仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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はい、今回から二部スタートです。
本当は水曜0時にするつもりでしたが、章分けの都合と早く寝たいって理由で夜の更新となりました。

まあでも0時が多いとは言え基本的に更新はバラバラの気分次第なんですけどね。


終わる世界
第63話 第二部プロローグ


 

 

 

 

●ある少年少女のお話

 

 

 

 

メタ世界。

その書斎で観劇の魔女フェザリーヌは椅子に揺られながら目を閉じて沈黙していた。

しばらくそれが続いた後で、彼女は何かを思い出したように目を開ける。

 

 

「ああ、これは失礼。そなたの事を忘れていた」

 

 

そう言ってフェザリーヌは画面の前にいるあなたに謝罪する。

本編が始まる前、この魔女の他愛ない会話にどうか付き合っては頂けないだろうか?

突然だが魔女は言う。

 

 

「そなたは、メアリー・スーと言う物をしっているか?」

 

 

簡単に言えば自らの理想とする姿を物語りに投入する事である。

すばらしいとは思わないか? 欠点の無い理想が自らの創る世界で生きる、完璧な自分を創り思うままの人生を歩ませる。

神に与えられた特権を使う上でどうしても入ってくるものではないか。

 

 

「夢見た事はあるだろう? 自分の思うがままの人生などと……」

 

 

男性諸君はどうだ、どうせなら女性に囲まれて生きる毎日がいいだろう。

勉強もスポーツも上の上、容姿端麗で薔薇色の人生を送りたいと思うのは悪いことではない筈だ。

だが現実と言うのは厳しいもの、そうだろ? そなたの人生は幸せだろうか? 完璧だろうか?

 

 

「だが現実とは厳しいものだ、頭を撫でるだけで顔を赤らめる女などいるものかと。フフフ!」

 

 

だからこそ小説の中だけでなら夢を見る事も可能だ、フェザリーヌはその言葉と共に一冊の本を出現させる。

ここにあるのも誰かが創世したそんな人生、世界であろうか? 内容は何気ないラブコメ、神は何のためにこの世界を創ったのだろう。

高感度がマックスの可愛い妹もいるとはサービスがいい、現実なんて大半の妹は兄を汚物を見るような目でみるらしいからな。恐ろしい事だフフフ。

まあいいだろう、そなたに説明したいのはこんな事ではない。世界を移動してくる悪がどれだけ恐ろしいものなのかを説明する為だ。

んん、いや……! そうとも違うかもしれない。この本を含めあと一つ、それらの世界を見せたいだけなのかもしれない。

さあ前置きはもういいだろう。閲覧の時だ、世界を見せるがいい。

 

 

「この本、主人公名は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐久間(さくま)ッ! 後決めろ!!」

 

「おっけー! 任せとけって!!」

 

 

サッカーボールが佐久間の前にやってくる。

左を見ればサムズアップを行っている友人である勇の姿が。

ニヤリと笑う佐久間、せっかくなんだから友人の期待に答えるのも悪くは無い!

佐久間は襲い掛かる相手プレーヤーを受け流して思い切り――

 

 

「いっけぇッ!!」

 

 

佐久間の蹴ったボールがキーパーの手をすり抜ける様にしてゴールネットを揺らす。

同時に電子板からブザーが、それは試合終了の合図だった。

ニヤリと笑う佐久間、同時に全身を包む衝撃が。

 

 

「うおおおおおお! やったな佐久間ッ!」

 

「ははは、まあな!」

 

「お前のおかげだな!」

 

 

多くのチームメイトが佐久間を囲んでいく。

その中で笑顔の佐久間、今日もまた彼の活躍はチームを勝利に導くことができた。

しかし彼は別にサッカー部と言う訳ではない、今日はチームに休みがいた為に助っ人として現れたのだ。

 

 

「なぁー! サッカー部入ってくれよ佐久間ぁ」

 

「えー、やだよ。俺早く帰りたいもん」

 

「いやぁ、でも本当佐久間くんカッコよかったなぁ」

 

 

夕焼けが道を照らす帰り道、友人である勇は佐久間に擦り寄る様に部の勧誘を行う。

隣ではサッカー部マネージャーである夕菜(ゆうな)も顔を赤らめて佐久間を褒めていた。

どうやら彼女が佐久間に好意を抱いているのは有名な話しで、勇は彼女を少しずつ佐久間に近づけていく。

佐久間が他の部を助ける事は珍しくない、サッカーだけじゃなくバスケや野球。果ては美術や科学までも――

 

 

