翌日、空は深く濁っていた。
曇天、雨は時間を重ねる毎に勢いを増していく気がする。
こういう日はあまり外に出たくない気分になる、だが我がままは言っていられない。
早く真由を学校へ届けないと、それだけが心の中で燻っていた。
「じゃあ、行くぞ」
「「はい!」」
風島の言葉に鏡治達はうなずく。
真由は鏡治に抱えられており、不安と期待を混じらせた表情を浮べていた。
学校に帰れる。兄に、皆に会えるかもしれない。
「「「変身!」」」
三人は変身してキャストオフ、クロックアップを発動させる。
そして一気に走り出した。雨粒は球体のように見え、真由は今まで見た事のない世界を体感する。
永遠に見える美しい世界、しかし一瞬で儚い世界だ。
「!」
少し走って、本格的に街に入ろうとした時だった。
前に一人のインセクトがたたずんでいる。あれはパンチホッパー、洗脳されたインセクトだ。
「クッ! ゼクトルーパーもいる可能性が高いな!」
「どうするんだぁい? 鏡冶!」
三人はすこし減速して作戦を立てる。
向こうはこちらに気がついている? いない? 一瞬の判断ミスが命取りになる。
それを判断してか、鏡治はすぐに決断をする。
「風島さん! 真由ちゃんをお願いします!」
「!」
ドレイクは一瞬考えた後に頷く、そして真由をガタックからあずかった。
鏡治を囮として置いていく。抵抗はあったが、迷っていられるほどの時間は無い。その作戦を受け入れてサソードとドレイクは決断する。
真由はガタックに向かって手を伸ばすが、すぐにガタックの姿は小さくなって見えなくなってしまった。
「………」
「………」
対峙し合うガタックとパンチホッパー。
神也と風島からの情報によるとパンチホッパーに選ばれたのは
自分とは違ってリアルに夢を追いかけていた俊英、その姿勢に尊敬を抱かざるをえない。
だからこそ鏡冶は、その夢を諦めてほしくはなかった。そして何より思い出してほしかった。
ガタックはカリバーをその場で投げ捨てると、拳を構える!
『Clock Up』
パンチホッパーもまたそれを理解したのか、構えをとった。
開戦だと言う事、ホッパーは妨害電波を流してはいないらしい。
であるなら多少乱暴だが、実力行使しかあるまい。
「行くぜ俊英ぃいいいいいいいい! 俺の拳を超えてみやがれぇえええッッ!!」
雨粒を切り裂き、ガタックはその拳をパンチホッパーに叩き込む!
「ッ!」
だがパンチホッパーは、それを簡単に受け止めると反撃の一発をガタックへと叩き込んだ!
重い、自分と体格の変わらないパンチホッパー。なのに何て重い拳なんだ――!
まるで巨木にぶつかった様だとガタックは呻く。ゆれる視界、ふらつく世界にさらに数発叩き込まれる。
倒れそうになる体を叱咤しガタックは踏み込んだ。突き出された拳を体をひねるようにして回避すると、お返しにそのままストレートをパンチホッパーにぶち当てる。
「………」
こちらもまた倒れそうにこそなるが、踏みとどまりすぐに反撃をしかけてくる。
両者の拳は互いにぶつかり合い、激しい衝撃を生み出す!
「ヘッ! すげぇパンチだ……き、効いたぜぇ!」
「………」
「グッ!!」
アッパーがガタックの顎を揺らす。
続いて右フック、左のジャブで連打していくパンチホッパー。
ガタックの上半身は激しいダンスを踊るかの様に舞っていた。
「うぉおおおおおおおおお!!」
ガタックが苦し紛れにだしたパンチを体を思い切り反らし回避すると、そのまま渾身の一撃を叩き込んだ!
「うっ…ガフッ!!」
『『Clock Over』』
ついに倒れるガタック。
パンチホッパーは止めを刺そうと必殺技を発動する。
機械的な動きで機械的に拳を打ち込む様は、やはり機械と言う言葉しか出てこない――。
「………」『Rider Punch』
「ああ、すげーパンチだ。やっぱ努力してる人の拳はでかいな……!」
ガタックは素早く立ち上がると、また大きく振りかぶり殴りかかろうとする。
だがライダーパンチの前では無力と言ってもいい。ガタックは押し合いすらできずに吹き飛ぶと、そのまま鏡冶へと変身が解除された。
「ガハッ! オエェェ……ッ!!」
『おい! 大丈夫か!?』
「ああ…ッ! 問題ねぇよッ!!」
鏡冶はガタックゼクターに合図を送ると、そのまま尚、拳を構えた。
驚くゼクター。当然だ、生身で勝てるわけがない。死ぬようなものなんだから。
だが鏡冶はあくまでも笑っていたのだ。それが余計不思議で仕方がない。
まさかおかしくなってしまったのか、一瞬それを危惧するが、どうやらそういう事でも無いらしい。
「ボクサーの拳ってのは凶器なんだろ?」
『?』
挑発的な笑みを浮かべる鏡冶。
もちろんパンチホッパーはそんな事を気にする素振りすら見せずにコチラに向かってくる。
だが、数歩歩いたときだった――
「………」
パンチホッパーの動きが止まる。
鏡冶はそれを見計らったかのようにもう一度笑うと、大声を上げて言い放つ。
「ああそうさ! ボクサーには誇りがある。振るうのは凶器じゃない、魂だ! それが許されるのは試合、そうだろ? 俊英ッッ!!」
「………」
パンチホッパーはなんの前触れも無く、唐突に変身を解く。
まさにノーリアクション。動揺の素振りも、何も見せずもう一度拳を構える。
『なッ!?』
『これは……』
弾かれたホッパーゼクターは体勢を立て直すと、俊英を見る。
別に妨害電波をながしていた訳ではない。現に今も洗脳は続いており、命令である鏡冶を殺すと言う事を純粋に遂行しようとしている。
にもかかわらず俊英は変身を解除した、何故だ?
『試合は対等に行うものだからな』
『なに……?』
ガタックゼクターは素早くそれを理解した。
俊英は生身である鏡冶に合わせる為に、自らも変身を解いたという事か。
これは戦い、ケンカじゃない。ケンカじゃ拳は使えないからだ。彼にとってはこれは試合、向こうが生身ならフェアプレイには変身を解除する必要がある。
『完全に洗脳されているというのに……!』
『これが人間の底力なのかもしれんぞ』
ホッパーゼクターはガタックゼクターの言葉に沈黙する。
過去に人間に協力した時は確かにこのような人間が多かった、限界と言う物を知らぬ不思議な存在。
そんな人間に期待を覚えてしまっていた。だがそれは過去の話、今は皆救いようのない馬鹿ばかりと思っていたが…
『俺達は……焦ってしまったのかもしれない』
『………』
目の前では生身のまま二人が殴りあっている。
それを見て、ホッパーゼクターは何を思うのだろうか?
「ウラァアアアアアアアアアっっ!」
「………」
鏡冶はよろける体を起こし俊英を殴りつける。
大きく仰け反る俊英にもう一発拳を、魂を打ち込んだ。
「ッ!」
「ゴフッ!! づっアアアアアアアア!!」
俊英も負けていない、ステップと激しい連打で鏡冶を押していく。
舞い散る血が雨に溶けて消えていった、雨が二人の体を冷やしていく。
だが反対に彼らの心は一撃を受ける度、一撃を与えるたびに熱く燃えていく。
「お前の力はそんなもんかよぉおおおッッ!! ウラアアアアアアッッ!」
「………ッ」
技術の差を気合でごまかすために彼は必死で叫ぶ。
そうしていると鏡冶の右フックがクリーンヒットした。打ち込むごとに俊英の瞳の奥が光るのは気のせいだろうか?
いや、そんな余計な事を考えるのは無粋だろう。ただ、ただ、切に打ち込むだけ!
拳を――ッ!
そして魂を――ッッ!
叩きつける!!
その様子を二体のゼクターはただひたすらに見つめていた
『……焦った』
『ああ、今この世界には堕落した人間しかいないと決め付けていた。だが愚かなのは、俺達も同じじゃなかったのか?』
『ゼクターは人間の道具、それを忘れ感情的になってしまった。僕達が愚かか――』
『いや、そうじゃない。創英も、俺達も見失っていたのさ。人間という存在を』
『……人間か、不思議な生き物だ』
「うぉぉォオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「………」
鏡冶の拳がしっかりと俊英をとらえた。
決める! 鏡冶は大きく踏み込んで持てる力の全てを拳へ込める!!
「――ぉ……」
『『!』』
自分から声なんて出さない筈なのに――
「……ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
「うらぁあああああああああああああああああッッ!」
クロスカウンター、鏡冶と俊英は魂の十字架を掲げてぶつかり合った!
「「………」」
互いの拳を頬に受け、沈黙する二人。
そしてシンクロするように同時に地面へ倒れる!
