仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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※"汝は人狼なりや"について。

あまりメジャーではありませんが、狼、人、狐が戦う一種のパーティゲームとなっています。
とは言っても日本ではマイナーな部類にあたり、現在はネット状で行われるのが一般的と言ったところでしょうか。
この作品では敵の能力のモチーフとなっていますが、少し説明をさせていただきます。

このゲームのルールは人の中にまぎれた狼を見つけて殺すゲームです。その中で必要になってくるのが職業、役職と呼ばれる存在です。
詳しいルール等や遊び方はネットで調べてもらえると助かりますが、この作品で登場する占い師、共有者、狂人は戦闘様ですので、簡単に説明すると――


占い師・人の中にまぎれた狼を見つける事ができる。
共有者・二人いて、それぞれが秘密の会話をする事ができる。
狂人・人であるのに狼の仲間である、つまり裏切り者的存在。


ちょっと違う点がありますが、だいたいこの様な感じです。
ちなみに作者はプレイするまでは至ってないんですが、でも面白いゲームだと思います。
見るのは好きですからね。

ではどうぞ。


第42話 破壊の狼牙

 

「ッ!! ガアアアアア!」

 

「亘ッ! クソッッ!!」

 

 

斬撃と共にキバの体が宙に舞う。

キバの装甲から火花が飛び散り、大きな傷を作っていくのが嫌でも分かった。

すぐにドッガハンマーのフエッスルに手を伸ばすキバだが、鬼天狗が発生させた暴風のせいで立つことすらままならない状況だ。

そこへさらに襲いかかる斬撃の嵐!

 

 

「今のうちに笛を!」『トルネイド』

 

 

カリスが発動させたトルネイドの効果で、暴風がかき消される。

その隙にキバはドッガハンマーを発動させる―――つもりだった。

しかし、キバの手が掴まれてフエッスルに届かないッ!

 

 

「クッ!!」

 

「無駄だ。お前は俺には勝てない」

 

「ふざけ――ッッ」

 

 

頭部に衝撃を感じたと思えば、掴まれてそのまま地面に叩きつけられる。

キバットに助けを求めようともうつ伏せでいる為にキバットがベルトから離れられない。

それにどうした事か、キバットの調子もまた悪い。おそらくこの空間が何か関係しているのだろうが。

 

 

「チッ!!」『バイオ』

 

 

カリスアローから薔薇の蔓が放たれ、キバを掴んでいた鏑牙の手に絡みついた。

そのままカリスは鏑牙をキバから引き剥がすと、少し離れた所にいる鬼天狗に向かって蹴りを繰り出す。

トルネイドを発動している間は暴風を無効化できるが、ふたたび風を発生させられたら戦いにくくなる。

まずは早めに鬼天狗を倒しておきたい。

 

 

「残念、私は狼ではございません」

 

「何――ッッ?」

 

 

カリスの強烈な蹴りを、あろう事か鬼天狗は真正面から受け止める。

しかし、本当に驚くべきなのは鬼天狗がまったくノーリアクションだという事。

ダメージが全く入っていないのだ。彼は文字通り真正面からそのまま蹴りを受けた、ガードなどしていないのに。

 

 

「ゼイッッ!!」

 

「ちぃぃいッッ!!」

 

 

鬼天狗の頭突きをかろうじてガードするカリス。

しかし、そんな彼女の背中に三本の閃光が刻まれる。

何も無い場所から光の爪がカリスを切りさく、これが敵の力なのだろうか?

 

 

「カハ――っ!」

 

「余所見をするな、敵は四方からやってくるのだからな」

 

 

その言葉を言ったのは鏑牙だった。

そう、この部屋。空間には今14人の参加者がいる。

 

 

「厄介な力だ――ッ!」

 

 

カリスは反撃の蹴りを鏑牙にぶつける。

しかし彼もまたノーガード、渾身の蹴りを受けても眉一つ動かさない。

そしてカリスに襲いかかる閃光。吹き飛ぶ彼女が目にしたのは、『別の』鏑牙の姿だった。

 

そう、14人のうち10人が鏑牙なのだ。

分身した鏑牙はそれぞれがキバたちに攻撃を繰り出してくる。

後は鬼天狗と無表情でコチラを見ているねずみ男、そしてカリスとキバ。

ねずみ男は戦闘に参加していないとはいえ、11対2と言う絶望的状況。そして、何故か全くダメージを受けない鏑牙達。

コチラは攻撃を全力で行っていると言うのに、どんどんダメージが蓄積されていく始末だ。謎の閃光が厄介で仕方ない。

 

 

「大丈夫ですか、咲夜さん!」

 

 

なんとかドッガフォームに代わったキバが、カリスを庇うように立つ。

何か秘密があるのか? ドッガハンマーに備えられているトゥルーアイで彼らを見ればそれが分かるかもしれない。

キバはウェイクアップを発動――

 

 

「!?」

 

 

ウェイクアップが発動できない! 何故!?

混乱するキバにおそいかかる鏑牙達、素早い身のこなしで閃光の様な斬撃を繰り出してくる。

耐えるキバだが、再び鬼天狗が発動させた暴風に持ち上げられて地面へ叩きつけられてしまった。

 

 

「あぐぉ!!」

 

「ぐあああああッッ!!」

 

 

そしてカリスに刻まれる閃光の数々。

反撃の隙が全く出来ない! 十人もの鏑牙の攻めは全く休む事を知らず、常に二人にダメージを負わせていった。

 

 

「お前達に勝利はない。もう諦めろ、そうすれば楽に殺してやる」

 

「……フッ」

 

 

鏑牙の言葉にカリスは笑ってみせる。

そこで初めて鏑牙は攻めの手を休めた、何故笑う? そんな様子にカリスは真っ向から答えてみせる。

 

 

「諦める? 笑わせるな。たとえ最期の瞬間だろうとも、ワタシ達はアキラを救う事を諦めたりは……しないッッ!!」

 

 

起き上がり様に蹴りを決めるカリス。顔面へのクリーンヒットだが……

 

 

「暑苦しいなお前達は、俺の一番嫌いなタイプだ」

 

 

これも全くのノーリアクション。

鏑牙はカリスの足を掴むと、そのまま壁へと投げ飛ばす。

カリスに三本の閃光が刻まれ、鬼天狗の笑い声が響いた。

 

 

「フハハハ! 花嫁を救うですか。これまたおかしな事を言う」

 

「………」

 

 

無言のねずみ男、笑い続ける鬼天狗を何とも言えない目で彼は見ていた。

冷めた様な、諦めた様な、気に入らないような――そんな目で。

 

 

「おかしくねぇよ!! 世界を、アキラを必ず助けるッッ!!」

 

 

バッシャーフォームに変わるキバ。

水流弾を撃ちまくるが、これも全く鏑牙達にダメージを与える事はできなかった。

鏑牙の一人は、水流弾を受けながらも全く気にしない様子でキバに突進していく。

そのままキバの眼前まで迫ると、バッシャーマグナムを弾き、キバを爪で切り裂く!

 

 

「グッッ!! アアァァアア!」

 

 

そこへ追撃として幾重もの閃光が。

何故ダメージを与えられない! 焦る二人。そしてカリスはもう一度この空間を見回してみる。

壁には首を吊っている人間、鮮血を撒き散らしながら死んでいる人間、そして人型の狼を模した絵が描き散らされている。

 

狼……首を吊った人間――。

 

カリスの記憶に何か引っかかる物が浮かび上がってきた。

攻撃をかわしながら、彼女はそれが何なのかしきりに探ってみるが……。

そしてふと思い出す、あの時自分達がこの空間にきたのはねずみ男に何かをされたからだ。

その何かとはあの明かりを灯すらしい紙での事だろう。あれは罠だった、そして自分達はあの紙で何かをした――

 

そう、契約の様な物だった。

パスワードがどうのこうの言っていたが、あの言葉……

たしか、ゲームに参加するだのどうのこうの――ゲーム? そう、ゲーム。

人の形をした狼、そして鏑牙が最初に言っていた何か。狂人だの、占い師だのと。それは役職、与えられた配役、演じるべき、全うすべきルール。

 

 

「ッ!!」

 

 

そうか! たしかあの男――ッ!

カリスは素早く理の欠片を発動する。そして、椿にコンタクトを求めた。

 

 

『―――した? ど、どうした咲夜!』

 

『椿か! 少し聞きたい事がある! いいか! 時間が無いから素早くいくぞ!』

 

『な、なんだよ?』

 

『汝は人狼なりや? そう言うゲームを知っているか?』

 

 

その言葉、椿の答えはイエスだった。

 

 

『ああ、そう言えばお前を一回誘ったっけな。まあパーティゲームの一種だよ』

 

『そうか! ああ、思い出した! 助かった。じゃあな!』

 

『お、おい!!』

 

 

通信を切るカリス。

思い出した! 鏑牙はあのゲームを元にした戦闘を行なうのか! ルールは大分違う様だが……

まあいい。カリスは思い出す"役職"を。確か鏑牙が言った中にあった筈だ、自分たちに該当しているだろう職業が。

それが本当ならば、少しの可能性に賭けるのも悪くないッ!!