「本当に何モンだよお前、宇宙人とかじゃねーの?」

 

「はは、んな訳ないだろ」

 

「佐久間様は縛られない自由な発想の持ち主なのよ! カスは引っ込んでなさい!」

 

「な、なんだよ!」

 

 

佐久間の腕にがっちり自分の腕を絡ませるのは"エリー"と言う少女だ。

海外からの転校生で今はすっかり佐久間のファンとなってしまった様。

毎日しきりに激しいアプローチをしかけていくが佐久間としては苦笑ものである。

 

 

「ちょっと! 佐久間が嫌がってるじゃない!」

 

 

そう言ってエリーを引き剥がすのはクラスメイトである理穂(りほ)

家が近いからと毎日一緒に帰っているが――

 

 

「なによ! そんな事言って自分が佐久間様に近づく作戦でしょ!」

 

「なっ! べ、別にワタシは佐久間くんの事なんて――」

 

 

などと言いつつ顔を真っ赤にする所を見ると、本心はどうなのやら?

しかしギャーギャーと言い争う二人を見て佐久間はゆっくりと後退していく。

ニヤニヤと笑いながらコチラを見る勇を苦笑交じりに睨み返すと、彼はグループの一番後ろに。

 

 

「モテモテだね佐久間くん……」

 

「はは、ありがたいけど――、俺はただ平穏に暮らしたいんだけどな」

 

 

佐久間はヤレヤレと笑う。

そんな彼をやさしく見つめるのは幼馴染の真里絵(まりえ)だ、いつのニコニコと笑っている彼女は安心を与えてくれる。

しかし彼女もまた俯いて――

 

 

「でも……皆がちょっと羨ましいかも――」

 

「ん? 何か言った?」

 

「う、ううん! なんでもない!」

 

 

真っ赤になって首を振る真里絵、そんな彼女の態度に気がつかず佐久間は首をかしげるだけ。

そのまま別れていく一同、また明日もこんなドタバタが繰り広げられるんだろう。

佐久間はそんな事を思いつつ苦笑するのだった。そして家の扉を開ける佐久間、飛び出してくるのは――

 

 

「お帰りお兄ちゃん! 浮気しなかった!」

 

「してねぇよ、つか浮気って何だ……?」

 

 

ピョンピョンと自分の周りを飛び回るのは佐久間の妹。

元気な事はいい事だが若干ブラコンの気があるのが悩みである。

しかし良い匂いが部屋の奥からしてくる、思わず目を輝かせる佐久間。

 

 

「今日はお兄ちゃんの好きなカレーでーす!」

 

「本当か!? うおおおお! テンション上がるぜぇ!」

 

「食べさせてあーげる!」

 

「いや、それはいい」

 

「えー! ぶーぶー!」

 

 

ガッツポーズをとる佐久間、妹はニコニコ笑って彼の後ろを歩く。

食べさせてあげようか? そんな事を言う妹に佐久間は苦笑交じりにリビングの扉を開けるのだった。

 

 

 

 

 

一方、別世界でのお話。

 

 

「………」

 

 

美しい白色の髪を持つ少女『ドロワット』は先ほどからずっとショーケースの向こうにあるモニターを見ていた。

映像はとある劇団の舞台映像、大人気のミュージカルらしくドロワットも一度見に行きたいと思っていた所だ。

しかし映像はあくまでも予告、最後にミュージカルのタイトルである『始まりのZ、終わりのA』と言う文字が表示されて終わり。

 

 

「また見てたの? 飽きないわねぇ」

 

「ねえママ、見に行きたいよコレ」

 

 

買い物を終えただろう母親が彼女の元に。

しかし見に行きたいと簡単に言われてもチケットは高くて買えないし、劇場までの道も遠い。

母親は諦めなさいと軽くドロワットの頭を撫でて紙袋を差し出した。

 

 

「?」

 

「貴女のお洋服よ、適当に選んじゃったから見てみて」

 

 

ドロワットは母親が買ってくれたであろう洋服を取り出してみる。

最初はまあまあ可愛い、次は結構かわいい、最後は――表情を曇らせるドロワット、最後は可愛すぎてあざとい。

フリルがたくさんついた人形みたいなゴスロリ系のもの、これは恥ずかしくて着れないよ。そう良いながらドロワットは紙袋を母親へと返す。

 

 

「あら、冒険してみるのもいいんじゃない?」

 

「冒険しすぎだよコレじゃあ」

 

 

母親の手を握りながら帰路についていくドロワット。

あたりは少し薄暗くなっていて、上を見れば街灯が既に照らされていた。

石畳の道路を歩きながらドロワットはため息をつく。

 

