仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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目覚ましセットしたら、だいたい目覚まし鳴らす五分前くらいに眼が自然に覚める現象。
あれハイパークロックアップって呼んでます。


第48話 疾風迅雷

 

「うぉおおおおおぉぉぉ……ッ!」

 

 

全身に受けた炎を消す為にブレイドは地面を転がる。熱が引いて一安心だが危険なのは変わらなかった。

同じようにしてクウガが炎に包まれて吹き飛んでくる。壁にたたきつけられた彼は苦痛の声を上げて地面へと伏した。

かき消す程の気力がなかったか、しばらくは赤い炎がクウガの周りを張り付くようにして燃え続ける。

 

 

「フフフ、そんな物なの?」

 

「チッ!」

 

 

鍵を手に入れる為に七天夜である妖狐と戦っているブレイドとクウガ。しかし当然か、彼女は強かった。

化け提灯が照らす薄暗い空間の中で彼女は目を、髪を怪しく光らせてクスクスと笑っている。そしてそれは仲間である化け提灯もだ。

彼は戦いが始まってから一度も攻撃、移動、防御をしていない。つまり妖狐一人でブレイドとクウガは押されていると言う事。

 

 

「……くそッ!」

 

 

ブレイラウザーを展開させてカードを探すブレイド、しかし使えるカードは再構築が早いものばかりだった。

なかなかカードが再構築されないばかりか体が鈍い様に感じるのだ。うまく動けないと、ブレイドとクウガは焦りを抱く。

いい訳に聞こえるかもしれないが、かなり調子が悪い。いつもと何かが違う。

 

 

「こないならコッチから行かせてもらうわよッ!」

 

「ッ!!」

 

 

妖狐の毛先には炎が宿り、毛の束が9本に分かれている。

まさに九尾の象徴であるそれ、彼女はそうやって炎をブレイド達に向けて発射。

九つの炎弾を確認できたが交わすことも防御する事もできずに二人はそれを正面から受けてしまう。

 

 

「うグッ!!」

 

「ッ!」

 

 

さらに着弾後は炎がしばらく燃え続け、ダメージが蓄積されていく。

少し引っかかる点はあったが迷っている暇は無い、ブレイドはジャックのカードを発動してジャックフォームへと姿を変えた。

再構築が可能なカードは全て復活して、ブレイドはその中からサンダー、キック、マッハのカードを抜き出して発動する。

 

 

『マッハ』『キック』『サンダー』【ライトニング・ソニック】

 

「ウェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

高速から放たれるのは電撃を纏ったキック。

それはなんの障害なく妖狐に命中してその姿を消滅させる。

やったのか? 一瞬そう安心するが、そう甘いものでもないらしい。

ブレイドをいつのまにか囲んでいたのは八人の妖狐、どうやら分身を発動していた様だ。

そして自分が倒したと思っていたのはフェイクの一体、ただの偽物である。

 

 

「うぉ!」

 

「フフフ、残念でした!」

 

 

妖狐達は一勢に扇を構えて、それを投げた。

八つの扇の内本物は一つ、ブレイドは剣を振り回すがどうやら本物をはじく事はできなかったらしい。

妖狐の扇がブレイドの装甲から火花を散らせる。衝撃でひざを着くブレイド、そこへさらに炎が襲い掛かった。

ジャックフォームで強化されたブレイドの鎧も妖狐の炎を耐え切る事はできなかった様だ、炎に包まれて彼は地面に伏せる。

 

 

「だ……大丈夫か椿――ッ!」

 

『ユウスケ……平気なのッ?』

 

 

よろよろと立ち上がるクウガ。おかしい、いくらなんでも疲労感が尋常じゃないくらい溜まってきている気がする。

拳に力が入らない、そしてもちろん移動に関してもそうだ。歩くだけで疲れる気が――

少なくともそれは違和感を感じる程に。

 

 

「!」

 

 

妖狐がコチラに向けて火の玉を発射。

マイティでは耐えられなかったが、まだ彼にはフォームチェンジと言う武器がある。

クウガはすぐにタイタンフォームへと――……

 

 

「!?」

 

 

クウガはそのまま炎弾を体で受け止めてしまう。

もちろん耐えれない事くらい分かっている、クウガはそのまま地面へ倒れてしまった。

心配そうに声をかける薫、何故タイタンに変わらなかったのか? 彼女の言葉にクウガは答えの代わりに妖狐を指差した。

 

 

「何か……何かしたなッ!」

 

「………」

 

 

ニヤリと笑う妖狐、それでクウガは確信する。

先ほど自分はタイタンフォームに確かに変わろうと力を込めた、しかし事実今自分は変わっていない。

いや違う、変われなかったのだ。超変身を封じられた? だとしたらそれは妖狐が関わっているに違いないとクウガは言う。

 

 

「クソッ! 何したんだよッ!」『スラッシュ』

 

 

ブレイドは飛翔しながら妖狐に切りかかった。

彼もまたその疲労感は感じていた事、現に飛ぶだけで疲れるし剣もうまく振るえない。

結果、力も入らないと言う事もありブレイラウザーは妖狐の扇にいとも簡単にはじかれてしまった。

妖狐は髪を伸ばしてブレイドをキャッチ、そのまま二、三回振り回した後に壁へと叩きつける。

 

 

「いってぇ……ッ」

 

「あらあら、仕方ないわね――」

 

 

倒れる二人が哀れに見えたのか、妖狐は笑いながらもどういう事なのかを説明してみせた。

それは簡単だ、三人が自分の仕掛けた幻術に惑っている間に妖狐はブレイド達の力を吸い取っていたのだ。

おかげでクウガは超変身が行えない程疲労していて、ブレイドはカードの再構築時間が極端に長くなっていると言う訳。

力もスピードも半分以下と言ってもいいかもしれない、それほどまでに今のクウガとブレイドは弱体化していた。

 

 

『マスター、それだけじゃない様です』

 

「ッ?」

 

 

話を聞いていたジャックはブレイドにその事を告げる。確かにブレイド達は疲労感から弱体化しているだろう。

しかし今現在、攻撃や防御、移動等に使うエネルギーの消費量が多すぎる気がしてならないのだ。

おそらく、今現在も何らかの方法で妖狐はブレイド達の力を吸い取っているのではないか? それがジャックの意見だった。

 

 

『なるほどな……ッッ』

 

 

ブレイドはすぐに何かおかしな物が無いかを見回してみる。

一見、薄暗い空間だが特におかしな物は無い様に思える空間。

ならば妖狐の能力が今現在も発動しているのだろうか? 可能性は高い、今はクウガを相手に余裕の笑みを浮かべている。

ならばやはり彼女がいまも吸い取る系統の技を――?

 

 

『マスター、あれを!』

 

『?』

 

 

クイーンに指示された所には化け提灯、彼はなにやらしきりに口をパクパクと動かしていた。

まるで何かを食べているかの様に。

 

そうか! あいつか!!

ブレイドは化け提灯が今現在も自分たちの力を吸い取っている装置だと確信する。

幸い今は妖狐はクウガと交戦中だ。ならば仕掛けるには絶好のタイミング! ブレイドは早速マッハのカードを――

 

 

(だあああああああああああああ! やっちまったあああああ!)

 

 

マッハのカードは先ほどのライトニングソニックで消滅している。

疲労で思考が鈍っているのもあってか先の事を考える力が弱くなっている様だ。

カードコンボを発動する場合は一番最初に使ったカードは無くなる。再構築が始まるのは変身を解除してからのみだ。

今ここで変身を解除する余裕など存在しない、マッハは諦めるしかないか?

 

 

『ならばタイムを使え』

 

『そ、そうだな』

 

 

キングの助言を受けてブレイドはタイムスカラベの力を発動させた。

自分以外の全てが停止してブレイドは一気に化け提灯の所まで移動する。

そして時間が再び動き出す、いきなり現れたブレイドに目を丸くする化け提灯。

悪いな、ブレイドは振り上げたラウザーを思い切り化け提灯へと――

 

 

「なっ!」

 

 

ガキンッ! そう音を立ててブレイラウザーは何かにぶつかった。

もちろんそれは化け提灯ではない。化け提灯と自分の間に明確な壁が存在していたのだ。

ブレイドはもう一発剣を振るう、しかしまた同じ結果となり剣は化け提灯には届かなかった。

ガキンガキンとラウザーが壁にぶつかっていく音しか聞こえない。

 

 

「ビックリ!」

 

「ッ!」

 

 

当然化け提灯も妖狐もブレイドに気がつく訳だ。

ムキになって壁を突破しようとするブレイドはまさに隙だらけ。

化け提灯はその大きな口をあけてブレイドに衝撃波を放った。

 

 

「いってぇえええええええッ!!」

 

「ギャハハハ! バーカ!」

 

 

化け提灯は笑いながら素早くブレイドから離れる。

クウガも妖狐に弾き飛ばされたところで、二人はぶつかって地面に倒れてしまった。

 

 

『落ち着いてくださいマスター!』

 

『疲労は冷静さまでを欠くか、厄介ですね』

 

 

クイーンとジャックに言われてブレイドは何とか冷静さを取り戻す。

思えば戦闘能力の低そうな化け提灯を妖狐が放置しておくわけが無い、きっと結界かそれに近いものを張っていたのだろう。

よく考えればこれも考えに入っていたのに――ッ! 

