平成VS昭和はどっちが勝つんだろうね? 今は若干昭和有利だけど。
まあでも僕は平成派だけど、勝ってほしいのは昭和だよね。
ただ何回か言ってるけど二号は黒マスクの方にしてほしい。
あっちの方が一号と差別化もできるしカッコいいと思うんだけどね。
一方学校では、傷を負った咲夜と椿が無事に帰還して玄関に着いたところだった。
我夢とアキラが椿達をいち早く見つけて駆け寄る。話には聞いていたが、咲夜の背中から血が出ているではないか。それを見て二人の表情が一気に変わった。
「だ、大丈夫ですか!? 先輩!」
「あ…ああ、大丈夫だ」
泣きそうになるアキラをなだめると、咲夜は優しく微笑む。
我夢の能力で傷は癒えていくが、それでもちゃんと手当てをした方がいいだろう。
「アキラさん先輩を保健室に連れて行ってあげてください。ここは場所が場所だから……手当てもお願いできますか?」
「は、はい!」
咲夜はアキラに支えられて保健室へ向う。
我夢もまた心配そうに椿に手を差しだした。ガタガタと震える椿に違和感と、緊張を覚えながら。
「わ、悪い……結構、いやかなりかっこ悪いな、俺」
「いえっ、そんな事は――」
「い、いいんだよ別に、俺が一番分かってる」
もっと、自分はうまくできると思ってた。すぐにライダーになってハイ、終了。
その程度にしか考えてなかったのは事実だ。だが椿は消えてしまいそうな程、小さな声でそう呟いた。
「……っ」
我夢はなんて声をかけたらいいのか迷う。
だから――
「何があっても……椿先輩は椿先輩です」
「………」
自分の思いだけを口にして椿の手を引き、起こしたのだった。
「どうですか……?」
咲夜は少し不安そうに葵に問いかける。
だが葵はニッコリと笑って背中を撫でた、その笑顔に咲夜の緊張も緩む。
「うん、心配しないで。大丈夫、傷も浅いし痕にはならないから」
「そうですか……」
咲夜はホッと息をつく。
彼女とて女性なのだ、そういった心配もあっただろう。
だが特に問題はなさそうだ、ソレを聞いて安心する。
「良かったですね」
「あはは……ありがとう」
アキラと咲夜は安心したのか笑い出す。
しかしその時、二人の笑い声に重なるように二つの笑い声が聞こえた。
「!?」
二人がその方向を見る、そこにはゼノンとフルーラがいた。
相変わらずヘラヘラと笑っている二人に少し違和感を覚えながらも、今は気にしないでおこう。
二人は木の上に座っており、それに気づいた葵は窓をあけた。
「どうしたの?」
葵の問いに二人は笑って答えた。
「傷が浅い? ハハッ、君たちは大きな勘違いしているよ」
「え……」
「実はね――」
あまりにもあっさり告げられた『ソレ』に、3人は思わず固まってしまうのだった。
そして。
「おう……も、もう大丈夫なのか…?」
「あ、ああ……」
保健室から出てきた咲夜を、椿と我夢は出迎えた。
怪我はもういいのだが何故か手当てを行ったアキラと葵の表情は暗い。
「……ッ?」
不思議に思う我夢をよそに、咲夜はもう大丈夫と笑う。
「椿、その……」
咲夜はすこし悲しげな表情でうつむく。
流石の椿もふざける気にすらなれない、少しの沈黙が続いた後咲夜が口を開いた。
「すまない――」
「な…なんでお前が謝るんだよ」
悪いのは俺なんだから。
そう呟く椿を、咲夜は悲しげな表情で見詰める。何かを言いたい様な、そんな表情。
だが何も言わない。いや、言えないのだろうか?
咲夜も、椿も泣きそうな顔。我夢とアキラはなんとも言えぬ喪失感を覚える。
あれだけ普段馬鹿な事ではしゃいでいる二人が、今は会話すら交わそうとしないのだから。
洒落に、冗談にならない恐怖。初めて覚える絶対的力の差。
今まで化け物や人間を殺す存在なんてテレビでしか見た事がなかった。
最初の世界でワームに出会ったとき、良太郎に助けられたことで錯覚してしまった。
やはり、自分は大丈夫なのだと。だがキングと目を合わせた時本能がキングを拒絶した、完全に戦意を喪失してしまった。
相手は人間ではない、化け物だ。何度も見て来たからもう大丈夫と分かっていたのに……
「………」
「………」
だが今この状況もかなりキツイものがある。
椿は気まずそうに口を開いた。
「お、俺…キングと戦ってみようかな――……」
「先輩!?」
冗談とか、そうでないとか。真偽は置いておくとして椿はその言葉を口にする。
彼としては少しでもこの空気をどうにかしたいと思っての行動だった。
だが、以外にもソレを真っ向から否定する者が現れる。
「――――しろ」
「っ!?」
椿の胸ぐらがつかまれ、同時に投げ飛ばされる。
壁に叩きつけたれた椿は、苦しそうな声をあげて咳き込んだ。
「ゲホッ! ゲホッッ!! な、何すんだよ――……ッッ!」
「………」
椿を投げ飛ばしたのは、咲夜だった。
我夢の驚く目を無視して、咲夜はいまだ倒れている椿を見下ろすように立つ。
髪で隠れている為に表情は読みとれないが、あまりいい雰囲気ではないという事が嫌でも伝わってきた。
そして、ポツリと咲夜の口から言葉が漏れる。
「いい加減にしろ。また―――か?」
「ゲホッ!! は…はぁ!?」
「また、逃げるのか?」
「ッッ!?」
咲夜は椿が立ち上がるのを待たずして、再びその言葉を口にした。
『また、逃げるのか?』
どういう意味なのか我夢たちにはイマイチ分からない言葉だったが、
椿にとっては深く突き刺さる内容だったらしい。
咲夜は申し訳ないと悲しげな表情だったのに、一気に怒りの表情に変わる。
「……どう言う、事なんだよ?」
「決まっている。もう一回いってやろうか?」
「あ?」
「そんな事を言っておいて、また……どうせ、逃げるんだろ? お前はいつもそうだ。口ではでかい事を言っておいていつも逃げる。戦おうとしないッッ!」
お前は!!
咲夜は椿の目をみないまま声を張り上げた。
「ずっと逃げてばかりの臆病者だッ!!」
「!!」
椿はグッと歯を食いしばる。何か思う節があるのだろうか?
しかしそんな彼を気にする事なく咲夜は言葉を続ける。
感情を爆発させる様に流れていく言葉。
「ああそうさ、戦いたくねぇよッッ! あんな化け物と戦って勝てる自信なんてねぇんだよっっ!」
椿もまた声を荒げる。だが、咲夜は怯む素振りすら見せない。
「いい加減にしろッ! 甘えるなよ椿! 皆、ちゃんと変身しているんだ! なのにお前はうじうじ、うじうじッ! 情けない!」
「くっ!」
「咲夜先輩!」
我夢が止めに入ろうとするがそれをアキラと葵に止められる。
「っ!?」
驚く我夢、二人が泣きそうな表情をしているからだ。
特にアキラは小さく震えている。それが気になったが、今はなにより椿と咲夜が――
「しょうがねぇだろうが! 負けたら死ぬんだぞ!? そんなのこえーに決まってるじゃねぇか! お前なんなんだよ!」
「だから戦わないのか? 負ける? 死ぬのが怖い? 戦っても無いのによく言えるな! 結局お前は戦う前から負けると決め付けているだけだ。臆病者のする事だな!」
お似合いだ! 一生そうやって怯えていろ!
咲夜は椿を突き飛ばす。
「何だよ何なんだよ!? お前はいいよな別に、アイツと戦わなくていいんだから。何とでも言えるよな!」
「ああそうさ、ワタシはブレイドになる必要なんて無いからな。だがお前は違う、いつまでもいい訳並べてないでキングを倒す為に稽古でもなんでもしろ! 今のお前は――」
咲夜は椿の目をまっすぐ見て言い放つ。
「足手まといのお荷物なんだよ!!」
「ッッ!! テメェぇぇぇッッ!!!」
「先輩っ!」
椿は咲夜の襟元を掴む。
にらみ合う二人、だが咲夜は尚も続ける。
それはもはや椿を煽るだけのようにも見える程だ。
「殴るのか? 臆病なだけでなく器まで小さいなお前は。最低の人間だ!」
「くっ……!!」
椿は悔しそうに歯を食いしばりながらも、咲夜を離し背を向ける
「流石に言いすぎです咲夜先輩! 椿先輩だって――ッ!」
「もういいんだよ我夢! コイツには…っ!」
椿は咲夜たちに背を向けたまま歩き出す。
我夢は困ったように椿と咲夜を見た後、椿の方へと走っていった。
「………」
それを咲夜は何も言わずに見ていた。
何も、言わずに。
「あの……きっと咲夜先輩も悪気があって言ったわけじゃ――」
コインを弾きながら我夢は笑う。
表が出ようが裏が出ようが、いい方向になるように彼は願った。
いつもケンカをしている二人を見てきた。だが今回のケンカは完全にいつものような『おふざけ』ではない。
仲良くして欲しいと願うのに、どうしてこうなってしまうのか。
「……あの女はもうどうでもいいよ」
「………」
椿は悔しそうに石を蹴る。
分かっている、でも怖いモノは怖いんだよ。うずまく心の中、感情の奔流は椿を飲み込んでいく。
理解はしている、でも怖い。なのにアイツは――……と。
「あああ! クソッ!」
悔しい、むしゃくしゃする!
正論だよアイツは、でもだから何だってんだ!?
人間の心は正論じゃ語れないんだよ! あああ! うぜえええッ!
「………」
我夢はため息をつく。
何度もコインは裏と表を指し示すが、何も考えられない。
一体どうすればいいんだろうか? 何かできる事はないのか?
「……はぁ」
正直全く思いつかない、我夢は自分の無力さにため息をつく。
しかし何故か、無性に嫌な予感がしているのは気のせいだろうか?
「……っ!」
「お前ッ!」
ひとまず辺りのローチ達を倒したダイアナとクロハ、だが二人は休む暇なく再びバックルを構える。
前から歩いてきたモノは、うるさい程の笑い声をあげていたからだ。
何故かとても楽しそうな彼は、二人を確認すると地面に倒れ笑い転げる。
不快、その一言に尽きる。しかし彼にとっては最高に愉快な事だったろう。
迷う事無くパズルのピースがはまっていく快感、それに近いものを感じていた筈だ。
狂ったように笑い続けるピエロの様なその男、ダイアナとクロハは得たいの知れぬ恐怖を覚える。
こいつは普通じゃない。体が、直感がそう告げる。
逃げたい衝動に駆られたが、そいつの後ろを子供のようについて来た化け物を見るかぎり敵なのだろう
なら、逃げるわけにも行かない。
「ダイアナ…危なくなったらすぐに逃げるよ」
「ええ、わかってるわよ」
『『ターン・アップ!』』
エレメントが現れ二人を通過する。
ギャレンとレンゲルに変身した二人は、それぞれのラウザーを構えて走り出した。
「ストォオオオオップ!」
「「!?」」
笑い転げていた男が声をあげる。思わず立ち止まる二人に、男は耳障りな拍手を贈った。
賞賛でもないその拍手。意味なき行動は二人の不快感を加速させる
「こんにちは、私は道化師! あなた達はギャレンとレンゲルですねぇ?」
そう言って道化師は帽子からソレを取り出して二人に見せ付けた。
まるで子供が友達に自慢の玩具を見せびらかす様な素振り、しかし二人はソレを見ると一気に雰囲気を変える!
