仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第49話 燃える紅るえ燃 話94第

 

 

 

 

 

 

「―――……なんだコレ?」

 

 

目視の間でガタキリバは驚きの声を上げる。

散らばった各分身達が城内に出現した無数の黒い河童兵を確認したのだ。

黒い河童兵はすぐに分身達に襲い掛かり戦闘となる。いきなり河童兵が現れてくるなんて流石に予想外と言うものだ。

しかも――

 

 

「ちょっと……! コッチにも来るわよ!」

 

 

巳麗は目視の間に押し寄せてくる河童兵を確認する。今までスルーされていただけに少し緊張が走った。

まさか向こうは手を抜いていたとでも? すぐに巳麗は変身して河童兵達と戦いに行くが、数が数だ。

彼女も動きを封じられてしまえば押し切られるかもしれない。そのうち疲労で変身が解除されれば危険だ。

 

 

「厄介だな――ッ!!」

 

 

ガタキリバはすぐに皆に通信で何か分からないかと詳細を求める。

するとすぐにダブルから連絡が入った。この現象を起こした犯人と戦っている。それだけだ。

 

 

「何をしたんだい?」

 

 

ダブルはメタルシャフトをクルクル回しながら目の前にいる鬼河童に問いかける。

正直さっきまではコチラが有利で、あのままなら確実に勝っていただろう状況……のはず。

 

しかし今ダブルの目の前には無数の黒い河童兵、そして妖刀村正と同化している鬼河童が立っていた。

村正は黒い霧の様なものを勢いよく噴出しており、それが河童兵の形をつくり具現化したとの事だった。

 

 

『ゼノン!』

 

「ああ!」

 

 

厄介な、放置しておくにはあまりにも危険。

ダブルはすぐにシャフトを振るって火の粉を飛ばす。

しかし鬼河童はそれをなんなく切り裂くと、先程とは比べ物にならないスピードでダブルに飛び掛ってきた。

 

何の、ダブルは攻撃に合わせる様にしてシャフトを構える。

すぐにぶつかり合う村正とメタルシャフト。するとまるで木の棒を切り裂くように、メタルシャフトが真っ二つに。

 

 

「まじ?」

 

 

ダブルは体を反らして肩の厚い装甲部分で何とかその一撃を受け止める。

威力もまた先程までとは桁違い、下手したらこのままスッパリ。

 

ダブルはふと鬼河童を見てみる。

なるほど、これは完全に妖刀に支配されている様子だ。

恐らく今まではずっと力をセーブしながら戦っていたのだろう、そしてそのままでは負けると判断して力を解放させたというところか。

 

 

「こんのッ!」

 

 

ダブルは鬼河童の腹部に蹴りを入れて一旦後ろへ大きく跳んだ。

妖刀の力で場内には河童兵を模した闇の力が徘徊する事となった訳だ。

簡単に言えば鬼河童が力を出した事で兵力が増えたと言う事。

 

それは洒落にならない、ダブルは鬼河童を殺す勢いで狙いを定める。

しかし向こうも本気と言うだけあって中々ダメージすら与えられなくなる状況に。

 

それだけでない、無数の黒い河童兵がダブル達に攻撃をしかけてくるのだ。ざっと二十かそこらは超えているだろう。

しかもこの黒い河童兵、それなりにステータスも高く試しに最も威力が低いサイクロントリガーの銃弾を打ち込んでみたが、効果が全くと言っていい程無いときた。

 

 

『まあゼノン! これってもしかしてピンチってヤツなのかしら!』

 

「そうだね、大ピンチだよハニー!」

 

 

ダブルはそういいながらもどこか余裕を持って河童兵の攻撃をかわしていた。

そして誰かと通信している。

 

 

「まだなのかい? ちょっとそろそろヤバイよ!」

 

 

どうやらダブルは何かのタイミングを待っている様だ、しかし通信の相手はまだ準備ができていないと言う。

もう少し待て、そう言われて通信は終わった。ダブルはため息をつくと河童兵と鬼河童に向かって笑みを投げかける。

 

 

「フルーラ、もしこの戦いが終わったら……一緒に、暮らそう!」『ヒィト!』

 

『まあ! 死亡フラグびんっびんねー!』

 

 

というか既に一緒に暮らしているのだが……

まあ二人が楽しそうならそれでいいのかもしれない。

ダブルはヒートトリガーにチェンジすると炎弾を発射しながら敵の群れに突っ込んでいく。

 

 

「ボク達の戦いはこれからだぁあああああああッッ!」

 

『うちきりねーッ!』

 

 

巨大な爆発がダブル達を包むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程からずっと冷たい冷気が身を切り裂くように感じる。

仮面をしているとは言え、呼吸さえも体力を大きく消耗しているのではないかと感じていた。

そこに襲い掛かる二本の刀、どうやら彼等は全員寒さには耐性があるらしい。

すでに冷凍庫と化した室内でアギト達は死闘を繰り広げていた。

 

雹の力で室内には大量の雪が積もっており、それがアギトの動きを鈍らせる。

それはつまり自分を押しつぶそうとしきりに飛び跳ねるおとろしから逃げにくくなると言う事だった。

おとろしから逃げても安心はできない。一本だたらは常に自分を狙ってくるし、彼を退けても雪男の一撃が待っている。

相当の威力を持つそれを受けきるのは厳しい、回避をなんとかしてとりたいものだ。アギトは攻めるタイミングを見つけられず、冷気に追い詰められていく。

 

 

「クッ! 炎よ集え!」

 

 

このままでは負ける。しかしある程度敵の行動パターンも読めてきた。

アギトはベルトに手をかざしてフレイムセイバーを出現させる。同時に炎がアギトに収束して弾ける。

フレイムフォームになったアギトは鞘と刀を構えて炎を出現させた。しかしすぐに冷気がアギトに襲い掛かり炎の勢いを弱めてしまう。

どうやら自分の炎では雹の冷気には勝てないらしい、アギトは不安を抱きながらも襲い掛かってきた一本だたらに向き合った。

 

刀と刀がぶつかり合い、二人はそのままギリギリと押し合い。

だが敵は一人じゃない、アギトは鞘をだたらの刀に叩き込むとすぐに彼から距離をあけた。

直後自分のいた場所に大きな雪玉が降ってきた。雪男だ、彼は巨大な雪玉を何個かつくるとソレをアギトに向けて投擲する。

本当に厄介でしかたない。

 

 

「ぐぐッッ!! ガァアアアアアアアア……ッッ!」

 

 

油断していた。ふと気がつけばおとろしが頭上にいて自分を押しつぶそうとしていた所だった。

もちろん避けられる訳も無く、アギトは彼の下敷きになってしまう。なんて強い力なんだ――ッ!

どれだけもがこうともおとろしが動く気配はない。そうしている間にどんどん冷気は強くなってくる。

流石にもう完全に寒いと感じるレベルになってしまった。自分の炎をかき消して冷気は自分を侵食してくる。

 

 

「光よ!」

 

 

無駄に力を浪費している気がしてならない。

しかしこうするしかない、アギトはトリニティに変わり、その光の衝撃波でおとろしを吹き飛ばす。

 

 

「ふふふ……!」

 

「!」

 

 

炎の暴風を発生させるアギト、しかしそれすらも雹の冷気には届かずにかき消されてしまう。

既に寒さで体力が減っていたから、それだけ炎の風が勢いを減らしているのだろう。

フォームチェンジのタイミングを間違えたか。しかし今更な話だ、アギトは仕方なくフレイムセイバーとストームハルバードを構えてただら達に攻撃を仕掛けていく。

激しいアギトの猛攻にただらは押され始めるが――

 

 

「ぐぅぅッッ!」

 

 

雪男の巨大な拳がアギトに叩き込まれる。

なんとか武器を交差させて盾にするが、それでも衝撃はすさまじい。

アギトは膝をついて耐える姿勢となってしまう、そんな隙だらけのアギトを放っておくわけも無い。

ただら、おとろしは耐えているアギトに向かって斬撃や衝撃波をぶつけていった。

 

 

「ぐあああああああああッッ!!」

 

 

フィニッシュに雹の出現させた巨大な氷柱がアギトに降りかかる。

ダメージで力がゆるみ雪男のアームハンマーまで受ける始末。やはり四対一は無理がある。

しかもアギトにとっては雹の背後で氷付けにされている鏡治たちが気になって仕方ない、雪と冷気で疲労もどんどん蓄積されていく。

勝利への道も全く見えない状況だ。アキラを救うどころか鏡治達すら救えないのは教師代理として最も恥ずべき事である。

雹たちを見れば余裕の表情でコチラを見ているじゃないか、どうやらまだまだ彼女達は本気を出せるとみて間違いないだろう。

 

 

「………」

 

 

仕方ない。

 

 

「――ッ」

 

 

これだけは、使いたくなかったが――!

