「お姉ちゃん、どこに行くの!?」
「え? ああ、うん。ちょっと雑誌を取りに」
「お姉ちゃん! どこに行くの!?」
「え? ああ、うん。ちょっと水を飲みに――」
「葵さん! どこに行くんだい!?」
「え…? ああ、うん。ちょっとトイレに……」
「葵さん!」
「お姉ちゃん!」
「いや…ちょっと…お風呂――」
「あああああ! もうっ! 翼くんも薫もそんなに心配しなくていいんだよ!?」
「「だってぇぇ!」」
教室の片隅で二人は正座をさせられていた。
葵は少しうんざりしたようにため息をつく。
一歩動くだけで何をするか聞かれるのは流石に疲れるというものだ。
「確かにね、わたしを心配してくれるのは嬉しいよ?
でも、お風呂とかトイレにまでついてくるのは流石にわたしも嫌なのッ!!」
「「だってぇぇぇ!」」
「だってじゃありません!!」
相変わらず葵に付きまとっている二人を司は複雑そうな目で見ていた。
どっちの言い分も分かる。そりゃまあついて行きたくもなるだろうが、お風呂までってのはさすがにやりすぎではないだろうか。
まあ、気持ちは分かる。あの二人にしてみれば自分達が感じる心配の数百倍は心配だろう。
「んもう! 司くんからも言ってあげてくれないかな!」
「えっ!? あ、まあいいんじゃないですかね……あはは」
しかし、改めて考えると本当に凄いな。司はつくづくそも思う。
一度亡くなった人が今こうやって元気に過ごしてるんだから。
自分達と何ら変わりない葵の姿、とても一度死んだなんて事実誰も信じないだろう。
あれから数日は先生も薫もユウスケとか皆、泣きまくって大変だった。
葵さんも皆と一通り仲良くなった後、ゼノン達が本格的に説明にやってきた。
とりあえずあいつ等が言うには、葵さんは偽者じゃなくて正真正銘本人であると言う事。
肉体は復元された本人の物、葵さんの年齢は今まで通りに生きてきたと仮定した物。
つまり翼先生の一つ上と言う事。23歳だか24歳だかだな。
ハッキリと年齢が分からないのは世界移動の間だとか、なくなっている間をカウントしていいものかのか分からないからだ。
そもそもその理論で行くと途中から自分達の年齢もあやふやになってくる。
あとは葵さんも俺達同様防御力の上昇や特殊能力を得ていると言う事だった。
何であいつ等が俺達の願い事の内容だとか詳細を知っているのかは気になったが、どうせ聞いても教えてくれないに決まっている。
だからここは黙って話を聞く事にした。
「は!? わたし…えぇえええええええ!!」
ばたーんっ!
「あっ! 葵さぁぁぁあん!」
自らが一度死んで蘇生した事を知ると、葵さんは気を失って倒れてしまった。
まあ無理も無い、葵さんが目覚めてからも落ち着かせるのはそれなりに時間がかかった。
でも案外葵さんは今の自分の現状を割りとすんなり受け入れると、もう一度ゼノン達からの説明を聞いていた。
「むしろこんな現状で信じないとか言うほうがどうかしてるわね」
やや目が据わった様で、葵さんは手を顎にあてて何度も頷いていた。
「わたしが死んだ? 仮面ライダー? 世界を巡る? ええ信じますとも、ええ信じますよ!」
パタパタと首を動かす彼女。
「自分の妹が武器に変形して、しかもみんなが変身してるの間近で見てまだ信じないわけないでしょーがっ!」
なんか軽くやけくそになっている様な気がしたがそんな事はないのだろう。
葵さんは深呼吸をした後、冷静になったのか優しく微笑んで――
「と、言う訳でよろしきゅ!」
「「「「………」」」」
真っ赤になって震える葵さん、一同は一斉に吹き出した。
などと思っている司もニヤリと笑っていたのだが。
