彼女に初めて出会ったのは、夏休みが終わり新学期が始まって数日、下校中の事だった。
「君が江戸川皐月君ね♪」
と弾んだ声で話しかけてきたのは、白い髪が先端に近付くにつれ青くなり時折黄色い模様が入った長髪の女性だ。もちろん自分はこの時この人に会うのは初めてだったし、知らない人が話しかけて来たので、不審者という単語が頭を過ったが、いざとなったら逃げるか、ゼットンか友達怪獣を呼び寄せればいいと思い話を聞くことにした。
「そうですけど、貴女は誰ですか?」
「あら?お父様から話は聞いてないの?私は君のお父様の同僚で、最近近所に引っ越してきたのだけど」
あー。そういえば少し前に父さんがこの近くに仕事仲間が引っ越してくるから、挨拶で顔を合わせることになるかもって言ってたような。
「そういえばそんな話を聞いていましたけど、なんで俺のことを知っていたんですか?」
「うふふっ、お父様から君の話を聞いたことがあるし、写真も見せてもらったことがあるの。それで君が“たまたま”通りかかった所を見かけた訳。」
「そうなんですか…じゃあ江戸川皐月です改めてはじめまして」
「ふふっ『印南ミコ』よ。はじめまして」
と挨拶する。といった所でそろそろ行こうと思う。このミコさんが不審者という線は薄くなったけど、まだ完全に白な訳でもないしこのまま家に帰って父さんに確認したほうが良いだろう。
「それじゃあ自分はこれで」
「あっ!ちょっとまって!」
「なんですか?」
いきなり呼び止められたので驚いた。なんだろう。
「いや、あの、せっかくご近所さんで帰るところも近いし一緒に帰らない?」
なんかちょっと動揺してるのが怪しいしどうしよう。
「途中でガリガリくん食べよう!」
「分かりました」
◇ ◇ ◇
そんなこんなでぺちゃくちゃとお喋りに興じながら帰路を進みやれ若いけど結局どんな仕事しているのとか、やれ今回のガリガリくんの新作は微妙だのと話は弾み、家の前に到着した。
「ミコさん。俺はこのまま帰宅しますけど」
「そうね…お父様はまだだと思うけど、お母様は家にいるでしょ?この際だからご挨拶に行きたいのだけど」
「別にいいと思いますけどじゃあちょっと母さんに言ってきますね」
と門にミコさんを残して家に入る。ただいまと言いながらリビングに行くといつもの様に母さんが居た。
「お帰りサツキ私は君が来るのを待っていたのだ」
「お母さん。お父さんの同僚の印南ミコって人が挨拶にきてるんだけど」
「印南ミコ…ああガッツせ…いやガッツのあるあの人だね。父さんはまだ帰ってないけど何か用かな?」
「さあ…そこまでは分かんないけど」
どうやら母さんもミコさんのことを知っていたらしく、ミコさん不審者説はこれで消えた。
「まあいいか、せっかくだし上がって貰おう」
という訳でミコさんを座敷へ上げることになった。
「お母様お久しぶり~元気にしてた?」
「ははは、私は君の母ではないよ印南君。」
気のせいだろうか、ミコさん早々にbadコミュニケーションな発言をしてしまったような…
取り敢えずお茶を出すことにする。
「粗茶ですが」
「あっ、ありがと~これって眼兎龍茶?メルさん本当にこれが好きねー」
「ああこれが無いと始まらないよ」
「お母さん、俺は宿題やらなくちゃならないから上行ってるね」
「分かった。分からないところがあったらお母さんに聞いてね」
「はーい」
自分は宿題を片付けるために2階の自分の部屋に行った。
◇ ◇ ◇
「それで、今日は本当に何の用で来たのかな?ガッツ星人」
「いやー、本当に今日は挨拶に来ただけだよ?帰るとき“偶々”サツキ君を見かけてここに来たの」
「“偶々”ね…」
「それでどう?ここ数年の地球での暮らしは?」
「どうって…まあ相も変わらずこの地球も信頼に欠けた、技術だけが進歩した星だけどまあ悪くないよ」
「それってやっぱりサツキ君がいるから?」
「…そうだね。何事にも醜い面も美しい面もある。サツキは地球の夕焼けのようなものだ」
