光の巨人のいない世界で怪獣娘達との話   作:クォーターシェル

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もしかしたら今後なにか矛盾が発生するかもしれませんが、ご容赦ください。


3話 新しい家族

●●●●●●のレポートより抜粋

 

――以上から現時点でこの宇宙のことに関して判明しているのは以下の通りである。

 

・この惑星は我々の知る地球とよく似た歴史・文化・自然環境等を有している

 

・この『地球』の文明は我々の知るところのものよりいくらか技術レベルが遅れている

 

・この『地球』において我々のような存在が確認された事例は無く、我々のような存在は虚構とされている

 

・これは我々の良く知るところの『彼ら』に関しても同様である。この宇宙の『M78』などにも生命の痕跡は確認されていない

 

・怪獣墓場とこの宇宙を繋ぐものは現状、例の『門』のみである

 

よってこの宇宙にはこの惑星以外の文明の存在は非常に少ない可能性が高い。少なくともこの『地球』が所属する銀河系には存在せず、我々の元々の故郷も同様であろう。

 

例の計画を実行するにあたって、この宇宙は非常に好条件を備えていると考えられるが、同時に計画の実行は早計であると判断する。

 

まだ調査が今の段階では不完全というのもあるが、そもそもの問題は出入口である『門』のことである。

この『門』は固定化こそされているが、超微小の規模なので、出入可能な物体に限界がある。更に怪獣墓場からこの宇宙に来る際に大幅な能力の減退が確認されている。

『門』に干渉する方法が不明である現状、計画の実行は非常に困難と思われる。

 

引き続きこの宇宙及び『門』の調査を行う他、『門』に何らかの形で関係していると思われる地球人の少年との接触、並びに可能ならその確保に動くこととする。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

あの不思議な夢を見てから一年が経った。

相変わらずあの『門』は自分の視界に姿を現しているが、それにもすっかり慣れてしまった。

そうして奇妙な『門』が日常の一部と化した頃、自分にある話が来た。

とある夫婦が自分を養子として引き取りたいのだという。

とりあえず顔合わせをするそうなので、自分はある部屋で待機することになった。

 

どうやら準備ができたらしく、職員さんが

自分を連れて件の夫婦のいる部屋へ向かった。

部屋には2人の知らない人が椅子に腰かけていた。話の流れからこの2人が件の夫婦の筈だが――

 

「お待たせいたしました。さあ自己紹介を」

 

職員さんが自分に自己紹介を促す。

 

「〇〇皐月、6歳です。始めまして」

 

自己紹介と共に自分は2人を見る。

 

1人はスーツを着た黒髪の女性で、目も覚めるような美貌に黒いスーツに黄色いネクタイが似合っているのだがなぜか、なんと形容すべきか、吸盤かなにかのようなものが頭頂部から伸びている。髪型の一種だろうか。

 

もう1人は青系統の色の服を来た赤髪の女性で、こちらも前世でも見かけなかった程の美女なのであるが、その服装は胸部と腹部が露出しており、しかも露出した胸部には黄色の湿布のようなものが貼られている。

 

なんというか、色々とツッコミどころがあるのだが、とりあえず「夫婦」ではない気がするのだが……!

 

「始めまして、その年で凄く丁寧にお辞儀が出来るのだね。私は『江戸川山斗(しゃんと)』と言う。以後お見知りおきを」

 

と黒髪の江戸川と名乗る女性がこちらにお辞儀を仕返す。

 

「こんにちは、私は『江戸川メル』。まだ6歳なのに偉いね」

 

と赤髪の女性はフリンジのついた白い手袋で自分の頭を撫でる。

む、流石に精神年齢が年相応ではないのでこれはなんか気恥ずかしい。

 

「さあ、もういいでしょう。皐月君は戻って結構です」

 

と職員さんに言われたので自分は部屋を出て自分の部屋に戻ることになった。

二人とも女性だったのだがこれは所謂同性カップルというやつなのだろうか?

一応場が場なのにいくらなんでも、あの服装はどうなんだろうか。

などという疑問が戻る途中自分の頭を離れなかった。

 

なんか怪しい2人だったが、仮にもこの施設は国に認められている所である。まさか信用の置けない人物に孤児を引き渡すことはないだろう。

彼女たちもちゃんとした手続きを行った上であの場にいたはずだ。

自分はそう思いなおし、帰路に着いた。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「これで漸く第一段階をクリアしたといった所か」

 

「うん、少なくともこれでもう向こうに物資を取りに行く度にあの施設にこっそり忍び込むなんて真似はしなくともいいわけだね」

 

「全く、宇宙船の一つでも持って来られれば色々と手間が省けていたのだがな」

 

「それにしても、対象を養子として引き取るなんて随分と回りくどいやり方になったね。そんなことせずに拉致してしまえばいいものを」

 

「それもそれで相応の準備がいるだろう。それに、出来る限り穏便な手段をとれと言うのが我らの上司の意向だからな」

 

「ああ、自分は直ぐに頭に血が上ってキレるくせに、穏健派の代表だと名乗っているからね。まったくお笑い草だよ」

 

「まあ、そういう気質を自覚しているからこそ直接出向かず我々を現地に実働隊として向かわせたのだろう。それにあれが他を抑えているからこそこちらも自由に動けるというものだ」

