仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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PVの上様で吹く


第47話 「連鎖」

 

 

 

 

 

 

さて、皆がそれぞれ新たな目的を見つけている頃。

 

 

「アキラちゃん!!」

 

「アキラ!!」

 

 

勢い良く扉が開かれる。

アキラの姿は――

 

 

『ある訳ないでしょ! ココ男子トイレじゃない!』

 

 

あ、そうね。そりゃそうだわ。

そう言って椿はトイレを出て行く。それに続くようにしてユウスケと銃になって彼の腰についている薫は残念そうに首を振った。

 

始めの方に皆と別れてから、彼らはずっと誰とも合流する事無く城の中をさ迷っていた。

と言うのも彼らが今歩いているのは妖怪城の外れに近い場所なのだ。

 

アキラがいる場所とはかなり離れているし先には何も無い行き止まりである。

にも関わらず三人が引き返さない理由は、この先に何があるのか分からないから。

手っ取り早くいうと、彼らは地図を無くした訳だ。それは彼らが階段を見つけて上の階層に向かった時だった。

 

 

「うわぁ! なんだかよくわからないけど物凄い突風が吹いてきた! それはものすごくて何か立っていられない程の突風が吹いて何かこううまい具合に地図が吹き飛んじゃったよどうしようかうわぁすごいとっぷ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「解説乙」

 

 

とまあ少しふざけたものの、様は地図を三人まとめて無くしてしまったと言う事だった。

新しいのをもらおうとしたものの、地図のストックはもう無いと双護に言われてしまった。

と言うよりストックはあるのだが、資料室がめちゃくちゃになってしまったせいで新しい地図を取り出すのが難しい状況となってしまったのだ。

 

とりあえず三人は一度入り口に戻る事にしたのだが――、絶賛迷子中である。

入り口の場所すら分からずに三人はひたすら城内をさ迷っていた。

そうしているうちに、だんだん他の皆が合流して余りの地図をもらう事ができたのだが。

しかし……

 

 

「なあ、コレどうやってみるの?」

 

「地図なんだから普通に見ればいいでしょ、普通に」

 

 

普通ってなんだろう?

三人は自分がいる場所が地図のどこにあるのか全く理解できていなかった。

三人寄ればもんじゅの知恵とも言うが、この三人のおつむでは把握はちと厳しいものとなる。

 

 

「ああああああああああ! どうすんだよマジ! これじゃあアキラどころか俺達帰れねぇぞ!」

 

 

頭を抱える三人、半ばパニックになっているのか三人はとにかくいろいろな場所へと走る。

だが行けども行けども仲間はおろか、河童兵すらいないではないか。

通信で連絡を取ろうにも、ノイズが発生して誰とも連絡が付かない状況だった。

 

 

「それにしてもおかしくねぇか? いくらなんでも誰もいなさすぎだろjk」

 

「うーん、皆寝てるとか?」

 

『んな訳ないでしょ、ただおかしいのは確かね』

 

 

いくらココが外れの方だからと言って誰もいないのは異常すぎないか? しかもどれだけ歩こうとも景色が変わる気配すらない。

おかしい、最初はただ迷っただけだと思っていたがだんだん違うのではないかと想い始めてきた。何かがおかしい、これは一体どういう事なんだ?

 

 

『ジャック、分かるか?』

 

『はい、私も少し拝見させていただきましたが……コレは――』

 

 

ジャックと通信を取った椿、彼は一回廊下の壁に傷をつけてみろと言う。

何でそんな事を? とも思ったが、ココは彼の言う通りにすべきだろう。

椿はブレイラウザーを出現させると言われたとおり壁を切りつけた。

 

 

「?」

 

 

だが不思議な事に壁には傷一つ付かなかったではないか。

別に手加減をしたつもりはない。にも関わらず傷はおろか切った感触までないと来た。それをジャックに報告すると彼は一つの答えを導き出す。

 

 

『恐らく、これは敵の幻術です』

 

「はぁ!?」

 

 

最初は疑いの念を持ってしまったが、このループとも思える事態を考えるなら納得のいく話だ。

だがそうなるとマズイのではないか!? もし自分達が敵の幻術にかかっているなら、まんまと敵の仕掛けた罠に引っ掛かった事になる。

 

 

『な、なんとかならねぇのかジャック!』

 

『私の力では何とも……キングならあるいは――』

 

 

椿はすぐにキングと通信を取る。

キングも話は聴いていたのか、瞬時に状況を理解していた。

やはり彼が言うにもこれは敵の幻術である可能性が高い、妖怪城をさ迷っている内にいつのまにか敵の仕掛けたトラップに掛かったとのとこだ。

 

 

『いけるか? キング』

 

『そうだな。私は今、お前と同じ景色を見ているが私のカード自身は他の影響を受けていない筈だ』

 

 

つまりどういう事なんだ? 椿が言うとキングは簡潔に説明してみせる。

 

 

『私のカードを投げて術者にぶつけるか、それとも術を発生させている物にカードをぶつけるかだな』

 

『ちょっと待て、お前もしそれ外したらどうなるんだ?』

 

『別の方法を探すことだな』

 

 

まじか! 椿は思わず叫んでしまう。

正直そんなの無理ゲーすぎんだろと彼は言う。

一回のチャンスでこの幻術を解かなければならないなんて――

 

 

「落ち着けよ椿!」

 

「ッ?」

 

 

そんなときユウスケが椿の肩を持つ。一人ではできない事も、仲間の力があればきっとそれはできる筈だ。

自分達は一人でアキラを助けるんじゃない、皆で助けるんだとユウスケも薫も言った。頷く椿、しかしどうする?

幻術に掛かった事すら分からなかった自分達がどこにいるかも分からない術士にカードを投げて当てるなど……

 

 

「賭けだけど、やらないよりはマシだろ。変身」

 

 

そう言ってクウガに変身するユウスケ、何をするのかと思いきや彼はフォームチェンジを行いその色を緑に変える。

 

 

「ッ! 成る程な!」

 

 

超感覚ペガサスフォーム。

クウガは全身の神経を集中させて幻術に抵抗を仕掛ける。

しかし感覚が優れると言う事は抵抗力があがる分、油断すればより深く幻術にかかってしまう可能性が高い。

 

クウガは全身の神経を集中させて眼を閉じた。

耳を済ませる、視覚を惑わされるのは何よりのノイズになるからだ。

視覚と嗅覚、聴覚、まして平衡感覚を駆使してクウガは幻の世界から脱却を果たすために抗う。

今のペガサスの制限時間は持って三十秒あまり。クウガはせまるタイムリミットの中で矛盾を探す。

 

 

『クスクス』

 

「………ッ!!」

 

 

笑い声が聞こえた。

椿のものでも薫のものでもない、つまりそれは――

 

 

「椿、カードをおれに!」

 

「おん」

 

 

椿は頷くとキングのカードをクウガに渡す。

クウガはそれを何も無い場所に投げるとペガサスボウガンを構えた。

それをすかさず振り絞ると、必殺技であるブラストペガサスを放つ。

強烈な一撃はキングのカードに命中、矢はカードを貫く事はなく逆にカードをミサイルの様に加速させる。

 

 

「いけぇええええええええッッ!!」

 

 

カードは笑い声の元に届くが――

 

 

「あらあら、ばれちゃった」

 

「ッ!」

 

 

見えたのはカードを指で挟む女性。

やはり幻術だったのかと思う心とカードを寸前で止めた彼女に少し怯んでしまう。

ふと椿は周りを見渡してみた。どこだココは? それが率直な感想、先ほどまで自分達がいたのは廊下。

しかし今は薄暗い和室の様な場所に自分は立っている。和室と庭が備えられている空間、庭の部分には鳥居まであってなんだかよく分からない部屋だ。

神社を模している?

 

 

『おい椿、大丈夫か!?』

 

「!」

 

 

そんなタイミングで椿に咲夜から連絡が入る。

 

 

『どうして繋がらなかったんだ!?』

 

「あ……いや――!」

 

『まあいい、とにかく急ぎの内容だ。手早く済ませるぞ』

 

 

彼女が言うにはアキラが別の場所に移されたと言う事、そしてその鍵を四つに分けられてまた別の妖怪達が所持していると言う事。

咲夜はディエンドから教えられた妖怪達の名前を呼び上げていく。

 

 

「お、おいおい……」

 

 

ひょっとしなくてもそりゃお前――ッッ!

