仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第53話 SWITCH SPEED LOVE

 

 

 

陽が心配したのは離れ離れになってしまったみぞれ達。

ダブル達の近くにいた彼女達だがダブルも鬼河童との戦いで彼女とは別れてしまう。

では彼女たちは今どこにいるのか? それは――

 

 

「みんな! 早く走って!!」

 

「う、うん――ッ!!」

 

「ヒャハハハ! 逃がさぬ、逃がさぬぞッッ!!」

 

 

しつこいね、みぞれ達はしきりに後ろを確認しながら走っていた。

彼女達は陽やゼノンと離れてから一度戻ると言う選択肢をとる事を決めた。

自分たちでは足手まとい、悔しいが現実だ。みんなの足を引っ張る事はしない方がいいだろうと。

麓子が外の様子を見てきてくれると言うので待っていたみぞれ達、しかしそこで敵に見つかってしまう。

 

簡単に事は運ばない、彼女たちを狙うのは"笑い般若"だ。正直笑いこそすれど彼も相当苛立ちが募っていた。

自分は滑稽な侵入者が哀れな末路を辿る姿が見たくて仕方ないのに、現状はあろう事か侵入者が有利となっているではないか。

そんな馬鹿な事があっていい訳はない。自分がこの力(メモリ)貰った時あの女……! チェーンソーリザードは確かに言っていた。

望む力が手に入る、破壊の力が手に入ると。その言葉を信じて自分はメモリを使った。食欲も睡眠も性欲も全て捨ててまで笑い般若になったのに――ッッ!!

 

 

「ヒャハハ! せめて貴様らだけでも殺しておかないとなァッッ!!」

 

「ッ!」

 

 

羽衣を伸ばす笑い般若、みぞれはそれを見て冷気を放出。

襲い掛かってきた羽衣は冷気に包まれるとカチカチに固まり伸縮性を失う。

舌打ちを行い羽衣を戻す笑い般若。あまびえ達は完全に見下しているものの、みぞれだけは少し厄介かもしれない。

彼もドーパント、同じアイスレディの力を得た者は知っている。アレは非常に強力な力だ、その始祖たる彼女は警戒しなければ。

 

 

「だがお前はソイツらをかばいながらでしか戦えない! ヒャハハハ!!」

 

 

執拗に笑い般若はみぞれでは無くあまびえやかわうそを狙ってきている。

苛立ちと怒りを覚えるみぞれ、彼女達がどんな思いでココに来たと思っているのか。

もちろん敵とすれば狙いやすいのは確かだろう。だからコチラも全力で守るだけだ。

 

 

「甘いんだよなコレが!! ヒャハハハ!!」

 

「しまッ!!」

 

 

羽衣に気を取られていた事で、笑い般若が長刀を投げた事に気づくのが遅れてしまった。

冷気を切り裂いて迫る長刀、間に合わない! 防御もとれずにみぞれは目をつむるだけ。

 

 

「あぶないッ!」

 

「!!」

 

 

しかし間一髪、かわうそがみぞれを突き飛ばして何とか長刀から身を反らす事に成功。

舌打ちを行い羽衣で長刀を回収する笑い般若、先ほどからチマチマと攻撃を妨害されているのは事実。

みぞれはかわうそに礼を言うと、彼らを連れてまた走りだす。戦う気が彼女達からは感じられない。

みじめに逃げるだけの彼女たちを中々しとめられない事に笑い般若は苛立ちをつのらせる。

 

 

「弱いくせにイラつかせるなよ! ヒャハハッ!!」

 

「―――ッッ!」

 

 

歯を食いしばるあまびえ達、そんな彼女たちを見てみぞれは複雑に唇をかむ。

あまびえ達はみぞれにとっても大切な友達、そんな彼女達が馬鹿にされて悔しく無い訳が無い。

今すぐあの笑った顔をぶん殴りたいと思うが……!

 

 

「どうせ逃げられぬ! おとなしく殺されろッ! ヒャハハハ! 雑魚は殺されるのが一番だろ? ヒャハハッッ!!」

 

「ねえ――ッ!」

 

「!」

 

 

だからみぞれは口にする。

確かにこのまま逃げ続けても確実に追いつかれる事は分かっていた。

河童兵もまだ数は多いし、妖怪と鉢合わせする場合もある。まして入り口まではもう少し距離があった。

だとすれば残る選択肢は一つだけ、彼女たちもソレは覚悟していた筈だ。

陽は絶対に許可しないだろうが、みぞれはあまびえ達の気持ちをあえて汲むことを決める。

 

 

「戦おっか、戦ってアイツを倒さない?」

 

「「「!」」」

 

 

表情を変えるあまびえ達、出てくる言葉は自分達は弱いから戦っても無駄と言う否定的な言葉ばかり。

だがそれでもみぞれは続けた、弱気な言葉は結果に繋がると彼女は知っているから。

それに彼女たちは決して弱くは無い筈だ。

 

 

「君達は戦うためにココに来たんだろ? 私達を助けてくれる為に来てくれたんだよね?」

 

「――……ッ」

 

 

かわうそ達は後ろを見る。迫る笑い般若は確かに怖い、だけど――

 

 

「ねえ、勝てると思う――ッ?」

 

 

口を開いたのはあまびえだった。

みぞれの言う事は尤もだ、自分達は陽を助ける――つまり花嫁を助ける為に妖怪城を訪れた。

なのにしている事といえば誰かに助けられるか恐怖で震えているだけ。

それは普段平和に暮らしてきた彼女たちだからこそ仕方ないのかもしれないが、それで自分達が納得できる訳が無い。

まして、許される訳も無い。

 

 

「みぞれ……あたし――勝ちたいよ!!」

 

「うん……ッ! そだね」

 

 

かわうそと傘化けも不安そうではあったが確かに頷いた。

あまびえは水を発射でき、かわうそも同様だ。そして傘化けは攻撃系の能力は持ち合わせてはない。

みぞれは冷静に考える。たとえ一人一人の力は弱くても、力を合わせればきっと状況を変える事はできる筈だ。

 

 

「じゃあ、いい? えっとね――」

 

 

みぞれ達は小声で作戦をあまびえ達に伝え、了解する一同。

さあ、もう逃げてばかりの戦いは終わりにしよう! みぞれは振り返りながら氷柱を発射、無数の弾丸を笑い般若に向ける。

いきなりの攻撃に一瞬怯んだ笑い般若だったが、すぐに長刀で氷柱を破壊していった。

それを確認すると、なんとみぞれ達は近くにあった階段を上り始めたではないか。

逃げるのではなく上がると言う行動に、笑い般若は彼女達が戦う事に思考を変えたのだと把握する

 

 

「どうした? 諦めて死ぬ気になったかな! クヒャハハ!」

 

 

だが彼女たちの力などたかが知れている。

陽がいればまだ分からないが、彼女たちではダメージこそ与えられど明確な必殺技(フィニッシュ)が存在していない。

そんな事で我が、ドーパントの鎧が砕けるものか。笑い般若は階段を上っていく彼女たちを追いかける為に跳躍。

 

 

 

「いけーッ!!」

 

「くらえーッ!!」

 

「!!」

 

 

階段の上からあまびえとかわうそが水流を発射する。

個々ではさほど勢いの無いものだが、二つが合わさる事でそれなりの水圧を生み出す事ができた。

しかし攻撃としてはあまりにも粗末、羽衣で水流を防御して笑い般若にはダメージを与える事はできない。

 

 

「ふん、下らない攻撃だなぁ! ヒャハハ!」

 

「そう? コッチとしては上出来だけど」

 

「?」

 

 

みぞれは笑いながら床に手をついた。何を? 笑い般若はふと周りを見る。

すると気づいた、水流を防いだおかげで階段が水びたしになっているではないか。

そうなるとコレは――!

 

 

「凍れッ!!」

 

「!!」

 

 

みぞれの力が発動して水が瞬時に氷と変わる。

それに全く注意していなかった笑い般若は足を滑らせて階段から転がり落下。

倒れる彼はもはや無防備、みぞれ達はそこに次々攻撃を仕掛け、命中させていった。

 

 

「グアッ!! ガガガガ!!」

 

 

ある程度攻撃を受けたところで何とか笑い般若は地面を転がり攻撃を回避する。

みぞれは倒れた間際に笑い般若のいる場所を凍らせており、おかげで立ち上がるのに想像以上の時間を要してしまった。

まして氷柱や水流と、威力こそ低いが攻撃を受けた時間は長い。階段の上でハイタッチを決めているみぞれ達を見て笑い般若の苛立ちは頂点を迎える。

 

 

「雑魚共がッ! ヒャハハ! 殺してやるッ!!」

 

「やばッ! 皆逃げよう!」

 

 

走りだすみぞれ達。笑い般若は凍る地面を攻略するために、長刀を地面に突き立てた。

そして長刀の柄を踏み台として跳躍、一気に階段の上へと飛翔する。

長刀は羽衣を伸ばして回収。再び逃げているみぞれ達に視線を移す。

再び階段を上がっていくみぞれ達、ここは螺旋階段の様な構造だった。

 

 

「発射だよみんな!」

 

「チッ! うざいなぁ! ヒャハハ!!」

 

 

みぞれはあまびえ、かわうその水流を凍らせてコチラに飛ばしてくる。厄介な相手が組んだものだ。笑い般若は追いつこうにも追いつけない状況を続けさせられ、かつ微妙に蓄積されていくダメージ。

やられないがコチラも手が出ないという苛立たしい状況。そしてついに階段が無い所まで辿りつく一行。やっと長い追いかけっこが終わるのか、笑い般若は呆れたような苦笑をおこなう。

 

 

「ほっ!」

 

「!」

 

 

だが、みぞれ達はなんと傘化けに捕まると筒抜けになっている空間に身を乗り出した。

螺旋階段の様に作られている空間のため、真ん中が筒抜けになっている。

そこにみぞれ達は飛び込んだのだ。しかし距離は中々のもの、いくら妖怪であろうとも落下して地面にぶつかれば骨折だけでは済まない筈だが?

 

 

「ちぃいいいッッ!!」

 

 

しかし笑い般若は理解した。傘化けは攻撃力こそないが、ちゃんとした特殊能力がある。

文字通り傘の彼は自分の身体を広げてパラシュートの様に落下の勢いを殺している。

みぞれやかわうそを抱えつつもフワフワと落下していく傘化け、冗談じゃないと笑い般若は手すりを殴りつけた。

まさかまたこんな下らない追いかけっこを続けるつもりなのか?

 

ふざけるな!

