仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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あとがきでちょこっと、映画の事書いてます。
ネタバレって程では無いですが、ちょっと内容に触れてるんで、嫌な人は見ない様にお願いしますね


第31話 愛

 

 

時間をつくってもらったらしく、ご丁寧にアキラはそれぞれに違う文を送っていた。

別れと感謝の言葉をだ。電波に縛られない様にゼノンたちが改良したが故の行動だろう。

 

 

【薫さんへ】

 

一緒にバイクの練習をさせてもらいありがとうございました。

とても楽しかったです。一度くらい前に出てみたかったな、なんて。

 

 

【ユウスケさんへ】

 

着ぐるみ、正直すごくかわいかったです。

実は私も着てみたかった……とか思ってました。

 

 

【葵さんへ】

 

いつも私達の事を気にかけてくれて本当にありがとうございます。

毎日、本当にご飯が美味しかったです。葵さんみたいな人に私はなりたい。

 

 

【翼さんへ】

 

翼さんの暖かい雰囲気が好きでした。絶対、立派な先生になれると思います。

短い間だったけど翼さんの生徒でいられて幸せでした。

 

 

【美歩さんへ】

 

美歩さんといると無性に楽しかったです。どうかずっとそのままでいてください。

お願いですから、次の世界でも笑ってくださいね。

 

 

【真志さんへ】

 

困っている時、よく助けてくれましたね。本当にありがとうございます。

できれば美歩さんの気持ちに気づいてあげてください。

それとも…余計なお世話でしたか?

 

 

【友里さんへ】

 

ゲームによく誘っていただいてありがとうございました。

もっと私がうまかったら良かったんですけど……それはごめんなさい。

でも、凄く楽しかったです。

 

 

【拓真さんへ】

 

庭のお花、とっても綺麗でした。

世界が拓真さんみたいな優しい人ばかりだといいんですけどね。

その優しさに尊敬しています。

 

 

【咲夜先輩へ】

 

数え切れない程の感謝と思い出が私にはあります。

咲夜先輩もそうだと嬉しいな。先輩は私のヒーローです。

 

 

【椿先輩へ】

 

昔からいろいろと助けられていました。

本当にありがとうございます、どうか咲夜先輩と仲良くしてください。

それが、私の最期のお願いです

 

 

【我夢くんへ】

 

いろいろと酷い事言ってごめんなさい。

お友達として、貴方が大好きでした。本当に、ごめんなさい。

でもこれだけは信じて、本当に貴方といる時間は私にとって大切なものだった。

デートに誘ってくれてありがとう

 

 

【真由先輩へ】

 

真由先輩は私の癒しでした、貴女ともっと遊びたかったです。

もし、私の事で何か感じるようなら…どうか笑い飛ばしてください。

お願いです。どうか、お願いです。

 

 

【双護先輩へ】

 

わが道を迷わず進んでください。

貴方にはそれが一番似合っていると思います。

それが双護先輩だと私は思います。真由ちゃんといつまでも仲良くいてください。

 

 

【鏡治さんへ】

 

鏡治さんがいなかったら、今も我夢くんとけんかしてたかもしれません。

本当にありがとうございました。

鏡治さんとはもっといろいろな話をしたかったけど、どうか私の事は忘れてください。お願いです。

 

 

【ハナさんへ】

 

相談に乗ってくれてありがとうございました。おかげで楽になれたんです。

ハナさんはどうか後悔しないでくださいね。想いを伝えるなら、今ですよ!

 

 

【良太郎さんへ】

 

戦いで危ない所を助けてくれたのは、いつも良太郎さんだと聞ききました。

ありがとうございます、貴方達がいなかったらと思うとゾッとします。

どうかこれからも力を貸してくれませんか? どうか、お願いします

 

 

【里奈へ】

 

貴女は私の一番の友達です。

今も、これからも。どうかいつまでも友達でいてください。

貴女がいてくれたから、私があるんですから。

 

 

【亘くんへ】

 

皆で遊んだこと、書ききれないくらいの思い出があります。

里奈と仲良くしてあげてください。亘くんが里奈には必要なんだから

 

 

【夏美さんへ】

 

一緒にいろいろな事をしましたね。とても楽しかったし、スリリングでした。

どうか無理だけはしないでください。夏美さんは、立派に戦えているんだから。

 

 

【司さんへ】

 

おかげで仮面ライダー、全部覚えましたよ。ありがとうございました。

どうか世界を救ってください。

あなたなら、できる筈です。絶対に世界を救えると信じています。

 

 

【ゼノンくんとフルーラちゃんへ】

 

仲がいい二人がうらやましかったです。

どうかこれからも仲良くしていてね。

 

 

 

お願いです、私の事は気にしないで。どうか次の世界へ行ってください。

寝子さん達はこれからが大変かもしれませんが、今は私が生贄になるので安心してください。

私がみんなを救えるなら、それはとても素敵な事です。

 

だから、どうか私の事は放っておいてください。

お願いします。お願いですから、私の事は忘れてください。

 

アキラはそれだけじゃなくてモモタロス達やキバット。

寝子達にも個別でメッセージを送っていた。時間が余ったかと書いてあったが、もっと書きたい事だってあっただろう。

それが最期のメッセージなのだから。単刀直入に言うのなら、これは彼女の遺書。死に行く人間が残すメッセージ。

涙を流す者、悔しさで拳を握り締める者と、皆無言でうつむいていた。特に我夢は無言で画面を見ている。

 

 

「こんなの……あんまりよッ! なんで、どうしてアキラちゃんが……こんなッッ」

 

 

葵は隠す事無くボロボロと泣いている。

だが翼も、薫も、ユウスケも……誰も、彼女にかける言葉が見つからない。張り裂けそうになる胸の奥。アキラは本当に――

 

 

「ッ?」

 

 

だが、いつまでもこのままと言う訳にもいかない。

ゼノンは彼らの世界の時間を進めるために、幽子に先ほどの質問を投げかけた。

 

 

「君はどうして追われていたんだい?」

 

「音角を盗んだのはあなたでしょう?」

 

「……は、はい。彼、天邪鬼が言っていたんです。伝説の鬼達の力があれば邪神に対抗できるかもしれないって」

 

「ほ、本当か!?」

 

 

一同に希望が灯る。

邪神を倒せるならアキラは死なずにすむのだ!

 

 

「で、でも……一つしか手に入れられなかった。それに……」

 

 

彼女は泣いて謝る。

追っ手に追われている時に落としてしまったのだと。

しかし、司達は笑顔に戻る。音角を拾っていたのは自分達なのだ!

それを教えると、幽子は驚き、安心したように笑う。

 

 

「鬼の力ってのは何なんだ?」

 

「はるか昔この地には火、風、雷を司る伝説の鬼達がいたんです」

 

 

強大な力を持った鬼達は思うように生き、暴れまわっていたが、それを大陰陽師『一刻堂』が各道具に鬼達の力を封印した。

だがその力はあまりにも強く、たいていの人は音角を使った瞬間力に飲まれてしまう。だからずっと妖怪城に封印されていた訳だ。

 

鬼の力の一つである『音撃』。鬼の力を音に変えて叩き込む技である。

巨大な相手に有効なそれを三つ同時に邪神にぶつけることができれば――

天邪鬼とその友人である『鬼太郎』と言う少年を始め、邪神を倒そうと考える妖怪達はその鬼の力を持ってして邪神に挑もうと考えていた。

 

 

「鬼太郎さんがっ!?」

 

 

今まで黙って話を聞いていた寝子が急に立ち上がる。

焦りと期待を込めた表情で寝子は幽子に彼の居場所を聞いた。

何でも、大切なボーイフレンドらしいのだが少し前から連絡がつかなくなっていたのだ。

 

 

「えっ!? そ、そうなの!?」

 

 

しかしそれは幽子も分からない事だった。

リーダーとして今まで指示や率先してくれていた彼の失踪。

ますます不安になる寝子達、鬼の力も一つだけじゃ邪神には叶わない。

 

それに幽子を追っていた黒い装束、聞けば妖怪の一人だという。

名前は"サトリ"。生贄に賛成派であり、あんな力を持った連中が6体程度控えているという。

妖怪にも戦闘能力に特化した者と、そうでない者がいる。そして、それは完全に別れていたのだ。

 

しかもその別れ方が問題である。賛成派、つまり邪神の花嫁を肯定している連中に戦闘向けの妖怪達が集まっているのだ。

サトリもまた最強と言われている一人だ。新たに介入してきたヒトツミ達も全員賛成派であり、戦闘能力に優れている。

そしてなによりも総大将が賛成派と言う現状。

 

仮に賛成派と反対派が対立した場合、反対派に勝ち目はないだろう。

反対派が賛成派に戦いを挑むと言う事は、社会に戦いを挑むと言う事に他ならない。

さらにこの事を知らない妖怪達もまだまだ多いが、その誰もが戦闘と言う点では頼りにできない者達がほとんどだ。

だからこそ、伝説の鬼の力があればまだ希望もあったかもしれない。しかしもう時間もないし、何より花嫁を迎えた事により警備も厳しくなっているだろう。

うまくいく可能性は限りなく低い。

 

 

「それでもッ! 助けるぞ!!」

 

 

司は言う。

一同に走る衝撃、誰もがそれを心に浮かべていたが口にはできなかった。

天秤にかけたものが大きすぎるのだ。鬼の力、それにリーダーだった鬼太郎の力も望めない今――

 

明確にかけられたのは花嫁一人の命か、この世界全ての命か?