「あははは! 葵さん本当によく噛みますね! アハハハ!!」
「葵さんかわいーっ!」
「うぅ……! 酷いわ、皆!」
暫く皆は笑う合うと、そのまま葵に向かって微笑む。
代表で司が手を差し出した。
「よろしくお願いします。葵さん」
「ん! 困った事があったらお姉さんになんでもいってね!」
葵はその手を掴む。
確かな人間の暖かさを感じる、司はもう一度微笑むとその暖かさをしっかりと確かめたのだった。
「それにしても――……フフフ」
「……んだよ」
「いやいや、たった一言空野薫の姉、空野葵を蘇生させてくれ。
そう言っただけで人の命が動かせる。ああ、簡単なモノだとは思わないかい? フフフ――!」
ゼノンは挑発的な笑みを浮かべて真志に話しかける。
校庭の隅で彼らは、ドラグレッダーとブランウィングに餌をやる美歩とフルーラを見ていた。
ゼノン達が用意した餌の効果は凄いもので、一度食べれば暫くは空腹を感じない物らしい。
これならミラーモンスターの二体が人を襲う事はなさそうだ。
「オレはその選択を後悔しない。もう後戻りはできないんだから――」
「君にはその力があると? どうするんだい? もしもう一度空野葵が死ぬ事になったら。その時皆はもう一度同じ。いや、より深い悲しみを背負うんだよ」
相変わらず挑発的な表情のゼノン。
しかし真志はまっすぐに彼を見た。別に自信がある訳じゃないが。
「……そうだな。オレは弱い、葵さんを守りきる自信は…無い」
おや、意外と自信が無いんだね。
ゼノンは予想に反した真志の言葉につい目を丸くする。しかし真志の目に迷いはない、彼はもう覚悟を決めていた様だ。
「だからオレ一人じゃなくて、みんなの力を借りる事にしたよ」
「まさか!? 蘇生させた事を話したのかい!」
真志は頷く、これにはさすがのゼノンも少し表情を変えた。
「へぇ、驚いたな。それで皆は何て?」
「お礼、言ってくれたよ」
目を閉じれば涙を浮かべてありがとうと言ってくれた翼や薫の顔を思い出す。
「正しいことって、なんだと思う?」
「さぁね、でも君がした事を君が正しいと思うならそれでいいんじゃないかい?」
龍騎に選ばれた者としては、それがお似合いだとゼノンは言った。
「オレは必ず皆と笑顔で元の世界に帰る。今は……それだけさ」
ゼノンはもう一度小さく笑うと立ち上がりフルーラに合図を送った。
「まあ、期待しているよ。君たちの物語をボクももう少し干渉してみたい」
そう言うとゼノンとフルーラは砂のオーロラへと消えていったのだった。
やれやれ、真志は苦笑すると大きく伸びを行った。
「オレ達も行こうか、美歩」
「うーっす!」
真志はもう一度デッキを握り締めると、学校へと戻っていった。
こうして葵がクラスメンバーになった訳だが、葵の働きは凄まじいものだった。
掃除、選択、料理。家事系の事は全て彼女が引き受けてくれたおかげで彼らの心にも余裕ができる。
「これでっ! もうあの
「ありがてぇ…! ありがてぇ!!」
泣きながら飯をかっ食らう司達に葵は苦笑する。
彼女は真由とハナの料理を知らないのだ。あれは料理ではない、グロンギなのだから。
それに彼女の料理の腕前はかなりのものだ。栄養バランスもちゃんと考えてあるし、メニューも和洋中なんでもいけるし飽きもこない様に考えている。
「おいおい完璧じゃねーか! こんな国宝級の女性がいたなんて聞いてねーぞ!」
今までの生活は必要なものこそ全てそろっていたが、やはり家事面では限界と言うものがあった。
しかしこれ、これですよ皆さん! 椿はハイテンションで叫びを上げる。
「分かるかよ咲夜さん! これが女性ってもんだ、逆にこれができなきゃ女性じゃねぇ!
