正月が過ぎ、まだまだ寒気が居座る中。自分は外に出かけていた。
何のためかというと、お菓子などの買い足しである。最近になってから怪獣達がこっちに遊びに来ることが多くなっており、その度にお菓子などが消費されているから自分でも買い出しに行くようになっているのだ。特にゴモラやライブキングなどは遠慮なくばりばり食べているので我が家のエンゲル係数は嵩んでいく。我が家はお金持ちとはいえちょっとは自重して欲しい。
「いつも助かるよゼットン」
「…恐縮です」
お菓子や諸々が入った袋を持って自分達は帰路を歩いていた。ゼットンがいるお陰で荷物を半分にできるので最近の買い出しはゼットンが側に居る。
自分もずっしりと重い袋を持ちながら歩いていると
「ん?」
いつの間にか、辺りに黒い靄のような煙のようなものが漂っている。最初は近くで何かが燃えているのだろうかと思ったのだが、それにしては焦げ臭くはない。一体何だろうと思いふと『門』の方を見ると、どうにも『門』の方からその黒い靄のような煙もどきが噴き出して来ているようだ。
「なんだなんだ…?」
こんなことは初めてだ。『門』になにか不調でも起きているのか?まるで加湿機の様に黒い靄のような煙もどきが噴き出している。一体何がどうしたんだろうと思いながら『門』に近づこうとするとそれを遮るように目の前に一本の手が差し出された。ゼットンだ。
「ゼットン?」
「サツキ…私の側から離れないでください」
ゼットンは『門』の方に視線を合わせながらそう言う。ゼットンも何か異常を感じているのか?そうしているうちに黒い靄ような煙もどきよって日光が遮られているのか辺りが段々薄暗くなっていく。ゼットンは自分を背に『門』への視線を外さない。
そうして数分が過ぎただろうか、辺りに声が響いた。
――ふふふ、貴方がサツキさんですか――
「っ!誰だ!?」
自分は辺りを見回すがすでに周りは黒い靄のような煙もどきが立ち込めていて、よく見えない。そんな中、声は続く。
――そこまで警戒しなくともいいですよ。この闇は貴方たちを優しく包んでくれます――
「闇…?」
この黒い靄のような煙もどきは闇らしい。なんか吸い込んだら健康に悪そうな感じがするんですけど…
「結局一体だれなんですか…?」
――私は暗黒の支配者。そう、私の名前は複数ありますが貴方方地球人にとってなじみ深い発音は――
――ガタノゾーア――
その名を聞いた時、背筋が凍るような感覚がした。『前世』でも感じなかったような恐怖。それも本能に根差しているかのようなもの。頭の中でその名前が反芻される。
ガタノゾーア。それはウルトラマンティガに登場する怪獣、若しくはまさに邪神とも言うべき存在だ。有害な闇を吐き出し、生命体を石化させる光線を放つ。ティガと人類を絶体絶命の危機に追い込んだラスボスであった。
そんなのが、今すぐそばにいる。これは真面目に命の危機じゃないのか?
「い、一体なんの目的で…こんなところに?」
――ふふ、それはですね――
その時だった。
「…!」
自分達の頭上の大きな火球が出現したかと思うと、それがはじけ飛んだ。一瞬辺りが光につつまれその眩しさに思わず目をつぶる。
次に目を開けたときには辺りを漂っていた闇は消え、普通に日差しが差していた。
「今のは一体…?」
「まだ私の側から離れないでください」
ゼットンはまだ警戒しているようだ。自分達は助かったのか…?さっきまでの恐怖感も無くなっている。その時だ。
「ふむ、中々やるようですね。しかし話の途中でそれはないんじゃないですか?ああ、すみません話の途中ですがその前に――」
自分はがばっという擬音がでそうな勢いで振り向いた。そこには
「――ちょっと起こすのを手伝ってくれませんか?」
「えっ」
巨大な巻貝から少女が逆さまに生えていた。いや違う。そういう被り物なのか。兎に角自分達の背後にそんなものが鎮座していた。
「ええと…もしかして、ガタノゾーア……さん、ですか?」
「はい。そうですよ」
素直な返事が返ってきた。ええい今更女の子になっていることには突っ込まん。しかし
「なんで、逆さまなんですか?」
「それは、さっきの攻撃に驚いてしまってうっかりバランスを崩してしまったんです」
びっくりしましたよおと彼女は逆さまのまま頬を膨らませる。さっきまでのプレッシャーはなんだったんだ。なんかほのぼのした場面になってきたぞ…