全てを選べば花嫁は確実に死ぬが、全てがまだ安全を約束される。いや、もしかしたら約束を守る事はないかもしれない。

だが、逆に約束を破るなら、あのまま最初のほうに滅ぼせた筈だ。わざわざ面倒なことをする意味もないだろう。

 

そして、花嫁を選べば大きな戦いになる。

上手くいけば花嫁も、全ても救う事ができるかもしれない。

しかし同時に失敗すれば、文字通り全てを失う事になる。

 

笑顔も、未来も、命も、夢も、人生も、信じた者も、家族も、思い出も、愛も。そして全て奪われるかもしれない。失うかもしれない。

その可能性がこの世界全ての人間と妖怪に課せられるのだ。

責任がどれだけ大きいのか。それでも納得できないモノがあるのだが――

 

 

「アキラを助けるんだッ! このまま生贄なんかにさせるかよッ!!」

 

 

司は、その責任を熟知していたつもりだ。

しかし言葉を具現化させる。天秤にかけられた一が、それだけ大きいのだから。

 

 

「あ、ああ! そうだな!」

 

 

その言葉にユウスケが賛成する。彼らには『力』がある。

鬼の力が一つだけだったとしても、今まで彼らが得てきた『仮面ライダー』としての力が存在するのだ。

その希望が彼らにわずかな望みを与える。

 

 

「………」

 

 

次々に賛同の声が上がる。

寝子やあられでさえ仲間の無事を知るため、これからの共存社会を望む為に協力してくれると言うではないか!

 

 

「………ッッ」

 

 

アキラのメールにはわずかだが、生への望みがある。

それをこのまま無視するわけにはいかないと、彼らは立ちあがるのだった。

 

 

「……ふぅん」

 

 

そんな中でゼノンはある男に注目していた。先ほどから悔しそうに、悲しそうに下を向いている。

手には携帯が握り締められ、体も少し震えていた。

 

 

「皆、アキラを助けるかどうかは……彼に決めてもらおうじゃないか」

 

 

彼? 一同はゼノンの視線を追う。そこに居たのは……

 

 

「ッ!!」

 

 

相原我夢、彼は自らに向けられた視線に怯む。

何を言っているんだ? ゼノンの言葉が彼の心を見透かすように刺さっていく。

自分が、アキラを助けるかどうか、そして何よりこの世界の方向性を決めるのだ。

それは少し前までただの学生だった、そして何より無力な子供だった自分に課せられるには大きすぎる運命。

我夢は携帯を握り締めてうつむく。そう、この携帯……

 

 

「――ッッ!!」

 

「我夢?」

 

 

汗を浮かべて歯を食いしばる彼に、一同は疑問を覚える。

普段の彼ならすぐに決断していただろう。それこそコインを弾いた方法であったとしてもだ。

それに彼の恋するアキラが危険に晒されているのだから、皆きっとすぐに決めるのだろうと思っていた。

正直、何かよくない事があったみたいだが、だからと言って彼はアキラをこのまま生贄なんかにさせないと皆はそう考えていただろう。

 

 

「――ぅッ」

 

「え……?」

 

 

しかし、だがしかし――

 

 

「……行きましょう」

 

 

彼の答えは

 

 

「アキラさんは諦めて。僕達は、次の世界に行きましょう……ッッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけの沈黙が流れたのだろうか?

それはもしかしたら数十秒の間、それはもしかしたら一分間。それはもしかしたら一瞬。

永遠にさえ感じる世界の静止。そしてハッキリと聞こえていたくせに何かの間違いじゃないのかと言う声があがる。

しかし我夢の答えが変わる事はなかった。彼は、アキラをこのまま生贄にすると言う選択をとったのだ。

天秤にかけられた命と命、全か一か? 我夢が示したその答えは全だと言う事。

 

 

「なんでっ!? 我夢くんッ?」

 

 

一番最初に声をあげたのは里奈だった、彼女はもう一度我夢に問いかける。

本当にこのままアキラを放っておいていいのかと? 後悔はしないのかと?

だが何度問いかけても答えは同じ、イエスだった。極論、アキラを見捨てると言う選択。

 

 

「………」

 

 

もちろん、それを普通に容認する筈がない。

我夢の選択に納得がいかないのはほぼ全員だろう。

理由をといかけようとする司達。正直、フルーラでさえ何故こんな選択をしたのか分かっていないようだ。

 

しかしそんな中でゼノンは珍しく大きく声を上げる。

口元は隠しているために今、彼がどんな表情を浮かべているかは分からない。

しかし今までで一番圧倒的なオーラを開放した為に、皆一気に静まり返る。

 

 

「――ッ、何だよ…?」

 

「ボクは言ったはずだ、相原我夢がその選択を取らなければならないと。ならば、今彼がその選択をとったならボク達はその選択に必ず従わなくてはならない!」

 

 

自分達よりはるかに小さい子供の筈である彼、しかしその眼力に皆ある種の恐怖を覚える。

その小さな体の中に、どんな化け物が潜んでいるのか? いつものふざけている彼ではない。

まるでそれこそ人物が入れ替わったかのように、ゼノンは一同を睨みつける。そして、最後に我夢を見た。

 

 

「………」

 

 

目を反らす我夢を笑う訳でも非難する訳でもなく、ゼノンは立ち上がる。

 

 

「明日の正午にアキラ以外の全員を次の世界に転送させる。学校以外に居ようが無駄だ、世界は彼女の死を選択する」

 

 

そう言ってゼノンは立ち上がるとフルーラに合図を送る。

若干複雑そうにフルーラは表情を曇らせたが、すぐに笑みを浮かべるとゼノンの後を着いていった。

二人はそのまま完全に学校から消えていくのだった。

 

 

 

しばらくその後も沈黙が続いたが、やがて鏡治が口を開いた。

 

 

「我夢くん、理由だけ……聞かしてもらっても良いか?」

 

「……ッ」

 

 

我夢はうつむいてしばらく沈黙をとおす。

心配そうに見る者や、理由が気になって仕方ないと言う者。

そうだ、我夢が彼女を犠牲にする選択をとるなんて言わばありえない事と言ってもいい。なのに何故? 何故、彼はそんな選択をとったのか

 

 

「……すいません、だけど書いてあったじゃないですか。アキラさんは僕達が次の世界へ行くことを望んでいる」

 

「………」

 

「だから、これでいいんです……ッ! これが、アキラさんが望んだ事なんだから」

 

 

そう言って我夢は教室を出て行こうとする。

呆気にとられる司達は、ぼんやりと我夢が教室からでていくのを見ているだけだった。

しかし、そんな中で舌打ちの音が聞こえた。静かな教室だったからそれは余計に目立った。

同時に我夢に衝撃が走る! 対峙する視線と視線。険しい表情でにらみ合うのは亘と我夢。

亘は我夢の襟元を掴みあげると、口調を荒げる。

 

 

「お前ッ! 本気で言ってるのかよ! 本当にそれでいいのかよ……ッ!!」

 

「……ッ、ああ。それでいいよ、アキラさんはそれを望んでる」

 

 

大きな音と共に、もう一度我夢の背中に衝撃が走る。

叩きつけられた。目の前には今までで一番怒っているだろう亘がいる。

何を言いたいのか、薄々は分かっていたが……それでも尚我夢は彼から目を反らした。

止めようとする翼よりも先に、亘は再び我夢に問いかける。

 