 

 

「ほら!」

 

「ッ!!」

 

 

アギトの武器が雹によって氷付けにされる。

ただの鈍器になってしまったセイバー達を見てアギトは覚悟を決める。

二つの武器を投げ捨てると、アギトは初めての構えを取った。

 

 

「ッ?」

 

「ハァァァァァ………ッッ!」

 

 

それは自分が始めてアギトに変身した時の事。

自分はアギトの基本的な戦い方と、今現在自分が変われるフォームの説明を脳内で一瞬にして行われた経験がある。

後でユウスケに聞いてみれば彼もクウガに始めて変身した時同じような事が起きたらしい。

 

問題は自分が受けた説明の中に、"使ってはいけない"フォームがあったと言う事。

炎を操るフレイム、風を操るストーム。両方の力を持ったトリニティ、そして自分の行動を遮る鎖を吹き飛ばすトワイライト。

 

この四つの他に、あと一つのフォームを自分は『誰か』に教えてもらった。

だが不思議な事に彼はその力は危険だと言ってみせた。

 

あまりにも絶大な力ゆえに今の自分では理性を失う可能性が高いと言う事、翼はその忠告を受けて今までその力を使う事はなかった。

いや、ピンチになった時何度か使おうとも思ったがギリギリまで粘った結果今までは使わなくとも大丈夫だったのだ。

しかし今はもう無理だ。ここで使わなければ自分も鏡治達も死ぬ、それだけは避けなければならない。

恐怖はあるが、力の使い方を冷静に考えれば道を踏み外す事はないだろう。そうアギトは思っていた。

 

 

「!?」

 

 

その時、部屋の中に黒い河童兵が出現する。

それがすぐに敵だと言う事は分かった。このタイミングでの増援、まして黒い河童兵からは通常の河童兵とは違う雰囲気を感じる。

まるで生き物でないような、そんな雰囲気を。

 

 

「ははは! 絶望しなさい、下等種族が!」

 

 

黒い河童兵が何なのかは分からないが、自分にとって不利になったと言う事くらいは分かる。

雹はいきなり現れた援軍に気をよくしたのか、思わず立ち上って勝利宣言を行った。

 

その言葉に反応してただら、雪男、おとろしはそれぞれの攻撃方法を行使。

しかしアギトに絶望の念は無い。それに答える様にしてベルトが光と共に形状を変化させた!

この力がどういうものなのかは分からない、力に飲み込まれるといわれてもイマイチピンとこないのも確かだ。

しかしこの状況を変えられると言うのなら――

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

変わるしかないだろう!

 

 

「変――ッッ」

 

 

その時、急激に異変が起きた。

アギト、翼の目の前にアギトが現れたのだ。そして自分は翼に戻っている。

不思議な事ではあるが、それだけならば特に問題は無かったかもしれない。

 

目の前にはアギト、それだけだった。辺りは真っ暗で雹達も友里達も皆消えてしまった。

何だコレは? 翼は少し不安げに周りを見回す。静かだがそれは決して音がしないからではなく、まるで時間が止まった様に。

音という存在がそこに無かった様に感じた。翼は目の前にいるアギトを見る。

 

それはグランドフォームではない、ではストームか? フレイム? いやそれも違う。

トリニティ? トワイライト? もちろんそうではない。

 

では何か? 翼はそのアギトが何なのかを確かめる為に一歩彼に向かって近づいた。

暗くてよく見えないがとても強い光を放っている。熱い、体が……心が焼けそうだ――ッ!

 

 

「―――ろ」

 

「え?」

 

 

何かアギト言った気がする。

少なくとも自分の声では無いが、それが誰なのかは全く分からない。

それに姿もまだ分からない。こんな事なら司くんからもっとアギトの話を聞いておくんだった。

そんな事を思いつつも、翼はまた一歩足を踏み出す。

 

 

「―――ろ」

 

 

また何かを言った。

翼はアギトの正体を突き止める為に、もっと足を進める。

そしていよいよアギトが間近に迫った時、はっきりと彼が何を言っているのかを理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『逃げろ』

 

 

アギトは手を伸ばした。

そして翼の顔を手のひらで覆う様にして鷲掴みにする。

 

 

「―――」

 

 

そこまでだった、そこまでが翼が覚えていた範囲。

しいて言うなれば、翼は最後にその結果を理解する。

アギトは自分の頭を掴む力を強めた。そして自分の頭部は激しい炎に包まれて――、砕かれたのだ。意識もろとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

あっけないものだ、雹達は拍子抜けだと笑ってみせる。

何かをしようとしていた様だが、結局彼はいきなり動きを止めてしまう。

何がしたかったのか? 隙だらけのアギトに待っていたのはおとろしのプレス攻撃。

もちろん彼はそれを避ける事はせず、おとろしの下敷きになってしまう。

 

そのまましばらく時間が経ったがアギトが何か反応する様子は無かった。

雪に埋もれて姿は見えないが、絶命したと見て間違いないだろう。雹達は予定通りまずは鏡治を殺す事を決める。

そしてまだ誰かを友里でおびき出せばいい。彼女は踵を返して――

 

 

「ゴ……ッ! ゴゴオオオオ!?」

 

「!?」

 

 

その時、おとろしの周りから強烈な蒸気が巻き起こる。

何だ? 振り返る雹達が見たのは――

 

 

「な、なんだあれは……!」

 

 

アギト、だろうか?

しかし驚くべきなのは彼が今おとろしを持ち上げていると言う事。しかも事もあろうに片手ではないか!

それだけではない、彼の周りの雪や氷がすべて溶けている!?

 

 

(馬鹿な! 私の氷を――ッ!?)

 

 

これだけでも十分驚くべき事なのだが、やはり最もたるのは今のアギトがまるで人間ではないとしか思えない事だった。

赤い体からはヒビ割れが少し確認でき、そこから光と強烈な熱が発生しているようだ。

同じく赤く染まった角は既に展開しており、黄色の複眼からは殺意に満ちた視線を感じる。

 

いや、殺意というよりは本能といえばいいだろうか?

純粋な闘争心、ましてそこに理性などある訳もない。

体は若干大きくなっている様にも思え、口からはまるで獣の様に声を漏らしている。

 

 

「ァァァァァ―――………」

 

 

おとろしは必死にアギトから逃れようとするが、アギトはおとろしを決して放そうとはしなかった。

その迫力に沈黙する雹達、どうしようかと迷っている様だ。アギトもまたしばらくは沈黙していた。

まるで天高く掲げたおとろしをどうしようかと迷う様に。その素振りはとてもじゃないが知能を持った人間とは言いにくい、まるで猿の様に。

 

 

いや、野獣の様に。

 

 

「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!??」

 

「「「!!」」」

 

 

突如アギトは持っていたおとろしを雹達の方へと投げる!

あの巨体がなんとも軽々しく宙を舞い、おとろしは悲鳴をあげた。

雹達は何とか我を取り戻し、おとろしを避ける様にして跳ぶ。

おとろしは壁に叩きつけられながらも、何とか状況を理解して反撃の手に出た。

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

おとろしが大声を上げると、その巨大な口から衝撃波が発生される。

衝撃波は物凄いスピードでアギトに向かうが……その時、アギトのクラッシャーが開いた。

口が自由となったアギトがとる行動はただ一つ。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

それを超える咆哮をあげるだけ。

アギトは衝撃波をただの大声でかき消すと、すぐに足を一歩おとろしに向けて踏み出す。

 

最初は一歩、一歩とゆっくり進んでいたが、すぐに早歩きになり間髪いれず走りに変わった。

まるで獲物を見つけた獣が狙いを定めていく様にしてアギトはどんどんスピードを上げる。

注目する点はアギトが通った所は雪がなくなっていると言う事。

 

そこにはもう人の面影など微塵も無い、おとろしはすぐに飛翔しようと力を込める。

アギトの距離もまだ少しあったからか、おとろしはそのまま上空へ何とか身を投げる様にして飛び立つ。

先程は何かの間違い、おとろしはそう思い再びアギトを狙う!

 

 

「?」

 

 

いない!? どこを見てもアギトが地上にはいなかった。

混乱するおとろし、ではアギトはどこに? そうだ簡単な話ではないか、地上にアギトがいないのならば――

 

 

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「――――!!」

 

 

おとろしが跳んだと同時にアギトもまた空中へ跳んでいた。

アギトはおとろしを炎を纏った拳で殴りつけると、もの凄い勢いで地面へと叩きつける。

そのあまりの衝撃におとろしはバウンドして再び空中へと浮いてしまう程。

 

着地したアギトは宙に浮いたおとろしに再び拳を叩き込んだ。

抉り上げる様にして放つアッパーでおとろしは天井に叩きつけられてしまう。

そして落ちてきたおとろしに再びアッパー。天井にぶつかるおとろし、落ちるおとろし、またアッパー。

それが何度か続いた時、天井が限界を迎えておとろしはどこかへ飛んで消えてしまった。

 

 

「な、なんだ……あれ……あれは何だ!?」

 

 

哀れな女、雹。せっかくただらと雪男が沈黙していたのに彼女は声を上げる。

その声に反応して、アギト・"バーニングフォーム"は彼女の方へ振り向いた。

 

 

「ヒッ!」

 

 

雪女であるにも関わらず、全身が冷気に包まれる。

怖い、それが切なる感情。

 

 

「……な」

 

 

アギトは歩き出す。

 

 

「……るな」

 

 

アギトは走り出す。

 

 

「くるなぁあああああああああああああッッ!!」

 

「グガァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もしもし! ちょっと今戦ってる途中だから手早く済ませるよ! 頼むから助けてほしい! 正直今のままじゃボクらは詰み、負けるんだ!』

 

 

で、アギトが暴走した! え? 暴走について教えなかったのかって?

知らなかったんだよボク達は! ご主人様は分かっていたんだろうけどね!!

とにかくもう頼めるのは君だけなんだ!

 

 

「やれやれ、そうは言いますが貴方達が舞台に上がった今、案内役の代理で私がいる訳です。その案内人が協力と言うのは――」

 

『ちょっとくらい大丈夫だって!』

 

 

電話の向こうで珍しく声を荒げているゼノン。"友人"はそんな彼とは対照的に冷めた様子で対応していた。

簡単に言ってくれるがそれはとても大きな賭けだと彼らは分かっているのだろうか? そもそも――

 

 

「とにかく、私がオーケーする訳には――」

 

『今度、"鮭児"奢るからさ!』

 

「分かりました、では私は何をすれば?」

 

 

この友人もまあ極端である。鮭の中でも高級な鮭児で見事に釣られた。

彼はゼノンに作戦を教えてもらう事にした、ゼノンが彼に頼んだのは暴走したアギトを止める事。

バーニングフォームになったアギトはその力を抑える事はできず、結果理性を失った。

 

このままでは死人がでる事は確実。

それは雹達かそれとも鏡治か、はたまたアギト自身か?

