仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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響鬼の試練
第27話 始


※今回から響鬼編ですが、注意書きがあります。

 

 

 

最初の方にもありましたがゲストキャラクターの登場です。

 

 

簡単に言うと仮面ライダーシリーズ以外の作品からキャラが登場すると言う事です。魔女もそうなんですが。

ただ、これが本当に申し訳ないんですけどパラレル色が強いです。

オリ設定の多さ故、ちょっと原作ブレイク的な物が入ってしまうかもしれません。

 

一応この作品はクロスメインと言う訳でもありません。

なので出てくる他の作品キャラは設定が変わった半オリジナルキャラと言う感じです。

ディケイドの渡や剣崎がそうですね。本人設定はありますが、独自にアレンジされてます。

なので、なるべくその原作を知らなくとも問題ないようには作りたいと思ってます。

人によってはクロスや改変に嫌悪感や苦手意識をを覚える方もいると思いますが、それは申し訳ありません。

 

 

登場する作品はタグに入れようかとも思ったんですが、ネタバレになるし書ききれない可能性もあるので、章の終わりらへんにも記載しようかなと思います。

今回はもうあとがきに作品は書くと思いますが。

 

 

さあ、少し長くなってしまって申し訳ない。

ではどうぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

E is d  E C DE ?

 

 

「……何だ?」

 

 

どこともつかぬ書斎、その扉が開きナルタキがその姿を見せた。

相変わらずのフェルト帽とメガネはある意味歴史を感じる。まるで明治時代辺りからタイムスリップでもしてきたようだ。

魔女はそんなナルタキを確認すると、ニヤリと笑った。

 

 

「そなたにとって悪い知らせがある」

 

「何ッ?」

 

 

そなたにとって。ナルタキはまずその言葉に顔をしかめた。

自分にとってであってコイツにとっては面白みが増す何かと言ったところか。嫌な予感がする、できれば聞きたくはない言葉だ。

ナルタキは苦い顔を浮べて詳細を求めた。魔女はニヤついているがコチラにとっては本当に重大な事なのだろう。

 

 

「クククッ! フフフ……!」

 

 

彼女の性格を考えてまたナルタキはため息をつく、魔女はコチラが苦労している姿をみるのが好きらしい。

大変結構な性格だ本当に。ナルタキはもう一度詳細を求めた、すると魔女は頷きその本をナルタキに差し出す。

ナルタキはその本の題名を確認すると顔色を変えた。それを見て、また魔女は小さく笑う。

 

 

「司……ディケイドか」

 

「エピソードディケイドは既に完成を迎えようとしていた。そこにきて――」

 

 

魔女は言葉を止めてナルタキに問いかける。

続きが気になるか、と。

 

 

「早く教えてもらおうか。茶番に付き合う程、暇じゃないのでね」

 

「それは残念」

 

 

ナルタキはもったいぶる様に振舞う魔女に若干の苛立ちを覚える。

しかし魔女にとってはそれが目的なのだから、一々反応していては埒があかない。

だからナルタキは沈黙を続けた。魔女は少し期待はずれな回答にふてくされると、もう引き伸ばしは無駄だと悟ったのか、素直に口にする。

 

 

「簡単に言おうか? この試練で女が一人死ぬ」

 

「……ッ!」

 

 

今度はナルタキの反応が予想通りなのか、魔女はクスクスと笑った。

残念と言う反応と、ディケイドでなくて良かったと言う非情な感情に自己嫌悪を浮かべたナルタキ。

それを女は滑稽だと笑う。

 

 

「惜しいな、ここまで誰一人欠ける事はなかったが……」

 

「前回……は壊滅的だったな。前々回は誰一人欠ける事はなかったか。流石に確立は低いものだ」

 

 

ナルタキは深いため息をつく。

若い命が散るのは彼とて心苦しいものだ、なんとか助けてやりたいものだが――

 

 

「どうにもならないのか? できる事ならゼノン達に……」

 

「そなたが仕掛けておいてよく言えたものだな、クククッ」

 

 

だがメリットがない訳ではない、女はナルタキにそう囁く。

 

 

『メリット』

 

 

その言葉にナルタキの動きが止まる。

ああ、なんと言う事か。魔女の囁きにナルタキはつい耳を傾けてしまった。

 

 

「メリット?」

 

「女の死がトリガーになる可能性が非常に高い。死を持って仲間は覚醒する、ありきたりな展開だが世界はそれを物語として認めると言う事だろう」

 

 

やめておきなさい、魔女の言う言葉を鵜呑みにしては駄目。

などと幼い子供達は絵本の中でそれを知っただろう、絵本の中の『世界』でそれを学んだだろう。

しかしこの魔女はそう簡単なものでもない。ナルタキは迷う事無く、話しに乗ることにした。

 

 

「試練を簡略にでき短縮できると言うことか」

 

 

その通り、魔女は笑う。死ぬらしい少女を見捨てる事で試練を早急に打ち切れると言う訳だった。

そうすれば彼らの目的であるエピソードディケイドは完成を向かえる。一人を犠牲にするだけでいい……?

 

 

「………」

 

 

ナルタキは迷う。

少女を見捨てる事で結果、多くの人間を救える可能性がでてくるのだ。それは彼の目的、目指すべき道である。

反面、少女を助ける選択を選べば最悪全滅さえありえる。それだけは避けたい、ディケイド組みはナルタキにとって切り札なのだから。

たった一人の命――

 

 

「……こちらからは干渉は控える様に、今まで通りでいく」

 

「クククッ! 少女より『物語』をとりましたか」

 

 

ナルタキは眉をひそめ女を睨んだ。

鋭いオーラだったが、魔女は声をだして笑う事を止めただけで、口はつりあがったままだ。

 

 

「しかたないだろう、一人の命を犠牲にすれば試練を簡単に終わらせられるのだから。しかし何故貴様は少女が死ぬ事を知った?」

 

「すこし暇だったから予言をやってみただけ。結果は言ったとおり、彼女は百パーセント死ぬ。残念残念、私としても」

 

 

敬語混じりにクスクスと女は笑った。こう言うヤツだ、本当に気まぐれだったのだろう。

しかし予言は本物、少女は死ぬのだろうな。ナルタキは既に理解していたので特に何も言わずに背を向ける。

一人減るくらいならば計算の内だ。しかも少女、むしろこれは運が良かったと考えるべきか?

 

 

「………」

 

 

一瞬、そんな事を考えてしまった自分を戒めるナルタキ。

心の中で誰かも分からぬ少女に謝罪すると足を速めた。

 

 

「どこへ?」

 

「一度、やつらの動きを見てくる」

 

 

そう言ってナルタキは書斎から出て行く。

女は特に視線を移す事はなかった。そのままティーポットに手をかけると、新たな紅茶を入れるだけだ。

綺麗な赤がカップに注がれていく。魔女はそれをつまらなさそうに見ていたが注ぎ終わると小さく笑って『友人』を呼んだ。

 

 

「死に慣れるという事は恐ろしいですね」

 

 

話を聞いていたのか、彼は少し含んだ言い方をした。どうやら少女が死ぬ事が納得できないようだ。

甘いとは分かっている、自分が助ける事も恐らくはないだろう、魔女が予言した事は真実。

それは理解していた。だがそれでも何かしらの希望は欲しいものだ。

 

 

「決断を迫られたとき、冷静に考えられる様になる事は利点か欠点か? ククク……」

 

 

本棚の影から現れた友人に、魔女は紅茶を差し出す。

友人はお礼を言って紅茶に舌をつける。二人はしばらく無言で紅茶を飲んでいた、少し笑みを浮かべたまま。

 

 

「ゼノンとフルーラには言ったのですか? 彼らは最近担当者に情を移すクセがある」

 

「それはいい事だ。それに、それはそなたもだろう?」

 

 

確かにそうだ、でも割りきる時は割り切りますよ。友人は言う。

今回もどうしようもないのなら――諦めるべきだろう。

 

 

「いや、また独断で命令を無視されては困る。彼らには言ってはいない」

 

 

友人は笑みが増した魔女を見て、自分もまた静かに笑う。

嘘だな、彼女はゼノン達に命令はするが強制はしない。どの様な結果になろうとも彼女にとっては関係ないのだから。

ただ暇が潰れるかそうでないかの差でしかない。それは世界でさえも、命でさえもそうだろう。

ナルタキに協力こそするが、あくまでも彼女は自由だ。

 

 

「私は世界がどうなろうが、それをありのまま受け止める。それが"観測者"としての義務」

 

「ほう……」

 

「そう、私がいくら言葉を、行動を起こそうともテレビの中にいる人間には何も影響がないのです」

 

 

たまに魔女は敬語を混ぜる。

それは彼女のクセか、それとも彼女が自分を覚えていないからか。

 

 

「……だが『眼』は違う、そうでしょう?」

 

「私はただ視るだけ、その眼がどこへ向かおうとも……私は構わない」

 

 

彼女はそう言って、またクスクスと笑いだすのだった。

楽しいですか? 友人は問いかける。

 

 

「さあ? しかし、暇はつぶれる」

 

 

だから、退屈させないでほしいものだな。

魔女はそう言って、また口を吊り上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くのですか?」

 

「ん? ああ見送りにきてくれたのかい」

 

「ふふっ、嬉しいわ!」

 

 

そう言ってフルーラは友人を撫でる。

新たな世界に降り立とうとするゼノンとフルーラ、彼らを見送りに友人が現れたのだ。

いや、もちろんそれだけではないのだが。

 

友人は、ナルタキに与えられた課題の話を二人に振った。

まるでそれは宿題をやってきたかどうか友人間で確認しあう子供の様、しかしそんな簡単なものでもない。

 

 

「私は全て済ませましたよ。そちらはどうです?」

 

「ああ、カブトの時は仕事も少なかったからね。その間にやっておいたよ」

 

「ほう、では龍騎勢はどう言う判断を?」

 

「………」

 

 

友人の言葉にゼノン達は意味深に唸り表情を歪ませる。

複雑な表情だ、じらそうとしていた事を当てられて気まずく笑っているかの様に。

 

 

「リサイクル……ですね?」

 

「流石だわ、その通りよ。あの世界の北岡秀一、秋山蓮、佐野満、霧島美穂」

 

 

そして――

 

 

「ほう、まさか城戸真司ですか」

 

「ははは、先に言わないでくれよ」

 

 

ゼノンは苦笑する。

友人は頬を膨らませるフルーラに謝罪すると、再び話の続きを求めた。

咳払いを一つ。フルーラは手を上げ、声を高らかにして芝居がかった口調をつくる!

 

 

「彼等は再び舞台に上がる選択をしたの!」

 

「ほう……」

 

「ボク達も彼らにはもう関わらないでいて欲しかったんだけど……! でも、ナルタキさんが一度声をかけてみろっていうからさ!」

 

 

仕方なかったんだよ、そう言ってわざとらしく泣きまねをしてみせるゼノン。

しかし、急に真面目な顔に戻るとゼノンは一言だけ追加する。

 

 

「本当に関わらないでいればよかったのに。関わらなければ、幸せなままだった」

 

 

成る程、友人は頷くと再び笑みを浮べた。

 

 

「それが彼らの強さですよ。だからこそ、彼らの物語は英雄として伝えられるのです」

 

「……かもしれないね」

 

「それにしても、城戸真司は不思議な存在ですね。彼と野上良太郎は何故……?」

 

 

恐らく、パラレルワールドがより『神々』に観測されているからか。

友人は心の中で考察を広げる。それをゼノン達は笑みを浮べて観察していた。

彼のクセだ、他人と話しているのに考え事を始めれば周りが見えなくなる。

 

 

「もういいかな、出発しても」

 

「おっと、これは失礼しました。お気をつけて」

 

 

友人に別れを告げ、笑顔で消えていく二人。

彼はその姿をジッと見ていた。

 

 

(さて、彼らも私も知らない事が多い。いや多すぎる……)

 

 

でもナルタキと彼女は多くの事を知っているのでしょうね。

自分達は彼女達の友人、協力者であると同時に駒でもあるか?