「はあ…」
「それで、私を起こし「サツキ。早く帰りましょう」ちょっ、ちょっと!?このまま放置する気ですか!?」
ゼットンは自分の手を引いてそのままこの場を離れようとする。
「ゼットン。話はだけは聞いてあげようよ。ちょっと失礼だよ」
「ですが…」
「困っている人(?)を放置するのは流石に可愛そうだよ。それでガタノさん。一体俺らに何の用があったの」
「その前に起こしてもらえますか」
「念のためそっちの話を聞いてからね」
「実は…前々からこの地球の噂を聞いていたので」
「それで」
「この世界を闇につつもうと…」
「行こうかゼットン」
「ああ!ま、待ってください…!冗談!今のは冗談ですから…!」
「結局何しに来たの?」
逆さまのままガタノゾーアは話始める。
なんでも、文明を滅ぼすのが仕事のような趣味のような彼女であったが、人の姿になったことで自分の能力が上手く使えなくなってしまい、邪神として一から出直すためにまずは眷属などにやらせていた文明の観察をしようとここまで来たらしい。
「という訳なんですが、そろそろ起こしてもらえますか?」
「いいよ。ゼットンも手伝って」
「わあ、ありがとうございます!」
「いいのですか。彼女は…」
ゼットンが小声でささやくが、こっちも小声で
「いいんだよ、バランスが悪くてずっこけている邪神なんて怖くないもの」
幽霊の正体見たり枯れ尾花というが、こんな情けない姿をさらしているものをどうして怖がることができよう。
かくして自分たちは重い頭のガタノゾーアを起こした。
しかし重かったな…あの被り物何キロくらいあるんだろう?そらバランスも崩すよ。
「ありがとうございました。それでは不躾ながら、この地球の案内をお願いできませんか?」
「分かりました。俺でいいなら喜んで」
こうして、また怪獣相手に町の案内をすることになった。
◇ ◇ ◇
――公園
「ここがみんなとよく遊ぶ公園だよ」
「子供が沢山いますね」
「そりゃ大きい公園ですからね」
「子供は侮れませんよね。あんなに小さいのに…光が…」
「ちょっと顔色が悪くなっているけどどうしたの?」
「あっ…なんでもありません」
◇ ◇ ◇
――ショッピングモール
「わあ~大きな建物ですね」
「中には色々あるよ。見ていきます?」
「はい!どんな文明になっているか楽しみです!」
◇ ◇ ◇
――家具店
「わわっ」グラァ
「危ない!ゼットン。支えるよ」
「す、すみません…」
◇ ◇ ◇
――ペットショップ
「美味しそうな魚ですね!」
「ここのは食用じゃないんですけど」
◇ ◇ ◇
――喫茶店
「苦っ!なんですかこの液体は!?闇色で美味しそうなのに!」
(普通のコーヒーなんだけど…見た目通りの子供舌みたいだ)
◇ ◇ ◇
その後も自分達は河川敷やゲームセンターなど色々な所を回った。度々ガタノゾーアは転びそうになったけどその度で自分とゼットンで支えて事なきを得た。
そんなこんなで家まで帰ってきたのだが。
「すっ進めません…」
ガタノゾーアが家に入ろうとして引っかかっていた。あの頭では民家の扉を通り抜けるのはきついだろう。
「ガタノさん…あんまり無茶はしないでくださいね…ドアが壊れます」
「むむむ、仕方ありません。こうなったら…」
「こうなったら?」
「うーん…ええーい!!」
ガタノゾーアが力んだと思うと、ボンッという音がした。そうするとガタノゾーアの被っていた巻貝がかなり小さくなっていた。
「それ縮められたんですか!?」
これはびっくりだ。それができたら今日度々バランスを崩していたのはなんだったんだ。
「少しの間だけですけどね。それではサツキさんのお宅を見させてください」
そうしてガタノゾーアは自分の家に上がっていった。唖然としていた自分達も慌てて後に続く。
「あれ?やけに静かだけどみんなどうしたのかな?」
今日は何人か怪獣が遊びに来ていて、ちょっとしたパーティーのような様相になっていてそれでお菓子も多めに買ってきたのだが。行くときは賑わっていたはずの家がしーんとしている。『門』を通さなければ向こう側へはいけないはずだし、帰ったわけでは無さそうだが。
「シーボーズー。バキシムー。改ベムさーん。」
と呼びかけてみるがやっぱり返事がない。
一体全体どうしたんだろう。