 

 

「フフフ、気がついたのね」

 

 

だけど、だからどうだって言うの?

気がついたところで対処できなければ何も変わらない。

そして結界を打ち破る力ももう二人には残っていない。歯を食いしばるクウガとブレイド、妖狐の言うとおりだ。

自分たちはもうそれだけの力は無い、そんな状況で妖狐に勝つことなんてできるのか? 罠にかかった時点で負けなのかもしれない。

妖狐は毛先に灯る炎を一点に集める。小さな炎弾は合体して巨大な炎弾となった。

 

 

「消えなさい!」

 

 

妖狐はそれを投げる。

前に出るブレイド、メタルのカードを発動して炎弾をその体で受け止めるが。

 

 

「あぢぢぢッ! ざけんなクソッッ!!」

 

「ふん! しぶといわね……! 本当にッ!」

 

「へへっ、悪いな。あきらめる訳には――」

 

 

ブレイドはゼノンから受け取ったヒールカードを取り出す。

戦いで夢中になっていて忘れていたが、これを使えばまだ戦える筈だ。

ブレイドは早速そのカードを――

 

 

「フフ、残念」

 

「は?」

 

 

妖狐は笑い、指を鳴らす。するとブレイドが持っていたカードの絵柄が変わった。

それはデフォルメされた狐が爆弾を抱えていると言うもの。

可愛らしい外見だが、それが光り輝くと小規模の爆発がその場に起きた。

もちろんそれはブレイドを包むように。

 

 

「椿ッ!!」

 

 

クウガが急いでブレイドに近づく。

彼は決して小さくないダメージを受けた様で、クウガに支えられなければ立てない様だった。

何がどうなっている? 何故回復する筈のカードでダメージを受けなければならないんだ!

 

 

『ユウスケ! アンタのヒールカード捨てて! 早くッッ!!』

 

 

え? 戸惑うクウガだが既に遅かった。

しまっていた薫の分を含めて二つの爆発がクウガを包む。

しかもブレイドに近づいたおかげで彼も爆風を受けてさらにダメージを追加された。

 

 

「ごめんねぇ、君たちが私の幻影の中をさまよっている間に――」

 

 

すり替えさせてもらっちゃった。

そう笑って妖狐は着物から三枚のヒールカードを取り出してみせる。

そしてそれを自分に向けてかざした、疲労の中でブレイド達が必死に与えたダメージ。それらが全て回復するのを見てクウガ達は軽く絶望してしまう。要は全てが振り出しに戻ってしまったのだから。

 

 

「さて、そろそろ終わりにしましょうか」

 

 

完全回復した妖狐は再び九つの炎弾を放つ。

もうクウガたちは抵抗すらまともにできない、炎弾が次々に着弾してクウガ達は苦痛の声を響かせる。

妖狐は倒れるクウガの所まで移動すると彼の首を掴んで持ち上げた。女性の外見でも力はそれなりにあるらしい。

 

 

「―――ッ! ぐぅぅううううううッ!!」

 

 

妖狐はクウガの力をさらに吸収しはじめた、そして数十秒としない内にクウガの色が消える。

グローイングフォームになってしまうクウガ。妖狐はそれでもうクウガが戦えない事を悟ると、彼を投げ飛ばした。

同時に点す九つの炎達、これで終わりだと言わんばかりの勢い。

 

 

「あぐぁッ!!」

 

 

倒れるクウガ、そこへ襲い掛かる九つの炎弾。

炎と煙がクウガの姿を隠し、次に彼が見えたときはもう動きを止めていた。

死んでこそはいないが、もうクウガに戦えるだけの力は無い。完全な負け。

 

 

「次はあなたよ」

 

 

そう言ってブレイドに向き合う妖狐、ブレイドはラウザーに体重を預けて何とか立ち上がった。

妖狐はそれを見て膝に炎弾を打ち込んでみる、するとブレイドは地面に倒れるという当たり前の結果が返ってきた。

そこへ九つの炎弾が降りかかった。ブレイドもクウガ動揺に動かなくなってしまう、それはつまり戦えなくなったと言う事。

二人は、妖狐に負けたと言う事だった。

 

 

「さぁて、どうしましょうか」

 

 

殺すか、生かすか。

 

 

「コロシチャエー!」

 

「はぁ、それじゃあ邪神と変わりないわ」

 

 

妖狐は化け提灯を指で弾くと、まずはクウガに詰め寄った。

どうやらベルトで変身するみたいだからベルト奪って適当なところに閉じ込めておけばいいだろう。

殺した方が楽だがそれじゃあ気分が悪いと言うものだ。

 

そう思い妖狐がクウガに手をかけた時、彼のベルトにあった銃が光輝いて人の形を形成する。

ああ、そういえばまだ貴女がいたわね。そう笑う妖狐を見るのは空野薫。

 

 

「………ッ」

 

 

薫は一歩妖狐に向かって足を進める。

その表情は鬼気迫る物。しかし妖狐は知っている、彼女は無力だと言う事を。

彼女を使う者はもう役に立ちそうにない、つまり彼女はまったく戦力にならないのだと言う事を!

 

 

「なぁに? 今度は貴女が戦うの?」

 

 

悪いけど、手加減はできないかもね。

そう言って妖狐は毛先に炎を出現させた。九つに分かれた彼女の髪の毛が尻尾の様に揺らめく。

流石に彼女もバカではない筈だ、これで終わりを悟っていただくしか――

 

 

「―――ッ!!」

 

 

しかし、薫のとった行動は妖狐の予想を外れていた。

彼女は妖狐に頭を下げていたのだ、流石にそれは妖狐の思うところにはない。

 

 

「お願いしますッ! どうか鍵を渡してください――ッ!!」

 

「………」

 

 

クウガが薫の言葉に反応して立ち上がろうと力を込める。

しかしうまくいかない様で結局崩れ落ちてしまった。

薫はと言うとそんなクウガを心配そうに見ていたが、すぐにまた妖狐に視線を戻して頭を下げた。

 

 

「無様ね。戦いに負ければ、命乞いじみた方法で鍵を手に入れようだなんて」

 

「……それでも――」

 

「え?」

 

「それでも! 私達はアキラちゃんを助けたいんですッ!!」

 

「――!」

 

「無様だと思われても、愚かだと思われてもいい。ただ彼女にもう一度会いたいからッ!!」

 

 

薫の声が震えている。

負けず嫌いの彼女だ、クウガとブレイドが負けてしまい自分が何もできないと言う状況が何よりも悔しいのだろう。

だがしかし彼女はそれでもと頭を下げた。涙の雫を地面に落としながらも鍵を渡してくれないかと妖狐に頼み込む。

哀れ、友を思う姿こそ立派だが戦場で言う言葉ではない。妖狐は首を振り彼女の乞いを否定する。

 

 

「私が渡すと思う? 少し考えれば分かる事じゃない。無駄な事よ!」

 

「アキラちゃんの為なら無駄な事なんて無いッ!」

 

 

薫は涙で覆われた瞳を妖狐に向けた。

視界はぼやけていて何度拭ってもすぐにまたぼやけてしまう。

何も見えない。目の前にいる妖狐も、妖狐に勝つ方法も、そして――

彼女の笑顔も。

 

 

 

アキラとはよくバイクに乗って競争をした。

所詮遊びといわれればそう。勝つのはいつも自分、彼女は悔しそうに笑って次は負けませんよって。

そんな中で一度彼女は競争中にこけてしまった事がある。焦りからなのだろう、そこまで大きな怪我は無かったがあの時はヒヤリとしたものだ。

すぐにバイクから降りてアキラの元へと駆け寄った、しかし彼女は挑発的な笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「いいんですか? 私の所に来ても。抜いちゃいますよ」

 

 

思わず笑ってしまった。

どうやら彼女も負けず嫌いらしい、だけどと薫はアキラの肩を持って笑ってみせる。

 

 

「勝負には勝たせてもらうけど、友達は置いてかないわよ」

 

「そう……ですか」

 

「だから、アキラも私が泣いてたら置いてかないでね」

 

「わかりました。でも、泣いてはいません!」

 

 

ゴメン、ゴメンと薫はニヤリと笑う。

アキラもまた少し微笑んでハッキリと言い放つ。必ず抜きますからね、覚悟しといてください。

楽しみにしてるわ、そう薫は返したのだった。

 

 

(そうよ、置いてかないんじゃなかったの?)

