なんか他に面白そうな所ある?」

 

「そうは言われても…」

 

もう遠出するには遅いし、自分も結構歩いて疲れて来てるんだけど…

するとバキシムが

 

「それじゃあ今日の締めに私のとっておき出そうかな?」

 

とっておき?

 

「えっ、そんなのあるんだったら早く見せなさいよ!」

 

「バキシムのとっておきって…」

 

「ちょっとまっててねー」

 

バキシムは何処からかパラソルのようなものを取り出すと、それを宙に向かって振った。

すると、ぱりーんっという音ともに目の前が突然割れてその向こう側になんかよくわからない空間が広がっていた。

 

「なっなによこれ!」

 

「何ってちょっと異次元空間の通路を開けただけだよ?」

 

そうか。これはバキシム達超獣が持っている能力で空間を割って出入りすることが出来る。

今朝自分の前に現れたときもこれを使ったのだろう。

 

「じゃあ私の後についてきて。先に言っておくけど私から離れないほうがいいよ?」

 

もしかしなくてもこの穴に入るのか。大丈夫なのか?ザンドリアスも同じ印象を持ったようで

 

「大丈夫なのこれ…?入ったら二度と帰れないとかじゃないよね」

 

「大丈夫大丈夫。私から離れすぎなければ迷子にはならないから。じゃあ行こうかサツキも」

 

自分が行くことは確定らしい。しょうがないが先がどうなっているか気になることもあるので行こうか。

 

自分はバキシム、ザンドリアスと共に異次元空間とやらに足を踏み入れる。するとどうにも形容しがたい感覚が来たが迷子になりたくないのでそのままバキシムについて行く。

体感で数分歩いただろうか、バキシムが再びパラソル擬きを振るうと前方の空間が割れる。

 

「この先だよ。先にどうぞ」

 

そう言われたので、ザンドリアス、自分の順に割れた空間を潜る。すると。

 

「わあぁ~。綺麗~」

 

目の前にはエメラルドグリーンの海を臨む人気のない静かな砂浜があった。

 

「本当に綺麗だなぁ。これがバキシムのとっておき?」

 

「まあそうだね。人間が好みそうな穴場をいくつか知ってるんだ」

 

「人間の町も悪くなかったけどこれもいいじゃない~ママにも見せたいかも…」

 

「二人とも気に入ってもらえたようで何よりだよ。どう?せっかくだから泳いでく?」

 

「水着とか持ってきてないし今日はいいかな」

 

「ちょっとノリが悪くない?私はもちろん遊んでくわ!」

 

自分は疲れているしパスだ。その時

 

「…サツキ」

 

後ろを振り返るとゼットンがいた。

 

「ゼットン!?」

 

「うわ何時の間に!?」

 

「誰!?」

 

と三者三葉の反応をする。彼女が神出鬼没なのはいつものことだけどどうやってここまで来たのか。

 

「バキシムの開けた穴からついてきたのですが」

 

「全然気付かなかったよ…それでサツキの“お姉ちゃん”が何の用?」

 

「はい…メルさんから言伝です。夕食の準備ができたので帰ってくる様にと」

 

あっもうそんな時間か。

 

「バキシム。悪いけどそろそろ帰らせて」

 

「分かったよ。二人とも送るから」

 

「ちょっと、私は!?」

 

「ザンドリアスはここで待っててね。二人を送ったら直ぐに戻ってくるから」

 

「しょうがないわね…バキシム。あとサツキ。今日は案内してくれてありがと…」

 

自分はザンドリアスに手を振る。

 

「また今度ねー!」

 

「…では行きましょう」

 

「はいはい。じゃあサツキの家に行くよー」

 

自分達は来たときと同じようにバキシムの異次元を通って砂浜を後にした。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

「じゃあね~サツキ。バイバ~イ」

 

「……」

 

「はあ、今日はベロクロン辺りを紹介しようと思ってたのに、結局一日つぶれちゃった」

 

「それにしてもまたかあ。“あの子も”サツキに惹かれないといいんだけど…まあ現時点ではあの駄々っ子は居てもいなくてもいいかな」

 

「一番の問題はやっぱあいつかなー。怪獣のくせに戦闘用超獣のスペックを凌駕してるとかほんとなんなの」

 

「正面からぶつかるなら最低でもエースキラーは要るけど…そんな事態になって他が黙ってるとは思えないしなぁ」

 

「はあー。サツキを手に入れるのはエースを倒すより難しいかも…」

 




駄文閲覧ありがとうございました。

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