分かるな? つまりこれができないお前はゴリ―――嘘! 冗談! やめて蹴らないで!!」
などとふざけあってはいたが、椿の言う通り彼女の存在はかなり司達の助けになってくれた。
「あぁ! ちゃんといい匂いがする! それにシワもない!!」
「男共は部屋干ししか脳がない奴らばっかりだったからね」
「あはは、喜んでもらえてよかった!」
「葵姐さん!」
ひしッと美歩と友里は葵に抱きつく。
家事だけでなく女性陣にとって優しい葵には無性に甘えたくなる存在ともなっていただろう。
言ってみれば姉の様、やはり同年代ばかりの空間では彼女の様な年上がほしくなるのかもしれない。
特に年上は今まで翼だけだったために、女性陣は余計にそう思う。
「うーん、しかし――」
「どうしたんすか椿さん」
「おぉ亘か、いやな……二十歳を過ぎれば皆等しくBBAに変わるのだと思っていたが別にそんな事はなかったぜ」
「はあ」
「これはちょっと幼女からストライクゾーンを広げるべきなんだろうか? お前はどう思う?」
「ごめんなさい。ちょっと何言ってるか分かんないですね」
とまあいろいろあるのだが……
その夜、皆がもう寝ている時間に翼と葵は話していた。
「大分、皆と慣れてきたんじゃないかい?」
「うん、ありがとう」
翼が差し出したチューハイを開けると葵はそれをゆっくりと口に入れた。
余談だが彼女はお酒が大好きである。あまり酔わない為その点は楽なのだが、付き合わされる翼はいつもフラフラになっていたものだ。
「……ねえ、翼くん」
「うん?」
葵は翼が座っているソファまで移動すると彼の隣に腰掛けた。
その表情は少し寂しげで、翼も何も言わずに彼女から口を開くのを待った。
「わたしって本当に……その、死んだの?」
「……ああ。そうだね、間違いないよ」
「だったら薫とか、ユウスケ君とか……皆にとんでもないこと――ッ!」
翼は何も言わずに葵の手を握る。
思わず言葉を止める葵に翼は優しく微笑んだ。
「今、僕の手には君の体温がハッキリと伝わっているよ。それは生きてるなによりの証拠だとは思わないかい?」
「………」
「君は、今生きてるんだ。もし君が何かを感じてるならその分薫ちゃんに関わってあげてほしい」
戸惑いながらも頷く葵。
「もう一度言うよ、君は生きてるんだ。だから薫ちゃんやユウスケ、皆ともっと一緒に居てほしい」
「うん……ありがとう」
葵もまた微笑んで翼の手を握り返す。
「それでいいんだよ、葵さん」
「………」
さん、は止めて。
「あはははっ!」
ふくれっ面の葵と笑う翼。翼は軽く謝ると、彼女の名前をちゃんと呼ぶ。
葵はソレを聞くと、満足そうに笑うのだった。
「と、言う訳でね。一度皆の状況を確認しておこうかなと思うの」
「うん、成る程ね」
翌日、葵はそんな事を言い出した。次の世界に着くのは明日らしい。
と言う訳で今日は一応休日と銘打った訳なのだが、皆めずらしくそれぞれ男女ペアで行動していたのだ。
保護者の一人としてそれぞれのペアがどの程度の仲なのかを見ておくのもアリだろう。
もちろん一人一人を知ると言う事もある。葵は翼とイマジン四人組みを引き連れて視察に向かう事に。
「むふふ」
「……葵さん、楽しんでない?」
「そ、そんなことないわよ! さあ、まずはユウスケくん達ね」
「うん、ユウスケ君と薫ちゃんだね。やっぱり二人は仲がいいよ、戦闘でも二人はだいたい一緒だからね」
「へぇ、そう言う所は昔から変わっていないのね」
ユウスケと薫はどうやら空き教室にいるらしい、何かをして遊んでいるのか?
葵はゆっくりと扉を開けてみた。すると――
「ホラ! あと一週! 休んでんじゃないわよっ! 鞭で叩かれたいのっ?」
「ヒ……ヒヒーンッ!!」
「オーッホホホ!!」
ピシャッ。
「「………」」
嫌な汗を浮かべながらカチカチに固まる葵と翼。
なんだ、あれ……。
「わぁ! お馬さんごっこ? わーい! ぼくもやるぅ!」
「シッ! 駄目だよリュウタ! アレはああ言うプレイなんだから!」
「違うで、アレは足腰を鍛える訓練に違いない。いやぁ、やるもんやなぁ!」
「お、おいおい」
何だったんだアレは――
モモタロスは汗を浮かべながら翼達を見る。分からない彼でもあの行為は何か違うと言う事が分かった。
「うーん、今日も天気がいいわねぇ」
「そうだね葵さん。今度皆でどこかへ行こうか?」
「あ、いいわね。じゃあ――」
「オォォイッ!!」
既に小さくなっている二人、モモタロスは急いで二人を連れ戻す。
今の異常光景はなんだったのか!?
