仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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カチドキのテーマソング発売はよ


第45話 花○嫁×接△触□!

 

 

 

「クロロロロ! クロロロロ!!」

 

「「「わぁあああああああああ!!」」」

 

 

北門から妖怪城に入り、そのまましばらく進んだ所。そこに三人の悲鳴がこだましていた。

河童兵に追われていたのはあまびえ達。敵に見つからなかったのは最初だけ、やはりそう簡単にうまくはいかないものだ。

しばらく歩いていたらすぐに河童兵とエンカウントしてしまった。しかし、あまびえ達もあまびえ達だ。

彼女達は全員妖怪であり侵入者初期メンバーでもないので、河童兵の攻撃対象では無かったのだが――

 

 

「どうして攻撃しちゃうのよぉぉ!!」

 

「だって怖かったんだもん!」

 

 

反射的だったのだろうか? 驚いた傘化けが河童兵に突進をしかけてしまったのだ。

戦闘能力が低い傘化けだが、突進は見事にクリーンヒットしてしまい結果として河童兵を気絶させるまでに至った。

 

だが問題はそこからだった。それを見た別の河童兵が彼らを完全に敵として認識してしまったのだ。

河童兵達の情報伝達は早く、あっと言う間に彼らは追われる立場になってしまう。

最初こそ抵抗していたものの、数が多くなるにつれてそれは難しくなるものだ。

立ち止まる前に走らなければ、三人は後ろに見える河童兵をしきりに確認しながら城内を逃げ回っていた。

 

 

「やっ、やっぱり僕達に戦闘なんて無理だったんだよッ!!」

 

「い、今更なにを弱気になってるのよ!! こ、こうなったら――」

 

 

あまびえは踵を返すと、その口から思い切り水流を発射する。

その攻撃に先陣を切っていた数名の河童兵は怯んだものの、すぐに水流を飛び越えてあまびえの眼前に迫る。

 

 

「ヒッ!!」

 

「クロロロロロ!!」

 

 

河童兵は彼女の頭をわしづかみにすると、力強く持ち上げる。

かわうそ達も助けに加わるが勝てる訳も無い。苦痛の声をあげるあまびえを助ける事もできずに弾かれるだけだった。

このままでは死んでしまう。ああ、こんなに早く終わってしまうなんて。悔しさと恐怖が三人を包む。こんな時に力があったなら――ッッ!!

そんな悔しさと悲しみが彼らを蝕む中、そんな三人を視界に捉える者がいた。

 

 

「お、おい! 襲われてるんじゃないか!?」

 

「そうみたいだね、よく見えないけど助けよう」

 

 

そう言って頷く影が三つ。

散り散りでアキラを探す作戦が良かったのだろう、犬養拓真、条戸真志、白鳥美歩の三人だ。

アキラを探すために城内をさ迷っていた三人だが、マップを見れば自分達はグルグルと入り口近くを回っている事に気がついた。

急いで奥へと向かう事を決めた三人だったが、その途中であまびえ達を見かけたのだ。遠くにいる為よく分からないが、河童兵に襲われているのを考えると味方側なのだろう。

 

 

「「「変身!」」」

 

 

仮面ライダーへと変わる三人。ファイズは素早くフォンを取り出すとボタンを押して光弾を発射する。

光の弾丸は河童兵達を撃ち弾き、あまびえを掴んでいる河童兵への道をこじ開ける。

 

 

「「「!?」」」

 

 

驚くあまびえ達と河童兵、そこへさらに龍騎のヘッドバットが叩き込まれる。

鉄の仮面に覆われた龍騎の頭部から放たれる一撃はとても重く強力なもので、河童兵はすぐに苦痛の声をあげてあまびえを開放した。

 

 

『ピピピピピピピ』

 

 

エンジン音を上げて河童兵の中をオートバジンが駆け抜ける。

吹き飛ぶ河童兵達をさらに光弾で追撃するとファイズたちはあまびえを保護しようと駆け寄る。

河童兵、それも下級ならばファイズ達の相手ではない。だから今回もうまくいくと踏んでいたのだが――……

 

 

「俗物が」

 

「「「!!」」」

 

 

その時だった、河童兵達の動きが明らかにおかしくなったのは。

龍騎達からバックステップで距離を取ると、事もあろうにその場に跪いたのだ。

それはまぎれもない経緯と忠誠の証、知識の薄い河童兵でさえも理解している力の違い。

どう言う事なのか、ファイズたちは何か強烈な違和感を感じてすぐにこの場を離れようと動き出す。

 

とても嫌な予感がした。河童兵の動きが違うのは今回が初めてだ、サトリの時とも違う違和感。

それに聞こえた声、俗物? それはもしかして自分達の事を言っているのか!?

 

 

「神聖なる妖怪城をこれ以上汚す訳にはいかん」

 

 

河童兵が跪き道を作る。そこを歩いてきたのは同じく河童兵……に見えたがどうやら違う様だ。

見た目は同じ河童とも取れる。しかし、その額には大きな角が二本。そして他の河童兵とは違う鎧を纏っており装飾も派手に見える。

何も持たない河童兵、武器を持っている中級河童兵、知能が高くなった上級河童兵。そして今ファイズ達の前に現れたのは――

 

 

「貴様らが侵入者か――……ッ!」

 

 

理解した。おそらくコイツが河童兵のボス、最上級の河童兵といった所なのだろう。

明らかに違う雰囲気に似たものをサトリからも感じた。これは少しまずいかもしれない。

サトリと同等の力を持った妖怪なのだとしたら、果たして自分達に勝てる相手なのだろうか?

 

 

「とにかくやるしかねぇ! 美歩、拓真!!」

 

「ういっす!」

 

「うんッ!」

 

 

構える三人だが、その時紫色の光が三人を捉えた!

訳も分からずに吹きとぶ三人、そこに新しい声が聞こえる。

 

 

「この地に足を踏み入れし愚かな人間よ。命惜しければ早々に立ち去るがいい!」

 

 

現れたのは美しい紫の長髪を持った少年。

少し短めだが二本の角が見える、着物も美しく顔立ちも女性かと思うほどに美しい少年だ。

しかし、問題はその少年からも強力な力を感じると言う事。サトリと同じ実力者が二体、まさにそれは絶望的状況である。

そしてその二体の妖怪は、自らの名を侵入者であるファイズ達に告げた。

 

 

「俺は鬼河童」

 

「我、名を酒呑(しゅてん)童子(どうじ)と言う」

 

 

鬼河童と酒呑童子は余裕をかもし出しながらファイズ達と対峙する。

しかし笑みを浮かべている酒呑童子達からは確かに怒りの感情も感じられる。

 

やはり彼らもアキラを助けようとするファイズ達に不快感を持っているのだろうか。

しかしそれでも勝たなければならない、もうそれは決意した事だ。

ファイズ達は彼らを倒すために武器を構えて走り出す。しかし、彼らは少し読み違えていた点があった。

たしかに酒呑童子達はファイズ達を面白くは思っていないだろう。だがサトリがそうだった様に、少し違う点で彼らは不快感を覚えているのだ。

 

 

「お前たちの行動のおかげで、妖怪達の中にも希望を持つものが現れた」

 

「ッ?」

 

「夢を見始めた愚かな者達が現れたのだッ! 貴様らのせいで、叶わぬ夢を!」

 

「サトリ負けた事で、貴様らの行動が正しいのではないかと思う輩が現れたのは事実」

 

 

侵入者が現れたと知った時は、この世界の事情を知っている妖怪はほぼ全て彼らの事を平和を乱そうとする敵と思っただろう。

しかし鴉天狗同様にやはり心のどこかではアキラを生贄に捧げる事が間違っているのではないかと思う者がいた事もまた事実だった。

だが生贄を拒めば全ての命が邪神によって刈り取られる、それよりはアキラを捧げた方が正しいと思うだろう。やはりそれは綺麗ごとなのだろうと誰もが思っていた。

しかし、城内にサトリが負けた事が知られるやいなや今まで生贄賛成派だった者達の心に何かが灯った。

 

侵入者がどんなヤツらかは誰も何も知らない。

しかしこの世界における7体の最上級妖怪の一人であるサトリが負け、鬼太郎が反対派だった事もあり妖怪達の心に――

 

『もしかすると侵入者のやろうとしている事は正しいのではないか?』

 

と言う思いさえ過ぎった。

世界もアキラも救おうとするその選択に、賛同したいと思う者が現れそうなのだ。

 

 

「だが、それは夢物語でしかない」

 

 

間違った事をしているだろうファイズ達。

しかしそのファイズ達のおかげで妖怪達が一つになろうとしている事実が二人には気に入らないものだった。

間違った団結は、悲しみしか生成しない。勝つか負けるかではない、生きるか死ぬかなのだ。

 

サトリは一度邪神の使いの心を読んだ。

結果、少なくとも邪神は本当にアキラを差し出せばこの世界を見逃すつもりだったのだ。

サトリの能力を一般妖怪に明かす事はできないため、この事実を知っているのはほんの一部の妖怪だけだ。

 

もちろんそれが罠だと言う可能性も考えられる。

デモンストレーションで妖怪を殺す様なヤツだ、サトリの能力を知りつつ芝居を打っていると言う可能性も否定は出来ない。

だが少なくともサトリの出した結果からして生贄の方を選ぶ方が何倍もの安全性を確保できる。

それをたった一人の花嫁を救おうと考えている連中に邪魔されるのは非常に好ましくない事実なのだ。

 

にも関わらず、サトリの出した答えを知らない連中は侵入者に味方しようとしている。団結しようとしているのだ。

それが間違いだと知らず、それが理想だと知らず、人は善意に夢を見る。

 

 

「誰も犠牲にしない世界など、この世にあらず」

 

 

間違った選択を掲げ、妖怪達の心を惑わせるのが酒呑童子達には最もたる恐怖だった。

 

 

「もやは貴様らの行動は民達を惑わす幻覚なり。その恐ろしさや図りきれる物ではない」

 

 

善悪の定義は人の決断を惑わす大きな要因の一つだ。

このままでは多くの妖怪達が愛する"花嫁を救うために強大な敵に立ち向かう"と言うシチュエーションの侵入者に同情し、加勢しようと考えるだろう。

それは非常にまずい事でしかない。人の心は時に間違った選択でさえ英雄視させてしまう。そこに多大な犠牲がともなったとしてもだ。

やってみなければ分からない。誰も犠牲にしない。よく子供達が好んで読む漫画なんかによくある台詞だ。

 

その精神は素晴らしい、それは酒呑童子達も理解できる。

しかしそれは結局フィクションでしかない。理想を詰め込んだ、よりよい幻想でしかないのだ。

 

 

「このままお前たちの侵入を許せば、人の心は幻惑に破綻するだろう」

 

「そうだ、民をこれ以上惑わせるなッ!!」

 

 

酒呑童子達はファイズ達の攻撃を受け止めると、そのまま弾き返す。

しかしそれでもファイズ達は立ち上がるのを止めない。サトリの時もそうだ。彼らはアキラを助けるために戦うだけ。

 

 

「それが――」

 

「周りを惑わすのだ!!」

 

 

鬼河童は遂にその刀を鞘から開放させる。

一振り、何もない空間を切ったのだが――

 

 

「クッ!! おおおおおおおおおおッッ!?」

 

 

刀から幾重もの閃光が放たれファイズ達を切り刻む。

激しく火花が散り、三人の変身は一気に解除されてしまった。

そんな馬鹿な!? 三人は少し疑問を感じた。確かに今までの戦闘で疲労がたまっていたのはある。

だが少なくとも一撃で変身が解除される程のダメージではなかった筈。

 

 

「グ……ッ! なんつー威力だよッ!!」

 

 

真志はうずくまり、もう一度彼らを見た。そして強烈な力を感じる、鬼河童の持っている刀だ!