 

「なにより強硬派の代表である極悪(笑)宇宙人が『彼ら』がここにいないと知った途端やる気を無くしたらしいのも大きいのだけれどね」

 

「さて、ゼットン」

 

「……ゼットーン」

 

「重ねて言うがこの惑星ではその鳴き声は控えなさい、今回は潜入任務でもあるからな」

 

「……了解しました」

 

「先にも言った通り君の役目は対象の護衛と監視だ。能力は使用して構わないが、なるべく目立つことは避けろ。我々は地球人としてこの惑星で暮らすことになる。それも長い間、だ」

 

「……了解です」

 

「まあ、気楽に気長にやっていこう。この宇宙に我々の敵となる存在はいない。それに一度死を経た我々には時間は有り余っているのだからな」

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

衝撃の面会からあっという間に数週間が過ぎた。

今日は自分があの2人の家に行く日だ。自分は少ないながらも荷物をまとめ、施設の仲間や職員さんたちに別れの挨拶を済ませると、職員の1人が運転する車に乗り込んだ。

車に揺られること数時間、途中で休憩や食事を挟んで自分は2人の邸宅がある住宅地までたどり着いた。

車を降りると職員さんが、ある方向を指さした。

 

「あそこがこれから皐月君の住む家だよ」

 

その方向を見ると中々大きな家があった。あれがそうなのだろうか。そういう方向の知識は薄いのでよくわからないが割と豪邸に分類されるレベルじゃないだろうか。

自分達が家の玄関まで行ってドアベルを鳴らすと江戸川氏(?)が自分達を迎え入れ、客間に案内してくれた。

用意されたお茶やお菓子をご馳走になりながら、職員さんと江戸川氏は

 

「しかし、素晴らしくご立派なお家ですね」

 

「はい、新築なんですよ。妻はアパートの方が落ち着けるからいいと渋っていましたが、和室を設ける条件でやっと引いてくれました」

 

「ですがこう広いと手入れとか大変じゃないですか?」

 

「住んでいる人数も少ないし汚れもそれほどつきませんよ」

 

といった風に談笑していた。自分はジュースを飲んでいると、江戸川夫人ことメルさんがジュースのお替りを継いでくれてお礼を言おうとしたのだが台詞を噛むという失態をしてしまった。

これはかなり恥ずかしかったが場の空気を更に和ませることにはなったようだ。

 

その後、職員さんはいくつかの注意事項を説明すると、早々に帰ってしまった。

そして自分はこの家に1人残されたのだが、やはりこの2人と会うのは2回目なので緊張するが自分は話を切り出した。

 

「ええと…それじゃあ、今日からこの家にお世話になります。宜しくお願いします。」

 

「「はい、こちらこそ」」

 

と皆でお辞儀をする。それから改めての自己紹介と相互に質問をしていった。

 

「今日から私たちは家族になる。いずれ家事も手伝ってくれ」

 

「はい。頑張りたいです」

 

「私からは以上だが、サツキ君はなにか要望はあるかな?」

 

「俺のことは呼び捨てでいいです…後、こちらからはなんて呼べばいいですか?」

 

「そうだね、サツキ。私のことは気軽に父さんとでもパパとでも呼んでくれ」

 

やはり父親役なのか。正直言ってその豊に実った胸で男だと言い張るのは無理があると思う……

 

「うん、分かったよ。お父さん」

 

「ねえ、サツキ。私の事もお母さんって呼んで欲しいな」

 

とメルさんが自分の頭を撫でながら言ってくる。

 

「じゃあ、お母さん」

 

「お母さん…お母さん、お母さん。お母さんかぁ………」

 

とメルさん改め母さんは自分の台詞を反芻する。

 

「どうしたんですか?お母さん」

 

「いやぁ。なんか、地球捨てたものじゃないなぁって」

 

「そんなに!?」

 

なぜか感極まったらしい母さんが自分を抱き寄せる。

 

「あの…お母さん?」

 

「うん!私、サツキのお母さんとして頑張るよ」

 

どうやらなにか絆が結ばれたらしい。早くも打ち解けられたようで嬉しくもあるけどそれはそれとして少し苦しいのですが……

 

そんなこんなで出された湯飲みや皿が片付けられた後、自分は父さんからサプライズをもらうことになる。

 

「実はなサツキ、この家にはもう1人同居人が居るんだ」

 

「そうなの?職員さんたちはなにも言っていなかったけど」

 

「彼女は人見知りだからね、職員の方には内緒にしていたんだ。けどこれから長い付き合いになるからサツキには彼女を紹介するよ」

 

人見知り…言っては悪いがなんらかの事情で引きこもったりしている人なのだろうか。

 

「それじゃあ紹介するよ、今日から君の最強にして最高のボディガードになる娘だ」

 

それと同時に家の奥から人影が姿を現した。その人物は自分の前に来る。

目の前には1人の少女が立っていた。艶やかな黒髪にそれに合わせたような黒基調の服装、頭からは雄牛のような角が生えており、人形のような顔からどこか冷たげな眼差し。

 

「……始めまして。ゼットンと申します」

 

その少女は簡潔に名乗った。

 

――『ゼットン』。その名称を聞いた瞬間。脳が揺れるような感覚がした。

 


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