イライラが爆発した笑い般若は冷静な判断を忘れ、最も早くみぞれ達を殺せるルートを選択した。

それは自分が直接切りかかりみぞれ達を殺す事だ、フワフワと落下しているみぞれ達はどこを見ても無防備。

そこを狙わない手はないと笑い般若は自らも身を乗り出して長刀を構える。

自分には羽衣がある、落下する瞬間にどこぞに引っ掛ければ地面に直撃する事はないだろう。

 

 

「ヒャハハハ!! 死ねよ雑魚共が――ッ!」

 

 

跳びあがり狙いを定める笑い般若、長刀を傘化けに向けて落下していく。

空中ならば身動きはとれない筈だ――が。

 

 

「かかった!」

 

「何ッ!?」

 

 

あまびえとかわうそが水流を発射。

するとジェットの役割を果たして、傘化けは急激に加速、移動を行った。

これには対処できなかった笑い般若、見事に攻撃を外して落下していく。

あいにく彼に飛行能力は無い、すぐに羽衣に手を掛けるが――

 

 

「悪いね、ちゃんと凍らせてもらったよ」

 

「ッ!!」

 

 

笑い般若とみぞれがすれ違ったとき、彼女はしっかりと冷気を発射しており笑い般若の羽衣を完全に凍らせていた。

しっかりと固まった羽衣は伸張力を失いただの塊に。と言うことはだ、笑い般若は焦りの声を上げて落下する。

彼は羽衣を使って着地する予定だった、だが今その羽衣が仕えないと言う事は――

地面に直撃する事に? 笑い般若は必死に羽衣を振って氷を割ろうと試みる。

 

しかしどれだけ力を込めても凍りは壊れないし溶けもしない。

先ほど羽衣を凍らされた時はすぐに解除できたのに、どういう事だ!? 笑い般若はふと上を見上げる。

そこにはニヤリと笑うみぞれの姿。

 

 

「悪いね、雪女の氷をなめないでもらえるかな」

 

「ッ!」

 

 

先ほどのは力を抜いてい――

 

 

「グガァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

そうこうしている内に地面に激突する笑い般若、絶大な衝撃とさらに降り注ぐ大量の水流。

かわうそ、あまびえが発射する大量の水、そしてソレを瞬間的に凍らせるみぞれ。

 

 

「ががぐぁぁ……ッ!」

 

 

氷の檻に閉じ込められる笑い般若、まさかこんな方法で大ダメージを与えられるなんて思っていなかった。

そして止めといわんばかりに指を鳴らすみぞれ、彼女の両手に現れるのは巨大な雪玉。

まさか――と、笑い般若は思う。まさかあんな大技を隠していたとは。

 

 

「弱い? ハッ、私達が力を合わせればこんなもんさ」

 

 

雪玉を合体させて放つみぞれ、巨大な雪だるまはそのまま落下していき――

 

 

「グアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

笑い般若に直撃、そして爆発。

しっかりとフィニッシュ技は持ち合わせていた様だ、みぞれ達は華麗に着地すると抱き合いながら勝利を喜び合う。

あまびえ達は弱い自分達が笑い般若に勝てた事が相当嬉しいらしく、涙を浮かべて喜んでいた。

 

 

「やったよみぞれ! 勝ったんだね!!」

 

「うん! みんなのおかげで勝てたんだ! ありが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マッドネス』

 

「え?」

 

 

突如聞こえるのは何かの電子音。

そして――

 

 

「きゃああぁぁああぁ!!」

 

「みぞれ!!」

 

 

斬撃が飛来してきたと思えばみぞれの肩に直撃する。

青白い彼女の肌から真っ赤な血が飛びちり、彼女は肩を抑えて倒れてしまう。

一体何が? 傘化け達は斬撃が飛んできた所を見た。

 

するとそこは先ほど雪だるまを落とした場所、つまり笑い般若が爆発した所だったのだ。

そこには一つの影が立っている。一言で表すならば文字通り般若だった、笑い般若とは違う普通の般若が。

 

 

『焦らせてくれる。俺が"ダブルホルダー"でなきゃアソコで終わってたな』

 

「――ッ」

 

 

それは簡単な話だった。笑い般若とは、その真の名をスマイルドーパントと言う。

つまりスマイルメモリと言うアイテムを使用して人間が妖怪を騙っていたという話。

そしてその人間が所持していたのはスマイルメモリだけでは無かった。彼はもう一つのメモリを所持していたのだ、それがマッドネスメモリ。

笑い般若と姿は何一つ変わらず、ただ一点だけ般若面が笑っていない普通の物に変わっている。

 

 

「みんな逃げて……ッ!」

 

「み、みぞれを置いて行けないよ!!」

 

 

苦しそうに笑うみぞれと泣きそうな表情のあまびえ達。

これだ、これを望んでいたんだ。そう笑みを浮かべながらマッドネスドーパント・般若は長刀を構えて歩き出す。

みぞれの前までやって来る般若、あまびえ達は彼女を守ろうとコチラを涙目で睨みつけながら立ちはだかった。

 

 

「震えてるんだよ、雑魚が!」

 

「グッッ!!」

 

 

般若の蹴りがあまびえを吹き飛ばした。

怒りの表情をうかべるみぞれ、しかし彼女に再び襲い掛かる斬撃、みぞれの身体からまた赤い血が舞う。

どうやらすぐには殺さず、傷つける事を決めたらしい。かわうそは水流を発射するが――

 

 

「おいおい、今はもうそんなカスみたいな技は効かないんだっての!!」

 

「グアッ!」

 

 

かわうその首を掴んで般若は近くの壁に彼を叩きつける。

彼を放せと傘化けが突進してくるが無駄な事、般若はけりで傘化けを弾き飛ばすとさらにかわうそを壁に打ち付けていった。

 

 

「かわうそを離せッ!!」

 

「あぁぁぁウザいねぇ、虫みたいに這いつくばってさぁ」

 

 

あまびえやかわうそは足にしがみつき、みぞれは冷気でコチラを凍らせようと必死の様だ。

しかし傷からかみぞれの冷気は弱く、あまびえ達の力は弱すぎると言っていいほど。まさにお遊びレベル。

 

 

「お前ら自分に花嫁が助けられると一パーセントでも思ってたのか? こんなに弱くて情けなくて、惨めでッ!!」

 

 

般若はかわうそを投げ飛ばすとみぞれにぶつけて動きを止めさせる。

そして足にしがみついていたあまびえ達も蹴りで押し離して行った。

小さく悲鳴をあげて吹き飛ぶあまびえ達に、追撃の斬撃を発射。

痛みと恐怖を植えつけるために般若は少し力をセーブしてあまびえ達に斬撃を刻み込んでいった。

 

 

「ほらほら! 震えてるぜぇ? アハハハ!!」 

 

 

怖いだろ? 痛いだろ? 泣きたくなるだろう?

長刀を振り回しながら般若はあまびえ達を追い詰めていく。

しかも期待にこたえてくれる様にあまびえ達の表情は引きつっていた。

涙をこぼしてみぞれをかばうその様はまさに弱者と言う言葉が似合う。

 

 

「ほらほら、攻撃してみろよ。今なら防御しないでやるから、ほら!」

 

 

両手を広げる般若。

 

 

「馬鹿にして!!」

 

「こんの――ッッ!!」

 

 

あまびえとかわうその水流、そしてみぞれの冷気が般若に襲い掛かる。

だがスマイルドーパントよりもマッドネスドーパントの方が強力、それはつまり彼女たちの攻撃がほとんど意味を成さない事でもある。

般若は全然効いてないと笑い、再び長刀で彼女たちを傷つけていく。攻撃が通用しないと知り涙をボロボロ流すあまびえ達。

その様子があまりにも滑稽で、般若は尚も彼女らを馬鹿にする発言を繰り返した。

 

 

「弱いくせに調子に乗りやがって、結局お前らはココで惨めに死んでいく。お前ら何か役に立ったか? 立ってないよな、こんな弱い力じゃ誰も守れないのに!!」

 

「うるさい! 彼女たちは立派に戦った! 馬鹿にすると許さないぞ!!」

 

 

黙れと般若は羽衣でみぞれを叩き飛ばす。

何が立派に戦っただ、目の前にいるあまびえ達のどこが立派? 震えて情けない姿を晒す、それは醜さだと般若は叫ぶ。

弱さは罪だ。そして無知でもある、自分の実力が通用しないと言う事くらい理解できるだろうが。

そう言いながら般若は斬撃をあまびえ達に命中させていった。

 

 

「クハハハ! 気分がいい。弱いやつらをいじめるのは最高だぁぁぁ……」

 

「―――ッ!!」

 

 

般若の蹴りが傘化けの顔面を捉えた。

血と涙を混ぜながら彼はみぞれ達の元へ吹き飛んでいく。

そしてそれは他のメンバーも同じ、血と涙が混ざり合ってぐちゃぐちゃに顔をゆがませた。

それが醜いとまた般若は笑った。

 

 

「お前らみたいな屑が誰かを救える訳無いだろうが!!」

 

 

屑は屑らしくひれ伏していればいい。そう言いながら般若は笑う、だが彼はふいにある事を提案してきた。

全員殺すつもりだったが気が変わったと、ある提案をのめば一人だけは助けてやると般若は言った。

 

 

「一人、他の仲間を殺せ。そうすればソイツだけは助けてやろう」

 

「「「「!」」」」

 

 

例えばみぞれが助かりたいと願えば、みぞれは他のあまびえ達を殺せば助けてもらえると言うシステムだった。

般若は自分一人だけが助かる為に仲間を殺すと言う醜さを見たかったのだ、そうする事で自分は完全に彼女たちを見下す事ができると。

 

 

「ふざけんな!!」

 

「あ?」

 

 

だが、みぞれ達は全員並んでコチラを睨みつける。

 

 

「私達は友達だ! 最後まで一緒に戦って見せる!!」

 

「仲間を裏切るくらいなら死んだほうがマシよ!」

 

「そうだ! そうだ!! お前の思い通りになんてならないぞ!」

 

「オイラ達はそんな下らない事は絶対にしない!」

 

 

おいおい、白けさせてくれる。

般若は涙を浮かべながらもコチラを睨みつけてくるあまびえ達に絶大な怒りを覚える。

格下だと見下している彼女達が自分の思い通りに動かないと言う苛立ち、そのイライラを解消する為に般若は長刀を構えて歩き出す。

手加減をしていたが、もううんざりだ。腕の一本でも切り落とせば泣き叫んでくれるだろう、雑魚は自分のおもちゃでしかない。

 

 

「お前らみたいな雑魚は、俺の様な強者を楽しませる為だけに存在する玩具だ!」

 

「ぼく達は雑魚じゃない!!」

 

「雑魚なんだよ! 屑でカスでゴミみたいなモンだろうが!! 生きる価値なんて無い、無駄な存在なんだよ!!」

 

 

死ねや。そう言って般若が一歩、足を進める。

そして、それはその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事無いですよぉ!」

 

「「「「!!」」」」

 

「ぁ?」

 

 

タタタタと物陰から足音を立てて現れたのは、白衣を着た少女。

少女は悲しそうに泣いているあまびえ達に向かって走ると、みずからも少し悲しげな表情を浮かべてハンカチを取り出す。

いきなり現れたが、見たところ外はねの前髪が目立つ普通の少女だ。やや髪の色は派手だが。

 

 

「わわわ、泣かないでぇ。皆は雑魚なんかじゃないからねぇ~!」

 

 

グシグシと乱暴に涙を拭いていく少女。

白衣が妖怪城とはミスマッチに思えるが、彼女は何者なのだろう?

般若が真っ先に思い浮かべたのは侵入者、と言うかもうこの城にいるイレギュラーは花嫁を助けようとする――

つまりみぞれ達の仲間以外にはありえないからだ。面倒だな、せっかく気分が良くなったのにまた侵入者が現れるのか。

般若は少し様子を伺う為に長刀を構えながら少女を観察した。

 

見たところ弱そうとしか印象を受けないが、あまびえ達とは違い自分に対する恐怖は薄い様に感じられる。

今も自分に背を向けてあまびえ達を励ましている始末、それは自分など恐れるに足らない存在と思っているからなのか?