「そ、それはっ!」
「ッ!!」
驚く二人が面白いのか、道化師はケラケラと笑う。
道化師が取り出したのはバックルだった、それは二人と同じモノ。つまり――
「フフッ! ヒヒヒヒ!!」
道化師はさらに一枚のカードを取り出す。
いわゆるカードスリーブに包まれたそのカード、道化師は笑い続けながらそのカードをバックルにセットしたのだった。
この世界ではバックルとカテゴリーエースのカードでライダーに変身する、バックルはキングと契約を交わした時にキングから貰う物なのだ。
つまり、そのバックルを今道化師が持っていると言う事は……
「まさか……」
「そう! そのまさかってヤツでねぇ!!」
道化師はバックルを腰に装着する。そして、そのハンドルを引いた!
「変身!」『ターン・アップ!』
「「!?」」
エレメントが出現し、道化師を通過する。
そこに立っていたのは間違いない――
「カリス――……ッッ!!」
「な、なんで…?」
驚く二人に道化師は恍惚の表情を浮かべる、尤もその表情は彼らには読み取れないだろう。
仮面が隠しているのだから。そう、仮面ライダーなんだから。
「ふふっ! ヒャハハハハハハハ!」
素晴らしい! 理解できないモノを直視した人間の浮かべる顔とはなんと滑稽か。
ああ愚かで、醜く、だが美しい! 道化師は満足だった。だがまだだ、もっと楽しませてもらわないと。
「君は、契約……したのか?」
道化師はハートのライダー、カリスへと姿を変えていた。
パラドキサアンデッド達、ハートのスートに認められし者のみが変身できるカリス。
確かにハートのアンデッドは気まぐれな者が多い。だがいくらそうだと言ってもこんな怪しいヤツをマスターとして認めるだろうか?
キング間の決まりである報告まで忘れるのだろうか? その答えはカリス本人が告げる。
「はぁ? 契約? ブプッ! する訳ないじゃない! ホホホホホ!」
じゃあ何故? カリスはどうして存在しているのだろうか。
そんな二人の様子を読み取り、カリスは適当にカードを取り出してソレを二人に見せ付ける。
「契約はしてないけどカードは貰ってますよ」
「!!」
「なっ!」
カリスが取り出したカードは黒いカードスリーブに包まれていた。
二人はすぐに理解する、あのカードスリーブが原因なのだと。
「それは!?」
「どうです? ワタシが作ったんですよ。 お前らゴミみたいにチマチマ契約なんて馬鹿な事しないでさ!」
「……ッ」
「コレさえ使えばアンデッド共を楽に支配できるってね! ヒャハハハハハハハハハッッ!」
そう言ってカリスはカードを地面にばら撒く。
黒いカードスリーブにハートのアンデッド達は包まれていたのだ。
カリスは笑いながらカードを踏みつけると、耳障りな笑い声をあげる。
「私は道化、玩具はたーくさん持っている。そしてその素晴らしい玩具を作る天才なんですよォオ!」
『リモート』
「あん?」
カリスはいきなり襲い掛かってきたタランチュラアンデッドとギラファアンデッドの攻撃をヘラヘラ笑いながらかわす。
「おぉっと!危ない、危ない! ヒャハハハッ!!」
『貴様…我々をなめるなよ…ッ』
『今すぐハート達を解放してもらおうか』
ギラファとタランチュラ、二人のキングはカリスを睨みつける。
しかしカリスは相変わらずふざけた態度で二体を小馬鹿にしていた、その余裕はどこからくるのか?
「はいはい、確かにあんた等はお強いお強い。だけどね、ワタシが何の対策もしないとお思いかな?」
『何ッ?』
「遊んでやれ! ジョーカー!」
カリスの合図と共にカミキリ虫の化け物、ジョーカーが動きだす。
ギラファとタランチュラに狙いを定めると、ブーメランを構えて走り出した。
『ヒヒヒヒヒ!!』
『フン!』
ギラファはジョーカが投げたブーメランを弾くためにバリアを張った。
だが異変はその時起こった。ジョーカーの武器がバリアに触れると、バリアはいとも簡単に割れてブーメランはそのままギラファに命中する。
本当におかしいのはそこからだ。単にブーメランを投げただけの攻撃、それなのにギラファのバックルが展開する。
これはアンデッドが過剰なダメージを受けた時に展開するもの。あんな攻撃で展開するはずが無い!
『グゥウウ! 貴様ァァ! 何をしたァァァッ!』
だが現にギラファは立つことすらままならず、膝をついている。
あの攻撃がそれ程の威力を持っていたと言う事なのだろうか?
「ヒャハハハ! だぁから言ったのにィ!」
腹を抱えて笑うカリス、その様子にレンゲル達も我に帰る。
「ジョーカーが原因か!」
「その通り! この人工アンデッド・ジョーカーはお前らアンデッドに対する切り札」
言えばアンデッドキラー。アンデッド達の特殊能力はジョーカーには効かない。
逆にジョーカーの攻撃はアンデッドに対しては通常よりも大きな効果をもたらす。
つまり――
「不死者共がァ! テメェら詰んでんだよぉオオ! ギャハハハ!」
「くっ!」
ギャレンとレンゲルはすぐにキングをカードに戻す。
アンデッドが駄目でも、自分達ならジョーカーと戦えるはずだ。
二人はそれぞれ武器を構えてジョーカーとカリスを睨む。
「ハッ! 君たちをぶっ殺して残りのアンデッドも頂きますよ。
せいぜいワタシを楽しませてくださいね? ヒャハハハハハハハ!!」
カリスはキノコを取り出しあたりに投げる。
次々に出現するクラウンオルフェノク達、ギャレンとレンゲルの表情が曇る。
敵の数が多いのだ、リモートで応援を呼びたいが――
『キヒヒヒヒヒヒヒ!!』
ジョーカーに一撃で倒されてしまう。
「結構、厳しい戦いになるかもね……!」
「ええ、そうね」
二人は互いに顔を見合わせる。
ずっとこの街を守ってきた。だが、もしかすると今回ばかりは――
「「ウオォオオオオオオオ!」」
無数のクラウン。ジョーカー、ジョーカーが生み出すローチ。そしてカリス。
圧倒的戦力差だが、彼らは負けられない。彼らは自分達の世界を愛しているからだ。
「無駄なんですよ、この世界は滅びる。私達の玩具になるんですよ! ヒャハハハハハハハ!」
「そうはさせないッッ!!」
レンゲルはラウザーを振り回しクラウンを弾き飛ばす。
さらに豪快な蹴りでローチ達を押し出していき、そのままジョーカに攻撃をしかけた。
まずやはり狙うのは母体であるジョーカーだろう、この街に徘徊しているローチを消滅させなければ希望はない。
『キヒヒヒ!』
しかし黙ってやられるわけもない、ジョーカはバック転でレンゲルとの距離を離す。
だがここまでは予測できた。軌道を読み取り、ギャレンは銃でジョーカに狙いを定める!
『キャハハハ!』
『ジジジジジジ!』
「くっ!」
ジョーカーを庇うようにクラウンとローチが立ちふさがる。
構わず撃ち抜くが、ジョーカーには届かない。
それだけでなく、戦っている場所が広場の為どうしても囲まれる形になってしまうのだ。
「背中ががら空きですよ。お嬢さん?」
「なっ! グッ!」
背中に痛みを感じて振り返る、そこにはカリスがいた。
カリスアローで切られたと言う事だろう。ギャレンは舌打ちをしてカリスとの距離を空ける為、後ろへ跳んだ。
「甘い!」『バイオ』
「え!?」
カリスアローからバラの蔓が発射され、ギャレンに絡みつく。
そのまま引き戻されるとカリスの蹴りが待っていた。
「ぐふっ!」
「ヒャハハハハ!」
苦痛の声がカリスにとっては最高のBGMらしい。
レンゲルは急いで助けようとカリスの元に向うが、こちらもクラウンやローチに阻まれてしまう。
さらに襲い掛かるジョーカの攻撃。
「クソッ!」『ブリザード』
レンゲルが放つ冷気にクラウンやローチは抵抗できず、氷の檻へと閉じ込められる。
それを次々に砕いていくが、ジョーカだけはそうもいかなかった。
素早いフットワークで冷気をかわし、レンゲルに攻撃をしかけていく。
レンゲルもそれを受け流すが、ジョーカが召喚するローチにいつの間にか囲まれ反撃を許してしまう。
「ヒャハハ! 死ね死ね死ねェッ!」『チョップ』
カリスはその手を振り上げギャレンの脳天を狙う。
ギャレンはいまだに蔓が絡み付いており避ける事ができない!
「そう……ッ! 簡単にやられるもんですか!」『バレット』『ラピッド』『ファイア』【バーニングショット】
身体は動かずとも手は動く。
銃を向かってきたカリスに突きつけると、無数の炎弾をカリスの体にヒットさせた。
コレにはまいったのか、カリスは小さく呻くとバイオを解除しギャレンから離れる。
煙が上がる腹部を押さえてカリスはギャレンを睨みつけた。激しい憎悪のオーラが感じ取れたが、ギャレンは冷めた目でソレを見返す。
「ああああ! クソッ! ガキがぁっぁぁッッ!!」
「ふん、それが本性かしら?」『アブソーブ・クイーン』
ギャレンはラウズアブソーバーを起動させる。
そして、ジャックのカードを発動させた。
『フージョン・ジャック!』
ギャレンの体が金色に包まれ、ジャックフォームへと変身を遂げる。
カリスはイライラを隠す様子もなく、地団太を踏んでクラウンオルフェノクを盾にする。
「無駄よ!」『アッパー』
ギャレンは飛翔し、カリスに狙いを定める
「くっ!」
カリスは素早く弓で何かを発射し、離れたところで交戦していたレンゲルに何かを当てる。
若干それが気になったが、ギャレンの攻撃を避ける手立てはない。
ギャレンはそれを確信し、勢いよく拳を突き出した!