『おい! 鏡冶、大丈夫か!?』
『………』
ガタックゼクターは鏡冶の周りを飛び回る。
頬を突いたり揺すったりして起こそうと奮闘するガタックゼクター。
それを見てホッパーゼクターも俊英の元へ移動する、何故か無性にそうしたくなったのだった。
「――ッ」
しばらくして、鏡冶が眼を開けて起き上がる。
まだ顔が痛むのか、表情は硬いが意外にもその口は笑っていた。
簡単に言うと満足そうだったのだ。
「…ッ、効いたぜ…! ああ、そうだ。あのパンチは心が篭ってた!」
「……それは、どうも」
『!』
寝転んだまま俊英は呟く、洗脳が解除されていた事にホッパーゼクターは動揺していた。
妨害電波を流していれば頷けるが、ただ殴りあっただけで洗脳が解除されるなどおかしな話ではないのか!?
「俺の夢と誇りはこんなちゃちな洗脳じゃくずれねぇ」
『夢と誇り?』
俊英はホッパーゼクターを掴むと、そのままパンチホッパーに変身する。
そして鏡治を見ると一言だけ礼を言う。頷く鏡治、言葉は少ないが互いにそれぞれ決着がついた様だ。
「……洗脳装置、赤い靴の完成は近い。気をつけろ!」『Rider Jump』
そう言い残してパンチホッパーは跳んでいく、鏡冶はため息をつくと自らも立ち上がった。
足がふらつく、だが早く神也達に追いつかなくては。鏡冶は気合を入れるとよろよろと歩き出そうとし――
「見つけたぞ」
「え?」
衝撃、鏡冶の体が宙に舞う。
景色が二転、三転し鏡冶は地面へと叩きつけられた。
思わず苦痛の声を漏らす彼を一人の男が見下す。
「新意鏡冶だな? 今、アイツが言ったことは本当か?」
「ぐっ? っぅ…ぁッ!?」
雨が激しさを増していく。
鏡冶は水でぼやける視界を凝らせ、なんとかその男の顔を確認した。鈍る思考、冷えていく体。
「あ、あなたは!」
しかし鏡冶の表情が明るいものになる。
そう、彼を見ていたのは――
天王路真由の兄、双護だった。
「あの……前は本当にすいませんでしたッ! 俺、貴方や真由ちゃんに酷い事しちゃって!!」
鏡冶はすぐに体勢を立て直し双護に頭を下げる。
無言でそれを見ている双護、何か不気味な雰囲気を感じた。どうでもいい、そんな瞳。
「真由は、今どこに?」
「あっ! はい! 学校に送り届けてあげる途中だったんですよ! お兄さんの話は真由ちゃんから聞いています!」
双護は尚、何も言わない。
代わりに先ほどの質問を投げかけた、赤い靴がもうすぐ完成すると言うのは本当なのかと。
鏡冶は首を縦に振る。大規模洗脳がもうすぐ行われてしまう、真由を送ったらそちらを止めようと決意していたのだ。
「リコンファームもある事だし、希望はありますね!」
「………」
「創英は洗脳した人を兵士にする事すら考えてるでしょう! ああさせね………ぇ?」
そこで鏡冶は気づく、よく見れば双護が傷だらけじゃないか!
鏡冶は慌てて双護に駆け寄る。
「どどどどうしたんです? 大丈夫ですか!?」
「………」
双護はその言葉には答えない、淡々と自分の思いだけを繋いでいくだけだ。
間に合わなかったとか、もう少し時間があればとか、俺はどうすればいいだとか鏡冶には分からない質問を淡々と口にしていく。
もしかしたら鏡冶にすら言っていない、自問なのかもしれない。鏡冶はその異質な雰囲気に戸惑ってしまう。
その後もしばらく双護はその自問を繰り返した後、鏡冶に向けて呟いた。
「リコンファームは使わせない」
「え?」
雨音がその言葉をかき消した。
だからうまく聞えなかったが、リコンファームを使わせない? あっけにとられる鏡冶、双護は構わず続ける。
「俺達がこの世界をクリアする為には創英の野望を邪魔する必要がある」
あの案内役らしい二人がわざわざ自分の前に現れてくれたのは助かった、双護は思う。
怪しい二人だが疑う意味もない、ゼノンとフルーラは双護に密かにコンタクトをとっていたのだった。
クリア条件を満たさない限り世界を移動する事はないと。
「あ…えとっ、世界がどうのこうのってヤツ? な、成る程! 俺も協力しますッ!」
「創英のところに乗り込んでみたが赤い靴を破壊する事はできなかった。街の人間にもカプセルを降りるように言ったが、誰も聞く耳を持たない」
「乗り込んだって!? だからそんな傷だらけで……! そ、創英さんはもう赤い靴を完成させてるんでしょうか?」
「ああ、だから真由を起動スイッチにしてリコンファームを発動するしかないのかもしれない」
「まあそれが一番いい方法ですからね! うっし燃えてき――」
双護は首を振る。
「リコンファームは使わせない。絶対にだ!」
「え? ど、どうしてっ!?」
「リコンファームを使えば真由の失われた記憶が復元されてしまう。それだけは避けなければならない!」
「記憶?」
双護は唇を噛む、凄い強い力なのか血がにじみ出て地面へと落ちた。
水たまりにとける鮮血。鏡冶は軽い恐怖すら覚える、それほどまでに双護の雰囲気は凄いものだった。
この感じは一体?
「お前が今まで真由の面倒を見てくれたのか…?」
「え!? あ…まあ」
「すまなかった。妹が迷惑を掛けて」
「いやぁ全然そんな事は」
「だが――」
そこで双護は言葉を止める。
驚きで眼を見開く彼に鏡冶は気づくと、その視線を追う。
そしてその先にいたのは――
「おにい…ちゃん?」
「なっ!! ま、真由ちゃん!?」
真由だった。何故、彼女がここに!?
「あ…っと、えと…」
後ろにはサソードがいるではないか、彼は気まずそうに口を開いた。
どうやら真由は自分の事が心配で戻ってきてくれたのだ。
だが、結果としてそれが兄妹の再開となった訳だが、どうにも空気が悪い。
普通感動の再開なら抱き合って喜ぶもんだが、今真由と双護の間には何か違和感のようなモノがあった。真由はそれを消すために兄に話しかける。
「お、お兄ちゃん…?」
「……真由、どうした?」
「どうして……ボクはリンゴファームを使えないの?」
「ま、真由ちゃん! リコンファームだぜ!」
普段なら笑顔になる双護も今は無表情だった。
いや、むしろ真由を睨んでいたのかもしれない。
「真由、お前は何も心配しなくていい。この世界はきっと大丈夫だから」
「で、でも…」
「でもじゃない、大丈夫。大丈夫だからお前はもう学校から出るな。リコンファームには近づくんじゃないぞ」
「ど…どうして…? ボクだって…皆の役に…立ち、たい…よぉ」
真由は引き下がらなかった。
ずっと心の中では役に立ちたいと思っていたのかもしれない。
双護の言う事ならなんでも聞いていた真由、しかし今日初めて彼女は双護に抵抗した。
それは喜ぶべき事なんだろうか?
「ッッッ!!!」
そしてそれが双護にとって、どんな感情を与えたのだろうか?
はっきりと彼は真由を、愛する妹を睨みつけた。
「ま、まあまあお兄さん! ここは抑えよう、抑えましょ! ああ、そうだ。抑えるのが一番だぜ! ははは……!」
鏡冶は二人の間に割ってはいる、なんか険悪な雰囲気になってないか?
雨は相変わらず彼らを濡らしていく。それでも真由と双護はじっと見詰め合って――
いや睨み合っていた。
「ボク…嫌だ!」
「何?」
「ボク…ッ! リコンファーム…使う! 思い出…すから…!」
「!!」
双護の表情からついに笑みが消えた。
うわべだけでも浮かべていたであろうソレを殺して、双護は真由を睨む。
「真由ッッ!! お前…!」
「使うもん…ッ!」
「駄目だッ! 絶対に許さないぞ!!」
「知らないもんッ!!」
にらみ合う両者、ついに双護は舌打ちをして歩き出した。
止めにはいる鏡冶を無視して真由に近づいていく。
「どうしても……俺の言う事を聞いてくれないんだな?」
「聞かないもん! 絶対…ッ! 絶対に聞かないもん!」
双護は眼を閉じる。
そしてもう一度開けたとき、その瞳は驚くほどに冷たいモノだった。
鏡冶は猛烈に嫌な予感を感じる、何か危険な感じがする。それを危惧してもう一度双護を止めに入る。
「悪いな」
「え?」
何故あやまるんだ?
そう感じた時にはすでに宙へ吹き飛ばされているところだった。
さっきもそうだ、自分は何に吹き飛ばされたのか? 目を凝らす、すると見えた。
赤い何かが。
「鏡冶君ッ!!」
「真由……」
地面へ叩きつけられる鏡治。真由が叫ぶ、しかし相変わらず双護の目は曇っていた。
真由を直視する事無く、双護はうつむくだけ。
「何て事…するの!? お兄ちゃん!」
「ッ!! 神也! 真由ちゃんを連れて逃げろ!!」
「えぇ!?」
鏡冶は見た。赤いソレ、カブトゼクターを!