しかし少女気になるのはみぞれ達も同様だった、司の仲間かと思ったがこんな少女は見た事がない。

とはいえ自分たちを励ましてくれるあたり敵とも違う? では彼女は一体誰なのか?

 

 

「フレー! フレー! 雑魚なんじゃないよ! ゴミなんかじゃないよー♪」

 

 

少女はいつのまにかマラカスを鳴らして踊っていた。

これも励ましの一環なのだろうが、中々にシュールな光景である。

だがあまびえ達をみれば少女の雰囲気に影響されたのか、笑顔が見えるではないか。

みぞれは誰とも知らぬ少女が、あまびえ達に確かな元気と勇気を与えている事を感じた。

 

 

「おい助手! 勝手にどこにでも行くなとあれほど――……」

 

「あ! 博士!! こっちですよ!」

 

 

そして彼女の後を追う様に現れたのは同じく白衣の少年だった。

少女よりもはるかに伸張が低い事を考えると、年齢が大きく違っているのだろうが、少年は少女よりも立場が上に感じられる。

ラフな格好の上に白衣を纏った少年、目つきが悪い事意外は彼も普通の人間である。

博士と呼ばれた少年は助手であろう少女の周りを見て沈黙した。

 

 

「な、何だコレ? どういう状況だコレは」

 

「あのですね! アチラの般若さんがコチラの皆さんをいじめていたので私はいても立ってもいられず、つい博士の言いつけを破りました! 仕方ないね!! フゥ!」

 

 

舌を出して笑う助手に博士は舌打ちである。

白衣のポケットに手を突っ込んだまま博士もまた助手の方へと足を進める。

 

 

「おいおいココがどこかも分からん以上下手な行動は慎めと言っただろうが。本当にお前は屑でゴミで間抜けだな! 死ねよ!!」

 

「うぇーん! 般若さんと同じ事言ってるぅぅぅ!! 人間とは思えないぃいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 

舌打ちを同時に行う博士と般若。

これ以上の観察は無意味だと般若は理解し、博士もまた姿を見られた事に対する事で首を振る。

般若は長刀を構えて走りだす。どうせ白衣の二人組みも侵入者には変わりない、ならば殺すだけだ。

 

 

「どいつもコイツも目障りだ! 死ねよ雑魚共がッ!!」

 

「……やれやれ! 面倒な事になっちまったなクソっ!」

 

 

博士もそれを感じたのか疲れた表情をうかべてため息を一つ。

しかし――

 

 

「ググッ!!」

 

「………」

 

 

般若の身体が火花を散らす。

見れば、博士がいつのまにか特殊な形状の銃を構えていたではないか。

射撃音もまた特殊な銃は、般若を怯ませるだけの威力は持ち合わせている様だ。

博士はすぐにその銃を助手へと投げ渡すと、先ほどからの疲れた表情からは想像できない様な笑みをニヤリと浮かべる。

 

 

「まあいいか、やっぱり褒めてやるよ助手くん。アイツはヤバそうだしコイツの力を試すには持って来いの状況だ」

 

「お、起動するんですな! 燃えてきたぁあああああ!!」

 

 

博士が手を掲げると、そこに光が収束してすぐに『何か』を出現させた。

彼は般若が怯んでいる内にその何かを腰に掲げる。すると光が現れてベルト部分が出現、博士の腰に"ドライバー"を装着させた。

 

 

「助手くん、アイツ悪い奴でいいのかな? いいんだよな?」

 

「うーん……! ま、私のフィーリングがビンビン反応してるんで悪い奴でいいんじゃないっすきゃね?」

 

「はい、じゃあブッ潰しまーす!」

 

 

っていうかそもそも見ず知らずの人間を殺すとか言ってる時点で、アウト。

そもそもさっきから雑魚雑魚うるせぇし、アレどうみてもかませポジションの悪党だろ。

そう言いつつ博士は頷くと、ドライバーにある赤いボタンを四つ順々に押していく。

するとドライバーの中心にある電子版に何か人型のシルエットが映った、そして鳴り響くのは待機音と――

 

 

3(スリー)

 

2(ツー)

 

1(ワン)

 

 

カウントダウン。助手は指でその数字を示していった。

同時に博士はポーズを決めて、ドライバーにあるハンドルに手をかける。

そして口にするのはゼロではなく――

 

 

「変身ッ!」

 

 

その言葉と同時に博士はハンドルを入れる。

すると博士の頭上にUFOの様な物体が出現、電子音と共に光と煙を放出して博士の姿を完全に隠す。

衝撃が辺りを包むなか、みぞれはまさかと息をのむ。あの言葉で現れるのはもちろん一つの存在、それは――

 

 

「――シァッ!!」

 

「!」

 

 

仮面、ライダー?

 

 

「ッ! 何者だ!?」

 

 

般若の問いに答える様にして助手が両手を広げて掲げる。

そして笑顔で叫んだ言葉はただ一つ。

 

 

「フォーゼきちゃぁああああああああああああああああ!!」

 

「ッ?」

 

「フォー……ゼ?」

 

 

煙と光の中から現れたのは白が目立つ戦士。

まるで宇宙飛行士の様な姿で、四肢には○やら×のマークが見える。

頭は先端が尖っていると言う特徴的な物でラグビーボールのような、悪く言えばらっきょうやイカに見えなくも無い。

オレンジ色の複眼が発光してフォーゼは般若を見た。そして右手で胸をトントンと叩き、直後前に突き出す。

 

 

「さあ、証明・開始(スタート)だ」

 

 

仮面ライダーフォーゼ・Space on your hand!

その手で、宇宙を掴め!

 

 

「な、なんだ!?」

 

「いけいけ博士ーッ! いじめっ子をこらしめろーい!」

 

「何やらいろいろ間違っている気がするが……まあいいだろう」

 

 

フォーゼは肩を回しながら般若を挑発する様な仕草をとってみせた。

博士と言う知的なイメージからは想像もつかない行動、まるでチンピラだ。

しかし般若とて全く怯む様子も無い、むしろフォーゼをあまびえ達同様に見下している様だ。

そしてあまびえ達も少し不安げな表情。それはフォーゼのデザインが原因、言っちゃ悪いがどこをどう見ても強そうには見えな――

 

 

「弱そうなんだよお前!」

 

「……っ?」

 

 

フォーゼ自身もそんな空気を感じたのか、少しわなわな震えて助手を呼ぶ。

すぐさまスライディングで駆け寄る助手に、彼は手鏡を貸すように言った。

助手も先ほどからはっちゃけた行動を繰り返しているが、そこは女性なのかちゃんと手鏡を持ち合わせておりフォーゼへとソレを貸す。

そう、貸してしまった。

 

 

「……お、おい」

 

「ふえ?」

 

 

マジカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

「ひょぇええええええ!?」

 

「「「「!?」」」」

 

 

大声を上げるフォーゼに般若を含めた全員の肩が震える。

対してフォーゼはそんな事を気にする事も無く助手の肩を掴んでブンブンと揺さぶっていた。

どうやら彼自身このデザインを確認したのは初めて様で――

 

 

「助手くんんんん! 僕は言ったよなデザインはプロトタイプと同一にしろとォォオッ! なのに何でお前コレ――ッ! 妖怪イカ男みたいになってんだよ? あぁ!?」

 

「えー、だってプロトタイプは可愛くないんでぇ。っていうか絶対コッチの方が可愛くて素敵だと思うけどぉ」

 

「コッチは可愛さなんてコレっぽッッッッッちも求めてねーんだよ馬鹿がッ!!」

 

「へーんだ! いつの時代も新しい試みが奇跡を生み出すんで・す・よ! つか付ける機能は全部つけたんだしいでしょーうが! そういうチマチマしたのを引きずるなんて男らしくなーい!」

 

 

ギャーギャーと言い争いを繰り広げるフォーゼ達、そんな彼らに苛立ちを覚えたのか般若は長刀を構えて走りだした。

何も言う事は無い、鬱陶しい二人組みはすぐに貫いてやると彼は力を込める。

それに気づいて声をあげるみぞれ、しかしフォーゼ達はまだ口論を続けている。

もう間に合わない位置まで来ているのに!?

 

 

「死ねよ屑共がぁあああッッ!!」

 

 

般若は長刀を突こうと――

 

 

「「まだコッチが喋ってんだろうがああああああああああああッッ!」」

 

「グッッ!? ギャアアアアアアアアアアア!!」

 

 

助手は先ほどの特殊な銃で、フォーゼは頭突きで般若の攻撃ごとねじ伏せる様にして吹き飛ばす。

吹き飛ぶ般若を見てフォーゼはキュッと頭を撫でた、どうやらこの形状が頭突きの威力を増加させていたようだ。

 

 

「……成る程、まあ悪くない」

 

 

キュキュキュキュキュッキュッキュ!

フォーゼは自分の頭の先っちょを撫でまくっていた。

つまむようにスライドさせるとキュッキュと小気味のいい音が。

 

 

「意外とクセになるじゃねぇか」

 

「でしょー!?」

 

「動けば慣れるとは言ったもんだな、愛嬌のあるデザインと言えばいい」

 

 

フォーゼは素早く妥協した様で、般若に視線を移すとドライバーに装填されている四つのボタンを撫でる。

そして頷くと、その中の一つをトントンと叩いて見せた。反応を示したのは助手、素早くサムズアップを行うとみぞれ達に向かってある物を差し出す。

 

 

「こ……これは?」

 

「グラサンですん♪ キャハ☆」

 

 

つまりサングラス。

助手はいつのまにかサングラスを装着しており、みぞれ達にも早くつけるように進める。

何やら助手は『髪切った?』だとか『んなこたぁない』とか声色を変えてよく分からない事を言っている。

そうこうしている内にみぞれ達も全員サングラスを装着した様だ、シュールな光景だが――

 

 

「オッケーです博士! 青春スイッチオン!!」

 

「ああ、了解だ」【フ・ラッシュ/オン】

 

 

フォーゼがボタンのスイッチをオンにすると、○が描かれた右腕に何やら巨大なライトが装着される。

いきなり現れた道具・モジュールに驚くみぞれ達、だがそこで何故助手がサングラスを勧めてきたのかが理解できた。

般若もそれに気がついた様だが――

 

 

「残念だ、遅すぎる」

 

『グッ!! オォォォオォオオ!!』

 

 

フォーゼの手に装着されたライトが激しい閃光を上げる。

眩い光は般若の視界を完全に封じて動きを鈍らせる。隙だらけになった般若、それを見てフォーゼはさらにスイッチをオンに。

 

 

【ネェット/オン】

 

 

次は×、右足にモジュールが装着される。

虫取り網の様な形のネットモジュール、フォーゼは足に装備されたソレを振るった。

すると網から電磁ネットが射出、電磁ネットはそのまま隙だらけの般若をガッチリと捕らえて拘束!