 

「お前の意見をボクは聞いてんだよッ! アキラがそれを望んだからって、はいそうですかってお前は受け入れるのかよっ!!」

 

 

その時、亘の手が破裂音の様なモノと共に弾かれる。

手にビリビリとした重い衝撃が走り、亘は表情を強張らせる。

見れば、我夢が亘の手を弾いていた。だがしかし我夢の瞳は亘を捕らえない、虚空を見ていただけだ。

 

 

「アキラさんの望みは犠牲者を出さない事だッ! だったら、邪神に歯向かう事をすれば誰かが危険に晒されるッ!! アキラさんはそれを望んでないんだよっ!!」

 

 

もちろん、邪神がその約束を守る保障もないのだが。

今の状況で考えれば歯向かうと言う選択を取るのは危険だろう。

妖怪達が全く歯が立たずに敗北したのだ、サトリ一体に負けている様では彼らに勝ち目はないだろう。

 

もちろん、方法がない訳でもない。

しかし我夢はそれを拒んだ。アキラの為と、自分を言い聞かせる。

 

 

「お前はこのままアキラが死んでもいいのかよッッ!!」

 

「ッッ!」

 

 

その時、初めて我夢は亘の瞳を直視する。

 

 

「いい訳……ッ!! ないだろッッ!!」

 

 

思いが爆発したのか、声を荒げ我夢は吼える様に言い放つ。

しかしすぐに燃えつきたのか、その場に座り込んで亘に携帯を差し出した。

疑問に思う彼に、我夢は言う。自分宛に来たメールにはまだ続きがあったのだと。

たまたまスクロールできたと思ってみれば……

 

 

「――ッッ!!」

 

 

亘はソレを聞くと、我夢の携帯を受け取って彼宛のメールを見た。

確かに文が終わったように思えても、実際はまだスクロールが可能だった。

しばらくそのまま下にいくと、我夢だけに宛てたメッセージが現れる。

それを見て、亘も思わず反応に困ってしまう。ある種、とても卑怯な事がそこには記されていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

我夢くん、本当に酷い事を言ってごめんなさい。

 

だけどもしまだ私の事をほんの少しでも好きでいてくれるなら、これ以上スクロールはさせないでください。

この下にはとても酷くて最低な事が書いてあります。あなたにはソレを見て欲しくない。

だけど、これを書かなければならなかったんです。

 

友達としてでもいい。

私の事を友達としてでも、まだ好いていてくれるなら、

この先の言葉だけは見ないでください。

 

お願いです、お願いします

 

そして、世界を移動してください。

貴方にしか頼めない、どうかお願いです。

 

もし、私の事をほんの少しでも、好きでいてくれるのなら……私を、生贄として残してください。

お願いです我夢くん。どうか私を、死なせてください。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――ッ」

 

 

我夢はその事を皆に伝える。好きならば、世界を移動してくれ。

そんな事彼に問う事の方がずっと愚問ではないか。

 

 

「僕はッ……アキラさんが好きなんですよッ! こんな事書かれたら! 世界を移動するしかないじゃないですかぁッ!! うぅぅううッッ!」

 

 

この世には、どうあっても叶わぬ想いや成就しない恋がある。

我夢とアキラこそがそうなのだろう。それを画面に記した、そして同時に最期の願いを乗せて。

邪神が具体的にどんなモノなのかは分からない。だが、死者を出さないのは不可能であると誰もが思う。アキラもまたそんな一人だった。

 

彼女の願いは、誰も死んでほしくない。

少しでも平和が戻る可能性があるならそれでもいいと。倒せずに全滅の危機があるよりはそれでいいと。

だからどうしても、その願いを聞いてほしかった。叶えてほしかった。

 

我夢にその願いを託したのは、正解だったのだろうか?

力なく座り込む我夢と、既に彼女の意思が固いのを知る亘達。

精神共に疲れ果てた彼らを案じて、翼は休憩をとることにした。明日の正午までに、具体的な方針を聞きたいと我夢に言う。

辛い話だが、世界移動を防げるのは我夢の一言でしかないだろう。尤も、我夢は既にアキラを残すという選択をしているようだが――

 

 

「いやだ、いやだよっ離れたくない! アキラちゃんと一緒にいたいよぉ! いやだ、やだやだ! どうして! どうしてなの! アキラちゃんが何をしたの!? いやだよぉ……っ! アキラちゃんと……一緒じゃなきゃやだぁ!」

 

 

子供の様に泣いて我夢に懇願する里奈。

助けたい、もっと一緒にいたい、離れたくない。

アキラとずっと一緒だった彼女は、幼児が駄々をこねる様に我夢に詰め寄った。

だがそれは我夢とて同じ。アキラと、たとえ好かれなくともいいから……一緒にいたいと、願う。

 

だが、そんな彼女の願いは生贄となる事。

これは個人の問題ではない、全てを背負っているのだ。

そう、アキラのまだ小さな背中にこの世界全ての命がかかっている。そしてなにより、世界が彼女の死を望んでいる。

 

絶対の選択。

運命は時に残酷である。既に彼らの試練は終了している。

つまり、アキラを助けなくとも課題はクリアしているのだ。

アキラ一人の為に失うかもしれない物が多すぎる。今まで死ぬ気で試練をクリアしてきたメンバーに対しても、我夢は思うところがあったのかもしれない。

 

結局、各々は解散となる。

泣き続ける里奈を、我夢は直視できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

屋上で我夢は月を見上げる。今、彼女もこの月を見ているのだろうか?

後悔している? そうだ。叫びたいほどの後悔が身を切り裂く。

いや、後悔はできないのだ。きっといずれそれを受け入れる時がやってくるのだろう。

 

初恋とはたいてい実らない物だ。しかしこんな残酷な結末だと誰が予測していただろうか?

思い出の中で彼女は泣いていた。そう、泣いている彼女の姿がまだ焼きついている。

だからもっと彼女には笑っていてほしかった。なのに世界は残酷だ。

 

答えが分からない。

何をするのが一番なのか、我夢は思う。

だが、きっとこの選択は間違いではないのだ。

アキラの思いも尊重して、これからの事は妖怪達に決めてもらうと言うまる投げになるがこれが一番いいに違いない。そうだ、そうに違いない――

 

我夢はコインを取り出す。アキラから貰った、大切なコイン。

優柔不断な自分はこれに何度も助けられた。

 

 

「ごめん、アキラさん……」

 

 

表も、裏も、どちらがでても君を助ける選択肢がない

僕は君を、守れないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月がまだ夜を照らしている中、道とも言えぬ場所を駆ける影が一つ。

山に囲まれた道には似つかわしくない、エンジンの音が闇に響いていた。

険しい道を半ば強引にそのバイクは突き進む。目的地は徐々に近づいていくおおきな山。

いや、だれもが『山』だと思っていた物と言うべきだろう。

 

 

「……ッ、見て。現れるわ!」

 

「ああ、そうだね――」

 

 

偽りの山が文字通り爆発する。

轟音と共に辺りに降り注ぐ大木や、土の塊、無数の礫。

それらはもちろんバイクに乗っている二人にも牙を剥く!