友人は少し自虐的な笑みを浮べて踵を返す。それを知る必要は無い、しかし気になるのも事実。

正直に言えば、自分はゼノン達よりは魔女側に近い。彼女に直接聞けば答えてはくれるかもしれないが――

 

 

(ふむ、それはそれで味気ない)

 

 

その時だった。

ゼノン、フルーラと入れ替わるようにして新たな来客が訪れる。

 

 

「おや貴方ですか。お早いですね、まだ時間は掛かりますよ」

 

 

現れたのは男と一匹。成る程、確かにオーラが少し違う。

友人は来客を確認すると頭を下げた。男もそれに気づいたのか、彼の言葉に答える。

 

 

「別にいいさ。女性を待たせるのは俺の趣味じゃないからな、先に来てやった」

 

『ほう、面白い場所に出たな』

 

 

現れた男はキザに笑ってみせる。

友人は呆れた様に微笑むと、大切なゲストを部屋に案内する事にした。

 

 

「よろしければ、後で一曲お願いできますか? コーヒーもご馳走しますよ」

 

「ふふん、いいだろう。野郎に捧げる曲はないが、まあお前は特別だからな」

 

 

そう言って、ゲストは友人を乱暴に撫でる。その後にこれまたカッコをつけた様に笑う。

 

 

「ただし、コーヒーはやめてくれ」

 

「ああ、そう言えば苦手でしたっけ。これは失礼」

 

 

友人は軽い謝罪を述べると、来客と共に消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが君は、妖怪と言うモノを信じるだろうか?

 

 

『完全否定』

 

『非現実的』

 

『存在証明』

 

『都市伝説』

 

 

ああなぜ、簡単にいないと決め付けるのだろう?

常識的に考えていないから? ではその常識が間違っているとしたらどうだろう。君の知らない世界があったとしたらどうだろう?

存在するかもしれない。もしかしたら彼らにも社会と言うものがあるかもしれない。

もしかしたら今君の知っている人の中にいるかもしれない。

 

無いと言い切れるかい? 君の常識なんて本当に信用できるのかい? 君は世界の何を知っているんだ?

見た事がない? 世界中を君は探したのか? もしかしたら君の隣の部屋にいるかもしれない。

行ってみたけどいない? 彼らも生きているんだ、動くにきまってる。

だから今は下の部屋にいるかもしれない。

 

おやおや、このままじゃいつまでも終わらないね。

ではもう一度聞こう。君は、本当に妖怪はいないと言えるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な水晶がその部屋にはあった。

部屋と言うには岩肌が荒々しい壁や生活用具がない為に、見たところ普通の部屋ではないようだが。

そしてただのガラス球にも見えるソレ。異様なオーラを放っており、禍々しくも見える。

 

そしてその怪しげなガラス球を囲む様にして、大勢の人達が立っていた。

年齢はバラバラで、中には人間とは思えない容姿の者もいた。

 

 

「おぉ!」

 

 

ガラス球の中に、濁った影が浮かび上がってくる。

その影はしばらく時間を置いた後、徐々に人間の形を模していった。

そして色がついて鮮明になっていくではないか、水晶の周りに居た者達のざわつきが増す。それほどまでにこの影が気になるのだろうか?

 

 

「……っ」

 

 

そして、影は完全な人間となり水晶の中に完成した。

静寂を保っていた室内はもはやどこにもなく、今は大声で誰かと誰かが叫びあっている様にも思える。

中に現れたのは制服を着た少女、それだけが映っている。この少女について人々は騒がしく言い合いをしているのである。

しかし、特に変わったところなど無い様にも見える。そんなにこの少女は何かを持っているのだろうか。

 

 

「静まれッッ!!」

 

「「「!!」」」

 

 

老人ともいえるだろう男の一声で、場は再び沈黙を取り戻す。

それは紛れもない、圧倒的な力の差。

 

権力の差。

 

立場の差。

 

この一声で彼の力がどれだけ程の物かを伺える。

男は水晶に映る少女を寂しげな目で見つめると、ため息をついた。だが同時にハッキリと言ったのだった。

 

 

「この少女が………花嫁だ」

 

 

「「「「!!」」」」

 

 

再び場がざわつき始める。

男自身は目を閉じていたが、周りをよく見てみると、信じられないと言う目で男を見る者、涙を目に浮かべているもの、反面笑みを浮かべているもの。

かと思えば無表情の者と様々な表情がそこにあった。誰しもがこの少女に対して同一の感情を持っていない、そんな様子。

そして、皆が揃って花嫁と言われた少女を見る。

 

 

「お待ちください総大将ッッ! まさか、この少女を花嫁として差し出すおつもりですかッ!!」

 

 

男の言葉が納得いかないと言うように、一人の男が前に出た。

しかしこの男、明らかにおかしい。この男が『人間』と言って誰が信じるだろうか?

男は一言でいうのなら黒い羽が特徴、我々がよく見かけるであろう鳥類、カラスだった。

 

カラスが服を着て立っている。そして言葉を発している。

普通ならば大騒ぎになる事なのだが、その場にいた者達は全員カラスに対しては無反応だった。

代わりに、カラスが男に詰め寄ったのが驚いている様だった。

 

 

「その通りだ鴉天狗。皆の者! この少女を捕らえ、ここに連れてくるのだ!」

 

「なっ!!」

 

 

男の言葉に数名の者は頷き、姿を消す。

鴉天狗と呼ばれた男は信じられないと言った眼で総大将を睨んだ。

 

そう、睨んだのだ。

それがどれだけ危険で無知で無謀な事なのか、烏天狗は分かっているのだろうか?

 

 

「お止めください! どう言う事か分かっているのですか!?」

 

「お前こそ分かってんのか? ああ?」

 

「!」

 

 

そんな中、一人の女。"ヒトツミ"が鴉天狗の肩に手を置いた。

鮮やかで美しい茶色の髪、ショートヘアーに映える美しい髪飾りと美しい着物。

その下はアレンジが加わっているのかスカートの様なものになっている。

 

顔は可愛らしいが、半面着物は大きく胸元がはだけているせいで美しさと妖艶さが増している。

さらに美しい足と肩。普通の男ならば彼女とすれ違った場合、必ず振り向くだろう。

そんな彼女とにらみ合う鴉天狗。

 

 

「どう言う事だッ?」

 

「言ったとおりさ、鴉天狗ちゃん!」

 

 

そう言ってヒトツミは水晶に映っている少女を顎でしゃくった。

鴉天狗は、彼女から発せられる花の香りに混じった血の臭いに顔をしかめる。

本人は正当防衛の為にと言っていたが果たして……

 

 

「花嫁を差し出さなかったらどうすんだってハァ! ナァ!! シぃイッ!! あの惨劇を繰り返すのかぁ?」

 

「グッ…それは……」

 

「お前さんの仲間も何人死んだと思ってるのさ? ありゃ化けモン、アタシらと同じ存在だけれども話しすら通じない。そんなヤツが救済の手を差し出してくれたのさ! これを受けない手はないだろうに」

 

「そのとおりだ鴉天狗よ。心苦しい話だがあの惨劇を二度と繰り返さぬよう、我々は努めなければならない」

 

 

総大将とヒトツミの言葉に、周りからは賛成の声が少しずつあがる。

しかし尚も鴉天狗は反抗し続けた。汗が酷い、彼も相当緊張しているのだろう。

それだけの話が今ココで行われているのだから。

 

 

「ですが総大将ッ! 私達は人間との信頼と友好を掲げてきました! その人間を裏切る事になるのですよッ!」

 

「か、鴉天狗さん落ち着いてくださいッ!」

 

 

興奮する鴉天狗を長髪の少年が抑えた。

鴉天狗の言い分は分かる。だが具体的な解決法がない限り、鴉天狗の言っている事は甘い理想論なのだ。

 

 

「離してくれ天邪鬼(あまのじゃく)ッ! それでも……ッ! それでも私は人間を裏切るような事はしたくないのだ!!」

 

 

甘い考えと言うのは分かっている。

だがそれでも人間との共存の為、彼は抗議を続ける。

そう、彼らは人間ではないのだ。そして彼が無意識に言った言葉――

 

 

『裏切り』

 

 

その言葉に気まずい雰囲気が流れる。

分かっていた言葉、しかし誰もソレをあえて言わなかったのだ。

まさにそれは一番のNGワードと言うにふさわしいから。

 

 

「鴉天狗よ、お前の言いたい事は分かる。だがもし邪神が再び怒り狂った時、我々の力で邪神を止められるのか?」

 

「それは………」

 

 

鴉天狗は歯を食いしばる。

悔しいが、総大将の言っている事に反論できない。

周りにいる者達も反論の言葉がないから黙っているに違いない。

正論すぎる言葉には対抗できない、言葉をぶつける事すらできないのだと。

 

 

「いや……ッ! 鴉天狗の言う通りだ――」

 

「え?」

 

 

しかしふと弱々しい声が聞こえた。それは鴉天狗の言葉に賛成する声、つまりは味方。

鴉天狗は急いでその声がした方向を探す。どこか分からずにしばらく探した後、見つけた。茶色い髪で左目が隠れている少年を。

 

 

「なッ!!!」

 

 

探しても見つからないはずだ。

その声の主は少し離れた所にあった岩の中、正確には岩に埋め込まれていたのだから。

体は半分以上が岩に埋め込まれていて、両腕も埋まっていた。まさに磔の様に少年は拘束されている。

 

 

「鬼太郎殿! あぁ何て事だ……ッ!」

 

 

急いで鴉天狗は鬼太郎と呼ばれた少年を助ける為に岩へと駆け寄る。

だが、何をしてもそこから少年を助け出す事はできなかった。

そしてもう一人。長髪の少年、天邪鬼も驚きに目を見開く。

 

 

「鬼太郎…ッ!! どういう事なんですか!?」

 

 

天邪鬼は顔を青くして総大将に問う。

しかしその事に答えたのは、総大将ではなくヒトツミだった。

 

 

「そこの幽霊族のガキは鴉天狗、んでお前と一緒のことを言っていたのさ。皆で力を合わせて邪神を倒そうなんて馬鹿な考えをね」

 

 

ハンと、彼女は鼻を鳴らしながら腰に手を当てる。

 

 

「だから封印させてもらった。絶大な力を持ったヤツは何をするか分からないからねぇ?」

 

「なっ!」

 

 

その言葉に、岩に埋め込まれていた鬼太郎と言う少年が目を開いた。

大分弱っているようだがその気迫は凄まじく、思わず優勢にたっている筈のヒトツミの笑みを引きつらせる程。

 

 

「馬鹿な考え? お前は分かっているのかヒトツミ」

 

「うーん?」

 

「今はまだ人間の少女を一人捧げればいいと思っているだろうが、それは違う。必ず邪神は要求を引き上げる、必ずだ」

 

 

ピリピリと嫌な空気が流れているのを誰もが理解していた。

しかし何もいえない、何も言う事ができない。

 

 

 

「その時、ボク達は……妖怪も人間も本当の意味で滅びを迎える事になるぞ……」

 

 

弱々しい声だが、少年はしっかりと総大将とヒトツミを睨みながら言う。

まるでそれは警告の様。そう、彼らは人間ではない。『妖怪』と言う種族なのだ。

人間と共存し助け合う世界、平和は均衡を保っている。だが今その秩序が崩れつつあるのだ。

 

 

「そん時はそん時、やばくなったら行動すればいい話じゃないさ。それとも何かい? アンタらは一人の人間差し出しゃいい話をややこしくするつもりなのかしら?」

 

 

ヒトツミの言葉に鬼太郎は首を振る。

 

 

「ボク達は人間を支配しているんじゃない、共存しているんだ…ッ!」

 

 

その言葉に再び烏天狗の目が光る。

 

 

「鬼太郎殿の言う通りだ! 神隠しと言うやり方で人を花嫁にするなど間違っている! 花嫁の家族、友人、そしてなによりこの社会全体を裏切る事になってしまうのですよ!」

 

 

今度は二人の言葉にちらほらと頷く者が出てきた。

しかし、それを総大将は一括する。再び静まり返るその空間。

静寂があたりを包み、再び総大将が静かに話し出す。

 

 

「鬼太郎、鴉天狗、お前達の言いたい事は痛いほど分かる」

 

「だったら――!」

 

「我らは人間を守り、人間も我らを守り、互いに共存を誓った関係だ。その人間を我ら妖怪社会の存続の為、裏切る事となったのは本当に残念に思う」

 

 

だが、しかし。

総大将は水晶に視線を移す。

 

 

「しかし、私は総大将として全ての妖怪と人間を守る義務がある」

 

「……ッ」

 

「この少女一人を犠牲にすれば邪神は静まるのだ。もし、花嫁を差し出さなければ邪神は怒り狂うだろう。その時多くの血が流れる事になる」

 

 