 

 

「目の前にいるじゃねぇか……!」

 

 

椿の前にいるのは足を組んでいる妖艶な女性。

といえば聞こえはいいか? 我夢からの情報を同時に聞いたが間違いない。

黄金に近い黄色の長髪。でもその先は白く、まるで尻尾の様。そして答えといわんばかりに見える猫耳……ではなく狐耳。

 

 

「部屋に帰ってきてみれば、間抜けさんがいるんだもの。驚いたわ」

 

 

そう言って彼女は受け止めたキングのカードを椿の方へと投げ返す。

椿はそれを受け取るとブレイバックルを取り出して彼女との距離をあける。

 

 

「鍵はもらうぜ、妖狐ッ!!」

 

「へぇ驚いた……ッ! まさかもう情報が渡っているなんてね」

 

 

七天夜・妖狐。

彼女は鍵を受け取り自室で待機しようと思っていたが、まさか侵入者がコチラまで来ていたのは予想外だった。

それは完全に運の話だとは言え、たどり着かれたのは事実である。

 

最初は逃げようとも思ったがどう考えても他の場所の方が侵入者と鉢合わせする可能性が高い。

外に逃げればいいだけなのかもしれないが、妖怪城に存在する全ての鍵は紛失防止の為外に持ち出すと自動で城内に戻る仕掛けがなされている。

面倒だが城内だけで鍵を死守しなければならないのだ。だが妖狐とて七天夜のプライドがある。侵入者達にこれ以上城を歩かれるのは避けたい。

 

 

「だから、貴方達を倒す事にしたわ。悪く思わないでね、手加減は苦手なの!」

 

 

妖狐は懐から鍵を取り出すと、椿達に見せ付ける様手で鍵を回してみせる。そして彼女はおもむろに鍵を後ろへと投げた。

何を? 疑問に思う彼らだったが、すぐにソイツが現れて鍵を口の中へと入れた。

 

 

『妖狐様、ヤルンデスネー!』

 

 

そして飲み込む。

どうやら鍵を手に入れるには妖狐を倒しつつ、彼女の隣にいる妖怪『化け提灯(ちょうちん)』の体内から鍵を取り出す必要性があるようだ。

 

 

「上等だぜ狐女、悪いが椿くんは獣耳じゃこれぽっちも萌えねーんだよ!」『ターン・アップ』

 

 

バックルを装備して椿はハンドルを引く。

するとエレメントが彼の前に出現、そのまま通過して椿の姿をブレイドに変えた。

面白いと笑う妖狐、化け提灯と共に彼女は二人の前に立ちはだかる。

 

 

「悪いけど鍵は渡してもらう!」

 

 

構えるクウガとブレイド。

クワガタとカブト虫が揃ったと妖狐は笑っている。どうやら余裕の様だ。

 

 

「それは駄目。見せてあげるわ、七天夜の力を」

 

 

そう言って余裕の表情を浮かべ、妖狐は力を解放させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

同じく通信を受けた真志、美歩、拓真。しかし彼らが今いる場所は牢屋の中。

牢屋の前には河童兵、彼が鍵を持っているようだ。三人は牢屋の中で黙り込んでいる。

と言うのもゼノンたちから受け取ったヒールカードを使っているからで、別に絶望してと言うわけではなかった。

 

 

「オレ達、結構遠くまで連れてこられたよな」

 

「うん、そうだね。牢屋はここだけなのかな?」

 

「うんにゃ、そうでもないっぽいよ。地図に書いてある」

 

 

そう言って美歩が指した所を二人は確認する。

成る程、確かに地図には他の場所にも牢屋は存在していた。

しかも自分達が捕らえられたところから近いところにも牢屋は一つ存在していたのだ。

 

ならば自分達はそこに入れられなかったのか?

たとえば既に誰か入っていた。もしくは、アキラから遠ざけたかったかだろう。

アキラは入り口付近の隠し扉から進める先にいたと言う。ならば自分達はそれなりに近い場所にいた。

 

やはり守る側としたら少しでも異物は遠ざけたいと思う。

だからこそ自分はアキラから一番遠い牢屋に移された。

しかし、それは今の状況で言えば幸運とも言えるかもしれない。花嫁を閉じ込める鍵は花嫁から遠ざけるのがセオリー。

 

 

「今なら鍵を持ったヤツに近いんじゃないか?」

 

「多分ね」

 

 

三人は頷いて立ち上がる。

実は彼らは酒呑童子にやられた時点ではまだまだ戦う力は残っていた。

しかし、あえて捕まる事で自分達じゃいけない場所にいけるのではないかと言う可能性に賭けたのだ。

コレでわざと捕まったかいがあったと言うもの、あいにく何やら特殊な檻らしいが――?

 

美歩は自分が使っている小さな鏡をポケットから取り出して、それを檻の隙間から外に投げる。

おしゃれに気を配る美歩はもう一つ鏡を持っている、それはつまり位置口と出口が存在していると言う事。

 

 

「ほっ!」

 

 

真志は美歩の鏡に向かってダイブ。

小さな鏡だが真志はその中に吸い込まれる様にして消えていき、檻の外にある鏡から外に出た。

後は簡単だ、龍騎に変わった彼は河童兵をすぐにノックアウトさせて鍵を奪い取る。そのまま龍騎は美歩と拓真を開放させた。

 

 

「っしゃあ、じゃあ行こうぜ」

 

 

龍騎が歩き出したそのとき、理の欠片を通じてディスから連絡が入る。

 

 

『いい位置にいたな、お前らの近くに鍵持ちがいるぞ』

 

「お、いいじゃねぇの!」

 

 

一人のガタキリバがその情報を目撃していた。

妖怪・狂骨(きょうこつ)が鍵を受け取っているのを目撃していたのだ。

 

その後ガタキリバは狂骨を追跡、そして居場所を突き止めた。

そこを地図で確認、そしてメンバー全員の位置から見て一番近い場所にいたのが龍騎たちだった。

 

ならば迷う理由はない、龍騎たちは狂骨の元へと急ぐ。

ディスから教えてもらったルートで狂骨を最後に見た部屋へと急ぐ。

向かう途中で河童兵が多くなって来た所を見ると、どうやら当たりみたいだ。

 

 

「ん?」

 

「どうした、拓真」

 

「うん……なんか、ちょっと」

 

 

拓真はしきりに足元を確認しては重い表情を浮かべている。

何かが気になる様だ、それは足元の泥。

 

泥? 真志達が気になって聞いて見ると拓真はそれが違和感に感じていたようだ。

妖怪城はパッと見は古ぼけた城だが内装はしっかりと整備されていて、汚れなどはあるもののこんなハッキリとした汚れは見当たらなかった。

しかし狂骨の場所に向かうにつれて床が泥まみれになってきている。コレは何なんだ? それが拓真の疑問だった。

 

既に床と言う概念が分からない程、自分達が立っている場所は泥で覆われている。

成る程、確かにコレは気になる。真志は泥を良く見てみるが、何からカチカチに固まっていて自分達はその上を歩かされている様な気分になった。

 

 

「じゃあ、試してみるか」『アドベント』

 

 

ドラグレッダーを呼んでみる。

そして火球を発射して泥の床にぶつけてみた。すると――

 

 

「「「!!」」」

 

 

床が崩れ、文字通り自分達は空中に放り出された。

床が泥を覆っていたと思っていたがもともとそこには床すら存在していなかったというのか!

泥の破片と共に三人は地面に叩きつけられる。そしてふと前を見れば――

 

 

「いでで、尻打った!」

 

「……ッ、ココ」

 

『もうココに気がついた、流石だな』

 

「「「!?」」」

 

 

泥で部屋をコーティングしていた。

どうやら部屋に入られたくはなかったということか、目の前にはお目当ての妖怪・狂骨が立っている。

着物を着ている長髪の人間と言える容姿、しかし男性か女性かは分からない。

声がどっちともとれると言うのがあるが、なによりも顔が髑髏だからだ。

狂骨の隣には泥で覆われた人型の妖怪・泥田坊(どろたぼう)が立っている。

 

 

「悪いな、コッチだって必死なんだ」

 

『そう……』

 

 

全身が骨なのに狂骨は普通に喋って見せる、不思議なものだ。

 

 

「ちょ、ちょっと真志――ッ!!」

 

「?」

 

 

美歩が何かにおびえた様子で話しかけてくる。

視線を追う龍騎、するとホール状の部屋の周りにソレはいた。

何か舞台の様な部屋なのか、そこにはいくつもの客席が置かれていてその全てに泥で覆われた人間が座っている。

正確に言えば泥で覆われた人間ではなく、泥田坊の傀儡である人形。泥人間達はいっせいに立ち上がると客席に向けてゆっくりと歩き出す。

 

 

「数で勝負って訳かい――ッ!」

 

 

ファムに変身する美歩。

 

 

「思い出すよ、あの試練の事を」『5』『5』『5』『Standing by』

 

 

客席全てにクリムゾンスマッシュを叩き込んでやりたいが、一人では流石にキツイか。

 

 

『どれだけ花嫁を遠ざけても、貴様達はまだ、追いかけるのか?』

 

「当たり前だろ! オレ達はそう簡単には引きさがらねぇよ!」

 

 

狂骨は残念そうに首を振る、そして少し笑った様な表情を浮かべた。

もちろんよく読み取れないというのは事実だが。

 

 

『ならば、消えろ』

 

 

その言葉と共に、泥人間達は一気に走りだした。

どうやら見た目と裏腹にすばやく動ける様だ。

しかし龍騎たちはあくまでも希望の光を瞳に映して走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは龍騎達が泥田坊と戦いを始めた時とほぼ同時期。

妖怪城の放送で女性から侵入者達へメッセージが向けられる。

 

 

『貴方達のお仲間を預かりました。助けて欲しくば一人で指定する場所にきなさい』

 

 

もし一人じゃない場合、そして来なかった場合は――

 

 

『殺しますよ』

 

 

罠かとも思ったが友里と鏡治に連絡が付かないという事を知るとみぞれ達が事情を説明する。

いろいろな事があったせいで無事を確かめる暇が無かった様だ。つまり二人を逃がした後、友里達は捕まった可能性が非常に高い。

罠の可能性が非常に高いが二人の命が掛かっている状況だ。危険だが迷う必要はないだろう。

 

 

「―――ッ」

 

 

そして指定された場所に翼がやってくる。

生徒が危険なんだ、自分が行かない訳にはいかない。

この扉の向こうに敵がいるのだろうが、勝算が無い訳ではない。翼はアギトに変身すると同時に扉を開けた。

 

 

「!」

 

 

寒い、変身していながらも痛いくらいの冷気が自分を包む。

 

 

「ッ!」

 

 

後ろの扉が閉められる。

すると部屋の中がライトアップ。眼を見開くアギト、部屋の奥の方に友里と鏡治の姿を見つける。

しかしなんと二人は氷の檻に閉じ込められていた。氷づけにされれば人間は死んでしまう!