「ヤバイ!」
「……なーんてねっ!」『シャッフル』
「え?」
突如カリスの体が消え、変わりにレンゲルがカリスのいた場所に現れる。
「あ……」
それに二人は気づくが、もう遅い。
ギャレンの拳はレンゲルに命中し、レンゲルは大きく吹き飛んでしまった。
「ぐあぁああああああッ!」
「そんなっ!」
「ヒャハハハハハ!!」『トルネイド』『ドリル』【スピニングアタック!】
「きゃあああああああ!」
竜巻を纏ったカリスのキックがギャレンにヒットする。
同じく大きく吹き飛ぶギャレン。
「あ…ぐぅ…」
ヤバイ。このままでは負けてしまう!
二人に絶大な焦りが生まれた。対照的に笑い続けるカリス達。
聞こえてくるのは笑い声でしかない、狂笑のハーモニーが再びこの世界を包み込む。
笑い声、笑い声、笑い声、笑い声、叫び声、笑い声、笑い声、笑い声、笑い声、笑い声――
おや?
「まてぇえええええええええッッ!!」
「あん?」
その中に飛び込んでいくモノが一人。
「変身!」
ベルトが赤い旋風を巻き起こし、同時に姿が変わる!
「ハァッ!」
「!?」
カリスに向って攻撃をしかけたのはライダー。
だがカリスには見覚えがない、アンデッドを使って戦うのはこいつ等だけのはずだ。
と言う事は……どういう事なんだ!?
(前のヤツらと何か関係があるのか…? チッ、ややこしい!)
「オラッ!」
「グゥ!」
ライダーの拳がカリスの顔面をかする。
「お前が道化師かっ!?」
「だったらどうなるのかなぁ?」
「お前のせいで! どれだけの人が悲しんだのか…分かってんのかよッ!」
ライダーの拳がカリスを完全に捉えた、頬に走る衝撃がカリスのイライラを加速させていく。
カリスはその不快な状況を打破するためにクラウンをライダーに向わせた。
数さえあればコイツを取り押さえ――
「超変身!」
「は?」
ライダー、クウガはドラゴンフォームへと姿を変える。
向ってくるクラウン達をひとっ飛びでかわすと、レンゲルの所まで一気に駆け抜けた。
「大丈夫か!?」
「う…うん!」
「ええ、何とかね」
「よかった。じゃあ悪いけどちょっとコレ借りるよ」
そう言ってクウガはレンゲルラウザーを蹴り上げて片手で持つ。
するとラウザーはドラゴンロッドへ姿を変え、クウガの手に収まった。
「援護を頼む!」
「え、ええ! まかせて!」
「僕もまだ大丈夫!」
クウガはロッドを巧みに操り、ローチやクラウンをいなしていく。そしてあっという間にジョーカーの前までやってきた。
ジョーカーは素早い動きでクウガを翻弄しようとするが、ドラゴンに変わったクウガにとって今のジョーカーの動きなど単調なものと同一。
すぐにロッドでジョーカーを攻撃していく!
『ギッ! キヒヒヒヒヒ!』
避けようともクウガのロッドはソレを許さない、ジョーカーに確実に与えられていくダメージ。
ローチやクラウン達はギャレンの弾丸に阻まれジョーカーを援護できない。
「チィイイ! 調子に乗ってんじゃねぇぞォォォオオッッ!!」
カリスのイライラは最大点に達する。
あのライダーが何者なのかは気になるが、自らの最高傑作であるジョーカーを傷つけられるのは我慢できなかった。
カリスアローを構えてクウガの所へ走り出す。どうでもいい、早くあいつ等を消さなければ!
「ウォオオオオ!!」
「何ッ!? ゴワァアアアア!」
だが空中から飛んできた鉄球がカリスの体にヒットする。
巨大な衝撃がカリスの思考を停止させる。そこに再び襲い掛かる衝撃!
「ぐぅうう!」
「ハァッ!」
ジャックフォームに変わったレンゲルの鉄球がカリスを追い詰める。
カリスアローを弾き、その拳は確実にカリスを捕らえる。
「ハァアアアアアアア!!」
『ギィイイイ!』
スプラッシュドラゴンがジョーカに炸裂する。
瞬時に体を反らした事で直撃を免れ、ジョーカは致命的なダメージを負う事は避けられたようだ。
だがクウガの紋章は確実にジョーカーの体にダメージを与えている証拠、このままいけば――
「いけるッ!」
「チィイイイッ!」
カリス、道化師は焦っていた。
このままではやられる可能性が出てきたからだ。
正直自分の戦闘力はそこまで高くない、ここでジョーカーを失うのはかなり厳しいものがあった。
「ヒャハハハ! 仕方ないねぇ、ジョーカー! 逃げるよーん!」
『キヒヒヒ!』
屈辱ではあったがカリスは撤退の選択をする。
フロートを発動させ、空中に浮き上るとそのまま飛んでいくつもりだ。
「まてっ!」
ギャレンはカリスの後を追おうとするが、ローチとクラウンに取り押さえられてしまう。
「クロハ!」
「ああ! 分かってる!」
レンゲルはギャレンの周りにいるローチ達を吹き飛ばし、
そこにクウガはロッドで的確にローチ達を消滅させていく。
「ジョーカーはッ!?」
「あ! あそこだよ!」
「っ!」
ジョーカーもまたカリスに捕まるためジャンプで跳ぶ。
このまま逃がすのか!? ギャレン達は歯を食いしばる、せっかく黒幕に会えたのに。
しかしその悪い予想は外れることになる。ジョーカーとカリスの間に、何かが飛んで来たのだ。
「ウォオオオオオオオッッ!!」
「「!?」」
カリスとジョーカーの間に押し入ってきたのは薫だった。
トライチェイサーに乗り込み、崖からウィーリーと大ジャンプでジョーカ目掛け突撃する!!
『ギビイビビウイビッ!』
「なっ!!??」
トライチェイサーのタイヤはジョーカーにめり込み、そのまま地面へと叩きつけた。
なんともエグイ攻撃である。これには流石にジョーカーも笑えない様だ。
「ちぃいいいッッ!!」
カリスは仕方なく自分だけ上空に飛翔し逃走した。
ジョーカーの方はトライチェイサーに弾かれ、引きずられながらカリスとの距離を離されてしまう。
「薫!」
「はいよっ!」
薫はトライチェイサーをまるで体の一部のように操り、ジョーカーに数発連撃を加えた。
その後、クウガの所へ向う。
「どうよ? 結構練習したんだけど」
「ああ、やっぱり凄いよ薫は」
ユウスケと薫は互いの手をガッチリと掴む。すると薫の体が光輝き、銃の姿に変わった。
クウガも瞬時にペガサスフォームへと変わると、ブラストペガサスでジョーカーの武器を貫き飛ばした。
そしてその後、再びドラゴンフォームに変わると次々に連撃を食らわせていく。
『キヒヒヒィ!』
「フッ!」
ジョーカの振り下ろされた拳をロッドで受け流し、回転するように蹴りとロッドの多段攻撃をしかけていく。
反撃すら許さない猛攻にジョーカーもお手上げのようだ。
『ユウスケ!』
「ああ!」
クウガはジョーカーを援護するため送り込まれたローチ達を受け流すと、空中へ跳ぶ。
当然ローチ達もクウガを追うため飛翔し、追ってくるのだが二人はそれを狙っていた。
クウガはさらにもう一度ジャンプで地面との距離を離す。当然、さらについて来るローチ。
「『超変身!』」
クウガは空中でタイタンフォームへと変わる。
タイタンはドラゴンフォームのジャンプを殺し、直ぐに猛スピードで地面へと帰還する。
その下にはジョーカー、ローチ達はクウガを追うが追いつかない! クウガは地面へと直行し、ジョーカーを押し潰す。
『ギイイイイイイイイイイ!!』
苦痛の声をあげ、走り去るジョーカー。
もちろん逃がす訳もない、クウガはマイティフォームに変わるとジョーカーに狙いを定める!
「ハァァァアアアッ……!」
クウガの足に炎がまとわりつき、一歩足を踏み出す度に炎が足を包んでいく。
そのままクウガは飛び上がり、ジョーカーの脳天に蹴りをきめた。
マイティキック。ジョーカーは笑い声とも断末魔ともとれぬ声をあげながらはるか後方へ吹き飛ぶ!
「ぐぅうぅうううッッ!!」
カリスは怒りから拳を強く握る。
爆発するジョーカー、そしてソレをきっかけに消滅するローチ達。
誰がどう見てもクウガ達の勝利だった。
そう、誰が見ても。
「………」
ガコンッ、とジュースが自販機から落ちてくる音が聞こえる。
椿はそれを取るとため息をついた後に勢い良く飲み干した。
「……ッ」
少し離れた所にあるゴミ箱に向って椿は空になった缶を投げる。
だが缶はゴミ箱にかする事すらなく転がっていくだけ、余計に虚しくなる。
むしゃくしゃは収まらない。椿は悔しそうに頭をかくと、缶を拾うために歩き出す。
転がっていく缶、そしてそれは暫くして誰かの足に当たり動きを止めた。
「………」
その缶を拾い上げたのは椿では無く咲夜。
咲夜は何も言わずにその缶をゴミ箱へ捨てると、椿を睨みつける。
鋭い瞳はさらに鋭利さを増し、椿の心に若干の恐怖を煽らせた。
「な、なんだよ……」
「お前、何をやっている。さっさとキングを倒す準備でもしたらどうだ?」
「……ッ」
椿は何か反論をしたそうな様子だったが、それを口にする事は無かった。
それを察知してかしないでかは分からないが、咲夜は冷たく笑うとまた椿を睨みつける。
いや、睨むと言うよりは見下すと言った方が近いだろう。
咲夜は言葉にこそ出さなかったが、完全に椿を見下していたのだ。
まるでゴミを見るかのような眼で椿をじっと見詰める、それが椿にとっては大変不快であったろうに。
わざとやってるのか? 椿の心にドス黒い感情が湧き上がってくる。
自分に非があるという事実がある為に強くはいえないが、今目の前にいる咲夜が鬱陶しくて堪らなかった。
「言いたいことがあるなら言えよっ! クソッ! 何なんだよお前は!!」
「……戦わないお前に価値なんて無い。尤も今さら価値がでる事もないだろうがな」
つまり、椿は戦わない負け犬。
つまり、椿は戦いを放棄する臆病者。
つまり、椿は皆のお荷物。そう咲夜は椿に告げた。
「テメェッッ!!」
椿はついに限界を迎える。咲夜に掴みかかると、彼女を睨んだ。
しかし咲夜は怯む事はない。椿の手を振りほどくと、そのまま椿を投げ飛ばした
「グッ!」
「無様だなお前は、まさかワタシより弱いとは」
「くッッ!」
悔しい、悔しい、悔しい!
そして目の前のコイツが…ッッ!