あれは普通じゃない、武器に詳しくない真志ですら理解できた。

妖気を全く感じられない美歩ですら理解できた。

人を超えた存在になった拓真だからこそ理解できた。

 

 

「な、なんだ……あれ」

 

 

鬼河童の刀から何とも禍々しいオーラが放たれていた。

それに気がつかない人間などいないと保障できるくらいだ。

分かる、あれは普通じゃない。勝てないと……ッ!

 

 

「妖刀・村正。理解したか侵入者共、これが力だ――ッ!!」

 

「しかし、この力持ってしても邪神には勝てず」

 

 

最上級妖怪七人の力を持ってしても邪神には勝てなかった。

それが答え、酒呑童子と鬼河童は倒れる拓真達に向かって足を進める。

だがそれよりも早く彼らは立ち上がり、再び変身の為に奮起した。

 

 

「変身!!」『5』『5』『5』『Standing by』

 

 

まずはファイズ。

オートバジンから素早くファイズエッジを抜き取ると、メモリをセットして鬼河童に切りかかる。

当然それを受け止める鬼河童。村正とぶつかり合うファイズエッジ、当然勝てる訳もなく紫色の光に包まれてファイズは後退していく。

 

しかしこのままでは終われない、ファイズはエンターのボタンを押してファイズエッジの攻撃力を上げた。

朱と紫の光が激しくぶつかり合う。これならばいけるか? 淡い期待が過ぎるが――

 

 

「成る程……確かにこの力なら夢を見るのも当然か。だが残念だったな、妖刀村正、この程度ではうち勝てるものではないッッ!!」

 

 

その言葉と共にファイズの身体が大きく吹き飛び、地面へと叩きつけられる。

どうやら正宗の力は特殊なものらしく、ダメージは少ないもののファイズの変身は解除されてしまった。

 

 

「く……っ!」

 

 

やはり、妖刀を構えた鬼河童からは先ほどの何十倍もの覇気を感じる。向こうも相当の実力者らしい。

悔しいが、今の自分達ではとても勝てる相手ではない。ここまでか? ならばできる事は一つッ!

 

 

「バジン! 彼らを連れて逃げるんだッ!!」

 

「「「!!」」」

 

 

拓真が珍しく声を荒げる。

しかしその言葉に反応してオートバジンは離れて震えていたあまびえ達を抱えると、主人である拓真に背を向けてジェットを噴射した。

このまま逃げるつもりなのだろう、酒呑童子は念の為にオートバジンに狙い定め――

 

 

『『アドベント』』

 

「!」

 

 

しかし、酒呑童子の目の前に現れたのは真紅の龍と純白の大鳥。

ドラグレッダーはその巨体を振るって、ブランウイングは羽ばたきで共に酒呑童子をかく乱する。

その隙にオートバジンはみるみる小さくなっていき、ついには見えなくなる位置にまで時間をかせぐ事ができた。

 

 

「くっ! 面妖な!」

 

「その先には……いかせねぇ!」

 

 

だが酒呑童子とて最上級妖怪の一人。

その角が眩い光につつまれると、両手を掲げてドラグレッダー達に照準を合わせた。

 

 

「グォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「キュィイィイイイイイィイィィ!!」

 

「「!」」

 

 

ドラグレッダーとブランウイングが巨大な闇の球体に閉じ込められる。

苦しそうに声をあげる二体、龍騎達は危険を感じてすぐにアドベントを解除した。

ドラグレッダー達がガラスの様に砕け、アドベントは解除される。直後闇の球体は爆発して消え去る。

もしあの中にドラグレッダー達がいたのなら、少なくとも多大なダメージを受けていただろう。

 

 

「ほう、足掻くか……!」

 

 

酒呑童子は素早く龍騎達の眼前に移動すると、激しい体術で龍騎達を攻撃していく。次は抵抗を許す事は無い。

小柄な身体から無数に繰り出される拳と蹴りが龍騎達を打ちのめす。サトリも同様だが最上級妖怪の彼らは主に闇の力を主として使う傾向がある。

属性の中でも異質な闇と言う力。龍騎の炎を、ファムの風を暗黒で塗りつぶすようだ。

すぐに闇を纏った一撃が龍騎達を捉え、再び変身は解除されてしまう。

 

 

「ぐッ!!」

 

「う……ぁッ!」

 

 

真志と美歩はもう力なく倒れうめき声をあげる。

拓真も同じ様で、三人はもう変身する気力など残されていなかった。

それを見下ろす酒呑童子と鬼河童、妖刀を収めた鬼河童は河童兵達に指令を出す。

 

 

「三人を地下牢に閉じ込めて置け」

 

 

その言葉を聞いた河童兵達は鬼河童に礼をすると、三人を抱えて歩き出した。

どうやら彼の言葉には絶対に服従するようだ。流石は河童兵のボスと言ったところだろうか。

 

 

「地下牢……やはり殺しはせぬか」

 

「当然だ、俺たちの敵は侵入者ではない」

 

「成る程。甘いな、主も」

 

「ただ殺すだけならば俺たちも邪神と変わりはしない、俺には俺の掟がある。たとえどんなに邪魔な存在であろうとも命は命だ」

 

 

そう言って鬼河童は踵を返す。

どこへ? そう問いかける酒呑童子に彼は視線を移す事無く呟いた。

 

 

「報告が入った。色彩が左右非対称の仮面戦士が暴れているらしい、ソイツを今から倒しにいく。それに残りの河童兵を一気に解放させるのも必要か」

 

「成る程、では我は一度上層へ戻ろう。機械人形が逃げた先にはおそらくもう仲間がいる筈。それに、花嫁の事もある」

 

 

酒呑童子は鬼河童とは反対の方向へ足を進める。

 

 

「油断するなよ、侵入者の実力は本物だ。俺たちでも足元を救われる可能性は高い」

 

「心配は無用。我、"妖と人に耐性あり"。我を打ち崩せる者はせいぜいが"幽霊族のみ"よ」

 

 

ならば安心か、鬼河童はそう言うと次なる侵入者を倒すべく歩き出すのだった。

 

 

 

「私たちのせいだ……」

 

「「………」」

 

 

オートバジンに抱えられる様にしてあまびえ達は重く呟く、やっぱり自分達はココにこなければ良かった。

力のない自分達が戦場に来た所で足手まといになるのは分かりきっていた筈だ。

なのに少しは役に立てるかもしれないと考えていた自分達が馬鹿だった。

 

甘かった、馬鹿だった、夢を見すぎていた。結局他人を巻き込んで迷惑をかけただけ。

自分達はもう何もしない方がいい、三人はバジンに入り口に向かってもらう様に言う。

今から帰ればまだ迷惑をかけずにすむ。この機械の主人の少年、確か拓真と言ったか? 彼は無事だろうか?

もしかしたら殺されてしまったかもしれない。事の重大さを感じて三人はますます涙目になっていく。

 

 

何も、できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

鬼河童と別れた酒呑童子、彼はそのまま封印石の間へと足を運んでいた。

そこにはもちろん――

 

 

「……どうしたんだい酒呑童子。外が騒がしいけど、何かあったのか?」

 

「ほう、いまだ封印されていないか。これは驚きだ」

 

 

封印石に埋め込まれる形になっている鬼太郎、しかしどれだけの時間が経とうとも彼を完全に封印する事は叶わなかった。

下半身は完全に埋め込まれ、磔にされる様に両手は岩に埋め込まれている。

そこからいつまで経っても先には封印がすすまなかった、それは彼の妖力が凄まじい事を意味する。

 

鬼太郎は目を閉じながらも酒呑童子がやってきた事を感じていた。

妖力の波長だけで誰なのかを記憶している辺りは流石としか言い様が無い。それは酒呑童子も感じ、認めていた。

 

 

「侵入者が現れた。そなた同じく花嫁を助けようと考える愚か者共よ」

 

「……へぇ」

 

 

鬼太郎は疲労している表情ながらも、確かにニヤリと笑う。それが酒呑童子には何か引っかかるものがあった。

自分達が正しいはずなのに、鬼太郎達を見ていると自分達の判断がまるで間違いの様な気がしているからだ。

 

 

「どうだい酒呑童子……ボク達につかないか? 一緒に邪神を――」

 

「阿呆、我ら最上級妖怪でも邪神には勝てなんだろうに」

 

「今なら侵入者の力も借りる事ができる。何より、伝説の鬼の力があるじゃないか」

 

 

理屈は分かる、しかし一度植えつけられた恐れは簡単には払拭できるものではない。

酒呑童子をはじめ鬼河童はサトリもまた邪神に多大な恐れを抱いている。

戦いは気力が物をいう、その気力がまったく湧かないのならば戦いの結果は目に見えているだろう。

 

 

「情けない話だ。笑え、だがしかし我ら既に邪神に対する戦意なし。妖怪と人間に対する防御耐性がある我とて命の危険を感じたものだ」

 