アギトはすぐに二人を助けようと走りだすが、その時声が聞こえてきた。

 

 

「安心してください、私の氷は普通のものとは違います。二人は確かに生きています」

 

 

そう言いながらもアギトに向かってくるのは巨大な氷柱、アギトはそれを寸でのところで交わして構える。

現れるのは当然雪女である雹。だけではない、雹の隣には刀を二本構えた妖怪が立っていた。

特徴を言うのであればやはりその足の数だろう、中央に一本だけと言うのは彼が"一本だたら"と言う妖怪だからこそ。

 

 

『………』

 

 

一本だたらは迷わずアギトに刀を向けて跳躍する。

どうやらもう戦いは始まっているみたいだ、アギトはすばやく地面を転がると刀を交わして鏡治達の方へと足を進めた。

 

 

「!」

 

 

そこに影、アギトはすぐに後ろへと跳んだ。自分がいた場所へと落下してくる巨大な鬼の首。

妖怪"おとろし"、彼はここに呼ばれその姿を現した。回避できたと油断するアギトへ巨大な口から衝撃波を飛ばして攻撃する。

苦痛の声をあげながら地面を転がるアギト、そこに見えた巨大な拳。

 

 

「くっ!!」

 

 

これもなんとか回避に成功する。

立ち上がると、目の前には巨大な猿人が見えた。妖怪"雪男"。彼もこのフィールドでは無類の強さを発揮する筈だ。

成る程、アギトの心に大きな焦りが生まれる。雹、一本だたら、おとろし、雪男。つまり四対一。

加えて舞台は極寒の冷凍庫と言ってもいい場所、アギトに不利なんてものじゃない。

 

 

「邪神の使い様が、新たに決断を下されました」

 

「ッ?」

 

「指定する者以外は殺害してもかまわないと」

 

 

そして邪神の使いが指定する中に、貴方は入っていないと雹は笑う。

もちろんそれは鏡治と友里もだ。つまり今ここでアギトを生かしておく理由は無い。

 

 

「たった一人で来たことは評価してあげますよ、ですが我らに勝てるのでしょうかね?」

 

「……ッ」

 

 

その通りだ、アギトは構えてゆっくりと深呼吸を行う。

同時に走りだす一本だたらと雪男。おとろしはアギトを押しつぶすため、再び跳躍を行う。

 

既に部屋には雪が降り積もってきていた。

おそらく時間がたてば自由に動けなくなる可能性が高い、つまり短時間の内に四体を倒さなければならないのだ。

やるしかない、アギトは一本だたらに向かって走りだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいれば、やがては総大将か誰かが迎えにくるだろう」

 

 

頷くアキラ、麓子といた部屋よりシンプルなつくりの部屋。そこに彼女を招待したのは"サトリ"だった。

七天夜である彼は電王に敗北こそしたが、すぐに意識を取り戻して再び総大将の元へと戻っていたのだ。

思えば縛られただけで彼を封じられると思った事も愚かだったか。

 

今回の戦いで敗北した妖怪たちはほとんどが戦意を喪失しており、医療室で休んでいる。

しかし七天夜であるサトリはそのプライドが身体を動かしていた。

総大将から彼に与えられた命令は花嫁の案内役。

 

サトリは言われたとおりにアキラを閉じ込めるべく部屋へと案内した。

今の彼は仮面をつけてはいない、影を持った少年のような容姿にアキラも思わず不思議な気分になる。

凄まじい力を持った妖怪といえど、小さな男の子にしか見えないからだ。

 

 

「天美……アキラと言ったか?」

 

「は、はい」

 

「相原我夢をどう思っている?」

 

 

その言葉にアキラの表情が変わる。

サトリはそれを見逃さなかった。アキラはもういいんですとだけしか言わなかったが、彼はそんな彼女の心を読む。

 

会いたくて、会いたくて、でも会えなくて。それでも会いたいと彼女は願っている。

実に愚かだと以前のサトリだったら笑うだろうが、その想いとやらに自分は負けた。

愚かだと、哀れだと、笑っただろうが――

 

 

「まあいい、何かあったら呼べ」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 

サトリはそう言うと部屋を出て行こうとした。

だがその時入り口の方から歩いてくる人物が見える。

 

 

「?」

 

「………ッ」

 

 

アキラにはそれが誰か分からなかったが、サトリは思わず身構えてその人物と対峙する。

自分が言えた立場ではないが、相変わらず悪趣味な仮面を付けている物だ。

そして真っ白な服に身を包んでいるのも、変わっていない。

 

 

「これはこれはサトリさん、ご苦労様です」

 

「………」

 

 

"邪神の使い"を名乗った男、サトリはすぐに心を読むが――

 

 

『勘弁してくださいよ、あなたとは口で話したいものだ』

 

 

舌打ちを一つ。

どうやら自分の力は全く意味の無いものらしい、仮面をかぶっている為表情すら読み取れないと来た。

使いはサトリに顔を向けた後にアキラの方を見る、そして再びサトリの方に顔を向けて小さくつぶやいた。

 

 

「人の想いは強力です。貴方も分かったでしょう?」

 

「………」

 

「せいぜいしっかり守ってくださいね、サトリさん。滅びたくないでしょう?」

 

 

止めてください、不快だと顔に出ていますよ。

今は仮面をつけていないんだからと使いは笑う。

それだけ言って帰ろうとした使いに、サトリは背後からささやく様に聞いた。

 

 

「貴様は妖怪か? それとも――」

 

「私は妖怪ですよ、名前は――」

 

 

そう言って使いは自らの名前をサトリに告げる。

確かにそういう名前の妖怪がいる事は知っているが、サトリにはどう考えても彼が――

 

 

人間にしか思えなかった。

 

 

異端が蔓延る妖怪城。

自身に命令を下すのは総大将だけしか許せなかったが、使いは完全に自分を下に見ている。

気に入らないな、そう思いながらもサトリは黙するだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし、ボクだけど――」

 

 

うん、うん、そうだよ。お願いしたいんだ。

え? うん、うん。はいはい、わかってるよそんな事。

いいじゃないかそのくらいしてくれても。

 

命令? いいよ、破っちゃえば。

どうせ破るなとは言われてないんでしょ? そういう人なんだって、あの人相当の変人だからさ。

あ、間違えた。人じゃないな、あの人。いいよ、いいよ、もうなんかそう言うの。

 

 

「――とりあえず今結構厳しい状況なんだ、というか押されてる」

 

「そうそう」

 

「やっぱりボクらだけじゃ限界近いね」

 

「うんうん」

 

「ディエンドが"コール"してくれたみたいだけど保険はほしいだろ?」

 

「そーよ、そーよ」

 

 

そう笑ってゼノンは電話を切った。

入り口付近のホールではゼノン達と陽達が次にとる行動について考えている所だ。

 

とにかく陽たちとしてはあまびえ達を横丁に帰してやりたいところだが、あいにくそうもいかない。

なぜならば入り口には鬼河童が立っているからだ、他の門に行くか? それが安全の様な気がする。

じゃあ行こうか、ゼノンがそう言おうとした時ふと彼は天井を見上げる。

別に他意があった訳じゃない。本当にたまたま見上げただけなのだが――

 

 

「……冗談キツイね」

 

「ヒャハハハハハ!!」

 

 

ゼノンは陽達を、フルーラはあまびえ達をかばって横に飛ぶ。

中央に振ってきたのは逃げた筈の"笑い般若"だった。実は逃げたなんてのは大嘘、彼はずっと天井で彼らの行動を監視していた。

 

 

「相変わらずお荷物を抱えてお忙しい事だなぁ! ヒャハハハ!」

 

「ッ!」

 

 

それがあまびえ達の事と知り歯軋りを行う陽、そして眼の色を変えるゼノン。

彼が聞いた笑い般若の声からはかすかなエコーを感じた。

それが何を意味するのか? 答えは簡単だ。笑い般若、彼は――

 

 

「ガイアメモリ――……ッ!」

 

「!!」

 

 