青ざめる者がチラホラと出てきた。

どうやら何か心当たりがあるらしい。

 

 

「たとえ我々が力を合わせたとして、邪神に勝てる可能性がどれ程あろうか?」

 

 

震え始める者もいる。

どちらかと言えば怖がらせる立場にいる彼らが、ここまで恐怖するとは――。

 

 

「恐らく勝つ可能性と全滅の可能性。なれば圧倒的に勝つ可能性は少ない、非情に心苦しいところだが……この少女には犠牲になってもらう他はないッ!」

 

 

言葉に反応して各地で賛成の声があがる。

その声につられて、迷っていた妖怪達も徐々に意思を固めていく。

その事に苦い表情をうかべる鴉天狗と少年、もはや彼らに賛成する者は十人いるかどうかかもしれない。

 

 

「鬼太郎、そなたをこの様な形で捕らえておく事を謝罪しよう。だがそなたの考えは危険だ、邪神に敵対すればただでは済まんだろう。勝てばよいが負ければ取り返しがつかなくなる」

 

 

そう言って総大将はヒトツミに合図を送る。

ヒトツミは頷くと指をならして二人の妖怪を呼んだ。

 

 

瑠璃姫(るりひめ)鏑牙(かぶらが)

 

「はい」

 

「………」

 

 

ヒトツミに呼ばれ現れたのは針金の様な髪に鋭い眼光を持った少年と、西洋の様な洋服に身を包んだスタイルのいい女性だった。

二人はヒトツミの前へ移動すると膝をつく。どうやら主従関係が成り立っているらしい。

 

 

「こいつ等にこの幽霊族の坊やの面倒をみてもらう。お前らは安心して少女を連れて来なッ!」

 

 

ヒトツミの命令じみた言動に皆困惑する。

しかしその言葉に従う者が一人、二人と現れて、遂には殆どの者たちが目的を遂行するために走り去っていった。

 

 

「鴉天狗、天邪鬼これは集団……つまりは世界の意見だ。悪いがお前にも選択してもらおうか」

 

 

鴉天狗達は理解する。

これは選択ではない、命令だ。もし協力を拒めば自分も岩の中へ――

 

 

「天邪鬼、鴉天狗……ッ」

 

「「!!」」

 

 

鬼太郎と言われた少年の眼が語る。それを読み取ると、鴉天狗と天邪鬼は無言で頷いた。

そして総大将に向かって命令を遂行すると伝えると黒き翼を広げて飛び去っていく、天邪鬼もまた姿を消す。

残されたのは四人。総大将とヒトツミ、鏑牙と瑠璃姫。

 

総大将は準備があると言って場を離れた。

完全に彼がいなくなるのを確認すると、鬼太郎と言う少年は再び眼を開けてヒトツミを睨みつける。

 

 

「何が……目的だ?」

 

「んん?」

 

 

ヒトツミは何故か楽しそうに笑ってその瞳を見つめる。

鬼太郎はその表情を見て確信した。コイツは味方ではない、妖怪の事も人間の事も考えていないのだと。

 

 

「まさか…邪神を出現させたのは……ッ」

 

「いんやぁ、あたしらじゃないよぉ! あたしらは坊やと同じさね。そう、同じさぁ」

 

 

そう言ってヒトツミはケラケラと笑う。

そしてそのまま踵を返すと、歩き去ってしまった。そう、彼女はもうこの『世界』に用はないのだから。

 

 

「ほんじゃあ後は頼むよ鏑牙、瑠璃姫ぇ? しっかり坊やの面倒を見てやりな。完全に岩の中に封じられた親父さんの分までねぇ!」

 

 

手を振るヒトツミ。

鬼太郎は無言でそれを見ていたが、彼女が扉に手をかけた時、最後の言葉を彼女に送る。

 

 

「面倒を…見る? 監視の間違いだろ?」

 

「………」

 

「うふふッ!」

 

 

ヒトツミの代わりに瑠璃姫が笑う。

ヒトツミはもう一度無言で手を振ると、完全に姿を消してしまった。のこされた鬼太郎は、瑠璃姫と鏑牙に視線を移す。

何か少しでも話のできる相手ならいいのだが。

 

 

「お前達は、花嫁についてどう考える?」

 

「私は素敵だと思いますよ。儚く、それでいて美しい」

 

「余計な話だ、俺には必要ない」

 

 

瑠璃姫は瞳を潤ませ、鏑牙は淡々と呟く。双方は花嫁について特に何も言う事はないらしい。

鬼太郎は諦めたようにため息を吐くと、そのまま眼を閉じた。

この封印石は想像以上に強力の様だ。襲ってくる疲労に耐え切れず、彼の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労さまです。ヒトツミ様、おかげで舞台を整える事ができました!」

 

「お! 出迎えたぁ気が利くね」

 

 

ヒトツミに向かって膝をつき頭を下げるのは、可憐な少女クルス。

クルスはヒトツミを尊敬の眼差しで見つめると、もう一度深く頭を下げる。

誰もいない部屋、そこへ漂うは黒い意思。ヒトツミはつい口を吊り上げてしまう。

近い未来を思い、彼女はその光景に狂気混じりの笑みを浮べた。

 

 

「やはり貴女をスカウトした私の目に狂いはありませんでした!」

 

 

それはクルス、彼女もまた同じ。

様々な感情の本流、彼女は尊敬の眼差しでヒトツミを見る。

 

 

「だろう? はははっ! ああ、後これ……中々気に入ったよ」

 

 

そう言ってヒトツミは着物をめくって裏側の生地をクルスに見せた。

そこにあったのは、金色の大鷲を模した刺繍。クルスはそれを見るとますます目を輝かせる。

 

 

「素晴らしい……!」

 

「しっかしねぇ、次はもっと暴れられる役回りを与えて欲しいもんさね。期待してるよ? お・嬢・ちゃ・ん?」

 

「はい! 頑張ります! それと……」

 

 

クルスは影に溶けるかのごとく立っていた少年、COBRAに頭を下げる。そして照れた様にはにかみ、お礼を言った。

その姿はまさに『可愛らしい少女』そのものだ。誰しもが彼女の愛らしさに目を、心を奪われるのだろう。

尤もそれは彼女が"人間"ならの話しだが。

 

 

「COBRAさん、ご協力ありがとうございました!」

 

 

COBRA(コブラ)、それがその少年の名前だった。

毒を持ち、圧倒的な威圧で君臨する蛇の仲間。そのコブラと同じ名である。

だが名前の割にはCOBRAと言う少年は普通の格好だった。どこにでもいる少年、普通の服に身を包み、誰が見ても彼が『特別』とは思わないだろう。

少しハーフの様な顔立ちに、何か儚げな雰囲気がある少年だった。

 

 

「そうそう! いやぁ、コイツがいなかったらもっと時間かかってたよ。ッて言うかアタシだけじゃ負けてたかも」

 

 

ヒトツミもCOBRAに向かって乱暴な拍手をおくる、だが彼はは不愉快そうに顔をしかめ顔を反らした。

事実、不愉快だったのである。だが二人には照れているようにしか映っていなかったようだ。

 

 

「僕は……やる事をやっただけだ」

 

「ご謙遜を! ではヒトツミ様、COBRA様、後はデータを取るだけですので、どうかお先にお帰りください! 財団の"豪島"様にはこちらから報告結果を入れておきます!」

 

 

クルスは太陽の様に微笑むと、パタパタと走り出した。

それを見てヒトツミは笑う。だがそれは子供を見守るような暖かいものじゃない。額に汗を浮かべて……だった。

 

 

「ありゃりゃ、嘘ついちまったよ。ハハハ!」

 

「………」

 

「ま、でもアンタがいなけりゃあの幽霊族の坊やを倒す事はできなかったかもしれないってのはマジな。とんだ化け物がいたもんさ、いやぁ助かった助かった!」

 

 

世界は広いな、そう豪快に笑うヒトツミを冷めた目でCOBRAは見つめる。

だが彼は少し戸惑った後に口を開いた。

 

 

「お前はどう思う」

 

「んん? 何が?」

 

 

全てだ。

そう言ったCOBRA、ヒトツミはニヤリと笑って壁にもたれかかる。

大きくはだける着物が露出を増して、彼は思わず目を反らした。それを青臭いとヒトツミは大笑い。

ますます機嫌が悪くなるCOBRAをさらに馬鹿にすると、ヒトツミは答える。

 

 

「そりゃあ率直に言えば微妙だわさ。こんなチマチマしたやり方は性に合わないって」

 

「そうか……」

 

「でも、この世界を選んだ事は評価してやってもいい。人間と妖怪の共存? ハッ、反吐が出る。人間なんざあたしらの餌だろうに!」

 

「……ッ」

 

 

一瞬表情が緩んだCOBRAだったが、また険しいモノに変わってしまった。それに気づいたヒトツミは、またケラケラと笑い出す。

どうやら彼は甘いガキと言う訳か。ヒトツミは内心でCOBRAを馬鹿にしつつ、しかしどこか共感していたのかもしれない。

彼の問いかけにしっかりと答える判断を下した。

 

 

「んな目で見るな見るな。だははは! 全部の人間がそうって訳じゃない、あたしも心ってもんがある。気に入った人間なら助けるし、喰らわねぇよ」

 

「……なるほど、少しは安心できそうだな」

 

「気持ちは分かるさ。あの女、クルスっつったか? ありゃヤバイね」

 

 

ヒトツミはわざとらしく鼻を鳴らして臭いを嗅ぐ動作を行う、そしてまたわざとらしく鼻を押さえて手を振った。

くっせぇ、くっせぇ、お花の香水なんかじゃ取れないのが分からないのかしらと。

 

 

「あたしも他人様の事なんざ言えた義理じゃねぇが、あの女……血の臭いが尋常じゃない」

 

「……ああ」

 

「しかもこれは子供だな。あの女、一体何人殺したのか? くひひひっ、あたしだって子供を喰らうのは躊躇うもんだがねぇ!」

 

 

しかしヒトツミは、やはりどこか楽しそう。

それを冷めた目でCOBRAは見つめると、自分達もオーロラを出現させて消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

    

              ソ

   

            シ

  

               テ 

 

           世

  

                界

 

             ハ 

 

 

              彼

  

            女

 

 

                ヲ

 

 

              殺

 

 

 

              ス

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

クククッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

我夢は美しい月に照らされた中庭にいた。

この世界の月明かりはとても明るく、とても切ない。蒼い光が中庭を照らし、すこし怖い程の静寂を保っている。

我夢は自分以外の人間が全て消えてしまった様な感覚に陥った。世界中、広い世界に自分ただ一人が取り残された様な――

寂しさ。空しさ。悲しさ。涼しい風は、より深く心に響く。息すらも忘れるほどに静かで綺麗な夜だった。

 

 

「眠れないんですか?」

 

「ッ!」

 

 

中庭の入り口から涼しい風と共にアキラが現れて、我夢に声を掛ける。

まだ仲直りしてから間もない為に、二人の距離にはどこかぎこちなさがある様に感じた。

それを証明するかの様にアキラは我夢の隣に座るものの、少し間隔があいている。

 

 

「そ、そうですね…あはは」

 

「………」

 

 

まだ少し気まずいものだ。

アキラも我夢も何も言わずにしばらくは時間が過ぎていった。

だが、ふいに我夢が口を開く。別に沈黙に耐えられなかったからではない。

誰かに、自分がたった一人取り残されないよう話を聞いて欲しかったのだ。

 

 

「僕は…響鬼になれると思いますか?」

 

「………」

 

 

今まで全ての試練が成功という結果に終わり、いよいよ自分を残すだけとなった。

絶対に失敗してはいけない。深く考えてはいけないのだと我夢は思うが、それでも少し緊張してしまう。

もちろん皆がこのプレッシャーと同じ物を背負い、そして変身した。

それは本当に凄い事なのだと我夢は思う。そして、自分はどうなんだろう?

 

分かっている。こんな事を考えていても無駄だと言う事くらい。

だが、やはり最後と言うプレッシャーは大きかった。自分が間違えればどうなる……?