何かおかしい、このままでは危険だ。サソードは少し戸惑ったが、自らもそれを悟り真由を抱えて走り出した。
今の双護は『普通』じゃない!
「おい、邪魔をするな」
双護は飛翔してきたカブトゼクターを掴み取ると、
いつの間にか腰に装備させていたベルトへとゼクターを装填する。
ゼクターを手に入れていた? そんな事を考える余裕すらない。変身する理由がないのに、なぜ彼は今変身した?
それは理由があるから? インセクトは兵器だ、兵器は誰かを傷つける。ならば双護は誰かを傷つける為に変身したのか!?
「変身…!」『HENSHIN』
「ゲホッ、ゲホッ!! 変身ッ!」『HENSHIN』
ダークカブトは素早くキャストオフで装甲を吹き飛ばすと、クロックアップを発動させる。
だが、それはガタックも同じ。ガタックはダークカブトを落ち着かせようと前に出た。
しかし彼はそんなガタックを躊躇なく殴り飛ばすと、彼の武器であるクナイガン。
つまり銃を真由達へと向けたのだった。
「…ッ!! おい! ちょっと待ってくれよ! 何やってんだよッ!」
「あのサソリの足を撃つ、邪魔をすれば貴様も同じ目にあうぞ」
「なっ!!」
ガタックもついに限界を迎える。
自分もあんな事をしておいてどうかとは思ったが、我慢ならなかった。
親友が撃たれる? それに――ガタックはダークカブトの足を掴んで邪魔をする!
「オイッ! 分かってんのか!? 真由ちゃんに当たるかもしれないんだぞ!!」
「………」
「それに神也が何をしたって言うんだよッ!! ああ、そうさ。アイツは撃たれるような事はしてないッ! 誤解があるなら言ってくれ!」
ガタックはダークカブトが銃を降ろしてくれると思っていた。
いや半ば確信していたのかもしれない、確かにサソードになら威嚇を込めた意味で一発くらいは……
だけど、真由は生身なのだ。防御力が上がっているとはきいた、しかし生身でクナイガンを受ければ痛いではすまないかもしれない
妹に銃弾が当たるかもしれないのだ、そんな危険な事をやる訳がない。
そう、確信していたのに……
「真由に当たるかもしれない?」
確信していたのに――
「それならそれで構わない……ッ!」
「ッ!!」
何でそんな事言うんだよ――
「どうッ…して……」
真由の悲しそうな顔が脳裏に現れる。
『ううん。いいの、ボクも分かってるんだ。だ…から……きっと、お兄ちゃんはボクを…恨んでるんじゃないかって……怖いの…』
どうして――ッッ!!
「何でだよッッ!! 真由ちゃんは大切な家族だろうがぁぁあッ!」
ガタックはダークカブトの銃を弾こうと掴みかかる。
だが見事なカウンターを決められてしまい、射撃されてしまう。
火花が装甲から散り、ダークカブトはそのまま蹴りをガタックへ浴びせる。
よろける彼をもう一度射撃すると、ダークカブトはサソードを追うために走り出した。
「…ッ、お前」
「グッ!!」
だが、鏡冶は離さない。
足を掴んでダークカブトを妨害する!
目障りと言わんばかりに蹴りを浴びせられるが、それでも離さない!
どうしても納得できなかったのだ。鏡冶は真由からいろんな双護の話しを聞いた、それを話している時の彼女はとても楽しそうだったのを覚えている。
だが、今双護の言葉を真由が聞けば…彼女はどう思うだろう?
考えたくもない、だから無性に腹がたった。別に兄妹喧嘩くらい何とも思わない。だけど、これは喧嘩じゃない!
どうしてこんな事を? 家族じゃないのかよ!!
「当たったらそれはそれで構わないッ!? ふざけんなよ、なんだよそれ! ああそうだ、おかしいだろッ!! 真由ちゃんのことが大切なんだろ!? だったら――」
「ああ、大切さ」
ぐっと、拳をつかまれた。
ガタックはそれを弾こうとするができない、できなかった。
「ッ…!」
「大切だよ、真由は……俺にとってな。俺の命より大切な家族だ」
「だったら…なんで――ッ!」
ダークカブトは仮面越しにガタックを睨みつける。
それはまさに剣、仮面越しだというのになんて鋭いんだ。ガタックは思わずひるんでしまう。
その仮面の裏にある意志を感じて怯えてしまう。
「俺は、真由を愛している。家族としてな、だが……」
「!」
それは小声、おそらくガタックに聞かせる為ではなく。
自分に思い知らせる為だろう。
「真由香を愛した事は……一度もないッ!!」
ダークカブトはガタックを地面へと叩きつける、そして思い切り踏みつけて動きを封じた。
苦痛の声を放つガタックを無視してダークカブトは銃をガタックに向けて放つ。
一発
二発!
三発ッ!
激しく火花を散らすガタックと、それを見つめるダークカブト。
「俺は真由を守る、どんな手を使ってでもな。それができないなら、悪いが真由には死んでもらう」
「何ッ…だとぉおおおおおおおおおおおッ!」
ガタックはダークカブトの足を弾くと素早く転がって距離を取る、今の発言でガタックの怒りは頂点に達したのだった。
絶対に、絶対にその言葉だけは言っていけないと。
「訳わかんねぇよッ! 真由ちゃんに死んでもらう? 何言ってんだお前ッ! ああ、そうだ真由香って何だよ、守るってなんだよ! 矛盾してるじゃねぇか!」
「……お前が知る必要はない!」
「ああそうかよッ! だったら全力で邪魔させてもらうぜぇ! うおおおおおッ!」
ガタックはカリバーを構えて走り出す。
両者クロックアップは既に解除され、現実世界での戦いへ応じる。
ガタックは素早いステップでダークカブトの攻撃をかわすと、蹴りを叩き込んだ。
よろけ倒れこむダークカブトに追撃のカリバーを振り下すッ!
「プットオン」『Put On』
「!」
だが辺りから装甲の破片が飛んできてダークカブトの手に集まっていく。
振り下ろしたカリバーは堅い装甲に弾かれ、大きな隙をつくってしまった。それを狙われ、逆にダークカブトの蹴りを受けてしまう。
「グッ!!」
ダークカブトはマスクドフォームへ戻ると、そのままガタックの首を掴んで持ち上げた。
ガタックもまた抵抗を試みるが、マスクドとライダーではパワー負けしてしまう。
結局、抵抗むなしくガタックは地面へ叩きつけられるのだった。
「キャストオフ」『Cast Off』
ダークカブトの装甲の破片がガタックに命中していく、衝撃と痛みで声を上げるガタック!
ダークカブトはガタックに蹴りを入れると、さらにもう一度プットオンを発動させた。
『Put On』
「ぐぅううううッッ!!」
「………」
破片がガタックを巻き込んでダークカブトに収束していく。
マスクドフォームへ戻ったダークカブトは、クナイガンをアックスモードに変えてガタックに攻撃を浴びせていった。
重々しい一撃、このままでは負けるッ!
「あぐぉッ…! く、クロックアップ!」『Clock Up』
ダークカブトの攻撃が鈍く変わる。
ガタックは何とかダークカブトの猛攻を避けると、そのまま彼を投げ飛ばした。
そこへドロップキックを決め、さらに大きく吹き飛ばす!
「キャストオフ」『Cast Off』
追い討ちをかけようとしたがキャストオフを発動されてしまい、うかつに近づけなくなってしまった。
すぐにダークカブトもクロックアップを発動させ、二度目の高速戦闘へと突入する。
「ハァッ…ハァッ……ッ!!」
「もういいか? 俺は早く真由に会いたいんだが」
「ハァッ…ハァッ! ――グッ! 会って…どうするッッ…?」
「気絶させてどこかへ閉じ込めておく、その後は芝居でもうって皆の所へ戻るさ。それで創英の野望を潰したあと真由を迎えにいけばいい」
「グッ…! もし、リコンファームを使わざるを――」
「なにがあってもッッ! リコンファームだけは使わせない。どう足掻いても使わなければならないと言うのなら、真由を、殺す」
「な、何でなんだよぉおおおおおおおおお!!」
ガタックは激しい連打を浴びせるが、その全てをダークカブトはガードしていた。そして拳を弾くと、回し蹴りを決める。
どんなに思いを乗せて魂を込めて攻撃しても、弾かれカウンターを決められる。
何が足りないんだッ! ガタックに焦りと悔しさがつのっていく。
「アグァっ! ぐぅううッ! あぁああぁああ!!」
転がるガタックに浴びせられる銃弾の雨。
すぐにダークカブトはガタックの元まで移動すると、もう一度激しい蹴りの連撃を浴びせた。
「がぁァァ……!!」
「………」『ONE』
さらに一発、蹴りがガタックのわき腹をとらえる
呼吸が止まり、景色がぼやける。
『TWO』
今度は腹部に蹴りを入れる。
苦痛の声をあげるガタック、そこへさらに蹴りがとんでくる。
『THREE』
「ぁぁあ―――ッ………」
力なく倒れるガタックに光を纏ったダークカブトの蹴りが炸裂した。
「ライダーキック」『RIDER KICK』
変身が解除され、血を纏いながら鏡冶は落下する。
気絶しているようで、ガタックゼクターは鏡冶を守る為にダークカブトの前に立つ。
しかし彼はダークカブトに突進をしかけるが、簡単に弾かれてしまった。
地面へ叩きつけられるガタックゼクター、勝ち目がないと悟ったか上空へ飛翔して飛び去ってしまった。
「………」
ダークカブトは気絶している鏡冶を見る、その手にクナイガンを構えて。
「悪いな」
彼は、銃口を鏡治に向けたのだった。
あれから少し時間が経ったが未だに鏡冶は気絶していた。
雨も止む気配はない、ダークカブトは今もじっと鏡冶をみているだけだ。
迷っているのだろう彼は。鏡冶を殺すかどうかを。
「………」
震える手をダークカブトは押さえつける。
ここで迷ってしまっては真由を殺す事など不可能。
それに、もうリコンファームを使わせないなんてできるのだろうか?