「どうかしたんですか?」
ガタノゾーアは不思議そうな顔で聞いてくる。なんでもありませんよと返して彼女を客間に案内することにした。
◇ ◇ ◇
「「ふー(…)」」
客間ではお茶を出し、皆で息をつく。まだ終わったわけでもないけど、今日は疲れたな。
「この飲み物は美味しいですねさっき飲んだ闇色のとは大違いです」
「眼兎龍茶を気に入ってくれたならこっちも嬉しいですよ。今日買ってきたお菓子もどうですか?」
「じゃあいただきます。うん…この棒の様な食べ物も美味しいです。」
ガタノゾーアが今食べているのはう○いぼうだ。ちなみにたこ焼き味。
「ほんとは遊びに来ている友達に振る舞う予定だったんだけどね、どこに行っちゃったんだろう…?」
「あのーサツキさん。大変言いづらいのですが…」
「ガタノさんどうしたんです?」
「足に変な感触がするんですが、怖くて確認できなくて…」
「足?」
自分はテーブルの下を見てみる。すると、
「うん!?」
ガタノゾーアの足先を橙色の髪をした少女が咥えていた。
「んむー」
「あわわっ」
「ラ、ライブキング何をしてるの!?」
彼女の名はライブキング。いつも笑顔なことと、食い意地が張っているのが特徴の怪獣だ。今日遊びに来てた怪獣の一人だったのだが、こんな所に隠れていたのか。
「サ、サツキさん助けてくださいっ!」
「んむう、むー」
「いいから口を放しなさい!」
自分達は数分がかりでなんとかライブキングをガタノゾーアから引きはがした。
そしてライブキングをその場に座らせ何故ガタノゾーアの足を咥えたのか問うた。
わははははといつもの様に笑いながらライブキングは
「見慣れない子がいたから味が気になった!」
と答えた。食い意地が張り過ぎだろう。初対面の人物をみてまず味がどうなるのか気になるとかいつもながらこの子の思考回路がよくわからん。そういえば自分も初めて会った時手を咥えられたっけ。
「ごめんなさいガタノさん。うちの友達が粗相をもうこんなことをしないようきつく言っておきますから」
「はい…最初はびっくりしましたけど大丈夫ですよ。個性的な友達をお持ちなんですね」
どうやら許してくれるようだ。よかった。人になっているとはいえ、怒らせて闇をまき散らされたらどうなるか分かったもんじゃない。
「よふぁったね!」
ライブキングがお菓子をもぐもぐ食いながら言う。君はもうちょっと反省の色を見せてくれ。
「そろそろ頭のサイズが元に戻るころですし、私はもう帰りますね。サツキさん今日は色々ありがとうございました!今度は私の住居に案内しますね」
「ごめんなさい。自分は『門』を通れないからいけないです」
それにSAN値が下がりそうなので嫌です。
「そうですか…」
ガタノゾーアはシュンとした顔をするが、
「じゃあ、また文明を観察しにきてもいいですか?」
と聞いてくる。断るとちょっと嫌な予感がするので、自分はいいよと返し、ガタノゾーアは帰っていった。
「はあ…」
自分は気をぬいた。今日は本当に疲れたな。そういえば遊びに来ていた皆は結局何処にいったんだろうと思っていると、
ぱりんという音と共に目の前の空間が割れてバキシムが出てきた。
「はー。やっといったかー」
「あっバキシムどうしたの?」
バキシムはやれやれといった仕草をして
「どうしたもこうしたもないよ。サツキがヤバい奴を連れてくるからさー急いで皆隠れたんだよ」
「ヤバいやつ?ガタノさんのこと?」
「そうだよ。もう、あんなのを連れてくるなら事前に言っておいてよ」
「そんなになのか?」
自分はひっくり返った姿を見て怖くもなんとも無くなってしまったが。
「あーびっくりしたーサツキも友達選びなよ」
「うう…心臓が止まるかと思ったですぅ…」
と改造ベムスターとシーボーズが2階から降りてきた。どうやらガタノゾーアが来るときは友達は近づけないようだ。
「なんかごめん皆。まあ気分を変えてお菓子でも食べていって」
「サツキ」
「どうしたのゼットン?」
「たった今ライブキングが我々の購入した菓子を食い尽くしました」
「わはははごちそうさまー!」
自分はずっこけた。
頭が小さくなったガタノさんの外見は怪獣娘(黒)版です。
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