 

 

「―――え?」

 

 

うつむく我夢だったが、ふと何かに包まれる。

気づけばアキラに抱きしめられていたのだ。

 

 

「!!」

 

 

真っ赤になって驚く我夢にアキラは顔を近づける。

いや近づけるなんてものじゃない、唇と唇の距離は一センチあるかどうかだろう。

冷静さを失って慌てる我夢をよそに、アキラは静かに囁いた。

 

 

「やっと、気づいたんです。我夢君…私は、あなたの事が………」

 

「え!? あのッ???!?!??!!?」

 

 

アキラは目を閉じて、自分の顔を我夢に思い切り近づけ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?!??!?!?!?!?」

 

 

飛び上がるように起きるなんて、漫画だけかと思っていたがどうやら違うらしい。

とにかく布団から跳ね上がるように起きると、今の事が何なのかを確かめる。

先ほど、自分は制服を着ていた。だが今はパジャマだ……

 

 

「……っ」

 

 

唇にはなんとなくな感触があるような、ないような……

と言うか、今自分がいる所が中庭でない事から察するに、今のアレは夢なのだろう。

 

 

「ゆ……夢…!?」

 

 

落ち着け、落ち着くんだ。

必死に胸を押さえて冷静さを取り戻そうとするが、心臓の鼓動は増すばかりだ。

全く、なんて夢を見るんだろうか。

 

 

「ん……どうしたのぉアキラちゃん…?」

 

「え? あ、あのっごめんなさい真由先輩」

 

「眠れないのぉ…? 眠れないんだねぇ…あ、そっかぁ…おトイレに行きたいんだねぇ? いいよぉ、ついて行ってあげるねぇ」

 

「え? あ! う?」

 

 

そう、あの夢を見ていたのはアキラだった。隣で寝ていた真由は眠い目を擦って立ち上がる。

アキラは戸惑いながらも真由について行く事にした。とにかく混乱が酷い、なんとかして落ち着かなければ――ッ!

 

 

「むにゃ……」

 

 

真由はふら付きながら扉の前に立っていた。

と、言ってももちろんアキラはトイレがしたい訳ではないのでただボーっと座っているだけ。

そんな事よりさっきのは何だったのか、それだけが気になっている。

 

 

「おてては……ちゃんとぉ…洗わないと……ダメな…んだよぉ」

 

 

消え入りそうな声を聞いてアキラは我に帰る。

すぐに眠そうな、というか既に眠っている真由を抱えると、寝室として使っている教室へと戻っていく。

だが、アキラの頭の中はそれどころではない。先ほどの光景が一体なんなのか、何を意味するのかを必死に考えているのだ。

ああ、気のせいだろうか。唇が熱い気がする……

 

 

「す、すいません真由先輩。おやすみなさい」

 

「うぅぅん、おやすみなさい……」

 

 

アキラは頷くと、自分も目を閉じる。

 

 

 

だが

 

 

「………」

 

 

アレはなんだったのか!?

 

 

「………」

 

 

唇にのこる感触は?

 

 

「………ッ!!」

 

 

眠れないッ! 全然眠れないッ!! 無性に気になって全然落ち着かないッッ!!!

 

 

「…っ」

 

 

時計を見る、時間は一時だ。

そしてふと周りを見てみると、一つだけ布団が空になっているではないか。

女性陣はいつも集まって寝ているので誰かがいないという事になる。誰がいないのだろうか、暗くてよく分からない。

 

 

「………」

 

 

完全に目がさえてしまった。

ちょうどいい、誰かを探しにでもいこうかな。アキラはそう決めると、立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ? アキラちゃん、どうしたの?」

 

「ええ、ちょっと眠れなくて……となりいいですか? ハナさん」

 

「あはは、いいわよ。どうぞ」

 

 

適当に外に出てみたら、屋上でハナが座っているのが見えた。

なにやら寂しげで深刻な表情をしていたが、アキラが隣に座ると彼女の表情は和らぐ。

 

 

「綺麗ですね……」

 

「うん、本当に……」

 

 

二人は屋上で月を見上げる、この世界の月は驚くほどに美しく明るい。

しばらく月をぼんやりと眺めていたが、ふいにアキラが口を開く。

 

 

「どうしてハナさんはここに?」

 

「あ……うん。ちょっと考え事をね。アキラちゃんは?」

 

「じ、実は――」

 

 

一瞬、話すかどうか迷ったが自分じゃどうしようもできない。

アキラはハナに相談する事を決めた、夢の内容が妙に引っかかって気になるのだと。

 

 

「あはは、分かる分かる。夢でそうなっちゃうとどうしても現実で意識しちゃうよね」

 

「あれ? という事はハナさんもあるんですか?」

 

「……え゛!?」

 

 

ハナは顔を強張らせてアキラから目をそらす。

 

 

「な、ないわよ?」

 

「嘘です」

 

 

一秒もないんじゃないかと思うアキラの返し。

 

 

「う……ま、まあとにかく! まずそもそもアキラちゃんは我夢君をどう思っているのか。そこからだと思う」

 

「弟とか……単なる友達ですよ」

 

「そんなまた一瞬で……」

 

 

もっと何かこう、男と女的な意味だとハナから言われてアキラはもう一度我夢を思い浮かべる。

アキラは考える。我夢のことをそんな風に考えたことなど無かったが――

 

 

「ッ!」

 

 

つい思い出してしまってアキラは唇を押さえた。

その様子を見てハナも苦笑しながらため息をつく。

 

 

「いろいろ、大変よね本当に。自分の思いに気づくのも」

 

「?」

 

 

さてと、そう言ってハナは立ち上がりアキラに手を差し出した。

 

 

「もう遅いわ。はやく寝ましょ?」

 

「は…はい……」

 

 

アキラは複雑そうにその手を掴むのだった。

ハナはそのつないだ手をジッと見る。そう、これでいい。これでいいんだ

 

 

(良太郎、わたしは決めたよ……)

 

 

この手は離さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、どこかにあるだろう喫茶室。

 

 

「ナルタキ、見つけた。この世界なら城戸真司達を再び龍騎に変身させる事ができろう」

 

 

魔女は気ダルそうに本を振り回す。

 

 

「絶大な力を持つ原典(オリジナル)にして龍騎(ストーリー)再構築(リ・イマジネーション)を行った世界。

 こんな条件のいい世界はもう見つけられないと言ってもいいかもしれません」

 

 

魔女は書斎にてナルタキに一冊の本を渡す。

受け取ったナルタキも、思わず強張るくらいその本はある種、神々しい雰囲気を放っていた。

あきらかにそこらへんにある本とは違う異質さ、ナルタキは慎重にページをめくっていく。

震える手を隠しながらもナルタキは確かに頷き、しばらくした後に本を閉じた。

 

 

「成る程、確かに龍騎と全く違うが、全く同じといってもいいな」

 

「こんな条件がそろっているのは、やはり"仮面ライダー龍騎"くらいか……いや、電王もまた――」

 

 

ナルタキは本を魔女に返すと、近くの椅子に座りため息をつく。

彼らが読んでいた本は普通じゃない。いくらこの書斎に長く居るナルタキであろうと、その疲労を軽減する事はできないのだ。

 

 

「龍騎の問題はどうにかなりそうだ。後は……」

 

「この試練か」

 

 

そうだ、ナルタキは頷く。

しかしその後に複雑な表情をして言葉を付け足した。

その口調は静かで何も感情を込めようとしない、こめたくないと言う様子だった。

 

 

「尤も、この試練は簡単に終わりそうだがな」

 

「………」

 

 

もう一度ため息をはいて立ち上がる。

少し休む、そう言って書斎を出て行くナルタキを魔女は何も言わずに見ていた。

そうやってナルタキが出て行った後に、魔女はニヤリと笑う。

 

 

「結局、そなたを苛むのはいつも甘さ」

 

 

いや、それとも半端な優しさか?

 

 

「どちらにせよ、決断の強さは持たなければ」

 

 

魔女はもう一度笑うと、紅茶に手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、もうカイは……」

 

「ああ、死んだ。イマジンもあいつ等以外は皆消滅したらしい」

 

「……!」

 

 

夜の校庭、その隅で良太郎が誰かと話していた。

人目もつきにくい場所。ましてこの時間におきている人はいないだろう。

深刻な表情から、彼らにとってとても大事な事なのだと分かる。

 

 

「じゃあ……もうぼくの世界は平和なんだ」

 

「まあ、少なくともイマジンにおびえる事はないな」

 

 

良かった。

良太郎は微笑む、それを少年は複雑な表情で見ていた。

 

 

「野上、俺にも今お前らがどういう状況になっているのか全くわからねぇ。だけど戻らなくちゃヤバイってのだけは分かる。お前はどうするんだ?」

 

「………ッ」

 

「俺の前に現れたあの二人、あれは普通じゃない。現に今俺はお前と会えた訳だからな、だがそれも少しの時間だ。もう一度聞くぜ、お前はどうするんだ?」

 

「侑斗……ぼくは――」

 

 

良太郎は、目の前にいる桜井(さくらい)侑斗(ゆうと)の言葉に沈黙した。

いや、以前の彼なら沈黙していただろう。まだ迷いがあったから。だけど今は――

 

 

「彼らと一緒に戦うよ」

 

「……ッッ!!」

 

 

侑斗は少し驚いたように目を見開くが、すぐに苦笑する。

そう言うと思ってたよ、そんな言葉をかけられて良太郎は目を丸くした。

 

 

「そうだな、お前はもう関わっちまったんだ。途中で逃げ出すのは……らしくないか」

 

「うん、これはぼくが決めた事だから」

 

「まあ、なんつうか……バカだなお前」

 

「ええ!?」

 

 

正直、姉が悲しむと言えれば、まだ可能性はあったのだろうか?

いや、自分だって知ってしまった以上無責任な事はいえない。彼はため息をついた。

それにコチラも全く関係ないとは言えないらしい。

 

 

「できれば俺も協力してやりたいが――悪い、制約がある」

 

「ううん、侑斗は姉さん達を守ってあげて。みんな大切な人だから」

 

「野上……、ああ分かったよ」

 

 

侑斗は複雑な表情で頷く、そして良太郎にソレを差し出した。

驚く良太郎に説明する、赤い髪と青い髪の二人組みが言っていた。

世界にはちゃんと別のゼロノスがいて、ちゃんとソレも存在しているのだと。

侑斗はソレに力を込める、すると不思議な事に侑斗の体とソレが鈍く輝きだした。しばらくすると光は消えて、侑斗は満足気に頷く。

 

 

「あの二人組みが言った通りだな、コレに力を込めると……」

 

 

侑斗の説明で良太郎はなんとなく理解する。

なぜ今まで普通の生活を送っていた司達が変身できた途端、戦いのセンスに目覚めたのか。

 

 

「これを、アイツに渡してくれ……それと、コイツを頼む」

 

「!」

 

「俺は助けてやれねぇからな、せめてこのくらいはさせろ」

 

 

侑斗の隣から現れた者を見て、良太郎は信じられないと言う表情を浮かべる。だが侑斗と、その者は『いいんだ』と、首を振った。

今までの話を聞いて彼はその決断をした。いや、もっと前からしていたのかもしれない。

これから始まろうとしている事は、イマジンとの戦いと言う彼らの戦いだけでは済まない程強大なものかもしれない。

そんな考えが、いつしか侑斗と彼の中でなかば確定しつつあった。だからその選択をする。その選択を決断したのだ。

 

 

「まあ俺はもう俺一人で戦える。いや、俺は一人じゃない……」

 

 

受け入れてくれる者、そして教える者ができて。

 

 

「侑斗はぼくらの世界に必要だから……でもぼく達は――!」

 

 

良太郎は侑斗を説得しようと口を開く。

しかし言葉を遮ったのは他ならぬ侑斗自身だった。

 

 

「必要さ。お前だって、アイツだってな」

 

「!」

 

「少なくとも、俺はそう思うぜ」

 

 

侑斗は良太郎の決断を受け入れる。彼らが決めた事だ、もう自分が何を言う事もない。

だからせめて、せめてすこしでも自分たちが助けることができたら。それは、侑斗と彼の決断。

 

 

「よろしく、野上!」

 

「だけどッ!」

 

 

尚も拒もうとする良太郎を、侑斗は少し小突いた。

呆気にとられる良太郎に、彼は強く強調して言い放つ!

 

 

「いいか、俺はお前らとさよならするつもりはない! お前らもそのつもりだろうな!」

 

「うぅ……! それはもちろんだけど、でもッ!」

 

 

でもじゃねぇ! だったら何も言うな!

