光の巨人のいない世界で怪獣娘達との話   作:クォーターシェル

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2話 知らぬ間の臨死体験

いきなりの話だが、自分は俗に言う「転生者」というものらしい。

らしい、というのは自分の中にある前世の記憶と言うものがどうにもあやふやで朧気なのである。

 

例えば小説や映画、漫画だのの知識はあるが、自分が前世ではどんな生活を送っていたのかがあまり思い出せない。自分が男だったのか女だったのか曖昧だし、どうやって死んだのかも全く記憶にないのだ。感覚的に余り楽しくない人生だったなーと言う感じはあるのだが。

正直言って覚えているメディア文化の知識の方もかなり怪しい。例えるなら〇ィキペディアの記事に載っているような簡単な概要は分かるが、それ以上の細かい情報はどうだったか分からないし、そもそも色々他にも偏りや穴があるような気がしてならない。

 

前世によくあった創作の転生物の中には神によって転生するという内容も数多くあったが、自分がそのように転生してきたのかもよく分かっていない。

しかし奇妙なことに自分は自分でこの世界を選んだという根拠のない確信はあるのだ。

「前世とほぼ同じ世界」へというのを。

 

自分がこの怪しい前世の記憶が蘇ったのは3歳ごろで、気づいた時には皐月という名の男の子になっていた。

両親はおらず自分は児童養護施設、俗に言う孤児院で暮らしていた。後から聞いた話によると自分は赤ちゃんポストに預けられており、そのままこの施設に来たらしい。

 

転生者であると知った自分は正直もっとマシな境遇に産まれるよう頼んどくべきだったかなぁなんて思いながら施設での日々を過ごした。

まあ施設での日々は特筆すべき所はない。わりとちゃんとした所だったと思う。

 

 

 

 

 

 

5歳になったある日、不思議な夢を見た。

 

自分は暗闇の中にいて、そこを漂っていた。

そこには特に何もなく、本当に辺りには闇しか見えなかった。

自分はここは宇宙空間なのかなと思いながらその空間を漂うままに任せていた。

なにもないところだったが、不思議と静かで落ち着けるところでもあった。

 

しばらく漂っているとなにかが見えてきた。まだかなり遠い位置にあるので点みたいだったがどうも陸地のようなものがあるらしい。

他に行くところもないのでどうにかそこに行く手段はないか考えていると、

 

「な、な、なななんで人間がこんな所にいるんですかぁ~~!?」

 

と声がしたので振り返ると、そこには少女がいた。

黒を基調としたゴスロリのような服を着ており頭には菊の花飾りと夜店で売っているお面の様な物をつけていて透き通るような白い肌で目には涙を浮かべている。

そんな子が筒のようなものに跨って浮かんでいた。

 

「こ、ここは怪獣墓場ですよぉ~!人間が来るべき場所ではないんですぅ!」

 

「えっ?どういうこと?ていうか君は誰なの?」

 

いきなりの展開に困惑した自分はその少女に質問した。

 

「私はシーボーズ!この世界の住人です!貴方こそ誰なんですかぁ!?この世界は人間は普通来れない…来ちゃいけないのです!」

 

と名前を名乗った。シーボーズ…可愛らしい姿に似合わない武骨な名前だな…。

どこかで聞いたような名前の気がするのだけど、どうにも思い出せそうで思い出せない。やはり前世の知識はあまり当てにできないようだ。

とりあえず自分も名乗り返すことにした。

 

「俺は皐月。〇〇園ってところで寝ていたはずなんだけど、気づいたらここに居たんだ。どうやって来たのか分からないんだけどここはどこなの?」

 

「ここは怪獣墓場と言って、宇宙中の爪はじき者たちの魂が集まる場所なんです!私もある惑星から追放されて長い間ここにいるんですよ」

 

怪獣墓場…これもどこかで聞いたような単語なのだが、やはり思い出すことが出来ない。

墓場や魂といった単語から推測するに、あの世のような所なのだろうか?

 

「じゃあ、俺は死んでいるの?」

 

「いいえ、私には分かります。貴方はまだ生きていますよ!なぜだか分かりませんけど魂だけがここまで来てしまったみたいです」

 

「それなら俺は元に戻れるの?」

 

「貴方が通ってきた『門』があるはずなのですが…。そこから元の所に戻れるはずですよ」

 

「門?一体それはどこにあるんだろう?」

 

「あっ!あれじゃないですか!?」

 

と、シーボーズの指さす先を見ると、今まで気付かなかったが自分の頭上の方に複数の輪が組み合わさってできたようなオブジェのようなものがあった。

あれがおそらくは門なのだろう。

 

「分かった。あそこまで行ってみるよ。ありがとうシーボーズ!」

 

「サツキ、二度とここに来てはいけませんよ!帰るべき場所に帰るんです!さようなら!」

 

シーボーズに別れを告げ、自分は『門』の方へ泳ぐ要領で進んで行った。

 

 

 

 

 

 

――そこで自分は目覚めた。

おかしな夢だったなーと思いながら起床した。それにしてもあの夢の中にでてきたシーボーズって子は可愛かったな。学生時代にクラスメイトにいたらアイドル的存在になっていただろう。

そんなことを考えながらまたいつも通りの日常を過ごす。

その筈だった。

 

「なんだろう……これ」

 

あの夢を見てから自分の近くにおかしなものが現れるようになった。

それはあの夢にでてきた『門』をバスケットボールほどの大きさにしたもので、自分がどこに行っても、いつの間にか自分の数メートル近くに出現しているのだ。

 

施設の仲間や職員にはこれは見えず、自分だけに見えているらしいので幻覚の類かと疑ったのだが、触ることができたので単なる幻覚ではないようだ。

とりあえず近くによっても触ってもなにも起こらなかったので放置しているが本当にこれはなんなのだろう?

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

少年は知らない。既に『門』が開いていることに。それによりこの世界にとって招かれざる客がやって来たことに。

 

―――深夜、少年を含めた施設の者が寝静まった頃

『門』から二つの人影が現れていた。

 

「ここが、この『門』の先か。どうやら『地球』によく似た惑星のようだな」

 

「ああ、しかし驚いたよ。超微小の規模とは言え、まさか新たな門が出現するとはね」

 

「お陰で数人やごく少量の物体くらいしか通り抜けられないようだがな」

 

「さて、ここからどうする?例の計画を実行するのかい?」

 

「いや、それにはまだ早すぎるな。当面行うべきことはこの世界の調査と拠点の構築……」

 

人影の一人は眠っている少年に視線を移す。

 

「そしてこの『門』の鍵を握っているらしい子供の確保か」

 


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