とにかく暴走したアギトを止めなければ大変な事になる。この状況での中、アギトを止める事のできる要因を用意しなければならないのだ。

彼を止められる物でパッと思いつくのはやはり大切な人だろう。それは生徒であり――

 

 

「愛は世界を構成する要素の一つ」

 

 

で、あらば。

 

 

「ふぅ、リスクは当然と言う訳ですか。ならば彼女達にも舞台に上がってもらいましょうか」

 

 

そういって友人はオーロラを発生させる。

なるほど、やはりまだ自分はオーロラを出せるのか。

魔女もナルタキも気がついていないならば好都合、すこし絵本に落書きさせてもらいましょう。

 

友人はオーロラを潜り抜けて、さらにオーロラを出現させた。

しかしこのオーロラ、かなり巨大ではないか。それは当然、なぜならこのオーロラは人が移動する為のものではない。

建物を移動させる為の物なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし! これでいい感じ。三人ともお疲れ様」

 

「はい! 葵さんもお疲れ様です」

 

「おいしそう…だね」

 

「うん! いい感じだと思います」

 

 

食堂ではちょうど葵、夏美、真由、里奈が料理を終えた時だった。

アキラがお腹を空かして帰って来るかもしれない。それに皆疲れて帰ってくるだろうから、飛び切りおいしい物を用意したいとの事だ。

三人で用意した料理も無事完成して、それを冷蔵庫に入れて終わり。三人は自分達にできる戦いをひとまず終えた所だった。

 

 

「皆、大丈夫かな……?」

 

 

葵は不安そうに窓の外を見てみる。

ここからじゃ妖怪城は見えないが――

 

 

「あれ?」

 

 

見えなかった筈なんだけど――

 

 

「な、なにコレ!!」

 

「おしろ……だ」

 

 

学校から見えるのはどこからどう見ても城そのもの。

そしてこの世界において城と言う存在は妖怪城を除いては無いはずだ。

つまり今、自分達が見ている城は妖怪城そのもの。でもどうして? 料理を始める前はどの窓からも城は見えなかったのに。

 

 

「お城が移動したんでしょうか!?」

 

「う、うぅん……! どうだろうね?」

 

 

四人は事態を把握する為に一度校門前まで移動してみる。

そして気がついた、城が移動したんじゃない。学校が移動していたのだ。

街の近くにあった学校、しかし今は妖怪城がある山の中に学校が存在している。何故移動した? 戸惑う四人に――

 

 

「はじめまして、空野葵さま、光夏美さま、天王路真由さま、野村里奈さま」

 

「「「!」」」

 

 

声が聞こえて四人は辺りを見回す。

まだ校庭から出ていないのに、声が聞こえると言う事は普通ではない。

だが四人がどこを見ても人影は無く、声がどこから聞こえてくるのか分からない。

 

 

「これは失礼、私はココですよ」

 

 

そういって友人は"木の上"から飛び降りる。

そこで初めて四人と顔を合わせる訳だが――

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

そんな声が漏れて。

 

 

「「「えええええええええええええええええええ!?」」」

 

「わぁ……!」

 

 

叫ぶ三人と、目を輝かせる真由。

それはそうだ、皆話しかけられたのだからそれはてっきり人だとばかり決め付けていた。

 

いや、そもそもまず言葉というものを話す時点でそれは人である証拠じゃないのか?

しかし今三人の目の前にいるのはどこからどう見ても人ではなく――

 

 

「私はゼノンとフルーラの友人です。名前は……どうぞ今はご自由に"読"んでください」

 

 

彼はどこからどう見ても、"猫"である。

 

 

「ね、猫が喋ってる……」

 

「猫ちゃんだぁ……みゃー、みゃー!」

 

 

目を丸くする里奈達、対して特に何の疑問も持たずに真由は友人を抱きかかえて頬ずりしている。

"友人"は自分が普通ではないという事が分かっているらしく、全く驚いていない真由に逆にビビッていた。

 

 

「ふ、ふむ。悪くない居心地ではありますが、今はそんな場合ではありません」

 

 

そういって友人はじたばたと動き回りなんとか真由の腕の中から抜け出す。

そして彼は真っ直ぐに葵に視線を向ける。そして貴女に用があって来ましたと告げた。

 

 

「わたし?」

 

「はい、小野寺翼が大変危険な状態なので」

 

「!!」

 

 

翼が危険、その言葉に四人はすぐに詳細を求めた。

友人が告げるのは翼は禁断の力に手を出してしまった故に暴走を起こしたと言う事だった。

このままだとどうなるのか? それはやはり死者が出ると言う事だ。

 

例えばアギトが敵の力で暴走してしまった場合、彼は理性を失った上であってもトワイライトフォームに変わる事ができる。

あのフォームはいかなる場合でも変身を邪魔する事はできず、結果はトワイライトの力で暴走を抑えられると言うものだった。

 

だがしかし今現にアギトは暴走したままである。

それはつまりトワイライトに変身できないと言う事だ。

何故? トワイライトはどんな状況でも変身できるのに?

 

答えは、バーニングフォームがトワイライトの上位にあたる存在だからだった。

バーニングフォームもまたアギトの行動を邪魔する物を焼き尽くすフォームである。

 

だから彼は今トワイライトには変われない。

何故ならば今現在がトワイライトの様なもの。

つまりアギトはトワイライトフォームの状態で暴走している事になる。暴走を解除するにはアギト自身がバーニングを解除しなければならないのだ。

 

 

「今のままでは危険です」

 

 

制約解除の効果はアギトの任意で行われるが、今現在アギトに理性は無い。

きっと全ての行動制限を彼は解除していくだろう。それはどういう事か?

簡単だ、ゼノン達がアギトにかけた力のセーブも無効化されていると言う状態である。

この世界の住人を殺さない様にしかけたセーブが今は無い、そして闘争本能に塗れたアギトに手加減ができる訳も無し。

 

 

「アギトが敵を殺すか」

 

 

そしてアギト自身にも問題はある。

バーニングフォームは強力だがその代償として時間制限があるらしい。

胸にあったヒビが時間と共に広がっていき、時間を超えると肉体が崩壊してしまうのだ。

しかし理性を失ったアギトが危険を察知してフォームを解除するとは思えない。

 

きっと彼はこのまま肉体が崩壊するまで戦うのをやめないだろう。

暴走した故か少し時間も長くなっている様だが、このままでは確実にアギトは崩壊してしまう。

それにいきなり全身が崩壊する訳でもない。限界を迎えた部分から砕けていくのだ、腕の一本でも砕けてしまえばもうお終いである。

 

 

「アギトが崩壊するか、アギトが敵を粉々にするか。とにかく一刻を争う事態、できれば葵さまの力をお借りしたい」

 

「は、はい! わたしは何をすればいいの!?」

 

「ただ呼びかけてもらえれば。しかしそれで暴走が収まる保障はありません、あくまでも貴女の声ならば……と言うだけです」

 

 

できれば夏美達生徒もいた方がいいのだろうが、今は黒河童兵も城内を多く徘徊している。

友人は舞台に上がるのは初めてだ、慣れないと言う事もあってか葵一人のほうが守りやすい。

 

 

「それでも、守りきれるとも限りませんがね」

 

「うん、いいよ。わたしが役に立てるのなら――ッ」

 

 

そうですか、それは助かります。

そういって友人は急に立ち上がる。先程までは四足歩行だった彼だが、まるで人間の様に二足歩行となった。

それだけではなく、小規模のオーロラが現れて彼を通過すると、ケープと長靴が彼に装備されていく。

 

 

「では参りましょう。他の皆様は絶対に外に出ないようにお願いします」

 

 

呆然とする夏美達はコクコクと頷くだけ、そのまま普通に二足で歩いて友人は外に出る。

それに続くようにして恐る恐ると足を踏み出す葵、気をつけてと心配する夏美達に笑みを向けると彼女は完全に外に出た。

ずっと学校にいた彼女にとって他世界に足を踏みいれるのは新鮮であり、恐怖でもある。

 

 

「確かゼノンの話では、翼様がいるのは冷凍庫の筈」

 

 

ふむ、その格好では少し心配ですね。これは失礼。

そう言って友人が指を鳴らすと再びオーロラが出現。

葵を通過すると、いつの間にか彼女に帽子と耳当て、マフラーに手袋が装備されていた。

 

 

「わぁ! すごい!」

 

「しま○らで買ったんですよ。じゃあ行きましょう」

 

 

もう一度友人はオーロラを出現させる。

ふと気になるのはこの力を使えばアキラの所までいけるんじゃないかと思うが。

 

 

「ええそうですね。妖狐の機能が停止した今、私がアキラさんの居場所さえ分かれば不可能では無いかと」

 

「えぇ! 本当!?」

 

「ですが、それをしてしまうと面倒な事になる可能性が高いのですよ」

 

 

Episode DECADEが崩壊する。

その言葉を言おうとして友人は口を閉じる。どこまで話せばいいのやら? 何を言えばいいのやら?

だがとにかく今は急ぐべきだ。二人(?)はオーロラの中を通り、一気に城内へと侵入する。

大きな扉の前に立ち、葵は扉の上にある文字を見る。そこには冷凍庫と書かれたプレートがあった。

 

 

「さて、この中に翼様がいます。ですがくれぐれもお気をつけください、今の彼は小野寺翼ではなくただの野獣です」

 

「そんな……」

 

「理性は無く、たとえ貴女であろうとも容赦なく攻撃を仕掛けていくでしょう」

 

「わ、わかったわ……」

 

 

友人が言うには今、自分はなるべく世界に干渉してはいけないらしい。

なので扉を開けるのも葵が請け負う。その中にいたのは――

 

 

 

 

 

数分前。

 

 

「くるなぁあああああああああああああッッ!!」

 

「グガァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

走り出したアギトを止める為に雹は氷柱を連射してなんとかアギトを止めようとする。

しかし全ての氷柱はアギトに叩き落されて、アギトはどんどん距離を縮めてくる。

しかし他の妖怪も黙ってはいられない、一本だたらはすぐに動き出して刀を構えた。

雪男も大きな雪玉をつくってアギトに向けるが――

 

 

「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

アギトは咆哮を上げて思い切り地面を叩く、すると冷凍庫に積もっていた雪が全て溶けて蒸発したではないか!