 

 

「博士ー! スイッチはどうですか!?」

 

「いい調子だ。上出来だぜ助手君」【レーェイダーァ/オン】

 

 

フラッシュのスイッチをオフにして、フォーゼは別のスイッチをオンに。

すると□が描かれた左腕にレーダーモジュールが出現、フォーゼはレーダーをネットで捕らえた般若に向ける。

同時に助手はハンバーガーの様な機械を展開させつつ、カバンを地面に置き開いた。

するとカバンと思われていたのはパソコンの様で、何やら般若がサーチされている映像を映す。

 

 

「なるほど、面白い構造をしているな」

 

「はい、般若の後ろに人がいますね。人で人を覆ってるなんてマトリョーシカみたい!」

 

「外装は鎧の役割を果たしている。死ぬほどのエネルギーをぶつけても一度くらいは助かるときた」

 

 

つかコレどっかで見た事あんな、フォーゼはそう言いながら首をかしげる。

たしかコレはガイアなんとかだった――と、彼は思考をめぐらせた。

だが予想以上に時間を使った様で、般若は長刀でネットを切り裂くとフォーゼに向かって突進を。

 

 

「やれやれ――」

 

 

フォーゼもまた構えると走り出した。

背中にはジェット噴射ができる部分があり、空中を飛翔してフォーゼは般若に殴りかかっていく。

 

 

「………」

 

 

そしてそれを見つめるあまびえ達。

フォーゼが現れた時は笑顔ではあったが、すぐにまた暗い表情に戻ってしまう。

みぞれにはその理由がよく分かったが、助手には彼女達がどうしてそんな悲しげな表情を浮かべているのかが分からない。

雑魚と言われた事がまだ悲しいのだろうか? 助手は思い切ってあまびえ達本人に理由を聞いてみる。

 

 

「……アイツに勝ったとき、ぼく達も世界の為に戦えたんだって思ったんだ――」

 

 

自分たちだけ震えているなんて嫌だ、世界と花嫁を守りたいと彼らはココにやってきた。

だけどやっぱり何もできなくて、結局また誰かもよく知らないフォーゼに助けられている。

こない方が良かったと言われれば反論できない、でも何もしないのはもっと嫌。だけど――

そんなジレンマが強すぎて泣けてくる。どうして自分たちはこんなに弱いんだろう? 実力だけじゃない、心も。

 

 

「ちっがいますよ!!」

 

「え?」

 

 

だが、そんな弱さを助手は思い切り否定した。

正直彼女自身あまびえ達がおかれている状況、花嫁のシステムを理解していない筈なのだが、それでも彼女は否定した。

しかもハッきりと迷い無く。

 

 

「よく分かんないけどさ、君たちは何かを守りたくて戦いに来たんでしょ?」

 

「う、うん……」

 

 

それは大切なモノ?

問いかける助手と頷くあまびえ達。

 

 

「じゃあ君達は強いよ、立派だよ!」

 

「え……?」

 

 

助手はニッコリと笑って拳を前に突き出す。

それを繰り返してシャドーボクシングを急に開始する。呆気にとられながらも、あまびえ達は視線を外さない。

助手は言った、自分たちは弱くないと。

 

 

「大切なモノを守る為とは言え、怖い物と戦おうとするって凄く勇気がいる事だよ!」

 

 

あまびえ達はココにいる、大切な世界を守る為に。

陽達や花嫁を助けたいと願ったからココにいる。恐怖した中でも尚般若に立ち向かった、尚食らいついた。

それは友達がいる世界を守りたいからだ! その行動を取った時点で、君たちは雑魚なんかじゃないと助手は叫ぶ。

 

 

「踏み出した一歩(ゆうき)が君とっては小さくても、世界にとっては大きすぎる一歩なんだよ!」

 

「!」

 

「震えてるだけなんてノンノンノン!」

 

 

だから悲しまないでと助手は言う。

 

 

「イメージで躊躇してるなんてナンセンス!」

 

 

だから泣かないでと助手は言う。

 

 

「下を向いてたら空は、宇宙は見っえませーん! そんなのつまんないじゃん!」

 

 

だから笑ってと助手は言う。

その言葉に頷く一同、それを聞いて助手は最高の笑顔を浮かべてブイサインを送る。

 

 

「それに、君達のジャイアントステップはまだ終わってないって!」

 

「「「―――!!」」」

 

 

その言葉を聞いて、彼女たちの目に炎が宿る! あまびえ達は何やら作戦を言い合い頷きあう。

そして前に出たのはあまびえとかわうそ、二人は少し離れた所で戦っているフォーゼ達に視線を向けた。

 

 

「「せーっっっの!!」」

 

 

そして同時に水流を発射、水の奔流はそのまま――

 

 

「グッッ!!」

 

 

般若へと直撃!

一瞬動きが止まる隙に、助手はカバンから何かを取り出して声を出した。

それは先ほどと同様のスイッチ、黄色いタイプでナンバーは10と記載されている。

 

 

「ぱぱぱぱーん! エレキすいっちぃ(だみ声)!」

 

 

そして助手はそれをフォーゼに向かって投げる!

スイッチは抜群のコントロールでフォーゼの手に収まると、彼はライトのスイッチをドライバーから抜き出して代わりに受け取ったエレキスイッチを装填した。

 

 

ELECTRIC(エレキ)!』

 

 

スイッチを装填した事で電子音が種類の名を告げる。

フォーゼの前にはかわうそ達の水によってずぶ濡れになっている般若。

彼は何のダメージも与えられていないかわうそ達の攻撃が頭にきたらしく、先ほどから言い続けた雑魚と言う単語を使用していた。

 

 

「クソッ! なんの意味もないのに――ッ!」

 

「そう、君にとっては何の意味も無いと感じる攻撃も――」

 

 

フォーゼは電源ブレーカーを模したエレキスイッチをオンにする。

するとフォーゼの周りに雷太鼓の様な機械群が出現、文字通り太鼓から激しい放電が巻き起こる!

太鼓達は一気にフォーゼの元へ収束、金色の雷はフォーゼの身体を包み込み――

 

 

「君とっては意味の無い攻撃も、僕にとっては大いに意味のある攻撃だった」【エ・レ・キ/オン】

 

 

電子音と共に雷が弾け、中から金色に染まったフォーゼが姿を見せる。

至る所に雷の装飾が見え、装備された雷太鼓から雷神のイメージを植えつけられる。

それはそうだ、現在のフォーゼ、名を"エレキステイツ"と呼称した。

 

フォーゼは『アストロスイッチ』と呼ばれるモジュール召喚装置を使い分けながら戦う戦士。

その数多いスイッチの中でも10番、エレキスイッチは特別な力を持つ物である。

それはフォーゼの姿を変える、ステイツチェンジと呼ばれるもの。

フォーゼは右腕にエレキステイツの専用武器である"電磁棒・ビリーザロッド"を構える!

 

 

「彼らの水流は確かに君にダメージを与える事はできなかった」

 

 

フォーゼはビリーザロッドに装備されているコードのプラグを三つあるコンセントの一つに差し込んだ。

するとロッドに電流が流れ始める、それを確認して動きを止める般若。

先ほどフォーゼが言った言葉、自分にとっては意味のある攻撃――

 

 

「しまっ!」

 

「おそいな、くらえッ!」

 

 

フォーゼは帯電したロッドを地面――ではなく水に叩きつける。

すると激しい電流が巻き起こり、それは水を伝いずぶ濡れになった般若へと向かっていった!

あのとき彼を濡らしたのは攻撃ではない、電気の通りをよくする為だ。そんな事を考えた時にはもう遅く。

 

 

「グォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「………」

 

「オオオオオ……オ――ッ!」

 

 

電気の力は凄まじい様で、般若は力なくその場に膝をつく。

完全に油断していたと般若はフォーゼを睨んだ、しかし彼は上機嫌に笑うだけ。

どうやら自分の思い描いていた通りに事が運んで嬉しいらしい、フォーゼはセットしていた最後のスイッチをオンに入れる。

 

 

【ホ・イール/オン】

 

 

左足にセグウェイを連想させる二輪が装着される。

ホイールは急回転を始め、一気にフォーゼをそのまま後ろへとバックさせた。

一瞬で助手達の元へ帰ってくるフォーゼ、彼はそのまま手を傘化けに向かって差し出した。

 

 

「え……?」

 

「さあ、フィニッシュは君の力でやってみるといい」

 

 

戦闘能力が何もないと卑下していた傘化け、そんな自分が決着を?

不安から怯む傘化けだが、そんな彼の背中を助手が勢い良く押した。

 

 

「安心してください! フォーゼの力は世界一ィイイイイイイイイィィィ……なんだもん!」

 

 

その衝撃で傘化けの手がフォーゼに触れる。

フォーゼは戸惑う傘化けにたった一つの質問を投げかけた。

彼は先ほどレーダーで般若をサーチした後、傘化け達にも同じ事をしていたのだ。

 

 

「君は空中で回転できるか?」

 

「う……うん、一応は――」

 

 

じゃあ十分だとフォーゼは傘化けに素早く作戦を伝える。

動き出そうとする般若を再びネットモジュールで捕獲すると、フォーゼは傘化けを掴んで飛び上がった。

同時に傘化けは回転。独楽の様に回るフォーゼ、彼はその最中でエレキスイッチをビリーザロッドに装填!

 

 

「さあ、決めたまえ」『LIMIT BREAK』

 

 

電子音が鳴り響き、スイッチを経由してビリーザロッドに膨大なエネルギーが付与される。

ネットから脱出しようともがく般若を差し置いて、激しく回転する傘化けとフォーゼ。

 

 

「「いっけぇええええええ!!」」

 

 

そこへあまびえとかわうその水流が発射され、押し出される様にフォーゼ達は加速する。

回転しながらロッドを突き出し、向かうは般若一直線! 回転しながら迫る電撃ロッド、般若は何か叫びながら抵抗を試みるが――

 

 

「サンダーハリケーン超連撃ィイイイイイイイイイイイッッッ!!」

 

「ガガガガガガガガガガガガァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

明らかに即席の必殺技名を叫ぶ助手と、そのまま回転切りで般若を攻撃するフォーゼ。

文字通り雷の嵐となったフォーゼの連撃、それは般若が耐えられるモノではなかった様だ。

 

 

「クソォオオォ……ッ! こんな雑魚に――ぃぃいいッ!!」

 

「さっきから君は本当にそればっかなのな。飽きたわ、死ねよ」

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

切り抜けるフォーゼと共に般若の身体が爆発。

粉々に砕けたメモリと完全に意識を失っている人間を排出して戦いは終了を告げた。

 

 

「しゃああああ! 勝ったぜコノヤローッ!!」

 

 

手を取り合ってはしゃぎ合う助手とかわうそ達。

みぞれも安心した様に笑ってへたり込む、どうやら悪い人達じゃなさそうで安心した。

傘化けも自分が勝利に貢献できた事が嬉しい様だ。

 

 

「しかしまあ、フォーゼの力を試せたのはいいが何が起こっているのかサッパリだ」

 

 

変身を解除する博士、助手もテンションにまかせて今まで行動してきたが今この城で何が起こっているかなんて分かる筈も無い。

しかもよく見れば傘化けやあまびえは明らかに自分たちの世界では異端な外見だ、ましてかわうそなんて動物が喋っているのと同じ。

 

 

「何か変な事に巻き込まれきゃ良いけどな、とりあえず話してもらおうじゃないか」

 

 