「モモタロス君、私達は何も見ていない。それでいいじゃないか、他に何を求めるんだい?」
「モモタロス君。この世にはね、決して触れてはいけない謎という物があるの」
そう言って二人はそそくさと教室を去っていく。
キンタロス達は後へ続くが、モモタロスは気になってもう一度扉を開いた。
開いてしまった。
「違うんだって薫! お前のおやつを食べたのはおれじゃなくて双護――ッ!」
「誰が口答えを許したのからしらぁああ!? 今のアンタは馬よ! 鳴きなさいホラホラッ!」
「いででっ! ひっ! ヒヒーンッ!」
なんて恐ろしいお仕置きなんだ――ッ!
モモタロスの背中に冷たいモノを感じる。あれが人間のすることかよ!!
「フフフ…さあ、続けましょうか――」
その扉の向こうにいるお前も一緒にな
「!?」
扉から手が伸びてきてモモタロスの角を掴む。
「ちょ!おい!嘘だろ!?おい!お――オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
モモタロスは教室の中に引きずり込まれた。
その後、彼がどうなったのか、知るものはいない。
「今、何か…先輩の悲鳴が聞えたような……」
「気のせいだよウラタロスくん。気のせいなんだ、気にする事はないよ。気のせいなんだから」
続いて葵達は図書室に来ていた。ここには真志と美歩がいるらしい。
「あぁ、いたね」
「うん、どれどれ」
本棚に隠れて本人達を確認してみる。
「?」
真志と美歩はなにやらソファで言い合いをしていた。ケンカだろうか?
しかし真志のテンションが異常に低い、ケンカと言うよりは一方的なものを感じる。
割って入る事も考えたが、取り合えず物陰から様子を伺ってみることにした。
「ちょ! 聞いてんのかよ真志! やばいんだって!」
「あ、ああ。そうだな……」
「何でそんなに冷静なんだよ! 皆だってそうだよ、もっと焦らなきゃヤバイって!」
「………」
本気で焦っているのか、青ざめて汗を浮かべている美歩。
しかし対照的に真志は本当に冷静である。と言うよりも呆れた目で美歩を見ていた。
「あぁぁどこに逃げたらいいと思う? 地下? 空? ううん、でも結局滅んじゃったら全部同じなのかな!? あああ、もうどうすればいいのさアタシはぁぁ……!」
「お前、それ本気で言ってんのかよ」
「何が!? 当然じゃん! 偉い人がそうだって言ってるんだよ? 地球が滅んじゃうって予言してるんだぜ! ああ、ヤバヤバっしょコレマジで!」
涙目になって美歩はその本を振り回す。
真志はため息をついてそれを奪い取ると、パラパラと興味なさそうに目を通した。
「ノストラダムスの大予言……」
「そうだって! 皆何でこんなに冷静なのさ! 地球が滅んじゃうかもしれないんだって言ってるのにぃぃッ!」
美歩は頭を抱えてうずくまる。
どうやらガッツリ内容を信じている様だ。既に彼女は絶望モードである。
「あああ、お母さんの言う通りだったんだ! 昔からピーマン残したら悪い事が起こるって言われてたのにぃぃ! ねえ、真志! 今からちゃんと食べれば間に合うかな? 地球滅びねぇかな!? ああああ、死にたくねぇぇよぉぉおお!」
「お前、予言ではいつ滅びる事になってるんだ?」
「えぇ? 1999年だってぇ!! どうすんだよ真志! どこに逃げればいいんだよぉ!」
「今、何年だよ……」
「え……今は――」
あ。
なんか、みるみる美歩の顔が赤く染まっていく。
美歩は何も言わずに深呼吸をすると、手に持っていた本を元の棚に戻していった。
『美歩ちゃんはお馬鹿かわいい』
「よしっと!」
「………」
手帳に書き込む葵を複雑な表情で翼は見詰めるのだった。
一方、中庭では拓真と友里がなにやらしゃがみ込んで何かを観察していた。
翼達は気になって覗き込んでみる。
「花みたいやな」
「きれいだねー!」
一つだけ咲いているタンポポ、二人は笑顔でそれを見詰めている。
「タンポポって踏まれちゃっても元気に咲くんだよね、凄いね」