「そうだった、君は妖怪と人間からの攻撃に対する耐性があったんだね」

 

 

鬼太郎のその言葉に酒呑童子は苦笑いを浮かべる。そうだ、自分は妖怪からも人間からも倒されない自信があった。

酒呑童子は人間と妖怪両者から放たれる特殊なオーラに対する耐性があった。そのオーラは人間と妖怪から放たれる攻撃に必ず付着している。

だからたとえ拳銃の弾や炎などの攻撃だろうともそれを行ったものが人間か妖怪ならば酒呑童子にはあまり効果が無いものへと変わるのだ。

酒呑童子は自分を倒せるのは人間でも妖怪でもない幽霊族の鬼太郎だけだと自負していた。

 

 

「しかし驚きだ。主ほどの実力者が封印されるとは」

 

「不思議な力を持ったヤツにやられてね。蛇みたいな」

 

「ともかく、主がいなければ誰も我を止められぬ……」

 

 

だがその自信は粉々に砕かれた。

耐性があったにも関わらず、邪神の咆哮に震え。邪神の炎に怯え、邪神の尾に逃げ回った。

 

 

「やはり、あれは曲がりなりにも神を称するだけはある。我ら妖怪では太刀打ちできる相手ではない」

 

「神? 確かにアイツは人間でもなければ妖怪でもないだろう。だけど神なんかじゃない、ただの化け物だ……ッ」

 

「何故そう言いきれるッ!? あの神に対抗できる物は存在しない……ッ」

 

 

鬼太郎も邪神を見た。しかし彼は他の妖怪とは違い、邪神に対する勝機を見出していたのだ。

封印されし伝説の鬼達の力。炎、雷、風の三属性を極めし技の数々に加え、どんな相手だろうとも効果をもたらす音撃。

その音撃は三種の力を合わせば絶大な効果をもたらすと言われている。それを中心にすれば、必ず邪神を倒す事ができるのだ。

 

 

「それでもし邪神が倒せなかったら主はどうするつもりだッ!! 主もサトリからは話聞いている筈、それを疑うか!?」

 

「確かに、ボクもサトリの力を疑うつもりはない。邪心の使いが心に抱いた、この世界から去ると言う事……」

 

 

そうだ! 酒呑童子は声を荒げて鬼太郎を見る。サトリの力は本物、ならば花嫁を生贄にすれば本当に全てが終わる。

勝てるかどうかも分からない邪神を倒して全てを終わらせるか、それともたった一人花嫁を犠牲にして全てを終わらせるのか。

 

 

「答え明確なものなり、花嫁を犠牲にする。それだけだ」

 

「………」

 

 

だが、それでも鬼太郎はそれを認めなかった。

 

 

「必ず邪神の使いには何か意図しているものがある。ボク達は利用されているだけだ」

 

 

まだ言うのか! 酒呑童子は決意に満ちた眼光で鬼太郎を睨む。

 

 

「主は妖怪でも人間でもない。だからその選択取れるのでないか!? 我、酒呑童子には守るべきものあり。その為に、我は――」

 

 

酒呑童子は言葉を止める、なぜならば鬼太郎もまた決意に満ちた眼光で彼を睨み返したからだ。

そのあまりの迫力に酒呑童子は思わず彼から一歩距離をとる。正しい事を言っているのに、心では押し負けている気がしてならなかった。

自分は間違っていない、それは確定しているのに。

 

 

「確かにボクは人間でもなければ妖怪でもない」

 

 

それは誰よりも分かっているつもりだ。

 

 

「だけど妖怪横丁の皆、天邪鬼や幽子、寝子達がいる。だからボクは邪神を倒さなきゃなら無い、大切な人達を守る為に」

 

「ならば花嫁を犠牲にすればいい!」

 

「彼女の事を、大切に思っている人達がいる。ボク達に大切な人がいる様に、彼らが守らないといけない人なんだ」

 

 

それに花嫁を捧げてからでは後戻りできない可能性がある、鬼太郎歯それを感じていた。

 

 

「だからボクは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だまされては、いけません」

 

「「!」」

 

 

封印石の間に新たな声が響く、二人が視線を移すとそこには瑠璃姫が立っていた。

その顔は複雑な笑みを浮かべており鬼太郎を一瞥すると視線を酒呑童子に移した。

 

 

「私たちは例外なく花嫁を邪神に差し出せばいいのです。それで世界は救われる」

 

「……そう、そうだ。それでいい」

 

 

酒呑童子は瑠璃姫に頷くとぶれそうになった意思を固める。鬼太郎の言葉はノイズでしかない。

彼がどんなに吼えようとも、封印されている彼には何も出来ない。結局は彼もまた叶わぬ夢物語を詠っているだけにしかすぎなかったと言う訳か。

 

 

「瑠璃姫、もう一人はどこに行った」

 

「………」

 

 

瑠璃姫はその言葉を聞いてますます複雑な笑みを浮かべる。

笑みなのだからプラスの感情といえるのだろうか? だが喜びや優しさはそこから感じられない。憂いや悲しみとも少し違う。

その感情を読み取る事はできないと言ってもいいだろう。しかし鬼太郎は何となく彼が、彼女がどんな心境であり状況にあるのか悟る事ができた。

 

 

「瑠璃姫、この戦いは間違っている……お前も分かるだろう?」

 

「私はそうは思いません。花嫁を捧げる事こそが全て、いい加減侵入者共々こんな下らない論争に時間を費やすのは止めましょう」

 

 

答えは最初から一つ。たった一文だけだと言うのに。

 

 

「それが仲間を犠牲にすると分かっていてもか!」

 

「犠牲なき世界など存在しません、いい加減に甘い考えはお捨てなさい」

 

 

くすくすと笑う彼女。

 

 

「この問題は世界を左右する重大な問題です。もし花嫁が死ぬ事で悲しむ者がいるのなら――」

 

 

そいつらを全員殺せばいい話だ。

瑠璃姫はそう言ってドス黒い視線を鬼太郎に送る、今までの彼女からは感じなかった様子だ。何かが関係しているのだろう。

 

 

「酒呑童子様、その点をよくお考えください」

 

「もちろん、我は承知しているつもり。花嫁は必ず連れ戻す」

 

「もし、花嫁を邪神に捧げる事でヤツが力を強化させてしまったらどうする?」

 

 

鬼太郎を始め司達も考えていた事だが、邪神がアキラだけを喰らいそれで終わりな訳がない。

仮にこの世界を逃すとしても、何かその行為に絶大なメリットを見出しての事だろう。

ゼノン達は邪神、およびそれに加担する連中が他世界の者だと言う可能性が極めて高いと司達に知らせていた。

ならばこの世界でアキラを食わせるメリットは何か? おそらくは邪神の強化以外には考えられないだろう。

だが、それは何も鬼太郎達だけが考えていた事ではない。

 

 

「鬼太郎、そんな事は分かっている」

 

「………」

 

「だが花嫁を生贄に捧げ滅びるか、捧げず怒りを買い滅びるのであれば、我らは前者を選ぼうぞ」

 

 

酒呑童子はその言葉を残して部屋を後にする。

残された鬼太郎はやれやれと呆れた様に首を振り、瑠璃姫はつまらなさそうに椅子に腰掛けた。

鬼太郎は真実を半ば知りつつ、瑠璃姫に鏑牙の事を尋ねる。すると彼女は残念そうな、かと言って悲しみは少なさげに淡々と答える。

 

 

「死にました」

 

「………」

 

 

侵入者が殺したか、それとも何かあったのか。

鬼太郎はそこまでは分からない、だが瑠璃姫達から感じるものを察するに後者であろうと考える。

瑠璃姫達はヒトツミ達の仲間だ、注意は必要だろう。

 

 

「鬼太郎様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「?」

 

「貴方は愛を、どう考えていますか?」

 

「………」

 

 

鬼太郎は少し考えてから顔を上げる、しかしその顔は瑠璃姫同様怪しく笑っていた。

 

 

「ここから出してくれたら教えてあげるよ」

 

「ふふっ、意地悪な人」

 

 

瑠璃姫もまた小さく笑うと部屋を後にした。

侵入者、それは彼にとって希望とも思えるものだ。

門番として残されたのはトコトコと部屋を歩き続けている岩亀、それが気になるがココから出られる可能性も高くなってきた。

そうすれば、必ず邪神を倒してみせる。鬼太郎は静かな決意を燃やしながら目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪城二階。

河童兵達が徘徊する中をひたすらに走る二人、陽とみぞれだ。

陽は錫杖の様な武器を振り回して河童兵を打ちのめしていく。

召喚の感覚も戻ってきており、式神をつかってどんどん先に進んでいくがやはり本調子には程遠い物があった。

練習の成果がまるで実践では出ていない、その事に苛立ちを覚える。

 

 

「ん、大丈夫?」

 

「ああ、俺はね」

 

 

ガタックは二人を適当な場所に逃がした後、再びデルタのところへと向かった。

しかし妖怪城のマップを得た二人は、今いる場所が運悪く行き止まりだと言う事を知る。

そうとなれば一度戻らなければ。ガタックやデルタの事も気になる、本当はもっと自分達が戦えれば良かったのだが――

 

それはうじうじと考えても仕方ない。

一旦入り口に戻り、そこから階段の間に行こう。

二人はそう考えて行動していた、河童兵を凍らせ打ちのめし二人はすぐに一階に続く階段にやってくる。

 

 

「……ふぅ」

 

 

精神と体力が消費されていく、流石に疲れたのかみぞれと陽はそこで少しだけ球形する事にした。

階段に座って二人は特に会話もせずにいる。河童兵がこないかを注意しながらの球形なのであまり効果は無いかもしれないがしないよりはいいだろう。

そうしてしばらくした後、みぞれは陽に妖怪横丁の話を聞く。彼女の故郷ではないが、育ったのは横丁だ。

姉や妹、学校の都合で街の方に暮らしているが休日にはなるべく帰るようにしている。

 

 

「陽は横丁に住んでるんだよね?」

 

「まぁねぇ、俺ぁ修行ってやつをしないといけないからさ」

 

「名家は大変だ。いつも思うけどさ、学校にどうやってきてるの?」

 

「ん? ああ、一反木綿に送ってもらってんの」

 

 

その瞬間吹き出すみぞれ、毎日送ってもらっている彼の姿を想像してしまった様だ。

きっとシュールな画なんだろう、みぞれは陽に謝罪すると今度はあまびえ達の事を尋ねる。

昔はよく一緒に遊んだものだ。その時は陽はいなかったが、彼女達は元気だろうか?