博士の言葉に頷くみぞれ、彼女は今この世界で起こっている事を全て話す事を決めた。

フォーゼの外見、そして変身と言う言葉は司達の言う仮面ライダーそのものだろう。

だとしたら協力してくれるかもしれないと言う期待も込めて。

 

 

 

 

 

 

 

そして話が全て終わる。

やはり博士も助手も花嫁と邪神の事が引っかかる様だ。

 

 

「ふぅん、邪神ねぇ」

 

「かわいそうですね花嫁さん……!」

 

 

どうします? 助手は協力を求めるみぞれを見て、続き博士を見た。

ジッと目を閉じて沈黙している博士、どうやら彼も迷っている様だ。

正直言えば花嫁の事は気の毒とは思うが、だからと言って協力するメリットも少ないし。

しかし気になるのは他の仮面ライダーと言う存在、それにメモリ使用者等の異世界からの敵。

邪神の正体も気になる所ではある――……。

 

 

「しかたねぇ分かった。取り合えず今は君たちに協力しよう」

 

「あ、ありがとう!!」

 

「今は他にやる事もないからね」

 

 

案外すんなりオーケーしてくれた事にみぞれは驚いたが、協力してくれる仲間が増えたのは非常に心強い。

優勢の今、一気に城を攻めれば勝利は近いか? とにかく彼女たちは他のメンバーと合流する方針を固める。

退避ではなく合流、それはあまびえ達にも戦ってもらうと言う事。それは危険な事ではあるが、彼女達は今この戦いで大きな事を学んだ筈だ。

だからこそココで帰らせる事はできない、それを彼女達は望んでいないから。

 

 

「その前にみぞれさんの傷を治療しよ! 博士お願いします!!」

 

「そう……だな。分かった」

 

「ごめんね、助かるよ。あ、そう言えば名前まだ聞いてなかったよね」

 

 

みぞれ達は今一度自分の名を言っていく。

そして助手は頷き、ニッコリと笑って自分を指差した。

 

 

「私は美少女助手の城ヶ咲(じょうがさき)優子(ゆうこ)! よっろしくねぇーッ! んーまっ! ん~まッッ!」

 

 

しばらく投げキスを行う助手。しばらくしてコチラは! と、助手はビシッと構えて博士を指し示す。

鬱陶しいといった表情で博士は助手を睨むが、咳払いを一つした後白衣を調えて彼も口を開いた。

 

 

零月(れいげつ)結弦(ゆづる)だ。よろしく頼むよ、ミス雪女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォーゼ……まさかこのタイミングで現れるとはな」

 

「神々が認識した新世代第14番目か」

 

 

書斎では当然ナルタキ達が現在の状況を確認していた。

いきなり現れた博士達は彼らにとってもイレギュラーとなっている。

もちろんフォーゼという存在を知らなかった訳ではない、いずれナルタキはコンタクトを取ろうと考えていた事実がある。

 

 

「都合がいい、まさか向こうからやってくるとは」

 

「コチラに招くか?」

 

「いや――」

 

 

ナルタキは博士たちをジッと見つめた後、首を振る。

 

 

「彼らはしばらく泳がせる」

 

 

やはりまだ情報が無い以上異物である事には変わりない。注意しつつ情報をあつめていくとナルタキは言った。

とはいえ、彼にはやる事が山ほどある。何を優先させて何を後回しにするのか、非常に悩む所だ。

せめて隣の魔女がもう少し協力的ならば助かるのだが――、期待はしない方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自己紹介が終わった後に再び博士はフォーゼとなり、スイッチの一つメディカルスイッチを使ってみぞれの傷を治療して見せた。

本当にいろいろできる物だ、みぞれは感心していると助手は常にドヤ顔だった。

 

そうこうしていると別れた麓子がやってくる。

彼女も彼女で戻ってきたらみぞれ達がいなくなっていた事に驚いていた様だ、しかも見つけたら見つけたで白衣の二人組みがいるときた。

とりあえず麓子にも事情を説明、二人が味方だと言う事を告げると彼女も安堵の笑みを。

味方が増えてきて本当にもしかするとかもしれない、七天夜も続々と脱落していくと言うかつて無い前代未聞の事態が起こっているのだから。

 

 

「でもちょっと気になることがあるの」

 

「?」

 

「青い小袋見なかった?」

 

 

麓子が砂かけ婆から受け取った小袋、その中で最も強力な青がいつの間にか無くなっていたのだ。

化け猫に追われている時はあったが、それからいつ無くしたのか? どこかで落としたのだろうか?

 

 

「うーん、知らないなぁ」

 

「じゃあ仕方ないか……。あーあ、ドジやっちゃったわ」

 

 

麓子は不注意で無くしたのだと諦める。

とにかく今は行動を起こさなければ、みぞれ達が現在位置をマップで調べ、かつ一番近い所にいる味方を調べた。

結果、現在鍵を持って移動しているのが亘達と言う事が分かった。

 

それぞれ各々で合流を重ねているらしく、アキラがいるだろう方向へと向かっているとの事。

何やら鬼太郎と合流した司、鴉天狗、鏡治、翼だけはどこか違う場所へと向かったらしいが、きっと大事な何かをしに向かったのだろう。

そうこうしている内に亘達とみぞれは合流、そうなると当然――

 

 

「え……えっと――」

 

「急いでいるんだろ? 説明は面倒なだけだ、ほら行こう」

 

「よろしこピース!」

 

 

二つピースをつくって頭に持っていく助手。

それは流行らないし流行らせないという博士の言葉を受けて彼女はしょんぼりと後ろに下がっていく。

亘達も博士達が気になる所ではあるが、確かに時間が無いしましてみぞれ達と一緒にいる時点で味方なのだろうと割り切る事に。

 

 

「花嫁は今どこに?」

 

「最上階の部屋にいるんだ、仲間が調べてくれたしボクもトゥルーアイで確認したからマジだと思う」

 

 

トゥルーアイを説明すると納得する博士、今までは妖狐の幻術が透視を邪魔していたがもう彼女は気絶している。

七天夜の妖狐以上に幻術を操る者がいるとも考えにくいし、鬼太郎達もその情報は本当で間違いないと言っていた。

つまり後は最上階に向かうだけ、邪魔しようと押し寄せる河童兵や妖怪達はアンデッドや他の味方が抑えてくれる為、そこへの道はさほど厳しいものではなかった。

襲い掛かる妖怪達もイクサやサガが止めてくれる。そのまま一同はどんどん上層に向かっていく。

 

その途中で里奈はイクサ達にブローチの事を問いかけていた。

イクサやサガも大臣が直々に里奈に与えたと聞いて何かしらの能力があるのではないかと思っていたらしい。

そして里奈の話を聞いて、この龍の形をした黄金のブローチが魔皇力の塊だと言う事を知る。

 

 

「魔皇力を与えるブローチか……王族に伝わる由緒ある代物だな」

 

「大臣が君にお礼の意を込めて渡したんだ。それは君の力にすればいい」

 

 

嬉しそうに頷く里奈、これがあれば自分も皆を助ける事ができる。そしてイクサはさらに使い方の応用を教えてくれた。

このブローチを使えば他者に魔皇力を与える事も可能なのだと、魔皇力はキバ系のライダーにとって力の源である。

ならば――と。

 

 

「案外すんなりいけそうだな」

 

「………いや」

 

「?」

 

 

確かに順調な道のりではある。

だが亘には分かっていた、このまま素直にアキラの所まで行ける訳が無いと。

だってそうだろう? 超えると約束した者がいるのだから。その雰囲気を感じたのか、キバットが亘に告げる。

 

 

『この先にいるッスよ』

 

「ああ、だろうね――ッ!」

 

 

首をかしげるリラと朱雀達、何も知らない彼らにとっては亘が何に対して注意をはらっているのかが分からない。

亘はキバットを構えて変身、ドッガハンマーを使いトゥルーアイを発動させた。

 

 

「いるね……やっぱり」

 

『いくんスか?』

 

「もちろん、アイツはボクが倒す――!」

 

 

キバフォームに戻りブロンブースターを発動させる。

瞬時現れるブロン、既にバイクとの合体は済ませておりキバはそれに飛び乗ろうと力を込める。

そこで呼び止める朱雀、何の話なのか全く分からない。詳細を求めるとキバはどうしても倒さなければならない相手がいると彼女に告げた。

 

 

「里奈ちゃん、鍵をお願い!」

 

「う、うん……!」

 

 

鍵を里奈に渡し、キバは朱雀達に先に行くと告げる。

だがそこで里奈が思い切った様に口を開いた、行く前にちょっと待ってほしいと。

その呼びかけにこたえるキバ、どうしたのだろうか?

 

 

「手、出して」

 

「え?」

 

 

里奈はキバに向かって両手を差し出す。

それにつられる様にキバもまた里奈に向かって両手を差し出した、すると里奈は少しだけ頬を赤らめてその手をギュッと握り締める。

 

 

「?」

 

「魔皇力、あげるね」

 

 

突然の行動に戸惑うキバだったが、里奈のブローチが光り輝いたかと思うと力が流れ込んでくるのを感じた。

すぐに事情を説明する里奈、ブローチが魔皇力を操るものならば当然キバに魔皇力を分け与える事もできる筈だ。

結果は成功、キバは里奈の魔皇力を受け取り体力が大幅に回復する。

毒とも薬ともなるのが魔皇力、亘にとってはもう回復を行える力にまで昇華していると言う事だろう。

 

 

「ありがとう里奈ちゃん! すげー元気になれたよ!」

 

「うん! なら良かった……!」

 

 

はにかみながら笑顔を浮かべる里奈、それにキバにとっては純粋な回復だけでなく――

 

 

「キバット! これならいけるんじゃないか?」

 

『そうッスね! この魔皇力なら――』

 

 

何やら二人して盛り上がるキバ達。

それは里奈達には分からない会話だったが、とにかく力になれて良かったと笑みを浮かべる。

だが時間が時間だ、朱雀の行かなくてもいいのか? との言葉にキバはハッと我に返る。そうだ、こうしてはいられない。

キバはもう一度里奈にお礼を言って朱雀達に里奈達を任せる様頭を下げる。

 

 

「おう、よく分かんねーが頑張れよ」

 

「頼むぞ亘、君なら必ずできるさ」

 

「自分を信じろ、キバを信じろ」

 

 

彼のやるべき事を理解しているイクサとサガ。

彼らにもう一度合図を送ると、キバはブロンブースターを発射させる。

爆発的な加速力でキバは前方に消えていく、景色が線となりキバは一気に廊下を駆け抜けた。

先には何が待っているのか? 分かってる、先ほど確認したから。

 

 

「行くぞッ! 夜叉ッッ!!」

 

「………」

 

 

青い光が見えた。と、同時にブロンブースターに直撃する巨大なレーザー。

彼の前に立ちはだかるのは夜叉、あの時に超えると宣言した相手だ。

ぶつかり合うレーザーとブロン。互いに均衡を保つ攻撃と攻撃、青白い光がキバの視界を覆っていく。

このままでは負ける、キバはブロンから飛び上がると――そこに立っていた夜叉と目を合わせる。

 

 

「………」

 

「………ッ」

 

 