 

 

「共有 CO(カミングアウト)! 相方生存中!!」

 

「ッ! ……ほう、知っていたか」

 

「さ、咲夜さんっ?」

 

 

いきなりの発言に戸惑うキバ。

しかし、対して鏑牙と鬼天狗は少し雰囲気を変える。

カリスの体が薄い緑の光を纏うと、彼女は思ったとおりだと笑って見せた。

やはりゲームというからにはコチラにも分があるか。あくまでもどちらも勝つ舞台でなければゲームとは言えないからな。

 

 

「気づいたか女、だがそれだけでは何も変わりはしない!」

 

 

三人の鏑牙がカリスに向かって突進していく。

今までの彼女ならカウンターの蹴りでも一発おみまいしていただろうが、何故か彼女は三人の鏑牙に攻撃を加える事無く回避に徹して見せた。

 

 

「亘! 攻撃をまずは控えてくれ!」

 

「え?」

 

「そして、さっきワタシが言った事を復唱してくれないか!」

 

 

キバは迫る攻撃を防御して、言われたとおり反撃せずに回避してみせた。

そして先ほどカリスが言った事を思い出して自らもソレを口にする。

意味こそ分からないが、迷っていてもしかたない。何かカリスには考えがあるのだろう。

 

 

「きょ、共有CO! 相方生存中……ッ!」

 

 

その言葉を同じ様に口にすると、これまた同じように緑色の光が体を包む。

 

 

『よし、これでまずは成功だな』

 

『え!』

 

 

キバの頭の中に、カリスの声が届く。

どうやら脳内通信らしく、鏑牙達にこの会話は聞こえないらしい。どう言う事なのか全く分からないキバ、詳細をカリスに求める。

彼女は言う、どうやら鏑牙の戦闘スタイルはあるゲームをモチーフにしたものらしい。

そこから何となくだがカリスは予想を立てていると言う事だろう。

 

 

『恐らく、この戦いはワタシ達にとって限りなく不利なものになる』

 

『!』

 

『あの男、鏑牙と言ったか。どうやらワタシたちはアイツが仕掛けたゲームに参加させられてしまったらしい』

 

 

ゲーム? キバは成る程と頷く。

あの時のねずみ男がしかけた罠、何も考えずに行なった行動が参加証明と言った訳か。

そのゲームの詳細をキバは求める。カリスが言うには、それは『汝は人狼なりや?』と言うパーティゲームの一種。

一度椿に誘われてルールだけは目を通した事がある。ルールは少しあやふやだが、確か人の中に紛れた人狼を見つけ出して殺すゲームだ。

様々な職業と、話し合いで人間と人狼の戦いが繰り広げられる。

 

鏑牙がこのゲームを元にした能力ならば、今までの不可解な出来事もなんとなくだが分かる気がする。

おそらく10人の鏑牙の中に一人だけ本体、つまり『人狼』が潜んでいるに違いない。

それ以外を攻撃してもダメージを与えるどころか、間違えたペナルティとしてコチラが反撃の閃光を受けてしまう。

鏑牙の分身は全員同じ見た目をしている為、どれが本物なのか、どれを攻撃したのか、どれを攻撃していないのか全く分からない。

 

 

「要は偽者の中にいる本物を倒せばいいんすね」

 

「ルールは理解したか。だが、それを理解したところでお前達に本当の俺が見えるのか?」

 

「……ッ!」

 

 

確かにそうだ。

ドッガハンマーでウェイクアップを使用できるのなら直ぐに本体を見つけられるかもしれないが、あいにくそうもいかないらしい。

おそらく参加したと言う証明のせいでウェイクアップは封じられていると言う事か。

四方からくる攻撃、回避を邪魔する鬼天狗の暴風。仕組みが分かったところでこの圧倒的戦力差が変わる事は無い。

 

完全に、完璧に詰んでいる。

敗北のカウントダウンを確かに感じつつ、それでもカリス達は攻撃を止めなかった。

四方八方に群がる鏑牙達。この中の一人が人狼と言う事になる。

 

 

「クソッ、うぜぇんだよッッ!!」

 

 

ガルルフォームに変わるキバ。

ハウリングショックでまとめて消し飛ばす! そう判断したキバだったが、当然範囲なのだから間違ったペナルティがそれだけ襲ってくる。

焦る気持ちは分かるが、偽者を攻撃する事はタブー。怯むキバ、すぐに頭部に衝撃が走り、次は手に衝撃を受ける。

思わずガルルセイバーを落としてしまうキバ。

 

 

「無駄な抵抗だな。少年よ」

 

「くそッッ!!」

 

 

鏑牙の一人がガルルセイバーをさらに蹴飛ばし、キバからは届かない位置まで弾き飛ばす。

地に伏せるキバを鏑牙は哀れみの目で見ていた。その瞳の奥にはどんな感情を押し込めているのだろうか?

 

 

「花嫁を救い、世界を救うか」

 

「グッッ!!」

 

「ずいぶんと立派な目標だが――」

 

 

鏑牙の蹴りがキバに刺さる。

苦痛の声をあげ仰け反るキバに刻まれる閃光、鏑牙の爪がキバの装甲に傷を刻み込む。

 

 

「やれるものなら――」

 

「――ッ!」

 

 

鏑牙はそのままキバを持ち上げ、思い切り地面に叩きつけたッ!

 

 

「やってみろ」

 

「グぅううぅうぅッッ!」

 

 

鏑牙は冷めた目でキバを見る。

なんの感情もない、何の期待も持たない、そんな目で。

それは感情と言う概念を忘れた様な。

 

 

「お前は――」

 

「?」

 

 

キバはそれを理解していた。

この鏑牙と言う男、何か他の妖怪とは違う。この鏑牙だけ違うのだ。

鬼天狗、ねずみ男、そして鏑牙。三人の妖怪で唯一鏑牙だけが何か、まるで違う世界から来た様な気がする。

 

 

「お前は――ッ! 何に絶望しているんだ?」

 

「………」

 

 

キバの問いに、鏑牙は何も答えない。

絶望、それが彼の瞳から感じ取れた唯一の感情だ。

瞳が語る諦め、鏑牙は何か諦めた様なオーラを感じる。それがキバは気になっていた。

 

 

「終わることの無い、虚しさ」

 

「ぐわぁああああああッッ!!」

 

「――ッ! 咲夜さん!」

 

 

一方弾き飛ばされ、変身が解除される咲夜。

これはマズイ! 今の咲夜は生身の状態だ、これで攻撃を受ければ致命傷に変わる!

キバはダメージ覚悟で鏑牙を突き飛ばし、走り出して咲夜の前に立つ。分かっていた。鏑牙達はそれを予想してキバに猛攻をぶつけていく。

 

 

「咲夜さんッッ! 早く変身を――ッッ!!」

 

「ああ! くっ、すまない亘――ッ!」

 

 

咲夜は再び変身をする為バックルを手にした。

しかし、それを蹴り上げるのは鬼天狗。

彼はキバを殴り飛ばすと咲夜の前に迫った、彼の足が咲夜の目に映る――ッ!

 

 

「ぐぅぅううッッッ!!」

 

 

素早く体を捻らせて、キバは鬼天狗の蹴りから咲夜を守った。

しかし、これが決め手となったのか、キバの変身も解除されてしまう!

 

 

「クッ! キバッ――!!」

 

 

キバットを呼ぶ為に声を上げる。

しかし、見ればキバットは気絶しているじゃないか。

おそらく、戦闘中も何も話さなかったのは始めらか行動に制約がかけられていたからか。

この空間にキバットは異端扱いされているらしい、フォームチェンジは発動させてくれるがサポートは不可能となっている訳だ。

 

 

「やばいな……っ これはヤバイッ!」

 

「ですね、ああクソッ! コイツら――ッッ!!」

 

 

バックステップで距離をとる二人。

その前には余裕の表情を浮べている鬼天狗、微妙な表情のねずみ男、そして10人の鏑牙だ。

 

 

「馬鹿だねぇお前らも……花嫁を救うなんて最初から無理って分かるだろうが」

 

 

ねずみ男はボロボロの二人を哀れみの目で見ていた。

最初から勝敗なんて決まりきっている戦いに、わざわざ突っ込んできた馬鹿共としかいい様がない。

妖怪の中でトップクラスの鬼太郎ですら負けた連中だ、勝てる訳が無い。

 

なら、コチラにつくのが当然の行動だろう?