 

 

薫は妖狐に強い視線を送る。

全く、お願いする気があるのかしら? 妖狐は薫の強い気迫に思わず笑みを浮かべた。

 

 

(いつか抜くんじゃないの? 死んじゃったらもう無理じゃない――ッ!)

 

 

妖狐は強い意志を薫から感じた。

確かにそうだな、友達の為に行う行為に無意味なものなど無いのかもしれない。

自分だって友人くらいはいる。薫の気持ちが全く理解できないと言う訳ではない。

 

 

「そうね、あなたの思いは分かってあげるわ」

 

 

だけど、残念だがそうはいかない。

自分の友人の命だってかかっているんだ、こんな同情心で鍵を渡せるものか。

 

妖狐はもう一度薫にハッキリと宣言する。

それは鍵を手に入れたければ自分を倒す以外には方法は無いと言う事。

唇を噛む薫、彼女とて分かっていた事なのだろう。妖狐はそのまま薫の肩に手を置いた、これで彼女の力を吸い取れば完全な勝利だ。

 

 

「眠っていなさい、花嫁は諦めて」

 

「私は……絶対に諦めない――ッ!」

 

「そう、でもそれは無駄なのよ」

 

 

妖狐は薫の力を吸い取り――

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

「えッ!?」

 

 

その時だ、クウガが大声を上げて立ち上がる。

全力を込めたのだろう、フラフラになりながらも彼は拳を構えて妖狐に殴りかかった。

一瞬その迫力に怯む妖狐だが、所詮は気合だけのもの。

グローイングフォームのクウガでは妖狐にダメージを与える事すらできずに、再び炎弾を受けてしまう。

 

 

「ユウスケ!」

 

「そうだッ! おれ達は諦めないッ! 絶対に――ッッ!!」

 

「ふん、もうボロボロのくせにまだそんな事を?」

 

「ドウニモナラナイー! バカ、シンドケー!!」

 

 

煽る様に笑う化け提灯、そして妖狐は再びクウガに炎弾をぶつける。

もう立ち上がれない程にダメージを受けるクウガ。

対して自分はまだ余裕だ、この状況をどうやったら覆せるというのか?

 

 

「いや……まだだ――ッ!」

 

「!」

 

「賭ける! 希望はあるッ!」

 

 

今度はブレイドがよろよろと立ち上がる。

彼は一枚のカードを手に、まだ負けてはいないと確かに言った。

最後の賭けがまだ残っている、まだ最後のカードが残っていると。

 

 

「まだ負けてない? 最後の賭け? ハッ! 無駄なのよ!」

 

「ムダムダー! バーカバーカ!!」

 

 

妖狐は炎弾を固めて巨大化させる。

時間はない、ブレイドはそのカードを発動した。昔いつだったか忘れたがふと司に言われた言葉を思い出す。

その時はまさかと思ってまじめに聞いちゃいなかったが、今になってその時は来たのかもしれない。

 

彼に言われたのはこうだ。

もし自分がユウスケ、つまりクウガと一緒に戦っている時どうしようもない状況になったら一度試してみるのもいいかも。

なんていわれてその作戦を告げられた。そんな状況にならないだろうと、そもそも本当に大バクチであるが故すっかり忘れていたが――

もうこれしかない。そう判断してブレイドは最後の賭けにでる。

 

 

「サンダァアアアッッッ! ディアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「ッ?」

 

 

ディアーアンデッド、彼の名前をブレイドは叫ぶ。

 

 

「俺に力を貸せぇええええええええええええええッッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

発動したのはサンダーのラウズカード、ブレイドはそこに全ての力を込めた。

持っていけ、その意思に答えるようにサンダーディアーは力を増加させていく。

ブレイラウザーを天に突き出すブレイド、その剣先に巨大な雷球が出現した。

 

成る程、妖狐は少し汗をたらす。

これは切り札と言うにふさわしい威力を持っている筈だ。

こちらも力を込めなければ競り負ける可能性とて高い。

 

だが仮に炎と雷がぶつかり合い、そして向こうが勝ち、それが自分に当たったとして一撃で敗北する確立はゼロと言ってもいい。

しかもこちらには回避のチャンスもある。結局自分が有利なのは変わりない、妖狐はそう思い炎弾を発射した。

 

 

「オラァアアアアッッ!!」

 

「!!」

 

 

予想外の事が起きる。

まず一つ目、それはブレイドが雷球を発射せずにキングのカードを投げたと言う事。

キングのカードはそれ自体が高い攻撃力を持っている、それが炎弾とぶつかり合い炎を散らしたのだ。

どうやら貫通力が上まっていたらしい、その隙にブレイドは雷球を発射した。

 

 

「なるほどッ!!」

 

 

二段構え、考えなしの行動ではなかったか。

だが遅い! 雷球は威力こそ高い様だがスピードが伴っていない。

 

しかも疲労からか狙いが全然違うと言ってもいい。

これじゃあ自分がノーガードで突っ立っていようがクリーンヒットはしないだろう。

それにお人よしじゃないのだ自分は、妖狐はブレイドの全力である雷球をかわすと炎弾を再び発射してブレイドにぶつけた。

全力を撃った後だ、当然ブレイドは力なく倒れて変身も解除される。

 

 

「残念だったわね、悪くない一撃だったけど狙いがてんで駄目」

 

「……ッ、う――ッ! ぐぐぅッッ!」

 

 

椿は立ち上がる力も無いのか、うつ伏せで首だけを妖狐に向ける。

激しい光が妖狐の背後で巻き起こる。どうやら雷球は着弾してくれたようだ、尤も妖狐には命中していないが。

 

 

「へ……へへっ、俺の想いは届いた……かよッ!」

 

 

妖狐は椿の前に移動する。

人間の子供にしてはよく頑張った方だ、それほどまでに花嫁を想う気持ちは本物。

それは認めるし、ある種尊敬の念すら覚える。だが結果は結果だ。

 

 

「貴方の想い、伸ばした一撃()は私にも、まして花嫁にも届かなかったわ」

 

「………ッ」

 

 

椿は何も言わない、しかし何かを伺っている様だった。

まだ何か狙っているのだろうか? 全く恐ろしいものだ。

 

 

「まあ、そりゃ……そうだな」

 

「?」

 

 

椿はもったいぶる様に言葉を詰まらせる。

時間稼ぎかもしれない、妖狐は話をする事を拒否して椿を掴み上げる。

そして力を吸い取り始めた。

 

 

「ぐぅう……! そりゃ俺の手は……届かなかった……さ」

 

「まだ喋るの? しぶと――」

 

「だけど、バトンは渡したぜ――ッ!」

 

「ッ?」

 

 

バトン? 何を言って――

 

 

「ヨ、妖狐サマー!!」

 

「?」

 

 

化け提灯がなにやら自分の後ろを見て慌てている。

何を? 妖狐は椿を乱暴に降ろすと後ろを振り返った。

 

 

「………ッッ!」

 

 

そして、停止する。

一瞬まだ雷球が残っているかと思ってしまった。

なぜならソレは激しく放電していたから。

 

 

「ま、まさか――ッ!」

 

 

バトンを渡した、その言葉の意味を妖狐は理解する。

そうか、そう言う事だったのか! あの――、あの一撃こそがバトンだったのか!

 

 

「ユウ……スケ?」

 

 

ポカンとして口を開けている薫。

彼女のリアクションを見る限り、事前に打ち合わせをしていたと言う訳ではないらしい。

本当に賭けだったのだろう。だが結果的に賭けは成功したと言う事なのか――?

 

狙いが全然違っていたのは当然だ、それはブレイドが外した訳ではない。

バトンを敵にまわす奴がいるか? いないだろう、バトンは仲間に渡すものなのだから。

ブレイドは始めから妖狐を狙っていなかった。狙いはただ一人――!

 

 

「………ッ」

 

 

それはクウガ。

ユウスケは、クウガは立っていた。

あの時の一撃は攻撃じゃなかったって事か、恐らくエネルギーを雷球に乗せて渡したと言う事なのだろう。

妖狐は舌打ちをして椿を見る。

 

 

「流石……だぜ! サンダーディア……力加減がばっちりだな……ッ!」

 

「クッ!」

 

 

やられた、唇を噛む妖狐。

しかし待てよ、いくらエネルギーを与えたとはいえサンダーというカードに味方を回復させる効果は無い筈。

要はブレイドは巨大な雷のエネルギーをクウガに与えただけ、クウガは回復していないしむしろ少しダメージを受けた筈だ。

確かにエネルギーを考えるとフォームチェンジ可能や、攻撃に雷の属性くらいは付与されるかもしれないが自分は別に雷が弱点と言う訳でもない。

勝てる、少し焦らされたが何も問題は無い!