 

 

『ヒィト!』『トリガァ!』

 

「「変身!」」

 

『ヒート・トリガー』

 

 

紅き紅蓮の炎、罪を穿つ蒼き弾丸。

その存在を認識させる電子音と共に二人の体は一つになる。

変身を完了させたダブルは、すばやくトリガーマグナムを構え自らの道を防ぐ障害を消し炭に変えていった。

 

 

「現れたね、妖怪城がッ!」

 

 

山があった所、その地中から生えるようにして城が現れる。

あまり綺麗な物とは言えないかもしれないが、二人ですら気おされるようなオーラが城からは溢れていた。

ダブルは自らのバイク、ハードボイルダーのアクセルを全快にして加速していく。

 

 

「さてと、場所はあそこかな?」

 

『ええ! まだアキラの携帯電話が壊されてなくて助かったわ!』

 

 

ダブルはそう言って、赤と青ではないメモリを取り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気分は、どう?」

 

「はい、大丈夫です……」

 

 

淡い笑みを浮かべる少女を見て、世話係を任された麓子(ろくこ)は複雑そうな表情を浮かべる。

赤い髪に、美しい顔立ち。言われるまで彼女もまた妖怪だとは思わないだろう容姿だ。

今、目の前にいる少女が満月の夜に無残に食い殺される。それを黙って待つだけしかないなんて申し訳ないと言う気持ちと、ほんの少しの安心感を持ってしまう。

 

 

「麓子さんは彼氏がいるんですよね?」

 

「え、ええ……まあね。一応結婚の約束とかもしてたり……」

 

 

そこまで言って麓子は口を閉じる。

そうだ、この少女はもう恋すらできないのだから。

 

 

「アキラちゃん……もし――ッ」

 

「いいんです」

 

「え?」

 

 

麓子が何を言おうとしたのか、アキラは理解する。

だけど、そんな事を聞いてしまっては迷いが生まれるかもしれない。

覚悟はもう終えた、麓子の未来が守れるならそれでいいとアキラは再確認をする。

 

 

「満月までは後どれくらいなんですか?」

 

「……どうかしらね。でももう少しはあると思う、四日くらいは」

 

 

じゃあ、それまでお話しましょう。アキラは笑う、だが麓子は笑えなかった。

自分達の未来を守るには、彼女を生贄にしなければならないのか……

 

 

「成る程、満月の夜に君は死ぬんだね。お月様がまん丸になった時がタイムアップって訳だ」

 

「「!!」」

 

 

小さな窓の外、そこにゼノンとフルーラが座っていた。妖怪城でも上層のこの部屋がばれるとは……

侵入者だと身構える麓子だが、アキラが知り合いだという事を告げると、黙って後ろへ下がっていった。

しかしアキラとて何故彼らが自分の所へやってきたのか、全く分からない。お別れの挨拶を言いにきた訳ではないだろう。ならばどうして?

 

 

「あなたに、どうしても聞きたい事があるの」

 

 

そんな疑問も、フルーラの一言で晴れる事になる。

彼らはアキラに『ある質問』を投げかけたのだ、たった一言。それだけだ。

 

 

「………」

 

 

アキラは迷う。

しばらく、彼女は迷いに迷った。

だが程なくして彼女もまたたった一言だけ、彼女に返す。

 

 

「はい」

 

「「………」」

 

 

答えはイエス。

ゼノンとフルーラはそれを聞くと、ゆっくりと頷いて再び何かを口にしようとする。

しかし、その時だった。突風が巻き起こり彼らの体が窓から離れたのは。

 

 

「ッ!」

 

 

ゼノンとフルーラは落下しながらも冷静に辺りを見回す。

そして見つける、何かが空を猛スピードで駆け回っている事に。

冷めた目でその軌道を予測していくが……

 

 

「ちッ!」

 

 

まさにそれは閃光と呼ぶに相応しい一撃。

風も、闇さえも切り裂く一突きがフルーラの眼前に迫る。

 

 

「フルーラッ!!」

 

 

叫ぶゼノンと、反射的に目を閉じるフルーラ。

直後に響くのは何かと何かがぶつかる音。目を開けるフルーラの前に居たのは、ゼノンではなく小さな何かだった。

 

 

「まあ! ありがとう、ギャオ太!」

 

「流石はギャオ太だ!」

 

 

謎の攻撃を弾き飛ばしたのは、白と銀。

そして青みがかかったクリアパーツで構成されていた恐竜の様な機械だった。

だが機械と言っても恐竜らしい咆哮を上げている為に、いやにリアリティがある。

二人はその恐竜、『ギャオ太』にお礼を言うと、ニヤリと笑って指を鳴らした。

すると、二人の落下地点にリボルギャリーが出現し足場となる。着地する少し前に二人は再びダブルへと変身し、銃を閃光に向けて構えた。

 

 

「ぎゃはは! 残念だな、せっかく不細工な顔に化粧してやろうと思ったのによぉ!」

 

「………」

 

 

あ?

 

 

ダブルの背後で声がしたと思えば、次は烈風がダブルの体を包む。

体が切り刻まれそうになる程の強烈な風。思わず体を縮めてガードの姿勢をダブルはとる。

だがしかしその時を待っていたと言わんばかりに、上空を飛翔していた閃光が向きを変えてダブルに突進を仕掛けた。

身動きがとれないダブルは、それをモロに受けてしまい。地面を滑る様にして吹き飛ぶ。

数メートル先のおおきな岩にぶつからなければ、どれだけの距離を飛ばされたのだろうか?

 

 

「………」

 

「残念だな。頭吹き飛ばすつもりだったんだろ?」

 

 

雷の様なスピードで地面に着地したのは、槍を構えたトカゲの様な生き物。先ほどの閃光はコイツだったのだ。

そしてもう一体はイタチとカマキリを合成させたかの様な者。人間には見えないが、饒舌にげらげらとダブルを馬鹿にしたように笑う。

こちらは烈風を発生させて動きを封じていた方だ。

 

 

「……おい」

 

 

崩れた岩が吹き飛び、ダブルが炎を纏ってゆっくりと近づいてくる。

だが二体に焦る様子も無い。ダブルの異常なまでの殺気にすら動じないのは、相当の実力者なのか?

 

 

「今、何ていった?」

 

「あぁ?」

 

 

イタチに向けた言葉。

すぐにそれを理解したのか、イタチは人間の様に笑みを浮べると、わざと声を大きくして言う。

それは、フルーラを貶し冒涜する、最低の言葉の羅列。汚い顔だから血で化粧をしてやろうとしたのに等、醜いだのと女性に向けるには最低で下品な言葉。

品性の欠片も感じられない罵倒はしばらく続き、次はゼノンに同じような事を言い放つ。

 

ここで彼らの為に言っておくと、ゼノンもフルーラも美しい顔立ちの部類に入るだろう。

しかしイタチは彼らをしばらく楽しそうに罵倒し続けた。

 

 

『「………」』

 

 

ダブルの殺気がどんどん膨れ上がっていく。

それに気づいたのか、今まで黙っていたトカゲが、再び加速を始める。

あっと言う間に閃光とも言えるスピードへと変わると、また辺りを高速で移動し始める。

 

 

「ささ、糞ガキはまとめて死んでもらおうかねぇ!」

 

 

ダブルは何かをしようとアクションを起こすが、同時に現れた黒い波動にそれを拒まれた。

その一瞬の隙を閃光につかれ、さらにダブルはきりもみ状に吹き飛んでいく。

砂塵を巻き上げて木々をなぎ倒しながらダブルは、平衡感覚さえ失う程回転しながら転がっていった。

 

 

『………』

 

 

そして空中から黒い装束を纏った妖怪、サトリが浮遊してくる。

相変わらず不気味なオーラの彼は、不意打ち混じりに発砲してきたダブルの弾丸を、いとも簡単に全て回避していった。

そして、ダブルに向かって闇のエネルギーで練成した剣を発射する。

 

 

(コイツは……ヤバイな――ッ)

 

 

外灯すらない山の道。

ダブルの姿も闇にまぎれているが、サトリの狙いは的確にダブルを捉えていく。

防御の隙をつくのも、攻撃の隙を狙うのも完璧と言うに相応しいだろう。さらに続々と妖怪達がサトリ達を援護する為にやってくる。

 

 

「……ッ!」

 

 

イタチの攻撃をギリギリのところでかわすと、ダブルはカメラを取り出して黄色のメモリをセットする。

 

 

『お願い! パタ吉!』

 

 

カメラはコウモリ型に姿を変えると、電子音と共に強烈なフラッシュを巻き起こす!