破壊する事も考えた。一度リコンファームのところへ行って破壊しようとも思ったが警備ロボットに邪魔されてしまった。
クロックアップ対策は万全らしく、警報がなる中必死に逃げたものだ。
赤い靴もそう、一人では破壊する事は不可能なのかもしれない。
誰かに協力してもらう? そうだな、始めから素直に理由を話して協力してもらえばなんとかなったのかも知れない。
「ああ、そうか……」
そう言うことだったのか、今さらになってやっと気づいた。
俺は、いい訳の理由を作っていただけだ。
その気になれば真由にリコンファームを使わせずに創英の野望を打ち砕くことができただろう。
司達と協力し赤い靴を破壊すれば――
だが、自分はその選択を取らなかった。
真由を殺す事は仕方のない事、間に合わなければ真由を殺す。
そう決めていたが違う、俺は最初から真由を殺したかったんだ。
この世界に来て『真由香』を殺すチャンスができた、俺はそれが嬉しかったに違いない……!!
「――ッ」
鏡治の意識が戻っていく、別に鏡治まで殺す必要はない?
自分はどうしたい? 迷う、イラつく。
「鏡治、最期に教えてやる。真由と俺は……本当の兄妹じゃ――」
ダークカブトはクナイガンを鏡冶に向けた。
しかしその時、笑い声が聞えてくる。
「おいおい苦悩を経てダークサイド墜ちかよ、お前やっぱドストライク過ぎるわ。少し俺に属性譲ってくれ、右手に魔神とかちょっともう限界きてる気がする」
「……椿」
守輪椿はヘラヘラと笑いながらコチラに近づいてくる。
その隣にはガタックゼクター、どうやら助けを呼びに行ったと言う訳か。
ダークカブトはクナイガンを鏡冶ではなく椿へと向ける。
「へっ、撃てよ。俺は今幼馴染から受け取ったお守りを内ポケットに入れてんだ。これあれだ、このお守りがこう……なんか上手い具合に――」
「銃弾を防ぐ盾になってくれるんだろう?」
「そう! それよ! それね!」
ダークカブトは銃を構えたまま一歩後ろへ下がる。
その時、さらに電子音がなり響いた。
『シャッフル』
「!」
鏡冶の体が消え、代わりにカリスが現れる。
驚くダークカブト、カリスは瞬時にバックステップで距離をとると、彼に向かってアローを構えた。
「悪いな、まあ少しは冷静になったらどうだ? 天王路双護」
「やられたよ……広瀬咲夜」
「悪く思うなよイケメン。ちょっと身長分けてくれ、変身!」『ターン・アップ』
クロックアップとマッハのカードが同時に発動される。
クナイとブレイラウザーは激しい火花を散らして互いを弾いた。
「………」
ダークカブトはそのまま走り去る。長期戦は不利と思ったのだろうか?
むしろ不利なのはブレイドの方なのだが。
どちらにせよ好都合だ。ブレイドはため息をつくと、変身を解除する。
「どうしちまったのかねアイツは」
「わからない。だがやはり、リコンファームに関係あるのは確定みたいだな」
椿と咲夜は、もう一度ため息をつくと鏡冶を抱えて学校へと戻るのだった。
――きて
「………」
お――て
「ッ……!」
おきてっ!
「!」
まぶたをゆっくり開けると明るい光が差し込んできた、ぼやける景色から鮮明になっていく世界。
そこにいたのは真由だった、真由は自分が目覚めたことに気づくと笑顔で微笑む。
癒される、この娘の笑顔は本当に天使のようだ。鏡冶は真由に微笑み返すとゆっくりと体を起こした。
学校? 保健室だろうか? 辺りを見回すとそれらしきモノが多く見える。
しかし生活用品やテレビ等、まるで誰かの部屋みたいだ。
「気がついたのね。良かった」
「え…?」
声がして振り向くと、若い女性がいた。
担当の先生だろうか? 鏡冶は頭を下げる。
「ご丁寧にどうも。わたしは空野葵、真由ちゃんの仲間よ」
「えっと……新意鏡冶ですッ!」
葵は鏡冶が無事に目覚めたことを確認すると、軽く状況を説明した。
そして皆との顔合わせをするように提案する。
「わ、わかりましたッ!」
教室では司達が待っているらしい、鏡冶はそこへ移動する事にする。
心配そうに見つめる真由に微笑み返すと、鏡治は歩き出した。
「聖司だ。よろしく」
「ああ! よろしくッ!」
「鏡冶!!」
教室に有美子が血相を変えてやってくる。
有美子は、鏡冶と神也の姿を確認すると涙を浮かべて二人を抱きしめた。
「良かった! 本当に…良かったわ……!!」
鏡冶も神也もすこし照れたようにしていたが、しっかりと抱きしめ返すのだった。
「………」
家族、そこには愛がある。
しかし双護は言った。彼女を――ッ!
(なんでなんだよ……)
その後とり合えず全員と一通り挨拶を済ませた後、作戦をたてることになった。
皆で創英のいるブレインタワーに突撃するというシンプルで一番有効な方法。
一度この作戦を実行したらしいが、その時は失敗したらしい
『電磁バリアの解除はミーにまかせるですよ!』
「ああ、よろしく頼む!」
そしてしばらく話し合いが続くなか、ふと鏡冶は疑問を覚える。
一体双護についてはどうなったのだろう? そう考えていたら、双護の話題があがる。
「双護は確か貴方のところで保護してもらってるんですよね」
「ああ、心配しないでくれ」
「?」
風島は言う、保護? そうなのか? 鏡冶はその事を聞こうとした。
その時、隣にいた少年が小声でささやく
「今はそう言う事にしておいてあるんだ。後で図書室に来てくれ…」
「え?」
少年、椿が小声でそう言う。成る程、鏡冶はそれを理解してもう何も言わなかった。
その後、解散となり各々は自室やら食堂やらに散らばっていく。鏡冶は言われたとおりに図書室へと向かうのだった。
「来たな、ここだぜ新意」
図書室の一角で守輪椿、広瀬咲夜、相原我夢、条戸真志の四人がソファに座っていた。
どうやら双護の暴走を知っているのはこの四人だけらしく、風島や神也に協力してもらい話を合わせてもらっているとの事だった。
「双護のヤツ、どうしちまったんだろうな?」
「リコンファームを使わせたくないとか言ってたからよぉ、ソッチ関係である事は間違いないんだが…」
鏡冶も加わり、五人は双護が何故このような行動に出たのかを考える。
我夢が言うには真由に何かを思い出して欲しくないから、との事だがコレが恐らく理由なのだろう。
問題はそれを思い出して欲しくないからと言って真由の命までを奪う、その狂気さだった。
双護はあくまでも真由を守ると言っていた。だが、真由の命すら奪っても構わないという矛盾。
そして、鏡冶はふと思い出す。
「そういえば双護は真由ちゃんの事をたまに、真由香って呼んでたな。ああ、そうだ。それに真由と自分は本当の……とかなんとか言ってたような」
その言葉に五人の表情が一変する。
まだ意味が分かっていない鏡治は目を丸くするだけだったのだが――
「おいおい、それってもしかしなくともだろ」
「あ、ああ……ッ!」
「?」
未だに意味の分かってない鏡冶、我夢は焦る気持ちを抑えて説明する。
簡単な話だ。双護先輩と真由は本当の――
「!!」
それを聞いた鏡冶はいても立ってもいられず、図書室を飛び出していった。
止める椿の声を振り切って、鏡冶は全速力で走っていく。
「……やれやれ」
真志は困ったように笑みを浮かべると、鏡冶を追いかけて図書室を後にした。
残された我夢達は少し沈黙するものの、また話し合いを再開する。
「いろいろありましたが双護先輩の言葉、真由先輩の事情、真由と言う名前ではなくて真由香、そしてリコンファーム。なかなかに情報が集まりましたね」
我夢は冷静に思考をめぐらせる。
引っかかるのは真由と真由香、一体どういう事なのか?