相変わらず無表情でコチラを見ている夜叉。

彼は種族と言う大きな壁に翻弄された妖怪である、それ故に共存の道を強く示したキバに興味を持った。

同じ吸血妖怪であり共存を否定した樹裏架達を倒し、かつ自分も超えると言うか。ならば超えてみろ。

そんな思いを込めて夜叉は胡弓に手を伸ばす。

 

 

「力を! ガルル――ッッ!」『ガルルセイバー!!』

 

 

鎖がキバを包み込み、破裂。

狼の咆哮と共に現れた青いキバは、ガルルセイバーを手に夜叉へ飛び込んでいく。

ぶつかり合う剣と剣、激しい火花を散らして二人は連撃を叩き込んでいった。

キバはむちゃくちゃに剣を振り回して夜叉の少しでもダメージを与えようと試みる。

しかしやはりと言うか、夜叉はキバの攻撃を全て受け止めていた。

 

 

「………」

 

「!」

 

 

夜叉はキバが姿勢を低くした一瞬を見て、彼の膝を踏み台として後ろに跳んだ。

膝にダメージを受けてよろけるキバに彼は胡弓から衝撃波を発射する。

だがキバもまた同時にハウリングショックを発動。ぶつかり合う双方の衝撃波は互いを打ち消しあいゼロに変えた。

 

 

「頼むよ、バッシャー!」『バッシャーマグナムッ!』

 

 

鎖がキバをがんじがらめに拘束、だがすぐにキバは鎖を引きちぎり緑に染まっていく。

距離が空いたのは彼にとっても好都合、キバは水流弾を発射して夜叉を狙う。

対して夜叉は胡弓から短剣の群れを放出、剣と水流では剣が打ち勝つ事を読んでいたか。

 

 

「でも、それはボクも分かってたぜッ!」

 

「………ッ」

 

 

キバは襲い掛かる剣の前に巨大な水流を出現させた。

大きな水のボールに剣が入るとその動きを水圧によって鈍らせる。

それが本当の狙い、キバは遅くなった短剣達を蹴りで弾き飛ばしていく。

キバが蹴れば水圧は無くなり、短剣は向きを夜叉へと変えて飛翔する。

要は反射、夜叉は当然相殺の為に再び短剣を発射する。しかしそれに注意を取られて背後から迫る水流弾に気づく事ができなかった。

 

 

「!」

 

 

キバの弾丸が夜叉の背中に着弾。

軌道を変え、かつ追尾する水流弾に夜叉は危険性を悟った。すぐにキバと距離を詰めて剣を振るう。

バッシャーは接近戦ができなくは無いが、やはり夜叉相手には不利。

キバは向かってくる彼を確認して紫のフエッスルをキバットに噛ませた。

 

 

「来てくれドッガッ!!」『ドッガハンマー!!』

 

 

紫の装甲が剣をその身で受け止める。

防御特化、それを確信すると夜叉は宙返りで空に舞い上がった。

その際、夜叉は剣で胡弓をかき鳴らし衝撃波を発生させる。

 

 

「クッッ!!」

 

 

キバの脳を揺らす衝撃、しかしキバもその中でドッガハンマーを構える。そしてそれを思いきり突き出した!

空を切り裂き拳型のハンマーが夜叉を直撃する。胡弓と剣をクロスさせ防御する夜叉だが、ダメージは確実に与えた筈。

キバは追撃を行おうと足を踏み出したが――

 

 

「ッ!?」

 

 

だが身体が進まない。何かに縛られている? キバは自分の背後に感じた違和感を探る。

すると見えたのは夜叉の使い魔である支那夜叉、宙返りの時に毛を媒体にキバの背後へと彼を向かわせていたと言う訳か。

キバはすぐに支那夜叉を振りほどこうと力を込めた。

 

 

『樹裏架が言っていた事が、私は正しいと思えない』

 

「――……ッ」

 

『だが、同時に思う。彼女は間違っていたのだろうか?』

 

 

人型の夜叉とは違い、饒舌に話す獣型の支那夜叉。

夜叉はこの世界を守るだの、邪神の恐怖だのよりも総大将の命令を忠実に遂行しているだけだ。

それは彼にとってこの世界が疑問の塊だからに違いない。

夜叉は一体自らの価値、および世界の価値がどれ程のものなのか全く分からなくなってしまったのだ。

 

 

「しま――ッ!」

 

 

キバは支那夜叉の会話に注意を払い、同時に夜叉から注意を反らしてしまった。

それが間違い、夜叉は支那夜叉によって拘束されているキバめがけ再びレーザーを発射した。

青白い光が支那夜叉ごとキバを巻き込む。一瞬にして消し炭になる支那夜叉と、必死に耐えようと踏ん張るキバ。

ドッガでなければ致命傷だったろうが、なんとか一発は耐える事ができた。

 

 

『樹裏架は言っていたな、今の世界は共存で無く支配だと』

 

 

夜叉の横には既に消滅した筈の支那夜叉が、どうやら使い魔であるが故に何度も蘇る。

そして彼が夜叉の心を代弁するらしい。本体の夜叉はと言うと、会話をするつもりがあるのか無いのか、剣を構えてキバに向かっていくだけだ。

 

 

「支配と考えるか、それとも共存の為の妥協と考えるのか……! それは人それぞれかもしれない。お前はどう考えるッ?」

 

 

キバフォームに戻るキバ、彼もまた構えて走り出す。

 

 

『確かに、私達は妥協……適応しなければならない状況だった。人と暮らす為には吸血を中心とする生態を変えなければならないと――』

 

 

それは樹裏架達も努力していた事だ。だが彼女達は結局その道を選ぶのを諦めた、何故か?

そうこうしている間に夜叉とキバの距離は縮まる。二人はそれぞれ刀を、足を、互いの武器を振るって応戦し合う。

キバはサマーソルトや足払いを巧みに使い分け、距離感を一定に保ちながら夜叉に攻撃を仕掛けていく。

夜叉もまたキバがガードしきれない程の速さで剣を打ち付けていく。

 

 

「こんの――ッ!!」

 

「………」

 

 

焦りからかキバは力を込めた上段蹴りを行った。

ヒットすれば大きなダメージを与えられたろうが、夜叉は攻撃のタイミングで後ろに跳び見事攻撃を交わして見せた。

同時に髪を伸ばしてキバの足を絡め取る。そのまま夜叉に引き倒されるキバ、そこへ鳴り響く胡弓の音。

無数の短剣が倒れるキバへと雨のごとく降り注いでいった。

 

 

「グッッ!! ガァァァアッッ!!」

 

「………」

 

 

着地する夜叉とよろけながら立ち上がるキバ、支那夜叉はそのタイミングで言葉を続けた。

 

 

『この世界は迫害に満ちている。多くの種族が存在するこの世の中で半妖や幽霊族が忌み嫌われる様に、我らもまた畏怖か異端か、迫害の対称になった』

 

 

吸血妖怪はあまりにも共存には向いていないと、どこぞの誰かが発言を繰り返し、あげく危険な存在だと排除案まで出す始末。

共存の為に努力しようとも、誰もそれを望んでいないと言われれば努力する意味もなくなる。

だから樹裏架達は諦めた。総大将もそれを理解したのか、彼女達が誰とも関わらず暮らせる環境を作ったのだ。

 

 

『ペナンガラン達も、どんなに努力を重ねようが人と関わる機会は少ない』

 

 

夜叉たちが抱えている本当の問題は邪神ではなく、これからの世界に対する自分たちの位置づけだ。

そもそも夜叉は吸血妖怪の差別を無くす為に修行を積んで七天夜となった。

権力の力で半ば強引に差別を無くそうと考えたのだが……

 

 

『感じるよ、迫害は終わらぬと』

 

「………」

 

 

夜叉は無表情で攻撃を繰り返す。

キバの隙をついて再びレーザーを発射、キバはそれを受けてしまい壁に叩きつけられる。

同時に解除される変身、彼は地面に叩きつけられて苦痛の声を上げる。

 

 

『亘、お前は共存は不可能ではないと言った。だが私は不可能と言う』

 

「………確かに――共存はボクが考えている百倍も難しいだろう……ッ」

 

 

亘は立ち上がると大きく深呼吸を行う。

 

 

「でも、だからこそ諦めちゃ駄目なんじゃないのか? 諦めたら、すぐに悪意の連鎖に飲まれる!」

 

『………』

 

「確かに今は難しいことなのかもしれない。だけど不可能じゃない筈だ。半妖も幽霊族も確実に迫害の目は減ってるって寝子さんは言ってたから……ね」

 

 

やはり通常のキバで勝つのは難しいか。

ならば、選ぶ道はただ一つ。

 

 

「キバット、イケるよな?」

 

『ういッス、亘さんの魔皇力残値から考えても十分ッス!』

 

 

その言葉を聞いて静かに亘は笑う。

同時に現れる闇の鎖、それがはじけると亘の腰にはベルトが装着されていた。

 

 

『私達は共存の意味が理解できなくなってきた。その先に得られるものなどあるのか? 無いのなら、いっそ……その種族だけで暮らせば――』

 

「互いに手を取り合う事に意味を求めても無駄さ」

 

 

でもあえて言うのなら、そう笑って亘は構える夜叉に視線をぶつける。

同時にベルトから抜き出すのは青、緑、紫のフエッスル。亘はそれを同時に宙へと投げる。

舞い上がるフエッスルを口でキャッチするキバット、素早く三つのフエッスルを鳴らしてアームドモンスター達に召集をかけた!

そう、その数は三つ同時。それが意味するのは――

 

 

「ガルル、バッシャー、ドッガ、里奈ちゃんの力が無ければ完成しない力だ」

 

 

それはまさに共存が生んだ力。

アキラを救い、世界を守る。そして何よりも目の前にいる夜叉を倒す力だと。最後にキバットは亘の手を噛んで魔皇力を注入した。

亘の両腕に鎖が巻きつけられる。そして胴体、足と鎖に包まれていく亘の身体。鎖同士が擦れる音が辺りに響いた。

 

 

『共存が生んだ力か。いいだろう、見せてくれ亘――ッ』

 

 

支那夜叉の言葉と共に夜叉が走り出した。剣と胡弓を構えて彼はまっすぐに亘を見る。

共存を望む事も諦める事もできない夜叉、そんな彼を共存を願う亘が倒すと言う。それも共存が生んだ力でだ。

果たしてその価値とはどれほどの物か、今一度夜叉は確かめたいと力を込める。

 

 

「変身ッッ!!」

 

 

鎖に包まれた亘が叫ぶ。亘は樹裏架戦であるジレンマに包まれていた。

それはアームドモンスターの能力を複合できないかと言う事だ。ドッガの防御力、ガルルのスピード、バッシャーの遠距離攻撃。

それが組み合わさればと戦いの中で考えていた、しかしそれを可能にする力は無かった。

だが今、里奈から授かった魔皇力があればソレは可能ではと亘は思った。

結果は彼の読みどおり、その力は確かに彼に与えられる。

共存が生んだ仮面ライダーキバ。さあ、その力を夜叉に示さなければ!!

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 

覚醒(ウェイクアップ)! 運命(さだめ)の鎖を解き放て!!

 

 

「………ッ!」

 

「いこう皆! ボク達の力で勝つんだッ!!」

 

 

鎖を解き放ち現れたキバ、だがその姿は夜叉が始めて確認する物だった。

右腕がバッシャーフォーム、左腕がガルルフォーム、胴体はドッガフォーム。それ以外はキバフォームと言う複合形態。

全てが合体されたそのキバ、名は"ドガバキ"フォーム!