消し飛んだという表現の方が近いか、もちろん雪玉は消えて鏡治と友里を閉じ込めていた氷も一瞬で溶けてなくなる。

 

 

「ば、化け物めぇッッ!!」

 

 

トワイライトの能力である行動を縛るものの破壊。

それが発動したと言う事だろう、雹達や鏡治にダメージは無いが雹達が受けた精神的なダメージは大きかった。

 

それでも一本だたらは冷静に狙いを定める。今のアギトは力こそ強いが、だからこそ単純な筈だ。

大降りの攻撃の後には必ず隙ができる、そこを狙えば――

 

 

「ガァァァァ………!!」

 

 

しかしそれよりも早くアギトはだたらの刀を掴む。

そう、それはまるで力こそが全てだと言わんばかりに。

アギトは一本だたらの刀をへし折った、それも二本ともだ。

 

 

「!」

 

 

刀を失っただたら、そんな彼にできる事などあろうか?

彼はそのままアギトに殴り飛ばされて気を失った。なんとか命は無事の様だが次に殴られればその保障は無い。

幸い、アギトは次に周りを跳び回る黒河童兵に目をつけた。

 

 

「………」

 

 

黒河童兵は河童兵よりもさらに早く、さらに強烈な攻撃をしかけてくる。

流石は妖刀で作られただけはある。五体はいるだろう黒河童兵達はそれぞれチェーンを構えてアギトの四肢に巻きつけていった。

しかし彼らは知らない、そんな物は無意味だという事が。アギトの力で簡単にチェーンは破壊される。

それがトワイライトの力。しかしバーニングはその上を行くのだ、それは自分の行動を邪魔したものへのカウンター。

 

チェーンを破壊するだけでなくチェーンに炎が燃え移りそのまま黒河童兵達を炎をプレゼント。

炎はすぐに全身を多い、五体の黒河童兵はしばらくもがき苦しんだ後に消滅した。

妖刀の力で生み出された黒河童兵(まぼろし)だったからよかったものの、これがもし本物の河童兵だったらと思うと――

 

 

「………んッ!!」

 

「―――……ッ!」

 

 

目を開ける鏡治と友里、自分達はどうなった? そう思いながら二人は辺りを見回してみる。

鈍る意識の中、何とか二人は自分達が雹にやられてココに来たことを思い出す。その雹が腰を抜かしてブルブルと震えている姿が見えた。

 

何が? 二人は雹の視線の先を見る。その途中で気絶している一本足の妖怪が見えた。

そして天井には大きな穴。いや、天井だけじゃなくて壁やいろいろなところに壁や亀裂が見える。

そして二人はそれを視界にとらえた。雪男の上に馬乗りになって彼を殴り続けているアギトの姿を。

 

 

「先……生?」

 

「せ、センセーなのか!?」

 

 

確かにアギトの姿に見えるが――……

鏡治も友里も今のアギトの戦い方が翼の性格上とは結びつかないから戸惑っている様だ。

見たことの無いフォーム、そして命乞いをする様に鳴く雪男を無視して尚も殴り続けているアギト。

 

 

「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

アギトは両手を振り上げてそのまま叩きつける。

それで限界がきたのか、雪男は爆発。砕けたメモリとその使用者が露出された。

どうやら彼はヒトツミ側だったのか、しかし――

 

 

「え?」

 

 

まだ終わっていない。

アギトは気絶した変身者を掴み上げると、もう一方の拳を握り締める。

炎が拳を包み、アギトはそれを構えた。

 

 

『鏡治! アレやばいんじゃないか?』

 

「お、おぉ……!」

 

 

あのままだと確実にアギトは拳を無抵抗の人間に叩き込むだろう。

ますます翼らしくない行動に、友里たちは何かが起こっていると確信する。

 

 

「ごめん先生!」

 

 

友里はデルタムーバーでアギトの拳を撃つ。

 

 

「………」

 

 

沈黙、停止、アギトは掴んでいた人間を投げ飛ばして解放させる。

そして光線が飛んできた場所に視線を向けた。身構える友里と鏡治、あれは翼なのか? 咆哮の声を聞くに翼っぽいが……?

 

 

「ガァァァァ………!」

 

 

アギトはそのまま友里たちのところへ向かう。

危険な雰囲気しかしないが、二人はそのまま動く事も、まして変身すらせずに立っているだけだった。

アギトが自分達に危害を加えないとでも思っているのだろうか?

 

 

「ァァァァァ………!」

 

「先生――……ッ?」

 

 

アギトは二人の前に立つと、しばらく沈黙してまじまじと二人を見る。

だがそれもすぐに終わった。

 

 

「アガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「「!」」

 

 

アギトが叫ぶと、彼の胸にあった亀裂が大きく広がっていく。

ボロボロと崩れる装甲、そして亀裂は腕にまで広がっていった。

叫びの声は間違いなく翼、鏡治も友里もアギトがこのフォームの影響でおかしくなってしまったのだと思う。

 

 

「先生……ッ!」

 

 

アギトは拳を握り締める。

炎が彼の拳を包み、それが攻撃の準備だと二人は理解。変身するか、それとも逃げるのか?

二人は不思議と黙っていた。動く訳でも、構える訳でもなく二人はアギトをジッと見ていた。

動けなかったと言うべきか。蛇ににらまれた蛙みたいに、アギトが拳を振り上げているにも関わらず二人は動かない。

 

 

「………」

 

 

だがそれから少し時間が経ってもアギトは拳を振り下ろさなかった。

代わりにアギトは頭を抱えて一歩二人から遠ざかる。その姿は何とも苦しそうで、二人は何かしたいと強く思うのだが――

だけど何も思い浮かばなくて、結局まだ黙っているだけだった。

 

 

「グガァア……ガガガ……ァァアアア……ッッ!!」

 

 

アギトは頭を抱えるだけでなく、苦しそうに声をあげる。

 

 

「大丈夫、先生ッ!!」

 

「センセー! 俺の声が分かるか!?」

 

 

二人の声に反応する様にして、またアギトは叫びをあげる。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

アギトは行き場の無い拳をブンブンと振り回し、直後近くの壁に思い切り頭を打ち付ける。

それも一回ではなく何度もだ、彼はまるで苦悩を晴らす様にして何度も頭を打ち付ける。

その姿を見ていられないと友里と鏡治はアギトに向かって手を伸ばした。

 

 

「熱ッッ!」

 

「な、なんだ――ッ!」

 

 

アギトに触れた瞬間、二人はすぐに手を引き戻す。アギトの体から物凄い熱を感じたのだ。

完全にやけどしたと思ったが、手の見てもどこにも火傷はしていないし痛みも手を放した瞬間に引いた。

どうやらアギトの放つ熱は普通の物とは違うらしい。だがアギトに触れる事すら難しいのは厳しいものだ。

 

 

「ァァアァァアアアアァアアァアアァァァァァァアアアア………ッッッ!!」

 

 

さらに広がるアギトの亀裂。

アギト自身苦しいのか苦痛に叫んで、さらに頭を打ち付ける。

それが少し続いた後、彼は地面に倒れもがき苦しむ。

そして少し落ち着いたかと思えば、アギトは友里と鏡治に向かって手を伸ばした。

 

 

「――――ァァァァァァアアァァアァァ……ッ」

 

 

それはまるで助けを求めるかの様に。

そんなアギトの姿を見て、友里と鏡治は涙を流す。

今までずっと頼りにしていた翼が自分達に助けを求めている様に見えて、二人は耐えられなかった。

そして、友里はアギトの伸ばした手を強く握り締める。

 

 

「うぐッッ!!」

 

 

それは鏡治も同じだ、アギトの手を握り締める二人。

だが実際は熱した鉄に手を押し当てている様なもの。

熱いというよりも激痛が二人の手に走る。しかしそれでも二人は手を離さなかった、離す訳にはいかないんだ。

むしろ二人は握り締める力を強めて翼の名前を呼んだ。

 

 

「先生……ッ! お願いだから元に戻って!!」

 

「センセー! 戻ってくれよぉッッ!!」

 

 

二人は苦痛に顔を青ざめ、油汗を流しながらも必死に訴えた。

 

 

「ァァァァァァアアアアアア………ァァ!」

 

 

対して弱弱しくアギトは声を漏らす、そんな彼の肩に触れる手。

 

 

「え?」

 

 

二人はその人を確認する。

その人はアギトを後ろから抱きしめる様にしており、手だけじゃなくて全身でアギトを包んでいた。

だがその人はココにいる筈がないのに? 友里たちは思わずその人の名前を叫ぶ。

 

 

「「葵さんッ!?」」

 

 

空野葵は慈悲に満ちた表情でアギトを抱きしめていた。

だが忘れてはいけない、今のアギトは溶岩石と言っても過言ではないのだ。

友里と鏡治たちは手だけでも泣き叫びそうな痛みなのに、葵は全身でそれを受けている。

 

いくらグローイングフォーム並みの防御力があるとは言え、普通ならば発狂する程の痛み。

にも関わらず葵は優しく微笑んでアギトを抱きしめていた。

同じく苦痛に汗を浮かべている辺り、必死に耐えているのだろう。

 

 

「もう、大丈夫だよ翼君……皆がいるから……ね?」

 

 