何もおかしな事はしていない、この世の中一番大事なのは自分の命だ。

間違っていない、自分は常に正しい事をしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは妖怪横丁に司たちが来る前の時だ。

何かいい儲け話がないかと考えているねずみ男の前に、カガミトカゲの命令でやってきた鬼天狗が現れたのだ。

カガミトカゲは雹がラトラーターに追いやられたと言う情報を聞いて、世界になんらかの異物が侵入している事を悟る。

 

だからとにかく情報が欲しかった。

と言う訳でこの世界で情報通を調べるとねずみ男、彼の名前が出てきたのだ。

カガミトカゲは早速鬼天狗を使い接触を試みた。

 

 

「―――と言う訳です。この世界は今邪神によって支配されている」

 

「おいおい冗談だろ?」

 

 

最初は当然疑っていたねずみ男だったが、鬼天狗が妖怪城の話を持ち出すと信じざるを得なかった様だ。

それほどこの世界において妖怪城の存在は大きいモノであり、総大将の名前や七天夜まで出されては信じないわけにもいかない。

 

 

「つ、つまり何かい? この世界はもう終わりってか!?」

 

「いえ、助かる方法はあります」

 

 

すぐにその話に飛びつくねずみ男、助かるためなら何だってやってやると彼は笑う。

鬼天狗は理解が早くて助かるといい、彼に花嫁の事情を説明した。

天美アキラを捧げれば助かると言う簡単な話をややこしくしようとしている連中がいるかもしれない。

だからそれを調べてほしいと鬼天狗は告げた。

 

 

「報酬は?」

 

「は?」

 

「いやぁ、そりゃ俺だって鬼天狗さんの為にがんばりたいですよ。いやでもねぇ、やっぱりもらうモンはもらわないと――」

 

 

世界が滅びるかもしれないと言うのに彼はやはり彼であった。

鬼天狗は少し表情を曇らせるが、はっきと彼に告げる。もちろん協力に対するお礼はするだろう、だが何よりも――

 

 

「断れば、今ここで死んでもらう事になります」

 

「!」

 

 

流石にコレには驚いたのか、ねずみ男は腰を抜かして倒れてしまう。

鬼天狗は八日以上に出入りしているらしい、ならばある程度戦闘経験もある可能性が高いのだ。ならば彼が本気を出せば自分に命はない。

 

 

「ちょちょ! ちょっと待て、待ちなさい、いや待って! そりゃずいぶんと穏やかじゃないねぇ!」

 

「それだけ我々は追い詰められていると言う事です」

 

 

協力してくれますね、その言葉にねずみ男は首をブンブンと大げさに振った。

要は自分がうまく立ち回ればいいだけの話。それで成功すれば大金が貰えるんだ、うまい話じゃないか。

しかし――

 

 

「くれぐれもこの事は他言無用でお願いします。この横丁にいる妖怪共は人間に甘いときた」

 

「あ……ああ」

 

「聞きましたよ、ココは多くの半妖や人間と関係を持った妖怪がいるようですね。汚らわしい事だ」

 

 

ねずみ男はぐっと歯を食いしばる。

 

 

「人間がいるから俺たちは生きていけるんじゃねぇか、あいつ等は馬鹿だが面白い生き物だぜ?」

 

「はっ、私には薄汚い害虫にしか映りませんよ」

 

「そりゃ、ま」

 

 

そう言って鬼天狗は風を発生させる。

詳しくは連絡を取り合って教えると告げて彼は消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――

 

 

「ねずみ男、お前は余計な口を挟むな。ただ黙って見ていればいい」

 

「へーい。分かりましたよ鬼天狗様」

 

 

そう、大切なのは――

 

 

「ハッ、無理なんて決めるのは……まだ早いッ!」

 

「!」

 

『シャッフル』『アロー』【サドン・アロー】

 

 

再びカリスに変身した咲夜は、素早く二枚のカードを発動させた。

一人の鏑牙にハートの印を打ち込んでおき、弓矢を発射する。すると印を持った鏑牙と矢が入れ代わり、カリスの前には印を持った鏑牙が現れる。

そして、元々鏑牙が立っていた場所に弓矢が転送された。そのまま弓矢は別の鏑牙に向かって飛来していく!

 

 

「!」

 

 

カリスの蹴りが鏑牙に打ち込まれ、弓矢も別の鏑牙に命中する。

10人の内2人は捉えた! 頼むから当たりであってくれ!!

 

 

「なかなかやるな。だが、運が無かった様だ」

 

「クッ!」

 

 

結果はハズレ、二体の鏑牙は人狼ではなかった。

失敗したペナルティとして強力な爪の跡を持つ閃光の一撃がカリスを、もう一撃がキバに打ち込まれる!

よろける両者。そこへさらに鏑牙達の蹴りや鬼天狗の突進が入り、2人はまた壁に叩きつけられる事となった。

 

呼吸が苦しい、足が震える。

ダメージは2人を確実に蝕んでいき、このままだと立つ事すら厳しくなっていくだろう。

きっと諦めてしまえば楽になる、しかし2人は立ち上がった。

 

諦める事は、死ぬ事だ。

彼女を救えないなら、この世界を守れないなら、人と妖怪の共存を望まなければ自分達の物語が終わる気がして、ならなかった。

きっとそれは子供ながらの考えだ。鏑牙はおそらくそれを分かっている、彼はきっと多くの物を諦めたのだろう。多くの物に失望し、絶望したのだろう。

だから、見切りをつけた。

 

 

「違うか――ッ?」

 

「………」

 

 

カリスはやっと分かったような気がする。

鏑牙から自分達に向けられる感情は間違いなく哀れみ、そして無駄だと分かっているからくる物に違いない。

なら、鏑牙は何を諦めた? 何を無駄だと分かっている?

 

 

「俺は、お前達が哀れに思えて仕方が無い」

 

 

鏑牙達は再びカリスたちに攻撃を仕掛けていく。

どうやらそろそろ本気で殺しにかかってくるらしい。

迫る鏑牙達、カリスとキバは先ほど自分達が外してしまった鏑牙を探すが、全員同じ格好で縦横無尽に走り回っている為、特定は不可能の様だ。

 

 

「哀れだとッ? 救いたいと思う事が、取り戻したいと思う事は哀れなのかッ!」

 

「相原我夢と言ったか、ひと時の愛で世界を壊そうなどと無駄な考えを持ち、お前達に協力する妖怪達は共存などと言う夢物語に思いをはせる――」

 

「夢なんかじゃないッ! 共存は、手と手を取り合う事は不可能じゃないんだッ!」

 

「思い描いている結末は、きっと黒く歪んで消える」

 

「―――ッ」

 

 

その時、ねずみ男の表情が険しくなったのに――気づいた者はいない。

 

 

「どいつもコイツも望みすぎている」

 

 

サトリ戦を見ていた鏑牙はつくづくそう思う。

目の前にいる彼らも司たちと同じような事を言っているが、それが後に繋がる絶望を膨れ上がらせる事を理解していないのか。

 

 

「!」

 

「花嫁は死ぬのが宿命(さだめ)だ。そして、共存などと言う馬鹿な思想を掲げた妖怪達も、皆等しく愚かな者となる」

 

「………」

 

 

鏑牙のカウンターが次々にキバを蝕み、破壊していく。

両者もう抵抗する間さえ与えてくれない。しかしその激しい攻撃とは裏腹に、鏑牙はあくまでも淡々と呟いていた。

 

 

「何故……共存を否定する――ッ! 何故……愛を否定する――ッ!」

 

「否定などはしないさ、本当に美しいものだってあるかもしれない――……それは、認めよう」

 

 

だが妬み、恨み、怒り、嫉妬、妄言、人間の感情が悪意を増加さえ絶望の連鎖を引き起こす。

そこに優しさなどない、あるとしても偽善の仮面でしかないのだ。そう鏑牙は言った、彼はどうやら人間に心底あきれ果てているらしい。

それは何が理由なのかは分からない。彼が何故人間を恨み、哀れに思っているのかは分からない。

 

しかしそれなりの理由があったとしても、その発言を許す訳にはいかない!

カリスは力を振り絞り立ち上がる。鏑牙の言葉を否定する為にだ!

 

 

「確かに、お前達からしてみればワタシ達はそう映るのかもしれない。だが、決して全ての人間がそうと言う訳ではない!」

 

「かもしれないな。だが、いずれ人は悪に染まる」

 

 

鏑牙が走り出し、カリスもまた走り出す。

激突する両者の拳、だが、この鏑牙は人狼ではない。

よって、カリスにペナルティの閃光が刻まれた。

 

 

「グッ!!」

 

「共存、愛、全てはまやかしだ。それを信じようとするお前らは馬鹿でしかない」

 

 

だから、その歪んだ終わりが来る前に――

 

 

「美しいままで、死ね」

 

 

鬼天狗はクスクスと笑う。

彼もまた鏑牙と同じ考えのようだ、尤も彼の場合はまた少し違った意味合いなのだが。

 

 

「まして人間は私達よりはるかに劣った種族、共存なんてとんでもない。支配こそが似合う言葉なのです!」

 

「ッッ!」

 

 

何故かねずみ男は拳を握りしめる。

鏑牙はそれに気づくも、触れる事はせず。また、鬼天狗の意見に賛同する事もなかった。

ただ切に彼は人間が愚かだという一点張りを貫く。もうその瞳には一片の光りさえない。

 

一方で鬼天狗はそんなねずみ男の様子に気がついた様だ。

面白がって食い込んでくる彼に鏑牙とねずみ男は不快な表情を見せるが、彼はそれに気がついていない様だった。

 

 

「くくく、そこの半妖も同じ考えではないか?」

 

「「!」」

 

 

寝子が言っていた半妖。

彼もまたその一人だったのか――。ねずみ男は舌打ちをして露骨に不快だと言う素振りを行なう。

しかしそんな彼の行動も鬼天狗にとっては興味を引くことでしかなく、さらに饒舌になって彼は続ける。

どうやら勝利を確信した事でテンションが上がっているのだろう。

 

 

「あなたも人間からの迫害を受けたのでしょう? どうです、一度くらいは彼らを攻撃してみては」

 

「いやいや、俺は鬼天狗様や鏑牙様を遠くから眺めているだけで十分ですので~!」

 

 

そう言って作り笑いを浮べるねずみ男。

あきらかに作り笑いなのだが、鬼天狗はそんな事も分からずにさらに畳み掛ける。

 

 

「構いません構いません、人間と妖怪の共存など馬鹿の見る夢。花嫁の救出なぞ愚か者の言うたわ言!」

 

「………」

 

「人間とは皆馬鹿な生き物です。騙され、滑稽に死んでいく。あなたも人間の血など捨ててしまいなさい! ハハハハ」

 

 

その辺にしておけと鏑牙は彼を制止した。

聞き流せばよかったかもしれないが、カリス達はその言葉に噛み付く!