「………」
何故か少し汗をかいている咲夜。
それが椿の記憶を呼び起こす、道場で自分より弱いと思っていた咲夜に手も足もでず負けた。あの時
「……どうだ? 見下される気分は。お前がブレイドになればワタシに勝てるかもな」
相変わらず咲夜は挑発的な言葉で椿を攻め立てていく、グッと歯を食いしばる椿と息が荒い咲夜。
窓から射す夕日の光だけが二人を照らしていた。
「椿…ワタシはなぁ……ッッ!」
どんどん咲夜の呼吸が荒くなっていく。
だが椿にそんな事を気にする余裕はない、咲夜が今言わんとしている事から逃げようと眼をそらすだけ。
そんな事をしても結局耳には入ってくるのだが。
「お前……がっ…嫌い………なんだよ!」
「……!」
沈黙、初めて面と向かってハッキリと言われたその言葉。
椿の体から冷や汗がにじみ出てくる。分かってたよそれくらい、俺もお前なんて嫌いだ。
そう言えばいい、だけどできなかった。いつものおふざけでは決して無い、だからこそ無性に嫌な気分になる。
「………」
「っ?」
待て、何かおかしくないか?
「……おい、お前どうし――」
一方場面は道化師たちの方へと戻る。
それは、誰が見てもクウガの勝利だった。
「………くひっ!」
「?」
「クヒヒヒヒヒヒヒ! ヒャハハハハハハハッ! アーッハハハハハッッッ!!」
しかし予想とは裏腹にカリスが空中でいきなり笑い始めた。
尤もさっきから笑っているのだが、今のこれは特に異質なモノを感じる。
圧倒的不利な状況だけでなくジョーカーまで倒され計画だったろうローチの繁殖を阻止されたのにも関わらず何故、どうして笑う事ができるのか?
おかしい普通じゃない、今度は誰もがそう思っていた。
「ヒャァアーッハハハハハハッッ! なーんちゃってぇえッ!」
「は!?」
「腹が……腹が痛いねぇ! まんまと引っ掛かってんだもんなぁあああああああああ!」
ま、ちょっと焦ったのは本当だけど。
カリスはそう言ってクウガ達を見る。
「何っ!?どう言う事だ!」
「ヒヒヒヒヒ!!」
カリスは空中をクルクルと旋廻しながら尚も笑い続ける。そしてその笑い声に重なる黒い霧。
「なっ!?」
それは街中を再び包んでいた。そこから現れるのは――
『『『ジィイイイイ!』』』
無数のローチである。
「そんな馬鹿な!? 何で?」
「よく考えてみてください。トランプって何枚で構成されてるのか。ギャハハハハ、分かったか? そうですよ、ジョーカーは二枚!」
ジョーカーは二枚。
その言葉が指し示す意味はたった一つ。
「ジョーカーはもう一体いるのか!」
クウガの言葉にカリスは笑い転げる。正解! 大正解! カリスは腹を抱えて空中を転がりまわった。
つまりジョーカーはまだ死んでない。あの青いジョーカーは死んだが、もう一体いると言う事はローチ達も消滅してはいないのだ。
「ヒャハハハハハハ! ギャハハハハハハ!!」
「くっ!」
だが、ちょっと待て。いくらジョーカーが二体いたとはいえ一度ローチは完全に消滅していった筈だ。
直ぐに新しいローチが生まれたわけだが、すくなくともクウガの眼には一度完璧に消え去ったように見えたのだ。
その疑問は直ぐにカリスにぶつけられる。カリスはその問いに焦るわけでもなく、断るわけでもない。あくまでも普通に、冷静に答えた
「フフッ、気がつきましたか。そうです! 確かに貴方の言う通りだ!」
「ッ!?」
「ジョーカーは最初一体しか存在していなかった! だが、だがしかしっ!」
ローチ達はクウガ達に攻撃をしかけていく。それはジョーカーが生きているというなによりの証拠。
いや、少し違う。
「ジョーカーには特殊能力が一つありましてね」
それは! もったいぶったようにカリスは空中を何度も旋廻する。
「ジョーカーウイルス!」
カリス、『道化師』は語る。自らが作り上げた対アンデッド用怪人、ジョーカー。
アンデッドに対して絶大な力を発揮するだけでなく自らの化身であるダークローチを生み出し、時間がたつにつれ増殖していくローチと自らで世界すらも滅ぼす事ができる。
道化師の最高傑作である玩具。
「そしてジョーカーには文字通り切り札を持っているんですよ。ジョーカーウイルスと言う切り札を」
まるで玩具を自慢する子供の様に、饒舌に楽しそうにカリスは語り始める。
コチラが聞いてもいないのにペラペラとジョーカーの自慢をする辺り、相当な思い入れがあるのだろうか?
「ジョーカーウイルスって何なんだよッ!」
ローチはまだ少ないものの、クラウン達がその数を補っていく。
クウガ達はまともにカリスの話を聞いている余裕はないのだ。
「ヒャハハハ! すみませんねぇ、つい興奮してしまいまして!」
「くっ!」
「ジョーカーは仲間を作る事ができるんですよ。まあワタシは最初に見つけた人間を狙えとインプットした訳なんですが」
ジョーカーはその力をダーツに変えて具現化できる。
そして、それを打ち込まれた人間は――
「どうなると思います?」
カリスは仮面越しに最高の笑みを浮かべていた。ジョーカーの最大の能力、それは一体?
「おい…おいっ………おいってッ!!」
椿は目の前で倒れた咲夜を抱えるとその瞳を見る。
虚ろなそれはいつもの咲夜からは想像できないほど弱々しかった。
「お、おいッ! 大丈夫かよ!?」
咲夜は息も荒く、汗を大量にかいていた。あきらかにおかしい、普通の状態ではない。
熱は無い様だが危険な状況だと言う事は嫌でもわかった。
「と、とにかく…っ! 保健室!」
治療器具を使おう、椿は咲夜を抱えると保健室に向うのだった。
咲夜は既に立って歩く力も無く、途中キンタロスや我夢と合流しなんとか咲夜を保健室まで連れて行くことができた。
中にいた葵やアキラも咲夜の姿を見て一気に青ざめる。
「やっぱり…咲夜ちゃん…ッ!」
葵は咲夜を直ぐにベッドに寝かせる。
やっぱり? その言葉が少し気になったが今はそれどころじゃない
「ありがとう椿君、皆。でもごめんなさい……! 少し服を脱がせたいから外にいてくれない?」
「え? あ…ああ、ハイ!」
椿達が外に出て行くのを確認すると、葵は咲夜の背中が見えるように服を脱がせる。
「!!」
「先輩ッ! やっぱり……ッッ」
アキラはふらふらと腰を抜かしてしまった。
眼には涙が見える、どうしてあの時自分は咲夜の意思を尊重してしまったのだろうと。
「咲夜ちゃん……」
「ハァ…ハァ……ッ! いい…んだアキラ、ワタシの我がままなん…だからッ」
咲夜は少し落ち着いたのか意識が戻り、アキラに微笑みかける。
だが、葵から見える咲夜の背中は――
人間のモノとは思えなかった
「今、何ていったの!?」
ギャレンの驚く様子にカリスはますます上機嫌になる。
彼にとってこの瞬間こそが至福の時であるかのように、彼はとにかく笑っていた
「だから、ジョーカーのダーツを受けた人間が次のジョーカーになっちゃうんですよ! ジョーカーウイルスに感染してねぇ! ヒャハハハハ!!」
サイッコウだとは思いませんか、ねぇそうですよね? 考えてみてください。
例えば貴方の好きな人が感染したとするでしょ? そしたら段々その人は人間じゃなくなっていくんですよ。
その人も自分が化け物になるなんて嫌だよね? だから泣き叫ぶ、必死に懇願する。化け物なんかになりたくないって!
だけど無理無理! 結局ソイツはジョーカーになる。じゃあ貴方はどうする?
必死に直す方法探してる間にタイムリミット! ヒャヒャ! 残念間に合わなかった。
もう理性すらなくして暴れまわるジョーカー。どうする? 貴方はどうするの?
最後の希望とか、あきらめない! とか何とか言っちゃって説得とかしてみます?
無理無理、駄目駄目ナンセンスッ! そんな事しても完全にジョーカーになってしまえば説得なんて絶対無駄!
じゃあ大人しく殺される? ハハハハ! 分かってるよ、嫌だよなぁ? 嫌ですよねそんなの!
だったらどうすればいいか? 簡単、明白だ。殺すんですよジョーカーを。愛する人だったヤツを!
ヒャハッハハッハハハハアアアハハハハッハ!
し、失礼……! くくッ! でも最高! もう完璧! 楽しいねぇ!
だってジョーカーがいればローチが生まれる。つまり、ほっとけば人類は滅亡よ。
いや、世界すら滅びちまうだろ? だから殺すしかねぇんだよ!
感染したヤツがジョーカーになる瞬間と、そいつを殺すヤツ。
その時の顔を見たくてしかたねぇんだよな、コッチは!
お前がぶっ殺したのは誰でもねぇ言わば0号。人間じゃねぇただの化けモンさ!
そんなのが死んだって何にもおもしろくねぇんだよ! でももうローチが生まれたって事は誰か感染したんだ。
ヒャハハハハ! 記念すべき一号目さ!
んでもってジョーカーが完全体になって、ダーツを誰かに当てれば次はソイツが候補者!
永遠に続く最高のショー! 半永久的に続く悪夢の連鎖!!
でも、なのに……なのに!
そいつを見つける前にお前らがジョーカーを殺したせいで!
ああああああ! クソクソクソッ! おかげで感染のスイッチが入っちまった!
楽しいショーを完璧に楽しめねぇじゃねぇええかぁあああ! 早くそいつを探しにいかねぇえと!