「うん、凄いね。あたしは好きだよ」
「うん、僕も」
「「………」」
会話は少ないものの、二人は笑顔で花をみている。
「何か……あの二人から熟年夫婦のオーラが出てるんだけど――」
「そうだね、何か入り込めないオーラみたいなものが見えるよ」
邪魔しちゃいけない。翼達は中庭を後にする。
二時間後。
「ねぇ拓真、アッチのお花は何かな?」
「えーっと…どうなのかな。あんまり詳しくないから分からないけど……綺麗だね」
「うん!」
「「………」」
さらに二時間後。
「拓真、こっちのお花もかわいいね」
「うん、そうだね」
「「………」」
そらに(ry
「ねえ、拓真。今日はいい天気だね」
「うん、明日もいい天気だといいね」
「「………」」
こうして、彼らの一日は過ぎていった。
「わぁ!」
「あ! すんませんッ!」
廊下の曲がり角で、葵と椿はぶつかってしまう。
椿はなにやら息が荒く顔色も悪い。
「あはは、廊下は走っちゃ駄目だよ。ところで大丈夫かい? 気分が悪そうだけど……」
「ははっ、だ、大丈夫っすよ! 予定より早く目覚め……あ! いや! だははは!」
不自然に笑う椿、そしてその手にはマジックが握られていた。
何故この状況でマジック? 正直不釣合いではある。それに早く目覚めって――
「絵でも描いていたのかい?」
「や、やべっ…!! あぁ、あの俺もう行きますわ!」
そう言って椿は早歩きでどこかへ行ってしまった。
「どうしたのかな?」
「うぅん…?」
その時だ、また向こうから誰かがやって来た。
これまた全速力で廊下を爆走しているのは――咲夜だ。廊下を走るなんて彼女らしくもない、どうしたのだろうか?
「げっ!」
リュウタロス以外はギョッとしてしまった。
そう、ただ一人リュウタロスだけが笑い転げたのだ。
「あははは! 面白い顔ー!」
「………」
咲夜は翼達に気づき足を止める。
リュウタロスの言葉にプルプルと体を震わせるが何とか抑えている様子だ。
「先生…葵さん……あの馬鹿を見なかったかな……ッッ!」
「え! あ…! う、うーん…! み、見てないかなぁ…!」
咲夜の顔を見て悟る。
彼女のその整った顔に黒いマジックで描かれるアート。
眉毛が繋がり髭みたいなモノが描かれており――
「ど、どうしたのその…顔……っ!」
「あの…ッ、クソ馬鹿が…ワタシの寝ている間に……ッッ!!」
「お、落ち着いて咲夜ちゃん! 椿くんだって――」
悪気があるから落書きしたのよね……そりゃそうだわ。
葵はフォローの言葉が見つからずに沈黙してしまう。
「そうだよ! 咲夜ちゃん。つ、椿くんだってほんの出来心で――」
いや、絶対狙ってた。翼は自分で言いかけた言葉を途中で止める。
「「………」」
二人は様々な言い分を考えるが、何も浮かびやしねぇや!
「ぶ ち の め す」
咲夜はそう言い残して歩き去った。
「だ、大丈夫かな椿くん……女の子の顔に落書きするのはいけない事だけど……」
「そ、そうだね。あの様子だと――」
アアアアアアアアアアッッッッッッッーーーーーーーーーーーーー!!!!!
「「!?」」
「な、なんや!?」
「椿の悲鳴だよー!」
「「………」」
まあ、しょうがないか。
翼と葵はため息をついて次に向かうのだった。
「我夢君、お疲れ様です」
「アキラさん…ありがとうございます。アキラさんもお疲れ様でした」
我夢とアキラはプールのシャワー室の掃除当番だった。
と言ってもこの学校のシャワー室は中々凄いもので、シャワー室と言っても浴槽が2つ設備されている。
しかもそれなりの大きさで、一つはジャグジーまでついてるときているのだ。
もちろんそうすると、掃除の時間も長く大変になってしまうのだが。
「運が悪かったですね、今日の当番がここに振り分けられて」
「ふふっ、そうですね」
二人は笑い合いシャワー室を出て行こうとする。
しかし、その時だった。
「きゃ!」
「!」
アキラがバランスを崩して我夢にもたれかかった!