 

 

「アキラを救う事が……愚かだとっ?」

 

「くははは! 当たり前です。愛なんている下種な感情を持った馬鹿には……何も救えない! 何も変えられない!」

 

 

その言葉にキレたのか、キバは一気に鬼天狗との距離を詰めてその顔を蹴りつける。

だが無傷、彼は狼ではない。カウンターの閃光が自動的に発動され、キバは通を舞う。

なんと無様な姿か。そう笑って鬼天狗はキバを見下す事のできる位置まで移動する。キバが倒れた事で咲いていた多くの花が舞い散る事になる。

 

 

「!」

 

 

ねずみ男の目の色が変わる。

キバが吹き飛ばされたところには多くの百合の花が咲いていた。

そこに踏み入れようとする鬼天狗、気がつけばねずみ男は叫んでいた。その花を踏むなと彼は声を荒げる。

 

 

「黙れ半妖風情が! 私に命令するな!!」

 

「!」

 

「おっとこれは失礼、つい興奮してしま……って!!」

 

 

ねずみ男の声を簡単に無視して鬼天狗は多くの百合を踏みつける。そしてキバに追撃を加えていった。

なんとも言えない表情を浮かべているねずみ男、鬼天狗はキバを痛めつける事にテンションが上がっているのかこれまた簡単に言い放つ。

 

 

「こんな汚らしい花なんてどうだっていいじゃないですか! ッハハハ!!」

 

 

その言葉でねずみ男は――

 

 

「さあ、もう終わりにしよう」

 

 

どんなゲームも長引けばその内飽きてきてしまう、ならばココらへんで終わらせるのが一番と言うもの。

鏑牙の手に闇のオーラが纏わりつき、巨大な爪に変わる。これでキバとカリスを引き裂くつもりなのだろう。

鏑牙はゆっくりと歩き出し、その手を掲げたのだった。

 

 

「ちょっと待ってくれや鏑牙さんよぉ」

 

「………なんだ?」

 

 

その時だった。ずっとうつむいていたねずみ男が声を上げる。

どうやら気が変わったらしい。自分も一発カリス達を殴ってみたいと……彼は言った。

 

 

「そうですか! それはいい考えだ! どうぞねずみ男さん!」

 

「………」

 

 

鬼天狗の手招きにねずみ男は答える。

回避しようとする二人を暴風の中に閉じ込めて、鬼天狗はねずみ男に道を作った。

 

 

「人間ってヤツは本当に馬鹿が多い――」

 

「ええ! その通りです!」

 

 

ねずみ男の言葉に鬼天狗は笑って賛同した。

ねずみ男はニヤリと笑って、その拳を振り上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鏡爆弾ッ!」

 

「うッ!!」

 

「きゃあッ!」

 

 

カガミトカゲと交戦していた龍騎達。

戦闘能力は高くないと言っていたカガミトカゲだったが、どうやらそれは『現実世界』での話らしい。

ここは現実世界じゃない、ミラーワールドだ。それを象徴するかの様にカガミトカゲの技は鏡を使った物が多かった。

 

 

「ええいっ、しぶとい餓鬼共が! さっさと塵になってしまえッッ!!」

 

 

再びカガミトカゲは鏡爆弾を発射する。

この技、爆弾と名はついているが実際はカガミトカゲの襟巻きから放たれる光線である。

単調な軌道なら龍騎達も楽によけられるのだが――

 

 

「後ろだ美歩ッ!」

 

「おとととッッ!」

 

 

階段前ホール。

そこには計四枚の鏡が浮遊していた、そこに光線が命中すると瞬時に反射してレーザーは軌道を変える。

厄介な技だ、背後から飛んで来るレーザーに気をつけなければならないなんて――ッ!

 

 

「隙だらけだッ!!」

 

「おわッッ!!」

 

 

油断しているとカガミトカゲのドロップキックが炸裂。

吹き飛ぶ龍騎、ファムはあの鏡を破壊しようと考えるが――

 

 

「無駄だッ! 狂乱反射!」

 

「うあッッ!!」

 

 

鏡が次々に爆発し、ファムにダメージを与える。

すると次は別の位置にまた四枚の鏡が現れるではないか。

どうやら鏡はカガミトカゲを倒さない限り無限に現れるらしい。

 

 

「だったら、いっきに決めてやる!」『アクセルベント』

 

 

ファムの動きが加速して、一気にカガミトカゲの眼前まで迫る。そして刹那、無数の突きがカガミトカゲを襲った!

一撃の次は三撃、次々と迫る突きにカガミトカゲは苦痛の声すらあげられない。そしてタイムアップ。

最後にファムは蹴りで大きくカガミトカゲと距離をあけると、再びバイザーを構えなおした。

 

 

「ぐぅぅうっ! 厄介なッ!」

 

「はっ、決めようかな!」

 

 

ファムはシュートベントのカードに手をかける。

そして立ち上がった龍騎もソードベントを構えて走り出した。

これは危険かもしれない。そう判断したカガミトカゲは、新たな技を発動させる。

 

 

「ミラー分身!」

 

「「!」」

 

 

空中に浮遊していた四枚の鏡が、瞬時に本体(カガミトカゲ)と同じ形に変わる。

そしてシャッフル、龍騎達の前に四体のカガミトカゲが出現した。

シャッフルを完全に見逃していたファムと龍騎、一体どれに攻撃すればいい? どれでもいいのか? 取りあえずファムと龍騎は目に付いたカガミトカゲに攻撃をしかける。

 

 

「「「「甘いッ!!」」」」

 

「!」

 

 

しかし、龍騎が斬ったカガミトカゲはバラバラに砕けていまい直ぐに爆発。

攻撃の爆発らしく、龍騎は後方へ吹き飛んでいく。同じくファムが狙撃した者もフェイク、ボウガンの矢は反射してファムの装甲をかすった。

 

 

「ッ!!」

 

「愚かな人間共めッ! 死ぬがいい! 鏡爆弾ッッ!!」

 

「「アアアアアアアッッ!!」」

 

 

瞬時、再び鏡が再生してトカゲの形を具現する。四体のカガミトカゲは龍騎達を襲う。

威力が跳ね上がったレーザーが二人を吹き飛ばし、地面に叩きつけた。さらにカガミトカゲは龍騎達の頭上に輝くシャンデリアに攻撃を行なう。

巨大なシャンデリア、それらは龍騎達目掛け牙を向く武器。押し潰れろ! カガミトカゲが吠える。

 

 

『ガードベント』

 

 

バラバラに砕け散ったシャンデリアの中から、ドラグシールドを構えた龍騎が現れた。

ファムも無事のようだったが二人の脚はふらついている。シャンデリアの落下衝撃は、少なからず龍騎にダメージを与えた様だ。

 

 

「フンッ! まだ生きているのか、しぶといヤツめ!」

 

「……ッざけんな。何度だって立ち上がってやるよ!!」『アクセルベント』

 

 

龍騎の姿が消え、一気にカガミトカゲの眼前まで迫る。

とり合えず分身でもなんでもいいから攻撃を当てておきたいところだ。

だが、カガミトカゲは狂乱反射を発動して分身を爆発させた。

 

運悪く龍騎が攻撃しようとしていたカガミトカゲが分身だった為、爆発に呑まれて龍騎は後方へと吹き飛んでいく。

さらに追撃の鏡爆弾。龍騎が爆発に包まれていく。ファムも龍騎を助けようと動き出すが、シャンデリアの残骸に足をとられて上手くいかないようだ。

 

 

「くそっ!」『ファイナルベント』

 

「キュイイイイイイイイ!!」

 

 

地面から契約モンスターブランウイングが出現する!

ブランウイングはカガミトカゲ達の背後から現れた為、四体のカガミトカゲは対応に遅れてしまう。

その隙を逃がすわけが無い。ブランウイングの羽ばたきから生まれる強風がカガミトカゲ達をファムの元へと吹き飛ばした。

 

 

「ハァァアアア―――………」

 

 

ソードベントを発動して、ファムはミスティスラッシュの予備動作に入る。

だが、カガミトカゲに焦る素振りはない。それに気がつかないファム――ッ!

カガミトカゲは、吹き飛びながらも叫ぶ。それは断末魔などではない、新たなる技を発動させる為にだ。

 

 

「鏡刃乱舞!!」

 

「う――ッ!?」

 

 

どうやら吹き飛んだカガミトカゲの中、ファムの元へ届くだろう本体は三番目の様だ。

そして、カガミトカゲは最初にファムに攻撃される二体をバラバラに砕く。

もちろんただ砕くと言う訳ではない。粉々になった鏡の破片は、するどい刃に変わりファムに襲いかかる。

皮肉にもブランウイングの羽ばたきによって加速する刃達! ファムは攻撃を中断してマントを盾に襲い掛かるだろう刃達を防御する姿勢に入る。

盾を構えた龍騎の助けも入り、なんとか刃を防ぐ事には成功したが――

 

 

「鏡爆弾ッ!!」

 

「ぐぅううううッッ!!」

 

「きゃああああああッッ!!」

 

 

再び四体のカガミトカゲが放つ攻撃、龍騎とファムは上空へ吹き飛ばされシャンデリアに直撃する。

そのまま地面に叩きつけられる二人。戦闘能力が低いと言われたカガミトカゲですら、これ程なのか――ッ!?