 

 

「ああ、元気だよ。ただ何故か今連絡がつかないんだ」

 

「そうなんだ。どうしたんだろうね」

 

「さあ? 食べ過ぎて腹でも壊してんじゃないかね?」

 

「ふふふ、三人とも?」

 

 

笑いあう二人、なんとか元気も戻ってきたようだ。

また入り口を目指して進む事を決める。そうやって二人は階段を降りて一階にやってくる。

だが、その時だった。二人の前を何かが物凄いスピードで通りぬけたのは。

 

 

「わ! な、何今の……!」

 

「……え?」

 

 

陽は通り抜けて行った存在を凝視する。今のはまさか――

いや、そんな筈は無い、だが自分が見間違いでなければそう言う事になる。

陽はみぞれに一言謝ると、手を掴んで走り出したのだ。目を丸くするみぞれ、彼はどうしたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スマイル』

 

「「「!」」」

 

 

電子音、直後に羽衣が飛来してきてオートバジンの足を絡め取る。

倒れるバジンとあまびえ達。もう少しで入り口の門に辿りつけたのだが、そう簡単にはいかなかった様だ。

 

 

「くひゃ! 見つけたぞ機械人形!」

 

 

天井から現れたのは狂気的な笑みを浮かべた般若、"笑い般若"。

伸縮自在な羽衣を駆使して、彼はオートバジンから三人を引き剥がした。

倒れる三人と、吹き飛ばされるバジン。笑い般若は羽衣を使って三人を蓑虫のごとく拘束した。

 

 

「はーはーせーッ!!」

 

「くひゃひゃ! そうはいかないよ。君たちには人質になってもらう」

 

「ひ、人質!?」

 

 

笑い般若は三人を使い侵入者を一網打尽にする計画を立てていた。

たった一つの命に全てを賭けようとする甘い連中の事だ、コイツらを見捨てない訳がない。

最悪、一人殺して見せれば全員簡単に言う事を聞くだろう。そう笑い般若は言って見せた。

 

 

「そ……そんな――」

 

 

三人の顔から血の気が引く。そんな、役に立つどころか最悪の形で足を引っ張る事になろうとしている。

嫌だ、三人はそう叫ぶが何の意味もない。役に立ちたいとずっと願っていた、だが結果は空しく終わるのか?

 

 

「ちぃぃッ!!」

 

 

三人に手を伸ばした笑い般若だったが、無数の銃弾がそれを阻止する。

離れた所にいたバジンの射撃、どうやら飛び道具を持っていたとは思わなかった様だ。

ガトリングの攻撃を受けて後退していく笑い般若、その隙にバジンは彼に攻撃を仕掛けに動いた。

 

 

「機械人形めッ!!」

 

『ピピピピ!』

 

 

長刀を構えた笑い般若とバジンの攻防、しかしバジンには決定力が無い。

ガトリングはダメージを与えるにはいい方法だがそれだけでは笑い般若を倒すだけの力は無い。

結局笑い般若の羽衣に苦戦して、バジンは不利な劣勢へと持ち込まれる。

 

 

「待てッ!!」

 

「?」

 

 

しかし向こうから陽達がやって来る。

陽は三人の姿を確認すると、やっぱりと形相を変えて式神を笑い般若へと向かわせる。

茜鷹、緑大猿を模した式神の群れに襲われて笑い般若は苦痛の声をあげた。さらにそこを突いてバジンは鉄拳で笑い般若を殴り飛ばす。

地面を転がり、笑い般若は何とか反撃を行おうと羽衣に手を伸ばした。しかしそこをみぞれが止める、羽衣に冷気を発射して伸縮性を殺すのだ。

 

 

「くっ!」

 

 

一旦後ろへと跳ぶ笑い般若、状況を確認するがとてもじゃないが有利な、または有利になる状況とも思えない。

ここは引いた方が得策か、笑い般若は踵を返すと陽達から離れていく。

一瞬追うかどうか迷った陽だが、襲われていた三人を見ると笑い般若の事はもう頭から離れていた。

 

 

「お前らッ! どうして!!」

 

「「「陽ぉぉおおおお!!!」」」

 

 

あまびえ達は陽の姿を確認するやいなや涙で顔をぐしゃぐしゃにして飛びついていく。

陽は三人が何故ここにいるのか、なんで襲われていたのかを聞きたかったが怯えている三人を無視する事はできない。

みぞれに相談して取り合えず近くの部屋で話を聴く事にした。

 

そこで、三人の心の内を陽達は聞く。

何も出来ない事に歯がゆさを感じて妖怪城までやってきたはいいが、結局何も出来ない……

むしろ龍騎達に迷惑をかけてしまった事を三人はとても後悔していた様だ。拓真のオートバジンを見る三人の表情はとても複雑だった。

果たして自分達はバジンを再び拓真に返す事ができるのだろうか? 拓真達の無事や花嫁の安否、世界の行く先がとても気になる。

しかし、やはりまだどこかで悔しさが抜け切れていないのだろう。何かできないかと三人は陽達に申し込んできた。

 

まずは何よりも花嫁の救出だ。その助けに少しでも自分達が加わる事ができればと三人は思っている。

当然だ、世界の終わりを指をくわえて見ているだけなんて空しく、悲しい、そして悔しいに決まっている。

それは陽達にも理解できることだ。現に自分達はその思いがあってココにいるのだから。

 

だが、やはり彼らと陽達には戦闘と言う大きな壁がある。

陽は本調子では無いとは言え河童兵達なら余裕で退けられる程の力がある、それはみぞれも同じ。

ならあまびえ達はどうだ? 河童兵に見つかっても逃げるだけしかできない彼女達が控えている妖怪達に立ち向かえるのだろうか?

答えは明白だろう。役に立つどころか足を引っ張ってしまった現状がある。陽は彼女達の気持ちが分かる反面、冷静な判断も持っていた。

自分は決して強くはない、デルタに逃がしてもらった現状が彼らにも存在する。早い話だがあまびえ達を守れる自信は無いのだ。

だから、陽は彼女達を逃がす事を決める。

 

 

「悪いね……ほんと」

 

「ううん、いいわよ。悪いのはコッチだから――……」

 

 

幸い入り口も近い。

 

 

「でもお前らに会えただけで十分ってもんさ、なあみぞれ?」

 

「うん、私も久しぶりに会えて嬉しい。元気貰ったよ」

 

 

二人の言葉に三人は少しだけ笑みを見せる、分かってくれたみたいだ。五人は取り合えず入り口に門に向かう事を決める。

そうやって立ち上がろうとした時だった。

 

 

「ッ!!」

 

 

それに気がついたのは陽とオートバジン。他の四人はいきなり構えた陽達を丸い目で見ている。

どうしたの、そう聞くみぞれに陽は敵の気配がする事を告げた。

性格には敵と断定するには早い、人の気配なのだが――

 

問題は気配が近づいてきていると言うだけで明確な場所が分からないと言う点だ。

取り合えず陽とバジンはみぞれ達を守る様に立ちながら辺りを警戒している。

果たして敵か? それとも侵入者なのか……?

 

 

「ッ!」

 

 

そして、部屋に飾ってあった掛け軸が揺れる。

一勢にその方向へ視線を移す一同、気がつかなかったが、どうやら掛け軸の後ろに隠し扉が存在していたらしい。

そしてその扉が開いたと言う事、問題はそこから出てくるのが誰かと言う事だ。陽とバジンはいつでも攻撃できる姿勢を――

 

 

「ん!?」

 

「あ!?」

 

 

見えたのはなんと、首。

女性の首だけが陽の視線に移り、思わず彼は驚きの声をあげてしまう。

一方の首も陽達の姿を見て驚きの声を上げていた。陽とは違う驚きらしいが向こうも予想外であるには変わりないと言う事か。

 

だが首だけの女性は陽達の姿を確認するやいなやすぐにその姿をまた隠してしまった。

何か不利な状況と判断したのだろうか? それとも報告する為に戻った? 念のため陽は彼女を追う為に動き出す。

 

 

「ちょ、ちょっと待――ッ」

 

 

しかし彼が動き出したその時、再び女性が扉から出てきたではないか。戸惑う陽、一体何がしたいのか?

明確に違っている点がいくつか、一つは女性は首だけでなく体もついてきたと言う事。

 

それで陽は察する、彼も妖怪についてはいろいろと勉強を積んできた。

先ほどの光景から察するに彼女がろくろ首であると言う事をすぐに彼は理解する。

一度逃げた彼女がまた現れたと言う事はコチラに対して不利な状況は無いと判断したからだろう。

ろくろ首がどういう立ち位置なのかは知らないが、敵と考えるには早いか? 陽達は構えを解除するとろくろ首に自分達は敵でないと言うアピールを取る。

 

 

「も、もしかして……侵入者さん?」

 

「えっ?」

 

 

おどおどとろくろ首がそんな事を言ってみせる。

どうしようかと迷う陽、そうなのだがそれを言ってしまっていいのだろうか?