「ニャー」
「「「!?」」」
突如猫の鳴き声がして一同は振り返る。すると、窓をがりがりと引っかく猫の姿が見えた。
集中していたせいなのか、皆全く気配に気づかなかった。
「可哀想に……雨の中じゃ寒いだろう」
咲夜は少し顔を赤らめて猫を図書室へと招き入れた。
タオルで体を少し拭いてあげると、猫はお礼を言うようにもう一度鳴く。
「さ、咲夜……お前――ッ! いくら腹がへってるからって……」
「くわんがな。あんまりふざけた事ばかり言っていると、貴様の尻を日本列島にしてやろうか」
「……え?」
どどどどどう言う事なの?
全く意味が分からない脅し文句に椿の体は震え上がる。
結局、彼は沈黙して後ろへと下がっていくのだった。
「ん?」
我夢はふと妙に強い既視感を覚える。この猫、どこかで見たような……?
さらに一冊の新聞が落ちている事に気づいた。猫が入ってきた窓の近くは、今までの新聞が保管されている歴史の棚。
誰かが落としたのだろうか? それとも、ふとした拍子に落ちてしまったのだろうか? 我夢はとにかくその新聞に手を伸ばす。
「?」
ふと、その新聞に書かれている事が目に止まった。かなり前の新聞の様でもう廃刊になっている。
そんな新聞が何故? だがとにかく書いてある事が気になってそれどころではなかった。
「倒壊……設計ミスが原因か? ブラック企業の噂も…天……」
「ん? どうした我夢?」
新聞を持つ手が震えている、椿は疑問に思い自分もその記事を見てみる事にした。
記事には、数年前に起こった小さな建物の倒壊事件。その事故のことが記されていた。
「倒壊事故? ああ、そう言えばあったな。割と人が亡くなったりして大変だったとか。んーでも、そんなニュースにはならなかったけ?」
しかしあまり事件の無い街だったがゆえに、一同の心には印象深く残っていたものだったのだろう。
「設計ミス? へー、そんな事も言われたのか」
「まあでも、これよく根も葉もない噂を書くって問題になった新聞じゃねーか。もう発行されてないんじゃなかったか?」
「んで、何々ぃ? ブラック企業の噂も、天王路グルー…プ……」
椿もまた口を閉ざしてしまった。
そして代わりにもう一度まじまじと記事を見てみる。だが何度読み返しても、その文字が変わる事はなかった。
「「くっ! クラス名簿……ッ!」」
「?」
我夢と真志は急いで翼のところへ向かう。
そして、翼にクラスの名簿がどこにあるかを問い詰めた。
翼は二人の様子に少し驚きながらもクラス名簿がしまってあるだろう場所を示す。
しかし、そこに名簿はなかった。
「あれ? おかしいな」
そう言えばいつの間にかなくなっていた名簿。
クラス全員も少ないし、皆もう親しい間なので別に名簿の事など全く気にしてはいなかったのだが。
翼は周りを調べるが結局名簿はなかった。無くしてしまったのかと焦る翼だったが、ふと思い出す。最後に名簿を見たのは……
「あ、そう言えば双護くんが貸してほしいって」
「!!」
「まだ、皆の名前を見てなかったんだけど、自己紹介もしてもらったしいいかなって」
双護が最後に名簿を持っていた? どうして? 名簿なんて何に使うと言うのか?
そう、それは逆に言えば双護には名簿を手に入れなければならない理由があったと言う事ではないか?
「ま、真由ちゃんの名前は…どうでしたか?」
「ご、誤字とか……は?」
「え? いや、別に誤字とかはなかったけど。あ、でも何故か修正テープが貼られていた様な……」
「……ッ!」
最初このクラスにやってきたのは司達だ、その時には名簿は机の上に置いてあった。
あの時は突然の事で知り合いの名前を探すだけだったが……ふと考えてみる。
あの時双護達はいつのまにか教室に入っていた。普通特別クラスなのかを確認したりはしないのだろうか?
いや、双護の性格が特殊なのは今まで一緒にいて分かった事だ。だから確証はない。
だけどもし。
もし、クラスに一番最初にやってきたのが双護だったら?
そして彼はある事をしてから一度教室を出た、今までの情報が鮮明にヴィジョンを映していく。
彼は真由を連れずに一度教室にやってきた、そして名簿に簡単な細工をした。その後、名簿を完全に始末したのだ。
「双護……お前――ッ!」
『鏡冶! いつまでやればいいんだよー!』
「すまん!もうちょっと頑張ってくれ!!」
学校の外、少し離れた公園に鏡冶とガタックゼクターはいた。
ガタックゼクターは先ほどから空高く飛翔し、大きく旋廻を続ける。
カブトゼクターに通信を行っているのだ。
「頼むッ! 来てくれ…ッッ!!」
『おい鏡冶! 創英に見つかっちまうぞ!!』
「クッ…ああ、そうだな!」
限界か、やはり来てはくれないのか……! 鏡冶は諦めガタックゼクターを呼び戻した。
明日、赤い靴を発動するらしいという情報が俊英から送られてきた。もう時間はない、話を聞けば真由はもうリコンファームのリハーサルに向かっているらしい。
「!」
気配を感じて振り返る。するとそこには……
「双護さんッ!」
天王路双護が座っていた。
双護は冷たい目で鏡治を確認すると、小さくため息をつく。
「……さんはつけなくていい」
「……分かった。双護、話があるんだ」
「だろうな、あれだけカブトゼクターに連絡を送っていれば嫌でも分かる」
鏡冶はもう包み隠さず、真正面から双護に向き合った。
にらみ合う両者、どちらも引くつもりはないらしい
「双護、お前は真由ちゃんと……血は繋がっているのか?」
その質問がくるのは分かっていた。
双護は眉一つ動かさずにその問いに答える。
「いや、繋がってない。俺と真由は本当の兄妹じゃないからな」
「……そうかよ。でもお前は真由ちゃんを愛しているんだろ?」
「当然だ。神に誓ってもいい、俺は真由を愛していると。兄妹として、家族として、その思いが変わる事は絶対にない、絶対にだ」
だったら! 鏡冶は声をつい荒げてしまう。
いや、荒げずにはいられなかった。彼はソレほどまでに大きな愛情を彼女に向けている。
なのに今彼はその愛情を否定する行動を取ろうとしているのだから。
「どうしてッ! どうして殺すなんて言うんだ!?」
「………」
「なあ、双護! 俺達と協力して創英さんと戦おうぜ! 皆で強力して赤い靴を破壊すれば真由ちゃんをリコンファームに乗せなくていいじゃないか!」
双護は何も言わず地面をみつめていた。
しばらくそのまま二人は沈黙を続ける、そしてふいに双護が口を開いた。
「俺は、迷っていたんだ。真由を生かすか、真由香を殺すか」
「その、真由香って誰なんだよッ!?」
「………」
双護はうつむいたまま、小さな声で話し始めた。
まるで鏡冶に聞かせるのではなく自分に聞かせるように。
それは決断、思い出すのだ。彼女の思い出――
そして憎しみを。
「おにいちゃーん!!」
「おいおい! 気をつけろよ
妹の樹里が笑いかけてくる、それは嬉しいがなにやら危なっかしい。
いつもそうだ、樹里ははしゃぐと周りが見えなくなる。誰かがしっかり見ててやらねば。
「ほら」
「!」
手を差し出す。
樹里はニッコリと笑うとその手を握り返してくれた。
「こっちだよお兄ちゃん!」
「あはは、ちょっと待ってくれよ」
樹里も中学一年か。
お互い中学生にもなって妹と一緒に買い物なんてどうかとも思うが……まあいいだろう。
「お前達は本当に仲がいいな、父さんは少し心配だよ」
「いいじゃないですか、反抗的になるよりはよっぽどいいわ。ねぇ?」
後ろでは父と母が俺達を見て笑っている。
寛大な父と、優しい母、そして可愛い妹。俺は幸せなんだろうな。
だが少し気になる事もある。それが唯一の悩みと言っても良かった。
「!」
父はその人物を見かけるとすぐに挨拶に向かう。
当然だ、父はその人に仕えているのだから。
「これは社長! どうも、すみません。お休みを頂いてしまって」
「構わんさ、お前のほかにも優秀な秘書はおる。一日くらい好きにするがいい」
父は、天王路グループ社長。
――と言っても秘書は何人もいるらしく、父もあまり自分の仕事については話さなかったのだが。
正直俺は、あまりこの天王路グループが好きではなかった。なにやら黒い噂があったのだ、週刊誌で読んだときは警察もマークをしているらしいとかなんとか。
まあ噂は噂。俺が気にするものでもないのかもしれない
それに問題は別にある。
「ほら、お前達も挨拶をしなさい」
「……はい、すいません。どうもこんにちは」
「こんにちは!」
この男の威圧感は苦手だ。
まあ社長と言うのだから当然なのだろうか。
「……ああ」
まあ剛はまだいい。問題はコイツだ――ッッ!