 

 

「……薫ッ!」

 

 

その時クウガは声を上げる。

クウガはへたり込む薫に手を伸ばした。

 

 

「おれ達は諦めない! そうだろ?」

 

「………! うん! 何になればいい?」

 

「動き回るだけの力は無い……ッ!」

 

「オッケー! ペガサスね!」

 

 

薫はクウガの手をとると銃に変わって彼の手に収まる。

同時に彼のベルトが激しく緑の旋回を巻き起こした、グローイングだったクウガは激しい風に包まれて緑色に染まっていく。

そして風が消え、現れたのはクウガペガサスフォーム!

 

 

「今度こそ終わりにしてあげる!」

 

 

妖狐は毛先に炎を点して狙いを定めた。

九つに分かれる髪の束、九尾を強く印象させる物だ。

七つの夜を支配する一角として、子供に負けたと言う失態は晒せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが――

 

 

「ッ?」

 

 

ここで放電、クウガの体から激しい放電が起こる。

それだけなら気に留める事もなかっただろう、しかし明らかにおかしな点が一つ。

それは――

 

 

「ッッ!」

 

 

クウガのベルトが放電によって形状を変化したと言う事。

 

 

「な――」

 

 

戦士のまぶたの下、大いなる瞳現れても、汝涙する事なかれ

戦士のまぶたの下、大いなる瞳になりし時、何人もその眠りを妨げるなかれ

 

 

「なによソレ!!」

 

 

いや、ベルトだけではない。

全身の装甲が放電と共に少し変化した、緑の鎧に金色の装甲が付与されていき――

最後に、ペガサスボウガンがその姿を変えた。

 

 

「!」

 

 

椿が司から言われた事。

それはどうしようもなくなったら雷の力をクウガに与えてみればいいと言う事だった。

クウガには強化形態が存在する、そしてそれが大いなる雷を受けて覚醒した。名は、"ライジング"。

 

 

「『ブラスト――ッ! ペガサス!!』」

 

 

否、それはライジングブラストペガサス。

激しい連射、気がつけば妖狐が髪に点していた九つの火炎全てに封印の力が打ち込まれていた。

なんと言う連射スピード、そしてなんと言う威力、気迫、雷光!

 

 

「な、何コレ――ッ!」

 

 

怯む妖狐、ならば彼女の為にもう一度言おう。今のクウガは先ほどまでのクウガではない。

クウガ、"ライジングフォーム"。雷は彼にさらなる強化を与えた。正確に言えば今はクウガ・ライジングペガサス!

ペガサスフォームの強化体、超感覚はさらに上をいきペガサスボウガンは威力と連射速度が跳ね上がる。

 

 

「くっ!!」

 

 

妖狐は怯みこそしたがすぐに炎を再構成してクウガを狙おうとする。

先ほどは炎を散らされたが、矢は髪を捉えただけですり抜けていった。

だがその時、封印の紋章が九つの毛先に浮かび上がる。

そして――

 

 

「―――ァアアアアアアアアアア!!」

 

 

封印の力が一気に流れ込む!

ペガサスフォームの必殺技であるブラストペガサスは一発でグロンギを倒すだけの力がある。

それの強化版である技×9の威力を妖狐は受けたのだ。耐えられる訳がない、どれだけ体力があっても関係ないのだ。

 

 

「ま……さ……か―――なんでッ!?」

 

 

こんな奥の手があったなんて――

妖狐はそう思いながら倒れ、意識を失った。

 

そう、矢は彼女本体には当たらなかった。

しかしライジングペガサスには新たなる特殊能力が付与された。

それは相手の飛び道具を打ち消すことができれば、その使用者にダメージを与えられると言う事だ。

妖狐の炎は強力だが、毛先に灯った時点ではペガサスの矢が勝っていたのだろう。

そして結果がこれである。妖狐の防御力では九倍に跳ね上がったブラストペガサスを受け切れなかったのだ。

 

 

「ソ、ソンナー!!」

 

 

妖狐が気絶した事で結界が無くなる。

化け提灯は素早い動きで逃げ回ろうと試みるが、超感覚のクウガにとっては何の意味も成さない事。

すぐに撃ち落されて彼もまた地に落ちる、しかも目の前にはブレイドが――

 

 

「ア……」

 

「よぉ、よくもいろいろとまあバカにしてくれちゃって……」『ビート』

 

「チョ! チョットマッテ! ハナセバ、ワカ――」

 

「うるせぇえええええええええええええええええええええええッッッッ!!!」

 

「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ビートのパンチが顔面にめり込んでいく。

吹き飛んだ化け提灯に、意識を保つだけの力は無かった。

 

 

「おい、流石だねユウスケちゃんよぉ」

 

「ああ、お前のバトン。確かに受け取ったからな」

 

 

妖狐に奪われたエネルギーは戻ってこないが、どうやら化け提灯が奪ったエネルギーは彼を倒した事で戻ってきたようだ。

少し楽になったと椿達は笑ってみせる。しかしそれでも疲労や消費したエネルギーは絶大だ、三人は少し休もうと崩れるように腰掛けた。

とはいえいつ妖狐達が目覚めるか分からない。なるべく早く出発したいところだ。

 

 

「でも無理……しばらく立てねぇ、ヒッキーにはキツイわ……」

 

「それより、鍵!」

 

「ああ……やべ、忘れてた」

 

 

周りを見ると、化け提灯の口から鍵がこぼれ落ちていた。

椿はだるそうに立ち上ると、その鍵を拾いに歩き出す。

しかし本当にだるい、椿は鍵を――

 

 

「ん?」

 

 

何かが落ちてきた。何だコレ? 椿は鍵の隣にちょうど落ちてきたソレを拾い上げる。

これは羽だ、黒くて少し特殊な形をしている。普通の鳥ではない様だが――

椿は反射的に上を見る。

 

 

「え?」

 

 

そこには人が。

それに気がついた時にはもう遅かった。

その人は黒い笑みを浮かべると翼を広げて襲い掛かってきた。

 

肩に走る衝撃、突進を受けて椿は思わず鍵を落としてしまった。

すぐに鍵に手を伸ばす椿だが、それよりも先にその女性が鍵をキャッチしてしまう。

 

 

「なっ!」

 

「申し訳ありませんが、ココで死んでもらいますよ」

 

 

その女、瑠璃姫は場内を駆け回っていた時に椿達を発見する。

そして彼の変身を見て瑠璃姫は意思を固める。まずは、アイツからだと。

 

 

「「椿ッ!」」

 

 

瑠璃姫は椿を掴むとそのまま飛翔する。

ユウスケ達は追おうとするが、椿と違って妖狐に力を吸われた分が多いのとライジングの影響で肉体の負担がもやは限界だった。

立ち上ったはいいがすぐに崩れ落ちてしまい、そのまま椿達は見えなくなるほど離れてしまう。

 

すぐに理の欠片を使って近くに誰かいないかを探すが、それでも逃がしてしまった事には変わらない。

二人は悔しそうに歯を食いしばって地面を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぉおおおおおおおおおおおお!?」

 

「ウフフ!」

 

 

瑠璃姫は急上昇を行い椿を空中へと連れ去る。

少し手を伸ばせば雲に届きそうだ、そして下を見れば思わず目がくらんでしまう。

瑠璃姫はそのまま辺りを乱暴に飛び回り椿の脳を揺らしていった。

疲労もあってか意識が飛びそうになった所で、椿はクイーンの声を何とかとらえる。

 

 

『マスター、変身を!』

 

『あ……ああ――ッ!』

 

 

そうだ、化け提灯を倒した事で変身できるだけのエネルギーはある。

椿はかろうじてベルトを装着するとハンドルを引いた。出現するエレメント、瑠璃姫を引き剥がす様に命中してブレイドは開放される。

しかしジャックのカードが無い以上空を飛ぶと言う事ができない、ブレイドはそのまま地面へ真っ逆さまに落下する事に。

 

 

「グガァ――ッッ!!」

 

 

地面へ落下するブレイド、砂煙を上げて妖怪城の中庭に叩きつけられる。

ブレイドの鎧が椿の命を守護するが、それでも受けた衝撃とダメージは大きかった。

立ち上る事ができずに這い蹲るブレイドを見て瑠璃姫は静かな笑みを浮かべる。

 

 

「ガハッ! ……ぐぐっ!」

 

「私のパートナーが貴方と同じタイプの者にやられました。なので、私もまずは彼女のパートナーを殺します」

 

「ぁ?」

 

 

自分と同じタイプ? って事は――……

 

 

(んん! 咲夜さん何してはるんですか……ッ!)