 

 

「無様な姿だ人間共! 花嫁の知り合いの様だが……! ハッ、花嫁も貴様らも救いようの無い馬鹿よ!」

 

「何……ッ!?」

 

 

カガミトカゲは言う。

何も変わらないのに苦しんで、あげく絶望して死ぬ。愚かなプロセスの先にあるのは悲しみと知りながら。

 

 

「アキラはこの世界の人間を救う為に決断した――ッ! それを馬鹿にする事は絶対に許さねぇッ!!」

 

「それが愚かと言うのだ!! 無駄死になんだよッ! 自分が死ねば世界が救われる? ハッ、馬鹿が! 騙されている事もしらずになぁアア!!」

 

 

どうやらカガミトカゲは自分の呪術を破られた事に相当怒っているらしい。ついその言葉を、言わなくてもいい言葉を言ってしまう。

やはりそうなのか――ッッ! コイツらは妖怪も人間も滅ぼそうとしている。アキラを邪神に差し出す事で互いの絆をボロボロにして――ッ!

あげくのはてに世界さえも滅ぼすのか! 龍騎とファムの心に怒りの炎が宿る。アキラはどんな気持ちでその選択をしたのだろうか?

自分が死んで世界を守る。怖くないわけが無いのに――ッ! それを、コイツらは踏みにじるのか! あざ笑うのか! 絶対に許せないッッ!!

 

 

「世界は支配される! 我々が勝利者となるのだッ!!」

 

 

カガミトカゲはチャージを始める。

どうやら決着をつけるようだ。最大出力の鏡爆弾で龍騎達を粉砕する!

 

 

「真志――ッ!!」

 

「………ッ」

 

 

ファムは力を入れるが、どうやらダメージが大きくまだ立ち上がれない。それは龍騎も同じ。

どうすればいい、アドベントでモンスターを呼んで――

だめだ、最悪破壊される可能性がある。ガードベントで防げる? それとも回避を――ッ

 

 

『―――』

 

「!」

 

 

フラッシュバックするアキラの姿。

その時ふと、龍騎はゼノンの言葉を思い出す。そう言えば、妖怪横丁で彼から意味深な事を言われた。

それは龍騎の戦い方についてだった。カードを使うのは結構だが、もっと上手い使い方もある――そんな事を言われた。

うまい使い方? その時はよく分からなかったが――

 

 

「ッ!」

 

 

龍騎はデッキから全てのカードを抜き出してそれらを見る。

自分は真司の戦いでいろいろ学んだ。だから彼がよく使うカードしか見ていなかったが。

真志は思い出す。そう言えば……あれはブレイドの試練だった。龍騎はソレを、一枚のカードを見る。

 

 

「………!」

 

 

このカード。もしかしたら――

もしかしたら、かなり強力なカードなんじゃないだろうか?

 

 

「美歩! アドベントだ!」

 

「え?」

 

「攻撃が来る前に!!」『アドベント』

 

「お、おう!!」『アドベント』

 

 

二人の前に現れる契約モンスター。

しかしカガミトカゲは怯まない、むしろ彼女達はドラグレッダー達もろとも龍騎を粉砕するつもりだ。

チャージが終わり、カガミトカゲは二体と二人に照準を合わせる。

 

 

「消し炭になれぇえええええええええ!! 鏡爆弾ッッッ!!」

 

 

四体のカガミトカゲはそのままレーザーを発射したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと思い出した。彼女の笑顔を。

どこか儚げ、我夢が言っていた事が分かる、彼女の雰囲気は優しくて、温かくて、でもどこか少し悲しげで少し寂しげだった。

落ち着いていると言えばそう。そう言う性格だと言えばそう。彼女は声をだしてゲラゲラ笑うタイプじゃないし、声のちょっとした低さもあってか随分と大人びていた。

だけど、やっぱり彼女が大笑いしている所が見たくて――

 

 

「あーきっらちゃん! あーそーぼ!」

 

「友里先輩、どうしたんですか?」

 

「一緒にゲームしようよ! 教えてあげるかーらさっ!」

 

 

それで彼女が笑ってくれる事を願う。

一度無理やりくすぐってみたけど、顔を真っ赤にさせて頬を蒸気させながら息を荒げられた時は何かに目覚めそうになった。だからくすぐりは効かない。

よく分からないけど、家庭の事情で相当落ち込んでいた時期があるらしい。

そんな彼女の気持ちを分かってあげる事は難しいかもしれないが、せめて今この瞬間が楽しい物になるように――

それは友里の想い――

 

 

 

 

 

 

「美歩先輩は……その――真志さんが他の……あの――ッ」

 

「んあ? アイツがどうしたの?」

 

「真志さんが他の女の子と付き合ったら……どうですか?」

 

 

言葉を詰まらせながら彼女はその言葉を告げた。

すぐに我夢の事がからんでいると理解する。

案外彼女の嘘は分かりやすい、さっそく単刀直入に聞いてみる。

 

 

「はーんッ、我夢くんが他の女の子と仲良くならないか心配なのかな~ぁ?」

 

「そ、そう言う訳ではないんですよ! でも、なんと言うか……その、あくまでも参考程度に聞ければ嬉しいのです――ッッ!」

 

 

そう聞く彼女はいつもの彼女とは違っていた。もじもじして、どぎまぎして、言葉を羅列する。

いつもの落ち着いた雰囲気からは想像できない姿に思わず吹き出してしまった事もある。

この世界に来て、彼女は彼を意識し始めた。それはスタート、いつか二人は結ばれて、幸せになってくれるのだろうか?

だったらうまくいく様に自分が支えてあげればいい。そんな美歩の想い――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜先輩……私は何もできなかった――」

 

 

響鬼の試練、彼女は自らが何も出来なかったと自分を責める。

過去の事もあってなのかは知らないが、彼女はとてもその事を悔やんでいた。

昔から、案外頑固な所があったっけ? 咲夜は苦笑して彼女に言う。

 

 

「別に、何も出来ないと言う事ではないさ」

 

「え?」

 

「我夢が何故戦えるのか、その大きな理由は君がいるからさ」

 

「?」

 

 

何も出来なかったのなら、これからすればいい。

きっとこの先、君が彼を助ける場面は嫌になるくらい出てくるだろうから。

咲夜はそう言って笑った。咲夜の笑顔で安心したのか、彼女もまた笑った。

 

 

「ありがとうございます咲夜先輩。やっぱり先輩は尊敬します!」

 

「あはは、よしてくれ。でもアキラ、ワタシはそんなに立派な人間じゃないよ」

 

「でも、先輩は私の憧れです。いつも凛としてる先輩はカッコいいです!」

 

 

珍しく瞳を輝かせてテンションを上げるアキラ。

ありがたい話だが咲夜自身どうしてこんなに尊敬されているのか分からない。

よしてくれ、咲夜は切にそう思う。自分はそんなに立派な人間じゃないんだ。君がいないだけで、こんなに冷静さを欠くなんて分からなかった。

もっと、うまく考えられて……君を助け出せると思っていたのに――そんな咲夜の想い。

 

三人の思考は混ざり、溶け合う。

 

 

今、君は笑っているのかな?

 

待っててよ、もう少しだからさ――ッ!

 

諦めないでくれ、必ず君の元へ向かう。

 

 

しかし誰もが言う。誰もがそれを否定する。

 

 

「「「花嫁は死ぬ、絶対にだ!!」」」

 

 

それは邪神が望む結末。滅びの未来。嘆きの永遠。

でも言ったでしょ。壊すって―――ッ!

君とまた笑い合う為に、倒すよ。

世界を―――! だから、生きて。

 

 

 

あたしが アタシが ワタシが

 

 

 

 

助けるから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「扉の前からどいてくれええええええええええええええええッッ!!」

 

「「「!」」」

 

「何だ!?」「何者だ!!」

 

 

扉の前からどいてくれ。その言葉が意味するのは――

それを理解して、みぞれは気合を入れて立ち上がる。

大分妖力も戻った、彼女は扉の外から聞こえてきた声に反応すると言われたとおりに扉から離れる。

 

 

「何だ! どう言う事だッ!?」

 

「悪いけど……あたし達――ッ」

 

 

友里は、ニヤリと笑って手長達を見る。

その自信に満ちた表情に思わず手長達は気おされる。まさか、勝つ気なのか!?

 

 

「諦め、悪いからさ」

 

「―――ッッ!! ゴアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

その言葉と共に、物凄い衝撃が部屋中を走る。そして、吹き飛ぶ手長!!

足長は何が起こったのか全く分からない。ただ分かるとすればドアが破壊されて、そのまま手長に直撃したという事!