少しだけ迷っていたが、すぐにその沈黙は破られる。ろくろ首の隣に隠れるようにして俯いていた少年が声をあげたのだ。

 

 

「オートバジン……さん――ッ!?」

 

 

機械にさん付けとは随分丁寧な。そんな少年の声が部屋に響く。

バジンの事を知っていると言う事は、少なくとも司側にいると言う事。

そして少なくとも陽とみぞれは『彼』を見たことがない。司達の知り合いで自分達が確認できていない人物がいるとすれば――……

 

 

「え? ま、まさか……君、花嫁なのかい?」

 

「え! アキラなの!?」

 

 

陽達に衝撃が走る。

少年だと思っていた人物は申し訳なさそうに帽子を取ると、陽達に向かって頭を下げた。

 

 

「はい、天美……アキラといいます」

 

 

澄んだ雰囲気の少女がそこにはいた。

彼女が天美アキラ、我夢の想い人でもあり花嫁なのだ。

こんな簡単に会えるなんて思っていなかった分、しばらく固まる一同だったがすぐに冷静になる陽。

 

 

「そ、そう!! 俺達は君を連れ戻しにきたのよ!」

 

「うん! 早く逃げよう!!」

 

 

きた! 陽達は勝利を確信する。

入り口付近での遭遇、もう一気に駆け抜けてしまえばいい。

我夢達に連絡をしたいのだろうが、それよりもまずはアキラを外に連れて行くのが先だ。

 

麓子達も海東の件で、侵入者達が学校メンバーではないのだろうか? と言う疑問があったものの、陽がそれを否定した。

司をはじめとしたクラスメンバーがアキラを助けに来たと告げると、彼女は複雑ながらも少し嬉しそうに笑みを浮かべた。

しかし見つけたならもうココにいる必要も無い。陽達はとりあえずアキラを助けに来た大まかな流れだけを告げると妖怪城を逃げ出すため部屋の扉を開ける。

 

 

「今ならまだ警備も薄いはず! 早く逃げ――」

 

 

しかし、その考えが甘かった事を陽は知る事になる。

 

 

「クヒャヒャ!! これは嬉しい誤算だ」

 

「!!」

 

 

部屋を出たところに、先ほどの笑い顔があった。

 

 

「お前ッ!!」

 

「ヒャヒャヒャ!!」

 

 

一体いつからそこにいたのか、笑い般若は陽の姿を確認すると羽衣を飛ばして彼の足に巻きつける。

そのまま笑い般若は陽を地面に倒すと、部屋の中にいるアキラを見た。

どうやら帽子を被るのが間に合わなかった様だ。笑い般若はすぐにアキラを捕まえるために部屋へと足を進めた。

 

 

「こんのッ!!」

 

「!」

 

 

しかし扉の影に隠れていたみぞれには気がつかなかった様だ、みぞれは冷気を一気に開放して笑い般若の足元に発射する。

冷気は彼の足元を凍らせて、拘束させるには十分なもの。怯んだおかげもあってか陽は羽衣を引き剥がして式神を召喚させる。

緑大猿を模した式神『翠』。それは笑い般若を取り押さえ、その隙にアキラ達を連れて陽は入り口を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我夢が君の事をすごく心配してたよ」

 

「……っ!」

 

 

みぞれは移動途中でアキラにその事を告げる。

我夢の名が出た時、アキラの複雑そうな表情がより強張った。

 

アキラは一度我夢を拒絶している。

一体自分は彼にどんな態度を取ればいいのか分からない様子だ。

心のどこかでずっと彼にまた会いたいと思っていたのかもしれない、だけど会いたくないとも思っていた。

それはわがままな事なのだろうか? 傷つける事が嫌で、でも嫌われる事も嫌だ。

 

 

「我夢くんは天美さんの事が大好きみたいだからねぇ」

 

 

陽はそう言って笑ってみせる。

アキラはそこで気づいた、尚も彼が自分に好意を向けてくれるなんて――

もしかしてあのメールの先を読んでしまったのだろうか? 自分がどうしても納得したくて、でも知られたくなくて隠したあの言葉を。

 

 

「簡単な話だよ」

 

「え?」

 

 

みぞれは悩むアキラを察してか一言彼女に告げる。

 

 

「また、我夢に……皆に会いたいかって話」

 

「あ……」

 

 

その答えは――

 

 

「なっ!!」

 

 

陽の驚く声でアキラは我に返る。

正直分かっていた事だ、笑い般若があの場所を見つけていたと言う事はそういう事だったのだろう。

 

 

「ッ!」

 

 

もう門が、出口が見える位置まで来たのに!

陽は悔しさを抑えきれずに歯軋りを行う。エントランスホール、そこには既に河童兵の大群が待ち構えていた。

それだけでは無い。その河童兵の前にいる三人の妖怪、一見は幼い女の子だが自分の体を煙にできる煙々羅。

そして顔は猿、胴体は狸、手足は虎、尾が蛇で構成されたキメラ『(ぬえ)』。

最後に、煙々羅と鵺を統べているのは七人存在する超級妖怪の一人『白澤(はくたく)』である。

ゆったりとした大きな着物を身にまとった獣に見えるが――

 

 

「……アイツはやばいねぇ!」

 

 

陽でも分かる。全身がビリビリと衝撃を放っている様だ。

それは警告、アイツはヤバイと自分の本能が警告しているに違いない。

一見は穏やかそうに見える白澤だが、彼もまたサトリや酒呑童子達と同じ"七天夜"だった。

着物には目を模した装飾が三つ施されており、それが不気味なオーラをより一層際立たせている。

 

 

「は……白澤様――ッ!?」

 

 

その姿を見た麓子が驚きの声をあげる。

どうやら彼は妖怪城に留まらず現世でも有名な医者らしい、優しく正しい彼の姿勢は多くの妖怪や人間から評価されてきた。

今回の件でも彼は花嫁のシステムには否定的ではあった。が、しかし今現在彼はもう決断を固めていた様だ。

 

世界か花嫁か、彼が天秤にかけた二つ。

そして重いのはやはり世界と言う事だったのだろう。

相当穏やかな人物だったのだろう、麓子は信じられないと言った目で白澤を見ていた。

あの優しかった彼でさえ敵となっている、やはり……間違っているのは自分達なのだろうか?

いや違う。たとえどんなに綺麗ごとだろうとも、生まれてくる子供に胸を張ってみせるにはアキラを死なせる訳にはいかないんだ。

麓子はアキラをかばう様に立った。

 

 

「天美アキラ様、どうかお戻りください」

 

 

しかし白澤が言う。

煙々羅も鵺も既に戦闘態勢には入っている、これはお願いでも警告でもない。命令なのだ。

 

 

「断れば……ただでは済まんだろうな。ヒャヒャ!」

 

 

追いついたのか、背後では長刀をコチラに向けている笑い般若がみえた。

前方には白澤達、後方にも笑い般若。完全に囲まれているではないか、陽にもみぞれにも彼らを倒せる自信など無かった。

完全に詰みである。

 

 

「天美様、もう一度言いましょう。どうかお戻りください、でなければ――……」

 

 

彼らが傷つくことになる。

白澤の目を見れば分かる、彼はアキラが断れば確実に陽達に危害を加えるつもりなのだろう。

医者である彼でさえも……!

 

麓子は叫ぶ、どうか考え直してくれないかと。

陽は白澤の事をよく知らないがこの城で勤めている麓子からしてみれば白澤はまだ話の分かる人物だと判断したのだろう。

 

 

「………」

 

 

成る程、麓子の言葉に少し白澤の表情が揺らいだ。

きっと彼もまだどこかで一番いい、もとい綺麗ごとを探しているのだろう。

だが時間が無い。世界消滅のカウントダウンは始まっているのだ。白澤は医者である、だからこそ人間の命が皆同じ重さでない事を理解している。

アキラの命を失えばより多くの命を救える、誰だってとる道は一つだ。

 

 

「もう一度言う。天美様、はっきりと言いましょう。貴女に協力してくれている彼らは人質でもある」

 

「!」

 

「くひゃ! お前のせいでこいつ等が傷つくんだよ!!」

 

 

グサリと今の一言がアキラの胸を抉った。そう、自分が死ねばいいだけなのに――

 

 

「おい! ふざけんなよ! 天美さん、こいつ等の話なんて……!」

 

 

陽はすぐにアキラをかばう言動をとるが、少し遅かった。

アキラは小さく震えながら壊れた機械の様に『ごめんなさい』と謝罪の言葉を告げている。

そのまま彼女は麓子を避ける様にフラフラと歩き出した。どこへ? 決まっている、白澤の所へと。

 

 

「アキラちゃん!!」

 

「私が…皆さんに迷惑を……ごめんなさい――ッ!」

 

 

見えない何かに怯えながら、アキラはふらふらと足を進める。

勝利を確信したのは自分達ではない、向こうの方だった。笑い般若の嘲笑が陽達の心を揺らした。

まだだ、まだ行かせる訳にはいかない。せっかく会えたのに、ここでこのチャンスを逃がせば絶対にアキラを助ける事はできなくなる。

陽は絶大なプレッシャーの中で式神を呼んだ。心がぶれる、だが諦めない。陽の放つ紅はアキラを守る為に翼を広げた、だが所詮はその程度なのだろうか?

 

 

「ッ!!」

 

 

白い落雷が紅を捉える。

手をかざすは白澤、彼は雷撃で紅を消滅させると手を陽達の方へと向けた。

それは抵抗を許さぬ証拠、雷の素早さならば陽達が何かをしようとした瞬間に撃つことができる。

何か少しでも行動を起こせば、無事ではすまない。そういう事だろう、そうしている内にアキラは白澤の元へとたどり着いてしまった。

となればもうココにいる理由もない、白澤は踵を返すと一言だけ言い捨てる。

 

 

「君たち大人しく消えるんだ、そうすれば危害は加えないから」

 

「………ッッ」

 

 

だがそれよりも先にオートバジンがガトリングを構えて白澤の元へ飛翔していった。

アキラを守る事を第一としているのだろう、バジンはアキラへと手を伸ばすが――

 

 

「無駄だ、機械人形」

 

 

落雷の檻がアキラを囲い、それに触れたオートバジンは激しい火花を散らす。

やめてとアキラが叫ぶが、白澤は尚も落雷をバジンに当て続けた。

その内にオートバジンの動きが停止する。いくら機械と言えどアキラにとっては大切な仲間だ、その光景に彼女は涙し言葉を失ってしまう。

 

 

「……お帰りだ。煙々羅、笑い般若、侵入者達を見送ってさしあげなさい」

 

 

その言葉に煙々羅は頷き、笑い般若は文字通り笑う。

鵺の咆哮が辺りを包む中、白澤はアキラを連れて行ってしまった。

追いたい、誰もがそう思っただろう。せっかくアキラに会えたのに、我夢たちに会わせてあげられると思っていたのに――……

 

 

「クヒャヒャッ! 無駄なんだよお前達のしてきた事は!」

 

「もうお兄ちゃんたちは帰ってよ!! いられるだけ邪魔なの!!」

 

 

笑い般若と煙々羅は陽達を門の方へと向かわせる。

悔しさと虚しさで陽達は特に何も抵抗できずに歩いていく。

アキラは連れ去れた、自分達はここで退場。その事実が陽の脳裏を駆け巡る。結局無理だったのかもしれない。

 

戦力も、用意も、覚悟も、なによりも力。

全て足りていなかったのかもしれない。アキラを助ける事はできなかった、だけど自分達はそれなりにうまくやれた筈だ。

後は我夢たちがうまくやってくれる。自分達はもう退場してもいいんじゃないか? そんな考えが陽の中に生まれた。

 