なんて優しい声なんだ。

その様子を遠くで見ていた"友人"は思わずため息をつく。

何度も言うがもちろん葵は痛みを感じていない訳ではない、汗がすごいし顔色も悪い、それでも彼女はアギトを強く抱きしめた。

 

 

「翼くん」

 

「翼先生!」

 

「翼センセーっ!」

 

 

三人は彼の名前を呼んで力を強めた。

 

 

「翼くん……」

 

 

葵は囁く様に言葉をかける。

 

 

「一緒に帰ろう? アキラちゃんと……皆と一緒に――ね」

 

「―――――」

 

 

その言葉と共にアギトのベルト、オルタリングが元の形状に戻る。

そしてアギトの体が光り輝いたかと思うと、変身が解除されて翼へ戻る事に成功した。

倒れる翼と喜びの声をあげる三人、葵は翼を抱きかかえるともう一度微笑んでみせる。

 

 

「おはよう、翼きゅ……つ、翼くん!」

 

「葵……さん。そこは噛んじゃ駄目でしょ……!」

 

 

そう言いながらも翼はしっかりと笑ってみせた。

その様子を見て友人は関心の笑みを浮かべていた。

やはりチームディケイドは中々面白いかもしれない、ゼノン達が肩入れするのも分かると言うものだ。

彼らは絆の形が非常に分かりやすい、最もそうなるように選んだのだが。

 

 

「!」

 

 

しかし、そこで友人の表情が一気に険しくなった。

彼はすぐにゼノンへ通信を繋いで声を荒げる。

 

 

「すいません、ミスりました。説明を十分にするのを忘れてしまった」

 

 

友人は悔しそうに言葉を続ける。

 

 

「光夏美、天王路真由、野村里奈の三名が学校の外に」

 

『成る程、何か本当余裕そうに見えて限界だよねボクら』

 

 

しかしそうなると厄介だ。

ゼノンはすぐに近くに誰かいないかを探る、そしてもう一つ友人は大切な事を忘れていた。

それは、アギトの変身は解除されたものの、まだ敵がいるという事。

 

 

「!」

 

 

いきなりものすごい冷気を感じたと思えば、一気に扉やその上にある穴が氷の壁に覆われる。

しまった! そう言えば、まだあいつを倒していない!!

 

 

「ぐぅぅうううッ!!」

 

 

ガタックとデルタ。

そしてアギトは三人で雹を囲んでいるが、疲労している上に葵を守りながらとなるとやはり不利になる事には変わりない。

しかもご丁寧に雹は葵を集中的に狙っているではないか、葵は悔しそうに唇を噛む。

 

尤も雹としても相当頭に来ているのか、かなり激しく冷気を放出していた。

雹は次々に氷の兵士達を生み出してアギト達に向かわせる。消耗戦をしかける辺り作戦を練る冷静さも雹は失ってはいない様だ。

せっかくバーニングを解除したと言うのに、これではかなり危険な事になる。最悪負ける可能性も高い。

もうアギト達三人にフォームチェンジを行えるだけの余裕はない。撃てるなら必殺技一発が限界か?

 

 

(ふむ、さてどうするか……)

 

 

助けるか、それとも見届けるか。

友人は曖昧な笑みを浮かべたまま、手にした"メモリ"を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し前に遡る。

それは学校で待機していた夏美達へと。

彼女たちは葵が出て行ってからも心配でずっと玄関前でウロウロとしていた。

 

妖怪城が目の前に見える。

一歩足を踏み出せばすぐに門の中から入り口に入れるのだ。

そんな彼女達の前に、ついに彼らは姿を現した。

 

 

「あ、あれが妖怪……」

 

 

三人の目の前に、同じく三人(?)組の妖怪集団が現れる。

綺麗な宝石の欠片を持ち、冷たい目で歩いてきたのは七天夜・夜叉。

そして彼が引き連れているペナンガランとランスブィルである。

 

明らかに人間とは違う容姿に、思わず沈黙する三人。

別に学校にいれば向こうに気付かれる事はないのだから黙る必要は無いのだろうが……

三人の妖怪は丁度夏美達の前で立ち止まる。

 

 

「え? な、なんでココで立ち止まるんですか!?」

 

「ば、ばれたとか?」

 

「おトイレかな?」

 

「「それは無いです!」」

 

 

二人の声がシンクロする中、里奈がさらに新たな妖怪を見つける。

それは見るからに吸血鬼と言える風貌の男性だった。彼の上級には無数の蝙蝠が密集して飛んでおり、彼に日陰を提供している。

男性は夜叉達の前で立ち止まると不適な笑みを浮かべる。夜叉と男性に挟まれる位置に夏美達はいる。なんとも緊張する光景だ。

 

 

「おやおや、これは夜叉様ではありませんか。今日は日差しが強いのによく立っていられるものだ、流石は七天夜になっただけの事はある」

 

「………」

 

「それにランスブィルにペナンガラン、プライドを捨ててまで鍛えただけはあるねぇ」

 

 

その言葉にペナンガランとランスブィルは怒りの形相を浮かべた。

今にも男性に襲い掛からんとする勢いだったが、夜叉は何も言わずに合図だけを送り二体を沈黙させる。

 

 

「ラ・セーヌ。まだお前たち、考え、変えてないかッ!」

 

 

ランスブィルは声を荒げてラ・セーヌといわれた男性に何かを訴えている様だ。

しかしその訴えを無視するように軽薄に彼は笑った。

 

 

「おいおい、冗談だろ? どうして俺達が考えを変えなきゃいけねぇんだ?」

 

「そうやってお前達は、いつまで過去に縋るつもりだ!」

 

 

ペナンガランも声を荒げてラ・セーヌに詰め寄っていく。

しかしやはり彼はそれをさらりと交わして笑ってみせた。

どうやら両者は同じ妖怪ながらも関係は良好とは言えない様だ。

 

 

「仲間割れですかね?」

 

「どうなんだろう? 分かりません」

 

 

息を呑む夏美と里奈、妖怪同士も色々いざこざがあるんだろうか?

 

 

「すがる? 逃げたお前らが何を吼えるかね!」

 

「なっ!」

 

「俺らの群を抜けて、必死に努力して――……その先に望む未来はあったかよ」

 

「……ッッ」

 

 

その言葉に先ほどまで感情を露にしていた二体が沈黙する。どうやら痛い所を突かれた様だ。

夜叉も少しその言葉には反応した所を見ると、彼も何かを感じているらしい。

 

 

「ペナンガラン、テメェは結局"外"には出れたか? そんな格好でよ」

 

「!!」

 

「ランズブィル、お前もだよ」

 

「そ、それは――……」

 

 

出れねぇよな! 出られる訳ないよなッ!

そう言ってラ・セーヌは声を大きくして笑う。

それが悔しいのか、明らかに不快な表情で二体の妖怪はラ・セーヌを睨みつけた。

言い返したいが言い返せない、そんな雰囲気を感じる。

 

 

「吸血妖怪部隊」

 

 

そんな単語がラ・セーヌから聞こえる。

 

 

「そこから逃げたのはお前らの方。でも結局お前たちの世界はこの妖怪城だけ、変ってねぇんだよ何も」

 

 

そんな化け物の体で、人の世で生きていけるわけがねぇんだよ。

その言葉を放った所で夜叉は動き出す。どうやらこれ以上の会話は無意味と悟ったのだろう。

夜叉は手に持っていた鍵をラ・セーヌに投げ渡す。

 

 

「おうおう、これが花嫁を閉じ込めておく鍵ですか」

 

「………」

 

 

ラ・セーヌはそれを受け取ると踵を返して歩き出す。

会話は終了したと思ったのだろう、夜叉も踵を返すが――

 

 

「あ、そうだ夜叉様。その二人は置いていってもらおうか」

 

「………」

 

 

立ち止まる三体、何を言っているんだ!?

ペナンガラン達は驚きの目でラ・セーヌを見る。相変わらず無表情の夜叉、彼はもう既に理解していた様だ。

 

 

「樹裏架が収集をかけたって言えば分かるな?」

 

「「!!」」

 

 

ペナンガランとランスブィルは焦った様に夜叉を見る。

そしてすぐにラ・セーヌを見る。そうとうな慌てぶりだ、何か思う事があるのか?

 

 

「吸血妖怪部隊再結成といこうじゃないか、樹裏架もそれを望んでる」

 

「「………ッ!」」

 

 

お前らは、どっちにつくんだ? 無言でラ・セーヌはそう言っている。

しばらく辺りは沈黙につつまれ、二体の妖怪は辛そうに俯く。

そしてしばらく時間が経った時、意外にも夜叉が口を開いた。

 

 

「ペナンガラン、ランズブィル、お前たちは樹裏架の元につけ」

 

「「!」」

 

「おそらく進入者達はすぐに其方へとやってくる筈だ。我々の目的は花嫁の守護、それを忘れるな」

 

 

ラ・セーヌは満足そうに笑うと今度こそ夜叉の前から立ち去るようにして歩き出した。

ペナンガラン達は少し迷う素振りを見せるが、夜叉に頭を下げるとそのままラ・セーヌの方へと続く。

夜叉もまた彼らの後ろに使い魔である支那夜叉を向かわせる徹底さを見せる。

 

そうやってそれぞれが完全に別れた後、夏美達は大きなため息をついてしゃがみ込んだ。

緊張からは開放された、しかし気になる事が一つ。

それは彼らが言っていた言葉、夏美達は全員その言葉を聞き逃してはいなかった。

 

 

「アキラちゃんの部屋の鍵――っ!」

 

「み、皆に知らせないとッ!!」

 

 

三人が今現在皆と連絡を取るには携帯を使うしかない。

しかし、理の欠片が通信機能を持っている為なのと、今現在かなりヤバイ状況と言う事もあってか誰も電話にはでなかった。

これはマズイ、そう判断した夏美はとりあえずラ・セーヌの後を追う事を決める。

 

里奈も真由も危険かとは思ったがココで見逃すのは避けたい。

危なくなったら学校に戻ればいい訳だし、無理をしない程度なら大丈夫かと考える。

夏美は二人に学校に残ってもらい、引き続き電話をしてほしいと告げる。そしてキバーラを連れて学校の外に出た。

 

 

「………ッ!?」

 

 

しかし、学校に出たとたん夏美の様子がおかしくなる。

彼女は慌てたようにして里奈と真由の名前を呼んだ。

 

どうしたのか? その声に答える里奈達。

しかし夏美はオロオロとしているし、キバーラもどうなってんのよ!