狂ったようにカリスはさらに空中へ舞い上がる。そしてそのままクウガ達の前から消えてしまった。
追いかけようとしたが、クラウンとローチに気をとられ結局逃がしてしまう。
3人はすぐにローチ達を倒すものの、もうカリスの姿は完全に見失っていた。
「くっ! 今はまだローチの数は少ないけど段々増えてくるんだろ?」
「でも、感染した人がいるのよね!? どうすればいいの!?」
それぞれは沈黙する。
道化師の口ぶりからは直す方法があるとは思えないが――
「殺そう」
「「!」」
クロハは決断する。
まだ完璧にはジョーカーになってはいないはずだ、だったら今の内に終わらせるしかない。
「感染した人は本当に可哀想だと思う。だけどこのままじゃローチは増える一方だし、なにより完全にジョーカーになってしまったら次のジョーカーが生まれる可能性もでてくるんだ」
「……できるの?」
「………」
ダイアナはクロハという人間を良く知っている。答えはノーだ、彼は優しすぎる。
口でなんと言おうが彼にできる筈はない。もちろん、それは自分も同じ。
「!」
その時、ユウスケと薫の携帯が鳴る。二人はそれぞれ頷くと電話を取った。
「はい。ああ、うん………え!?」
「嘘……!」
どうやらあまりいい話ではなさそうだ。クロハとダイアナは二人の様子からそう感じ取る。
事実、電話を切った二人の表情はかなり沈んでいた。薫はダイアナ達を見て、小さく呟いた。
「じ、実は…見つかったの。ジョーカーウイルスの感染者が……!」
「!」
そういう事か、二人は理解した。薫の表情から察するに、答えは一つ。
感染したのは知り合いと言う事だ
「そんな…事って……」
力なくへたり込む夏美や友里。そして呼吸が荒く、見ているだけで苦しくなる程の咲夜。
そう、ジョーカーウイルスに感染したのは咲夜なのだ。
「……ッ」
椿は皆から離れてずっと下を見ていた、咲夜は自分を守って感染したのだ。
もしあそこで自分がダーツを受けていたなら、そこに寝ていたのは自分だったのだろう。
「咲夜ちゃん……苦しい…? 大…丈夫?」
真由は水を咲夜に手渡す。咲夜は苦しそうではあったが、最初よりずっと落ちついていた。
笑顔でお礼を言うと咲夜はすこし水を口に入れる。
「皆、ここで話し合うのは咲夜ちゃんに負担をかけるわ。教室に行きましょう」
葵の言葉に皆は賛同すると、一同は教室へ向った。
一番気になるのは治療器具は使えないのかと言う事、ゼノンたち曰くほとんどの怪我等は治せるらしいのだが?
「はい、ゼノンくんが言っていました。ウイルスまでは無理だと。一応駄目もとで試してみたんですけど……やっぱり駄目でした」
「ど、どうにかならないんですかッ!?」
アキラは耐え切れず涙を流しながら、誰に問うわけでもなくその言葉を発する。
だが、誰一人分からなかった。その事を聞きつけたクロハやダイアナも駆けつける。
アンデッドの力を使えばどうにかなるのではないかと思ったが、ジョーカーの力はアンデッドに有効に作られている。
結局どのアンデッドの力を持ってしても、ジョーカーウイルスを取り除く事はできなかった。
「やっぱり僕にはできないよ。口ではなんとでも言えたけど……いざ目の前にしたらコレだ」
「……大丈夫。私も同じよ」
クロハは目をそらす。目の前で苦しんでいる咲夜。
どれだけの時間が掛かるかは分からないが、このままではジョーカーになってしまう。人間ではなくなるのだ。
「そんなの……っ!」
友里は唇を噛む。そんな目にあうのはあたし達だけで充分だと。
しかしそんな彼女の心情を世界が理解してくれる筈もない。苦しむ咲夜は現実なのだ。
「………」
そんな中、司は必死に打開策を考えていた。
もちろんこんな展開は原作にはない。だが思い出せ! 何か、何かあるはずだ!
記憶の中からありとあらゆる情報を呼び起こす。どんな些細なモノでもいい、とにかく今は何か手がかりを――!
「……ッ!」
待てよ、確かジョーカーは映画で一度封印されたはずだ。
封印――、そう! 封印だ。それならジョーカーを殺さないですむ!
いや、でもそれじゃ根本的解決にはなってない。咲夜を封印してしまうのは死とそれ程大差はないだろう。
なら待て、落ち着くんだ聖司。封印、封印……ジョーカー、アンデッド……契約ッ!!
「そうか! これなら……っ!」
「何か分かったんですか!? 司君!」
「可能性は低いがもしかしたらな。真志ッ!」
司は真志を呼びカードデッキを見せてもらう。
「お前は真司さんからカードを受け継いだんだよな!?」
「ああ、そうだけど――」
司は頷くと、真志のデッキからカードを取り出し確認していく。
そしてその中から二枚のカードを抜き出し、凝視した
「もしかすると…これなら……ッ!」
正直前例なんてない為に可能性は低いし、うまくいく保証も無い。
だがもう他に方法が思いつかない以上この方法に頼るしかないだろう、司は皆にその事を伝える。
「なるほど。だが、それには……」
「クロハ! ダイアナ! この世界に『―――』はあるか!?」
司の言葉を二人は聞いていた、しかし悔しそうに首を振る。
「ゴメン。持ってないよ、アレは契約時にキングから一枚だけもらえるんだ。
君の言うモノは僕達の世界ではあまり良く思われないモノだからね。あれは、強制封印の道具なんだ」
「でも! キングと契約すれば手に入るんだよな!?」
「ええ。じゃあ、つまり――」
「!!」
一同は一斉に椿のほうをみる。
「お、おいおい…まさか……!」
青ざめていく椿、司はこくりと頷いた。
「そうだ。咲夜を救えるのかは……お前にかかってる!」
「な、なんだよ…それ……ッ!」
椿は震える手を押さえながら地面へ崩れ落ちた。
へたり込む椿に襲い掛かる現実、結局自分はどうあってもあのキングと殺し合いをしなくてはならない。
そして勝たなくてはいけないのだ。もし司達が戦おうとしたならタイムスカラベを発動されてしまう。正式に、真正面から勝つしかない。
ただ背負うモノが増えただけ、プレッシャーに弱い椿にとってまさに地獄と言うべきモノだった。
「椿、悪いが時間はないぞ!」
「う、嘘だろ……そんな事ってねぇよ」
ふらふらと立ち上がり椿は教室を出て行く。皆、分かっている。椿自身が決断するしかない。
そしてそれは決断したとしてキングに勝たなければならない。
こうしている間にもジョーカーの影響でローチは増えていく、討伐に出ている美歩や亘達だけでは無理なのだ。
そして世界はローチに埋め尽くされ、滅びをむかえる。
「先輩……」
我夢はコインを弾く、出たのは表。
彼が何を思ったのかは分からないが我夢は椿を追いかける為に、自らも教室をでていくのだった。
「ちょっと待って我夢君!」
「?」
我夢が振り返ると、アキラの姿が見えた。目が赤いのは泣いていたからだろう。
アキラはまだ少し目をこすりながらも、我夢の所へやってくると儚げな笑みを浮かべた
「………」
だけど、我夢はそれが嫌だった。
「無理は、しなくていいですよ」
「え?」
我夢はアキラの事が好きだ。だがなによりも椿や咲夜、そしてアキラの事を親友として慕っている。
だからこそアキラには自分の気持ちを偽って欲しくない。
こんな状況で笑みを浮かべる事が彼女にとってどれだけキツイ事なのか、それは我夢にだってわかる。
「無理…しないでください………僕も……」
だけど我夢はうつむいてしまう、泣き顔を見られるのはやはり抵抗があるものだ。
どうしようもない不安と、最悪の未来を想像してしまい悲しくなる
「ッ!」
アキラもせき止めていた想いが涙となってあふれ出してしまう、二人は暫く互いに声を押し殺して泣いた。
考えてはいけないと思いつつ、咲夜が化け物になって誰かに殺される未来を見てしまう。苦しい、そして何も出来ない自分達が。
だが、しばらくしてアキラが口を開いた。そこから吐きだされるのは弱音、そして後悔の言葉。
それを聞いて、ふいに我夢はコインを小さく弾く。
彼にとって決断、そして覚悟を決めるある種の儀式。自分の思いをコインという他の物に託して――
「アキラさん」
コインの表裏はもはや彼にとっては些細なもの。
我夢は、普段なら恥ずかしくて直視できないアキラの目をまっすぐみて話しかける。
皮肉なモノなのかもしれない。我夢の心から『今は』アキラに対する恋慕の念が消えていた。
もちろん彼のアキラに対する想いは相当なモノだ。だが、彼はそれを心にしまいこむ。
そうでなければこの状況を変えることなどできないと理解したからだ
「どうしたんですか……?」
「僕達が変えるんです」
「え?」
我夢は歯を食いしばる、椿や咲夜にはもっと笑っていて欲しい。
それなのにこんな結末はあんまりだろッ! ふざけるなよっ! 道化師に対する怒りが込み上げてくる。
だが自分は弱い。司達のように戦う力もなければ、夏美のように行動する力もない。
違う。もうそろそろ甘えるのは止めないか? 我夢は自分に言い聞かせる。
「僕達が、この状況を変えるんです」
「!」
「だからその為に…協力してくれませんか?」
「……っ! もちろんです」
二人は頷く。同じ道場で仲良くなっただけの師弟関係、たかがその程度で何を馬鹿なと人は笑うだろう。
だが、他人にとってはそれだけの絆、しかし我夢達にとっては大切な人達なのだ。
ここで終わらせたりはしない。二人は決心する、椿と咲夜の関係を知っているからこそ彼らは負けられない戦いに挑むのだ。
『お前は逃げてばかりだな』
「………」
一方、椿は校庭に一人たたずんでいた。
頭の中に鳴り響くのは咲夜から言われた言葉、自分は逃げてばかり。
そうなのか? ああそうかもしれない、いやそうだろう。彼女は正しい、間違った事を言ってはいなかった。
いつも逃げていた、でもそれでよかった。今回も逃げてしまえば――
「クソゲーすぎんだろ――……!」
だが逃げられない。俺が勝たなきゃあの女は死ぬ?
世界は滅びる? ああ、くそっ! なんで主人公みたいな選択せまられてんだよ俺は!
脇役でよかった。なのになんでこんな大役回ってきてんだよ、おかしいだろ! もっと人選ちゃんとしろよ!!