 

「……なあ、一つ聞いてもいいかい?」

 

「?」

 

 

だが、生まれただけだ。

それを塗りつぶすのは虚無感であり、自分への劣等感でもある。

 

 

「天美さんは……どうなるんだぃ?」

 

 

陽がポツリと呟いたその言葉、そんなの分かってるくせに。

 

 

「死ぬに決まってるだろうが。ヒャヒャ!」

 

「――ッッ」

 

「そう、邪神に頭からかぶり付かれて死ぬ。即死だろうな、元の形状も分からなくなる程――」

 

「そ、そんなのおかしいよッ!!」

 

「あんまりだわ!!」

 

「あぁ?」

 

 

弱いのに、吼える。

弱いくせに、無力なくせに、何も出来ないくせに、足を引っ張って迷惑をかけて――

あげく、すがるくせに抗いたいと願った。足掻きたいと叫んだ。

 

 

「クヒャヒャ! ああ、そう。おかしな話かもしれん。だがこれが真実だ、この犠牲があって我らの世界は存在を許される」

 

 

笑い般若は出口を一瞥すると陽達に長刀を向けた。

同じく煙々羅と鵺も陽達を睨んでいる、おそらくもう時間は無い。このままこの場にいると危害を加えると言う無言の圧力なのだろう。

なら、出るか? このままアキラを助けられずに逃げ帰るのか? それも間違いでは無いだろう。無駄な血を流さないで済むと言うのは彼女の願い出もある。

事実、自分達を助ける為にアキラは戻ったのだから――

 

 

「……ヒャヒャヒャ!! さようならだ、無力な進入者共よ」

 

 

悔しい、だが何もできないのかもしれない。

抵抗も考えた、だが戦えるとしても自分とみぞれだけの現状で残りの麓子達を守りながら笑い般若、煙々羅、鵺の三体を相手にする事なんてできない。

諦めるしか、無い様だ。

 

 

「………ッ」

 

「クヒャヒャ! これで世界の平穏は保たれたな」

 

「ッッ!!」

 

 

この場にいた誰もが悔しさに歯を食いしばる。

だがその時だった、のぼり詰めた碇と悔しさ、悲しみ、無力感……!

そして、諦めてしまった事で芽生えてしまった"安心"が陽をふと冷静にさせる。

 

戦う事はどんな理由があったとして辛い事だ。

その苦しみから不本意ながらも解放されると言う事で陽の心に安心感が芽生えてしまったのだろう。

本来ならそんな感情を持ってしまったと自己嫌悪に陥るのかもしれない。

だが今は違った、安心した事で思い出させた。陽の心のボルテージが上がりすぎたおかげか、いつもの陽に近づく事ができたのだ。

 

 

「………」

 

「ヒャハハ……おい、何をしている。早く行け!」

 

 

妖怪城に来てから、正直陽の実力は著しく低下した。練習と本番の壁に彼は苦悩しただろう。

だが、決して忘れてはいけない。彼の血筋、実力が――

 

 

 

 

 

 

 

 

本物だと言う事を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待てよ」

 

「あ?」

 

 

突如巨大な火の鳥が陽の背後に現れる。

何だコレは!? 笑い般若は乾いた笑みを浮かべて後ろへと跳んだ。それは煙々羅も鵺も同じだ、いきなりの『力』に怯み思わず言葉を失う。

 

 

「式神――……ッッ! 紅!!」

 

「ハハハ……何?」

 

 

これが陽の紅だと?

おかしい、それはありえない話だ。先ほどまでの紅はたかだか鷲程度の大きさだった筈。

だが今の紅は鳥と言う大きさを遥かに凌駕しているじゃないか!

 

 

「悪いねぇ……ッ! やっぱココではいサヨナラって訳にはいかないんだわ!」

 

「!」

 

 

炎の翼を広げて紅は咆哮を上げる。

それに対抗する様にして咆哮を返す鵺、陽は少しそれに汗を浮かべながらもまっすぐに笑い般若達をにらみつけた。

落ち着け、陽は必死に自分へ言い聞かせる。コイツらは全員ジャガイモ、少し凶暴なジャガイモなんだと。

自分は何のために練習を積んできた? 今日みたいに誰かを失いたくないからだろうが。

 

それがいやで自分達は練習してきたんだろうに。

なのに自分は何だ? 実戦にビビッて逃げてんじゃそりゃガッカリってレベルじゃないでしょが。

ご先祖様達に申し訳ねぇってもんじゃない? 陽は必死に胸の鼓動を落ち着かせる。

恐怖を捨てる事はできない、ならばいっそそれを受け入れようじゃないか。幸いペースは取り戻せた、あとは今までの成果を見せればいいだけだ。

 

 

「貴様……ッ! くはは! 馬鹿な男だ!」

 

「本当に殺しちゃうよ!」

 

 

煙々羅も笑い般若も、鵺も完全に陽へと殺気を開放させる。

みぞれ達は心配そうな表情で陽を見ていたが彼はしっかりと振り向いて笑みを浮かべた。

 

 

「大丈夫さみぞれ、俺のご先祖様達はもっとヤベェやつ等と毎日戦ってたんだからさ」

 

「ヒャハハ! 言ってくれるじゃないか!!」

 

 

笑い般若は羽衣を伸ばして陽を狙う。

落ち着け、攻撃に対する回避訓練は嫌と言う程積んできた。もっともその訓練は全く意味の無いものだと思っていたのに――

まさか、本当に使う時がやってくるなんて。

 

 

(嫌な時代だねぇ)

 

 

陽は錫杖を鳴らして紅を自分の前に移動させる。紅の炎が羽衣に燃え移り、一気に炎を笑い般若の元へと届ける。

舌打ちをしながらも笑い般若は羽衣を引き戻して体を高速で回転させた。炎を散らせ、今度は鵺と共に直接陽に襲い掛かる手段に出た。

鵺の牙と、笑い般若の長刀。あれにやられれば間違いなく死ぬだろう。陽は嫌な汗を浮かべながらも冷静さを失わないよう心がける。

 

 

(落ち着けよぉ、ま、マジでここで失敗とかしゃれにならねぇ)

 

 

式神の選択、式神への命令、そして戦闘の全てが一つ間違えれば死につながる。

だがココでミスる程落ちぶれちゃいないっての!

 

 

「来い! 翠ッ!」

 

 

地面から現れるのは巨大な猿。

"式神・翠"はその両手で襲い掛かってきた二体を掴み取ると、そのまま元の場所へと投げ返す。

地面に叩きつけられた二体へ、さらに陽は式神紅を向かわせる。炎の翼で笑い般若達をなぎ払い、さらに追撃を与えていく。

 

 

「もうっ! やめてよ!!」

 

 

煙々羅は煙となって飛翔、そしてみぞれ達に狙いを定めた。

みぞれ達を陽は守らざるを得ない。だから煙々羅は行動をおこしたのだが、それを陽が危険視していない訳がない。

きっとそうするだろうと彼は決めていた、だからこそ対策をとる。普段のペースを取り戻せたから思い出してきた。

 

 

「きゃあ!」

 

 

みぞれ達を襲うとした煙々羅が何か黒い壁に阻まれる。

何故? 彼女は驚きの表情でそれを見た。煙である自分が通れない場所なんて無いのに――!

 

 

「妖怪を封印する為の第一段階は動きを封じると言う事」

 

 

陰陽道を示す対極図を模した結界の中に煙々羅は閉じ込められる。陰陽師である彼らは妖怪に対する攻略法を持っていた。

仮に食物連鎖のピラミッドが存在するのなら、妖怪の上に鬼がいてその上に立つものこそが陰陽師なのだ。

だがそれは油断ですぐに崩れる儚いものだ。だからこそ訓練をつまなければならない。

 

 

「コッチは青春賭けてまでやってんのよ、やられる訳には……!」

 

 

陽は祖父達が代々残してくれた札を手にとって、それを煙々羅に向けて投げる。

対極図と札は合体して全ての準備は整うのだ。

 

 

「じゃあなお嬢ちゃん、少しお休みだ」

 

 

陽は手で五芒星を切る。

すると巨大な星が浮かび上がって煙々羅に絶大なエネルギーを叩き込んだ。

 

 

「―――ッ!!」

 

 

地面に落ちる煙々羅。

その小さな身体は流れ込んでくる封印の力には勝てなかった様だ。

 

 

「さあて、あと二体か……!」

 

 

自分に降りかかったプレッシャーと言う鎖。

いいじゃない、受け入れてやろうじゃない。親は選べない、ならありのままの運命に従うだけさ。

さあ活目しやがれ、一刻堂の完全復活を――ッ!

 

 

「こいよ、まとめてオネンネさせてやるぜ」

 

「………」

 

 

しかし彼は気がついていない、笑い般若が人間だと言う事を。

 

 

(さて、どうするか……)

 

 

ココで調子に乗ったガキを殺すのも悪くは無い。

だが自分と鵺だけでは負ける可能性も確かにある。現にこの騒ぎだ、こいつ等の仲間がやってくると言う可能性も非常に高い。

何らかの情報交換手段は持っていて当然だろう、ならば長期戦は不利。

こちらが仲間を呼ぼうにもどちらが先にやって来るかわからない状況で結局賭けの範囲はでないか。

 

 

「ひゃは、仕方ない。ここは任せたぞ鵺」

 

 

笑い般若の命令に鵺は咆哮で返す。

それと同時に踵を返し飛び立つ笑い般若、陽としては逃がしたくはなかったが二体よりは一体の方が楽と言うものだ。

そんな事を考えていると、すかさず鵺が牙をむいて来る。下手に言葉が通じない分やっかいなものだ。

だがそれは同時に攻撃が単調になるということでもある。陽はすばやく瑠璃狼を模した式神・蒼を出現させた。

 

 

「!!」

 

 

同時に無数の河童兵達が陽たちの元に現れる。一瞬増援が来たのかとヒヤリとしたものだがどうやら違う様だ。

河童兵は誰かと戦っていたのだ。体の色が左右で違うライダーと。

 

 

「やれやれ、あの角河童はどこにいったんだろうね」

 

『きっとゼノンの力に恐れをなして逃げたのよ!』

 

 