笑い般若の笑い声がピタリと止まる。

図星か、そうだろうな。ゼノンとフルーラはアイコンタクトを取りメモリを構えた。

だがその時再び彼が笑い声をあげる。

 

 

「死ねよ! クハハハ!」

 

「!」

 

 

背後に感じる違和感、振り向いたゼノン。

 

 

「!!」

 

 

当然笑い般若は彼に連絡を入れていた。

そう、ダブルとの決着を逃がした彼に。

 

 

「―――グッ!!」

 

 

何とかその一閃をゼノンはトリガーマグナムで受け止める。

妖刀村正を振う七天夜・鬼河童。彼は笑い般若の情報を得てダブルの場所までやってきたと言う事。

 

奇襲じみた攻撃だが、彼には何よりもダブルを倒さなければいけないと言う思いがある。村正の妖気を開放して彼は力を込めた。

妖刀の一撃がトリガーマグナムに容赦なく亀裂を走らせる。やばい、切られる! その事に焦ったのかゼノンは小さく舌打ちをして回避ルートを探った。

 

 

「―――ッ!!」

 

 

しかしそれよりも早く行動に出たのは鬼河童だ。

彼はゼノンのがら空きになった身体に蹴りを入れると、そのままタックルで彼を大きく吹き飛ばす。

どんなに余裕ぶっていようが所詮は子供。簡単に吹き飛ぶものだ、鬼河童はため息混じりに刀を振るう。

 

 

「ゼノン!!」

 

 

叫ぶフルーラ。

すぐに彼の所に駆け出そうとするが、それよりも先にみぞれの冷気を強く感じる事となる。

我に返り振り返るフルーラ、見えたのは自分をかばい笑い般若の攻撃を受け止めているみぞれの姿だった。

 

 

「ひゃはは!」

 

「気をつけて! 敵は一人じゃない!」

 

「ッ! ごめんなさい」

 

 

フルーラは服の裾からメタルシャフトを出現させる。

小さな身体のどこに隠し持っていたのか? そんな疑問を無視する様にフルーラはシャフトを笑い般若へと振りかざす。

 

 

「よ、陽ぉ!」

 

「大丈夫だよ、お前達はオレから離れない様に!」

 

 

そう言って結界を練成する陽。

そんな彼にもすぐに衝撃が襲い掛かる。獣の咆哮を上げて結界に噛み付いてきたのは、気絶した筈の鵺ではないか!

どういう事なのか? 陰陽師の力は本物。一度まともに受けた鵺が立ち上がれる筈が無いのに――?

 

 

「教えてやろう陰陽師。鵺は妖怪城を守る番犬だ」

 

 

番犬には忠実なルールが存在している。

それは侵入者を殺さないように。あくまでも番犬としての枠を出てはいけないと鵺にはリミッターが掛けられていたのだ。

しかし陽の一撃でどうやらリミッターが壊れてしまったようなのだ。結果鵺は番犬としてではなく狂犬として覚醒してしまった。

 

 

「もはやアレは鵺ではない、ヤツの本当の姿"雷獣"だ」

 

 

その言葉通り今の鵺、雷獣は全身が淡く発光して帯電している様に思える。

陽は必死に雷獣の攻撃を防いでいるが、いきなりその口元が光り輝くと焦りの表情を浮かべる。まさかこれは――

 

 

「クッ!!」

 

 

陽は素早く結界からあまびえ達を投げ飛ばしてみぞれの所へと避難させる。

だが瞬間もうその攻撃を受け止めていた。電磁砲、雷獣が放つ高エネルギーのレールガン。

それに陽は結界ごと押し出されてしまった。

 

凄まじい威力なのか、何とか結界は破壊されずにすんだものの陽ははるか後方へと吹き飛ばされていく。

さえぎるものが何もなかった為、通路の奥に追いやられる陽。逃がさないと雷獣は咆哮を上げて走りだす。

 

 

「みんなッッ!」

 

 

みぞれ達は追いかけたいと思うが、目の前にいる笑い般若は攻撃の手を止める様子はない。

氷の盾でそれをなんとか防ぐみぞれ、すぐにフルーラが飛び出して笑い般若にメタルシャフトを叩きつけていく。

 

 

「ゴグッッ!!」

 

 

動きづらそうな服装にも関わらずフルーラは軽快なステップで踊る様にシャフトを振り回す。

もちろんただ闇雲に振り回しているだけじゃない、ちゃんと一振り一振りが笑い般若に叩き込まれていくのだ。

 

 

「えいッ!!」

 

「グヒャ!!」

 

 

フルーラ渾身の突きが命中、笑い般若は一瞬動きを止める。

 

 

「あぁ……くそ、全身の骨折れたかもねこれは――」

 

 

一方、そう言って吹き飛ばされたゼノンはため息をついた。

生身の子供になんて攻撃をしてくるんだ彼は。尊敬するよと皮肉を言いながらゼノンは苦笑する。

しかしそんな彼に鬼河童は追撃を仕掛けるつもりだ、彼は高く飛び上がると彼に狙いを定める。

このまま突きを繰り出せばゼノンの心臓を一突きにできるだろうとの考えだ。

 

 

「おいおい冗談だ――」

 

 

ドンッ!! そう衝撃が走った。

ゼノンの胸には鬼河童の刀が生えて――

 

 

「――ないんだよね、やっぱり」

 

 

ゼノンは身体を捻って刀を交わしていた。

村正は地面に突き刺さり、鬼河童は少し不愉快だと表情を曇らせる。

 

 

「骨は大丈夫なのか? 割と本気でいったんだが」

 

「折れたと思った? それが折れてないんだよ。だってボクは――」

 

 

無敵だからね。

そう、わざとらしく笑ってゼノンは蹴りを鬼河童の腹部に叩き込む。

成る程、見た目とはそうとう力の差があるようだ。鬼河童は苦痛の声を漏らして理解する。

 

 

「おまけをあげるよ――ッ!」『トリガァ!』『マキシマムドライブ』

 

 

ゼノンは立ち上がり、怯んでいる鬼河童の頭を掴んで地面へ叩きつけた。

そしてそこへ乱暴に銃口を押し当てる。

 

 

「ゼノ・ブラスト!」

 

 

ゼロ距離での射撃。簡易必殺技であったとしてもそれなりにダメージを与えられたようだ。

フルーラを見てみると彼女も同じようにして必殺技を発動させている。

 

 

「フルール・ストライク!」『メタル!』『マキシマムドライブ』

 

 

メタルシャフトが赤とオレンジ色の閃光を放ちながら美しい軌跡を描く。

それにブチ当たる笑い般若。ゼノンもフルーラも今がチャンスと悟ってダブルドライバーを出現させた。

 

 

「くっ!」

 

 

立ち上がろうとする鬼河童。

ゼノンはすばやく携帯に緑色のメモリをセットしてそれを鬼河童へと発射した。

 

 

『スタッグ』『サイクロン・マキシマムドライブ!』

 

 

鬼河童の周りを風を纏ったスタッグフォンが飛び回る。

高速で飛び回るスタッグに鬼河童は混乱して再び地面へ倒れてしまった。

その隙にゼノンはスタッグからメモリを抜き取ってタッチを行う、それはフルーラも同じ。

メタルシャフトからメタルのメモリを抜き取るとそれをタッチしてそれぞれパートナーへと投げ渡す!

 

 

「フルーラ!」『サイクロン』

 

「ゼノン!」『メタル』

 

 

二人はそれそれ愛するパートナーが使ってくれたメモリを使うことを決める。

ゼノンもフルーラも身体を回転させてアクロバットを決めながらメモリをキャッチ。

そして間髪入れずにそれを装填した。

 

 

「「変身!」」『サイクロン・メタル!』

 

 

二人の体が銀と緑の球体となり猛スピードで笑い般若に突進を仕掛ける。

抵抗にと彼は長刀を振るうが光を切り裂く事はできずに光にはじかれてしまう。

そして背後で光球は合体、ダブルとなった二人はメタルシャフトを振り回す。

 

 

「ガガガガガガガ!!」

 

 

叩く、叩く! 叩く!!

風のエフェクトを纏いながら速いスピードでシャフトは笑い般若に叩き込まれる。

抵抗は許さない、笑い般若の長刀を弾き飛ばしてダブルはコンボを継続させる。

少し距離が離れた所で笑い般若は羽衣を伸ばしてきた。羽衣はシャフトに絡み付いて動きを止めようとさせるが――

 

 

『ルナァ!』『ルナ・メタル!』

 

 

色が変わると同時にメタルシャフトが鞭の様にしなり、逆に羽衣を絡め取る。

ダブルはシャフトを操り笑い般若を自分の眼前へ引き寄せると、メタルの拳で彼を捉えた。

衝撃と共に怯む笑い般若、ダブルは流れる様にルナのメモリを抜き取ると、それをメタルシャフトへと。

 

 

「幻想創生!」『ルナ! マキシマムドライブ!』

 

 

ダブルの両手にルナの力によって現れた、手を模した金色のオーラが手袋の如くかぶさる。

さらにオーラの手は巨大化、メタルシャフトを激しくあやとりの要素で変形させていく。

そして一瞬でタワーの形を完成させると、メタルシャフトに幻想のエネルギーが宿り、本当の塔に変わった。

 

 

「『クレアーレ・ルナティック!』」

 

「ゴガァァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

そして出来上がった塔を振るって笑い般若にブチ当てる!