「!!」
「あ…」
我夢はその時こそ何も考えずにアキラを支えたが、よく考えてみれば肩を抱く形になっているではないか!
「ああああああアキラさん! だだだだ大丈夫ですか!?」
「あ…はい、ゴメンなさい」
「い、いえっ……」
真っ赤になってうつむく我夢、体が熱い。
こんな所を見せる訳には――
「でも我夢君って本当に女の子みたいですよね、体が華奢っていうか。ふふふ、男の人に支えられた気がしませんでしたよ。じゃあ、行きましょうか」
「………」
『女の子みたいですよね(笑)男の人()に支えられた気がしませんでしたよ(失笑)』※あくまでもイメージです。
アキラは呆れたように笑うとそそくさと出て行く。
……あれ?
「………」
外に出てみる、空が青いや。
そこには何故かキンタロスとリュウタロスがいる、でもどうでもいいや。ハハハ!
「今日はいい天気やなぁ、そう思わんか我夢!」
「太陽が…目に染みやがるですね……」
「ねぇねぇ! 飴食べるぅ?」
リュウタロスが差し出した飴をお礼をいって受け取ると、我夢は悲しく微笑んで口に入れるのだった。
「しょっぱいなぁ……」
「? 甘いよ、コレ」
「我夢君…! 頑張って!」
「………」
翼は無言で頷くと、物陰から我夢に応援の眼差しを向けた。
その後、学校を探索していると食堂で双護と真由を見つけた。
双護は珍しく落ち込んでいるようで、真由がそれを必死になぐさめていた。
「お兄ちゃん…ボクね……きっとお空から見守ってくれてると…おもうの……」
「いいんだ真由、俺は罪深い男なんだ。あの時、素直に俺がやったと言えばアイツは助かったかもしれない。だが俺は怖くてそれをしなかった……結果、アイツはもう――」
「お兄ちゃん……ボクは…きっと許してくれると思う。もしね…お兄ちゃんが反省してるなら……生きなきゃ。生きて…彼の分まで生きて!」
「真由――ッッ!」
すまないと双護はうつむく。
目頭が熱くなっているのか、双護は目を覆っていた。真由は優しく微笑むと双護の頭をなでる。
「うぅぅっ、すまない。すまない!」
「大丈夫だよお兄ちゃん。罪は…償えばいい……ユウスケ君の分まで…」
「ぅうぅぅ! ユウスケ、俺が悪かった。薫のおやつを食べたのは…俺なんだ……うぅぅぅ!」
「うん。いや別に死んでないからね。ユウスケは」
「!」
翼は耐え切れなくなって二人の間に割ってはいる。
「本当なのか先生っ! 本当にアイツは死んでないのか!?」
「うん、大丈夫だよ(ちょっと上級者向けのプレイを仕掛けられていけど……)」
「良かった! 本当に良かった!!」
「良かったね……お兄ちゃん…!」
「ああ…ああ! 真由! 許してくれるかな…ユウスケは俺を許してくれるかな!?」
「うん……きっと………」
「うぅぅうううッッ!!」
悲しみの涙は喜びの涙へと変わる。
翼は優しく微笑んで双護の肩を叩いた。
「うぅぅ!泣けるで!」
「よがっだねぇ!」
「いい話だわ…本当」
え? え、何? コレ泣くところなの!?
ウラタロスは何か疎外感の様なモノを感じつつも取り合えず感動しておくのだった。
「りょ、良太郎…元気出して? ね?」
「ぼくは……元気だよ」
べつに何故か置いてあったバナナの皮で滑って、
そのまま何故かこんなに晴れているのに存在している水溜りに頭から突っ込んだからって……悲しくなんか――っ!