妖力でロックしたドアが破壊されるなんて、そんな馬鹿な事が!? 相当強力な力をぶつけない限りは不可能の筈だ。

 

 

いや、彼等は知らないからだ。たとえどんなに固い扉であっても、その男はブチ破るだろう。

たとえ何が彼を阻んだとしても、彼はそれを倒すだろう。全ては誓う絆の為に、全ては救うと決めた仲間の為にだ。

神だろうと、大将だろうと、妖力結界だろうともその動きを止める事はできない!

 

なぜならば彼はどんな世界にいようとも、彼だからだ。

そして自らもまた―――神の名を与えられた男!

 

 

「すげぇ……」

 

 

陽はつい呟いてしまう。何故なら、彼の姿は昔憧れていたロボットヒーローによく似ているからだ。

すぐに味方と分かった陽だが、少し疑問に思うところもある。いくらなんでも助けにくるのが早すぎるのだ。

この場所を的確に記憶した式神・紅。場所はすぐに分かっても、到着の時間が早すぎやしないか……?

だが答えは簡単だ。何故なら彼は―――

 

 

「キャストオフッッ!!」『Cast Off』

 

「ぬっ!!」

 

 

パージする装甲、そしてその音声が『戦いの神』の登場を告げる!

 

 

『Change・StagBeetle』

 

 

何故なら彼は――

 

 

「ああ、そうさ! さあ、逆転開始だぜ!」

 

 

瞬間さえも超えてみせるから。

仮面ライダーガタック、最強のスピードを見せてみろ!

 

 

「くそッ!! ふざけやがって!」

 

「おらアァァアアアッッ!!」

 

 

だが、手長足長も黙ってはいない。

足長は陽の結界を破壊して二人は再びガタックと対峙する。

たかが一人増えたくらいでどうと言う事は無い、コチラには兵力も揃っている。

 

 

「「「グルルルルルルッ!!」」」

 

 

手長の合図で上級河童兵達が参上する。武器を構えにじり寄ってくる河童兵達。

コチラには兵力と言う絶対的な武器がある。河童兵にみぞれや変身できない友里を襲わせればガタックは彼女達を庇わざるを得ない。

そうなれば勝利は確実、相変わらず手長足長の優勢なのだ。

 

 

「……しょうがないなぁ――ッ」

 

「ッ?」

 

 

できる事なら、発動しないままの方が良かったんだけど。

そう言って友里は何を思ったかデルタドライバーを持った手長の方へと足を進める。

歩き出す友里、そして戸惑うガタック。戦う術が無い彼女がドライバーを取り返すなど無理な話だ!

ガタックは急いで彼女の方へと――

 

 

「大丈夫ッ! まあ、見ててよ」

 

「え?」

 

「小娘、なめているのかぁあああああッ!!」

 

 

ガタックを制止する友里。

足長はそれが自分たちを見下していると思ったのか、激高して友里に蹴りを仕掛ける!

危ない! ガタックがクロックアップを発動しようとした瞬間――それは起こった。

 

 

「「ッ!?」」

 

「ば、馬鹿なぁ!!」

 

 

友里は何と片手で足長の蹴りを受け止めたのだ。

ありえない、足長は蹴りには自信があった。その威力はとてもじゃないが人間に受け止められる程弱いものではないのに。

何故? 思わず後ろへ下がる足長。そんな彼を手長は落ち着ける。きっと何か小細工をしたに違いない。

なれば、次は自分が。手長は友里に向かって闇の弾丸を発射する!

 

 

「………」

 

 

ドンッ! と衝撃が走り、一同はそれを見る。

口を開けたままの陽とみぞれ。そして、理解したガタック。話には聞いていたが……これが、そうなのか。

 

 

「な、なんだとッ!?」

 

「………」

 

 

友里は、弾丸を受け止めていた。

そのまま弾丸を握りつぶすと、彼女はまた足を手長の方へ進める。

まぐれだ、人間に防御できる代物じゃない! 手長は事実を受け止めず否定する。それがどれだけ愚かな事かと友里は笑った。

 

 

「あ、ありえぬッ!! 足長!!」

 

「あ、ああッ!」

 

 

二人同時攻撃。

流石にこれは厳しいか――? なら、仕方ない。

 

 

「じゃあ、いっちょ見せちゃおうか………なッッッ!!」

 

「「「「!!!!」」」」

 

 

その瞬間、場に戦慄が走る。

何故彼女が手長と足長の攻撃を受け止める事ができたのか。それは実に簡単な理由だった。

なぜなら彼女は――

 

 

「貴様……人間ではないのか!!」

 

「かもね!」

 

 

その刻印が彼女の顔に浮かび上がる。

そして、園田友里の姿が『変わった』。色彩の無い肉体、その迫力に思わず手長達の動きが停止する。

"オルフェノク"。園田友里がデルタに変わる代償として手に入れた姿だ。今の彼女は確かに純粋な人間とはいえないだろう。

だが彼女はそれで良かった。ヒトで無くなる怖さこそあったが、この力で大切な者を守れるのなら構わないと。この力は、正義の為に。

 

 

「はああッッ!!」

 

「しまッ!!」

 

 

友里……ではなく、今は"エンジェルオルフェノク"として地を蹴った。

最初は鳥だと思っていたその姿、しかし彼女の姿からは天使をイメージさせる装飾が多かった。

頭部にはリングを模した装飾が備えられており、力を解放させることで現れる翼はまさに天使そのもの。白い羽を散らして、彼女は上空へと舞い上がる!

 

 

「クッ!!」

 

 

我に返った手長と足長、すぐに彼女がデルタドライバーを狙っている事を悟る。

すぐに隠すように構えて彼女を追撃しようとするが――ッ

 

 

「あぐぉ!」

 

「ちぃいいッッ!」

 

 

エンジェルは頭部のリングに手をかざす。

するとリングが巨大化、彼女の手に装備された。チャクラム、彼女はそれを手長達に向けて発射する!!

チャクラムは独特の軌道を持ち、手長達に直撃。その衝撃で、ついに手長がデルタドライバーを手から離してしまう。

 

 

「ッ!!」

 

 

だが、エンジェルの位置からしてデルタドライバーに手は届かない。

しかも自らの名が示す通り、手長にはリーチがある。デルタドライバーから手こそ離したが、再び掴む事は容易なのだ。

 

 

「!!」

 

 

しかし、手長がデルタドライバーに手を伸ばしたときだった。ドライバーが消えた。

そして手長と足長に走る衝撃とダメージ。倒れる彼らが目にしたのは、ガタックの後ろ姿。

ガタックは手を伸ばす。そして見た、その手にデルタドライバーがあるのを!

 

 

「い、いつの間にッ! な、何故だ!!」

 

 

ふいに横を見る足長。

ゾッとした、ありえないと彼は叫ぶ。手長は彼の叫びに反応して同じ物を見た。

 

 

「あ、ありえん――………ッ!!」

 

 

見えたのは既に気絶している河童兵達の姿。

いつ、いつだ? いつ彼らは気絶した!? いつデルタドライバーをヤツに奪われたのだッ!?

手長足長は知らない。選ばれた者のみに許される世界、クロックアップ。それは全てを超える領域、彼の行く手を阻む物は許されないと。

 

 

「友里ちゃん!!」

 

 

ガタックはデルタドライバーを思い切り宙へ放り投げる。

エンジェルはその方向へ飛翔し、手長達も再び邪魔をしようと試みるが――

再び二体の叫び声。デルタドライバーに気をとられ過ぎてガタックに注意を払うのを怠ってしまう。ガタックは二対のカリバーを投擲。

空を切りながらカリバーは手長足長に命中。怯む彼らと、ドライバーをキャッチするエンジェル。

 

 

「サンキュー鏡治!」

 

 

地に舞い降りたエンジェルは、再び友里へと姿を戻す。

舌打ちを決める手長、いつの間にか状況が逆になっているじゃないか。

さっきまでは攻める側が、なぜ防御に徹しなければならないのか。

 

 

「私には理解できない――ッッ! 何故人間ではない貴様がこんな――」

 

「また、一緒にゲームしたいから……」

 

「それは、世界を天秤にかけてまでの事なのかッ!?」

 

 

友里はドライバーを腰に装着する。

手長足長は純粋な妖怪だ。彼にとって友里達は悪でしかない。友里はその事をかみ締める。エゴ、それはまさに。

 

 

「だけど、どんな小さな花にだって名前はある――」

 

 

命の重さは皆が皆同じではない。

必要死がこの世界にはあり、死ぬべきではない存在があるのも確かだろう。

それでも、それでも小さな命を犠牲にして前に進む事ができないのだ。彼らは――

 

そして、それは協力する者達もそうだ。

信じた絆、正義の為に戦う。かざすのはまた一つの正義。

手長足長もまた彼らと同じだろう。何も差異はない、そこにあるのは世界を守る為に戦うと言う正義なのだ。

この城にいる妖怪は……誰もが皆、己の正義と言うタイトロープを歩いている。それは友里とて分かっている事。

だが、それでも戦わなくてはいけないのかもしれない。彼女と一緒にまた笑い合うために!

 

 

「アキラちゃんと一緒に帰るんだ! 変身!!」『Standing by』『Complete』

 

 

答えは出ないかもしれない。

それでも、出口を求めて走りだすのだ! 友里の体にホワイトラインが刻まれていく。

その眩い光に、手長達は眼を覆う。話し合いは不可能、手長はそれを理解した。正義の為に、正義を超えなければならない!