相変わらず笑いながら地面を転がる笑い般若だが、そこに余裕は無い。

ガードを瞬時に行ったから一発は耐えたが、次は無理、彼はダブルの気迫に負けて退避の選択を取る。

ダブルに背を向けると、陽達の方向でもない場所へと跳んでいくではないか。

 

 

「ギッ! く、くそ!!」

 

「逃がすと思うのかなぁ? 馬鹿なヤツめ!」『トリガァ!』『ルナ・トリガー!』

 

 

追尾弾を放つダブル、それは笑い般若がどんな逃げ方をしても追いかけて着弾するのだろう。

しかし弾丸は彼に着弾する事はなかった、弾丸達はすべて切り裂かれ四散する。

 

 

「チッ! もう起きたのかい」

 

「フッ!」

 

 

その隙に笑い般若はもう見えなくなってしまう。

ダブルはみぞれに陽達を負わせると、相変わらずの様子で笑いかけた。

 

 

「君が強いんじゃ無くて、刀が強いんじゃないの? なーんてね! フフフ」

 

「否定はしない。七天夜に選ばれたのは実質俺でなく、村正だからな」

 

 

妖刀は強い、しかしその力に飲み込まれる事無く彼は立っている。

それは彼自身が強い事のなによりの証明。ダブルはパワータイプであるヒートメタルに変わると鬼河童とぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ! 数が多いな!」

 

「しかも倒しても次がすぐに生まれるみたいだ」

 

 

泥田坊が作り出す泥人間に龍騎達は囲まれていた。

泥と言う割には動きが遅いわけでもなく攻撃の威力もそれなりに高いと来た。

肝心の狂骨、泥田坊は少し高い所で座っているナメっぷり。だが龍騎達も決定打がいまいちたりない。

ブランウイング、ドラグレッダーや理の欠片で呼び寄せたオートバジンで援護をしてもらっている。

 

しかし無限に沸いてくる泥人間達には全く対処のしようが無かった。

狂骨にも親である泥田坊にも近づけない状況、おそらくその内体力が尽きてしまう。

ドラグレッダー達も時間が来れば消えるし、それ以上召喚を続ければ倒される可能性も出てくる。

オートバジンはまだ白澤からうけた雷撃の影響があるのか動きが少し鈍い。三人がそれを感じたとき、口を開いたのは狂骨だった。

 

 

「それは、お前達の状況と、同じ」

 

「何ッ!?」

 

 

たとえどんなに抗おうが結局雲を掴む様に状況は変わらない。いかなる過程を踏もうとも無限に終わることの無い戦い。

終わりは無い、どれだけ花嫁に近づこうとも最後はそれを掴みとる事無く終わるのだ。狂骨は鍵を見ながらそうつぶやく。

 

 

「ここで、終わりにしよう」

 

 

その言葉に泥田坊は頷き、力を解放させる。

するとなんと先ほどの倍はいるだろう泥人間を出現させて龍騎達に向かわせた。

 

 

「くっ!」

 

 

大群ともいえる人数が龍騎達めがけて走りだす。

抵抗しようとしていた龍騎達だったが、それはむなしく直ぐに泥人間達に覆われて見えなくなった。

まるで山の様に泥人間達は覆いかぶさって互いを連結させあう。文字通り山となった泥の塊。窒息か圧死で龍騎達はサヨナラだろう。

悲しいな、愛などと見えないもの掴もうとして空に帰る。

 

 

「どれだけ、花嫁に近づこうとも、お前達は追いつけない」

 

 

狂骨は部屋を出て行くために立ち上がろうと――

 

 

『ユナイトベント』

 

「?」

 

 

振り返る狂骨。

 

 

「アキラが逃げるなら、どこまでだって追いかけるだけだぜ」

 

「………」

 

 

見えたのは機械でできた龍、そしてバラバラに砕け散った泥の山だった。

龍騎はユナイトベントによってドラグレッダー、ブランウイング、そしてオートバジンを合成させた。

"オート・エクスワイダー"、新たに誕生した機械龍は文字通り機械の翼を広げて咆哮を上げた。

 

同時に翼がけたたましい音を上げる。機械音の先に待っていたのは、エクスワイダーの超射撃。

まるでそれはガトリングの様に赤い羽を発射する、それが泥人形に触れた瞬間Φのマークが浮かびあがり泥人間は元の砂に変わった。

一撃で消滅する泥人間、これならばいくら湧いてこようが対処はできると言うものだ。狂骨はそれを無言で確認する。

 

 

「!」

 

 

そこにフワリと白い羽が散る、エクスワイダーから跳んだのはファム。

彼女は狂骨に向かってあるものを見せ付けた。

 

 

「これなーんだ?」

 

「!」

 

 

それは自分が預かった鍵じゃないか!

ファムが持っていたのはアキラに繋がる部屋の鍵。

そんな馬鹿な!? 流石の狂骨もそれには焦り、すぐに自分が預かった筈の鍵を取り出してみる。

 

 

「ッ?」

 

 

何もおかしな点はない、すりかえられたと思ったがどうやらそうではないようだ。

ならば何故ファムが鍵を持っている!?

 

 

『アクセルベント』

 

 

それは一瞬だった、狂骨の手から鍵が消えたのだ。

そして背後にはファム、彼女が持っているのは二つの鍵。

 

 

「マジちょろなんですけどぉ!」

 

 

そう言ってファムは笑う。

仮面で顔が隠れているにも関わらず、狂骨にはそのしてやったりと言う顔が容易に想像できた。

 

 

「何を……した?」

 

 

ファムはその言葉を聞いて一つの鍵を振るう、すると鍵はカードに変わった。

コピーベント、ファムはそれを使って鍵をコピーしたのだ。そして本物を確かめるために狂骨が取り出した本物をいただいたと言うわけだ。

すぐに奪われた鍵を取り返すためファムを追いかけようとするが、クリアーベントで消えただけでなくファムは手鏡を使って部屋を出て行ってしまった。

もちろん狂骨にも泥田坊にもミラーワールドに向かう術はない。戦いと言うカテゴリならば分からないが、勝負と言うカテゴリならば完全にファムの勝利だった。

 

 

「鍵はもらったぜ、狂骨!」

 

「ク……ッ!!」

 

 

やられた! 狂骨は自分の失態を強く嘆く。

こうなればもう自分に残された道はただ一つ、ミスを少しでも補う為に侵入者二人を殺すしかない。

泥田坊と狂骨は龍騎とファイズのところへ降り立ち走りだした。これ以上の失敗は許されない。

 

 

「ォオオオオオオオオオ!!」

 

 

泥田坊はファイズに向かって殴りかかる。

泥人間はエクスワイダーがいるおかげで意味の無いものとなる。

今はカードに戻っているがいつでも発動できる状態にあるのだろう。

 

だが泥田坊の実力はそれが本質ではない、彼は泥人間を作る泥を自分の強化に回す。

腕が泥によって肥大化し、そこから繰り出される一撃は相当の威力を持つだろう。

ファイズは防御ではなく回避行動を中心に泥田坊に立ち回る。

攻撃は遅いわけではないがそこから生まれる隙は大きい、ファイズはすぐにそこを狙いパンチを繰り出す。

 

 

「!」

 

 

しかしその拳は効いているのか全く分からない程泥田坊はノーリアクションだった。

殴った感触も硬いだけで効いているのか分からない。攻撃に意味があるのか聞きたいところだ。

ファイズは期待を込めてショットにメモリをセットする。

 

 

『Exceed Charge』

 

 

思い切り踏み込んで殴る。しかし――

 

 

「あ、あはは……」

 

 

泥田坊が怯む事は無かった。

おまけにΦのマークすらでない、相変わらず無言で泥田坊は腕を振るった。

彼自身多くの泥で覆われているため表情すら分からない始末。半ば自信があっただけにファイズの反応は遅れてしまう。

 

 

「グッ!!」

 

 

装甲なんて意味ないんじゃないかと思うほど強い衝撃がファイズに襲い掛かった。

うずくまると同時にもう一撃、倒れた後にもう一撃。計三回の攻撃を受けてファイズは泥田坊に持ち上げられる。

先ほどの言葉を聴くに彼らは自分たちを殺す気でいる。だからこんなに力を込めているのか、息ができなくなるほど苦しい。

 

だがファイズは冷静だ。

呼吸が止まる中でベルトからファイズフォンを取り外す。そしてそれを銃に変えると泥田坊の頭部へ押し当てた。

 

 

「!」

 

 

射撃、しかしノーリアクション。

なんとなくそんな気がしていたが少しくらいは力を緩めてほしいものだ。

龍騎の方を見てみると自分を助けようとしてくれている様だが狂骨がそれを許してはくれない様。

髪の毛を鞭に変えて龍騎に激しい攻撃をしかけている。オートバジンを呼ぶには合体を解除する必要がある。

それだと再び泥人間を出されてしまい詰みとなる。つまりオートバジンも呼ぶ事はできない。

 