目を覆う妖怪達の隙をついて、ダブルは大きく後ろへ跳んだ後に走り出した。

そしてそのまま乗り捨ててあったハードボイルダーに乗り込むと、アクセルを吹かしてそのまま走り出す。

 

もちろんそのまま逃がしてくれるわけも無いだろう。サトリはダブルのとる行動が分かっていたと言わんばかりに目を塞いでおり、フラッシュを回避していた。

サトリはそのまま自分の体を浮遊させて、ダブルの後を追う。逃げるダブルの軌道を的確に捉えて闇のエネルギーを放出していくサトリ。

ダブルの弾丸で打ち消されてはいるが、命中率はかなり高く、同時にダブルからの攻撃も全て回避する。

仮面の奥で彼は何を見ているのだろうか? まるで機械の様なサトリ。ダブルもそのやっかいさに、思わず舌打ちをこぼす。

 

 

「ッ!」

 

 

だが、しばらく逃走を続けていると前方に砂のオーロラが見えた。

ダブルはため息をつくと、そのままハードボイルダーごとオーロラの中へと突っ込んでいく。

 

消えるダブルとオーロラ。

サトリは動きを止めるとそのまま悔しがる事もなく踵を返す。追う事すらしないサトリ、彼はもう完全にダブルが消えたと理解していた。

後ろからは他の妖怪達もダブルを追いかける為にやってきていたが、サトリが諦めた事を知ると完全に逃がした事を知り動きを止めた。

 

 

「サトリ様、警備を強化いたしますか?」

 

 

見るからに『鬼』の容姿をした者がサトリに一礼を行う。

 

 

『花嫁の部屋を変え、その周辺の警備だけは強化しておけ。後は目目連(もくもくれん)だけで十分だ。今、目目連の指揮は誰がとっている?』

 

「はい、百目です」

 

『新入りか、まあいい。そのまま続けさせろ。満月の夜に花嫁が邪神の胃袋に納まるまで……警備を怠るなよ』

 

 

何人もの声が重なっているようなサトリ、衣をなびかせてそのまま上空へと飛翔していく。

途中顔をイタチ達、ヒトツミが連れてきた新参者に向けた気がするが?

彼が何を考えているのか、それは誰にも分からぬ事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かったよ、ありがとう」

 

「ええ、思ったより大変だったわ」

 

 

美しい月、綺麗な虫の鳴き声だけが夜の公園を包んでいた。

ベンチに座っているゼノンとフルーラは、ジャングルジムの頂点で自分達を見ていた友人にお礼を言う。

月に重なる友人は、クスリと笑ってどういたしましてと返した。

 

 

「様子見にしては、ずいぶんと苦戦されたようですね」

 

 

男とも女とも分からない不思議な声。

まあ、と言ってもれっきとした『オス』なのだが。

 

 

「他のメモリを使えばよろしかったのでは?」

 

「君が来てくれなきゃ使っていたさ」

 

 

普段見られないゼノン達の疲労しきった表情。それがおかしいのか、友人はしきりにクスクスと笑っていた。

やはり彼らの友人であるだけあって笑い方が似ている。だがゼノン達や魔女とは違い、馬鹿にしたような不快感は全く無い。

どこか彼からは上品さがにじみ出ていた。

 

 

「それより、どうしてオーロラが出せないのかしら、ワタシ達」

 

 

そう、ゼノンとフルーラは世界や空間を移動するオーロラが出せなくなっていた。

おかげであんな面倒な事をしなくてはいけなかったのだ。友人は頷きながら微笑むと彼らにそれを説明する。

オーロラを封じたのはゼノン達の主人である魔女のせい。もうすでに響鬼への変身を済ませているため、あとはこの世界が『物語』として認められればいいらしい。

そしてそれはアキラの死をもって完成する。もうゼノン達がする事もないだろう、余計な事をされると厄介だ。少しでも行動範囲を制限する意味を込めてオーロラを封じたのだった。

 

めんどくさい、ゼノンとフルーラはやれやれと笑う。こちらに動かないでほしいなら単純に戻ってこいだの迎えにくればいい話だ。

おまけに魔女には自分たちを強制的に戻せる力がある。だがそれをせずに行動を微妙に抑えるだけなんて……

まるで『行動していい』というメッセージを感じてしまうではないか。いや、尤も魔女の性格からしてそうなんだろうが。

 

 

「ナルタキが泣くよ、全く」

 

 

クスクスと笑い合うゼノンと友人、だがフルーラはしかめっ面だ。

 

 

「彼女に会ってきたわ」

 

「ほう、彼女……天美アキラですか」

 

 

フルーラは頷く、友人もアキラの事は知っている。

今回の事は非常に気の毒だとは思うが、自分の立場上簡単に助ける事はできない。

それはナルタキも十分に考えた結果だ。彼もまた、アキラを見捨てると言う結論をたてていた。

自分達は言ってみればナルタキと魔女の駒。都合の良い様、動かなければならない。それが友人の考えだ。

 

しかし、フルーラは何度も納得がいかないとぼやいていた。

彼女にある質問をして答えてもらった時から、フルーラはしきりにやれ納得がいかないだの、やれおかしいだのゼノンに話しかけている。

 

 

「まあ、そうですね。おかしな話です、ですが――」

 

「ご主人さまはボクらに制限をかけただけ」

 

「?」

 

 

フフフと笑って、ゼノンはフルーラの肩に手をおく。

それがどう言う意味なのか、瞬時に理解したフルーラ。

相変わらずと言っていい。ゼノンへ対する愛の言葉を連呼しながら抱きつく彼女を見て、友人もどうやら理解したようだ。

ため息をついて友人は問いかける。

 

 

「本気ですか?」

 

 

ゼノンとフルーラは笑って答える。全ては一人の主人公が決める事だと。

主人公、それは愛の狭間でくすぶる鬼。

 

 

「怒られてもしりませんよ。私は……」

 

「仕方ないさ。あの日、あの夜。『始まりの夜(ビギンズナイト)』にボク達は誓ったんだ」

 

 

友人は苦笑すると、その二頭身程度の体を起こして消えていくのだった。

しかしゼノンとフルーラは知らない。この世界で天美アキラは必ず死ぬのだ、それは世界が決めた事。

どうやら、その決定は駒をも動かす程なのか?

 

 

「さて、天美アキラの死が彼等にどの様な影響を与えるのか……」

 

 

それは暴走か、それとも覚醒か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼノン達は?」

 

「ええアキラさんに接触した様ですが、どうやらサトリに敗北したようで。今は再び司さん達に接触する様ですよ」

 

 

戻ってきた友人と、魔女は書斎で紅茶を楽しんでいた。

ナルタキは一旦席を外しているようで今は二人で物語(せかい)を観測している。

友人は紅茶を飲むためカップを持とうとするが、やはりなかなか上手く掴めない。結局いつもの様な飲み方になってしまう。

 

 

「変身してみるのはいかがかな? 指が増える」

 

「それじゃあ紅茶が飲めませんよ」

 

「ああ、そうか。メールは打てても紅茶は飲めない。当然だ」

 

 

そうかそうか、魔女は上機嫌に笑って友人に謝罪する。

分かってて言ったな。友人はそんな魔女に苦笑すると、カップから顔を離した。

 

 

「しかし、よろしいのですか?」

 

「?」

 

「ゼノン達ですよ。ビギンズナイト、あれを体感した彼らなら今回とるべき行動は容易に想像がつきます。私はそれで構いませんが……ナルタキさんや貴女にとっては困る事なのでは?」

 

 

魔女はクスクスと笑って紅茶を置いた。

困る? 何故? 魔女は言う、たとえどんな結果になろうとも自分は観測者。見るだけであるのに。

 

 

「貴女は嘘をつくのが好きだ。私は貴女に言葉と知恵を授けられてからと言うもの、長きに渡り友人でありました」

 

 

ですが、友人は静かに笑って紅茶に映る自分の顔を見る。

友人は長い時間魔女と一緒に過ごしてきた。だが、未だに魔女が何を考えているのか全く理解できない。

観測者であると言うのに野次を飛ばし、物語の内容を左右させようとする。かと思えばどんな結果でも構わないと言うスタンス。

 

 

「貴女は、何かを企んでいるようで……実は何も考えていない」

 

「フフッ、それは心外だ。私は常に物語の事を考えていますよ」

 

 

友人は苦笑して魔女を見る。

そう、魔女はどんな展開でも構わないのだ。

ナルタキも運が悪い。もう少し協力的な存在もあったかもしれないのに。

 

 

「貴女は大変面倒だ。ナルタキさんも苦労が続く」

 

「フッ、褒め言葉としていただこう」

 

 

魔女は友人に改めて告げる。アキラの死が絶対ならば、自分はそれを受け入れるだけだ。

その過程でゼノン達『眼』がどこを見ようが関係ない。好きにさせればいいと魔女は言った。

 

 

「天美アキラは絶対に死ぬ……か」

 

 

友人は目を閉じて記憶を辿る。ふむ、あれは確か……どの試練だったか?