 

 

「本気で私に勝つつもりなのだな? 本気で邪神を倒すつもりなのだな!?」

 

「当たり前でしょ、あたしに何ができる分からないけど……それでも絶対に勝つッ!」

 

 

デルタは手長に、ガタックは足長に狙いを定めて構える!

その複眼に映るのは、悲しみの未来じゃない。彼女の笑顔なのだ。

 

 

「さあ、決めるよッ!」

 

 

デルタはドライバーからそのツールを取り外す。

携帯音楽プレイヤー型のそれ、"デルタリング"。その名の示す通り、リング状に色が変わっているコントロールパッドを操作して彼女はその電源を入れる。

そして、そのまま右と左のイヤフォンをデルタの耳部分にそれぞれセットした。

 

 

「はッ 無駄だ! もう貴様らにできる事など存在しない!」

 

「あたしを――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで場面は変動する。それはカリス達へと。

 

 

「ッ!」

 

 

カリスとキバは立ちあがろうとするがうまくいかない。

鬼天狗の発生させる暴風が二人の動きを完全に封殺していた。

鬼天狗は尚も人間との共存を馬鹿にしていた。饒舌に話す彼はもう何も目に入っていないようだ。

 

 

「人間と妖怪の共存は無理……」

 

 

ねずみ男が呟く様に言った言葉。

それも鬼天狗にとっては煽りを加速させる言葉でしかない。ねずみ男の言葉に乗っかる様、人間を馬鹿にする。

 

 

「さあ! ねずみ男さん! 彼等に引導を!」

 

「ああ、そうだな――」

 

 

ねずみ男は拳を握り締める。そしてそのまま拳を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴッッッ!! ゴグゥアアアアァアァぅぅっ!!」

 

 

その拳を、鬼天狗へと叩きつけたッッッ!!!

 

 

「「!!」」

 

「………」

 

 

無表情の鏑牙、その隣に鬼天狗は倒れる。

どれだけ強い力で殴ったのだろうか、ねずみ男の手からは血が滴り落ちている。

もっともそれだけの力で殴られたのだから鬼天狗のダメージはもっと大きい、鼻が変な方向に曲がっているじゃないか。

鏑牙達は、ゆっくりとねずみ男に眼を向けた。どう言うつもりなのか? 彼の無言の問いかけにねずみ男もまたゆっくりと答える。

 

 

「百合の花……」

 

「何?」

 

「百合の花が俺は大好きなんでね」

 

 

何を言っているのか、カリスとキバは全く分からなかったが……どうやら、鏑牙には彼が何を言いたいのかよく理解できた様だ。

それはただ好きな百合の花を踏まれただけではないだろう。問題は何故彼が百合の花に執着するのかだ。

 

 

「………」

 

 

半妖。どちらにも完全に受け入れてもらえず、どちらからも否定される。

その中で彼が出会った『百合の花』、彼女は人間でありながらも自分を異端扱いなどしなかった。

誰であっても平等に扱う彼女の姿、そして彼女が大好きだった百合の花に彼は惹かれていった。

 

もちろん自分が半妖だからと言って特別視しない連中には今までだって多く会ってきた。

何だかんだ言って鬼太郎達とは腐れ縁が続いているのもその証拠だったろう。だが人間では彼女が始めてだったかもしれない。

 

 

「愛……また愛か、やはり厄介な感情だ」

 

 

どれだけ愚かだと罵ろうとも、どれだけ自分の言葉で隠そうとも、いつだってその感情は強く自分を揺らがせる。

愛とは何かと言われれば答える事はできない、愛はどう言ったものなのかと言われても見えないから分からない。

なのにいつも、いつだってそれは消えることなく自分たちの周りを取り巻き確かに影響を与える。

まるでそれは幽霊、妖怪の様だ。

 

 

「まあ、ね、そう言う訳なのよ」

 

 

ねずみ男が出会った彼女、彼女の為に人間を馬鹿にする鬼天狗を許す事はできなかった。

ねずみ男には愛したヒトがいる。その人の為に――それに何より、ずっと人間が馬鹿にされていた訳だが根本的な問題があるだろう。

 

 

「人間は馬鹿な生き物? 愚か? ああそうだな、俺だってそう思うってモンよ」

 

 

だがしかし――

 

 

「俺だってその腐った血が半分流れてんだよッッ!!」

 

 

半妖として今までどれだけの扱いを受けてきたか、何度も自分の境遇を恨んだ事はある。

だがどうやっても自分が半妖だと言う事実は変わる事は無い。ならばせめて半妖として胸張って生きてくしかないだろよ?

それを否定されちゃオシマイ、オシマイ。

 

 

「鏑牙ちゃんよぉ……俺、やっぱりこっちにつきますわぁ」

 

「いいのか? お前も死ぬ事になる」

 

 

鏑牙はナイフの様な眼光でねずみ男を見る。いや、鏑牙にとってはねずみ男が裏切る事が分かっていた。

なぜなら、彼もまたこの"ゲーム"に参加しているからだ。もちろんゲームマスターである自分が彼に役職を与えた事も把握している。

彼は反撃を無視して攻撃できる、そういう役職だからだ。自分たち人狼側にとって彼は天敵だから。

ねずみ男はカリスとキバを傷つけることが出来ない。にも関わらず殴りかかろうとしていた時点で分かっていた事だ。

問題は――

 

 

「お前がその言葉を口にすれば――」

 

 

鏑牙の目が確かに変わった。

おそらくそれは彼の本当の姿なのだろう、その圧倒的な威圧感にカリスもキバも思わず震え上がった。

鏑牙、こいつは明らかにオーラそのものが違う!

 

 

「悪いねぇ、アンタは嫌いじゃないが……」

 

 

仲間にはなれそうに無い。

カリス達とは違って、ねずみ男は迷わず10人の鏑牙の内、一人を指し示した!

 

 

「占いCO! 鏑牙● 本物はテメェだッッ!!」

 

「……愚かな、愛に溺れた人間はいつもそうだ」

 

 

ねずみ男が指差す事で、この空間に絶大な衝撃が走る。

汝は人狼なりや、そのゲームを鏑牙は力としている。彼の役職は人狼、その人狼にとって最も恐怖するべき存在。それは役職の一つ『占い師』

鏑牙は『童子』と言われる存在。童子はゲームをモチーフにした戦術を多く使用する。その特殊な効果を相手に強制させる戦い方は強力だが、あくまでもゲームと言う能力。

つまり、相手にも一発逆転のチャンスが常にあると言う事。

 

鏑牙の能力も例外ではない。

10人の中で一人を倒さない限り他の仲間にダメージを与えられないと言う強力な効果だが、その参加者の中に『占い師』を必ず忍ばせなければならないのだ。

鏑牙はその占い師にねずみ男を選んだ。そして事前に彼を味方にする事で完璧な勝利を望んだ、占い師の効果は簡単。

純粋な人間チームにはダメージを与えられず、誰が狼なのかを、特定できるのだ。占い師である事を発言し、ヒトに紛れる人狼を特定する。

 

 

「………」

 

 

何やら●という判定を出された鏑牙。

すると10人の内、一人の鏑牙だけが黒い光を放つように変わった。

つまり――

 

 

「お前が本物かぁあああッッ!!」『アロー』

 

 

カリスアローから攻撃力が増加した弓矢が発射される!

その矢は光りを放つ鏑牙の元へと飛翔して――

 

 

「………はッ!」

 

 

鏑牙はその矢を正面から受け止める!

どうやら、本体が分かっても実力が劣る訳ではないらしい。

 

 

「クッ!! くそがああああ!! よくも――ッッ!」

 

「あらあら怖い怖い!」

 

 

鬼天狗も立ち上がり、ねずみ男は苦笑いを浮べてカリス達の方へとやってくる。

一度裏切られこそはしたが、どうやら彼も悪いヤツと言う訳ではなさそうだ、多分。

本物の鏑牙を見つけてくれた恩もある。カリス達はねずみ男をかばう様に立つと、鏑牙達を真っ向から見た。

 

 

「尚、勝利を諦めていない目だ。人間とは厄介だな、絶望の中でほんの少しでも希望を見出せば何度でも立ち上がる」

 

「ああ、ワタシ達はなんどだって立ち上がってみせるさ」

 

 

この腰にある魂を紡ぐベルトが輝く限り諦める訳にはいかない!

どれだけの人間がこのベルトを身に着けたかったのだろうか?

今も、どこかで切に運命を変えたいと願うヒトがいる。その人ができない事を今自分はできるのかもしれない。

力が自分にはある。そしてこの心の中には希望がある。

 

 

「お前はその仮面の裏……ああ、そうだ。お前はもう俺を見ていない」

 

 

鏑牙は淡々と、そして自然に本当の姿を現す。美しい顔立ちの青年だった姿から、気高き狼へと変身を完了させる。

人型の狼、彼の本当の姿は狼男だった。10人のダミーだった鏑牙は人の姿を捨てて人狼の姿に変わる。

腕輪には黄金の大鷲、遠吠えと共に人狼たちはカリスを睨みつけた。

 

 

「フッ……!」

 

 

だが、カリスに焦りの念はない。

本物の鏑牙が引きずり出された今、彼女は勝利を掴むために立ち上がる。

負ける気は無い。何故なら、彼女が待っているからだ。彼女を迎えに行かなくてはならない。大切な、大切な後輩を――ッ!