抵抗は苦し紛れにしかけてみる、締め上げる手を掴んで何とか緩めようと試してみた。

一応少しは力が緩んで呼吸が数秒だけ確保できたが、再び力を込められてしまい後はどうしようもなかった。

苦しい、やばいかもしれない。何かこういう時に限って昔の事とか思い出してくるよね――

なんて、思ったり。

 

昔の事、ほんの少し前に妖怪横丁でゼノンからかけられた言葉がフラッシュバックしてきた。

作戦が決まってみんな出発まで待機していた時、拓真はゼノンの隣にいた事もあってか彼に話しかけられる。

 

 

「ファイズ。君は自分の試練の後、本気で戦った事があるかい?」

 

「え?」

 

 

拓真はその言葉に複雑な表情を浮かべた。

もちろんそれをゼノンが見逃さない訳はない、その表情が何よりの答えだと彼は悟った様だ。

拓真は何も言わなかったが、ゼノンにはそれで十分だった様だ。

 

 

「本気を出していると思っても、そうじゃないのかなって思う時は確かにあるよ。特に――その……」

 

「人型と戦う時かい?」

 

「うん……最初に思ったのはオーディンさんと戦った時だったよ」

 

 

アクセルクリムゾンスマッシュを奇襲で打ち込む時、初めてその違和感に襲われた。

ハイドラグーンの時はなんとも思わなかったが、オーディンをいざ蹴ると言う時に強烈な違和感が自分を襲った。

一言でいうなれば躊躇、本当に攻撃していいのだろうか? そんな気持ちが自分の中で生まれた。罪悪感か、恐怖か、それは分からない。

しかしその違和感に包まれたのは事実だ。できるなら攻撃したくないと感じた、しかしそんな事も言っていられない。

 

違和感は一瞬だったのでそれを振り切って拓真は気にする事無く蹴りを打ち込んだ。

そして次の世界からその違和感はほぼ常に感じる事になった、違和感が強すぎて戦いに影響がある。

と言う訳では無いから戦闘状況が左右されると感じた事は一度も無かった。しかし違和感、胸に感じるしこりみたいな物は消える事は無い。

それを翼達に相談しようとした時は何度とあった、しかしいざ話そうとするとどうもうまく話せない。

と言うより話しちゃいけない気がしてずっと今まで黙っていたのだ。

 

 

「………」

 

 

ゼノンは頷くと、やっぱりかと言う表情を浮かべた。

彼は今まで拓真だけでなくほぼ全員の戦いを観察していた。そして見抜いた、彼が抱えている違和感。

それはやはり、人の宿命か。

 

 

「もう、それを君は理解しているんだろう?」

 

 

拓真は頷く。

違和感を少しずつ理解していたのだ。

 

 

「ねえゼノンくん……僕は、ううん、皆はやっぱり――」

 

「………」

 

「人を、"殺した"のかな?」

 

 

例えば司と椿は道化師をブレイドの試練で倒した。真志は司と一緒にオーディンを倒した。

それはもちろん自分にだって言える事だ、クラウンオルフェノクやダークローチ達を倒した事もある。

それが、どこかで引っかかっていたのかもしれない。一番それを感じるのは道化師やエルザドル。

椿と司、亘には悪いが姿は人と違えど普通に立って話せる者だったのだ。

それが爆発して死んだ、ならやはりそれは倒した彼らが殺した事になるのか?

 

 

「そうだね、それは一番難しい事だと思うよ。本当にね」

 

「よく――」

 

 

例えばゲームで、それはRPGでもアクションでもなんでもいい。

主人公が敵を倒すと言う当たり前のイベントを終える。今までいた敵のアイコンが消えて、次のイベントが進む。

例えばそれがボスや重要なキャラクターなら続きがあるのかもしれない。

 

だけどモブのキャラクターだったら、それは即終了する。

拓真は気になっていた、その消えた敵キャラクターは死んだのか? それとも気絶させられて終わったのだろうかと。

主人公達は次のイベントで普通にギャグシーンが入ったりする。それは敵を殺した後でそれをしているのだろうか?

それとも気絶させたからそうしているのだろうか?

 

 

「みたいな事が気になっちゃって、いまいち楽しんだ事がないんだよね」

 

「ふぅん、君はずいぶん損な性格だねぇ。そんなんじゃ人生楽しめないよ」

 

「……かもね」

 

 

だけど、それを目の当たりにして少し怯んでしまったのかもしれない。

道化師は爆発して消えた、それはやはり死んだと言う事なのだろうか?

 

 

「じゃあ、つまり君はブレイドやディケイドが人を殺す事に対して恐れがなさすぎると?」

 

「そ、そうじゃないよ……!」

 

「まあ尤も、彼らのおつむじゃ君の様に深く考えてはいないかもね」

 

 

拓真は恐れていた、戦いは命を賭けるものだ。それで相手の命を奪う事になるのは当然の事。

しかしそれが彼にはやはり怖かったのだ、たとえそれが人じゃなくても。人と同じように話し、立ち振る舞うのならそれは人と何が違うと言うのか。

 

 

「人を殺した後に、大笑いできる強さを」

 

「……ッ?」

 

 

その言葉の意味が分からずに拓真は息を呑む。

なにやら物騒な事を言ってゼノンは笑っているが――?

 

 

「物騒で残酷な言葉だろう? でも、これが君たちには必要になる」

 

「!」

 

「もちろん、人を殺すってのはある程度比喩してある言葉さ」

 

 

しかしそれは極論でそうなってくると言う話。

要は道化師みたいに人に近い異形を倒す事にやさしさを持ってはいけない。

優しさ、弱さ、甘え、その紙一重の存在を。

 

 

「ファイズ、君は少し優しすぎる。尤もそれは君の講師が補正をかけなかったってのもあるけどね」

 

「?」

 

「ああいや、こっちの話さ。いいかい? 例えば……そう――」

 

 

ゼノンは言う。

例えば一人の主人公がいる。そして一人のヒロインがいる。

仲間は五人。計七人の主な登場人物が中心のストーリーだ。

 

ゼノンはそれだけ言うと、その話がどんな内容なのか、キャラクターがどういう人物なのか、そんな大事な事を全て省略。

そしていきなり結末の話をし始めた。

 

 

「エンディングは二つ。まずは一つ目――」

 

 

ラスボスと戦うまでには多くの罠や強敵が待ち受けており、途中で仲間は一人ずつ死んでいく。

それも残酷に。そしてラスボスとの戦闘中にヒロインが主人公をかばって殺される。

どんな死に方? どうしようか、じゃあ頭を吹き飛ばされるって事で。

 

しかしそれで主人公は覚醒、ラスボスを倒して世界は無事に救われる。

死んだのは名前も無い様な敵、仲間五人、そしてヒロインだ。

ヒロインは主人公に片思いしているけど思いを伝えられないまま終わり。

 

 

「もう一つのエンディングは、そうだね……じゃあこうしよう」

 

 

ラスボスに行くまでには強敵や多くの罠がある。だが皆は協力し合ってそれを乗り越えるんだ。

そしてラスボスまで仲間全員で到達、ヒロインは途中主人公をかばうけど仲間たちの助けで死なない。

だけど、ここでラスボスの仕掛けた世界破壊計画が発動してしまう。ああ、この計画を止める為に皆戦ってるって設定ね。

 

まあとにかくそれが発動しちゃうんだ。なんとか未完全だったから世界は滅びこそはしなかった。でも、それで何千万って人が死ぬ。

それに怒った主人公達が覚醒、ラスボスを倒す。世界は多くの犠牲を払ったけど主人公もヒロインも仲間も皆生きてる。

死んだのはラスボスと、敵、そして何千万の名前もないモブキャラ。彼らがどういう死に方をしたのかは書いてない。

ただ一文だけ死んだって情報が知らされただけ、ラストでは主人公とヒロインが想いを伝え合って仲間たちと笑い合って終わる。

 

 

「ファイズ。いや拓真、君は今の二つのエンディング。どちらがハッピーエンドだと思う?」

 

「………ッ」

 

 

それは自分の感じる違和感と何か関係があるのだろうか?

しかしゼノンの言われた二つのエンディングならばやはり、それは……

 

 

「やはりその二つなら、ほとんどの人間が後者ととるだろう」

 

 

多くが死んでしまう後者であったとしても、馴染み深い仲間達が生き残り幸せに終わるエンディングを選ぶ筈だ。

自分も多くの人間が死ぬと言う事実に今まで感じていた違和感と同質のものを覚えるが、それでも自分が見るなら後者がいいと思う。

 

 

「うん、ボクもそう思うよ」

 

 

じゃあと、またゼノンは笑いかける。

 

 

「もう一度似たような事をしよう」

 

 

でも普通にするにはつまらないな。

じゃあこうしよう、主人公は君だ。ヒロインは……そうだね、デルタでいい。

仲間は同じで五人、これも君の友人を適当に当てはめてくれ。

 

 

「え……えぇ?」

 

 

いきなりそんな事言われても……。

しかしゼノンが急かしてくるので拓真は結局言われた通りにする。

友達は五人までだが取り合えず司達を当てはめていく。

 

 

「ストーリーはまた省略するよ、って言うかどうでもいいんだよね実際」

 

「う……うん」

 

「その物語の結末はね、主人公もヒロインも、仲間も皆死んで終わり」

 

「え?」

 

「さっきのやつとは設定変わってるよ」

 

 

敵ももちろん一人残らず死ぬ。

主人公も、ヒロインも、仲間はもちろん。その家族、その友達、冒険を助けてくれた人、全部死ぬ。

主人公には妹がいて、その妹は死にたくないと泣き叫びながら死んでいく。

 

仲間の一人は結婚していて、奥さんはお腹の赤ちゃんと一緒に夫の前で死ぬ。

夫は狂いながらもやっぱり死んでいく。どういう死に方? どうだっていいよ、じゃあ酷いのにしようか。

グロいの大丈夫だっけ?