「こんにちは……」
わざと声のトーンを落とす。視線も下に落として。
妹はそんな事も無く元気に挨拶をするが――
「こんにちは!」
「………」
無視か、人がせっかくしたくもない挨拶をしてやったのに。
腹の立つ女だ。だから嫌なんだよ、お前なんかに挨拶するのは。
「では行こう」
「はぁい、パパ」
そう言って剛とソイツは歩いていく。
その時だった、ソイツと樹里の肩がぶつかってしまう。
すぐに謝る樹里だったが、ソイツは舌打ちをして樹里を睨みつけた。
「行くぞ、真由香」
「ええ、わかりました」
天王路真由香、俺はコイツが大嫌いだった。天王路剛の一人娘、一応昔からの知り合い。
つまり幼馴染と言うヤツなのだろうか? だがとにかく、俺は真由香が大嫌いだったんだ。
金持ちの娘は皆こうなのだろうか? 高飛車で我がままでプライドが高くて、金があれば何でも手に入ると思っているクソ女だ。
なによりこいつは樹里をいじめていた。
小さい時に知り合って遊んだ事もあったが、樹里も大切にしていた玩具を壊したり、気に入らない事があればすぐに権力を振りかざして。
樹里は気丈に振舞っていたが、きっと悲しみも大きかったはず。
「チッ、樹里。行こうか」
「う……うん」
胸糞が悪い。あんなヤツ、死ねばいいんだよ。
もう真由香を視界にいれるだけで気分が悪くなる。
だが最悪な事に俺とアイツは同じクラスだという事。
アイツは気に入らない、暇だからと言う理由で誰かをいじめる。
しかもそのやり方が陰湿で、どこぞの不良に金を渡して代わりにいじめを行わせる。
それを見るのが趣味という腐ったゴミだ。
正直かかわりたくない。
まあよほどの事がないかぎりは大丈夫だろう、俺とアイツは中学を卒業すればサヨナラ。
それまで耐えればいいだけなのだから――
だが、樹里は違った。
俺が何度止めろと言っても、真由香と仲良くできる筈と聞かなかった
「きっと真由香さんは寂しいだけなんだよ。だから……ね?」
樹里はそう言って聞かなかった。
俺が何度、どれだけ止めろと言っても樹里は真由香に話かけ続ける。その度に無視されようが、にらまれようが。
真由香は樹里に手を上げた事もある。いくら昔の話だろうが、俺はそれを謝らないアイツを許さない
「真由香さーん!」
その日も、また樹里は同じように真由香に話しかけていた。
樹里は家庭科の時間に作ったお菓子を真由香へと差し出す。
覗き見は趣味ではないが、たまたま見かけたので観察してみる事にした。
「………」
「えへへ、頑張って作ったんだ。良かったら食べてね」
そう言って樹里は真由香に背を向けて走り出す。
自分の作ったものを食べているところをみるのは恥ずかしいらしい、樹里のクセみたいなものだった。
俺はそのクセがあったことを心から感謝した。
「……っ!」
アイツは樹里から受け取ったお菓子を、迷う事無くゴミ箱へ捨てる。
もう我慢の限界だった、俺は声を荒げてアイツに詰め寄る。
「おい……ッ!」
「ああ……貴方は」
真由香の背はひくい、俺を見上げるようにしていた。
それもまた不快でならない、コイツの全てが気に入らなかった。
「どうして樹里のお菓子を捨てたんだッ!!」
「え? コレですか。不味そうだったんで」
「なっ!?」
「それに、なんか気持ち悪いじゃないですか」
さも当然のようにコイツは――ッ!
「あと言っておいてくれません? 私に話しかけるなって。うざいんですよね、正直あの娘」
彼女はあくまでも淡々としていた。
「お金が欲しいんでしょうか? しつこいっていうか、いやしいって言うか」
「――ッッ!!!」
「それより、前から思ってたけど貴方けっこうカッコいいね。どうです? 私と付き合いません? クラスの男子ってなんか全員キモイんですよね。やっぱ男は顔じゃないと」
何を……言っているんだこいつは――ッ!
本気で言っているのか? 正気なのか!?
「何て言うか、あんなみすぼらしいオッサンとセンス悪いババアから貴方みたいなのが生まれるなんて意外ですね」
「なんだと!? もう一度言ってみろ!!」
「本当の事じゃない、何が悪いの? だいたい妹もマジでうざいし、もしかしたら本当の息子じゃなかったりして!」
気がつけば、俺はヤツを突き飛ばしていた。
驚きで眼を見開く真由香に、俺は知っている限りの暴言をぶつける。
本音を言えばその整った顔をぐちゃぐちゃになるまで殴りたかったが、俺の中にあったわずかな良心がそれを防ぐ。
今にして思えばなんて浅はかで考えなしの行動だったのか、だが俺は我慢できなかった。
その結果、今度は俺が真由香に睨まれる事に。
「何マジになってんだよテメェ……ッ! 覚えてろよ、必ず後悔させてやるからなッッ!!」
そう言って真由香は俺の前から逃げるようにして走り去っていった。
あの時、俺はどんな顔をして真由香を見ていたのか。
その時が初めてだったかもしれない、真由香に明確な殺意が湧いたのは。
翌日、いきなり誰とも知らぬヤツに殴られた。ゲラゲラと不愉快な笑みを浮かべながら殴りかかってくる。
俺は抵抗しようと構えるが、そこにアイツの姿が見えた。俺を見下してくるあの女が――
「双護さん、抵抗するのはいいんですけど。ちょっとその前にいいですかね?」
「――ァ?」
悟る、理解する。この見知らぬ男はコイツが用意したという事か。
俺の心情を理解したのか、真由香はより下卑た笑みを浮べて続ける。
子供と言うモノは残酷なもの、それが少し知恵をつけた今が一番危険な時期だった。
「妹さん、一年のA組なんですってね」
「……ッ」
「いじめられないか、心配でしょぉ?」
抵抗すれば、分かってるよな?
「ッ!!」
「樹里だっけ? 二度と登校できないようにしてやろうか?」
「お前ッ!!」
「それだけじゃないよ、ねぇいいの? 私がパパにお前のクソ親父クビにしてくださいってお願いしちゃおうかな? きゃはは! どうする? どうするの、お父さんがお仕事クビになっちゃったら! キャハハハ! 路頭に迷っちゃう!」
ぐっと、歯を食いしばる。
コイツだけは許さない、絶対に許さないッ! その後も俺はしばらく殴られ続け、真由香が飽きるまでそれは続いた。
最後にアイツは俺の頭を踏んで、そのまま耳元で囁いた。誰かに言ったら――
「お前の家族、本気でぶっ壊すぞ?」
「おにいちゃん! 大丈夫!? どうしたの!」
「ちょっと変な奴らにからまれてな。心配しなくていい、もう大丈夫だ」
家族だけは守る。
その為ならどんな仕打ちでも受けてやる、悔しいがもうそれしかないんだ。
くそ……ッ!
「おい双護、コッチへ来なさい!」
「………」
翌日、クラスであの女が俺を呼んだ。
真由香の周りではみるからに頭の悪そうな連中がたむろしてクスクスと笑っている。
強烈な不快感を覚えたが、俺は真由香の所へと向かった。
「土下座しなさい」
「……は?」
ギャハハハと不快な笑い声が大きくなる。
真由香は挑発的な笑みを浮かべながら顎で早くしろとジェスチャーを送る。
「……ッッ」
クラスメイトの視線が俺に集中する、ふざけやがって……ッ!
そう考えていたら、真由香の口が動いた。言葉は発しないものの、たしかにそう言った
『イ モ ウ ト ガ ダ イ ジ ダ ロ ?』
「………」
死にたくなる、泣けてくる。
だけど妹がいじめられる、もしかしたらもっとやばい事をしかけてくるかもしれない。
コイツは本気だ、過去にそういう噂も聞いた事がある。ならば取れる選択肢は一つ、俺が命令に応じると不愉快な笑い声が爆発する。
「本当にいいなりじゃねーか! ぎゃはは!」
「だっせぇ!! はははは!」
「真由香ちゃんすごーい!」
「コイツの親父もパパに同じ事してたよ! 本当親子そろって惨めだねぇ! キャハハハ!」
殺す、コイツはぶっ殺してやる。
でも家族だけは、妹は守らなきゃいけない。
俺は誓った。次の日も、その次の日も、俺はこの女のいいなりにされた。
だが――
「おにいちゃん! 私テストで百点とったよ! 凄くない!?」
「ああ……凄いな」
「えっへん! あははは!」
「ははは……」
お前だけは、守らないと。
大切な家族なんだ。大切な……大切な――ッ
「……あのね、お兄ちゃん」
「ん?」
「最近、お父さんの元気がないの。なんか悩んでるみたいなんだ」
「え?」
「お父さん、大丈夫かな…?」
「ああ、大丈夫さ! そうだ、今度一緒に元気付けてやるか!」
「う、うん! そうだね! やっぱお兄ちゃんは頼りになるぅ!」
「ハハ、調子のいい奴だ……」
樹里がいれば耐えられる。家族なんだ、俺が守ってみせる!