 

「あら、もしかして夜の事?」

 

「うん……」

 

 

もう一度深いため息をドロワットはつく。

突然な話だが彼女はお化けが大の苦手である。まして暗闇も、だから薄暗い今でさえ母親の手を握っているのだ。

そんな彼女が今日誘われたのは肝試し。幽霊がでると言う屋敷に友達グループで行かなければならないのだ。

はっきり言って行きたくない、鬱である。だが一応は友人としての付き合いも大切にしないといけない気持ちもある。

その良心でついオーケーの返事を出してしまったのだ。気の弱い彼女が今更行けないとも言えない、困ったものだ。

 

 

「大丈夫よ、この世に幽霊なんかいないわ」

 

「でもぉ」

 

 

などと言い訳を並べても時間は過ぎていくものだ。

結局夜ご飯を終わらせた辺りで近くに住んでいる友達が迎えに来た。

こうなるともう逃げられない、ドロワットは迎えに来た友達である"カーナ"の後をついていく形に。

 

 

「ね、ねえカーナ」

 

「ん? どしたの?」

 

「お化け……出るのかな?」

 

 

その言葉にニシシとカーナは笑う。

彼女はどうやらぜんぜん怖くない様だ、むしろ彼女からしてみればブルブル震えているドロワットの方が面白いらしい。

カーナは顔をゆがませて――

 

 

「ああああ! ドロワの肩に白い手がぁあああ!!」

 

「ひぎゃあああああああああああああああああ!!」

 

「あはははは! うっそでーす!!」

 

 

もーっ! ドロワットはカーナを睨みつけるとその場にへたり込む。

ごめんごめんと謝るカーナに引きずられる様にドロワットは待ち合わせ場所へ。

肝試しの内容は簡単、ココ最近で噂になった幽霊がでる屋敷に忍び込む事。

屋敷はもう誰も住んではおらず、今は立ち入り禁止と書いた粗末な板と柵が入り口にあるだけである。

ドロワットのグループはこの噂にくいつき、幽霊がいるかどうか確かめようと言う事になったのである。

 

 

「お、来たな」

 

 

リーダー格の少年、セリトが口を開く。

やけに自慢げに腕を組んで仁王立ちしている癖は相変わらずか。隣では同じく友人であるリックがメガネを整えながら笑っていた。

ドロワットはいつもこの四人で遊ぶ事がほとんどだった。今日も今日とていつものメンバーで屋敷の前に集まる。

 

 

「うぅぅ………」

 

 

改めて屋敷を見上げるドロワット、成る程これは確かに出ると言われれば迷う事無く信じそうな風貌でありますこと。

屋敷は異様な雰囲気を放っており、これまた正直に言えば今すぐ帰りたい所である。

 

 

「よーし、じゃあ行くか」

 

「うーっす」

 

「皆くれぐれも無茶しないようにね」

 

 

それぞれが屋敷に向かっていく中でドロワットはもう一度屋敷を見る。

単に自分が恐れているだけなのだろうが、何故か無性に入ってはいけない気がした。

今すぐ帰りたい、それは単に怖いからじゃないような――

 

 

「おーい、早く来ないと置いてくぜドロワ」

 

「う……うん」

 

「なんだ? びびってんのか?」

 

 

安心しろよ。

そう言って少しセリトは声のトーンを落とす、見れば顔は少し恥ずかしそうに――

 

 

「お前は俺が守ってやるから……」

 

「え?」

 

「い、いや……なんでもない!」

 

 

そう言ってさっさとセリトは屋敷へ向かっていく。

ドロワットは全身を包む不安を振り切る様にして同じく足を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、まずはこんな所か」

 

 

フェザリーヌは笑いながら本を閉じる。

きっと貴方はコレが何なのか、どういう意味があるのか理解できない筈だ。

何故魔女がいきなりこんな話を始めたのかも、もしかしたら本当に意味なんて無いのかもしれない。

 

 

「うまく、できすぎている人生と思っても、壁が壊れればそうもいかない」

 

 

それにうまくいっていると言う事を人形は確認できない、他者観測における人の立ち位置など気にしていないのだから。

井の中の蛙は自分のいる井が全てと信じる。愚かなことか? 許してやろう、それが当然の事なのだから。

聞いた所によれば蛙は大海に出れば死んでしまうとか何とか。

 

 

「人は等しく舞台に上がる資格を持っている。たとえそれが箱庭の中にいる人形だとしてもだ」

 