 

 

「も、もういいよぉ……!」

 

 

涙を浮かべて拓真はゼノンの言葉を遮った。

うぅ、当てはめろなんて言うからつい想像してしまったじゃないか。

ごめん友里ちゃん司君……拓真は心の中で謝罪を行う。そんな様子にゼノンはクスクスと笑って見せた。

 

 

「それで終わりさ、皆死んでその物語は打ち切られる」

 

「そんなの流石に嫌だなぁ、他のエンディングは?」

 

「無いよ」

 

「え?」

 

 

エンディングはその一つだけ。

拓真は複雑に呻く、そんなお話誰が得をするんだ? 誰が見たいと思うんだろう?

ココまでくると流石にもう理解できない。ハッピーエンドではもちろん無いし、バッドエンドにしても投げやりすぎやしないか?

もうそこまでくるとお話としても成り立ってくるのかどうか怪しいものだ。

 

 

「こんなエンディング嫌だろ?」

 

「あ、当たり前じゃないか」

 

「ボクも、そう思うよ……」

 

 

先ほどと同じようにゼノンは笑いかける。そして同じように言葉を付け足した。

 

 

「これが、さっき言った世界破壊計画に巻き込まれた数千万人の末路さ」

 

「!」

 

 

それは、その言葉が意味するのはつまり――

 

 

「そう、はじめに言った物語のハッピーエンド。主人公やヒロインは助かるけど、モブが数千万人死ぬ。今君に当てはめてもらった物語のキャラはその数千万人に入っていたと言う事」

 

 

驚きとショックで言葉を失う拓真に、ゼノンは追撃の様に言葉を加えていく。

これを知って尚、君は後者のエンディングをハッピーエンドと言うのかい? それを言われて当然拓真は押し黙る。

分からない、分かるわけ無い。そんなのもはやハッピーエンドなんて無いんじゃないか? そもそも誰を主人公とすればいいのかで変わってくるじゃないか。

 

 

「誰に、何にスポットライトを当てるかによって観測者はその判定を容易に変更する」

 

「?」

 

 

意味が分からない、彼は何が言いたいんだ?

 

 

「まあ実際こんな状況になるお話しなんてのは無いだろうけどね、物語をみる時は既に完成されたものを見るんだから」

 

 

確かに、拓真は首を振る。だけどゼノンは首を振る。

 

 

「だけど君は選ばなければいけないんだ、君はもう観測者ではない。物語の中にいる登場人物なんだから」

 

 

ならばどちらのエンディングを選ぶのか。

答えはもう一つしかありえない。そこに考える時間も無くていい、最初から一つ。

もしも先ほどの話が続きならば。つまり拓真がその数千万人の中に入っていたのなら――

 

 

「君が選ぶ……選ばなければならない答えはただ一つ、前者のエンディングだ」

 

 

世界は救われるが、世界を守る為に戦った人たちはほとんど死んでしまうと言うもの。

それを選ばなければ自分たちが死ぬと言う事か。

 

 

「その選択肢を選べる強さ、それがボクがさっき言った人を殺した後に大笑いできる強さの一つと言う訳だよ」

 

「………」

 

「君たちは観測者であり、同時に登場人物でもある」

 

 

今はまだボクが言っている事はほとんど理解できない事だとは思う。

だけど君はそんな事ですら深く考えてしまう様だ。ましてそこに優しさと甘さ、弱さが加わってしまうのだからたちが悪い。

 

 

「ディケイドやブレイド、龍騎達はアホだけど前者のエンディングを選ぶだけの強さを持っている」

 

「………」

 

「だから彼らは胸に痛みを追いながらも道化師みたいな敵を倒せる。殺せるのさ、もちろんその後に笑う事だってできるだろう」

 

 

いや、もしかしたらそこは割り切って罪悪感すら感じてないかもしれない。

または特に考えても無いのかもしれない。敵をただ敵とだけ認識して倒せばハイ終わりってね。

 

 

「でも、その方がボクは君の悩みよりは余程いいと思うけどね」

 

「僕には……難しすぎるよ。君が何を言っているのか、まだよく分からないんだ」

 

「ま、それでいいよ。理解しても理解できないと思うし」

 

 

だけど、選ばなければならい時はやってくる。それも必ず。

しかもだ、今からやろうとしている事は全てを救うと言う事。

 

つまり今までの話でいうのなら前者のエンディングと後者のエンディングのいい所だけを合体させると言う事になる。

全てを救う? それは並大抵の覚悟と実力では成しえる事はできないだろう。

しかももっと言ってしまえば全てを救うとは言っているが、その中でも必ず命が消える者は出てくる。

 

 

「ざっと考えるなら、邪神の使いとか邪神とか。そこらへんはどうあっても死ぬだろうね。アキラを助けたいのなら」

 

 

邪神はともかく邪神の使いは言葉を放ち、二本足で立っているのは確定している。つまり人に限りなく近い存在と言う事だ。

それでも邪神を倒さなければ、殺さなければアキラは絶対に助けられない。拓真が殺さなくても仲間の誰かが殺すだろう。

 

 

「……"司"達は選ぶだろうね、邪神の使いが人間にどれだけ近い存在でも。もしかしたら人間でも」

 

「………」

 

「それが強さなのかは分からない、でも必要かと言われればそうだろう」

 

 

長くなってしまったね、ゼノンは軽く謝罪すると結論だけを述べる事とする。

要はごく簡単な話だ。

 

 

「ファイズ、君が敵を傷つけると言う事に抵抗を感じる事は悪い事じゃない。しかし天美アキラを助けるにはその違和感を超えなければ不可能だろう」

 

「――ッ」

 

「これでもセーブっていう不殺機能を与えてあげてるんだ。十分良い環境にあるんだよ? 君達はね」

 

 

本当ならもっと難易度は高かった。

感謝してもらいたいものだ、ゼノンはそう言って帽子に息を吹きかける。

 

 

「残念だけど、もう君は普通の人間じゃないんだ。戦わなければならない、それがたとえ辛くても怖くても。巻き込んでおいて申し訳ないけど、逃げられないんだから」

 

「……逃げられない」

 

「ああ、そうだね。言ってしまえば、戦う事その物が罪みたいなもんさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が鮮明になる。

ゼノンに言われた言葉がフラッシュバックして拓真の心を大きく揺らした。

ゼノンは、彼は言った。戦う事が罪なのだと。そして自分にそれを背負う覚悟はあるのかと――

 

 

(ゼノン君……僕は――)

 

 

戦わなければアキラは救えない、戦えば誰かが傷つく。全てを救う上で犠牲になる命。

 

 

(僕はそれでも――)

 

 

全てを救える道があるのなら、そこを迷わずに歩きたい。

その上で犠牲になる命が戦いで生まれるとしても。そしてそれが罪ならば――

 

 

「!」

 

 

泥田坊の動きが一瞬だけ戸惑う様に止まる。

何故ならば拓真が変身をいきなり解除したからだ。何故自分から危険な状況をつくるのか?