理不尽な世界に行き場のない怒りを投げかける。
キングに勝て? ふざけんな無理、無理なんだよ。あんな化け物に勝てるわけない、どうせ殺されて終わりだ。
ちょっとケンカが強くなったくらいじゃ化け物には勝てないのと一緒さ
「クソ……ッッ!」
「椿先輩!」
「ッ!?」
我夢の声がして椿は振り返る。
そこにはアキラと我夢の二人が立っていた。
「な……なんだよ、どうし――」
「会ってください」
「え?」
「咲夜先輩に、会ってください」
「………」
椿はうつむく。
正直、今さらどんな顔をして会えばいいのか――
「椿先輩。私は先輩がうらやましかったです」
「え?」
「咲夜先輩と、椿先輩。とっても仲がよかったから……」
「ハッ、アキラ。お前何か勘違いしてるぜ……俺とアイツは――」
「違いますよ」
言葉を言い終わる前に、ハッキリと言われたその言葉。
「っ?」
「違うんです……」
アキラは今日、初めて咲夜との約束を破る。
ずっと守ってきたその約束、アキラは心の中で咲夜に何度も謝ったのだった。
「え?」
「だから……おかしいと思わなかったんですか? 咲夜先輩が椿先輩の話に合わせられる事!」
いつもケンカしていたから頭が回らなかったが、
そう言えばアイツもなんだかんだ言ってネットスラングとかアニメの話について来られたような――
「咲夜先輩っ、勉強してたんですよ!」
「え!?」
「椿先輩の話にあわせられるようにって……ネットで色々調べたり、いろんなアニメ見たり!」
「ま……マジ!?」
全然知らなかった……
その後も、そんな話をたくさん聞かされる。そのだいたいが咲夜が椿の為になにかをする話だった。
「でも、なんでそんな事…っ」
「咲夜先輩、一度だけ言ってました椿先輩には悪い事をしたって」
「!!」
その言葉で椿の目に何かが灯る。
「僕達には椿先輩と咲夜先輩に何があったかなんて分かりません。だけど、二人ともこのまま終わるのが最良だとは絶対に思えないんです。だから――」
咲夜先輩に会って、話をしてください。
「二人が仲良くしてくれる事だけが、私達のお願いです…」
「咲夜……ッ」
お前――
「………」
「やあ、どうしたんだい?」
「翼くん――」
葵は目の前でスヤスヤと寝ている咲夜を見守りながら、その声に答える。
額に浮かぶ汗をこまめにふき取ってあげるその姿は、母性に満ち溢れていた。
彼女の夢だった職業が保育士というのも頷ける。
「ちょっと……落ち込んじゃってね」
「そう……」
翼は葵の隣に腰掛けると、同じように咲夜を見詰める。
「もし…ウイルスに感染するのが僕なら良かったのに」
トワイライトならウイルスを殺す事が出来る。
しかしどんなに、何を言おうが感染したのは咲夜なのだ。
「わたし、気づいてたの。咲夜ちゃんが感染してるって、だけど……」
咲夜はそれを皆に相談する事を拒んだ。
咲夜は自分が助からないと思い作戦を立てたのだ、もちろんそんな作戦がうまくいく訳がない。
葵とアキラは猛反対したが、咲夜はどうしてもと言って聞かなかった。
それで葵は分からなくなってしまった。
咲夜を助ける為に相談するのが一番の筈なのに、涙を流しながら黙っていてくれと懇願する咲夜を見て咲夜の意思を尊重してしまった。
それは正しいことだったのか? 咲夜はこうして苦しんでいるというのに……
「成る程ね、うん…難しいね。咲夜ちゃんにとってはそれで良かったんだろうけど」
「分かるの?」
「まあね。咲夜ちゃん本人が止めたんだろ?」
葵はコクリと頷いて翼を見る。
驚いた、まだ話していないのにすっかり理解されてしまったようだ。
「あーあ。ちょっと見ない間に成長しちゃって……」
「まあ私は一応皆の保護者だからね」
「成る程……」
その時、二人は廊下に響く足音を聞いて静かに立ち上がる。
「でも、保護者って言っても彼らはもう立派に歩いているけどね」
悩んだり、迷ったり、そしてそれを乗り越えてこそ人は成長できるんだから。
「結構、大変よね……本当に」
「大丈夫だよ、葵さんだって十分皆を支えられてる、僕が保障するよ」
「そう? ありがとう。もっと皆を助けられるようになるから」
二人は静かに笑うと、保健室を出て行く。
「さあ、任せたよ――」
「がんばってね――」
椿君。
「お、おじゃま…しますよっと……」
椿は気まずそうに保健室の扉を開ける。
なんとなく分かっていたが、そこには寝ている咲夜以外は誰もいなかった。
きっと気を使って出て行ったのだろう、こっちとしてはなかなかどうして気まずいものなのだが。
「さ、咲夜…さん?」
「………」
「ね、寝てるんですね?」
椿はそっと咲夜の顔を見てみる。寝ている彼女をまじまじと見るのは何年ぶりだろうか?
前は落書きをするために良く見ていなかったから。正直、あれはスマンかったと椿は頭を下げる。
「へ、へへ……」
こんな状況ではあるが、懐かしさと言いようのない切なさが込み上げてきて――彼は、笑ってしまった。
「な、なんつーのかね? 俺とお前って……」
変な関係だよな。
寝ている咲夜に聞こえるわけないのだが、椿は構わず続けた。
「こうして見ると昔のお前を思い出しますよ。お兄さんは悲しいね、あんな純粋だったお前がこんなにひねくれるなんて」
だけど――
「悪かったよ。咲夜、悪いのは全部俺なんだ……」
椿は思い出す、今までの日々を。
長いぞ? そりゃそうだ、お前とは長い付き合いだからな。あれ? つか回想は死亡フラグだっけ? ま、いいや。
物心ついた時から、俺とお前は一緒だった。
どうやって知り合ったのか、いつから遊んでたのか? そんなの覚えてないくらい前の話なのかもしれない。
お前の家と俺の家にある写真で分かるよ。お前と俺、いくら赤ん坊とは言え全裸で並んでる姿はマジで恥ずかしかったわ。
それからは気がつけばずっと一緒だった。
毎日遊んでたし、旅行とか祭りとか家族ぐるみでアホみたいに一緒に入ったな。お前の家に何回泊まったか全然記憶にないね。
それが当たり前だと思っていた、でも周りから見ればそうじゃない。
当然保育園とか、小学校とか結構からかわれたりもしたっけな。お前の事皆の前でブスって言った事は許せよ。
悪かった、申し訳ない。だって恥ずかしかったんだ。……いや、ほんと、すいません
ああ、その頃からお前は親の道場に通う事になったんだっけ? 女でも容赦なく投げ飛ばすお前の親達には恐れ入ったぜ。
まあ結局お前はそれでいつも泣いて訳だがな。今思い返してみると最高の光景だったね、ただ昔の俺は――
「うぇぇぇん!」
「なんだよお前、また泣いてんのかよ! 最近泣いてばっかだな」
「だってぇ……」
「やっぱり厳しいのか? お前のお父さんとお母さん」
「……うん。この前もぬいぐるみ捨てられたの! あれ、大切にしてたのにぃ!」
「わわわ! 泣くな! 泣くな! コレやるから!」
「え…?」
「ほら! これ、お前欲しがってたろ? 電気ネズミのキーホルダー。俺進化系の方が好きなんだよ。だから……やる!」
「いいの!?」
「あ……ああ! これから悲しくなったら俺に言えよ! 椿様が慰めてやろう。約束だ!」
「ほ、本当に!? あ……ありがとう! 椿ちゃん!」
「あったりまえだろ! 男なら約束は死んでも守る!」
とまあこんな感じだったな、捏造なんてしてないからな。本当だぞ!
っていうか、あれだね。あん時の俺は最高にイケメンだったな、うん。
そうやって俺はお前を励ます事が日課になりつつあったんだっけ?
お前本当に毎日泣いてたからな。俺としても多分お前が泣くのは嫌だったんだろうね。
今は逆に泣いてもらいたいもんだが。しかし、どうにもあの時の俺はお前に甘かった。お前は本当に何をやっても駄目な幼女だったな!
「椿ちゃん! 待ってよぉ……」
「ははっ! 早く来いよ! 置いてくぜ!」
「きゃ! うぇぇぇんッ!」
「……ったくしょうがねぇな!」
「!!」
運動もだめ。何も無いところで転びやがって……
「椿ちゃん! これわかんない!」
「あー……これはだなー」
「すごい! わかるんだ、椿ちゃんは頭いいね!」
「ったりめぇよ! 俺様は無敵なんだぜ!」
「すごーい!」
そうだ、頭だって俺の方がずっとよかった。
お前なんだっけか? そう言えば一時期、卵を暖めてひよこにするとか言ってたな。
それでお前が暖めてたのがゆで玉子だもんな。ひよこになる訳ねぇだろ!
「椿ちゃんは凄いね…」
「え? どうしたんだよ」
「椿ちゃんは友達もいっぱいいるし、おもしろいし、なんでもできるし!」
「お前だってそのうち凄くなれるさ。今は柔道やってるんだっけ? その内俺を投げ飛ばせるくらいになってもらわないとな」
頑張れよ。俺はそう言ったんだっけか? ああそうだな、あの時は互いに純粋だったよ。
でも、ずっとそのままなんてありえないって、分かってたのに――
「………」
本当に悪かった、俺が馬鹿だったんだよ。
お前は本当に頑張ったよな、マジで熱心に勉強とか習い事とかいろいろやってさ。
小学校を卒業するくらいかな? お前本当に成長してたよ。中学は……そう、最初クラスが違ったんだよな。
「ねえ椿ちゃん、一緒に帰ろう?」
「……えっ?」
校門でそんな事言われたから戸惑ったぜ。
なんか同じクラスの奴がヒソヒソ喋ってるし、俺は何かまたそう言う噂になるのが嫌だったからお前を無視して歩き出しちまった。
「ねぇ! ちょっとどうしたの椿ちゃん!」
「――ッ!!」
ねぇ聞いた? 椿ちゃん。だってぇー……クスクス。
ちゃんってマジかよ、ダセー。
何アレー! カップル!?
「ッッ!」
分かってた、分かってたさこうなる事くらい。だけど、分かってたけどいざ言われるとキツイ。
だからつい声荒げちゃたんだよ。
「お前ッ! ちゃんとか止めろよ! 子供じゃねぇんだからよ!」
「え!? あ……ご、ごめん。椿…くん」
「呼び捨てでいい」
「う…うん。ごめんね椿……」
その後暫くしてだよ、俺がお前のファンクラブがあるって知ったのは。
まあたしかにお前は綺麗だったさ! だけどよ、いやいや酷いね。厨二病患った連中は――……!
『咲夜さんと気安く喋ってんじゃねぇよあの男。何様だっての』
『特別カッコよくもねぇくせに。アイツ咲夜ちゃんの何なんだ?』
『ウゼェ。しめちまうか?』
『おい、俺の咲夜様と会話してんじゃねーぞ!』
『アイツ調子のりすぎ。キモイんだよ……』
知らねぇよクソ共がッ!
そんなにあいつが好きならさっさと告白でもなんでもすればいいじゃねーか。
わざわざ聞こえる声で喋ってんじゃねーぞ! あああクソッ! ウゼェ!!
どこの誰かも知らないヤツに殴られた時もあった。
お前は咲夜さんには似合わない? お前こそ何様だよクソ野郎が!
……そう、あの時から何かおかしくなってきたんだな。もちろん俺だけだ、お前は悪くねぇ。
お前は部活も勉強も学校生活もちゃんとやってた、だから人気がでる。
ああ当然だ、それは分かってた。でも分かってたけど、分からなかったんだ。
「椿! 聞いて? あのね、ワタシ――」
「……なあ、お前さあ。そう言う女みたいな喋り方やめろよ」
「え? だってワタシ女――」
「……ッ! いや、だからもっと俺には男みたいな感じで接しろって言ってんの。なんかこう――」
見ていたアニメのキャラクターを例にすると、お前は渋々頷いてくれたっけか?