なんて言いながら飛び回っている。

 

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「大……丈夫…?」

 

 

夏美の様子があまりにもおかしかったので、里奈と真由はとりあえず学校の外に出て彼女に姿を見せた。

 

「あ、あれっ!?」

 

「どうし……」

 

 

そこで里奈と真由も気づく。

振り返ればある筈の学校がもうそこには無かったのだ。

 

 

「えっ?」

 

 

里奈は辺りを見回すがそれらしい影は無い、辺り一面山道である。

 

 

「私が学校を出て振り向くと学校が消えてたんですっ!」

 

 

これが夏美の焦っていた理由だった。学校から出ればもう学校には戻れなかったのだ。

焦った夏美は里奈と真由の名前を呼んだ。しかし返事は無かったと言う。

二人は確かに返事をした筈だが夏美には聞こえていかなかった。

だがとにかく分かる事があれば、それは一つ。今の状況がかなりヤバイと言う事だ。

 

 

「学校に……も、戻れなくなった――!?」

 

 

これはどういう事なのか、彼女たちには分からなかったが答えは友人(猫)が行った空間移動だった。

友人は学校を妖怪城の前に転送させたのではなく、学校から出れば妖怪城につくと言う風にオーロラで設定しただけだ。

 

つまり学校を移動させたのではなく、出口そのものを移動させたと言えばいいか。

学校を出れば街中に出ると言う設定を学校を出れば妖怪城の前に出ると言う設定にしただけでしかない。

学校の位置は変えてはいないのだ。要するにそれは一方通行。

 

だから友人は絶対に出るなと三人に言った。

そう、出口を変えただけなので、入り口は変わっていない。

学校を出てしまえばもう戻れないのだから。

 

 

「わ、私のせいです……ッ!」

 

「そんな! 気にしないで夏美さん、誰のせいでもないですよ!」

 

「うん……あ!」

 

 

真由が何かを見つけた様で、指をさす。

里奈達が振り向くと遠くの方だったが河童兵の姿が見えた。

 

 

「まずいです! ココは離れましょう!」

 

『ちょっとちょっと、もう!』

 

 

結局三人はラ・セーヌの後を追う事を決める。

ココにいれば河童兵に見つかるし、学校に帰ろうにも山道が全く分からないから迷う可能性が非常に高い。

話に聞こえば結構深い山中に妖怪城はあると言う。しかもこの世界の山は彼女達が考えている倍は危ないらしい。

となると無力な自分達にとってそれは得策ではない。

 

ならば少しでも役にたてる方を選択しようとの事だった。

危なくなったらすぐに逃げる事を誓って、三人と一匹は動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どわぁ!!」

 

「うひぃぃ!」

 

 

ねずみ男の顔スレスレを黒河童兵の刀が通りすぎる。

なんとも器用な姿勢でねずみ男はそれをかわして走りまわった。

そこそこ中庭は広いものの、やはり河童兵の数が多い。キバとカリスだけでは椿とねずみ男を守りきるのは難しいのだ。

ねずみ男と椿は互いに悲鳴をあげながら逃げ回る。

 

 

「おおおおいねずみ男後ろ、後ろに――」

 

「つ、椿ちゃんよぉ! 後ろに――」

 

「「え?」」

 

 

後ろを振り向く両者、すると見えたのは黒河童兵がその手に持った刀を振り上げている所だった。

 

 

「「ぎゃああああああああああああああ!!」」

 

 

椿は何とかブレイバックルを盾にして、ねずみ男は足で刀を白羽取りしてそれぞれ刀を防ぐ。

しかし黒河童兵はさらに力を入れてくるではないか。何とか一瞬だけ防げた様なものなのに、このままでは危険である。

 

 

「無理無理無理無理! 俺死ぬわーッ!!」

 

「河童兵様、今日もその色黒の肌が素敵でいらっしゃる! よっ! 世界一の色男!」

 

 

互いに何とか回避方法を探るが黒河童兵は妖刀の力で生み出されたレプリカ、感情も無ければ生命体ですらない。

敵の命を狙う純粋な力である、二人の行動はまったくの無意味であり限界も訪れる。

 

 

「大丈夫っすか!」

 

 

間一髪だろうか、二体の黒河童兵にバッシャーマグナムの水流弾が命中していく。

怯んだ黒河童兵を見て椿たちはキバの背後へと隠れる。

 

 

「あわわわ、助かったぜ亘ちゃん!」

 

「これマジでやば――」

 

 

ここで、ゼノンから通信が入る。

内容は夏美達が学校の外に出て戻れなくなってしまったと言う事。

ダブルも戦闘中なのでじっくりと探す事は不可能だったが、デンデンセンサーを使って一瞬三人の姿を確認できたと言う。

それが自分たちの近くなのだ、できれば助けに向かってほしいと言われるが――

 

 

「嘘だろっ!? 姉さん達だけなんて無謀すぎる!」

 

「………っっ!」

 

 

椿は覚悟を決めた表情を浮かべると、重い体を叱咤して走りだす。

そして黒河童兵にタックルを決めた。

 

 

「!」

 

「俺はもう大丈夫だ! だからお前が行ってくれ亘ッッ!」『ターン・アップ』

 

 

エレメントがさらに黒河童兵を吹き飛ばし、完全に消滅させる。

しかしまだ中庭に出現した黒河童兵は多く、時間を経て新しい者まで現れる始末だ。

しかし夏美達を放っておく訳にはいかない、迷った末キバを其方に向かわせる事を決めたのだ。

 

 

「………っ」

 

 

キバは少し立ち尽くし沈黙するが、すぐに頷いてガルルフォームに変わって駆けていった。

壁を蹴ってすぐに城壁を登っていき、そのままキバは見えなくなる。

ブレイドは今まで受けたダメージこそキングフォームに変わった事で消えたが、それでもキングに変わった事で受けた負担は重くのしかかって来る。

黒河童兵に勝てるかどうかも怪しいが、彼はブレイラウザーを構えて走りだしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶が焼きつくように、フラッシュバックする。

 

小学校の頃からバリアの無い所はあったから、両親は自分の事を思ってあえて皆と同じにしてくれたんだと思う。

両親はその事について深くは言わなかったけど、私はそれを嫌だとは思わなかったし、やっぱり皆と一緒がよかったから。

 

あの事故の事はあまり覚えてない。

もちろん悪いのは私だって事は分かる。

ベランダで遊んでたら屋根に上れるんじゃないかって思って……

それで私は結局足を滑らせて――

 

 

そこから先はあんまり覚えてない。

だけど、あの日が私が最後に歩いた日だったと思う。

 

お医者様からもう二度と歩けないかもしれないって言われた時は、やっぱりショックだったのかもしれない。

だけどあの時はそんなに深刻な事だなんて思ってなかった。

車椅子は使えるし、回りには支えてくれる人がいる。

そう、だから別に何の問題もないと思っていたのに――……

 

 

『私、もうあの娘送るの疲れちゃった』

 

『いいよね野村さんは体育とかやらなくていいし』

 

『野村さんって、便利だよね』

 

 

驚きが強すぎて、それから徐々に迫る感情。

悲しかった、そして苦しかった。私は私なのに、皆は私を見てくれない。

全部上辺だけの関係だったって。

 

でもそれは仕方ないのかもしれない。

だけど皆が私を野村里奈ではなく車椅子に乗った少女としか見ていない様で、それが何よりも辛かった。

誰かと帰る時もそうだった、いつも誰かが手伝ってくれる。でも皆決まって同じ事を言う。

 

 

『野村さん、車椅子で大変でしょ? 私が押してあげるね』

 

 

はじめは嬉しかった。初めは私自身も純粋に思っていたのかも。

 

 

"私って、可哀相でしょ?"

 

 

なんて。

それは純粋な気持ちだったのかもしれない。

 

だけどその可哀相の本当の意味を知った時、それからはその言葉がどんな意味を含んでいれど受け止められなかった。

上辺だけの偽善なんだろうとか。押してあげるね、なんて上からの目線だとか。

まして押してくれるのは助かるけど、結局私についてくる人達は私に話しかけてくれなかった。

 

聞いてしまった言葉、結局自分は誰かの評価を上げるだけの道具なんだろうか?

ぞろぞろとついて来た人たちは、私の事をお祭りのお神輿だとでも思っていたのだろうか?