 

 

「………ッ!」

 

「フッ!」

 

 

夜叉の剣をキバはその身で受け止める。

ドッガの防御はやはり夜叉の剣の威力を大幅に減らす事が可能だった。

それだけじゃない、今度はキバのターンだ。彼は夜叉の一撃を見切ると、ガルルセイバーを出現させて剣を受け止めた。

同時に地面を蹴って、キバは夜叉の背後に着地する。ドッガは攻撃と防御が特化し、同時にスピードが落ちる。

しかし今のキバにそのデメリットは与えられなかった。猛スピードでガルルセイバーを振り、切りまくるキバ。

夜叉もガードを固め反撃の機会を伺うが――

 

 

「……ッッ!」

 

 

ドッガのパワーも今のキバには存在している。

夜叉の剣はキバの攻撃を受け止めきれずに大きく弾かれてしまった。

そこへ襲い掛かるドッガハンマーの一撃、キバは夜叉をそのまま持ち上げると適当な場所へと投げ飛ばす。

 

 

「まだだッ!!」

 

「!!」

 

 

そこへ放たれるバッシャーマグナムの水流弾。

ドガバキフォームは文字通り全てのフォームのメリットと武器を扱えるのだ。

だが夜叉もまた負けてはいられない、追撃を受けながらもしっかりと着地を決めて胡弓を構える。

向かってくるキバへ衝撃波を発射、同時にバックステップで後ろへ下がりさらに衝撃波を発射。連続で衝撃をキバへとぶつけていく。

 

 

「クッ!!」

 

「………」

 

 

動きが鈍ったキバ、そこへ夜叉はレーザーを発射する。

怯んだキバにはよけられないと完璧に計算されて放たれたレーザー。

先ほどの一発もあってかキバにとってその一撃は致命傷となる筈だ。

 

 

「―――この時を待ってたぜッ!」

 

 

ビシッ!

そう音を立てて文字通り空間にヒビが入る。

 

 

「……ッ!?」

 

「ウェイクアァァアアアアアアアアップッッ!!」

 

 

キバの叫びと共に弾け飛ぶ空間、夜叉が気づいた時には周りの景色が全く違うものに変わっていた。

何よりも目に付くのは巨大で美しい月、見方によって通常の月に加えて青、緑、紫の色彩が入っていた。

続いて夜叉の耳に地面を蹴る音が聞こえる。我に返った夜叉はキバの姿を探すがいない! レーザーに呑まれたのでなく、完全に消え――

 

 

「ラララララララァアアアアッッ!!」

 

「!!」

 

 

背後からキバの声が聞こえたかと思うと、既に身体に幾重もの閃光が刻まれていた。

夜叉はキバのウェイクアップを知っていたがこのタイミングで使ってくる事までは計算に入れていなかった。

ガルルフォームのウェイクアップである音速移動、その力の恩恵を受けてキバは夜叉の身体を斬る、斬る、斬るッ!

よろける夜叉、彼ならばすぐに反撃に出そうものだがそう言う訳にはいかない。なぜならば彼は動く事ができないからだ。

今の夜叉は腰までが水に使っている状況、水圧が邪魔をしてうまく移動する事ができなかった。

 

 

「夜叉ッ! 人間も妖怪も一人では絶対に生きてはいけない筈だ!!」

 

 

ウェイクアップバッシャー、その効果はフィールドを水で埋め尽くす事。

夜叉は動きを水に封じられ対してキバは水面をスライドしながらセイバーとマグナムで夜叉を攻撃していく。

 

 

『だから、手を取り合わなければならないのか。それを、自分達が望んでいなくとも』

 

 

夜叉が攻撃されているのに支那夜叉はその場から動く事は無かった。それは夜叉の意思でもあるのだろうか?

世界に適応すると言う事、その過程で差別や迫害は必ず起きてしまう。亘は社会の授業でも似たような事を何度と習った。

 

 

「でも、それに絶望しちゃいけないッ! そうだろうッ? 手を取り合う事を放棄した瞬間、ボク達はもう二度と分かりあう事はなくなる!!」

 

 

ペナンガラン達は共存を信じて今まで必死に努力してきた。

その努力を無駄してはいけない、吸血妖怪の頂点である夜叉が諦めてはいけないのだと。

キバは水面をスライドしつつ夜叉の目の前にドッガハンマーを突き立てた。同時に展開されるハンマー、現れるのはトゥルーアイ。

そしてキバはハンマーの真後ろでバッシャーマグナムを構えた、水が激しく旋回しながら収束していき巨大な水球を形成させる。

当然夜叉はそれを防ぐ為にキバの方向を見る。それが間違い、彼は反射的にトゥルーアイと目を合わせてしまった。

 

 

『生きていくために分かり合えか……。だが亘、お前は迫害や差別の苦しみを理解した事はあるか? 無いからこそそんな事が言えるのではないか?』

 

 

すぐに目を反らす夜叉、だがもう遅い。

トゥルーアイから放出される魔皇力が夜叉に流れ込み、彼の身体をステンドグラス状に変質させていく。

同時にキバは水球を解除、再び水面をスライドして移動を行う。

そんな中でも、やはり支那夜叉は淡々と呟いた。

 

 

『お前が迫害の対象となった時、本当にお前は同じ事を胸を張って言えるのか?』

 

「さあな、それはボクにも分からない。無責任だろ? 笑えるよな! ボクみたいなガキが偉そうに共存共存ってさ!!」

 

 

だけどキバは叫ぶ。誰かが言わないとどうしようも無いだろう? それに自分と同じ考えを持つ者は必ずいると宣言した。

絶対に互いに手と手を取り合えると、キバは何度だって宣言するだろう。夜叉はその言葉を聞いて寝子や鬼太郎を脳裏に映す。

彼らもまた差別や迫害を背負い生きている。幽霊族として忌み嫌われた鬼太郎、そして報告によれば天邪鬼もまた幽霊族だと言う事を明かしたらしいではないか。

天邪鬼……地獄童子もまた幽霊族として生きていく事を決めたか――

寝子も訓練の末に妖力をコントロールできたと言う話を聞いた事がある。途中、挫けそうになったらしいが。

 

 

「鬼太郎さんや寝子さんは絶対にあんた等を受け入れてくれるだろ!?」

 

『……そうだな』

 

 

キバは大きくドッガハンマーを振りかぶる、目の前には完全にステンドグラスとなった夜叉。

支那夜叉は動く気配すら見せずに顔を地面に向けた。そしてドッガハンマーが直撃、ガラスが粉々となり上空へと打ち上げられる夜叉、

キバは跳び上がるとガルルセイバーで追撃を刻んでいく。

 

 

「………ッッ」

 

「共存問題に決められた答えなんて無い、自分たちで見つけるしか無いだろ!」

 

 

順調に追撃を決めていったキバだったが、夜叉は一瞬の隙をついて髪をキバの手に絡みつかせる。

動きが鈍ったキバの胴体を夜叉は両足で蹴ると、大きく彼と距離を開けた。

そして同時に胡弓を構える夜叉、分かってるレーザーだろ? キバは小さく笑うと全ての水を自分の元へと収束させる。

 

 

『亘よ、迫害を、差別を受けて心が壊れたら……どうする? それでもお前は、努力を続けろと?』

 

「………」

 

 

発射されるレーザー、発射されるジェット水流。

互いの攻撃はぶつかり合い、互いを打ち消しあおうと反発しあう。

夜叉もこの一撃に全力を込めるつもりなのか、レーザーの大きさが前に放ったものよりも遥かに巨大だ。

それに負けじと力を込めるキバ、バッシャーマグナムに魔皇力を注ぎ込み真っ向からレーザーを受け止める!

 

 

「決まってるだろ――ッッ!」

 

『ッ!』

 

「………ッ」

 

 

キバの頭上にある月が眩い光を放つ!

感じる力の波動、夜叉の手が衝撃でビリビリと震えていく。

同時にぶれ始める胡弓、均衡を保っていたレーザーにも異変が――

 

 

「助けを求めればいいじゃないか! 必ず差し出した手を握ってくれる人はこの世界にいるだろッ?」

 

 

世界は思っている程、悪意には満ちていないとキバは言った。

 

 

「誰だって独りなんて事は無いんだッッ!!」

 

 

そこにある確かな絆を――

 

 

「忘れるなッッ! 夜叉ァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「!!」

 

 

キバの気合の雄叫びと共にレーザーが水流に飲み込まれる。そのまま水流は夜叉に直撃するのだが――

そこで、夜叉の目に美しい月が広がった。

 

 

『………』

 

 

水流が夜叉に命中すると、キバの紋章が刻まれた月が出現。

その月の中に夜叉は閉じ込められて拘束、同時にキバは思い切り地面を蹴って空に舞い上がった。

鎖の弾ける音が聞こえキバのカテナが開放、ヘルズゲートが展開される。

キバはそのまま両足を夜叉へと向けた。すると魔皇力のオーラが巨大なヘルズゲートを完成させる。

 

 

「『ダークネスッッ! ムーンブレイクッッ!!』」

 

「!!」

 

 

いつもの片足で行うタイプでなく、両足で放つダークネスムーンブレイク。

キバは夜叉を閉じ込めている月ごと蹴り飛ばした! 粉々に砕ける月と破片と共に吹き飛ぶ夜叉、そのまま彼は地面に激突して動かなくなった。

 

 

『………見事だ、亘――』

 

 

そこで完全に沈黙する夜叉、彼が気絶した事で支那夜叉も消滅する。

 

 

「……みんな、ありがとう」

 

 

キバはアームドモンスターやキバットにお礼を言うと変身を解除してその場に座り込んだ。

あれだけ偉そうな事を言ったんだ、この先絶対にアキラを助けて邪神を倒さなければ――

 

 

「亘!?」

 

「!!」

 

 

聞きなれた声がして亘は顔を上げる。

すると廊下の奥から我夢が走ってくるのが見えた、隣にはブレイドとカリス。

どうやらブレイド達と我夢は合流してココまできたらしい、レンゲル達に河童兵の対処を任せて自分たちはアキラの元までやって来たと。

 

 

「へっ、やっとココまで来たな……! ボク達、よくやったよ本当」

 

「うん、でもまだ終わっていない」

 

 

我夢は亘に手を差し出すと笑みを浮かべる。

亘もまた笑みを浮かべるとその手をしっかりと掴んで立ち上がった。

何も知らなかった自分達がまさか世界を賭けて戦う事になるとは……

 

 

「襟居達が聞いたらどんな顔すっかな?」

 

「あはは、どうかな」

 

 

そうしていると亘が来た道から里奈達が遅れてやってくる。

もうアキラがいる部屋までの距離は遠くない、このまま一気に行きたいところだ。

しかし気になる事もある、総大将はアキラの居場所を何故移動させないのか。考えられるのは総大将が部屋の前に既に――

 

 

「だがこのままと言う訳にもいかない。とにかくアキラの所まで行こう!」

 

 

頷く一同、そこからさらに河童兵や妖怪を蹴散らしながら一同は最上階を目指す。

ユウスケや薫も合流して一同は順調に進む事ができた。

そして遂に――

 