ありがとう、今考えて見ればよくあんなアホみたいな事に付き合ってくれたな。
でも分かってくれ、そうすることで少しでも嫉妬を減らそうとしたんだ。
「わ、わかった。つ、椿がそう言うならワタシもそうしよう」
「おう…それで…いい……」
だけど、それで俺への嫉妬が減ることは無かった。
むしろ増えてきたっけ、本当ふざけてるよ。そうやって徐々に俺達の関係はおかしくなってきた。
「椿、テストはどうだった? ワタシはなぁ――」
お前は十二番、おれは半分より下。
いや、下から数えた方が良かったかもな。
「なあ椿、聞いてくれ。今度クラス対抗リレーがあるんだが、それでワタシがアンカーなんだ!」
俺はクラスの足手まとい。
そう、お前のファンクラブの会員様に足手まといだって言われたよ。まあ否定できないんだけどな。
そうだ、お前はもう勉強もスポーツも学校生活全てにおいて俺を突き放していた。
正直虚しかったね俺は、自分で言っといてなんだけどお前が羨ましかった。
同時に、妬みもあった。
『なんだよアイツ、また今日も咲夜さんと一緒にいたらしいぜ』
『たいして成績もよくねぇくせに、咲夜さんに馬鹿が移ったらどうするんだよ』
『一緒にいるのってきっとアレだろ? 金とか払ってんじゃねぇの? アハハハ!』
『アイツ、咲夜さんに近づかないで欲しい』
『ほんとよね、咲夜お姉さまにはもっとお似合いの人がいるわよ!』
『ルックスも並程度、成績と運動神経はカス。咲夜さまと肩を並べる資格なんて無いわね』
『あーあ、ムカつく! 消えろ、消えろ! 嫌われろ! 学校くんなよ!』
『あははは、お前酷すぎ! あはははは!』
あああああああああ! うぜぇんだよカス共がッ!
成績も運動能力もルックスもテメェらより百倍マシだわ。さっさと消えろよアホ共がッ!
何で俺なんだよ、何で俺ばっかり言われなきゃならねぇんだよ! くそッ! ちくしょうっ! 知らない、俺は関係ない!!
そうだ、あの時からだ。お前に対する不快感ってのが浮かび上がってきたのは。
一緒にいても劣等感しか抱かなくなってきた。だから、あんな事言ったんだ。
「もうウゼェな! お前もう二度と話しかけてくんなよ! 絶交だ、縁を切るよお前とは!!」
「え……ッ!!」
お前はただ家庭科で作ったクッキーを持ってきてくれただけなのにな。
あの時のお前の顔は――
悪い。一生忘れないつもりだった。でもお前の泣き顔を俺は心にしまいこんでたんだよ
とにかくあの日俺はお前を一度拒絶した。お前は泣いて走っていたな、でも俺は追いかけなかった。
だって追いかけたら、また言われると思ったから。
そう、これでよかったんだ。もう俺はお前と話す事はない、他の奴らもそれを望んでる。
そうだ、これでいいんだよ。それでいいんだ――
それから結構の間はお前とまともに口聞かなかったっけか?
ああ、でもまあ嫉妬してる馬鹿共も少しは落ち着いてくれたから俺はそれでよかった。
それで満足しちまったんだよ。
でも、駄目だった。なんで笑わないんだよ、昔はお前もっと笑ってたろうが――
あの日から急に笑わなくなりやがって。もう結構な時間が経ってる、いい加減割り切れよ!
おかげでファンクラブの奴らに問い詰められたんだぞ
『咲夜さんになんかしたんだろ!? 許さないッ!』
『やっちまえ! 許すなコイツを!』
『お前みたいなやつがいるからッ!! もう二度と咲夜さんに近づくなッ!』
マジでふざけてる。いきなり皆の前で殴られて、蹴られてよぉ。
正直お前に対する恨みみたいなモンまで巻き上がっちまった、スマン。
あの時は俺もクズだったのかもしれない、いやお前の事なんて気にしてなかった屑野郎だ。
でも、まあそいつ等が皆の前で殴るなんて行動してくれたおかげで『アイツ』が気づいてくれた訳だがな。
ありゃマジで助かった。あん時のアイツは輝いてたね。俺が女なら絶対に惚れてた。
悪い、適当な事言った。きもちわりー……!
「お前らいい加減にしろよ! こいつが何したんだよ! ふざけやがって!」
俺を殴ってきたヤツがぶっ飛ぶ、俺を蹴ったヤツの腹に蹴りがめり込む。
俺を助けてくれたソイツ、誰だと思う? 真ちゃんよぉ! 条戸真志!
真志はファンクラブのアホ共を蹴散らしてくれたよ。まあ……真志の話は今はいいや。
それから真志と友達になって司とかと友達になって――正直お前の事は考えないようにしてた。
でも、中学の三年のときだな。
たまたまお前を見かけたとき、お前かばんに昔あげたキーホルダーまだつけてたんだっけな?
あれ見たら無性に申し訳なくなって……
もう俺に何か言ってくる馬鹿もいなくなったし、なんていうか、こう余裕みたいなのがあったんだよ。
だからお前に思い切って話しかけたんだっけ?
「よ、よよよよぉ……!」
「!!」
「さささ、最近……その、どどどどう?」
「え……あ、うん。いや、その…悪くない」
「へへへへー。そ、そっか。うん――」
正直ノープランでいった事を後悔したわ、自分から話しかけといて意味不明な事ばっか。
「あ、あの…悪かった!」
「え?」
「そのっ…お前に酷いこと言って……許してほしい! なんなら一発や二発ブッ飛ばしてくれてもいい! だから――ッ!」
まあ、あれだ。確かに俺はそう言った。でも本当にブッ飛ばすのはどうかな咲夜さん?
あんときは涙が出たね、痛すぎて。ははは……でもまあ――
「よし! 許してやる!」
お前が笑った事は嬉しかったぜ。
アレは思えばフラグみたいなモンだったのか? よく分からん。それから俺達の関係は少しはマシなモンになったな。
ただ、あの時から俺とお前は傷つけ合う事でしかふれ合えなくなった訳だが。
あと俺が冗談でお前の家の道場に入るっていったのを信じたのは計算外だった。
でもそれで我夢とアキラに会えた事はよしとしよう。俺は道場を三日で諦めたが、あいつ等に会うために毎日通ってたのは内緒だぞ!
「――とまあ、俺は身勝手な理由で拒絶しちまった訳だ。悪かったよ、謝る。どうか許してくれ」
「………別に、今さら……どうでも…いい」
「うぇっ!?」
起きてたのかよコイツ! うわっ! なんか恥ずかし!
「わ、悪かったな……つか、あのさ、お前ってツンデレなのか?」
「はぁ…? い……み…が、わからん」
「すまん、アキラからいろいろ聞いた。お前さぁ、心遣いはありがたいけど本気で傷ついたんだからな! 俺はガラスのハートだっての!」
「……どの程度…聞いた?」
咲夜は呼吸が荒い、おそらく相当苦しいのだろう。だが、あえて椿はいつもの様に接する。
咲夜とてそれで良かった。いや、それが良かったのかもしれない。
「あー…まあ、かなり…いろいろ。バレンタインとか…」
「あぁ…アキラは……後でお仕置きだな…」
「うわー、可哀想に」
俺は小学校後半からバレンタインのチョコなんざ貰った事はなかった。
いやあったとしてもかけらみたいなサイズのくそ安い義理の中の義理みたいなヤツくらいだ。
もちろんコイツからも貰った事なんてない。昔は貰ったらしいが忘れた。
だけどアキラが言うにはコイツは毎年俺にチョコを作ってくれてたらしい、
結局一度も渡すことは出来なかったらしいけど。ね? リア充っぽいでしょ、それだけ聞いてると。
「渡してくれればよかったのに。お前まさか、俺宛に毎年トラックでチョコが運ばれてくるとか言うアホみたいな冗談信じたとかじゃないよな?」
「当た…り前だ……ッ!」
「なら、俺って結構愛されてるのね! 感動しちゃう!」
「フン……言ってろ……お前が毎年惨敗で……哀れに思っていただ…け…だ」
「はいはい、ツンデレ乙」
「フフ……ウゥッ!!」
苦しそうに顔をしかめる咲夜。思わず椿の顔から笑みが消える
「っ! おい、大丈夫か!?」
「ゥゥウウウ……ッ!!」
咲夜は苦しそうにうめき声を上げる。
しばらくして落ち着きはしたが、体を蝕むジョーカーウイルスの確かな効果を感じる。
「……お前、どうしてあんな事したんだよ」
「………」
あの時とは、ゼノンが保健室にやってきた時だ。咲夜はジョーカーウイルスの事を皆より先に知った。
だがあえて黙っていたのだ、アキラと葵に無理を言って。
「咲夜ちゃん! 本気なの!?」
「そんな! どうして黙っているんですか?」
皆にジョーカーウイルスの事を黙っているいる様に頼んだのは咲夜だった。
その提案は危険すぎる、ゼノンとフルーラ以外の二人は信じられないといった表情で咲夜をみた。
「咲夜、君は今自分がどれだけ危険な状況下にいるのか…まだ理解していない様だね。ジョーカーウイルスはボク達にとっても予想外といっていい程の代物なんだよ?」
ゼノンの言葉が3人の不安を煽る。
だが――
「今のままでは椿は――」
正直、皆に話したとしてジョーカーウイルスが治る可能性はどれだけあるのだろうか?
そして咲夜は決断する。自らの命を賭けた勝負にでたのだ。
「今の椿には理不尽な怒りをぶつける相手が必要なんだ。アイツはヘタレだからな。だから、ワタシがその悪役になる。」
「え?」
「………」
そこから咲夜はもう何も言わなかった。
葵とアキラに無理をいって自分が感染している事を黙ってもらった。
どうして?
咲夜は瞬時に計画をたてていた。もう絶対椿はキングと戦う意思を持てないと悟る。
だけど椿がブレイドに変身しなければどうしようもない、ならばせめて自分が犠牲になる事で椿に分かってもらいたかった。
今自分がどれほどのモノを背負っているのかを。
咲夜は自己犠牲をとったのだ。
まず自分が椿に嫌われる事で椿への想いと、自分がジョーカーになった時に椿に変な気を使わせないようにする。
そして自分がジョーカーになる直前にキングに戦いを申し込む。これで少しキングにダメージを負わせ、その後椿に譲ればと。
ああ、今にして見ればなんと安易で考えなしの作戦だったのだろうか! ジョーカーウイルスの影響はここまで体に負担をかけるとは考えてなかった。
それにジョーカーになったとしてうまくいく確率なんて低いし、
なによりジョーカーになった自分をそう簡単に倒してくれる人がいるなんてどうしてあの時考えていなかったのだろうか?
ああ、もう情けない。咲夜の瞳から涙があふれて来る。
結局自分が生んだ結果なんてせいぜい目の前のコイツに嫌われた程度じゃないか。
ああ、情けない、情けない!