それなら仕方ないねと彼は笑う。

仮面ライダーダブル、彼はアキラがいたとの情報を聞いて入り口付近までやってきたのだが途中七天夜と戦闘になった。

それなりに均衡した戦闘だったが、なにぶん移動しながらの戦闘だったからか途中で別れてしまったのだ。

 

 

「おや、君は陰陽師の……」

 

 

それで状況を把握するダブル、どうやらコチラでも戦闘中のようだ。

しかし以前見た時よりも陽から感じる力は強い。どうやら何かを掴んだようだね、そう言ってダブルは声高らかに笑った。

しかしそうなると任せてもいいのかな? それを陽に言うと彼はニヤリと笑った。

 

 

「少しだけ時間を稼いでくれないか?」

 

「ああ、いいとも」

 

 

ダブルはメモリを抜き取り、別のメモリを装填させる。

 

 

『ルナ・トリガー!』

 

 

電子音と共にダブルの色が変わる。

幻想銃士ルナトリガー、自在に変化する軌跡を描いてダブルの弾丸は河童兵や鵺に着弾していく。

その隙に陽は高く飛び上がり、札を目的の場所に投擲する。

 

 

『ルナ・メタル!』

 

 

攻撃をかいくぐりダブルの腕に鵺は噛み付く。

だが鋼鉄へと変わったダブルを噛み砕く事はできず、逆にそのまま地面へと叩きつけられてしまう。

まだかい? ダブルの問いかけに陽はオーケーを出す。どうやら札は目的の場所に全て設置できたようだ。その数は5、つまりは――

 

 

「成る程、五芒星には魔を祓う力があるとか聞いたことがあるけど――」

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

陽が叫ぶと、打ち込まれた札同士が連結して巨大な五芒星を形作る。

その中に入っている河童兵と鵺は一撃でノックアウトされてしまった。

別にダメージを与えたわけでもないのに、あれだけ元気だった妖怪達がぐったりと地面に倒れる。

思わず賞賛の声をあげるダブル、どうやら陰陽道は相当妖怪に対して効果をもたらすらしい。

 

 

「すごいね、陽!」

 

「「「陽すごーい!」」」

 

 

みぞれ達はキラキラした目で陽を見る。それが照れくさいのか、陽は恥ずかしそうに首を振った。

ダブルはそれを見てクスクスと笑っていたがすぐに真面目なトーンに戻る。

 

 

「さてと、この城は広いんだが狭いんだかよく分からないねぇ」

 

「この城はまだ分からない事が多い。だけど、少し気になる事があるのよ」

 

「?」

 

 

一刻堂である彼は妖怪城についての知識も先代達からある程度は知らされていた。

その警備システムと広さは彼も十分注意していた筈だ。妖怪城が本気を出せば、入った者は生きては帰れない。

ソレほどまでにこの城は強大な力に溢れているのだ。

 

にも関わらず、正直進入した当初から彼は違和感を感じていた。

完全にナメているのだ。目目連の警備システム、多くの河童兵、そして強力な妖怪達。

それほどまでに全てが揃っているにも関わらずどこかまだ全力を出していない気がしてならない。

 

それがアキラを助ける事に好都合であるのはいい事だ。

だがやはり違和感と言う恐怖が付いて回る。

果たして本当に総大将達はアキラを守る気があるのか?

 

何かもっと……大きな目的がある様な気がしてならない。そんな事をダブルに言うと彼は少し考えたように唸る。

それは皆も考えていたことだ、総大将達が本気を出していればサトリ突破すら怪しかったかもしれない。だが自分達は確実にアキラに近づいている。

 

 

「多分それは総大将じゃなくて、邪神の使いの狙いだろうね」

 

 

邪神の使いとは何者なんだ?

ドーパントが関わっている以上、そちら側の何かと考えるのが普通だ。

だが邪神程の存在をガイアメモリが作り出せるとは思えない。ならば何かもっと違う何かなのか?

 

 

「まあ、いずれ分かる事か……」

 

 

とにかく今はアキラの事が気になる。

彼女は一体どうしているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

白澤と河童兵に囲まれながら、アキラはずっと下を向いて歩いていた。

何が正しかったのか、本当に自分がとるべき行動は何なのか……もう、彼女には分からなかった。

生きたいと思うのか、それとも死にたいと願っているのか。傷つけないと思っていた選択は結果として間違いだった。

どうして? 何故? 何をどうして自分は間違えたのだろう。

 

誰を憎む訳でもない、誰も憎めないのだから。アキラは何も考えずに足を進める、それが正しいのかは分からないがそうするしかない。

誰を救いたかったのだろうか? 皆に決まっている、世界を守るためには自分が死ねばいいと言う選択をとればいい。

なのに、なぜ戦いが起こる? 争いが始まる? ああ、きっと自分は知っていたのかもしれない。誰しもを救う、納得させる手段なんて無い事くらい。

それでもわずかな可能性と希望に賭けて選択を取るしかなかったのだから――だったら、このまま死ねばいいのだ。

 

いや、それで済む話でもない。

アキラの心の中に宿る生への願い、そして各地で繰り広げられる『同じ』議論。

救うために命を賭ける事、それが間違いだと吼える者や決断を変えるには戦いしかないと語る者。

うまくいくなんて誰も思っていなかったのかもしれない。結局は力で解決するしか無かったのか。

 

アキラはそんな事をぼんやりと頭の中でループさせていた。

仮にココで自分が逃げられるチャンスが出来たとして、自分は走りだすのだろうか?

 

うまくはいかなかった。麓子に言われたときは逃げ出す決意を固めてしまったが、今に考えて見ればそれは間違った選択だったのかもしれない。

じゃあ、自分はどうすればいいのだろうか? 駄目だ、全く分からない。考えれば考える程に深みにはまって行く気がして怖かった。

泣きたくなった。分からなかった。もう疲れた、いっそ全てを終わらせて眠りたい。

 

アキラの心に闇が落ちる。関わるから傷つけあう、知り合ってしまったから悲しい思いをする。

そんな事はもう嫌だ、もう誰も悲しんだり傷ついてほしくはない。これ以上自分のせいで事がややこしくなるのはうんざりだ。

はやく……とアキラは考えた。はやく、はやく――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はやく、死にた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キュイイイイイイイイイイイ!!!』

 

「!!」

 

 

アキラがその言葉を思い浮かべるより先に、聴いた事のある音が彼女の耳を貫いた。

それが何なのか、彼女はしばらく考えもせずに足を進めていた。関われば誰かが、自分が傷つく。

それはもう嫌なんだ、もう耐えられない。アキラは白澤にも河童兵にも音の先にも目を向けずに帽子を深く被りなおす。

何も、見えない。それでいい。

 

 

「――は――だッッ!!」

 

 

誰かの声が聞こえる……気がした。

でもそれが男なのか女なのか、まして人なのか妖怪なのかもアキラは確認しなかった。

心が世界を拒絶する、外部からの情報をシャットダウンしている様。しかしまた耳に入ってくる鳥の鳴き声の様なものと慌しい周りの様子。

アキラもふとその声が何なのか、何が今起こっているのかを反射的に確認する。

 

 

「……ッ」

 

 

見えたのは赤、その瞬間今まで鈍くしか動いていなかった彼女の思考が急加速を遂げる。

間違いない、アレは……あの赤を自分は知っている。彼の物だった、あの赤は――

 

 

「茜……鷹っ!」

 

 

鳴き声を上げて飛び回っているのはディスクアニマルの茜鷹。

どうやら偵察の為に飛び回っていた彼(?)はその役割を発揮する様に鳴いていた。

もちろんそれは主人に何かを告げる為だ。その何かは知らないが、当然彼の声を聴いた主人はコチラに向かってくるのだろう。

いや、もう既に主人は、彼は来ていた。だから白澤達はせわしなく動いているのだ、侵入者である彼からの攻撃を防ぐために。

 

 

「―――」

 

 

主人、茜鷹の持ち主の事だ。

その人の事をアキラはもちろん知っている、心の中でずっと彼は自分から離れてくれなかった。

その想いはきっと――

 

 

「アキラちゃんを返せぇえええええええええええ!!」

 

「くっ! どうあっても諦めてはくれないらしいなッ!!」

 

 

アキラは見る、寝子が白澤と激しく戦っているのを。

猫娘である彼女は持ち前の素早さを生かして白澤を攻めていた。

流石の猫娘も白澤の雷を避けるのは不可能だろう、なので彼女は白澤の周りを常に跳び回り攻撃のチャンスをしきりに潰していった。

白澤は力こそあるがあまり素早くは無いらしい、猫娘の攻撃をしっかりと防御するものの反撃の隙はまだ見つからない様だ。

 

そう、そして彼女の隣にいるのは――

間違いない、間違える訳が無い。

 

 

「ッ! 君は――ッッ!!」

 

 

既に彼は河童兵を気絶させていた。

ベルトに備えてある鬼の顔を模した球体状の武器を彼は取り外す。

音撃棒の先についているのと似ているソレは通称"爆裂火炎鼓"。爆裂火炎鼓は司が知っていた響鬼のソレとは違ったデザイン、効果を持っているのだ。

 

 

「クッ!!」

 

 

彼が投げた爆裂火炎鼓。

それは空中で弾けると対象である白澤に爆炎でダメージを与える。つまり太鼓ではなく爆弾と言う事だ。

そう、問題はそこではない。それを投げたのは誰かと言う事だ、そしてそれはもう一人しか該当しなかった。

それに該当する仮面ライダーはたった一人――

 

 

「悪いけど、花嫁は連れ戻させてもらいます――ッッ!」

 

 

白澤と対峙するのは、仮面ライダー響鬼。

相原我夢だった。

 

 

「―――」

 

 

響鬼はまだアキラに気がついていない。

不運にも河童兵がアキラを隠してしまい、かつ帽子を深く被ったアキラは完全に隠れる形となってしまったのだ。

しかし無意識にアキラは彼の名前を呼んでいた。それが何故なのかは彼女自身分からない。

すがる様にアキラは彼に手を伸ばす、彼女が抱いた想いはただ一つ。

やっと、会えた。だからアキラは彼の名前を呼ぶ。彼に、気がついてもらえる様に?