そう言って侑斗は強引に良太郎とその者を押し出した。

それは彼らの絆。たとえ離れ離れになろうとも、たとえ世界が彼らの絆を壊そうとも、屈っしはしない。

 

 

「じゃあ、またな野上、それにお前もしっかりやれよ」

 

 

またな。

文字通りまた会えるであろう人に使う言葉。

それを合図にしてなのか、侑斗の背後に砂のオーロラと三つの影が現れる。

 

 

「そろそろ時間だわゼロノス、お別れはすんだのかしら?」

 

「安心してくれていいよ、コレは永遠の別れなんかじゃない。多分……ね。フフフッ!」

 

「またね……ですか。成る程、お話した通りあの件もありますので」

 

 

侑斗は現れた三つの声に答えると、少し疲れた様にため息をついた。

ゼノンとフルーラだろうか? 向こう側の映像が乱れすぎていて全く誰か分からないし、シルエットもめちゃくちゃだ。かろうじて声で分かる程度だった。

それにあと一人? だれかいるのだろうか、聞き覚えのない声が聞こえる。女性のような? いや男性かもしれない。不思議な声だった。

 

 

「そろそろ時間か……」

 

「ハナさんには会ったの?」

 

「ああ、さっき居たからな……」

 

 

侑斗が渡した力は何よりもハナの為と言ってもいいかもしれない。

全然意識していないとは言え、一応は自分の子供なのだから。

 

 

「なんだかな……」

 

 

侑斗はため息をついて背を向ける。

そしてもう一度、また会えるさと、再会をすると言う事を前提とした挨拶を交わした。

 

 

「ゆう……と」

 

 

良太郎の隣にいた者は、思わず彼を呼び止めてしまう。

本当は離れたくない、別れたくはない。だけどコレは別れなどではないのだともう一度侑斗は叫んだ。

 

 

「しつこい! じゃあまたな! 絶対に死ぬなよ!」

 

 

彼だって声が震えているのは……きっとそう言う事なんだろう。

相変わらずだな、良太郎は少し微笑んで二人を見ていた。

 

 

「ちゃんと……しいたけは食べるんだぞ!」

 

「ああああうるさい! 分かってるよ!」

 

 

乱暴に手を振って侑斗はオーロラの中に消えていった。

それを二人は名残惜しそうに、でも清清しく見送る。

 

 

「本当に……良かったの?」

 

 

戻れる保障は無い。

 

 

「ああ、いいんだ。その方が侑斗も喜ぶ。野上もよろしくな!」

 

 

そう言って彼は良太郎を抱きかかえて、どこから取り出したのか。

飴を一つ彼の口に入れた。甘い香りと、優しい風味が広がって思わず良太郎は微笑む。

 

 

「……ありがとう」

 

「あははは、よろしく! 野上ぃ!」

 

 

その時、拍手が聞こえてきて二人は振り返る。

そこにはゼノンとフルーラ。二人がオーロラの向こうからコチラに来ていた。

 

 

「「はじめまして、野上良太郎!」」

 

 

Episode DECADE八番目の適合者!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビビョォゼェェ♪」

 

 

朝、鼻歌交じりで葵は朝の食事を用意していた。

最後の試練と言う事ですこし豪華にしてみたのだが、みんなは喜んでくれるだろうか?

 

 

「うーん……」

 

 

でも少し用意に時間がかかるかもしれない。

間に合うだろうか? もう少しでみんなが起きてくるだろうに……

 

 

「手伝います!」

 

「え?」

 

 

急にそんな声が聞こえて葵は振り返る。

そこにいたのは――

 

 

「ど、どなた……?」

 

 

この日、新しいメンバーが加わることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、アキラがおかしな夢を見ていた頃、当の彼はどんな夢を見ていたのだろう?

彼は夢の世界をちょうどさ迷っている所だった。

 

 

「―――」

 

 

自分を呼ぶ声が聞こえる。

ぼんやりと見える世界、景色はどこかで見たような事のあるものばかりだった。

だけどそれがなんなのかは分からない、でもどうでもいいような気もして我夢は特に気に留める事は無かった。

 

 

『――ム』

 

 

また自分を呼ぶ声がして、我夢は振り返る。

しかしそこで少しの違和感に気がついた。自分を呼ぶ声がしたのに、何故かしっくりとこないのだ。

まるで自分が呼ばれていない気がしてならない。そんな事はないのに――?

 

 

『―スム』

 

 

あれ? 自分の名前が思い出せ――

 

 

『アスム!!』

 

「!!??」

 

 

彼もまた飛び起きる様にして起床する。

しかし今まで自分がどんな夢をみていたのか全く覚えていなかった。

不思議な話だ、今の今まで記憶があった気がしたのに。しかし食堂が騒がしい、何かあったのだろうか? 我夢は夢の事を忘れて食堂へ向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デネブッ!? どうしてっ!!」

 

「ハナちゃん! 久しぶりだなぁ! ははは!」

 

 

起床してきたハナ達の目に飛び込んできたのは桜井侑斗の契約イマジン、デネブ。

なぜ彼が!? 戸惑うハナに構わず、デネブはにこやかに彼女へ話しかける。まるでいつもの様にだ。

 

 

「司君、デネブも一緒に居ていいかな?」

 

「ああ、別に全然いいんだけど……どう言う事なんだ!?」

 

「実は――」

 

 

隠し事はしたくない。

だけどいらぬ心配もさせたくない、だから最低限の事しか話さなかった。

ゼノンとフルーラがデネブを連れてきたのだと。

 

 

「はい、デネブキャンディーをどうぞ!」

 

「わぁ! ありがとう……! おでぶちゃん良い人だね!」

 

 

真由はデネブから貰った飴を口いっぱいにほお張りながら、デネブに抱きついていた。

その様子を見て、良太郎は安心したように笑う。どうやら、受け入れてくれる様だ。

母親の様に真由をあやす彼を見て、良太郎はもう一度微笑む。

 

 

「それにしても助かったわ、ありがとう!」

 

 

デネブが朝食の用意を手伝ってくれたおかげで、無事に葵は全ての調理を終わらせる事ができた。

その事について葵は素直にお礼を言うが、それに対してデネブは首を振る。

 

 

「葵さんの料理は勉強になります! 俺ももっと勉強して侑斗に喜んでもらえるようにならないと!」

 

 

一同は賑やかに笑いあう。だが朝食が終わるとハナは表情を曇らせて良太郎を屋上に呼んだ。

彼女はどうしても気になるのだ、ハナも昨日侑斗に会った。ただ、たった一言『好きなようにやれ』と言われただけ。

一体良太郎にはなんと言ったのか? どうしてデネブがいるのか? ハナとしてもいろいろと気になるのだ。

知らないなんて嫌だ、どうしても納得がいかない。だって自分だって電王ペアなんだから。

 

 

「デネブは……?」

 

「皆と遊んでるよ。あはは、本当にお母さんみたいだね」

 

「そうじゃなくてっ! どうしてデネブがここにいるの!?」

 

 

良太郎はうなずくと、ハナにすべてを打ち明けた。

隠していても仕方ない。自分と彼女は電王ペアなんだから。

 

 

「前にハナさんにも話したよね。エピソードディケイドにぼく達は関わり過ぎたんだって」

 

「うん、ゼノンくんとフルーラちゃんに言われたんだよね? よく分からないけど、そのエピソードディケイドが何かあるの!?」

 

「そうだね。ぼく達は司君達を助ける事を決めた。それがぼく達にとってどう言うことなのかも……ハナさんには話したよね」

 

 

ハナはうなずく。

そして二人の覚悟を知ったゼノンとフルーラは良太郎達を引き止めるのではなく、むしろ背中を押す手段に出たと言う事だった。

その結果が侑斗を呼び出しデネブ参戦させるというもの。

 

ただ逆に考えてみる。侑斗とデネブ、彼らの絆は深く強い。

その彼らが永遠に離れ離れになる可能性があると言うのに協力してくれたと言う事は……

 

 

「この問題は、ぼく達が考えている以上に深刻なのかもしれない。

 侑斗も詳しくは話してくれなかったけど。あとそうだ、ハナさんにこれを――」

 

 

良太郎はハナにそれを差し出す。少し迷ったが、隠し通せるわけが無い。

それにさっきも言ったとおりだ。彼女は自分にとっての大切なパートナー。共に、一緒に――

 

 

「これって!!」

 

「侑斗がハナさんに渡してくれって。くれぐれも注意するように……あと――」

 

「あと?」

 

「好き嫌いはするなって」

 

 

良太郎は笑うが、ハナは不機嫌そうに頬を膨らませる。

子供扱いして! いくら仮にも父親だからって!!

 

 

「ハナさん、ごめん」

 

「え……?」

 

「ぼくについてきたからハナさんまで――それに、モモタロス達も」

 

 

良太郎は謝罪の言葉を口にしようとして、できなかった。

ハナに抱きつかれて、言葉がとまってしまったのだ。ハナは良太郎の胸に深く顔を埋めてつぶやく。

 

 

「今度そんな事言ったら、良太郎でも許さないから!!」

 

 

キッ! と睨みつけるハナ。

可愛らしいと、一瞬だけ錯覚したがとんでもなく怖い。

良太郎はすぐに青ざめて震え始める。しかし同時に確かに彼女の優しさも感じる事ができた。

 

 

「……うん、ごめんねハナさん。一緒に戦ってくれる?」

 

「うん、ずっと一緒だよ?」

 

 

良太郎は微笑んでハナを抱きしめる。

たとえ、全てが終わっても、このぬくもりだけは……残り続けるのだろう。

 

 

「俺達もだよな、良太郎!」

 

「「!!」」

 

 

二人が振り向くと、モモタロス達が立っていた。

彼はバタバタと良太郎に駆け寄ると彼の髪をわしゃわしゃと。

 

 

「何カッコつけてんだよ良太郎! このこのッ!!」

 

「や、やめてよぉモモタロスぅ!」

 

「ちょ、ちょっと止めなさいよバカモモ!」

 

「うるせぇな! お前らに真面目な表情は似合わないんだよ!」

 

 

良太郎はヘナヘナしてればいい、ハナクソ女は怒っていればいい。

それが自分達が確かに覚えている記憶と言うものだ。

 

 

「世界がなんだよ、そんな意味不明なもん気にすんな! ゴミ箱にでも捨てちまえ!」

 

「も、モモタロス……!」

 

「気にするも何も、先輩にはそもそも何が起こってるのかさえ分かってないんじゃないかな?」

 

「なんだとぉ!?」

 

 

いつもの様に喧嘩を始めるモモタロスとウラタロス。

そして気づけば寝ているキンタロス、二人を煽るリュウタロス。

そうだ、景色は変われどいつもの光景がそこにはあった。

 

 

「こらぁああ! あんた達いい加減にしなさい!!」

 

「「………」」

 

 

ハナの一括で静まるモモタロス達。

彼は頭をかいて、もう一度良太郎を見る。

 

 

「まあなんだ、そういう事だぜ良太郎」

 

「え?」

 

「お前がどこに行こうと、俺は一緒だ」

 

「……うん、そうだね」

 

 

そうだ、絆がある。

 

 

「良太郎の中に入れば面白い事がたくさんあるからね、退屈しなくていいよ」

 

「他の誰々が忘れても、俺は良太郎を覚えとるで」

 

「いろんな世界にいくのも楽しいしねー!」

 

 

仲間がいる。

どんな時間の中でも、どんな世界の中でも変わらない思いがある。

そうだよね、侑斗。

 

 

「うん、もちろん! ね? ハナさん」

 

「うん!」

 

 

二人は悲しげだが、確かに笑い合う。

永遠の、絆。それは世界をも凌駕する答えなのだろう。

そう、そして、ぼくはこの運命を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・目次 contents

 

 

【1】

 

仮面ライダークウガ Tips オリジナル・五代雄介

 

・主要登場人物紹介

 

 小野寺ユウスケ

 空野薫

 

 

【9】

 

仮面ライダーキバ Tips オリジナル・紅渡

 

・主要登場人物紹介

 

 聖亘

 野村里奈

 

 

 

 

記されるは短編。

そして物語に無くてはならない主役という存在、ヒロインと言う存在。

そして新たに、彼らがこの物語の登場人物として記さる事となる。

 

 

【8】

 

仮面ライダー電王

 

・主要登場人物紹介

 

 野上良太郎

 ハナ

 

 

 

「………」

 

 

空欄だった箇所が埋められる。魔女はそれが愉快なのか、口を吊り上げた。

予想通り? 意外? 女は不適に笑うと、紅茶を隣に座っていたナルタキに勧める。

 

 

「頂こう」

 

「これで後は試練をクリアするだけだな。そなたは運がいい、これは相当な逸材。幾重の時を重ねればこの様な展開にめぐり合えるだろうか?」

 

「彼らは切り札だ、そうでなければ困る」

 

 

それにこれは偶然ではない、必然だとナルタキは語る。

魔女はそれをヘラヘラと笑いながら聞いていた。もう彼らの頭には少女が一人死ぬと言う事はどうでもいい話になっているのだろう。

ナルタキや魔女は結果を尊重する。それはそうだ、一体彼らが今まで何人の人間を見てきたのか?