 

 

一番厳しいのは鍵が瑠璃姫の手中にあると言う事、そして何よりも自分の状況。

これじゃあ勝つなんて不可能に近い。本気で詰んでる。ブレイドは何とか立ち上ると涼しい顔をしている瑠璃姫に向かってラウザーを振るった。

正直なんとなくそんな気はしていたが、瑠璃姫はいとも簡単にラウザーを羽で受け止めると、弾き返してがら空きになった胴体に蹴りを叩き込んできた。

 

 

「ウッッ!! ぐぅううぅッ!!」

 

 

我々の業界ではご褒美……とか何とか言っている状況じゃない。

本気で、ガチで、これマジでやべぇんじゃないの? リアル、死ぬって――

仮面の奥で青ざめるブレイド、明確な焦りと恐怖が彼の全身を駆け巡る。

 

 

「ガハッ!!」

 

 

無数のカラスが飛んできて、それにあたると爆発。

カラスはご丁寧に自分を追尾してきてくれる。ブレイドは力なくラウザーを手から放す、自分でも倒れないのが不思議で仕方ない。

過去に経験した事のない様な死の局面、それなのに体が全く動いてくれない。

 

 

「人間というのは本当に恐ろしい」

 

 

そう言って瑠璃姫の周りに黒い旋風が巻き起こり、彼女の姿を隠す。

そしていきなり弾けた。現れたのは服がさらに禍々しくなり、顔にフェイスペイントの様な刻印が広がっている瑠璃姫だ。

服というよりは体に同化しているといった方がいいか? 瞳も金色に鋭い輝きを放っており、その姿は禍々しいの一言に尽きる。

どちらかと言えば品のあった以前の姿より、野生的になったと言うべきか。

 

 

「何? それが……正体?」

 

「愚かな者達は私の事を姑獲鳥(うぶめ)と呼称していた様ですね」

 

 

おいおい、コッチは限界なのに向こうは本気モードってか?

ますます無理ゲーなんじゃないの? ブレイドは全身に流れる嫌な汗を感じていた。

どうする? どうしようも無い。

 

 

「愛というのは本当に恐ろしいですね、まさかココまで追い詰められる事になるとは思いませんでした」

 

 

そうは言いながらも姑獲鳥は指を鳴らして先ほどの数倍はあろうかと言う大きさのカラスを出現させる。

ちょっと待て、ブレイドは全身が寒くなるのを感じた。先ほどのカラスは自分にぶつかった時爆発した筈だ。

という事は――

 

 

「いきなさい」

 

 

姑獲鳥の言葉にカラスは反応して飛び立つ。

やばい、やばい、マジでガチで本気でやば――!

ドンと大きな音がして辺りが軽く揺れる。爆発と言っても炎がでる訳ではなく、代わりに黒い羽が辺りには散らばっていった。

 

 

「………やれやれ、本当に貴方達はしぶといんですから――ッ!」

 

 

姑獲鳥は不愉快そうにつくり笑いを浮かべる。

爆発の中からブレイドは確かに現れてコチラに向かってくる。

だがもう鎧はボロボロ、そして歩いてきているものの真っ直ぐには歩けておらず今にも倒れそうだ。

しかし倒れない、倒れてしまえばもう立てなくなる事をブレイドは悟ったからだ。

 

 

「何……お前のパートナーって……死んだの?」

 

「ええ、"カリス"と呼ばれる者に」

 

 

おいおい、何で不殺(セーブ)ぶっちぎってくれちゃってんだよ咲夜さん。

あ、いや違うわこいつ等アレか、人間偽って――とか言う奴らか。

となるとこの世界の存在にかかるセーブが効かないとなると、異世界からやってきたって事かよ。

そんな風に、ボロボロなのに無駄に頭だけはハッキリ回ってくれる。

 

 

「愚かで無様で哀れな貴方たちに鏑牙はやられた!」

 

 

また無数のカラスがブレイドに襲い掛かる。

流石にもう立っているのを維持できない。無理、無理っす、そう思いながらもブレイドはまだ倒れなかった。

両膝をつき視線を地面へと向けるが、それでもまだ倒れなかった。

 

 

「花嫁を助けるなんて馬鹿な、無駄な事をまだ諦めていないッ!」

 

「でも、けっこう……いい位置まできてるんじゃね? 俺ら……ッ!」

 

「しかしどれだけ近づいてもその手が届く事はないのです。貴方の命も、ここで潰える!」

 

 

また爆発、今度は両手を地面についてブレイドは耐えた。

土下座に見えなくもない姿は確かに無様かもしれない。だが、それでもまだ彼は倒れなかった。

地面に広がっていく赤い血の斑点、それらは次々に増えていく。鎧の隙間から血が溢れ出る。

 

 

「理解できませんね本当に貴方達は」

 

「………」

 

 

ブレイドは呼吸を整える。

目がかすんできた様な気がするが、気のせいであってくれ。

頭が無性にぼんやりしていく気がするが、気のせいであってくれ。

痛みすら感じなくなってきている様な、まして体の感覚すらなくなっていく様な――

 

 

「なあ……お前――……その鏑牙って奴の事――ちょっとは好きだったか?」

 

「私は、あいにくそう言った感情は忘れてしまっているので」

 

「だとしても……男女間の愛は無くても……友愛とか…仲間としての愛くらいはあったんじゃねぇんすか……ね?」

 

「そうですね、彼とは長き間行動を共にしてきました。ですが、命令や状況が状況ならば私は彼を殺す事もできるでしょう」

 

 

そこに悲しみも無く?

 

 

「ダウト……嘘乙…ッ!」

 

「?」

 

 

だったら何で俺狙ってんのよ。

自分で言ってた、咲夜が俺と似ている変身方法だからアイツとの繋がり見つけて、だから俺狙ったんだろ?

それって結局、咲夜に自分と同じ想い味わわせてやろうって言う復讐心じゃねぇか。本当止めて、どうでもいい相手の為に復讐なんかするかよ。

 

命令、状況?

おいおい、俺ピンポイントに狙うって最高に効率悪い事じゃねぇか。

正直ユウスケ、薫込みでも簡単に俺ら殺せたっしょ?

 

だけど今お前は俺だけを狙っている。

その鏑牙とか言う奴の為に。なら理解できるだろう?

 

 

「俺達の想いも――」

 

「………」

 

 

ブレイドは力を振り絞って何とかその言葉を言い切る。尤も言えているか怪しいのだが――

なんでこんな事に力使ってるのかは自分でも分からない、でもとにかくその想いを伝えないと気がすまなかった。

まだだ、ブレイドはさらに口を開く。

 

 

俺はアキラに恋愛感情がある訳でもないし、言っちゃ悪いがアキラにとって、俺にとってお互いが一番仲のいい友達って訳でも無い。

だがそれでも彼女を助ける為なら何を賭けてもいいと思っている。なんでって聞かれたら明確には答えられないけど。

というか何を答えても納得できない様な気がしてならんのよ。だけど一番納得できないのはアイツが死ぬって事だけは分かっている。

 

今まで自分が彼女の為にしてあげられた事はあるか?

ねぇわ、迷惑しかかけてない気がする。それでもいつもアキラは笑ってくれた。

それでも彼女はメールでいろいろありがとうって言ってくれた。よく見かける、よく話す後輩。

 

 

「俺はまだアイツにお礼を言ってねぇんだ……こんな所で止まれるかよ――ッ」

 

 

どいつもコイツも無理だの愚かだのいい加減しつけーんだよッ!

何回同じやりとり繰り返すんだよ、飽き飽きだ。もう僕飽きちゃった。

アキラを助けられなきゃ俺も死ぬ。そんな気がしてならないから手を伸ばすんだ。

 

 

「それ以外には無い、唯一の答えだ」

 

「ボロボロのくせによく喋る事ですね」

 

「長文乙ってか? でも少しは理解したろ……?」

 

 

それに、これは瑠璃姫には言わないが自分に言い聞かせるようにして心の中で彼はつぶやく。

自分で言うのはアレだが正直今までの人生はクソみたいなモンだと考えてきた。

捻くれていると言えばそれまでだろうが、嫌な事があった時は普通に死にたかったし、人生なんてどうでもいいと思っていた。

 

ただアキラは一生懸命生きていた。

なんか、こうイマイチうまく言えないけどそんな彼女が死んで自分が生き残れば、自分の人生は一生クソのまま終わる気がする。

 

 

「俺は…負けたくねぇんだ……仲間の為にも――ッ!」

 

「そうですね。確かに私は鏑牙の事を仲間として大切に想い、その感情を糧に戦うあなた達を理解する事もできます」

 

 

瑠璃姫、いや姑獲鳥は胸に手を当てて笑う。

 

 

「ですから、先ほどまでの言葉は謝罪しましょう」

 

 

ですが、だから何だと言うのか?

結局貴方が死ぬ事には変わりありません。そう言って姑獲鳥は巨大なカラスを出現させた。

 

 

「貴方を殺した後、また一人ずつ殺していきます。最後には誰も残らない。世界も、花嫁も」

 

「………ッ」

 

 

確かにそれはそうだ、ブレイドは今現在話ができるクイーンとキングに助けを求めた。

何かいい手はないか? この状況を覆せるいい手は――。

だが今の状況では分が悪すぎる。クイーンもキングも共に沈黙してしまう、それはつまり打つ手なしと言う事。

 

 

『私を使えば回復はできますが――……』

 

 

だからと言って、残っているカードを考えると勝機は薄いか?