 

 

「――――」

 

 

彼に――

 

 

「――――………」

 

 

しかし

 

 

「―――……っ!?」

 

 

声が出ない、その事にアキラは大きな焦りを感じる。

彼がそこに、目の前にいるのに気がついてもらえない。それが何よりも嫌でアキラは必死に声を上げようとした。

しかしできない、一体どうしてなのかは知らないがこうなれば割り切るべきだ。アキラは我夢の名前を呼ぶ事を止め、次は手を振ろうと力を込める。

 

 

「っ!!」

 

 

だがコレもできなかった。

一体どうして!? アキラは身動きすらとれない状況に大きな悔しさを感じる。

すぐそこに彼がいて、自分は何もできない。たったこれだけの事なのに涙が出そうになる。

 

 

『悪いわね、あなたに動かれちゃ厄介なの』

 

「!」

 

 

その時、頭の中に響く声。

耳ではなく頭に聞こえたソレは、アキラにのみ向けられたメッセージなのだろう。

ぐっとアキラの服が掴まれる。そのまま彼女は河童兵の影に隠れたまま後ろの方へと引き寄せられてしまった。

 

 

「……っ」

 

「どうも、花嫁さん」

 

 

そう呟いたのは美しい黄色かがった金髪の女性。

炎を模した着物は本当に燃えている様で、アキラはその迫力につい怯んでしまう。

女性の髪先は金色ではなく白。まるでこれは――狐の様。

 

 

「私、七天夜の妖狐(ようこ)。花嫁さん、悪いけどココは大人しくしててね」

 

「―――ッ!」

 

 

超級妖怪集団"七天夜"。その一人である妖狐、彼女の力でアキラは身動きが取れない状況になったと言う訳だった。

妖狐はその着物を大きく広げてアキラを包み込む。抵抗しようとするアキラだが体が動かない上に、妖狐から発せられる匂いに動きが止まる。

どうやら彼女から放たれる香りは、軽いものだが精神的な作用を放つものらしい。アキラは思考が鈍っていくのを感じる。

嫌だ、このままだと確実に――……

 

 

「アキラさんはどこだッ!!」

 

「教えると思うか?」

 

「なら、力ずくで聞かせえてもらいます!」

 

 

遠くの方で彼が戦う声が聞こえる。

自分を探している、私も声を出さなきゃ、でも動けない。

アキラの思考が端的なものへと変わっていく。手を伸ばそうとするができない、ただ彼女に許された行動と言えば涙を流すだけだった。

そんな彼女の様子を見て、妖狐は複雑に顔をしかめる。しかしすぐに無表情とも言える冷静さを見せると、妖狐はアキラの耳元でささやき始めた。

 

 

「怖くない、死はやがて必ず訪れるもの。君は少し耐えるだけ、それで全ては終わりを告げる」

 

 

悲しみも、苦しみも、痛みも、涙も、恐怖も、全て死が終わらせてくれる。

あなたは何も恐れる事は無い。今見ている景色もただの夢、終わりに向かうまでのわずかな妄想にしかすぎないのだ。

そう言って妖狐はゆっくり目を閉じる。それに釣られるようにして、アキラもゆっくりと目を閉じた。

 

 

「………」

 

 

妖狐はそれを確認すると響鬼の方を見る。

白澤と同等に戦いを繰り広げている彼、その力は一体どこからくるのか?

決まっている、彼女と再び会える事を夢見てだ。しかしそれは叶わない、妖狐はアキラを連れ出そうと踵を返す。

 

 

「い―――っ!!」

 

 

その時だった、妖狐の手に焼きつく様な痛みが走る。

思わず声を上げてしまう妖狐、一体何が? そう思った彼女に再び走る痛み。

だが周りを見ても何も無い、と言う事は……? 妖狐は考えられる一番の要因を探るため、その力を発動させた。

 

 

『ウォン!!』

 

 

やはりか、妖狐の放った火炎に瑠璃狼の姿が引きずり出された。

透明になれる瑠璃狼、その存在に今度は妖狐が焦りを覚える事となる。

当然だ、瑠璃狼が自分の姿を確認したと言う事。そして妖狐は自分の足元に落ちている帽子を見た。

つまり今のアキラは髪を結んでいるだけ、それだけなのだ。ディスクアニマルの知能は高い。今の彼女を見れば確実に――

 

 

『アォオオオオオオオオオン!!』

 

「しま――っ!!」

 

 

遠吠えをあげる瑠璃狼、その様子に響鬼が気がつかないわけが無い。

何かある、それを確信した時、響鬼の心が一気に燃え上がる! 音撃棒を右へ左へ力強く叩きつける響鬼。

確実に力の強さが変わった、白澤は厄介だと眉をしかめた。鬼の力は我夢の心情にシンクロするかのごとく力を与えている。

今の彼ならば油断は即敗北へと繋がるだろう。

 

 

「そこだッ!!」

 

「くっ!!」

 

 

だがそれでも実力と言う壁は大きい。

白澤は音撃棒を受け流すと、響鬼の腹部に雷を纏った拳打ち込む。

腹部を押さえ後ろへと下がる響鬼、そこへ直撃する白澤の雷。それを見て妖狐は何とかなりそうだと考えたが……

移る視線、吹き飛ぶ河童兵。脅威はどうやら響鬼だけではない様だ。

 

 

「この気配、半妖……ッ!?」

 

 

タンっと地面を蹴る音が聞こえ、妖狐はその首を上げる。

そこにいたのは自分の着物同じく燃える様な髪の少女だった。

目と目が合う。しかしすぐに少女は瞳を反らした、その意味に気づく妖狐。しまった! 呆気を取られていた為に隣にいるアキラを放置していた!!

 

 

「我夢ッッ! 奥にアキラちゃんがいるッッ!!」

 

「!!」

 

「くっ!」

 

 

気づかれた!

だが響鬼とてそう簡単に立ち上がる事などできない筈、白澤は一度彼に背中を向けると雷撃を猫娘に向かって発射する。

なんとか交わす寝子、だが彼女とアキラの距離が大きく離れる。その隙に逃げろと叫ぶ白澤。

 

 

「ごめんなさいね! 了解ッ!」

 

 

そう言ってアキラを掴む妖狐。

尚も襲い掛かってくるディスクアニマル達を蹴散らしながら彼女は奥の部屋へと進んでいく。

それを確認して再び振り返る白澤、はやく動けない様に――

 

 

「は?」

 

「―――音撃打」

 

 

だが、そこで気がついた。自分の背中に押し付けられるのは間違いない!

白澤は瞬時に雷撃を放とうとするが、それよりも先に部屋には怒涛の叫びがこだまする。

 

 

「爆裂強打の型ァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

【爆裂】

 

 

強大な一撃が白澤を押し出していき、彼の紋章が大きく出現する。

 

 

【強打】

 

 

響鬼の技は多彩だ。音撃打、音撃剣、音撃術、三種類の音撃から様々な型を選んで発動する。

今発動したのは音撃鼓を使用する【音撃打・爆裂強打の型】。音撃の力を集中させて相手に叩き込む一撃は、相当の威力をもたらした。

さしもの白澤も、これには堪えたのか膝をついてうめき声を上げて後退。どうやら雷を出す程の余裕はないらしい。それでも白澤はなんとか響鬼に狙いを定める。

その隙にアキラを連れて引く妖狐、早くしなければ――ッ!

 

 

「どけぇええええええええええええッッ!!」

 

 

焦りなのからか、叫び声を上げて響鬼は走り出す。響鬼の力があれば追いつく事も可能の筈だ。

となれば邪魔な白澤を何とかしなければ、響鬼はディスクアニマルを妖狐に向わせて自分は寝子と共に白澤に戦いを挑む。

 

 

『我夢ッ! 今どこにいる!?』

 

 

その時、理の欠片を通じて司から通信が入った。

我夢は頭に血が上ってそこまで気が回らなかったが、寝子がしっかりとアキラを見つけたと皆に報告を入れたのだ。

二人は今入り口からそう遠くない事、だいたいの場所を告げる。司は了解した様で、すぐに通信を解除した。

 

 

「フッ! ハァァァ―――………ッ!!」

 

 

音撃棒の先に炎が宿る。

素早い寝子の攻撃に足が止まる白澤、そこを狙って響鬼は火炎弾を発射。

 

 

「たぁあああッッ!!」

 

「ぐぉッッ!!」

 

 

なんとか弾き返す事に成功した白澤、しかしその攻撃すら時間稼ぎでしかない事を知る。

響鬼は通信が切れる時にある音声を聞いた。それは――クロックアップの発動。

 

 

『ファイナル・アタックライド』

 

「!」

 

『ファファファファイズ!』

 

 

紅いポインターが幾重も白澤に重なり、彼の動きを拘束した。

クロックアップとファイズアクセルを使用して、ディケイドは響鬼達の所に一瞬でやってきたのだ。

残された時間は一秒、十分だ!

 

 

「うぉおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

一発、二発、三発、次々に打ち込まれていくクリムゾンスマッシュ。

タイムアウトの音声と共に現れるディケイド、そして刻まれるファイズの刻印。

打ち込まれるエネルギーに白澤は苦痛の声を漏らすが彼とて超級妖怪、ファイズの紋章を放電で簡単に破壊するとディケイドに雷を発射する。

 

 

「ぬるい! この程度――ッ!!」

 

「司先輩ッ!」

 

「我夢、ここは俺が抑える! お前らはアキラを追うんだ!」『カメンライド』『ブレイド!』

 

 

ディケイドのベルトからエレメントが発射され、雷を防ぎながら白澤に直撃する。

弾き飛ばされる白澤と、エレメントを通過してブレイドに変わるディケイド。

ディケイドは間髪入れずにカードを発動させた。

 

 

『アタックライド』『タイム!』

 

 

ディケイドがライドブッカーをかざすと、白澤の動きが完全に停止する。

その隙に走りだす響鬼と猫娘、今ならまだ間に合うはずだ。

徐々に仲間もコチラにやってくる筈、ディケイドは白澤のプレッシャーに若干の恐怖を感じつつも、勝利を信じてカードを発動する。

 

 

 

 




☆あとがき☆

今回登場した爆裂火炎鼓ですが、原作とは全く異なる形状と効果です。
鼓とありますが、簡単に言うと炎と音撃を凝縮させた手榴弾となります。
音撃棒の先端にあるものと同一の、鬼の顔を模した球体。それを投げるか壊す事で広範囲に炎と音撃の衝撃を与えます。

なので、爆裂強打も通常の音撃鼓で発動できます。

それでは今回はこれで。
次は金曜日予定。
ではでは
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