そしてその中には司たちと同じようなケースも多かった。

 

 

「だが、結局最後までチームで試練をクリアできた者は一握りだったな」

 

「エピソードディエンドは稀なケースであり異例だ。私もそこまでの結果は望んでいない、この試練を失敗しようがしまいが兵力としては十分に確保できる。」

 

 

全滅しなければ、彼はココを強調した。

 

 

「途中で引き抜くことは?」

 

「死が決定しているのならディケイドと電王以外は切り捨てる。彼らは特別であって特別ではない」

 

「全てはディケイドを中心としている。彼らはその恩恵を受けただけにしか過ぎぬのか」

 

 

魔女は頷くと、視線を本へと移す。

そこに見えるのは司たちの行動、今までの記録。

魔女はもう何も言う事はない、黙って観測を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、話したのがこの世界のクリア条件だよ」

 

「ずいぶん気前がいいな。今までそんな事教えてくれなかったじゃないか」

 

 

司は目の前で紅茶をすするゼノンとフルーラに訝しげな視線を送る。

だが、彼らにとってはなんともない事。逆にくすくすと笑うネタを与えてしまっただけのようだった。

司はもうコイツらには勝てないと悟り、話を続けるのだった。

 

 

「つまり、なんだ? この世界では変身アイテム手に入れたらクリアなのか?」

 

「ええそうよ、変身音叉・音角。それを手に入れる事が最後の試練である条件」

 

 

要するに響鬼が使う変身アイテムを手に入れろと。

 

 

「他の試練よりかは簡単じゃないかしら? この世界にはモンスターもいないみたいだし」

 

「待ってくれ。響鬼の変身は少し特殊だ、我夢は既に鬼の資格を持っているのか?」

 

「世界が違えば過程も変わる。君の知っている響鬼はこの世界の響鬼じゃない、いわばパラレルと言うべきかな?」

 

 

先入観は捨てろ、ゼノンは広い世界で生き抜くためにはそれが必要だと告げる。

要はこの世界では純粋に音角を手に入れればいい、それだけだ。

だが正直、意外だった。最後なんだから一番難しかったり大変なものを想像していたが、どうやらそう言う事ではないらしい。

 

 

「音角は座敷童(ざしきわらし)と言う少女が持っているよ。じゃあまあ、頑張ってね? フフフ!」

 

「あ! おいッ!」

 

 

二人は笑顔で手を振ると、そのままオーロラの中に消えていった。

取り残された司達は呆然と立ち尽くす。一応最も重要な事は聞けた訳だが――

 

 

「……ん? 座敷童ってどう言う意味なんですかね?」

 

 

本名? それとも本物? はたまた芸名か?

いろいろ考えたが、とりあえず探しに行こうと言う流れになる。

しかし皆その音叉の形が分からないので、まず司はうろ覚えながらも音角の絵を描いて見せた。

 

 

「こんな感じ……だったような?」

 

 

瞬間、固まる教室……

 

 

「え? 何これ? バナナ? 下手すぎワロングラッセwwww」

 

『ファイナルアタックライド』『ディディディディケイド』

 

「アッー!」

 

 

はい、という訳でみんなはバナナっぽい音叉を見ていく。これを探せば良いわけだ。少し、いやかなり簡単だろう。

今までの試練と自分の試練を重ねてしまいつい我夢は申し訳なく感じてしまう。

尤も簡単ならばそれにこした事は無い。我夢は少し安心していた、どうやらこの試練はクリアできそうだ。

それは皆の足を引っ張らないですむ、と言う事でもある。

 

 

「よし、じゃあ探しに――」

 

「あ! ちょっと待ってくれないか!」

 

「?」

 

 

司達が外へ出ようとした瞬間、デネブが皆を呼び止めた。

どうしたのかと司達が問いかけると、彼はポケットから何かを取り出す。

何やら話を聞いてみれば、今日の朝に彼は学校の周りを掃除していたらしい。

箒で落ち葉やらを取っていると、何かが道に落ちているのが見えたと言う。

最初はゴミかと思ったデネブだが、不思議な形と装飾から捨てずに今まで持っていたのだ。

 

 

「……あれ? これって――」

 

「え?」

 

 

一同はソレを囲んで見る。どう考えてもこれは……

 

 

「ん?」

 

 

横から見ても……

 

 

「あれ?」

 

 

縦から見ても……

 

 

「んんんん!?」

 

 

頭にのせても……

 

 

「いや、それは意味無いがな」

 

「………」

 

 

咲夜の冷たい視線をスルーすると、司はもう一度まじまじとソレを見た。

やはり間違いない、これは……

 

 

「変身音叉ッ音角ぅう!?」

 

「「「「ええええええッッ!!?」」」」

 

 

皆の表情が一気に変わる。

それはそうだ、何故ならデネブが見つけたというソレは、この世界のクリア条件そのものなのだから!

だが少し落ち着きをとり戻した司は様々な可能性を考えてみる。

例えばそう、これは偽者である、だとか。似た感じのアイテムだろうか? いやいや、大穴をついて本物!?

 

 

「と、とりあえず変身してみればいいんじゃないかな?」

 

「あ! そうですよね! じゃあ早速……」

 

 

そう言って司は我夢を連れて物陰に隠れる。

なぜ隠れたのかと言うと――

 

 

「やった……やりました!!」

 

「わあああ! 待て待て待て! タオル!タオル!」

 

 

喜ぶ我夢の声が聞こえてきて一同はまさかと顔を見合わせる。

いや、というよりこの状況で喜ぶ理由があるとすれば、もはやそれは一つしかないだろう。

 

 

「おぉぉ!?」

 

 

皆の前に現れたのは我夢……と、タオルを持って顔を青くしている司だった。

司は瞬時に我夢の腰にタオルを巻くが――

 

 

「ん? 何やってんだ司」

 

「え?」

 

 

司が我夢を見てみると、とくに変わった様子もない我夢がいる。

 

 

「あれ? 服……」

 

「服ですか?」

 

 

我夢は自分の服を司に見せてみる、別におかしい事はない。

ああそうか、そういう設定なんだな。司は頷いて後ろへ下がった、いやいや良かったんじゃないか?

変身解除で全裸はちょっときつい。大丈夫な様で何よりだ、それに……なんと言っても――ッ

 

 

「っていうか、我夢お前ッ!! まさかッッ!!」

 

「はい! 変身できました!!」

 

「「「ええええええええええええええええ!!」」」

 

 

ってなわけで、司たちは最後の試練をクリアすることができたのだった。

めでたし、めでたしである。そしてそれは同時に彼らが全ての試練を達成した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

と、まあ、あっさりと変身を完了させてしまった我夢。

あれだけ緊張していただけに何とも拍子抜けしてしまうものだ。

それにゼノン達の話では座敷童という少女が音角を持っているはずだったのだが……?

 

まあいいだろう。

どんなに簡単だろうが自分たちは試練をすべてクリアできた筈だ。

さっそく我夢は、想い人であるアキラに報告を――

 

 

「やりましたよ! アキ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ」

 

 

ゆっくりと意識が戻ってくる。

今自分が何をしているのか、一瞬分からなかった。

ぼやける意識が鮮明になると、自分が寝ていたのだと理解する。

 

 

「!?」

 

 

寝ていた? おかしい、自分は今日一睡もできなかった筈だ。時計を見る、針は四時を指していた。

四時? 外は明るい、だがカーテンから射す光は綺麗なオレンジ色ではないか!

 

 

「ぁ!」

 

 

やってしまった!

皆が必死に試練を乗り越えようとしているのに自分は寝てしまったのか!?

急いで起きようとして体に力を入れたとき、それに気づいた。

 

 

(手紙?)

 

 

置き書きされてあったメモを見つけて目を通してみる。

この字は葵だろう。彼女、天美アキラはそのメモ書きにある言葉をとりあえず見てみることにした。

 

 

『ハナちゃんから聞きました。昨日は寝れなかったんだって? 疲れは取らないと体を壊しちゃうよ、だからゆっくり休んでね』

 

 

アキラは申し訳ないと思い心の中で謝った、寝れなかったのは自分のせいなのに。

しかもまたあの夢を思い出してしまい複雑な気分になる。せっかく我夢と仲直りしたと思ったらコレだ。

また関係がぎこちなくなってしまうのは彼女としても悲しい話だ。気にしない様に気をつけなければ、それにまずは皆に謝らなければならない。

 

 

「ふふふっ!」

 

 

しかし、メモの至る所に何かの絵が描いてある。

葵の遊び心なのだろうが、熊みたいな動物がいっぱい書かれているのはシュールで面白くつい吹き出してしまった。

 

 

「え?」

 

 

そしてメモを全部読み終わるのだが、最後に書かれていた一文を見てアキラはベッドから飛び降りる。

そこに書かれていたのは試練が終わったと言う事、つまり我夢が変身できたという事だ。

アキラは居てもたってもいられずに走り出したのだった。

 

 

「が、我夢君!!」

 

「「「!?」」」

 

 

皆に話を聞いて我夢が屋上にいると知ったアキラは、息も切れ切れに屋上へ到着した。

そこには亘と里奈、そして我夢が何やら楽しそうに話している。亘と里奈はアキラを見つけると気をつかってか、下に降りていった。

ちょっとニヤついていたのが気になったが、今はそんなところではない。アキラは我夢に向かって小走りで駆け寄っていった。

 

 

「あ、アキラさん。もういいんですか? 何か疲れてたみたいですけど」

 

「あのっ、それはもういいんです。ごめんなさい、私だけこんな……」

 

「あはは、大丈夫ですよ。ハナさんだって寝てますから」

 

 

アキラは苦笑してもう一度頭を下げる、そして柵にもたれている我夢の隣にやってきた。

この世界は全てが美しい様に感じる。街も、空も、山も、鳥も、全てだ。

死にたくなるほど切なく美しい夕焼けの空が二人を照らす。我夢の顔が心なしか赤く見えるのはきっと夕日のせいなのだろうか?

 

 

「座敷童さんを見つけたんですか?」

 

「あははは、いやそれが普通に落ちてたみたいなんです」

 

「えぇ!?」

 

 

アキラの驚いた顔を見て我夢は予想通りと笑う。

今までの経緯からはとても想像できない結果に、もはや笑うしかないのだろう。

 

 

「ゼノンくん達も驚いていましたよ――」

 

 

そう、我夢が変身した後しばらくしてゼノン達がやってきたのだ。

ドヤ顔で音角を見せつける司に対して、彼らは初めて一同に驚きの表情を見せた。

偽者じゃないのか等司達と同じ事を言っていたが我夢が変身して見せると、驚きに目を見開く。

 

そして少し納得がいっていないといった表情ながらも

試練を全てクリアできた事を褒めた後、休暇として明日からしばらくこの世界に留まる事を告げた。

それなりに長い休みの様だ。ゼノン達曰く、数々の戦いを潜り抜けてきた司達へのささやかな長期休暇らしいが……

 

 

「だから、明日からお休みなんですよ」

 

「そうだったんですか……」

 

 

アキラは頷くと、我夢に笑顔で拍手を送った。

何事かと戸惑う我夢、アキラは我夢を褒める。無事に響鬼になれたのだからと。

好きな人に褒められるのはとても嬉しい事だ。我夢は赤くなって……でも直ぐに首を振った。

 

 

「あはは、やめてください。僕は皆さんみたいに……立派じゃない」

 

 

大切な人を守った司。

絶大な恐怖と戦ったユウスケ達。

種族の壁を乗り越えようと足掻いた亘達。

偽りの愛と言う強大な幻想を打ち破った翼。

絶望へのカウントダウンを止めた拓真達。

圧倒的な力の差を乗り越えた真志達。

己の弱さに勝利した椿達。

真実の絆を守った双護達。

 

それにくらべて自分は……

そんな我夢の心情を見抜いたのか、アキラは悲しげに微笑んで首をふる。

そしてもう一度彼に謝った。

 

 

「私の方が酷いです。でも我夢君はこれから皆さんを支えられる。私は……何もできないから」

 

 

悲しげなアキラの瞳、本当に情けないと彼女は涙を浮かべる。どうして寝てしまったんだろう、本当に馬鹿だ。

自分に対して悔しい気持ちがいっぱいだった、そんなアキラを見て我夢は思わず大声を上げてしまう。

 

 

「そ、そんな事ないです!」

 

「え!?」

 

「あ――ッ、す…すいません。大声だして……だけどアキラさんは全然ッ! その……何もしてない事、ないですっ!」

 

「ッ!」

 

 

だって、あなたを守りたいから僕は頑張れるんですから!