「ぼくは…元気だ――ヨッ!?」
「あ!」
さらに良太郎はバナナの皮を踏んで壮大にこけてしまう。
「いたいよ……おッ!?」
「大丈夫? って! ひゃあ!」
何故かさらにバナナの皮を踏んでまたこけてしまう。
ハナを巻き込んで。
「いつつ…ッ!」
「ごめん…ハナさん…」
こけた時は分からなかったが、よく見れば良太郎がハナを押し倒すかのようにしてしまった。
「なななな!?」
目の前には良太郎の顔。いきなりの事に加えて慣れていない事に思わず赤面していくハナ。
だが、良太郎はそんな事を気にする事なく――
「大丈夫? ハナさん?」
顔をさらに思い切り近づけてしまった。
「ひゃああぁああああ!」
「?」
「―――ぁ!」
「え?」
「いやあああああああああ!」
「えぇぇええええええ!!」
ハナ的には軽く、あくまでも軽く…突き飛ばしたつもりだったのだが
良太郎は物凄い勢いで上昇してそのまま木の枝に引っ掛かる。
「ごっ! ごめーん良太郎ーッ!!」
「今日は……特についてないよぉ」
「確か…先輩今日、バナナ食べまくってたよね…」
「そう言えば、良太郎とハナちゃんって……」
「うん、叔父と姪の関係らしいね」
「………」
葵はなにやら考察を始める。
「葵さ――」
「血の繋がり、禁断……燃えるわ」
翼は葵が昼ドラに夢中になってたのを思い出すと、ため息をついた
「チェックだドッガ」
「うっ…うううう」
「あはは、やばいんじゃない?」
「うぅうううう………むしゃむしゃ」
『食うなっス!!』
美術室では珍しく開放されたアームド達がチェスをやっていた。
その隅っこでは里奈が一生懸命何かをしている。
『へぇ、うまいモンねぇ』
「へへっ、そうかな? ありがとう」
里奈は絵を描いていたのだ。なかなか上手いモノでキバーラも思わず賞賛の声をあげる。
「里奈ちゃんは美術部だからね。本当上手いよ、ボクも見習いたいもんだ」
「そ、そんな…事!」
里奈は照れ笑いを浮かべて手をブンブンと振った。
「亘くんだって凄いよ! 絵だってちゃんと勉強すれば私をすぐ抜いちゃうと思うし!」
「そう? ははッ、ありがとう」
「う、うん!」
『はいはい…』
呆れ気味にキバーラはため息をついて飛び回る。
『でもねぇ…』
ふと、キバーラは汗を浮かべてその絵を見詰めた。
『うまいんだけど、なんでかまぼこの絵なんて描いてるのよ?』
「薫さんに頼まれたんだよ。部屋に飾りたいって」
『……マジ?』
「椿さんが言うにはここでキャラを取りにきたとか言ってたけど…私は描くの楽しいからいいかなって」
『あ! かまぼこっすか!? おいしそう! ガブーッ! ニガーッ!』
「何やってんだよキバット! これは絵じゃないか!」
「大丈夫?」
亘と里奈はため息をつきながらも楽しそうに笑い合った。
「どう? 翼くん」
それを見ていた葵は手帳に絵を描いて翼に見せる。
もちろんドヤ顔で
「へー、上手いね。バナナかい?」
「え? 翼くんを描いたんだけど…」
「え…?」
「あれ?」
「いや、コレ…バナナ……」
「いや、あのっ…これ翼くん……」
「え?」
「あれ?」
「「なにそれこわい」」
「ねぇ! 見てくださいッ! 司君! ホラ! これ! やばくないですか?」
ヒュンヒュン!
「おー…」
ピコピコ
「やっと! これで! 私も!」
ヒュンヒュン!
「うんー」
ピコピコ
「フンッ! セイッ! そいやぁ!」
ヒュンヒュン!
「がんばれー…」
ピコピコ
「うははは! やっとッ! これで! 私も二重飛び! できちゃう組み! ですね!」
ヒュンヒュン!
「すごいぞーなつみー」
ピコピコ
「つ、疲れてきました!」
ヒュンヒュン…
「おまえならできるさー」
ピコピコ
「アデッッ!」
バシッ!
「げっ! ここで必殺技かよッ! コレよけれねーんだけど!!」
バゴーン!