 

しかし哀しいかな、舞台はエンターテイメントを求める。

望まぬまま舞台に上げられた者ですら曲芸をさせられてしまうのは問題だな。

だからこそその舞台にあったジャンルを選ばなければならない、それが破壊される事こそが最も恐ろしいと言えるのだ。

喜劇だったものがいきなり悲劇に変わってしまうからな。

 

 

「幸か不幸か、複雑な物だ。与えられた役割を人は気づく事無く演じていく」

 

 

意味が分からない? それでもいい、今はただ観測を続けてほしい。

最後まで意味が分からなくてもそれはそれで構わない。あなたは気がつかないと言う役割を持った演者なのだから。

そう演者なのだ――

 

 

「そなたは今、どんな役を与えられたのだろうな?」

 

 

他人が羨む主役か、誰かに影響を与える仲間なのか、それとも人を悲しませる悪なのか。

もしかしたらただの配役ではないかもしれない。もしもそなたが誰かを引き立たせる為だけのモブなのならば――

いや、それは止めておこうか。考えても考えても答えはない、何も無いかもしれない。

 

 

「ではまた会おう。本編の始まりだ――」

 

 

それでは、これで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

少年は流れる雲をじっと見上げていた。

青色の空に映る雲は見方によっていろいろな形に姿を変える物だ。

それは食べ物にも見え、それは動物にも見え――

 

 

「おい飛針! ぼっとするな!!」

 

「………」

 

 

教師の怒号が飛んでくる。

授業中にずっと余所見をしていればソレは注意の一つでもするか、しかしそれでも少年・飛針(とばり)は視線を反らさなかった。

再び注意を促す教師、だがそれでも飛針は視線を変えない。

 

 

「なんですか?」

 

「なんですかじゃないだろ、この問題を答えろって――」

 

「分かりません」

 

「は?」

 

 

飛針はそう言って笑みを浮かべる。

同時にざわつき始める教室、今日の彼は何かがおかしい。

黒板に書かれている問題は比較的簡単な物、なのに彼は考える気すら見せずに問題を放棄した。

 

 

「なんだお前その態度は? やる気が――」

 

「分かりません」

 

「おい、ふざけてるのか!!」

 

 

流石にカチンときたのかイライラしていると態度に表し始める教師。

しかし飛針は相変わらず笑みを浮かべたままである。教室の空気も悪くなり、生徒の一人が彼をからかう様に言葉を放つ。

 

 

「おい飛針―! 反抗期かー?」

 

 

少しは笑いが教室を包んだ。

しかし飛針は逆に鼻を鳴らしてその生徒を睨みつけただけ、向こうは向こうで少しムッとした表情を浮かべる。

せっかく空気を変えてやろうと思ったのにと。結果はマイナスだったのだが。

 

 

「くっだらねぇ……」

 

 

飛針は自分の髪を少しいじると鞄を持って立ち上がる。

あっけに取られているクラスメイトと教師、彼はそのまま扉へと向かっていき――

 

 

「やる気無くなったんで、帰ります」

 

「お前……」

 

 

呆れた様な教師を尻目に飛針は退室していった。

何なんだ? ざわつき始めるクラスメイトと勝手にしろと吼える教師。

元々不思議な人物ではあったが今日の行動は異常と言える。変わってる、気持ち悪い。

そんな言葉を羅列していく生徒達だが――

 

 

「………」

 

 

飛針は帰ると言ったものの未だに学校へいた。

三階には彼だけが入っているダーツ部と言う部活で使用している部屋が、そこに飛針はやってきた。

ソファやテーブルなど部屋と化している教室、お湯を沸かして飛針は適当にダーツをプレイする事に。

しかし今は当然授業中、彼はいったい何がしたいんだろう?

 

 

「………」

 

 

トンッ! と音がしてダーツは真ん中に命中。

しかし彼の表情はとても嬉しそうには見えない、先ほど言った言葉――下らないと言った顔そのままである。

事実彼は今もそう思っていた。下らない、ああ下らないと。

 

 

「くそつまんねぇ学校だった……」

 

 

ポツリとつぶやく。

でもまあいいか、飛針はやっと明確な笑みを浮かべて深呼吸を行う。

つまらない毎日だったけど――

 

 

「どうせ、壊れる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

「おーおー、うるさいねぇ」

 

 

悲鳴、誰かの悲鳴、知っている人の悲鳴。飛針の耳に入ってくる幾つもの悲鳴と断末魔。

金切り声が耳障りだがきっと言っている本人は必死なんだろうな。

どんなに可愛かった人も今は醜く助かろうともがいている。なんだか複雑だよと彼はもう一度笑った。

 