きっとそのうちアイツも飽きて、それで俺は解放されるんだ。地獄から、アイツから――
だが、その日はやって来た。
それは天王路グループの経営している小さなビルの一つ。
俺の父はある日、社長である剛から家族を連れてそのビルの様子を見てきてくれと言われたらしい。
どうやら家族を題材にしたプロジェクトを進行中らしく、その実験をかねてと言う事だとか。
現に俺たちの他にも天王路グループの社員が家族で訪れていた。はしゃぎまわる妹を注意しつつ俺たちはそのビルを視察する。しかしその日、事件が起こった。
建物の倒壊。
後に設計ミスが原因だったと疑われたソレは、多くの死者を出したにも関わらず大規模な報道が行われる事はなかった。
だから人の記憶に残る事はなく、事件が起こった事すら知らない可能性があるだろう。
――しかし
「……ッ!」
眼を覚ます。気絶していたのだろう。
覚えているのは、何か大きな音がしたと思ったら視界が真っ暗になった。
それだけだ。何が起こっているのか?その時は全く分からなかったものだ、そして足を怪我しているのだと理解する。
「………え?」
だけど、足なんてどうでも良かった。
痛みが感じられないのは興奮状態だったからだろう。俺は見てしまったのだ、瓦礫に潰されている父を――
「――ァァァ」
叫び声すらあげられないほど、俺は衰弱していた。
後になって聞いた話だが、俺は丸一日程気絶していたらしい。
もう体力も気力もなくなっていた。だが、目の前の状況を受け入れまいと必死に世界を否定する。
あの父が、優しかった父がこうも簡単に亡くなったのだ。もう会えない、そんな馬鹿な話があってたまるか……!
きっと、父の体から流れている赤黒い液体は嘘。
これは夢? ピクリとも動かない父親。声をかければきっと答えてくれる、なのに声がでない。
なんで? どうして……ッッ!! 錯乱する思考。鳴り響くサイレンの音、救助が来たのだろうか?
「おにい……」
「!」
その時だった。
父に気をとられていて気づかなかったが、目の前に樹里がいるではないか!
瓦礫に足が挟まっているのか? とにかく顔色が悪い…ッ!
「ゅ――り…!」
樹里に向かって手を伸ばす。見れば血が出てるじゃないか!
早く! 早く手当てをしないと!
「お…にいちゃん……ッッ!」
待ってろ! すぐに助けてやるからなッッ!!
「――!」
だが体が動かない! どうして! 何で何だよッ!!
早く樹里を病院につれていかなきゃならないんだ! なのにどうして体がいう事を聞いてくれないんだよ!
体の力が抜けていく、意識がもうろうとしていく! 早く! 早く樹里をッッ!!
「痛いよ…おに……ちゃ……」
おい冗談なんだろ! ドッキリなんだろ! 嘘だよな! 映画でもこんな展開三流だぞ!
だから出てこいよ! どうせスタッフとかがあざ笑ってるんだろ! なんで、なんでこんな事するんだよッ! 妹が泣いているじゃないか!!
手の伸ばすのに届かない! 瓦礫がまた俺達の周りに落下してくる。 なんだよこれ、本物なのか――ッ!!
「いたぞ!」
「!」
突如声が聞こえる。
救助だ! 助かったんだ! 俺はその時、確かな希望を感じた。
だが、違ったんだ。それは希望なんかじゃない
「ッ!?」
現れたのは救助隊ではなく、ただの一般人かと思える男だった。
一瞬何が起こったのか分からず思わず沈黙してしまう。男は俺が気絶していると思いこみ、堂々と通信を始める。
「はい、いました。――はい、父親も母親も死んでいます。妹は瀕死、兄は……気絶しているようですが外傷はないかと………ええ、はい。わかりました」
母さんも……死んだ?
男は頷くと、樹里の頭上にある瓦礫のバランスを崩しはじめた。
何を…やってるんだよ――
「――ッ!!!」
声がでない、叫ぼうとしても力が入らなかった。
おい!
おいッッ!
何やってるんだお前!! ふざけんなッ! 樹里は助けてやってくれ!
頼むッ! どうして殺そうとするんだよぉッ! 樹里がなにをした! オイッ!? やめてくれッ、たのむから止めてくれよぉ!
「人がいたぞぉぉおおおおお!」
男は白々しい芝居をとると、救助隊の方へ走っていく。
何やってんだよッ! 瓦礫をどけてくれよ、樹里にぶつかるだろ!!
あああああ止めてくれっ! お願いだ! お願いだから樹里を助けて! 俺はどうなってもいいから! 樹里だけは助け――
その時、男がバランスを崩したせいで。
樹里の頭上にあった瓦礫が崩壊して――
「―――――」
うわアアアああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああァアアァァアアアアアアアアァァァッァアアアぁぁああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああァアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!
俺の意識はそこで完全に途切れた。
瓦礫に頭を潰される妹の最期を見なくてすんだのは幸いなのだろうか?
妹は、父は、母は、こんな、こんな嘘みたいな事で死んだのか?
俺たちの人生ってなんだったんだよ。こんな結末を迎える為に、毎日苦労して生きてるのか?
どうしてこんな簡単に死ぬんだよ?
「今日から…私がお前の父親だ。分かったな」
「……はい」
結局、俺の家族は全員瓦礫にのまれて死んだ。文字にしてみればたった一文、それで家族全員が俺の前から消えた。
数少ない親戚は俺を受け入れる事を拒否し、俺は施設へ預けられる筈だった。
しかしそれを天王路剛が拒む。剛は俺を何故か養子にし、跡取りにしようとしたのだ。
何故かは分からん、だが天王路の社員の中に見つけた。
「ッッ!!」
あの男、樹里を殺した……!
天王路グループ、表の顔と裏の顔。俺は焦る心を抑えその男をつけた。
そして、偶然ソイツが同僚と話している所を見つけ、聞いたのだ。
「お前ッ、本当なのか!! 妹の方は見捨てたのかよ!」
「ああ、正直嫌だったよ。まだ子供だった、助けを呼べば救えただろに、俺が殺しちまったようなもんだ……」
「でも、なんで社長はその長男以外を殺すように命じたんだ?」
「秘密を知ったらしいぜ。あのビルの視察会に呼ばれたのは秘密を知ってしまった人間らしいからな。家族全員参加も……わかるな?」
秘密、やはり天王路グループには裏の顔があったと言う事なのか――?
「まっ、まさか! 最初から全員殺すつもりで……」
「馬鹿野郎! 声がでかい…! それで、もし誰か一人男の子が生き残ればソイツを連れて来いって言われただけだよ。あの双護って子が特別なんじゃない、運が良かっただけだ」
「そ、それであの双護って子が唯一生き残ったのか。社長はその子をどうするつもりなんだ?」
「養子にするらしい。いや、もうしたのか」
「養子!?」
「ああ、わざわざその子の親戚に金まで払って、孤独になるように仕組んだらしいからな」
「なんでまた…そんな事を」
「狂ってるのさ。何でも奇跡的状況で生き残った強い運をもつ男が跡取りにほしいらしいからな。マジで狂ってる」
「おいおい、あまり大声で話すなよ。ここだけの話、今回の事件も意図的な設計ミスが原因らしいぞ。本当の設計書と違う構造にして、あまった金を横領したとか……」
「ろくな人間がいやしねぇな。俺も含めてだが」
「叩けばいろんなホコリがでてきそうだな。まあ、叩ければの話だが」
天王路の命令? 剛の訳のわからん理由で樹里は死んだ?
いや、殺された。
「双護くんだったか? 可哀想になぁ、社長も酷い事しやがる」
「関係者である以上、運が良かったと考えるべきだろう。妹さんは運がなかったのさ、社長は男尊女卑の念がまだあるからな。お前も知ってるだろ? 社長の娘さんはもう――」
「ああ、あれも運がない話だったな。社長も発狂してたからな、理由が今なら分かるぜ。自分の娘に手をかけたようなモノだからか……」
「双護くんが気絶していて良かったよ。もし意識があったなら――」
「社長は今回の事件に関わった人間を全て殺すつもりだった。設計ミスも隠蔽するように爆弾をつかって倒壊させたらしいからな」
「社長にとって一石二鳥って訳か。裏の顔をしった人間とその家族を始末できて、かつ手抜き建築だったビルを破壊できた訳だからな」
「三鳥だよ、いわゆる『奇跡の子』を手に入れたんだからな。悪魔だよ社長は……本当にこの世にそんな事件を起こすやつがいたなんて――」
「ま、これもあくまでも噂なんだけどな――」
天王路ぃィイィイイイイィイイイイイィイイッッ!!
殺す! 殺してやるッ! ぶっ殺してやるッッ! 覚悟しろよ、俺を見逃したのは大きいぞ。必ず後悔させてやるッッ!!