そんな言葉を聴いた気がする。

 

 

「まあいいでしょう。答えは、まもなく明らかになる」

 

 

友人は魔女にお礼を告げて、椅子から飛び降りるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半妖、人間と妖怪の間に生まれる珍しい種族だ。

この世界ではだいたいの場合人間と妖怪の間にできた子供は、妖力をもたず人間となる。

だが稀に妖怪の力が中途半端に流れてしまい、人間とも妖怪とも言えぬ子が生まれる。

 

人はそれを半妖と言った。

 

だが、未熟な為に馬鹿にされる事も多く、何よりも半妖本人とて複雑なものである。

多くのものは力を制御できず、また人間とも妖怪とも言えぬ立場上肩身の狭い思いもたくさんしてきた。

例えばそう、魚やねずみを見るたびに本能がうずいて理性がきかなくなる、とか。

 

 

「………」

 

 

そんな事を、自分の様子を見に来たであろう寝子に打ち明けられた。我夢はそれを頷く訳でもないが、黙って聞く。

一人でいたかったと言えばそうだ、誰かと話せば決断がゆらいでしまう気がする。だけどいつまでもそんな事を考えている訳にはいかない。

アキラ、彼女の事を少しでも忘れられる様に我夢は寝子の話を聞いた。

 

寝子は鬼太郎と言う名の少年の話をしてくれた。

彼女はその半妖だった。猫娘である彼女は魚やねずみを見ると、猫としての本能が暴走して理性が保てなくなるのだ。

たとえそれが公衆の面前であっても。

 

人間には誰にも見られたくない『何か』があるものだ。

人はそれを周りに隠して毎日を生きるものだが、彼女はその隠す毎日に必死だった。

もし、学校にいる間に猫としての自分がでてきたらどうだろう?

 

クラスメイトが驚きに目を見開いている中、

自分は無我夢中で、人間としての恥じらいも忘れてただひたすらに魚を食い散らかす。

そして我に返ったとき、彼女を待っているのは周りの冷め切った目。好奇の眼差し。そしてその後に起こるいじめだけしかなかった。

 

半妖は人間としての自覚を持つ者の方が多い。

それは妖怪として力が足りない為、コンプレックスからくる者。

容姿が人間に近い場合が多いため、人間として生きていきたいという願いからくる者。それは様々である。

長い歴史の中で、妖怪は人間社会に隠れるようになってしまった。それが逆に彼女をただの『頭のおかしい人間』として周りに自覚させる事となる。

 

地域によっては妖怪の事を認知している場所があるが、すくなくとも寝子がすんでいた場所はそうではない。

つまりそれこそいい訳がきかないのだ。散々引かれた後に私は実は妖怪なんです。なんて言ったらそれこそ彼女は本格的に危険人物として見られてしまうだろう。

両親は彼女には申し訳ないといつも言っていた。力が抑えられるように特訓をするように言っていたが、既に犯してしまった過ちが彼女を苦しめる。

周りに妖怪がいない中で一体どんな事をすればいいのか、両親もあまり知識が豊富な妖怪とは知り合いではなく、完全にお手上げ状態だった。

 

日々酷くなるいじめ、誰にも相談できない苦痛。

味方になってくれる子や友達でいてくれる子もいたが、そんな子達の前でまたいつ猫がでてくるのかと言う恐怖。

そんな事がつづいて彼女は毎日が苦痛になってしまった。

 

いつからか、死にたいと願うようにさえなってしまったのだ。

魚の匂いでさえ意識が飛びそうになる、お弁当の時間はいつもトイレで泣いていた。

しかしそんな苦痛の日々が続いていた頃……彼らが現れた。

 

 

「幽子です」

 

「天邪鬼だ」

 

「鬼太郎と言います。どうぞよろしく」

 

 

季節はずれ、しかも三人同時、なにより名前の異質さ。

突然現れた転校生にとまどう生徒達、もちろん寝子もその一人だった。

寝子の学校はいやに古い型で、セピア色の雰囲気が常に漂っている昭和チックな校舎だった。言っては失礼だが、それに三人はとてもよくマッチしていた。

 

寝子の服装も当時は今に比べてずっと古臭いものだったが、鬼太郎達の服装と言えば古臭い感じの学童服に、縞模様のちゃんちゃんこ。

そして下駄と言う、小学生とは思えない古風な物。それは残りの二人も例外ではない。

 

学校だと言うのに幽子は美しい着物を着ており、

天邪鬼と言う少年は道着、そして襟巻きと言うシンプルな容姿だった。

ちなみにこの天邪鬼と言う少年。長身で足がそれなりに綺麗で、髪が腰くらいまで伸びており一瞬女性かと見間違ってしまう程だった。

しかし顔を見れば確かな男性の凛々しさがある。寝子は軽くショックを受けながらも、新しいクラスメイトをジッと観察してみた。

雰囲気が皆とは違う。まるで人間じゃないかの様に。

 

 

「よろしく」

 

「え?」

 

 

気がつけば鬼太郎が隣に座っていた。

幽子の方を見ていた為、隣に座られた事に気がつかなかったのだ。

寝子は申し訳ないと言う気持ちと、転校生が自分の隣と言う珍しさ。緊張が混じった様子で彼に挨拶を返した。

 

 

「………」

 

 

何故彼らに苗字がないのか、

先生は特別な事情があるから――なんてあーだこーだと言っている。

小学生である皆はそんなモノかと渋々ながらも納得していったが、寝子はどうにも引っかかるものがあった。

チラリと隣を見てみるが、左目が髪で隠れている為、鬼太郎の表情を探ることはできなかった。

 

皆がわいわいと騒いでいる中で、彼は怖いほど静かだ。

ポケットに手を突っ込んで足を伸ばしているのを見ると、緊張していると言う訳でもないらしい。

冷静と言うよりも怖いほど落ち着いている様に感じる。本当に自分と同じ歳なのかと疑ってしまう程に彼の雰囲気、空気は静かだった。

時折、彼の頭付近から小さな声がしているのは気のせいだろうか?

 

 

「どうしたの?」

 

「えっ!?」

 

 

全く動かないで鬼太郎は、寝子に話しかける。

顔すら動かしていなかったので、寝子は自分に話しかけられたと言うのに気づくのが遅れた。どうやら鬼太郎は寝子の視線を感じ取っていた様だ。

しかし全く動かないのは心臓に悪い。寝子は予想にしていなかった不意打ちに少し焦りながら、適当な言葉をなげかける。

どうして転校してきたのかというベタで無難な質問。

 

彼らは何でもあまり人目につかない学校を探していた時に、この学校を見つけたらしい。

寝子は様々な疑問を感じる。確かにこの学校と言うか地域は田舎のほうだが、それがいいと言うことなのだろうか?

 

 

「……ねえ、君」

 

「は、はい?」

 

 

付け足すように、鬼太郎は言った。しかしこの時初めて彼の頭、視線が移動した。

寝子は思わずドキリとしてしまう。何を言われるんだろう? 思わず身構える寝子。

そんな彼女が不思議なのか、鬼太郎は目を丸くしてしばらく固まった。しかしすぐに小さく笑うと小声で彼女に言う。

 

 

「妖怪って、信じてる?」

 

 

最初はからかわれたのかと思ったが、

彼が幽霊族の生き残りだと聞いた時はその存在を信じるしかなかった。

幽霊族、その名をしっている時点で妖怪社会に通じている証拠だと両親は言っていた。

鬼、妖怪、人間。様々な種族が昔は生きていた中、幽霊族もそんな一つだったと言う。

 

 

「まあ、本当は霊族って言う誇り高い種族だったらしいけど、人間の奴らが幽霊と勘違いしてくれちゃったんだよなぁ?」

 

「仕方ないさ、人が歴史を紡ぐんだ。その過程で情報に些細な違いがあるのは仕方ない事だから」

 

 

まいった話だなと天邪鬼はケラケラと笑う。

どうやらこの三人は幼馴染らしい、おちゃらけた様子の天邪鬼。

そしてそれを冷めた態度ながらも真面目に反応する鬼太郎、そんな二人を温かい目で見守る幽子。

 

正直そんな彼らがうらやましいと寝子は思った。話を聞けば天邪鬼と幽子、彼らも妖怪だと言うではないか。

尤も自分に近づいたのも鬼太郎が寝子の妖力を感じ取ったかららしいが、そんな事はもうどうでもいい。

寝子はいろいろなトラウマを脳裏に浮べながら、彼らに言った。

 

友達になってほしい。

 

 

「……そうだったんですか」

 

「ええ、それから主に鬼太郎さんが私の力の事で相談に乗ってくださったの」

 

 