ジリリリリリと、ベルが鳴りガラスが割れる音が聞こえる。校内放送ではパニックになった誰かの言葉が聞こえてきた。

ああうるさいな。何いってるか分からない、そんなの放送の意味無いだろう? もっと落ち着かないと――

 

 

「――ねぇ?」

 

 

飛針は沸いたお湯を確認すると、紅茶かコーヒーどちらにしようかを悩んでいた。

そうこうしている内に放送は途切れ砂嵐の様な音が聞こえる。叫び声はますます酷くなり、ついには振動や爆発音まで聞こえる始末。

そんな時だ、部室の扉が開いたのは。

 

 

「……お前、飛針だな」

 

「んんー? アンタ誰?」

 

 

現れたのは同じく制服を着ている少年だった。

しかし制服が自分の物とは違う為、他校の生徒なのだろうと言うのが分かる。

あいにく知っている学校ではない、飛針は結局コーヒーの缶を取って粉末をカップに入れていく。

それにこの落ち着きよう――

 

 

「もしかして、お仲間さん?」

 

「ああ、奇術師(きじゅつし)・マジシャンだ」

 

 

成る程、そううなずいて飛針はカップにお湯を注ぐ。

君も飲む? そう言う飛針だが奇術師は首を振った、どうやらそういう気分では無いらしい。

まあ分からない訳ではない。こんなうるさい状況じゃゆっくりお茶なんて――

 

 

「そうじゃない、お前はこの状況についてどう思う?」

 

「どうって……どう言う事?」

 

 

奇術師は首を振ってダーツの矢を取る、そしてそれを投げた。

しかし結果は命中するどころか全く違う所に当たってお終い、不満そうに顔を歪ませる奇術師とまだまだだなと笑う飛針。

 

 

「お前は今日まで一度も人を殺していない。そうだろ?」

 

「ん? ああ、そうだね。まあ間違いじゃない」

 

 

飛針はしきりに聞こえてくる叫び声にウンザリしたのか舌打ちをしながらソファから立ち上がる。

そのまま窓の方へ歩いていき、外の景色を見た。見えるのは校庭、どこぞのクラスが体育だったのかゴミの様に人が溢れている。

尤ももうその殆どが赤い血を撒き散らして動かなくなっている所なのだろうが。あーあー、脳みそぶちまけちゃって汚いなぁ。

 

 

「なぜ殺さなかった?」

 

「んー、殺す必要も無かったし……かな? しいて言えば」

 

「嫌いな奴はいなかったのか?」

 

「そりゃいたさ! あ、噂をすれば――」

 

 

飛針は死体の山で埋め尽くされた校庭に動いている影を発見、それを指差す。

移動してその姿を確認する奇術師、すると体格のいい少年の姿が。

彼は腰を抜かしているのか犬のように這いつくばって学校から離れようとしている、その姿に思わず顔を歪ませる奇術師。

 

 

「アイツ、えらそうなんだぜ? しかもすぐ手が出る」

 

「だけどお前は抑えたんだろ? 自分の怒りを、感情を」

 

「かもね。だけど、それも今日で――」

 

 

目の色を変える飛針、そんな彼に気がついたのか奇術師はつい彼の手をつかんで叫ぶ。

ただ一言、やめろと。

 

 

「悪いね、もう遅い」

 

「………ッ!」

 

 

飛針の手にはいつの間にか巨大なボウガンが。いや水中銃か?

どうでもいい、奇術師が急いで這い蹲っていた少年に視線を移すと、そこには頭に巨大な銛が刺さっている肉の塊が見えた。

血を噴水の様に出しながらソレは動かなくなる。

 

 

「ふふふ! へぇ……! 初めて人を殺したけど結構すっきりするもんだな」

 

「おい! 本気で言ってるのか!!」

 

 

険しい表情で自分を睨みつける奇術師、何なのさと飛針は手を振る。

まるで自分が悪いみたいじゃないか、人を殺すのがいけない事みたいじゃないかと。

 

 

「当たり前だろ!」

 

「ちょっと待ってくれ、じゃあ君はどうなんだよ――」

 

「………ッ」

 

 

飛針はジェスチャーで奇術師を抑える様な仕草を取る。

確かに人を殺すのは犯罪だ、だがそれは状況が状況ならば変わってくる。

これは一種の正当防衛なのだと飛針は説いた、人を殺さなければ怒られるのは目に見えている筈だ。だから殺す、それが自分達――

 