「そう。随分入れ込んでるのねー。まさかサツキ君可愛さに計画を裏切ろうとか思ってないわよね?」
「ははは、見くびらないでくれるかな。自分の仕事はしっかり果たすつもりさ」
「そう、それは失礼したわね。それならね、事が終わったらサツキ君を私の物にしていいかしら?」
「……本性を現したな。君がサツキのデータを収集していることは知っていたよ。何が目的なのかな」
「ちょっとそこまで殺気ださなくてもいいじゃない。別に今日明日どうにかするとかじゃなくて、計画が完遂したらの話よ」
「そうか計画が完遂したらか…」
「そうそう、今変に動いたらこっちが粛清されちゃうっての。用はそれまでに彼をメロメロ♡にしちゃおうと思ってるの」
「サツキが君のようなのに篭絡されると思っているのかい?」
「それはわからないわよ?彼と話してみて結構話あったし第一印象は悪くなかったんじゃないかしら」
「…私は今まで君に対して特にどうとも思っていなかったが、正直言って君の事は好きになれそうにないよ」
「私は結構貴女のことは嫌いじゃないわよ『お母様』」
◇ ◇ ◇
宿題が一区切りついて、下に向かうとミコさんが
「あっサツキ君。ちょうど良かったぁ帰る前にサツキ君にも挨拶してからって思ってたの」
と言ってきた。
「そうですか。それじゃあ改めてさっきはアイスを買ってくれてありがとうございました。お元気で」
「ふふっ、どういたしまして。あっそれから近い所に住んでるから近い内にまた会うことになるかもね。それじゃあさようなら」
そしてミコさんは家を出ていった。
ふう、悪い人では無かったな、昔父さんに職場のことを聞いたら変人ばっかりの印象があったけどそうでもなかったようだ。
ふと母さんの方をみると母さんはやけに神妙な面持ちをしていた。
「お母さん、どうしたの?」
「ん?いや特になんでもないよ」
「そう?それならいいんだけど、俺も話を聞くだけならできるよ」
自分の場合小学生の身なので本当に聞くだけなんだけど。
「そうか…ありがとうねサツキ。じゃあ代わりにサツキをハグさせて貰おうかな?」
母さんが手を広げる。
えっ
小学生高学年となってくるとちょっと恥ずかしいんだけど。
「おや?ダメかい?」
「う、ううん。いいよ」
と母さんにハグされることにした。
「ふふふ…ぎゅ~~~~~」
ああ…なんかの花っぽい香りと煙草の香りが混ざったような香りがする。
◇ ◇ ◇
――近所の組織第二基地――
「あ~~~!!!今日は良かった~~!」
「ガッツさんすごいご機嫌ですね…」
「あっ!ペガちゃんただいまー!」
「ガッツさん例の子と接触してたんですよね?」
「うん。とうとう生サツキ君にあって来たの!いやぁ本当にランドセルを背負った姿とか愛らしくてねー他にも何人か下校途中の可愛い子見かけたけどサツキ君のは格別だったわー!」
「は、はあ…」
「いやあ、本当にここに来てよかったー!サツキ君もだけど今この星に来てる怪獣達も可愛い子ばっかりって話じゃない、これは私の秘蔵ファイルも分厚くなるわー!」
「あ、あのガッツさん。私たちの仕事はあくまでこの宇宙の調査と足場固めであって…」
「わかってるって!ペガちゃんも放っておかないよ!今日だって分身に作業を手伝わせておいたでしょ?」
「確かにそうなんですが…」
「おいガッツ。基地の設備はまだ整いきってないのだぞ、分身だけじゃなくお前本体も手伝え」
「あっチブルさん…」
「なによーチブル。だれも爪を伸びることを止めることが出来ないように、持って生まれたサガというものは誰にも抑えることはできないのよ」
「お前のはエロいだけだろこの淫乱星人が」
「うるさいわよこの機械フェチが、人のこと言える?」
「私はお前みたいに子供相手に発情する変態ではないのだよ」
(ああ…この先行きが不安です……)
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