とか、いろいろ考えたことがある。

 

それは自分が子供だったからかもしれないけど、あの時はそれが全てだった。

ましてやその純粋な悪意は大人になっても存在しているのだろうから。

 

それに、そんな関係がいつまでも続く訳が無い。

結局一人ずつ飽きてきて少しずつ私と帰る人は少なくなっていった。

だけど、私は一人で帰る事は無かった。皆がいなくなった後も彼女だけはいつも私と一緒にいてくれたっけ。

それが――

 

 

「ねえ、どうして天美さんって私と一緒に帰るの?」

 

「え?」

 

 

それが、貴女(アキラ)だった。

 

 

「どうしてって……それは決まってるじゃないですか」

 

 

昔からしゃべり方は丁寧だったね。

小学生で敬語使う娘って相当珍しかったっけ。なんか雰囲気も大人っぽかった女の子。

昔はその程度しかまだ知らなかった。

 

 

「私が里奈と一緒に帰りたいからですよ」

 

「!」

 

 

そんな事言われたこと無かった。だからつい聞いてしまう。

 

 

「ほ、本当?」

 

「あはは、嘘だったらココにいませんよ」

 

 

私にはその言葉が何よりもうれしかった。初めて自分を自分として見てくれる人ができて。

最初は半信半疑だったけど、いつもいつの日も自分といてくれて、自分の話を聞いてくれて、そして自分に話しかけてくれるアキラ。

そんな貴女に私は心を開いていた。貴女がいなかったら私は壊れていたかもしれない、それほど貴女の力は凄かった。

 

 

「里奈は部活とかどうするんですか?」

 

「どうしようかなぁ、私何もできないし……あはは」

 

「そんな事ありませんよ、私は咲夜さんの所があるので……もしよかったら一緒にどうですか?」

 

「う……うーん」

 

 

別に嫌じゃなかった。

それにどちらかと言えば彼女と一緒に何かをしたかった気持ちは強い。

でもあまり人が多いところは嫌だし、いつまでも彼女に頼り切るのは自分としても複雑な気分があったから。

そしたら彼女は私のノートの隅にある落書きを指して言う。

 

 

「美術部はどうですか?」

 

 

絵を褒めてくれたのも貴女が始めてだった。

友達はいたけど、やっぱりアキラちゃんといる時が一番楽しかった。

でも、やっぱり私はいろいろ助けてもらっている訳で……

 

 

「平気ですよ里奈」

 

 

いつもアキラちゃんは私を元気にしてくれた。

 

 

「困った事があったら、いつでも言ってください」

 

 

だって――

 

 

「友達ですからね」

 

「うん……!」

 

 

それが嬉しくて、でも私も負けたくなくて言った。

 

 

「じゃあアキラちゃんが困ってたら、必ず私が助けてあげる!」

 

「ふふっ、じゃあそうしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっと……そぉっと……」

 

 

真由の言葉に夏美と里奈は頷く。三人は遠くに見えるラ・セーヌ達を追跡していたのだ。

もちろん向こうは戦闘に特化した妖怪だ、油断すれば命が危ないし、向こうも追跡に気づくだろう。

だから三人はかなり遠い位置で尾行を行っていた。近くに敵の気配があればキバーラが教えてくれたので、何とか三人はラ・セーヌ達を追う事ができたのだ。

 

 

「それにしてもラ・セーヌとか言う人、どうして影を作って歩いているんでしょう?」

 

 

蝙蝠達がつくる影を夏美は不思議がっていた。

それに反応したのはキバーラだ。

 

 

『あいつ、アタシと同じ匂いがするわね』

 

「?」

 

『きっと吸血鬼に近い存在なんでしょ、っていうかさっきの夜叉って色男含めてあいつ等全員吸血鬼なのよ』

 

 

吸血族はキバーラの世界でも資料はあった。

というかどちらかと言えばキバーラ本人が吸血族に分類されると言えばそう。

だからこそ同じ種類のラ・セーヌ達に何か近いものを感じたのだろう。

 

 

「でも、キバーラさん全然外にいても大丈夫だよね?」

 

『こっちの奴らがどうかは知らないけど、訓練すれば平気になるのよ』

 

 

それに彼女はキバット族である訳だし、完全な吸血族ではない。

まあ訓練は大事だ、だからラ・セーヌ以外は平気だったという訳か。

 

 

『アタシ達は王に魔皇力貰ったから平気になっただけなんだけどね』

 

「そう言えばその魔皇力(まおうりょく)って何なんですか?」

 

 

魔皇力、キバーラが言うには歴代のキング達が所持する大きな力と言う事だった。

キングはその力を使ってイクサ、サガ、キバのベルトを創ったのだ。

巨大なエネルギーと言えばいいか、その力は絶大で代々王に仕えてきたキバット族は魔皇力を王から受け取っていたらしい。

 

 

『キバに変身するときに兄貴が亘に噛み付いているでしょ? あれって魔皇力を牙から注入してるのよ』

 

「へー」

 

 

そう言えばと、キバーラは里奈が首にかけているブローチに注目する。

大臣から貰った龍のブローチ、そこから物凄い魔皇力を感じると言うのだ。

キバーラもキバットも魔皇力を感じる力は鈍い方らしい、にも関わらずその魔皇力の強大さが分かる時点でそれは物凄いものなのだろう。

なんでも魔皇力の塊に見えるらしい、里奈のブローチは。

 

 

『でも、言ってもただのブローチでしょ? 特に何かの力を持つって事は無いのかなって思ってね』

 

 

そんな事を考えていると、ラ・セーヌ達は妖怪城からは分離された建物へと入っていく。

離れと言っても三階建ての小さな城に見える。成る程、あそこならば妖怪城にいるメンバーはどんなに頑張ってもアキラを助ける事は不可能と言う訳か。

 

 

「入っていく…よ」

 

「どうしますか? やっぱり中に入るのは危険すぎるんじゃないかなと」

 

「そうですね、私たちはここで終わり――」

 

 

その時だ、夏美達の名前を呼ぶ声が聞こえる。振り返るとキバの姿が見えた。

 

 

「亘くん!!」

 

 

緊張の糸が緩んで思わず涙を浮かべる夏美達。

キバは三人に駆け寄ると無事かどうかを確かめる。

事情を説明する夏美、あそこに鍵を持った妖怪が入っていったと。

 

 

「分かった、だけどまずは姉さん達を学校に送り届け――」

 

「させる思う? 侵入者めッ!」

 

「「「!?」」」

 

 

キバ達めがけて少女の首が飛翔してきた。

その容姿にぎょっとする一同、妖怪ペナンガランはどうやら夏美達に気が付いていた様だ。

彼女は油断していただろうキバに突進をしかけて吹き飛ばすと、迷わず里奈に向かって飛翔する。

 

 

「わ、私の血なんて吸ってもおいしくないからッッ!!」

 

「吸わない、代わりに体を貸してもらう」

 

「ッ!?」

 

 

ペナンガランは自らの胃を飛ばして、それを里奈へとぶつける。

 

 

「お前! 何を――ッ!」

 

 

胃は里奈の服にくっ付いて離れない。

なんとか引き剥がそうと真由も力を込めるが無駄だった。

そして胃が光だしたかと思うと、里奈の口から驚くべき言葉が出てきた。

 

 

「これでいい、これでこの体は私の物」

 

「なっ!」

 

 

驚く一同、しかし一番驚いているのは他でもない里奈だった。

自分の口からいきなり意図していない言葉がでれば誰でも驚くだろう。

そして、今の言葉を信じるなら――

 

 

「今すぐこの城から出て行け侵入者共ッ! でなければ、この女の舌を今すぐに噛み千切るぞ!」

 

「や、やめろッ!」

 

 

里奈は訳も分からぬまま舌を出す。

どうやらペナンガランの能力で体の動きを支配されている様だ、彼女に逆らえば里奈の命は無い。

キバ達は彼女の言うとおりにするしかなかった、キバは何とかして里奈を助けられないかと探るが、どうあっても時間が少し掛かってしまう。

それよりも先にペナンガランは里奈の命を奪う事ができるだろう。

 

 

「くそ……っ!」

 

「わ、私の事はいいから――ッ!」

 

 

里奈にも分かる今の状況、自分が操られてしまっているせいで皆がピンチになっている。

アキラを助けるばかりか、自分が助けられる状況になる。なにこれ、こんな事ってあっていいの?

役に立ちたかったのに足を引っ張るなんて、里奈としてはとにかく自分のせいで、と言うのを避けたかった。

 

 

「―――……ッ」

 

 

あの時――

あの日約束したのに。

結局自分は彼女にとって何の助けにもならず、足を引っ張って――

 

 

「いや――っ」

 

「?」

 

「いやぁあああああああああああッッ!!」

 

「!!」

 

 

その時だった。

里奈の強い拒絶の言葉と共に、彼女が首にかけていたブローチが光り輝く。

すると、彼女の体に付着していたペナンガランの胃が吹き飛んだではないか。

驚きの表情を浮かべてそちらを見るペナンガラン。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

当然だ、あの胃がただの人間に引き剥がせるとは思えない。

しかも彼女は手を使わずに何か特殊な力を使って引き剥がしたではないか。

何者なんだ!? ペナンガランは吹き飛んだ胃を操って再び彼女へ付けようと試みるが――

 

 

「させるかッッ!」

 

「うぐッ!」

 

 

里奈の前にキバが割って入り、胃を思い切り蹴り飛ばす。

そのまま彼はペナンガランの眼前へと飛翔すると、そのまま彼女を蹴り飛ばした。

 

胃と共に吹き飛ぶペナンガラン、一度見切られれば再び胃をつける事は難しいか。

操れるのは胃をつけた相手だけ。胃は強い力を持ってしなければ引き剥がせないが、キバなら引き剥がせるだろうと言う彼女の読みだった。

 

 

「く……女性の顔を蹴るなんて、関心しませんね」

 

「アンタ顔しかねーじゃん。悪いけどお姉さん、次も蹴るぜ」

 

 

舌打ちをするペナンガラン。

あまり戦闘特化と言う妖怪ではない様で、キバには絶対に正面からは勝てないと分析していた。

結果、彼女はキバから逃げるように飛翔すると離れの城へと戻っていった。

 

 

「大丈夫里奈ちゃん!?」

 

「う……うん」

 

 

追うことも考えたが、とにかく今は夏美達を安全な場所に帰したい。

それがキバの第一優先行動だったのだが――

 

その時だった。

離れの城の扉が開き、中からもの凄いスピードで黄色い帯の様な物が飛んでくる。

それは誰もが反応できない間に、キバの体に巻きついてそのまま彼を城の方へと引きずり込んでいく。

 