「司くん! 私何回飛べました……か…」
「あーあ、コイツ強すぎだろ…あ、でも友里はコイツ使ってんだよな。んーどうしたもんか!」
「……司くーん」
「おぉ、すごいぞー、みてるぞー。がんばれなつみー。えーと、取り合えずコンボを――」
ぶすり☆
夏美の指が司の首にめり込む。
「ぎゃああああああ!! あ……アハハハハハアハハハハハアハ!!!」
「天誅」
「笑いのツボ…わたしも教えてもらおうかしら……」
「いや、なんていうか…やめてください」
深く、切に翼は頭をさげるのだった。
「ねえ、フルーラ。ボクは病気なのかもしれない」
「どうしたのゼノン!?」
「ボクの頭の中から君が離れないんだ。今ではもう赤いモノを見るたび、君を想う様になってしまった……の、さッ」
「まあ! ワタシもよゼノン、だってそれは……愛ッ! なのだから!」
「フルーラ!」
「ゼノン!」
「「ひしっ!」」
そう言って抱きしめあう二人。クルクルと回りだす二人。
「うふふふ!」
「あははは!」
「ねえゼーノンっ!」
「どうしたんだいフルーラ?」
「よ ん で み た だ け!」
「もうっ! こいつぅ!」
「あはっ!」
「ソイヤァアアアアアッッ!」
葵はそこらへんにあった小石を思い切り蹴り飛ばす。
何故かはわからない。だが、無性にそうしたくなったのだから仕方がないね。
「ホラ! こう言うのが見たかったんだろっ!」
「しっかりと目に焼き付けておいてねッ!」
さっきからチラチラとコチラを見ていたゼノン達。
「そう言う事じゃないのよー! ああああもうっ! なんか体中が痒いんだけど!」
「あはは……と、ところで、何で君たちはここにいるんだい?」
「ふふっ愛と言うモノはね、観測者がいればそれだけ燃え上がると言うモノなのさ」
「そうね! さあゼノン! もっと見せ付けてあげましょう!」
「「ん~……」」
そう言って眼を閉じながら顔を近づけていく二人。
「いひゃああああああああああ!!」
「あっ! 葵さぁぁぁーん!」
思わず目を覆って葵は走り去る。
それを追いかけていく為翼達は二人から去っていった。
「もうっ!」
「フフフ……!」
満足そうにゼノンは笑うと、砂のオーロラを出現させて消えていった。
本当に何しにきたのやら……
「ふぅ、疲れたわ……」
「お疲れ様。どう? 皆を見てみて」
葵はニッコリと笑って頷く。
「全然わかんない」
「だろうね……」
そこでハッとする翼、彼は大事な事を忘れていたと葵に話しかける。
そのまま翼は掛けていたメガネを取ると、それを葵に差し出した。
「これ、葵さんなんだの」
「え? ああ! そうだったね!」
葵は外に出かけるときはコンタクトレンズを使ったりもしているが、家では大体メガネを掛けていた。
それ程悪いと言う訳ではないが、なくてはならない物だ。
「ありがとう!」
「いえいえ」
「……うーん」
だが、葵はソレを受け取ると何かを考え始める。
暫くそうした後、葵は自室からもう一つのメガネを取ってきてそれを翼に渡した。
「ん? コレは?」
「あげる。やっぱりもう翼くんも掛けてないとね、もう違和感が出ちゃうわ」
「あはは……そうかな? でもまあ、じゃあありがたく」
翼は複雑そうに笑いながらも、それを受け取る。
「よし! じゃあわたしも皆の為に頑張るから!」
「はは、まあ期待しておくよ」
「うん!」
こうして彼らは次の世界に向けて、旅立っていくのだった。
はい、補足のコーナーでございます。
ゼノン達が渡したカードデッキには以下のカードが入っていました。
ちなみに星マークのは何度でも使用できます。
真志
ソードベント☆
ストライクベント☆
ガードベント
アクセルベント
リターンベント カードのリロード効果を持ちます
アドベント
ユナイトベント 特定の何かを合体させる事ができます
コピーベント 相手の武器をコピーできます
リミッツベント 一定時間身体能力が跳ね上がります
ファイナルベント
無地のカード
契約のカード
美歩
ソードベント☆
ガードベント
シュートベント☆
トリックベント
コピーベント 相手の武器or姿をコピーできます
コンファインベント
ユナイトベント 特定の何かを合体させます
フリーズベント
クリアーベント
アドベント
ファイナルベント
アクセルベント
ヒールベント 対象を回復させます
リカバーベント 自分の状態異常を回復させます
リターンベント 一度使ったカードをもう一度発動できます
無地のカード
契約のカード
こんなモンですかね
もしかしたら増えたりするかも?
次は申し訳ないですが、ちょっと遅れるかも。
ではでは