 

 

「………」

 

 

などと言える訳もなく、我夢は顔を赤くしてうつむいてしまう。

ああ情けない、何も言えないじゃないか。気まずい沈黙が続く。

だが今日は少し違うところがあった。それを我夢が気づく訳ないのだが……

 

 

「あ……」

 

 

アキラは顔を赤くしてうつむいた我夢を見て、今日の夢を思い出してしまう。

夢の自分は我夢の事を好きだと言った。本当のところどうなのだろう? 今までは考えたことなどなかったが――

 

 

「あぅ……」

 

 

しかも、夢では……キ――

アキラもまた唇を押さえてうつむいてしまう。

無性に恥ずかしくなってきた、このままではいけない。

 

 

「そうだ! 我夢君、明日予定空いてますか?」

 

「え?」

 

 

あわてた様に笑顔を浮かべる二人、どちらもこの沈黙を突破したいようだ。

ぎこちない笑みは互いに筒抜けだったが、今はとにかく気にしないでおく。

 

 

「あのッ、ほら! 我夢くん、翼先生の試練の時に私を誘ってくれたじゃないですか」

 

「あ……ああ! あぁーあははは……!」

 

 

そうだ、あの時は先約があって断られた訳だが――

 

 

「あの時はごめんなさい!」

 

「いっ、いや! いいんですよ。先にした約束を守るのは当たり前だし!」

 

 

アキラはお礼を言って頭を下げる、つられて我夢も頭を下げる。

互いにぺこぺこと頭をさげ合う。そんなよく分からないやりとりをしばらく続けた後に、アキラは提案するのだった。

実に簡単な提案だ。

 

 

「明日にしませんか!?」

 

「ええっ!?」

 

 

我夢の様子を見て、アキラは苦笑いを浮かべて手をブンブンと大げさに振る。

確かにいきなりすぎるか!? アキラは内心パニックを起こしつつも何とか言葉を探すのだった。

まあなんとも必死なものである。

 

 

「あのっ! 別に無理にって訳じゃないんです! もし我夢くんの予定が空いてて! 暇で暇でどうしようもないと言うケースがあったらで――ッッ!」

 

 

どんどんパニックになるアキラ、我夢もまた慌てながらアキラに話しかける。

双方まともな心理状態ではない、手でよくわからないジェスチャーをしながら話す様はどうにもシュールさがあった。

 

 

「いっ! いいんですか!?」

 

「え!?」

 

「えっ!?」

 

「あ! あああ! あッ! はい? はっ! はいっ!!」

 

「あ、あのっ!じゃ、じゃあ!明日……一緒にどこかへ……」

 

「あ……は、はいっ! どどどこかへ! 行きましょう!」

 

 

「「あ、あははは……」」

 

 

二人は不自然な笑みを浮かべたまま約束を交わす。

ノープランでどこに行くかすら決めないまま、アキラはまるでロボットの様に屋上を出て行くのだった。

 

 

「………」

 

 

あれ? ちょっと待てよ、我夢は考える。

え? これってまさか……

 

 

「みほちん知ってるよ、それはデートだって事」

 

「どわああああああ!」

 

 

屋上の入り口の上部分。

よく真志やら司やらが寝ている場所から、美歩がニュッと顔を出した。

驚いて腰を抜かす我夢に、美歩はにんまりと笑みを浮かべる。

 

 

「いいいいいつからそこに!?」

 

「我夢きゅんと亘きゅん達が話してる時は寝てたの。んだけどぉ、さっきの会話はちょっときいちったぁ! ごめんね!」

 

「いいいいいえ、べべべつにいいんですけど……」

 

「それより……どこに行くの?」

 

 

デートッ!

 

 

「!!!」

 

 

やっぱりそう言う事なんだよな! そういう事なんですよね!

我夢はようやく自分がどれだけ幸運な状況になっているのかを再確認した。

アキラと二人で出かける、なんと素晴らしい事なんだ。ずっと夢見たデート!!

 

 

「どっ、どこに行けばいいんでしょう!? というかどうすればいいんでしょうか!?」

 

「ふふん、そういうと思ったしぃ! まっかせて! 美歩ちんはじめ多くの仲間が、バッチリとサポートさせていただきますからぁ!!」

 

 

おっ、お願いします! と我夢は美歩に深く頭をさげる。

美歩は満足そうに頷くと、さっそく作戦会議を始めるのだった。

 

と、言うわけで早速空き教室では椿、美歩、亘、里奈によって作戦が立てられる。

同じく関わりが一番である咲夜には、アキラの相手をしてもらっているので万が一にもプランがバレる事はない。

 

 

「成る程ね、なんで響鬼への変身がうまくいったのか……ボクはやっと理解できたよ。我夢!」

 

「そ、それはどう言う……ッ」

 

「我夢! お前の本当の試練は――ッ! いや、本当の戦いはアキラとの関係決着だったんだ!!」

 

 

そうだったのかぁぁああッ!! 我夢達の体に電撃が走る。

成る程、確かにコレは最大の試練と言ってもいいかもしれない。

確かに皆、いつまでもこんな関係ではいけないと思っていたところはあったのかもしれない。

それがまさかこんな形でやってくるとは……

 

 

「よ、よし! まかせとけよ我夢! 椿くんおススメのデートプランを教えてしんぜよう!」

 

 

以下、守輪椿が考えたデートプランである。

 

 

1・ゲーセンで待ち合わせ

 

2・まあまずはガンパムVSガンパムを強いられる

 

3・それに飽きたら鋼鉄拳でヒートアップ

 

4・昼はカップラーメンでおk 自販機に売ってるから

 

5・ゲーセンでたらアニメイポへ行くのが安定。新作はチェックしとけ

 

6・疲れたら漫画喫茶でネットでも――

 

 

「「バ〇ス」」

 

「目がァァァァッ! 目がぁあああああああああ!!」

 

 

のた打ち回る椿を冷めた目で亘と美歩は見つめる。

 

 

「これ完全にお前の休日の一日じゃねーか! 一人の構図じゃねーか!」

 

「椿さん、いや椿。真面目にやれ」

 

「ふざけんなぁぁあ! マヂで恋するアサルト☆パンチじゃこれでヒロイン攻略完了だっての!」

 

「忘れろッ! そのゲーム内容全部置いていけ! ってかどういうギャルゲーなのか全くわかんねーよッッ!!」

 

 

ギャーギャーと喚く三人。それを里奈と我夢は汗を浮べて眺めていた。

どうしていいのか分からない。分かるわけがない。ただ一つ分かることがあるなら椿のデートプランで行くと詰む。

 

 

「じゃあよぉ! テメェらが一回たててみろや!」

 

「「え?」」

 

「だかりゃぁああ! デートプランをよぉおおお!!」

 

「「………」」

 

 

生意気言ってすいませんでした!!

亘と美歩は椿に深く頭を下げると、自分達も椿とほぼ同等のことしか考えられない事を打ち明ける。

 

 

「結局まだ付き合ってはない訳だしよぉ、あんまり張り切ると引かれる可能性あるし。まあ、つっても深く行かないと一回こっきりで終わるしなあ!」

 

「「はい! そうですね!」」

 

 

完全に立場が逆転した椿と美歩達を苦笑しながら我夢は考える。

確かにそうだ。付き合ってない二人が仲を深められる……というか、アキラに楽しんでもらえる場所はどこなのだろう?

 

 

「やっぱりこの街でしか行けない所とか、できない事をしたほうがいいと思うよ。まあ映画とか……名物とかないのかな?」

 

 

里奈の言葉を真剣に我夢は聞く。

成る程、確かにこの街ならではの事をやったほうがいいのかもしれない。

美歩もうんうんと頷いていた。しかし、ここで一つ問題が。

 

 

「おい、つうかよぉ」

 

「ん?」

 

 

椿は、美歩に怪しげな視線を送る。

 

 

「お前、サポートとか言ってるがよぉ……デートした事あんのかよ」

 

「………」

 

 

真っ白になる美歩を見て椿はため息をつく。

やはりそうか……

 

 

「しょ、しょうがないじゃん……ちなみにアンタは?」

 

「あっりませーん! あ、でも画面の中でなら」

 

「「………」」

 

 

亘と里奈も頷く。

ああ、なんて事だ。この中に実体験を持っているヤツはいない。

なんだかんだとあと一歩な青春しか味わっていなかったか。

 

 

「ま、俺達じゃラチがあかねぇわな。じゃあ経験者に頼むか」

 

「経験者?」

 

 

椿は頷く。

そして、そのメンバーを集めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たに収集されたメンバー。

それは――

 

 

「そうだな、上辺の付き合いでならデートくらいした事はあるぞ」

 

 

イケメンのオーラを放つ者が一人。

 

 

「やだなぁ、そんなの少ししかないよぉ」

 

 

ある時は恋愛相談室まで開いた者が一人。

磯の香り子さん、あなたは上手くいったんでしょうか?

 

 

「あはは、参考になるかどうかは怪しいんだけど」

 

「うん、わたし達はねぇ」

 

 

そして、唯一この学校内でちゃんと恋人関係になっている二人。

 

 

「「いえいえ! ご教示お願いします!」」

 

 

土下座する我夢と美歩。

そう、この中で経験豊富なのは間違いなく双護、ウラタロス、そして翼と葵だろう。

経験の浅い自分達じゃなにをしたらいいのかサッパリ分からない。さっそく教えをこう事にしたのだ。

 

 

「じゃあ、まずは根本的なところ。服装かな? 清潔感は大事だよ」

 

 

アキラの性格、そして我夢の雰囲気から考えて下手に着飾るのは不要。

いつもより少しおしゃれを意識した感じでいいだろう。

あまりいつもと違いすぎる格好は引かれる可能性が高い。

だが、少し張り切っていけばデートが楽しみだからと言う印象を与えることもできる。

 

 

「よし! じゃあ服はオレにまかせろ、買って来てやるよ」

 

 

そう言って前にでたのは条戸真志。

たまたま着いて来たのだが、どうやら力になれそうな事をみつけられた様だ。

 

 

「え!? そんな、悪いですよ!」

 

「気にすんなって! たまには先輩らしい事させてくれよ」

 

 

そう言って真志は服を買いに行く。

まあ服の雑誌を買っているだけあって彼のセンスはそれなりだ。

と言うことで服についてはこれでいい。では次は――

 

 

「場所……か。先生達はどうだったんですか?」

 

「うーん、どうなんだろうね。最初の頃は水族館とか映画……かな」

 

「うん、まあ最初なんてそんなものじゃないかな? あんまり張り切りすぎても……って感じだったし」

 

「ああ、そうだな。まあこの街に水族館はなさそうだから……映画なんてどうだ?」

 

 

双護の言葉に我夢は苦い顔をした。

理由を聞くと、一度この街で今どんな映画がやっているか見に行ったのだが……

 

 

「ほとんどがホラーっぽかったんですよ。和製の、妖怪系ばかりで」

 

「へ、変な世界だな」

 

 

成る程、確かに初デートでホラーなんて見に行っても……

まあ、もしかしたら今この街で何か特殊なイベントがやっているかもしれない。

良太郎はウラタロスと共に何かいい場所がないか探しにいくことにした。

 

 

「いいかい我夢くん――」

 

 

教室を出て行こうとした時、ウラタロスは我夢にしっかりと言い放つ。

 

 

「大切なのは欲しいなら、すがりつけだよ!」

 

 

正直全く意味が分からなかったが、いやに説得力の様なものを感じて我夢は深く頭を下げたのだった。

だがその時ッ!!