熱心な鬼太郎の教えがあったから、今こうして寝子は猫娘としての力を制御できる事ができていた。

今では魚を食べる事で任意のタイミングで猫化でき、それは雹との戦闘でもやってみせていた。

どうやら猫化すると性格がワイルドになるらしく(いつもの寝子が本質なのかもしれないが、彼女曰く今は猫を被っているらしい。そう言って笑っていた)髪の色や長さも変わる。

完全に使い分けが出来るようになった訳だ。

 

 

「ありがとうございます。お話をきかせてもらって……」

 

「………」

 

 

我夢は、寝子が自分に早くアキラの事を忘れるよう、

この話をしてくれたのだと思っていた。気がまぎれるのだろうと、そう考えていた。

しかし、寝子はそうではない。彼にこの話をしたのは、他に意図があったからだ。

それは彼女自身どう言葉にしていいか分からない物。だからうまく言えずにこんな形になってしまった訳だが……

 

 

「私ッこの力が嫌で嫌で、本当に毎日が辛かった――」

 

 

しかし、ある日鬼太郎が言ってくれた一言。

 

 

『寝子は歌が上手だね』

 

 

初めてかもしれない。

猫化の件があってから初めて他人からまともに良い所を言われたのは。

最初は照れくさいし恥ずかしかったのだが、その一言が本当に嬉しくてずっと心の支えになっていた。

 

夢ができた。

歌は好きだったし、いつかそう言う仕事につけたら嬉しいなとか……それは、小さい頃に誰しもがある憧れの様なモノ。

だけど自分は猫化の事で苦しみ続ける、そう思って諦めていた。

 

 

「でも、今寝子さんは立派にお仕事をされているじゃないですか」

 

「ふふっ……結構頑張ったのよ、私たち」

 

 

それなりに大きなステージで猫化してしまった時もあった。

あの時程辛く悲しかった事はない。寝子はそう言ってうつむく、きっと思い出したくない事なんだろう。

だけど寝子はそれを思い出してでも、どうしても一つだけ言いたかった。伝えると言う程の言葉ではないし、単なる一言なのかもしれない。

だが、やはり彼女はどうしてもそれを言いたかったのだ。

 

 

「私、それで自暴自棄みたいなのになってしまって……だけど、そんなときに鬼太郎さんから言われたの」

 

 

思い出す。

障子ごしにいわれた言葉を。

 

 

『僕は、幽霊族として……差別されようとも、卑下にされようとも、その誇りを忘れはしない。僕は、胸を張って幽霊族として生きている』

 

 

だから、君も……

 

 

「たとえ、生きていくなかで辛い事が山ほどあったとしても、自分という存在を変える事はできないわ。だとしたら、せめて自分が後悔しない生き方をとるしかない」

 

 

もちろん、良識の範囲でね。寝子は舌を出して笑う。

 

 

「今、私は寝子として、猫娘として胸を張って生きています。だから我夢さん、あなたにもどうか……胸を張れる生き方をしてもらいたいんです!」

 

 

それだけを言いたくて、寝子はごめんなさいと我夢に言って駆けていく。

つまり、いろいろと言ったが『後悔しない選択をしてくれ』と言う事なんだろう。

 

我夢は歯を食いしばる。

後悔? アキラのお願いを叶える事は自分にとって後悔する事なのか? 好きな人のお願いをかなえてあげることは後悔なのか!?

そんな訳ないだろ。その後もいろんな……というか全員が自分の元を訪れて話をしたりした。

 

そのどれもが、最終的にはアキラの選択について

 

寝子の言葉が頭にこだまする。胸を張れる生き方? 自分はどうなんだろうか?

人間として、仮面ライダーに選ばれた一人として。この選択をとった者として、胸を張れるのか?

まるで、闇をはいずりまわる様だ。光を求めて動くが、果てしない無の中でおかしくなりそうになる。

分からないんだ、もちろんアキラとは別れたくない。だけど我夢の心を燻らせる絶対の原因がメールのなかにはあった。

 

それはまだ誰にも言っていない一文だった。あの時にアキラの他に、もう一件新着でメールが来ていた。

誰からか? それはすぐに分かる事になる、そして知った。彼女が絶対に死ぬと言う事を。

 

 

『はじめまして、相原我夢さん。貴方だけに伝えたい情報があります』

 

 

アキラのメールと同時に来たもの。

いきなりこんな一文が最初にくれば、誰だって怪しいと思ってしまう。だが、読んでいく内に怪しさは消えていった。

なぜなら今までの試練の事や、世界の事がそこには書かれていたからだ。それは紛れも無い真実ばかり、そのメールの差出人は今までの世界移動に関わっている者だという。

つまり、この試練を仕組んだ者の一人。ゼノンやフルーラと同格、もしくはそれ以上の存在。

すぐに我夢は司達にその事を伝えようとしたが、最後の文字を見てそれをやめた。

 

 

この世界は天美アキラさんの死を望んでいます。アキラさんはこの世界で確実に死ぬ運命なのです

 

だから、どうか彼女の事を助けるなんて馬鹿な真似は止めてください。そしてどうか彼女に出来ることを少しでもしてあげてください。お願いです

 

 

そんな文字がそこには記されていた。信じないと言えばそれでいいかもしれない。

だが今までの世界の事を知っている以上ただ者ではないだろう。罠の可能性も十分ある、だがもしこの人の言っている事が本当だとしたら?

 

アキラは絶対に死ぬ。それが本当ならば邪神には勝てないと言う事にならないか?

どんなに頑張ってもアキラは助けられない。その結果寝子達にも危害が――

 

 

「どうしようもないんですよ……ッ」

 

 

本当にどうしようもない。

我夢は耐え切れずに、そんな事を入れ替わりで来た亘に告げた。

驚きに目を見開く亘だったが、以外にもたった一言だけ我夢に投げかけて下へと戻っていった。

 

 

『お前の意見はどうなんだ?』

 

「………」

 

 

たった、一言その言葉を言えばいいのだろうか? だが同時に後戻りはできなくなる。

無理なんだ。コインの裏も表もどちらもアキラを助ける、助けられると言う答えがない。

どちらの目がでても同じ、アキラは死ぬ。

 

 

「おう、お前…結局どうするんだよ」

 

 

最後にやってきたのはモモタロスだった。直球な言葉を投げかけてくる。

そう、僕はどうすればいい? 決めるのは僕なんだから。

我夢は空を見上げる。月が綺麗だった。綺麗な月を守るには、彼女を――

 

 

「僕は………アキラさんを、見捨てます」

 

「お前はそれでいいのかよ」

 

「………」

 

 

皆そればっかりだ。確実にアキラさんは死んでしまう。それを言えば納得してもらえるのか?

我夢の揺れる心を理解したのか、モモタロスはため息をついて我夢の隣にやってくる。視線は合わせないが、ふと彼はその言葉を口にする。

 

 

「もし……よ」

 

「え?」

 

「お前が何に燻ってんのかは知らねぇ。だけどもし信じてくれるなら……」

 

 

後悔はさせねぇぞ、モモタロスは我夢の目を見る。

思わず気おされて後ずさる我夢、何故か今の言葉がとても頼もしく聞こえた。

よく見れば扉の方ではウラタロス達やアームドモンスター達も見える。

 

 

『背負うものとか、これからの事とか、ごちゃごちゃ気にしてないで一人の人間としてこの試練を受けてみなさいな』

 

 

キバーラがクスクスと笑いながら我夢の周りを飛び回る。

我夢の心に宿る炎、それを我夢は必死に否定しようとする。余計な希望は持つな、悲しくなるだけだ。

 

 

「おい、我夢。あきらめんなよ」

 

 

だが、モモタロスはそれを許さない。

 

 

「お前は、お前だ。だから、お前が決めろ」

 

 

お前が決めろ。

我夢はコインを取り出す、アキラに貰った大切な宝物だ。

 

 

「………」

 

 

モモタロス達もいなくなって、我夢はもう一度よく考えてみる。

胸を張れるように――

 

 

 

 

 

 

翌日、教室には昨日と同じように皆が集まっていた。

最初は十七人しかいなかったこの教室も今では良太郎達が増え、キバット達が増えて、葵と鏡治が加わって、ゼクター達も増えた。

だけど一人が減る。どうしようもない運命だ、彼女の未来は潰える。

 

 

「やあみんな、ちょっといいかな」

 

 

しかしそんな中、ゼノンとフルーラが声をあげる。

なんでも、妖怪の一人にコッソリ盗聴機をしかけていたらしい。

あの馬鹿イタチ、全然気がついてないみたいと何故か少し罵倒を混ぜながら彼らは話す。

 