 

「なッ! なんだコレッ!!」

 

 

なんとかして帯を引き千切ろうとするキバだが、力を込めても帯は切れずそのまま城の中へと引きずり込まれてしまった。

同時に城の扉がゆっくりと閉まっていく。焦る夏美達、このままキバとはぐれてしまえばまた危険な状況になってしまう。

それに自分たちがついて行ってどうにかなる訳ではないが、キバも心配だ。

結果、彼女たちが出した答えは――

 

 

「こうなったら一か八かで私たちも行きましょう! 里奈ちゃん、しっかり掴まっててくださいね!」

 

「は、はい!」

 

「いこう……!」

 

『仕方ないわねぇ』

 

 

三人とキバーラはゆっくりと閉まっていく城門めがけて走る。

そこそこ距離はあったが閉まるスピードが遅い事もあってか、さほど苦労する事無く一同は城の中に入る事ができた。

と、同時に閉まる扉。やはりと言うか予想通りというか、扉にはすぐに紅い植物が張りめぐっていきロックされてしまった。

 

 

「ゲホッ! ガハッ! くそっ!!」

 

 

キバは帯から開放されていた様で、夏美達の姿を確認すると安心したようにため息をついた。

しかしこの城の中はとにかく薄暗い、蝋燭に灯る小さな青い炎の光だけが照明として機能していた。

それに、辺りには異常なほど紅い植物が見える。いったいこれは何なのか? 嫌な予感しかしない。

 

 

『うーん、毒草って訳じゃないっぽいッスけど……』

 

 

キバは一度変身を解いて亘に戻る。

どうやら自分たちはこの場所におびき出されたと考えてもいいかもしれない。

だがココにはアキラがいる部屋に繋がる鍵がある筈だ。向こうもなるべくなら自分たちを遠ざけたいと思うだろうに。

 

 

「余程自信があるのかな?」

 

 

亘はやれやれと首を振る。

そこでハッと顔をあげた、そう言えば先ほどの里奈には何が起こったのだろうか?

見たところブローチが光っていた気がする。と言う事は何かブローチに力があると?

 

 

「わ、私もよくわかんなくて……」

 

『そう言えば兄貴、結構このブローチって魔皇力感じない?』

 

『そうッスね、オイラも前から感じてたッス。でも結局ただのブローチだと思ってたんスけど……』

 

 

キバットとキバーラは里奈のブローチをまじまじと観察してみる。

金色に光る龍のソレは大臣が里奈に送ったもの。大臣は王との関係がとても深かった人物だ、と言う事はこのブローチが元々王か王妃の物だった可能性は高い。

まして魔皇力を感じる時点でそれはもう確定だろう。だがしかし、このブローチが何なのか分からない以上はどうにも何も言えない。

 

 

「さっきさ、里奈ちゃんどんな感じで胃を剥がしたの?」

 

「うん……とにかく剥がれろって思ったら……いきなり――」

 

 

成る程、亘はふと薫のイメージリングを思い浮かべてみる。

あれも普通の指輪に見えるが実際は薫の姿を変えると言う能力を持っている。

もしかしたら、里奈のブローチにもそう言った何らかの力があるんじゃないかと亘は考えた。

 

 

「里奈ちゃんさ、ちょっと試してみてほしいんだけど――」

 

 

薫に聞いた話だが、彼女がどうやって武器に変わっているのかと言えば――

 

 

『うーん、もう念じるだけかな。なんか変わりたいって思って、心のスイッチ入れれば変われるっていうか――』

 

 

との事。それは里奈には少し難しい言葉だったが亘にはよく分かるものだった。

一番難しいと言うか、分かりにくい部分はやはり心のスイッチとは何か、だろう。

それが分かっていないと薫は武器には変われないらしい。

 

亘も実はそれを使っている部分はある。

彼がキバの時に使うウェイクアップだ、あれは薫が言った事と同じやり方で発動している。

まずウェイクアップを発動したいと念じた後、心の中にあるスイッチみたいな物をオンにすれば発動される。

 

そのやり方は変身した時に頭に入ってきたし、別に難しいと感じた事は無い。

暴発もしないし、狙った時に出ないと言う事もなかった。

きっと里奈も一度発動した時点で少し練習すれば何かは発動できるだろうと亘は考える。なら一番重要なのは、そのブローチの能力だ。

 

 

「キバット、魔皇力を通して発動できる一番簡単な事って何なの?」

 

『うーん、難しいッスそれは。王も世代によって色々な力を使っていたらしいッスから』

 

 

キバットが言うには魔皇力は粘土の様なもの。

どんな形を作るのかは使用者次第、とは言えやはり得意不得意はあるようで。

 

 

『里奈は拒絶の心が強かったからそれでスイッチ入ったって事なんでしょ? じゃあやっぱり防御系の力がブローチにはあるんじゃない?』

 

 

成る程、それはそうだ。

と言う事で早速里奈にその力があるのかどうかを試してもらう事に。

過去には魔皇力を使ってバリアを張っていた王も少なくはないと言う、ならば里奈もバリアくらいは張れるのではないかとの事だった。

 

 

『まあ尤も、それができるのはこのブローチの能力がつけている者に魔皇力を与える……とかじゃないと駄目だけど』

 

「成る程、じゃあそこは賭けるしかないね」

 

 

里奈は頷くと、ブローチを握り締めてバリアを張りたいと願ってみる。

しかしこのままでは何も起こらない。それは亘から言われた事だ、なので次に彼女はアキラの事を強く想ってみる。

守りたいと、助けたいと、そしてまた一緒にいたいと願う。

 

 

「―――……ッ!」

 

 

ああ、そうか……!

これが――

 

 

「スイッチなんだね!」

 

「!!」

 

「わぁ!」

 

 

里奈が閉じていた目を開けると黄金の光が見えた、それは間違いなく成功と言う証明である。

彼女のブローチが再び光り輝いたかと思うと、里奈を中心にして黄金のバリアが展開していった。

 

 

「凄い……ね!」

 

「わ、私……! やれたんですね!!」

 

 

喜び合う真由と里奈。

夏美も凄い凄いとはしゃいでいる。

 

 

『やっぱりブローチは魔皇力を与える装置だったんスね!』

 

『魔皇力のバリアだからきっと頑丈の筈よ』

 

 

という事なので、亘がキバに変身して実験してみる。

里奈にキバを拒絶してもらう様に言ってキバは思い切りバリアを殴った。

 

 

「ッ!」

 

「わわわッ!」

 

 

里奈は少し驚いた様にのけぞる。

しかしバリアは振動しただけで破られてはおらず、キバの拳をしっかりと受け止めていた。

 

 

「い――ッ! 硬い硬い、凄いよ里奈ちゃん」

 

「すごぉ…い!」

 

 

真由は里奈に賞賛の拍手を送る。

里奈も里奈で自分が出したバリアの強さに驚き、そして喜びの表情を浮かべていた。

これで少しは皆の役に立てる! 彼女にはそれが何よりも嬉しかった。

 

 

「でもこんな便利な力があるなら大臣さんも早く言ってくれれば良かったのに」

 

『魔皇力は一般の人にとったら少し毒の意味もあるッスからね。いきなり発動するのはマズイと思ったんスよ』

 

『長い間里奈の傍に置いておくことで、少しずつ魔皇力に対する免疫を身に付けさせてたのかもね』

 

「へぇ、成る程」

 

 

たしかにバリアを張ると疲れる気がする。

これが精神力を削られると言う物なのか、今まで味わったことの無い感覚。

里奈は少し新鮮さを覚えた。

 

 

「よし、でもコレは助かるよ。里奈ちゃんは皆をよろしく」

 

 

これで安心だ、キバは一人で奥に進む事を伝える。

 

 

「里奈ちゃん、お願いします!」

 

「里奈ちゃん……! 大変だと思う…けど、どうか…お願い…します…!」

 

「う、うん!!」

 

 

キバは嬉しそうに頷く里奈を見て自らも頷くと、奥の方へ進む事を決める。

いくら彼女が結界を張れるようになったとしても、覚醒したてで安定した力ではない。

それに加えて固定結界の様になると囲まれた時には破壊される可能性が高い、早く奥にいる敵を倒さなければ。

 

 

「わ、亘君ッ!!」

 

「?」

 

 

キバを呼び止める里奈、何事かと振り向くと彼女は決意に満ちた瞳でキバを送り出す。

いってらっしゃい、ここは私が守るから。その言葉にキバはお礼を言って再び走り出したのだった。

今は彼女を信じよう、自分にできる事は一刻も早く鍵を奪ってココに戻ってくる事だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラ・セーヌ。何をしてる、もうカップが空だ」

 

「おいおい、ワガママだねお嬢様は」

 

 

部屋に戻ったラ・セーヌはため息をついて紅茶の準備を始める。

続いて戻ったペナンガランは、今起こった事を端的に報告していった。

それを聞いているのは白いシャツにチェックのスカートと言う、どこにでもいそうな少女だ。

 

しかし目は赤く、肌は驚くべき程に青白い。

そして同じく真っ白な髪を書き上げると、小さな笑みを浮かべる。

 

 

「元気な少年だ、羨ましい」

 

「運動不足は体に毒だぜ、お・嬢・様」

 

 

ラ・セーヌはやや乱暴に紅茶を少女に渡す。

彼女は血の様に赤い紅茶を見て、もう一度ニヤリと笑った。

 

 

「そうだね、動こうか」

 

 

 

 





変身ベルトとか、武器とか、要するにそう言う玩具とかは一個も持ってないんですが、武器に関してはサイズが一緒なら絶対買ってる。

やっぱ玩具はちょっと、ちっちゃいよね。
まあ子供にはあれくらいが丁度いいんだろうけどw

次はちょっと未定。
なるべく早くします。

ではでは
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