 

「"オルフェノク"に与えられた、使命だろう?」

 

「………」

 

 

そう言って飛針は自らの正体である『フライングフィッシュオルフェノク』へと姿を変える。

異形の姿を鏡で確認して彼は人間態へと戻った、それを複雑そうに見ている奇術師。当然彼もまたオルフェノク、異形である。

飛針は部室の扉を開いて辺りを見回す。まあどこを見ても死体だらけ、何かに噛まれた様な死体、何かに抉られた様な死体、何かに締められた様な死体。

どこもかしこも死んでる連中ばっかり、その光景に飛針はため息を漏らす。

 

 

「あ、B組の娘死んでるよ……結構ファンだったんだけどな」

 

 

そう言って笑う飛針、残念だと言う割にはどこか楽しそうだ。

それを見て首を振る奇術師、どうやら彼は飛針の行動が理解できないらしい。

同時にそれは飛針視点でも言える事だ、奇術師は一体何をしにきたのか?

 

 

「俺に何か話があるのかな?」

 

「まあな。お前、人間に戻りたくないか?」

 

「はぁ?」

 

 

なんて直球な……! 飛針は思わず言葉を失う。

それがどう言う意味がコイツは分かっているのだろうか?

つまり奇術師(コイツ)はオルフェノクの力を捨てて組織を裏切ろうと持ちかけてきたと言う事ではないか?

 

 

「そこまでは言ってない、ただこのままでオレ達はいいのか?」

 

「いいんじゃない? 超人的な力じゃないか、オルフェノクは」

 

 

見ただろう? 嫌いな奴を一瞬で殺せた。そんな力が手に入る、それがオルフェノクだ。

人を超越した存在になれたのにどうしてわざわざ失う様な事をするのか、飛針にはそれが理解でき――

 

 

「そして、やがてその力に飲まれて理性を失う」

 

「………」

 

 

微妙な表情を浮かべる飛針、そう言われちゃ何だか複雑だ。

彼も何となくだがそう言う話は聞いている、それが自分になるのは御免したい。

とは言え奇術師の言う事も賛成とは言えない。ハッきり言って自分はオルフェノクを止めたいとは思わないからだ。

 

 

「お前はあの会議に参加したか?」

 

「別に、興味無かったんで」

 

 

飛針の前に座ってカップを手に取る奇術師、彼もまたコーヒーを取るとお湯を注いでいく。

いらないといったくせに、飛針は苦笑して再び彼に視線を向けた。

あの会議とはつまりショッカーが新しく生まれ変わったものの事だ、どうやら奇術師もあの場にいたらしい。

 

 

「で? どうだったの」

 

「やっぱチルドレンは人形だぜ、意思があるのかすら分からないな」

 

 

奇術師はミルクを適当に入れると角砂糖を六つ程手にとってカップにぶち込んでいく。

入れすぎじゃないの? そう聞く飛針に彼は甘いのが好きなんだと言った、だからってそれじゃあただの砂糖とかしたお湯では……?

 

 

「チルドレンは結局最初から最後まで何も話さない、動いていたかすら怪しいぜ」

 

 

ここで奇術師が挙げたのはオルフェノクの神、『子供達(チルドレン)』だ。その正体はオルフェクの間でも謎に包まれている。

唯一側近である『お姉さん(スマートレディ)』だけは関わりが深い様だが、彼女もまたシークレットな存在。

オルフェノク達の間でも上級の存在だ、実質彼女がオルフェノクのトップと言ってもいいくらいに。

 

 

「ましてスマートレディも何を考えているのか……」

 

「面倒な女ってのについては同意する」

 

 

相変わらず学校を包む悲鳴、それをBGMにしながら二人は会話を続ける。

子供達はオルフェノクの神、文字通り創造主だ。

 

 

「分かっていることは、チルドレンは自分の世界に必要な役職をオルフェノクとして生み出した……か」

 

「それだけってのもね……」

 

 

オルフェノクは他の組織と圧倒的に違う点があった、それはボスである子供達が組織を管理しない事だ。

通常の組織ならば明確な上下関係があり、何かの命令を受けて各々が行動すると言うのが一般的だろう。

しかしオルフェノクは何も無い、完全な自由なのだ。与えられた役職とオルフェノクの能力は軽くスマートレディが説明するが後は何も無い。

何も言われなければ、何かをしろとも言われない。ただオルフェノクとしての力を与えるだけなのだ。

 

 

「この力は毒だ、猛毒だよ――」

 