奇跡の子?
確立?
秘密を知った?
知るか…ッ! 知るか知るか知るかッッ! 知るかぁああああぁぁぁああッッ!!
全員皆殺しだ、天王路に関わった奴全員ぶち殺してやる! 返せよ、返せよッッ!
返してくれよ父さんをッ! 母さんを! 樹里をぉぉおおおおッッ! 養子? ああ、上等だぜ、だったらまずお前の娘からぶっ殺してやる!
覚悟しろよ、剛! お前の目の前で真由香を殺してやるっ!
苦しめて、苦しめて苦しめてッッ!! 泣き叫ぶあの女をズタズタにしてやるっ!
『天王路』双護はありったけの憎悪と呪詛の言葉を浮かべながら真由香の部屋へと移動する。
いくら男尊女卑の念を掲げていた剛だろうが、娘は愛していた。その娘を目の前で拷問して殺してやる。
双護はそう決めて、真由香の部屋へと足を進める。
「そ、双護さま!?」
「真由香、妹に会いたい。通してくれるか?」
「で、ですがッ……」
真由香の部屋の前ではメイドが困ったように立っていた。
ああ面倒だ――ッ!
「俺が会いたいと言っているんだ。通してくれ」
「あの……剛さまからは通すなと――」
「親父には俺から謝っておく、安心しろ。俺が全てをかけて守ってやるから」
「は、はぁ」
「早くしろ!!」
「は、はい! 失礼しました!」
俺の適当な嘘に安心したのか、メイドは複雑そうに俺に道を開ける。
さあ、真由香……! まずは四肢を使えなくしてやろうか? それとも目を潰してやろうか? いっそ、絞め殺してやろうか?
狂気の喜びに包まれて俺は扉を開く。どうやって殺してやろう? 何でもいい、お前らが樹里を、父さんと母さんを殺したんだ。お前らも殺してやる!
「……え?」
よく、考えるべきだった。
男達の会話で真由香の話がでていた、アレをもっと深く考えるべきだった。
「………ッ」
なんだ、コレは……?
「そ、双護さまっ!?」
中にはメイドがいた。
その隣には――
「あうー…ぁぁ。あー、うー」
これは……誰だ?
「うあー、ああああー……」
だらしなく涎をたらし、まるで赤ん坊のように指をくわえ……立つわけでも座るわけでもない。
寝転んで、立ち方を忘れたように。
「きゃははは! くま! くまさん!」
ぬいぐるみを持って楽しそうに振り回して。
誰だ? コレは――
「真由香は……どこにいる?」
「え……ッ?」
メイドは困ったように俺の顔を見た。
そうだ、俺は真由香を捜しに来たんだぞ? こんな赤ん坊みたいなのを捜しに来たんではない。
「だぁー…! だぁ! きゃはは!」
「あのっ、えと……」
「………」
その時、後ろでまた扉が開く音が聞えた。
アイツ、剛……ッ!! 剛は俺に気づくとため息をついてそのままコッチへやってくる。
「ご、剛様! 申し訳ありません!」
「構わん、いずれは話す事だ」
そう言って剛はその『子供』に近づく。
「思い出したかい? 思い出したろうっ!」
「ッ!!」
「!」
剛は強く子供の肩を揺する。
だが、子供は怖がるだけで剛の望む答えを言う事はなかった。
「怖いよぉ! おじさんだれ!?」
「なっ……!」
「!!」
何かが破裂するような音が聞えて双護は息をのむ。
見れば剛が子供を思い切り叩いていたのだ。子供は大きくよろけ、直後大声で泣き出した。
止めに入るメイドを無視して剛は子供に暴言を浴びせる。
お前こそ誰だ!? 娘を返せ! ――と、しばらく憎悪の暴言は続く。
そして剛は諦めたかの様に首を振ると、部屋を出て行くのだった。
「……ぁ」
大声で子供は泣いていた。
メイドに視線を送ると、彼女は恐る恐る口をひらく。
「あの事故現場に……いたんですよ。真由香様はそれで、瓦礫が頭にぶつかってしまって……」
メイドは淡々と、俺と目を合わせずに喋りつづける。
目の前で泣いている女は、瓦礫を頭にぶつけて記憶が消えたらしい。
真由と同じ顔、同じ声、当然だな。コイツは、真由香なんだから。
「は…ははは……!」
「そ、双護様?」
笑えてくる。ざまあみろ剛、真由香――ッッ!!
天罰だ。お前らに罰が下ったんだよ! どうせ真由香があの現場にいたのだって、また俺を馬鹿にする為だろう!?
最高だ、最高の気分だよ真由香! お前の負けだ! そして俺の勝ちだッッ!! 見てるか!? ほら、俺の勝ちなんだよッッ!!
「ま、真由香さまっ! ああ、どうか泣き止んでください!」
「うええええん!! いだいよぉおおおおお!」
「はは……!」
そうだ、これが俺の望んでいた事。
「は……はは――」
「うえぇえええええええん!!」
しかし、何か引っかかる。
これは誰だ? 真由香ではない、じゃあ誰なんだ? コイツの家族は? 名前は? 歳は?
ん? コイツが……何をしたのだろうか? おかしい、何故だ……あれ程。
あれ程殺したいと思っていた。あれ程憎んでいたのに――
「……大丈夫か?」
「!」
「うぅぅ…! ひっく!」
何故俺は、手を差し伸べているんだ?
どうして俺は、どうでも良くなっているんだ? なんで俺はこの女に同情しているんだ?
「親父はちょっと機嫌が悪いだけさ、痛かったな。大丈夫か?」
「うぅぅうう?」
もう、どうでもよくなっていた。
虚しくなっていたのかもしれない、膨らんだ風船は割れずに萎んでしまった。
俺があれほど殺したいと思っていた真由香は、もう死んでいたのだから。
「おいおい、実の兄を忘れる奴があるか。真――」
だけど、それでもあの女の名前だけは呼びたくなかった。
それは譲れない、だから――
「真由、俺は双護。お前の兄だぞ?」
「おにい…ちゃん?」
そうだ、コイツはあの女じゃない。
真由香じゃない、真由だ。俺と同じ物を背負ったたった一人の
「おにいちゃん!」
「ああ!」
真由香は死んだ、剛も苦しめた。
最高じゃないか、俺は真由に微笑むと涙を拭いてあげる。
それから、俺は憎しみと悲しみを封印した。時間は少しかかったがカウンセリングの先生の協力もあってか大分心も楽になった。
それに資産家の息子という生活も悪くないものだ。
好きなものは買えるし、いいものを着れる、慣れれば有意義なものだった。
剛も俺に最低限の事を教えてくれただけで厳しい教育はしなかった。
剛も愚かな男なのかもしれない。どこかで天王路グループを変えようと必死だが、所詮は闇にそまった男なのだろうか?
それとも――
黒い噂のせいなのか、天王路グループの勢力も最初よりはるかに落ちてしまい今は安定こそしているが最初の頃の栄光はもう見る影もない。
裏の闇とも少しずつだが、疎遠になってきているようだった。おそらく引いたのではない、見捨てられたのだろうが。
剛は案外優しい男だった、俺達に心配をかけまいとしていたのだろうか? なにやら俺に責任が回らないように努力していた。
だが悪い、お前は流石に許せなかった。一生苦しみ続けろ、一生戻らぬ娘の影を真由に重ねていろ。それがお似合いだ。
尤も、相変わらず剛は真由には愛情を見せなかった。
だろうな、お前の娘は死んだんだ。コイツ、真由は俺の妹だ。
俺達は二人だけの家族なんだよ――
「おにい…ちゃん…!!」
真由は記憶は駄目だが、知識そのものを失っている訳でなかった。
だから完全な子供ではない、知識面だけならば普通の中学、高校一年と同じだ。
行動自体は小学生程度と言ってもいいかもしれないが。
「おいおい! 気をつけろよ真由!」
妹の真由が笑いかけてくる。
それは嬉しいがなにやら危なっかしい、いつもそうだ。真由ははしゃぐと周りが見えなくなる。
誰かがしっかり見ててやらねば――
「ほら」
「!」
手を差し出す。
真由はニッコリと笑うとその手を握り返してくれた。
そんな、お話。
「笑ってくれてもいい。滑稽だ、俺は愚かだ」
「ッッ!」
鏡冶はあまりの迫力に完全に怯んでいた、自分の世界では考えられない事。
滑稽? 愚か? 何を言っているんだ双護は、鏡治はもう何がなんだか分からない。
真由香と言う人間がいた。そしてその人間は真由になった?
絶望の中に光った、最後に残った希望。
それに双護はすがったのだ。それは、真由。彼の『妹』
「だけど、答えてくれないか? 鏡治、俺は……彼女を真由として守りたいのか――?」
それとも、真由香として殺したいのか?
今はまだ更新も早く、文字も多めかとは思いますが段々と遅く短くになっていくかも。そこはご了承ください
次はちょっと未定でお願いします。
ではでは