キングを使いライトニングソニックを打ち込んで、さらに残ったカードでもう一発何か発動すれば倒せない事はないだろうが――

やはりどんな選択を取ったとしても詰んでいる状況か。

 

 

『その判断は……マスターにお任せするしか』

 

『そう……サンキュー』

 

 

そもそもまずあのカラスを耐えなければ。

残っているカードはスラッシュ、タックル、マグネット。そしてQとK。

ブレイドはその中からマグネットを選ぶ。もうコレしかない、頼むからうまくいってくれッ!

 

 

『マグネット』

 

 

ブレイラウザーから光が発射されて、姑獲鳥のカラスに命中する。

何を? 姑獲鳥は迷わずにカラスをブレイドに向けて放った。

同時にラウザーを放り投げるブレイド、ラウザーはN。そして光を受けたカラスはSとなる。

 

結果、カラスは引き寄せられるようにしてブレイラウザーに命中。なんとか回避には成功した。

しかしブレイラウザーは衝撃で吹き飛ばされてブレイドから距離を空ける事になる。

カードはラウザーが無ければ発動する事ができない、ブレイドは全身を叱咤して立ち上るとラウザーを拾う為に走りだす。

 

 

(なんとか間に合ってくれッ!!)

 

 

ブレイドは後ろを振り返り姑獲鳥の姿を探る。

しかし彼女の姿を確認できない、いない? どこいった?

ブレイドは気になりながらも再びラウザーに視線を――

 

 

(マジか……)

 

 

姑獲鳥はラウザーの前に立っていた。

立ち止まるブレイド、ラウザーが無ければカードは発動できない。

キングなら自動で発動できる為使えない事はないが、必殺技を撃つタイミングでは確実にない。

 

 

「うぐぁぁあああああ……ッッッ!!」

 

 

姑獲鳥はラウザーを引き抜くとその一閃をブレイドに刻み込む、そしてその大きな翼で黒い突風をぶつけた。

ブレイドは回転しながら吹き飛んでいき、あれだけ耐えたにも関わらず倒れこみ変身が解除されてしまう。

仕方ない、限界だった。椿はそれでもすぐに立ち上がり何とか逃げ出せないかと探ってみる。

 

 

『椿』

 

 

キングが口を開く。

なんだ? 今までありがとう的なヤツか? やめて、まだ死んでないっつうの。

いや、でも死ぬかも……椿は少し投げやりに返事を返す。

 

 

『勝ちたいか?』

 

『!』

 

 

何か方法があるのか? 藁をも掴む想いで椿はキングの言葉に食いつく。

しかし同時にせまる姑獲鳥、椿は何とか体をひねって攻撃をかわそうとするが――

 

 

「がぁあああああッ!!」

 

 

姑獲鳥の鋭い爪が体を切り裂く。

 

 

「おや? 人間にしては硬いですね」

 

 

そうだ、自分にはグローイングフォーム並みの防御力はある。

しかしそれでも受けたダメージは大きい、回避行動も無意味に終わった。

これは最高にまずい状況だ、本気で死ぬかもしれない。と思えばまた風で吹き飛ばされた。近くの木にぶつかって呼吸が止まる。

早くしてくれ! 椿はキングに答えを求める。

 

 

『どんな事をしても、勝ちたいか?』

 

『ああ! どうすればいいんだ!?』

 

 

キングはその言葉を受け止めた。そして答えを述べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キングフォームを使う』

 

『!!』

 

 

ジャックを超える強化体、そして最強の力であるキングフォーム。

なるほど、確かにそれならば今の状況を覆す事もできるかもしれない!

 

 

『でも、今の俺には使えないんじゃないのかよ!?』

 

 

そう、椿には資格が足りなかった。

現にこの城に向かう前にダメ元で試したが結局変身はできなかったのだ。

キングフォームになる条件は多い、まず契約アンデッド全員に認められる事。

 

通常変身はキングに認められればそれでいいが、キングフォームになるためには契約アンデッド全員と100パーセント心を通わせいといけない。

ただスペードの連中はキングに勝てばどんな人間でも認める為、これはクリアしてある。

ジャック達以外は話す事はできないが、ジャック曰く全員自分の事を信頼してくれている様だったので間違いないだろう。

 

次に全てのカードを一定回数以上使用していると言うもの。

これもクリアはしている、どのカードがどれくらいで再構築されるのか? どんなコンボがあるのか?

使い方の幅はどれくらいあるのか等の特訓はしていたので、いつのまにか条件は満たしていた。

 

 

だが最後の条件、これが厄介だった。

それは一定以上のステータスと言うアバウトすぎるもの。

精神力、体力等が自分には足りていないという。これが足りないとキングの力に飲み込まれてしまい自己が壊れてしまうとの事だ。

ゲームで言うなら経験値、レベルが足りないというべきか。とにかく一番重要だろう条件が自分と咲夜にはまだ足りていなかった。結果、自分たちはキングにはなれない。それが今の現状だったのだが――

 

 

『私が無理やりにでも条件を合わせる』

 

『できるのか!』

 

『ああ』

 

『ちょっと君! そういう事は最初に言いなさいよ!!』

 

『だが――』

 

 

そう、いくらなんでもタダで済む訳が無い。

それくらいは覚悟していたが、キングから告げられた代償に思わず椿は動きを止めてしまう。

キングフォームに変わる代償、それは"以後二度とキングフォームにはなれない"と言う事だった。

 

 

『それは……どういう――』

 

 

ハッとすれば、目の前には姑獲鳥がいた。

直後自分を包む爆発、カラス達が自分に次々と着弾していく。

全身が出血して片目が見えなくなる。やばい、死ぬ。そう思った時にはまた吹き飛ばされている所だった。

しかしそんな中であくまでも淡々とキングは説明を行っていた。全く、ご主人が死にそうなのになんつー……

 

とにかく、姑獲鳥の攻撃中に説明は終わった。

分かりやすくゲーム風で言うのなら、キングはキングフォームになる条件をバグらせてくれるらしい。

今の自分でも耐えられるギリギリのラインを作ってくれるらしいが――

 

その影響でキングフォームの構成要素である"キング因子"と言われる物は滅茶苦茶になってしまう。

 

バグらせたゲームがおかしくなるのと同じだ。

一度バグを終えた後にまたゲームを始めようとするとデータが消えていたりおかしな要素が残っていたりと……まあそれは自分も経験があると言うもの。

要するに、一度しか使えないけど誰でも使えますよと言う風にオプションで設定してくれると言う事だ。

代わりにもうその設定は変更できなくなる、チートみたいなもの。

 

 

『どうする? 椿……いや、我がマスターよ』

 

『………』

 

 

ハハ――!

 

 

「?」

 

「……ハハッ! ハハハハハハハハハ!!」

 

 

おかしくなったのか? 姑獲鳥はそう思うが、どうやら違ったみたいだ。

椿は何故か希望を瞳に宿してコチラを見てくる。本当にコイツらはしぶとい、この後に及んでまだ何か足掻くと言うのか。

しかし何を? 何をする気だというのか。この状況で一体どんな希望を見出した?

 

 

「悪いな瑠璃姫さんよぉ……! 勝つわ、俺――ッ!」

 

「……ッ」

 

 

ハッタリにしては少し様子がおかしい、姑獲鳥はその言葉が冗談などではないと理解する。

危険だ、瑠璃姫は決着をつける為にカラスを巨大化させる。

 

 

『いいのか? キングフォームになると言う事は、もうこの先二度とキングフォームにはなれないぞ』

 

『ああ、いいぜ』

 

 

即答だった、理由は三つ。

まず一つめ。

 

『どのみち使わなけりゃ死ぬ』

 

 

二つめ。

 

 

『それに大切な仲間一人救えなくて何が王だ、世界守れないで何が王様だよ。笑わせんなって話』

 

 

椿の言葉に呼応するようにして腕にラウズアブソーバーが出現する。

迷いは無い、椿はクイーンをそこに装填して効果を解放させた。

 

 

『アブソーブクイーン』

 

「貴方も理解したらどうです? 花嫁は死に、世界は滅びる。そう言う『運命』なんですよッ!!」

 

 

姑獲鳥はカラスを放った。

生きるか死ぬか、いいじゃねぇかやってやるぜ。待ってろアキラ、先輩らしいとこ見せてやるからよ。

 

その時大爆発が起こる。

姑獲鳥は相当な力を込めていたようだ、そして爆発が起こったと言う事はカラスが命中した証拠でもある。

流石に生身じゃあの攻撃は耐えられない。姑獲鳥は羽と煙が立ち込める中で踵を返す、早く次の獲物を見つけに――

 

 

「待てよ」

 

「ッ!」

 

 

さあ、運命の切札をつかみ取れ――!

 

 

『エボリューションキング』

 

「何ッ!?」

 

 

煙が晴れていく。すると立っているじゃないか、守輪椿が!