「待ってくれ!」
嫌われただけ、その言葉に椿は反応した。
「別に、嫌ってなんかない。つか、その話聞いてお前嫌うって俺そうとう鬼畜だぞ。流石の椿くんもそこまで落ちてねーよ」
「ははっ、それはどうも――……ウゥッッ!」
「……ッ、苦しいのか?」
「ははは…正直、かなり苦しいよ椿――」
「っ!!」
「冗談だよ…ははは。ウぅッ! お…いっ、椿……」
冗談ではない。椿もそれを理解する、きっともう直ぐ彼女は――
「な、何だ?」
「ワタシは……死…ぬの…かな?」
「ッ!」
「分かっ…てる…ワタシが自分で決めた事だ。なあ……椿――」
そして、咲夜は椿に向って謝る。
過去、自分のせいで椿にいろいろ迷惑をかけてしまった事。
それがどういう事なのかは分からない。でも、椿に迷惑をかけてしまった事は本当に申し訳なく感じていた。
「何でお前が謝るんだ……」
「いいじゃないか、普段の謝罪だ……こんな時くらいしか素直になれないなんてな……」
「お前は何も悪くねぇよ。悪いのは俺だ」
ずっと逃げてばっかでさ。
「なあ……一つだけ聞いていいか?」
「ッ?」
咲夜は飛びそうになる意識を気合で保つと、椿のほうをみた。
虚ろな瞳と目が合う、いつもの光はもうない。凛とした輝きはもう消えていた。
「お前……俺の事好きか?」
「ッ!? あ……あはは――……馬鹿か、お前」
咲夜は苦しいのか、それとも悲しいのか、どっちともつかない表情を浮かべて涙を流した。
「ああ、好きだったよ」
なんの迷いもないその言葉。だが待て、だったよ? 怪訝そうな表情に咲夜はまた笑う。
「今は……もう…勘弁してほしいな…私の初恋が汚れる……」
「どどどどう言う意味だよっ!」
咲夜は乾いた笑い声をあげると、再び苦しそうに呻く。
もう彼女が何を見ているかさえわからない。もしかしたら、何も見えていないのかもしれないが。
「ハァ…ハァッ…む、昔の…お前は……本当にカッコよかったよ…ワタシのヒーローだった……」
「あー今は、どうなのかなー?」
「……カスだ」
「うぉい!!」
「違うのか…?」
「………」
咲夜の声が段々小さくなっていく。これはもう――
椿は目を背けたかった。だけどできない、逃げてはいけないのだ!
「昔は…楽しかった……」
「とても高校生の発言とは思えねぇな」
「いつ……からだろうな? ワタシと…お前は――」
「ああ、俺とお前は傷つけ合う事でしか分かり合えなくなった」
「また――」
「………ッ」
「昔みたいに――」
普通に喋るだけで疲れる、咲夜は言葉を言い切る前に口を閉じてしまった。
だが、椿はるまるで咲夜が何を言おうとしていたのか分かったように、彼女にむかって頷いた。
「できるさ。時間は掛かるかもしれないけど、俺とお前はきっと昔みたいにまた遊んだり、笑ったり」
まあ、今の関係も悪いもんじゃないだろ? 椿は咲夜に微笑みかける。咲夜も弱々しくだったが――
ちゃんと微笑み返した、答えてくれたのだ。
「すまん……もう…限界かもしれない……ッッ」
皆に迷惑をかける。咲夜の目からどんどん涙があふれて来た。
自分がした事は一体なんだったんだ? 結局は全部、無意味じゃないか。
「本当に…申し訳な――」
その時だった、咲夜の涙を椿が拭う。
似合わない事をするじゃないか、そう言うのはイケメンがやってこそ絵になるもんだろ。
咲夜は小さな声でささやくように言う。
「俺だって、イケメンよぉ! リア充椿くんだからな。と言うか……」
言っただろ? お前が泣いてたら慰めてやるって
「ハハ……キモイなお前は。悪い意味で鳥肌が立ったよ」
「うるさいなお前は本当に! 男なら、約束は死んでも守るもんだろ?」
「ドヤ顔……か、失笑ものだ……」
だが、咲夜の目からはどんどん涙があふれて来る。
呼吸が落ち着いてきた、これは決してよくなった訳じゃない。
なぜなら、彼女の首から下の皮膚が明らかに人間のモノではなくなっていたからだ。
このまま自分は咲夜を見捨てるのか? ああ、そうだな。そうに違いない
いつも自分はそうだった。
解決できねぇ問題が増えてきて、山積みなっていったら抱えきれず押し負けて、ビビッて逃げてきた。
何もしない、できない。動こうともしないッ! それで適当にいい訳つくって自分を騙してハイ、終わり。
「………」
だけど、コイツは必死に毎日を生きてきた。いつもそう、道場の練習も勉強も必死に頑張って。
なのに、コイツはあと少しでジョーカーになる。俺より苦労して俺より頑張って、俺より凄くてもだ。
化け物になる。
俺はカウントダウンにビビッてタイムアウト。
それって意味あるか? 俺の人生って意味あんのか? そんな逃げてばかりでよぉ。
ねぇよなぁッ!!
「椿……最期に一つ、お願い…きいてくれないか……?」
彼女は言う。最期、おそらく彼女は死を覚悟しているのだろう。
当然だ、化け物になれば殺してもらうほうがいい。死んだほうが世界のためになるのだ
「何だよ?」
「ファーストキス……」
「は!?」
「まだ…なんだ……お前、あるか?」
「ね、ねぇよ!」
「だろうな」
「ちょ、おまっ、オイっ!! へー以外ですね、咲夜様ほどの美少女が! ケッ!」
「だって、好きな…人とっ、したかったからぁ……な…」
咲夜の声が弱々しくなる。
どんなに強がっていても化け物になる恐怖が彼女を襲う、それは並みの恐怖ではない。
彼女は怯えていたのだ。
「……で、咲夜様は俺にどうしろってんだよ」
「つくづく…っ、女心が分からんな、貴様は……ねえ? 椿…ちゃん?」
昔と同じ呼び方、椿はやれやれと苦笑する。
「そんなに昔の俺はイケメンでしたか?」
「あはは……はは…冗談だよ、椿」
椿は軽くため息をついて、自らの顔を咲夜の顔に近づけたのだった。
『ほう、よりにもよって貴様か』
その場所は多くの人間が戦い、命を散らしたであろう場所。円形闘技場コロッセウム。
今日もまた、ブレイドの力を求めた愚か者が一人やってきた。
キング、コーカサスビートルアンデッドは向こうから歩いてきた少年を睨みつける。
「………」
『成る程……』
弱者ならばその眼光に貫かれただけで背を向けて逃げ出す筈。
だが逆に睨み返してきた少年に、キングは賞賛の念を込め立ち上がる。
暖かくも冷たくも無い風が少年の髪を揺らしていた。
『何があったかは知らんが、あの時よりは少しだけマシになったと言う訳か』
「テメェ、何偉そうな口聞いてんだ? 俺はお前らのマスターになる男だぜ?」
『驚いたな、まさかテストを受けに来たとは』
キングが合図をすると、少年の隣にカテゴリーAビートルアンデッドが現れる。
エースである彼は少年に向かって一礼を行った。
『本当によろしいのですか? テストを受けるという事は死を覚悟していただく事になります。キングに敗北をすれば、あなたは死ぬのですよ?』
止めるなら今、とビートルアンデッドは少年に警告をする。
だが少年はそれを拒み、再びキングを睨みつけた。
両者が放つ剣のごとし視線は、この闘技場を包み込み切り刻む!
『成る程、意思は固いか。いいだろう、エース。力を貸してやれ』
ビートルアンデッドは頷くと少年に跪く、そしてブレイバックルを少年に渡した。
少年はブレイバックルを見つめると、にやりと笑う。震える足は……気のせいだろうか?
『貴方の勝利を心から願っております』
その言葉を発すると同時に、ビートルアンデッドはAのカードに変わる。
そしてそのままバックルへと装填していった、少年は何も言わずにそのバックルを腰へと持っていく。
そしてゆっくりと変身のポーズをとる、それはもう逃げないという何よりの証拠。
『人間、今まで私の元にはお前の様な人間が多くやってきた。絶大な力を望むもの、愛する者を守る者、それは様々だ。貴様は……何の為に私に挑むのか?』
少年はキングの目を見てこう言った。視線と視線の剣が激しくぶつかり合う!
「見返したい女がいる。あいつをぎゃふんと言わせるには、お前らの力が必要なんだよ。悪いけど、協力してもらうぜ」
『フッ! 成る程。理由としては十分だ』
キングは剣を構えて少年の前に立つ。
理由はただのオマケでしかない、今目の前にたっている少年が自分に勝てば忠誠を誓う。
ただそれだけの事なのだから。
「……変身」『ターン・アップ』
エレメントが少年の前に展開される。
少年はゆっくりと深呼吸をついてソレをみた。あれをくぐれば――
『これが最後の警告だ。ソレを通り抜けた瞬間、貴様はもう逃げられない』
「上等だ。もともと逃げるつもりもねぇ」
ああ、そうだ。もう逃げない。
今までずっと逃げてばかりの人生だった――
自分からも
アイツからも
全てに目を背け、互いに傷つかない最良の選択だといい訳をして――結果、互いに傷ついて。
だから、もう止める。止めた、もう逃げるのは止めることにするわ。
『………』
一歩、エレメントに向って歩き出す。
それは命を賭けた戦いに参加するという何よりの意思表示。
『命を散らす気か? それとも、私に勝てると?』
「さあ? どうだろうな……」
だけど、と少年は足を速める。足の震えは消えていた。
震えなんて邪魔なだけだ引っ込んでろッ!!
「だけど俺はお前に勝つ。ああそうさ、できる筈だぜ?」
尤も――
「俺に仮面ライダーとしての資格があるのなら、だけどな」
守輪椿は一気に走り出す。そして――エレメントを潜り抜けた!
その姿が、ブレイドに変わる!
「キング! 覚悟しろよぉぉぉオオオオオオオオオオオッッ!!」
『来いッ! その力で私を屈服させてみろォオオオオオッッ!!』
二人の剣が、激しい音と光を発しながらぶつかり合ったのだった。
ブレイドの歌って言うか、同時期に出た歌で熱風ライダーってあるんですけど、それが滅茶苦茶好きなんですよ。
何かね、かなり泣きそうになるw
結局歌の歌詞ってどうとでも解釈できるけど、あの歌は一番が昔好きなヒーローがいて、今は現実がうまく行ってない大人視点。二番がテレビの中のヒーロー視点に思えてならない。もしくはそれを含めての二番もストレス溜まってる自分とかね。
まあもし聞く機会があったら、ちょっとそれを踏まえて聞いてみてください。
やっぱ分かる部分はあるのよねw
まあもちろん何もかもうまく行ってない訳じゃないし、むしろ楽しい事もいっぱいあるけど、子供のときは大人ってのは楽しい事ばっかりだと思ってたからね。
はい、ちょっと長くなってしまいましたが以上でございます。
次はどうかな? ちょっとこの日に更新ってのは分からないんで、なるべく近いうちに。
ではでは。