「だから君は人間に戻りたいって?」

 

 

うなずく奇術師。

別に彼は大ショッカーを裏切る気はない、なぜならば彼自身会議にいた為にその力はよく理解している。

多くの組織が統合していく光景はまさに恐怖であり力の象徴でもあった。あの組織は異常だ、強力を超えている。

 

 

「逆らえば死、あるのみなんて言っている連中だぞ」

 

「それは怖いねぇ。死にたくはないなぁ」

 

「だけどオレ達はこのままじゃいずれ本物の化け物になる」

 

 

言葉を失い、理性を失い、人の形を失う。

いくら抵抗しようとも力と言う武器を持った者は否応にもその武器を振るわざるを得ない状況に陥るものだ。

神の力、それは自らを神にするのではない。神の下僕に変わる皮肉めいた力なのだと奇術師は言った。

 

 

「とりあえずオレは話の分かりそうなオルフェノクにこの話を持ちかけている。俺は化け物で終わる人生なんて認めない」

 

「そりゃ……まあ、コッチも同感だけど」

 

 

確かに飛針視点でもオルフェクは全く信用できない。

子供達もスマートレディも自分達に何を望んでいるのか、そもそもオルフェノクの生まれる理由、目的、意図全てがシークレットだ。

胡散臭い塊であるとしか言えない、仲間を増やす意味すらわからないのは厳しい事。

 

 

「そうだな……退屈してたし、ソッチの考えにも同意できるし――」

 

 

決めた、そう言って飛針はカップを投げ捨てる。

当然割れるカップだがもう必要ないものだ、どうでもいい。

 

 

「とりあえず俺もソッチにつくよ」

 

「そうか、そう言ってもらえると助かるぜ」

 

 

同じくカップを投げ捨てる奇術師。

彼もまた理解している。もうこの世界に存在する全ての物には価値などないと。

だってそうだろう? 滅ぶ世界に意味なんて求めるな、終わりいく未来はもうすでに過去だ。

全ては無になる、全て意味なんてなくなる。

 

 

「で? どうするんだよ、これから」

 

「オレの能力で"道化師"を蘇らせる。その後にもう少し仲間を集めたい」

 

 

二人はオルフェノクと言えど、他にどんなオルフェノクがいるのかは分からない。

まずは仲間の情報を集めたいと彼は言う。その後の事はそれから考えるとの奇術師、どうやら彼もまた明確なプランは無いらしい。

 

 

「くれぐれもこの事は内密に頼むぜ」

 

「分かってるさ、俺も死にたくないし」

 

 

そう言って二人は立ち上がった。

最後に奇術師は飛針の役職を聞く、オルフェノクは全て何かしらの称号を与えられ本当の名を奪われるのだから。

飛針も偽名、真の名は役職である。

 

 

「忘れた」

 

「は?」

 

「興味なかったし」

 

 

やれやれと首を振る奇術師。だがとりあえず協力関係は結べた、二人はそのまま部室を後にする。

だが扉を開ければ死体の山、奇術師は不快な表情を浮かべてその光景を再び目にした。

凄惨な光景だ、目に涙を浮かべている女生徒の死体達がコチラに助けを求めるようにして絶命しているじゃないか。

 

 

「悪趣味だな……」

 

「ちょっと待ってよ、分かってると思うけど――」

 

 

殺す時に殺さないとその時点でアウトとされてしまう、飛針はそう言って念を押す。

人を殺したくないとのた打ち回ればショッカーに裏切りと見なされてしまうだろう、たとえそれが元人間だった自分達だったとしても。

奇術師は分かってると言って死体の中に足を踏み入れる。それを後ろから見ている飛針、分かってる?

 

 

(それが、既に人と逸脱した考えだっていうのに?)

 

 

飛針はニヤリと笑うと同じように足を一歩前へ。

しかし奇術師と言うのは何だか味気ない呼び方ではないか?

人を目指すのなら名前は大切だ、人の身に戻れた時に絶対必要な物となるのだから。

自らが飛針と名乗る様に奇術師も名を持った方がいいと言う。

 

 

「そうだな……じゃあ――」

 

 

その時だった、二人が通りかかった教室の扉が開いたのは。

 

 

「「!」」

 

「た、助けて――ッ!! 助けて飛針くん!!」

 

 

中から現れたのは飛針のクラスメイトだ。

彼がまだ帰っていないと知った教師は日直である彼女に飛針を迎えに行かせた。

しかしその途中に化け物が現れてクラスメイトや友達、先生を皆殺しにしていったのだという。

 

 

「わ、わたし……もうどうして――!!」

 

 

パニックになっているのか、女性徒は必死に飛針へすがるように手を伸ばす。

思わず顔を見合わせる奇術師と飛針、これはどうしたものか?