彼の前には金色のエレメントが存在していた、カラスは椿ではなくあのエレメントに防がれたと言う事だろう。

 

姑獲鳥は舌打ちをしてカラスを出現させ、そして放つ。

無数のカラス達はエレメントを避けて椿にぶつかってくれる。

 

 

「!?」

 

 

――筈だった。

しかしカラスたちは全員引き寄せられる様にして金色のエレメントにぶつかって消滅していく。

まるで、王への進化を邪魔してはいけないと理解している様に。

 

 

「ふっ! ふはは! そういう"運命"ねぇ……!」

 

 

確かにこの世にはどうしようもできない事なんて山ほどある。

例えば俺がコミュ力マックスのリア充になるとか、可愛い義妹ができるとか――!

そう、あと撫でたり微笑んだりするだけで女の子が頬染めてくれるとかね!

この前それしたら咲夜さんにキモイって言われちゃったよ。本当にアイツ酷いよね!

 

 

「そう、無理無理……! 絶対無理!!」

 

「何を訳の分からない事をベラベラとッ!!」

 

 

それはもう諦めてもいいわ、絶対無理、そういう運命だもの。

ただ、アキラを救う事が無理って言う運命なら――

 

 

「俺は運命と戦う! そして勝ってみせるッ!!」

 

「――っ!」

 

 

だからその運命と戦う為の力を貸してくれッ! キングッッ!!

 

 

「心に剣を! 輝く勇気を俺に与えてくれッッ!!」

 

 

血を全身から滴らせ、椿は鋭い眼光でエレメントの向こうにいる敵を睨む。

 

 

『これが最後の警告だ。ソレを通り抜けた瞬間、貴様はもう二度と――』

 

「くどいぜ、上等なんだよこっちは。つかこの会話前にもしなかったっけ? したよね、覚えてるよ」

 

 

懐かしいな。目の前にはエレメント、あの試練の時と同じだ。

ただあの時と違うのは、自分が走っていくんじゃない、エレメントをコチラに向かわせる方法を椿はとった。

それは当然だろう、王にそこまでの労力を負わせるな。

 

 

「瑠璃姫。俺はお前に、いや運命に勝つ! そうさ、できる筈だぜ?」

 

 

あの時と同じ様な台詞を言って笑ってみせる。

キングも懐かしいのか、少しだけ笑っていた。

 

 

「俺に、いや守輪椿と言う人間に仮面ライダーとしての資格が、そして王としての資格があるのなら!!」

 

 

これ言って前は勝った、だから今回も言わせてもらおう。

 

 

「いいでしょう。王の運命と共に終わらせてあげますよッッ!!」

 

「来いよ、悲しみは終わらせる。俺を導けッ! ブレイドォオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

姑獲鳥は翼を硬質化させて飛翔してくる。

首を直接跳ね飛ばすと言う作戦に瑠璃姫は出た。同時に金色のエレメントが椿の体を通過して――

 

 

王の鉄槌(ビート)

 

「え?」

 

 

それはあまりにもいきなりで、姑獲鳥は一瞬何が起こったのか分からなかった。

自分のトップスピードを上回る勢いでブレイドの拳が突き出された?

 

しかし、字に表した通りそれはあくまでも拳でしかない。

言い方をかえればただのパンチでしかないのだ。

どんなに早くても自分のスピードならば見てからでも避ける事ができる。

なのに避けられなかった、なぜなら迫ってきたのは拳ではなく壁だったからだ。

 

意味が分からない?

それはコッチもだろう。分かった事は一つ、ブレイドのパンチはパンチではなかったのだ。

突き出した拳は姑獲鳥には届かなかった、だが拳の周りにある黄金のエネルギーオーラが答えだった。

金色の光は拳の形をハッキリと形成して、ブレイドのリーチを補った。

 

いや補うなんてレベルじゃない。

オーラで練成された拳は巨大なんてレベルじゃなかった。

現に姑獲鳥は回避ルートが見つからずに殴られてしまったのだ。

まさにそれは迫る壁と言っても差し支えなかったろう。

 

 

「……ッッ!」

 

 

何よりも、現れたブレイド――

 

 

「馬鹿なッッ!」

 

 

先ほどまでの姿とは全く違う。

ジャックフォームを超える金色の鎧、圧倒的力の脈動、重量感がある装甲、そしてその中に存在する気高き気品。

それらはまさに王と言うに相応しい。ブレイド、キングフォーム。

 

覚醒の瞬間である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……王の力か――!」

 

 

なるほど、悪くない。

そう言ってブレイドは拳を握り締める。

直接殴っていないにも関わらず拳には確かに姑獲鳥を殴った感触があった。

 

そして体にはもう痛みなど残っていない。濁っていた視界も今は鮮明に映っている。

キングフォームになれば全てのカードが再び使える様になるらしく、クイーンの効果が自動で発動されて全回復を果たしたと言う事だった。

 

 

「うぐ……ッ!」

 

 

よろよろと立ち上る姑獲鳥、ブレイドはその様子をただジッと見ているだけだ。

 

 

「瑠璃姫よ」

 

 

声のトーンが明らかに元の椿とは違う。

低く、何よりも威圧に満ちていた。先程までは大きく出ていた態度も今は驚くべきほどに冷め切っているではないか。

 

 

「ッ?」

 

「選べ、今ココで降伏を宣言するのか。それとも――」

 

 

消えるか?

ブレイドの驚くべきほど静かな声に姑獲鳥は思わず息を呑む。

何だコレは? まるで別人じゃないか。

 

 

『それはお前が力に飲まれている証拠だ。気をつけろ、いくら変身を可能にしたとはいえリスクの影までは消えた訳じゃない』

 

 

自我を強く持たなければキング因子に飲み込まれて理性を失うぞ。

ブレイドはその言葉に頷いた。確かに自分でも性格が、口調がおかしいような気がする。

どちらかと言えばキングであるコーカサスの話し方に近いというか。

 

 

『気をつけよ。支配したつもりでも、私に支配されるなよ』

 

 

決して油断してはいけないと言う事か。

 

 

「!」

 

 

注意力が散漫していた。

そのおかげで姑獲鳥が放ったカラスに気づけなかった。ブレイドは再び無数の爆発の中に消えていく。

姑獲鳥はさらに巨大なカラスをフィニッシュにぶつけた。どうやら本気で戦う気になった様だ、これでもかというくらいの爆発が起こる。

 

 

「ふふ、どうです? 余裕は即、死に――」

 

「それは、答えと見ていいんだな?」

 

「!?」

 

 

煙の中からブレイドが現れる。

それも同じ位置に立って、同じ構えで立ってだ。

つまりそれが意味するのはブレイドは防御せずにずっと立っていたと言う事!

ありえない! 思わず姑獲鳥は叫んでしまう。今の攻撃をノーガードで耐え切ったというのか!?

 

 

「ッ!」

 

 

いや、そうか。そう言う事か。

ブレイドの姿が若干光沢を帯びているのを姑獲鳥は確認する。理解する姑獲鳥、どうやらカードを使ったらしい。

その通り、ブレイドはメタルのカードを発動していた。キングフォームの能力であるオートラウズシステム。

文字通り全てのカードが自動で発動できるのだ。ならばと姑獲鳥はブレイドの周りを確認する。

 

 

(くっ! あれか――ッ!)

 

 

見つけた、ブレイドの後ろにあるソレを。

カードを発動するにはラウザーが必要だ、そしてその道具はブレイドの背後にあった。

 

地面に突き刺さっているのは"キングラウザー"、ブレイラウザーよりも大きく装飾も派手になっている。

何よりも感じる力がすごかった。思わず圧倒されそうになってしまう。

 

 

「降伏を拒否するのなら――」

 

 

ブレイドは背後にあったラウザーを引き抜くと天へそれを掲げる。

何を? 念の為回避ができる様に気を配る姑獲鳥だったが――どうやら、甘かったようだ。

 

 

「目障りだ、消え失せろ雑魚が」『王の雷撃(サンダー)

 

「――――」

 

 

轟音が姑獲鳥に直撃する。

何だ? 一体何なんだコレは? 姑獲鳥は確かにその耳で聞いた筈だ、発動されるカードの名前を。

サンダー? 妖狐戦を観察していたが所詮それは全力を込めても巨大な雷球を作りだす程度だった筈だ。

にも関わらず今自分が受けた攻撃は? それはもう雷と言う次元じゃない。

 

ブレイドが剣を掲げると天が割れて光の鉄槌が自分に降りかかった。まさにそれは雷と呼称する事すら申し訳ないと感じる程だ。

しいて言い表すのならば、雷神の鉄槌(トールハンマー)が相応しい。通常の雷なんて目じゃないくらいの雷撃が降り注いだのだ。

天からの一撃に姑獲鳥は完全に動きを停止させる。

 

 

「ぁ――カ――……ッッ!!」

 

 

まさか……まさか負ける!? そんな馬鹿な、そんな事があっていい筈がない!