そして何故変身を解除したのに、ファイズの時とほぼ同じ力で抵抗を続けられるのか? それだけだ。

 

 

「!?」

 

 

泥田坊の目に映る黒い羽、それを確認した時にはもう自分は地面を見ていた。

泥でできた体、しかし今は大切な足と言うものが存在していなかった。

 

正確に言えば足は存在している。

しかし足は胴体と離れている、つまりは何者かに足を切断されたと言う事。

泥でできた体は衝撃には強いが他の外的刺激には弱かったりする。だから泥田坊自身としてはこれは珍しい事ではないし痛みと言う痛みも無い。

 

しかし、今自分の足を切断した存在には全く詳細がつかめないでいた。

自分は先ほどまで犬養拓真と言う人間を掴んでいた筈だ、しかし彼はもうどこにもいない。

そんな事を思えば次は手が破壊される。

 

 

「―――ッ」

 

 

鋭利な翼、それが自分の体を壊したのだ。

泥田坊はすぐに手と足を再生させて黒い羽の主と対峙する。

空中で翼を広げているのは白と黒しかない化け物。真っ黒な翼を広げてコチラをみている。

 

名は"クロウオルフェノク"、拓真が力の代償にて手入れた力だった。

泥田坊はクロウが何者なのか分からないでいたが、彼が持っているファイズギアを見てそれが拓真だと言う事を理解する。

 

 

「戦う事は罪――」

 

 

傷つけずに終わらせる事は不可能。ならば、その事から逃げてはいけない。

 

 

「ッ! お前達、人間、ではないのか!?」

 

 

龍騎と戦っていた狂骨もこれには驚きを隠せない様だ。

彼らにとってこの世界にいる存在は大きく分ければ人間か妖怪の二つだけ。

つまり拓真は妖怪だったのか? 泥田坊も狂骨も驚きで一瞬動きが止まってしまった。

 

 

「人間さ!」

 

「!」

 

 

走る衝撃、狂骨を掴むのは龍騎。

 

 

「オレと同じな!」『ストライクベント』

 

「ぐああああああッ!!」

 

 

ドラグクローが狂骨の体に叩き込まれる。

攻撃力もスピードも優れた狂骨だが、その体故か防御力は低い様だ。

距離が離れ、龍騎は追撃の炎弾をドラグクローから発射する。しかし狂骨はすばやく鞭を振り回して炎を分散させた。

 

 

「!」

 

 

クロウはその瞬間ある事を確認する。

自分が切断した泥田坊の腕が先ほど跡形も無く消し飛んだ。それはつまり――

 

 

「真志くんッ!」

 

 

クロウはすぐにその翼を広げて龍騎の元へ移動する。

そして素早くある情報を伝えた。龍騎は頷くとすぐにクロウに作戦を伝えた。

それを阻止しようと走りだす狂骨だったが、クロウは素早く羽を散らしてそれを妨害させる。

 

瑠璃姫が使っていた様に、羽に強力な衝撃を発生させる効果があるらしい。

狂骨が弾き飛ばされている間に二人の話は終わったようだ。

クロウは変身を解除して拓真に戻ると、再びファイズギアを装着する。そしてファイズフォンを構えて言った。

 

 

「真志君……戦う事が罪だとしたら――真志君はどうする?」

 

「………」

 

 

龍騎は少しだけ沈黙したが、すぐに拓真の方を向いて答えを示す。

仮面で隠れているにもかかわらず強い視線を感じた。

 

 

「戦うさ、そうじゃないと守れないし、生き残れないんだから」

 

「……そうだね」『5』『5』『5』『Standing by』

 

 

再び構えなおす狂骨と泥田坊。

今はまだ自分自身迷いの中にいるのかもしれない、しかし戦う事の重さからはもう逃げられないんだ。

戦う事が罪ならば――

 

 

「僕は、それを背負って見せるよ――ッ」『Complete』

 

 

まばゆい光が辺りを包み、その中からファイズが姿を現す。

アキラの夢を、皆の思いを守るために戦おう。それが罪ならば、背負ってみせる。

 

 

『Complete』

 

 

必ず!

 

 

『Start Up』

 

 

消えるファイズ、驚く狂骨達。

そして気がつけば既にファイズはグランインパクトを泥田坊に叩き込んでいる所だった。

一発だけならば泥田坊の防御力には勝てないだろう、しかし今のファイズはアクセルフォーム。

通常のグランインパクトとは速度と威力の両方が違う。連続で打ち込まれる必殺技に、流石の泥田坊も耐えれる範囲を超えてしまう。

ファイズに打ち込まれ続け、泥田坊はなすすべなく押され、そして空中に打ち上げられた。

 

 

『リミッツベント』

 

「!」

 

 

狂骨は再び龍騎に攻撃をしかけたが、彼の複眼が光ったと思えば一気に形成が逆転されてしまう。

龍騎は狂骨を持ち上げると思い切り投げ飛ばす!

 

 

「!」

 

「!」

 

 

泥田坊と狂骨は互いに空中に放り出されてしまった。

地上では龍騎がストライクベントを構え、同じく空中ではファイズがポインターをセットしていた。

アクセルは終了したがこのダメージではやられる可能性が高い。泥田坊はファイズの動きに全身系を集中させる。

 

同じく狂骨も防御ではなく回避を選択した。龍騎の周りにはドラグレッダーが咆哮を上げながら旋回している。

先ほどの力といい、今現在全身が発光していると言うのを考えるとおそらく大幅な強化がなされている筈だろう。

ならば防御は逆に危険、打ち破られれば自分の防御力では即終わりなのだから。

 

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「ヤァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

昇竜突破とポインターが同時に発射される。

これが決まれば勝負は決するだろうが――しかし、彼らもまた鍵を任された妖怪。

只者ではないのだ。

 

 

「「!」」

 

 

狂骨と泥田坊は空中にもかかわらず最小の動きだけで二つの攻撃をかわして見せた。

ファイズと龍騎も流石にこれには――

 

 

「かかったな!」

 

「何ッ!?」

 

「僕たちは一人で戦ってるんじゃないんだ!」

 

「!」

 

 

泥田坊は背中に熱を感じ、狂骨は背中に光を感じた。

まさか、まさかこいつ等――ッッ!! そう言う事かッ!

狂骨は理解して後ろを見る。するとやはり自分の眼前に迫るポインターを確認できた。

 

龍騎もファイズも本当の狙いは目の前にいた自分たちではなく、その向こう側にいた自分たちだったのだ。

つまりファイズが狙っていたのは狂骨、そして龍騎は泥田坊に狙いを定めていたという事。

 

 

「泥田坊さんの破片に真志君の炎がぶつかった時、破片が粉々に砕けたんだ。それで分かった、泥田坊さんの弱点が炎だって事を!」

 

「狂骨! 防御力の低いお前がエネルギーを直接ぶち込まれる拓真の技を受ければ……そこに耐えられる可能性はねぇッ!!」

 

「「ッ!」」

 

 

その言葉通り、炎弾を受けた泥田坊は簡単に吹き飛び動きを止める。

そして狂骨に展開されたポインターの中をファイズが飛び込んだ。

クリムゾンスマッシュが直撃してΦのマークと共に狂骨の意識も吹き飛ぶ。

 

 

「ガ――……ッ!」

 

 

倒れる狂骨、完全な敗北だった。

 

 

「やったな拓真!」

 

「うん。鍵も美歩ちゃんが――……」

 

 

そこでふと龍騎の方に光る糸が見えた。

何だこれ? 拓真がそう思うと――

 

 

「う、うおおおおおおおおおおおッ!?」

 

「!?」

 

 

急に龍騎が空中に舞い上がり姿を消す。

何だ!? ファイズが上を見上げるとそこには龍騎が必死にもがいている姿が見えた。

何かに吊られている様だ、では何に?

 

 

「ずいぶんと派手にやってくれた様だな」

 

「ッ! お前――ッ!!」

 

 

美しい青年、だがしかし下半身は巨大な蜘蛛になっている。

妖怪・土ぐも、彼は龍騎に狙いを定めた様だ。今の二人は戦闘後で疲労している、そこを彼は狙ったのだった。

ファイズはすぐに土ぐもを追おうとするが――

 

 

「!!」

 

 

気配を感じて振り返ると先ほど倒したはずの泥田坊が両手を振り上げているところだった。

なんとかそれを転がって交わすファイズ。そして目の前にいるのは泥田坊、一瞬で回りこまれたのか? そう感じるファイズだがすぐに理解する。

泥田坊は二体今ココに存在しているのだ。いや、違う! 三体、四体!

 

 

「そんなッ!!」

 

 

泥田坊がどんどん増えていくではないか!

客席には泥人間ではなく親玉である泥田坊で埋まってきている。

何故!? 倒した筈では――? 

 

 

「まさか、やられるとは思いませんでしたぞ」

 

「ッ!?」

 

 

客席から声が聞こえてファイズはそこを見る。

すると無数の泥田坊の中に一人だけ茶色いスーツを着た老人が座っていた。

 

否、彼こそが本当の泥田坊なのだ。

今までの泥人間や、ファイズが戦っていた泥田坊は全て彼の傀儡でしかない。

本当の彼は見た目こそ人間となんら変わりない老紳士。

 

 

「わしも、本気でそなたを潰さなければならないようだ」

 

 

まさか本気じゃなかったなんて、ファイズは恐怖を感じた。

龍騎は既に土ぐもに連れ去られてしまい、合体の効果も解除されたのかオートバジンだけは自分の元に戻ってきてくれた。

だが相手は二十を超える泥田坊、本体は客席で余裕の雰囲気をかもしだしている。

 

アクセルフォームはまだ使えない、オルフェノクの奇襲も既に見せてしまった。

そんな状況下でココを突破しなければならないのか?

 

何とか泥田坊を受け流して扉から脱出しようとも考えたが、本体は既に扉の周りに泥を固めてロックしている状態だ。

おそらく本体を倒さなければこの部屋からは出られないのだろう。

 

 

「………ッ!」

 

 

勝てるのか?

絶大な焦りの中でファイズは一歩足を踏み出したのだった。

 





キョーダインはともかくとして、他のイナズマンとかキカイダーもどっちかっていうと悪役っぽいリメイクになるよね。
まあそっちの方がテーマとしては合っているちゃそうなんだけど。

はい、じゃあ次はたぶん木曜か金曜辺り。
ではでは
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