 

 

「あーっはははははははは!」

 

「「「「!?」」」」

 

 

校庭にオーロラが出現して中からゼノンとフルーラが現れる。

いつもの様にクルクルと回転しながら、彼らはごく自然な流れで窓を開けて靴を脱いで教室へと侵入してくる。

 

 

「な、なにしにきたんだよ……」

 

「みずくさいよP。デートならボク達に任せてくれればいいのに」

 

「おい、なんだよPって。まさかピンクの略じゃねーだろうな ピンクじゃねーだろうなッッ!! ピンクじゃねぇぇだろぉぉぉうなぁぁあぁ!!」

 

 

ちょっと待て、司は沈黙する。

成る程、いつもなら追い返したいところではあるが確かにコイツらも貴重なカップルである。

我夢のために、ここは一つ話を聞いてみるのもあり……か?

 

 

「まあそうだな、じゃあ聞くがお前らはいつもどこにデートしに行ってるんだよ」

 

「おねがいしますは?」

 

「………は?」

 

「教えてくださいゼノンさんフルーラさん……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身ッ!」『カメンライ――』

 

「お、落ち着け司ッ!! 分かるけど、いや分かるけどッッ!!」

 

 

ユウスケに抑えられて司はゆっくりと口を開く。

拳を握り締めながらプルプル震えて、かつ青筋が浮かんでいるのは気のせいだろう。

気のせいなんだろう……!

 

 

「おっ……おねがいしま…ッッおねがいしましゅッッ!! ゼノン……さんッッフルーラさんんんッッッ!!」

 

「きこえなーい!」

 

「きこえなーい!」

 

 

「「きこえなーい!!」」

 

「フグッッ!! グッ……グヌッッ! コイツぅぅぅらぁぁッ!!」

 

「つ、司!! スマイル! スマイルッッ!!」

 

「ッッッ!! 教えてください! ゼノンさん! フルーラさん!」

 

 

その言葉に満足したのか、ゼノンとフルーラはしょうがないなぁと笑って真面目な表情になる。

おお、司達は思う。やはり貴重な恋人なだけあって意見は役に立ちそうだ。

ゼノンとフルーラは同時に腕を組んで目を閉じる。そして、遂に口を開いた。

 

 

「デートで一番大切な事を教えてあげるよ」

 

「教えてあげるわ!! しっかりメモしてね」

 

「は、はいッッ!!」

 

 

一番大切なこと。それには我夢だけでなく司達も気になってしまう。

いつもウザイくらいラブラブな二人。円満の秘訣でもあるのだろうか?

と、いうか一応コイツらも気をつけている事があるんだな……なんて考えてしまう。

 

 

「いいかい? 一番大切なのは――」

 

 

ゴクリ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フルーラがいる事!」

 

「ゼノンがいる事!!」

 

 

………。

 

 

「フルーラがいないデートなんて中身のないバナナみたいなモンさ!」

 

「そしてゼノンがいないデートもね!!」

 

「「………」」

 

「おやおやフルーラ。あまりに的確すぎて皆言葉を失っているようだ」

 

「じゃあ帰りましょかゼノン! 人助けをした後は気分がいいわ!」

 

「ああ最後にコレ。君の似顔絵を描いてみたんだけど、コレあげるよ」

 

 

そう言って二人は満足げに笑い合うと、そのまま外に出て行きオーロラ経由で帰っていく。

司は静かに微笑むと、近くの椅子にすわってゼノンから受け取った似顔絵を見てみる。

そこには、ただピンクで塗りつぶしただけの紙……じゃない。コレは元々ピンク色だったモノだ。

しかもこの肌触りは間違いなくティッシュ。そして手についたガム。

 

 

「うぁ……きたね……」

 

 

そうか、簡単な話だ。ゼノンは噛んだガムをティッシュに包んで自分に渡しただけ。

ティッシュの色がピンクだったから似顔絵なんて上手い事を言ってみたんだろう!

 

 

「はははは………は、は――」

 

 

 

 

 

クソッッッがァァァアアアアアアアアアああああアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああアアアアアアアアアあアアアアアアアアああアアアアアアアアアアアああああああアアアアアアアアアアアアアアあああああッッッ!!

 

 

「司が切れたぁぁぁぁぁッッッ!!」

 

 

学校中に彼の叫びが響き渡ったのは、言うまでもない。

そして、その夜真志に買ってもらった服を着てみる我夢。

 

 

「へぇ、いいじゃないか」

 

「よく似合ってるよ我夢くん!」

 

「ありがとうございます!ユウスケさん、真志さん!」

 

 

先輩達にお礼を言って我夢はもう一度鏡を見てみる。

成る程、さすがは真志だ。ちょうどいい感じの服を選んできてくれた。

サイズはぴったり、変な柄でもないし、パンツやベルトも数種類選んでくれている。

 

 

「おいそんなんでいいのかよ! もっとシルバー巻くとかさ! 右手に包帯とかさ! 眼帯が普通じゃねーの!? いやもっとシルバー巻くとか――」

 

「うるせぇぇぇぇぇッッ!」

 

「ゲゲゲーッ!」

 

 

時期が悪かった、もうそれしか言う事はない。

吠える司、倒れる椿。残念だが彼の普通は普通ではなかったらしい。

格好はもうこれでいいだろう。問題はやはり場所だ、ウラタロスがいい場所を見つけてくれたと言うが?

 

 

「ちなみに双護。お前が行ったデートで一番楽しかった場所ってどこなんだ?」

 

「ああ、そうだな司。やはり世界のだし巻きボール展は良かったな。巨匠、タ・マゴ(1885~)が残した財産だった」

 

「へー(どこなんだろう……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいこれ」

 

「え?」

 

 

と、帰ってきたウラタロスが我夢に差し出したのは二枚のチケットだった。

我夢はそれを受け取ると目をとおしてみる。

 

 

「これは……コンサートですか!?」

 

「うんそうだよ、この世界で大人気の二人組みアイドルユニットのコンサートが明日あるんだ。そのチケットってわけ」

 

 

チャイルドキャッツ。

そう書かれた文字と座席番号、それがウラタロスが指定した場所だった。

 

 

「へー、コンサートか。意外だな」

 

「うーん、まあちょっと面白い話を聞いてね」

 

「面白い話……ですか?」

 

 

そう、このチャイルドキャッツにはある噂がある。それはまさに我夢にとってはピッタリの話だった。

初デートの時にチャイルドキャッツの生歌を聞くと、そのカップルは別れる事なく幸せになれるらしい。

まあ所詮は噂だが、今の状況には完璧じゃないか? デートスポットとしても中々人気らしいし、安定の場所だろう。

 

「こういう嘘に女の子は弱いものだよ」

 

「でも結構大変だったんじゃないか? チケット手に入れるの?」

 

「ふふふ、まあそうだね」

 

 

ウラタロスの意味深な笑みを見て司はなんとなーくだがこのチケットがどう言う風に手に入れたのかが分かった気がする。

たぶん女性が絡んでるんだろうな……っていうか今の良太郎は子供の姿なのにどうやって――?

 

 

「ありがとうございます皆さん! が、頑張ります!」

 

「おう、頑張れよ我夢くん!!」

 

 

皆の応援を受けて、我夢は深く深呼吸をするのだった。

 

 

 

 

そして翌日、ついに決戦の時がやってきた。

双護から教えてもらった気遣いうんぬんを勉強し、はいぱー我夢となった彼はコンサート会場の前へとやってくる。

 

 

「……よし」

 

 

待ち合わせ十五分前、双護から教えられた事を思い出す。それは待ち合わせをした場合絶対に先にいる事だ。

別に同じ場所に住んでいるのだから一緒に行けばいいのかもしれないが、ここはあえてデートと言う事で別々に行くことにしたのだった。

 

 

「あれ……?」

 

 

ちょっと待て、ベンチに座ってるのって――

 

 

「げッッ!」

 

 

ベンチに座っている少女は、せわしなく周りをキョロキョロと見ている。

しきりに時計を確認しており、ため息をついているではいか。いや間違いない! 間違える訳が無い!!

 

 

(やばいっ!)

 

 

我夢は小走りでその少女の元へ駆けていく。

少女は我夢に気づくと、満面の笑みを浮かべて手を振った。

 

 

(うっ! かわいい!)

 

 

等と一瞬思ってしまったがそれどころじゃない!

早速ミスしてるじゃないか! 先に来ていたのは我夢じゃなくてアキラだった。

アキラは走ってくる我夢にあわせて、自分もベンチから立ち上がり小走りで駆け寄ってくる。

映画のクライマックスシーンならば走ってくる二人は強く抱きしめあうところなのだろうが、問題はそんな事ではない。

 

甘かった。十五分前じゃなくて三十分前にしておくべきだった!

我夢は嫌な汗をかきながらアキラの前へやってくる。

 

 

「はぁはぁ……我夢くん、お待たせしました」

 

「いやッ! 遅れたのは僕の方です! すいません!」

 

「いやっ! あの……いいんです! 私が早く来ちゃっただけなんですから」

 

 

アキラは恥ずかしそうにしながら頭を下げる。

なにやら遅刻してはいけないと気を張りすぎて四十分前にはもう到着してしまったと言う。

つまり我夢が三十分前にこようが結局は遅れてしまうのだった、だが相当待たせてしまった事に変わりはない。

我夢はアキラに謝罪すると一緒に歩き出したのだ。

 

 

「へぇ、コンサートですか。だからホールの近くが待ち合わせだったんですね」

 

「あ……はい!」

 

 

二人は肩を並べてゆっくりと歩いていく。

始まるまで時間はまだまだある。だから他愛もない会話をしながら進むのだが、アキラの表情は少し悲しげだ。

 

 

「あの……我夢くん、気を悪くしたならごめんなさい」

 

「え?」

 

「どうして、こっちを向いてくれないんですか?」

 

「ッ! あの、ごめんなさい!」

 

 

アキラはさっきから我夢がこちらを全然向いてくれない事が気になっていた。

正直、話しかけても顔すら向けてくれないのは寂しい。

我夢は慌ててアキラの方を見るが、まるでゆでだこのように顔を赤く染めてしまう。

情けない話だが、我夢はアキラの格好が気になって直視できないでいた。

 

彼とて健全な男子中学生だ。

ショートパンツとニーソのコンボなんてされたら、いわゆる絶対領域とやらにどうしても目が行ってしまいそうになる。

しかし、そんな事をしたら嫌われてしまうかもしれない!

 

我夢はそう思う訳なのだが、どうやら逆にそれがアキラを傷つけてしまったらしい。

なんとか誤解をとかなければならない。我夢は勇気を振り絞って、アキラの格好が素敵で照れてしまったと少し曖昧な感じで答えた。

だがまあ、アキラは納得してくれたみたいで、気にする事はないと我夢に微笑みかける。

 

 

「が、我夢くんも……あの、よく似合ってます」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

二人は笑い合うと少し軽快に歩き出した、どうやら緊張が少しずつほぐれてきたようだ。

だが、人が多くなってくるとアキラははぐれない様に、我夢の服の裾をつまんで歩く。

それが我夢の心臓の鼓動を早める事となるのだが……

 

デートが本格的に始まる前からコレだ。

若干この先が思いやられるのだが、我夢にとってはそんな余裕はない。アキラに楽しんでもらえる様に努力しないと……

そう、それはまさに我夢が心に決めた時だった。

 

 

「うえぇぇえええええええん!!」

 

「「!」」

 

 

ふと、女の子の泣き声が聞こえてきた。

その方向を見ると小さな女の子が一人で泣いているではないか。

人が多い場所、恐らくは迷子だろう。二人はすぐに顔を見合わせる。

 

 

「我夢くん」

 

「ええ、そうですね」

 

 

二人は微笑み合うと、女の子の所へと足を進めたのだった。

 

 

 

 




はい、という訳で今回からラストの響鬼編です。
それで今回はもう初めから明かすというか、分かってると思うんで記載しますが、鬼太郎が出ます。
クロスというには微妙ですが、やはり妖怪と言えばなんで出しました。

実はこれ前は後半にちょっとぬらりひょんの孫要素も入れたんですが、今回ちょっと展開縮める都合もあってぬら孫要素は消そうと思ってます。


あと良太郎って原作でイマジンが憑依されれば見た目と声が変わるけど、あれ実際はテレビを見ている俺達にわかりやすくってだけで、あの世界の人間からしてみたら良太郎の雰囲気だけが変わってるんだと思ってるんですが、どうなんですかね。小説版だけなのかな?

あとアナザーアギトも、見た目はあんな感じになってるけど実際はアギトと同じ姿の様な気がするんだけどね。


はい、じゃあ次は日曜かな?
ジャンプのゲーム買うと思うんで、更新遅れたら申し訳ない。
だが、私は――



ではでは。

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