 

「そこで、興味深い話を聞いたわ」

 

「え?」

 

 

ケロちゃん! フルーラのその一言と共にカエルを模した機械が現れる。コウモリやクワガタなど、彼らの補助を担当する機械メモリガジェット。

その中で音声に関わるフロッグポッドを皆の前に移動させた。

 

 

「拾った音声は限られてるんだけど……いいかい? 再生するよ」

 

 

フロッグポッドのスピーカーから音声が流れた。

どうやら妖怪達の会話らしい、最初はノイズが酷かったが、徐々に音声がハッキリと聞き取れるようになっていく。

 

 

『――た―ん――つ』

 

「………」

 

 

そして

 

 

『しかしよぉ、妖怪共は全 気づ てない な! 俺たちが人間だって事!』

 

「え…?」

 

 

ノイズ交じりで全てを聞き取る事はできないが、それでもその言葉は彼らの心に突き刺さった。

 

 

『馬 な連 だぜ! ちょっ 人間離 した技見せたら信じや ってよぉ!』

 

『仕方 いさ、この世界は人間か妖怪のどちらかし いないんだか な』

 

『本当に間抜け ぜぇ、なんだっけ? 花嫁? ハッ、マ で本 に何に わかってな んだなぁ! 笑えるぜぇ、ア  ハ!

 

『しかし、こうも都合よく が進むとはな。花嫁の血が れば邪神は ワー ッ する しい』

 

『あー  は! そうだぜぇ、花 って  提 すれば邪 様は の世界を滅ぼして れる。 そうなれば、俺 はも と質のいいメモ を らえる! ははは!』

 

 

「なんだこれっ!?」

 

「妖怪じゃ……ない? 人間!?」

 

 

音声から読み取れた情報は、妖怪の中に人間が混ざっていると言う事。

そして花嫁に関して、なにかよからぬことを考えているようだ。そして、最後の一言が……

 

 

『花嫁も馬鹿な奴だ! 無駄死にし いくんだからよぉ! ギャハ  ハ!!』

 

 

沈黙が、辺りを包んだ。

しかし、その中で確かな怒りのオーラが漂っている。

 

 

「ゆる……せねぇ…ッ!」

 

 

アキラは、アキラの想いをこいつ等は……

どんな想いでアキラが死ぬ事を望んだのか、そしてその覚悟をコイツらは馬鹿にした。

怒りが、激しい炎となって教室の中で燃えあがる。何か黒い陰謀が渦巻いているのは確実だ。となれば――

 

 

「助けにいくぞ! もう決めた! アキラを助けに――」

 

「待って……ください」

 

 

決心を重ねる彼らに、我夢は声をかけた。

 

 

「我夢ッ! お前も聞いただろ!! だったら――」

 

「違うんですよッ! 絶対に無理なんです!!」

 

「え…?」

 

 

我夢は悩んだ末、皆にメールの事を打ち明けた。止めと言わんばかりに打ちのめされる夏美達。

里奈はパニックになりながらも、ゼノン達に確認をとる。嘘だと言ってほしかったのだろう、百パーセントの死。

抗えない宿命、そんな事があっていいのか?

 

助ける事を最初から否定される。

どんなに自分達が彼女の死を止めようとしても、世界がそれを否定する。世界が彼女を殺すのだ。

しかし、答えは口にするまでもなかった。フルーラは青くなってそのメールを見る。ゼノンもまた驚きの表情でそれを凝視していた。

 

そして、頷く。これは自分達の知り合いだ。

文の最後に『観測者の友人』と書かれていたのを見て、確信する。

その事を伝えると里奈は泣きじゃくる。また、欲しい玩具を買ってもらえず駄々をこねる子供の様に彼女は泣いた。

どんなに頑張ってもアキラは助けられない。救えないのだ。

 

 

「どうにかならないのかよッッ!!」

 

 

鏡治は叫ぶ。自分とアキラの付き合いなんて皆に比べれば小さいものだろう、

会話の数も思い出も数えるくらいしかない。だが、だからこそこれから一緒にいろんな事をして絆を深めていくんじゃないのか?

鏡治は認めない、アキラの死を彼は否定した。

 

無駄なのに……

我夢は携帯を取り出してアキラからきたメールをもう一度見直してみる。

 

 

「………」

 

 

そう言えば、アキラからメールがくるだけで飛び跳ねて喜んだっけ。どうでもいい内容だけど、そんな文でさえ宝物に思えた。

彼女と一緒にいれるだけでよかった。彼女の笑顔に助けられた。彼女と肩を並べられるだけで――

 

しかし、世界は彼女を殺す。

逃がしはしない。彼女の命を世界は奪うのだ。

 

 

『我夢くん、私を……殺してください』

 

「………」

 

 

我夢は彼女の想いを踏みにじる行動にでる。

自分の事を少しでも好きだと思ってくれているなら、見ないでほしいと言われた先に我夢は進んだのだ。

彼女の意思を尊重していた彼が何故、あの先にいく事を決めるに至ったのか。

 

メールの先には酷い事が書いてあるらしい。きっとそれは、生への望みじゃないかと我夢は思っていた。

化け物に食われて死にたい人間がどこにいる? 彼女はきっと自分の弱音をあの先に書いたに違いない。

それを見ればきっと我夢の心は大きく揺れ動く。だから、彼女は見てほしくはなかった。そう言う事だろうと我夢は思っていた。

 

だけどそれでも、我夢はアキラの言葉を受け入れたかった。

どんなに酷い事が書いてあっても、どんな弱音が書いてあっても自分のアキラに対する想いは変わらない。

それ程までに、我夢はアキラの事が好きだった。たかが中学生の恋愛と思う者もいるだろう。だけど、我夢にはアキラしかいない。

 

だから、彼女の想いを一つ無視する。それくらいは許して欲しい。

我夢はアキラに心の中で謝罪すると、スクロールを始めた。絶対に見ないでと書かれていたが、我夢はアキラに心の中で謝罪した。

そこにかいてあったものは――

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

我夢くん、スクロールをしたって事は私の事が嫌いって事でいいんですよね。じゃあ、遠慮なく言わせて貰います。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあなたが好きです。

 

まだよく分からないのですが、多分絶対そうだと思います。男の人として我夢くんが好きです。

ごめんなさい。これだけはどうしても書いておかなくちゃ、死んでも死にきれない気がしたので書かせてもらいました。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「………なんだよ、それ」

 

 

本当に、アキラさんはずるいですよ。いまさらこんな事。

それにあんな書き方、見てほしいって言っている様にも思えてしまう。

 

 

「コインを弾いて、表が出ても裏が出ても結果は同じなんです。どちらの目も彼女を助けられないと言う結果が記されている。まして表にはこの世界の命が、裏には彼女の命が記されていたとして、どちらの目がでてもそれは――」

 

 

正しいことなのだろうか?

泣きじゃくる声だけが教室に響く、そして我夢はコインを弾いた。

それはこの世界の選択。彼は言う、裏が出たらアキラを見捨てる。表が出てもアキラを見捨てる。

 

それしかないのだ。

残酷にもその目しかコインには記されていない。

 

 

「アキラさんを……」

 

 

ピィンと音を立ててコインが弾かれる、回転しながら宙を舞う運命のルーレット。

いや、もう結果は決まっているのかもしれない。表が出ても裏が出てもアキラは死ぬ。

彼女との今までがフラッシュバックの様に、鮮明に映った。残酷な世界だ。

 

 

「アキラさんを見捨てて、次の世界へ――」

 

 

ごめんなさいアキラさん。本当にごめんなさい――

 

 

「さようなら――」

 

 

 















はい、と言う事で映画行ってきました。
いや、なかなか良かったと言うかオール物の中では一番面白かったかな。

予想以上にファイズとディケイドの出番があって主役並だったのが良かった。
あと電王がちゃんと関さんで見せ場もあったし安心したよ。やっぱモモはあの声じゃないとな。
エフェクトとか、フォームチェンジも凝ってたし面白かった。


昭和陣も主題歌がドラゴンロードって事でアレやるんじゃねぇかなと思ってたらほんとにやってくれたしね。
あと、一号の変身もめちゃくちゃカッコ良かった。
一瞬だけアレになるのもね。

まあ細かい所が気になったりもしたけど、かなり良い映画でした。
最後にEDのシンさんはワロタ

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