 

「あれだな……ッ!」

 

 

扉が見える。

そこがアキラがいる部屋なのだろうが、ご丁寧に部屋の前は広い空間となっており、そこには誰もいなかった。

罠ですと言わんばかりの雰囲気に、一同は思わず足を止めてしまった。現在地から扉までは走れば数十秒程度でいけそうだが――

 

取り合えずみぞれは氷の塊を作ってソレを投げてみる。

何か衝撃が加わる事によって発動するトラップがあるのではないかと読んだが、そう言う訳でもないらしい。

どうする? 一同が考えていると、それは突然現れた。

 

 

「え?」

 

 

それは地面ではなく上だった。

黒い影が降ってきたかと思うと――

 

 

「な、なんだコイツ等!!」

 

「……ッ!」

 

 

河童兵ではない、それはしいて言うのなら骨のデザインが刻まれた黒い全身タイツに身を包んだ人間(?)。

ベルトには黄金の大鷲が装飾されており、その全身タイツ達はホールに次々と着地していく。

問題なのは数だ。多いなんてレベルじゃない、本気で百はいるんじゃないかと思うくらい大量だった。

 

 

「な……ッ! よ、妖怪なのかコイツ等!?」

 

「知らないよこんなヤツら!」

 

 

そして全身タイツ達が一勢に我夢達に視線を映す。

ゾッとする一同、初めて彼らの事を見るが言える事はただ一つ。

それはこの全身タイツ達が味方では無いと言う事、ならば残るのは必然的に『敵』と言う事になる。

 

 

「「「「「「イーッッッッッ!!」」」」」」」

 

 

言葉ともいえない声をあげる全身タイツ、そしてナイフやら素手やらで一勢に我夢達へと襲い掛かってくる。

まさにその姿は戦闘員と言うべきか、一同は焦りを覚えつつ変身。里奈達を後ろへ下げて応戦に向かう。

 

 

「とりあえず我夢だけでもアキラの場所へ!!」

 

「分かった!」『キング』【スチール・モーメント】

 

 

高速突進で戦闘員をふき飛ばしていくブレイド、そこにできた道を響鬼は猛スピードで走り抜けていく。

その手には里奈から受け取った鍵、戦闘員も響鬼を止めようと抵抗するが――

 

 

「させるかッ! 超変身!」

 

 

ドラゴンフォームに変わったクウガがロッドで次々と戦闘員を叩きのめしていく。

他のメンバーのサポートも加わり我夢はすぐに扉の前につく事ができた。

だがそれでも戦闘員の数は多い、扉を開ける時間は一瞬でなければ中に入られてしまう。

響鬼は鍵を使って扉を無事に開ける事に成功、しかしその時にはもう戦闘員が扉に向かって押し寄せている所。

響鬼は鬼火、ブレイドはサンダーを発動させて戦闘員を攻撃していく。

 

 

「我夢ッ! お前だけでいいから入れ! アキラが待ってんぞ!!」

 

「………ッ!」

 

 

幸い戦闘員はそれほど強くなく、すぐに泡となって消えていく程脆かった。

響鬼は考えた結果ブレイドにお礼を言って中に入る。それを確認すると扉を閉めるブレイド、中に一人たりとも入れさせる事は無い。

とはいえホールにはまだまだ戦闘員が。

 

 

「さて、アキラが来る前に消し飛ばしてやろうかねッ!」

 

 

ブレイドはラウザーを構えると、戦闘員の群れに突っ込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからどれだけ時間が経っただろう?

戦闘員はだいぶその数を減らしていき、クウガ達にも余裕が生まれる。

まだ響鬼達は出てこないが、久しぶりの再開なんだからと特に気にする事も無かった。

 

 

「………」

 

 

一方で里奈を守る為に離れた所にいる博士、助手、リラの三人。

その中で博士はホールに存在するもう一つの通路に目を向けている。

あまり事態を知らない博士ではあるが、やはり彼もアキラを移動させなかった事に違和感を感じた。

 

何も理由無くアキラをそのまま放置したと言うのなら間抜け以外の何者でもない、流石にそんなミスを犯すとは思えないのだ。

では何か理由があると言う事になる、問題はそれが一体どんな理由なのか?

 

 

「助手、バガミールは常に展開させておけ」

 

「ういっす、既に起動中ですよん!」

 

 

ハンバーガー型の支援メカ・バガミール、博士は深刻な表情で戦況を観察していた。

まだ払拭されぬ違和感。ココにくる途中で聞いたのは警備の波、厳しい時もあれば本気じゃないと感じる時もあったと言う。

もしかして敵には本当の目的が別にあるとでも?

 

 

「博士! 別の入り口から誰か来ます!」

 

「………」

 

 

ホールを見る博士。もう既にあれだけいた戦闘員は壊滅しており、その数を残り1にまで減らしていた。

その一人もタジャドルが放つ炎弾に焼かれて消滅した。完全に消える戦闘員達、同時に開く扉――

 

 

「ッ!! おいおい、ヤバイ人来ちゃったよコレッ!」

 

「しかも……ッ!」

 

 

扉から現れたのは、ある意味予想通りの人物だった。

いやできればその予想は外れて欲しかったのだが、そういう訳にもいかなかったか。

特徴的な頭部と威圧感を放出しながらホールに現れたのは総大将ぬらりひょん。そして彼の隣には主の盆と――

七天夜・サトリが追従していた。

 

 

「なっ! サトリッ!? め、目覚めたのか……ッ!」

 

「あの程度の拘束では無意味と同じだ」

 

 

仮面を外しているサトリ。普通の少年にしか見えないが、その力はまだ健在であろう。

やはりロープで縛るだけでは甘すぎたか? ゼノンの計算では一度気絶させれば戦いが終わるだろう時まで目覚めないと言う事だった。

しかしそこはやはり七天夜、ゼノンの計算よりも早く目覚めてしまったと言う事。

 

 

「チッ! 今更の登場かよ……ッ!」

 

「邪神の使いの命令でな。だが、それも解除された今……花嫁を奪おうとする貴様らを見過ごす訳にはいかぬ」

 

 

そう言って杖を構えるぬらりひょん、朱の盆はハッと表情を変えて後ろへ下がっていった。

つまり向こうはぬらりひょんと力を消費しているサトリの二体、対してコチラは多くの仲間がいる状況だ。

流石に負ける可能性は低いと誰もが思っていた。そう、思っていたのに――

 

 

「!」

 

 

扉が開く音が聞こえ、一同は反射的にソチラに視線を移す。

なぜならばその扉は先ほど我夢が入っていった場所、つまりアキラが閉じ込められていた部屋だ。

ならばその部屋から出てくるのはもちろん二人だけだろう。

 

 

「我夢!」

 

「アキラ!」

 

「………」

 

 

扉から現れたのは響鬼と、彼に横抱きにされているアキラだった。

どうやらアキラは気を失っているらしく、響鬼は彼女を抱えながらホールの状況を確認する。

自分を睨みつけているぬらりひょん、そして自分をかばう様に構える仲間達。

 

 

「我夢ッ! アキラをしっかり守る――……」

 

 

そこでキバは言葉を止めた。

いや、キバだけでなくソコにいた全員が沈黙したと言った方が正しいかもしれない。

それは呆気にとられたから、理由はまさしくその響鬼とアキラにあったのだ。

 

 

「が、我夢?」

 

 

キバの横を通りぬけて響鬼はゆっくりと足を進めていた。

アキラを抱いて歩いている響鬼、それだけならばまだおかしくはないかもしれない。

しかし今その行動を取るのは非常にまずい、総大将に近づくなど自殺行為ではないか?

彼には対処できる術があるのだろうか? 一度アキラを奪われたと言うのに――?

 

 

「我夢? おいおい、それ以上はヤベェよ! 一回戻ってこい!」

 

 

ついにはブレイドが叫ぶ。

彼の言う事は尤もだ、響鬼はせっかく再開できたアキラを連れて総大将に近づいている様にも見える。

何か策があるにしてもまず教えて欲しい、そう考えてブレイドは響鬼に足を止める様叫ぶ。

 

 

「………」

 

「お、おい! 聞いてるのかよ我夢ッ!」

 

 

何か作戦があるのだろうが、流石にそんな事をされれば焦ると言うもの。

キバは声を荒げて響鬼に駆け寄っていく。同時に構える総大将、何かあるのかは知らないがこの距離ならば射程範囲だ。

攻撃を加えて花嫁を奪う事は可能。

 

 

「そ、総大将……」

 

「どうした、サトリ」

 

 

少し様子のおかしいサトリ。どうしたのか? 彼の驚く表情を総大将とて久しぶりに見たかもしれない。

サトリは目の前に迫る響鬼を見て、声を震わせながら真実を伝えた。そう、彼は響鬼の心を読んだのだ。

その結果――

 

 

「どうやら、何もしなくてもいいようです」

 

「何ッ? それはどういう――」

 

「グッ!! ァアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「!!」

 

 

その時、総大将の目に信じられない光景が映った。なんとあの響鬼が口から炎を発射したのだ!

それが自分たちに向かってならば普通の攻撃として何らおかしい事では無かっただろう。

だが違う! 響鬼が鬼火をぶつけた相手は総大将でもサトリでも、まして主の盆でもない。

まぎれもない、キバ達にだ!!

 

 

「な、なにすんだよ我夢ッ!!」

 

「………」

 

 

なんとか地面を転がって火をかき消すキバ。

響鬼に詳細を求めるが、響鬼はアキラを地面において沈黙するだけ。

そして代わりに音撃棒を構える。先に灯る炎、それを響鬼は――ブレイド達に向けて発射する。

 

 

「オワァアアアアアアアアア!?」

 

「我夢ッ! 何をするんだ!!」

 

「………」

 

 

響鬼はまだ答えない。

地面に寝転ぶアキラを再び抱えると、彼はあろう事かそのまま総大将へ向かって足を進めていった。

何をしているんだ我夢は!? そんな光景にブレイド達は立ち止まってしまう。

あまりにも信じられない、あまりにもおかしい選択、何か作戦があるとばかり思っていた響鬼の行動。

しかし彼はそのまま何もせずにアキラを総大将の元へと運ぶだけだった。

 

 

「―――」

 

 

そこで、響鬼は始めてまともに口を開く。

 

 

「総大将さん、花嫁を……お受け取りください」

 

「!!」

 

 

!?

 

 

「今、な……なんつった?」

 

 

誰もが、それは総大将やサトリですら沈黙する言葉だった。

何を言っている? 彼は何をしているんだ? 声は我夢その物に間違いは無い――

なのに、響鬼が誰なのか全く分からない。

 

 

 

 

あれは、誰なんだ?

 

 

 

 





・ドガバキフォーム

ガルル、バッシャー、ドッガの力をキバに集めたフォーム。
アギトのトリニティ同じく各フォームの力を自由に発動できる。
必殺技は両足で放つ強化ダークネスムーンブレイク。
しかし魔皇力が高い状態でなければ変身できず、事前に里奈から力を与えてもらう必要がある。



どうでもいいけど、バトライドウォーのディケイドの声って滅茶苦茶カッコいいよね。
たしか昭和VS平成だとテレビ版に近かったと思うけど、バトライドは低めというか。


まあそんな訳で次はたぶん来週。
ではでは
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