 

 

『さあ、行くぞ。力を貸してくれ……』

 

 

その力を、切り札を手にするカリス。

できるか? ワタシに彼女を救う活路を見出せるのか?

ああ、できる筈だ。ワタシに、仮面ライダーの資格があるのなら!!

 

 

『分かりましたわマスター。この俗物に力の差を教えてさしあげて!』

 

『もちろんだぜマスター! 勝利のメロディを奏でるぜルルルー!!』

 

 

カリスはクイーンのカードをラウズアブソーバーに装填する。

電子音が知らせる覚醒の証明、そしてその手にはカテゴリーJ・ウルフアンデッドのカード。

 

 

『アブソーブ・クイーン』

 

「なるほど、お前も同質だったか」

 

 

鏑牙の眼の色が変わる、どうやら同じ種族の血を感じたらしい。

それはキバも同じ、彼は青いフエッスルを手にしていた。相手にした人間が自分と同じ力とは、これもまた宿命か――ッ!

 

 

「だが、お前には俺は倒せないッ! お前が人間である以上ッ!!」

 

「くくくッ、それはどうかな。あまりワタシを――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは――ッ!!」

 

 

場面は龍騎達に移る、カガミトカゲ達は驚きの眼で『ソレ』を見ていた。

最大チャージの鏡爆弾はファムのカードで無効化されてしまった訳だが……そこはまあいい。問題は別にある。

何だ? どう言う事だ? カガミトカゲは目の前にいるモンスターを凝視していた。明らかに力の量が増幅している……ッッ!!

こんな切り札を、奴等は隠していたのか!?

 

 

「ぉぉおおッ!!」

 

「できたッ! いけたぜぇ美歩!」

 

 

いや違う! 向こうも賭けだったと言う事か!

カガミトカゲは少し人間を見下しすぎたのかもしれない。ファムが仮面の奥でニヤリと笑っているのが分かる。

 

 

「クソッ!!」

 

「へっ、あんまりアタシを――」

 

 

その時、友里、咲夜、美歩。三人のライダーの声が重なり合う。

 

 

「あたしを」「ワタシを」「アタシを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「なめるなよ」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Complete』

 

 

デルタはミッションメモリをムーバーにセットし、代わりにデルタリングをバックルにセットした。

すると、コンプリートの音声と共に眩い光がデルタを包む。

体中のラインが白く輝き、オーラ状となって体から引き剥がされていった。

 

肩部分のラインは巨大化、大きな翼の形となりデルタの背中部分に移動。

他のラインも、独自に巨大化、縮小、展開してデルタの周囲に留まった。

体中からラインが消えてシンプルになったデルタの本体。しかしまだ終わらない、デルタの首元にある逆三角の装飾が分離する。

 

完全に黒一色となったデルタ。分離した逆三角の装飾は反転、他のラインと同じく巨大化してエネルギー状に変わる。

そのままデルタの下半身に装備されるオーラ。そこでオーラ状だった装飾は具現化し、デルタの下半身を覆う装甲となった。

ロングスカートの様に変わるデルタの下半身。足はもう装飾に覆われて見えず、そこから同じ様に少しづつオーラがデルタに再び装備されていく。

 

一部のラインはオーラに変わったまま、デルタの変形は終了した。

ベルト中央に備えられているデルタリング。輪状のコントロールパッドからリング状のオーラが射出され、そのままデルタの頭上に移動。

それがフォームチェンジの終了を意味する。

 

白く発光している巨大な翼。ロングスカートに見える装甲、それが原因で足の可動が制限される。

歩けなくなったが、代わりにデルタは常に宙に浮くようになった。ホバー移動と言う訳だ、そして何よりも頭上に輝く光のリング。

まさにその姿は『天使』と呼べるだろう。彼女に与えられた新たな姿。その名も、デルタ・エンゼルフォーム。

全てを守る翼と、全てを救う翼を広げて、デルタは飛翔した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アブソーブ・クイーン』『フュージョン・ジャック!』

 

『ガルルセイバーっス!』

 

 

鏑牙達の猛攻をかわししつつ、二人の姿が狼の雄叫びと共に変化する。

青く染まったキバと、ジャックの力を借りたカリス・ジャックフォーム!

カリスは駄目もとでリカバーのカードをキバットに使ってみたが、なんと効果がちゃんと発動してキバットは気絶から目覚めた。

鏑牙が仕掛けたゲームの拘束力は強い筈だ。わざわざあんな面倒な前フリをこちらにしかけないと駄目なのだから。

にも関わらずこんな簡単にキバットを治す事ができるとは――

 

 

『流石は、アンデッドと言う事か』

 

『当然じゃ、わらわ達をなめるなよ』

 

「さあ、いきましょう咲夜さん!」

 

 

頷く二人。鬼天狗達を威嚇するように構える!

自分と同じ狼と言う事なのか、鏑牙は初めて二人に全うな笑みを向けた。

 

 

「ハッ、偽りの狼牙で俺に勝てるとでも?」

 

「勝てるとも、ワタシだけの力じゃない」『そう言う事さ、ボーヤ!』

 

 

カリスジャックフォーム。

ウルフアンデッドの力を借りたその姿は、まさに野生に満ちている。

鋭利に光る爪、マントの様に纏う毛皮、そして胸に輝くウルフの紋章。

カリスアローに金色の装飾が宿り、その威力を増大させる。

 

 

「どんな姿になろうが関係はないッッ! 死ねぇえええええええッッ!!」

 

 

不意を突かれたのが相当悔しいのか、鬼天狗は激昂と共に暴風を発生させる。

だが、カリスはジャックフォームに変わった事で全てのカードが再構築されている。つまり――

カリスはカードを、キバはガルルセイバーを構え、その仮面の下でニヤリと笑う。

 

 

「鏑牙、お前は言ったな。人である以上ワタシ達は勝てないと」

 

「だったら教えてやるよ――」

 

 

二人の声が重なる。

 

 

「「人の、強さをな――ッ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍騎とファム。

今、二人の前にいるのは驚きで固まっているカガミトカゲ。そして、何より――

 

 

「白き、龍だと――ッッ!!」

 

「クォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

カガミトカゲに白き龍の咆哮が浴びせられる。

この世の汚れを全て祓う様な美しくも荘厳なその迫力に思わず後ろへ下がっていった。

まず龍騎達はファムのコンファインベントの効果で鏡爆弾を無効化した。そして、龍騎がそのカードを発動させる。

 

その性質は合成、ユナイトベント。

 

テレビで知識を得ていた司の教えではその効力の全てを把握する事ができなかったが、なによりこのユナイトベントはゼノン達が用意した特別版。

彼等は、特にこのカードを龍騎たちに勧めていたのだ。カガミトカゲを威圧するのは、純白の体に金色の鎧を纏い、美しい八つの翼を持っている白龍。

龍騎は自らの契約モンスタードラグレッダーと、ファムの契約モンスターブランウイングをユナイトベントの力で合体させた。

完成するは純白の龍、ミラーモンスター・"ラグーンワイダー"!

 

 

「ヌゥゥウウ――……ッッ!!」

 

 

あれだけ絶望に染めたつもりでも、こんな強い光を放つと言うのか。目障りな上この上ない。

しかし龍騎達もギリギリだったのは事実だ、それでも今こうして二人は力強く立っている。

龍騎が土壇場でユナイトを発動したのは運が生んだ偶然、奇跡なのか。それとも――

必然だったのか。

 

 

「危なかったな、よく思いついたね真志ぃ」

 

「アキラの声が聞こえた気がしたんだ……」

 

 

そんな訳ない、しかし確かに真志には聞こえた気がした。

彼女の叫びが。声にならない想いの叫びが。その声を聞いてしまえば、こんなところで負ける訳にはいかなくなったのだ。

 

 

「その声が、オレの宿命(みち)を決めた――ッ!」

 

 

負ける訳にはいかない。

この戦いには、この背中には幾千もの祈りがあるからだ。

共存を、アキラを助けてと願う想いがあるからだ。それを受け止めた力がココにはある。

 

 

「よかろう! その純白を、絶望の闇に染めて沈めてやるッ!」

 

 

龍騎とファムは一瞬だけ後ろを見る。

真司から受け取ったドラグレッダー、そして美穂から受け取ったブランウイング。

そしてその力に自分達の力が加わる。

 

 

「勝とうぜ美歩ッ! 他の誰でもない、オレ達の力でッ!」

 

「しゃあオラッ! 覚悟決めろよ糞トカゲぇッ!!」

 

「――ッッ!!」

 

 

誰かではなく、自分達の力が悪夢を破壊する。

このラグーンワイダーはまさに二人にとって――果てなき、希望となる。

 

 

 

 

 

 

 

 





毎回思うけど絶対ゴールデンウイークの真ん中の意味不明な隙間いらねぇだろ

っていう感じでの42話でした。
オリジナルフォームの説明は次回。


はい、バトライドウォー更新されたけどやっとウイングフォームとロケットステイツが使えるんですね。前回でなくてショックだったから嬉しいですわ。
まあ、マグネットとかタジャドルみたいなのにならない様祈ります。

次はちょっと未定。
なるべく早くします。ではでは。

いい休日になるといいですね。

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