有利だったのは自分、勝利に近かったのは自分の筈だ。なのに何故今は自分が負けそうになっている!?

そんな馬鹿な話があっていい訳がない。彼らはいつもそうだ、倒したと思ってもそれを上回る勢いで逆転してくる。

 

それ程までに厄介な存在なのか。

何が彼らをそこまでさせるのか、今の姑獲鳥には全く分からなかった。

そしてそれが、彼女の思考を狂わせる。

 

 

「……認めませんよッッ!!」

 

 

姑獲鳥は再び羽を硬質化させてブレイドを狙う。

周りにはカラスを纏わせて彼女は黒い塊の様に巨大化した。

どうやら全力の一撃らしい、彼女は決着をつける気だ。それをブレイドは読み取り、自らもまた五枚のカードを選出した。

 

 

「これで終わりですッッ!!」

 

 

姑獲鳥がブレイドに触れようとした瞬間――

 

 

 

王の一撃が待っていた。

 

 

『スペード・10(テン)

 

「があぁああああああぁあああッッ!!」

 

 

一閃。

ブレイドはキングラウザーを大きく横に振り、黄金の一撃を姑獲鳥に刻み付けた。

しかも斬撃の軌跡が空間にしっかりと残っており、姑獲鳥はそのまま動きを停止する。

 

 

『スペード・(ジャック)

 

 

次は斜めに一閃。

 

 

『スペード・(クイーン)

 

 

まだ終わらない。次は斜め上に切り上げる様にして黄金の線を刻み付ける。

 

 

『スペード・(キング)

 

 

再び斜め下に切りつける。

何かを描いている様だ、これは――

 

 

『スペード・(エース)

 

 

計五回、全ての斬撃が終了する。

黄金の軌跡が描いたのは魔を退けるとされる五芒星。

姑獲鳥はブレイドが刻み付けた五芒星の中心にて拘束される。

そのダメージは絶大で、姑獲鳥は覚悟を決めた様だ。彼女は瑠璃姫の姿に変わると、何故か笑みを浮かべる。

 

 

「見事……ですね――ッ」

 

「その潔さ、お前も見事だった。何か言い残す事はあるか?」

 

「いいえ……今は、何も」

 

 

そうか、ならば散れ。

ブレイドはもう彼女に興味がないと言った様子で踵を返す。

同時に空から10~Aの五枚のカードが重なってゆっくりと降りてくるではないか。

カードは回転しながらゆっくりとブレイドの手のひらに着地して、尚も回転を続けていた。

それは輪廻、運命の輪。

 

 

「運命は我が手に掌握される!」

 

 

そしてブレイドはそのカードを握りつぶすッ!

 

 

「裁きを受けよッッ!!」『ロイヤルストレートフラッシュ』

 

「―――アァァアアアアアッッ!!」

 

 

瑠璃姫の背後に10、J、Q、K、Aのカードのエレメントが横一列に並ぶ。

同時に五芒星は爆発。黄金に包まれて瑠璃姫は完全に消滅した、そこにはもう羽の一つも残っていない。

完全な消滅なのだ、尤も鍵はちゃんとブレイドの手に収まっているが。

 

 

「………」

 

 

ブレイドはそれを確認すると変身を解除する。

黄金のエレメントが自らの体を通過し、彼は椿の姿に戻った。

 

 

「う……ぐ――ッ!」

 

 

傷は完全に癒えていたが、体に掛かる負担でもう限界だった。

椿はその場に倒れると苦しそうに息を荒げる。しばらくは動けそうも無い、こんな目立つ所じゃなくてもっと隅の方で休みたいものだ。

ただ鍵だけは自分がいつまでも持っている訳にはいかないが。

 

 

『全く、無理をする』

 

『ああ……マジやばかった』

 

 

ふとキングは椿の言葉を思い出す。

二度とキングフォームになれない代償を受けた理由は三つあったと。

しかし彼が言ったのは二つだ。では最後の一つは何なのか――?

 

 

『決まってんだろ』

 

『?』

 

 

椿はありったけの疲労を顔に出しながらも笑みを浮かべた。

 

 

『二度となれないは、なれちゃうフラグの言葉なんだよ』

 

『?』

 

『ま、いいや……もう本当疲れた、ちゅかれた、まじ無理っつうか――』

 

 

するとどこからか聞き覚えのある声がしてくる。

何だ? 椿はなんとか顔だけをソチラに向けた。

 

 

「椿ッ!」

 

「椿さん!」

 

「おいおい大丈夫かよぉ?」

 

 

窓から顔を出していたのは咲夜、亘、ねずみ男。

キングフォームが発動された事をハートのキング達が知り、咲夜にそれを伝えたのだ。

咲夜も今の自分たちがキングフォームになれない事は知っている。

 

にも関わらず椿がキングフォームになったと言うのは、つまりそれ相応の事が起こったと言う事。

咲夜達は砂かけ婆達と別れて椿を探しにきたと言う事だった。

幸いアンデッド同士は通信できるので、見つかるまでにそう時間は掛からなかった。

 

 

「咲夜さーん……! 俺もう無理ィ! 椿王子もう死にまーすぅ!」

 

 

ゆっくりと目を閉じていく椿。

 

 

「お、おい! 本当に大丈夫なのか!?」

 

「……キスしてくれたら起きるかも」

 

「分かった! 今止めを刺しに行く!!」

 

 

咲夜はそう言って窓から顔を引っ込めた。

 

 

「はは……冗談キツイぜ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? 本当に冗談だよね!? 放置とかガチで止めとか無いよね? マジ冗談じゃなく俺死ぬよ!?」

 

 

一瞬焦ったが杞憂だったようだ。

咲夜達は急いで椿のところまでやって来ると、倒れている彼を抱きかかえる様にして起こす。

 

 

「いい所に来てくれたぜ……! 悪いけど誰かヒールカード持ってない? 俺のヤツさ、取られて無いのよ」

 

 

咲夜と亘は申し訳なさそうに首を振る。二人も鏑牙の戦いの後に使ってしまったとの事だった。

そう、鏑牙。ソイツのおかげで自分は瑠璃姫から狙われたんだ。そんな事を言うと咲夜達は彼が気絶せずに消滅した事を告げる。

どうやら鏑牙と瑠璃姫はかなり特殊な存在らしい。彼らが一体何者だったのか、もう消え去った今は知る由もないが……

とにかく今はまだ鍵を四つ集めてはいない。四人はとりあえず適当な所で休もうという結論に至った。

椿は咲夜と亘に支えられて立ち上る。

 

 

「は?」

 

 

まさに、それは一瞬。

 

 

「え?」

 

「ッ!」

 

 

間抜けな声をあげるねずみ男と、事態を理解する咲夜。

四人の前にいきなり河童兵が現れたのだ。それも無数の、そしてその色が真っ黒に染まっている。

正確に言えば河童兵の形をした闇と言ってもいいかもしれない。それが中庭だけでなく城の至る所に現れたのだ。

 

 

「おいおい、終わったと思ったらコレだよ――ッ!」

 

 

いや、逆に今までがぬるすぎたのかもしれない。

怒涛のラッシュに思えるこれも敵の戦力を考えれば当然の事だ。

 

 

『本当にマスターといると飽きませんね』

 

『そう? でもコレめちゃくちゃヤバイんじゃね? 俺死んだら頼むからパソコン破壊しておいてね』

 

 

黒い河童兵達は椿達を確認したとたん咆哮をあげて襲い掛かってくる。

スピードは普通の河童兵よりも速いようだ、咲夜と亘はすぐに変身して椿とねずみ男を守る様に立つのだった。

 

 

 

 

 

 





ライジングも少しオリジナル要素が入ってるので説明を。

・ライジングフォーム

敵の雷の力を受け、吸収する事でも発動可能に。
もちろん任意での変身も可能。しかし変身可能時間は最大でも30~40秒
装甲には金の鎧が追加され、変身の制限時間もある分ステータスも跳ね上がる。


・ライジングペガサス

ライジング化したペガサスフォーム。
超感覚と言われていた部分はさらに研ぎ澄まされ、同時に全体のステータスも上がっている。
意識を集中させる事でクロックアップ等の能力者ならば完全に対応する事が可能。
ペガサスボウガンは矢が連射式に。速度は調節可能で、高速移動を行う相手を撃ち貫く速度にも強化可能。
さらに特殊効果として――

1.相手の飛び道具に矢を当てる。
2.その結果、矢が飛び道具を打ち消す。または無効化する。

この条件を満たすと、相手が無効化された飛び道具を再び使おうとした時点で封印のエネルギーを与える事ができる。
つまり相手に直接必殺技を当てなくても飛び道具に当てる事で命中させた事になる。

主な欠点は変身可能時間が10秒である事。
精神集中が凄まじいため、攻撃を受けてしまうとその時点で変身が解除される。
以上の二つである。


って、感じです。

はい、じゃあ次は日曜か月曜予定。

ではでは。
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