どうしていいか分からずに沈黙する奇術師、だが意外にも飛針はニッコリと笑って彼女の手を取った。

 

 

「よしよし、一緒に逃げようか」

 

「!」

 

「う、うん!!」

 

 

いいのか? そんな目で飛針を見る奇術師、しかし飛針は彼女を落ち着けながら奇術師に笑いかける。

人間になりたいんだろ? だったら人間を見捨てるなんてのはおかしな話だと。

 

 

「あ、ああ……そうだな」

 

 

奇術師も命を悪戯に奪うショッカーのやり方は好きではない、結果彼もまた彼女を助ける事を決める。

取り合えずもうこの世界は駄目だろう。見れば学校の外にも死体の山、火の海だ。

彼女には後で説明すればいいとして、今はこの世界から逃げ出す事を第一にするべきだと――

 

 

「いやああああああああああああああッッ!!」

 

「「ッ?」」

 

 

だがそこで彼女の悲鳴、見れば向こうから白と黒の化け物がやってくるではないか。

硬い鎧に覆われたオルフェノク、それがコチラに向かって歩いてくる。オルフェノクとオルフェノクは互いを認識しあう方法が特に無い。

だからこそ、奇術師は自分達がオルフェノクだと言う事を最初に告げる。勘違いで殺されたんじゃ最悪だ。

 

 

「―――ォ」

 

「?」

 

 

何か様子がおかしい。

悲鳴をあげていた女性徒は腰が抜けたのかその場にへたり込んで叫ぶ。アイツがみんなを殺したのだと!

 

 

「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「お、おい! お前聞いているの――」

 

 

称号は"戦士・バーサーカー"、アルマジロオルフェノクはその豪腕を思い切り振り上げそして振り下ろした。

いきなりの攻撃に三人は驚きの声をあげて何とか回避に成功する。しかしもしあの腕が命中していたら頭は完璧に砕かれていただろう。

間違いない! 飛針も奇術師も確信を持つ。コイツこそが力にオルフェノクの力に飲まれた暴走者なのだ。理性を失い、人としての全てを失った化け物!

 

 

「おい! オレ達はオルフェノクだ!」

 

「攻撃、止めてくれないかなッ!」

 

 

二人はすぐにオルフェノクに変身。

飛針はフライングフィッシュ、そして奇術師はタイガーオルフェノクへと姿を変える。

それを見て動きを止めるアルマジロ、どうやら自分達が味方だと言う事を理解してくれた様だ。攻撃をやめて動きを止めるのだが――

 

 

「いやああああああああああ!! 化け物ッ!! 化け物じゃない!!」

 

「え?」

 

「………」

 

 

女性徒は変身した二人を見てその言葉を口にした。

近くにあったガラスの破片や誰かの内履きをつかんで無茶苦茶に投げてくる。

その途中、何度も二人の事を化け物と連呼していた。パニックになっている所にこの光景なのだから仕方ないのかもしれないが――

 

 

「お、落ち着け。オレ達は敵じゃない!」

 

「そうそう、君を助けようと――」

 

「うるさい! うるさいうるさいうるさい!! 誰か、誰か助けてぇええッ! 殺される!! 化け物に殺されるッッ!!」

 

 

涙を流して犬のように自分達から逃げようとする女性徒、その光景に二人は思わず動きを止めてしまった。

そう、言っておくが彼女は人間の姿をしている。それが何を意味するのか――

 

 

「あぐあぁぁあ――ッッ!!」

 

「「!」」

 

 

女性徒の体に巨大な剣が生える。

二人が振り向くとアルマジロオルフェノクが武器である大剣を投げている所だった。

アルマジロオルフェクは同族である二人の姿を確認して攻撃を止めた。だが女性徒はそうじゃない、どこから見ても人間だったのだ。

結果理性を失ったアルマジロにとって女性徒は殺す対象でしかない、彼はすばやく任務を遂行したまでだ。

少女は剣を避ける事はできず、背中から貫通した大剣が赤い血を滴らせていた。

 

 

「お前ぇぇえ……ッッ!!」

 

 

フライングフィッシュがアルマジロに掴み掛かるが、アルマジロにもうこの場にいる意味すらない。

彼はフライングフィッシュの腕を振り払うと、そのままどこへとも無く消えていった。

舌打ちをして壁を殴りつけるフライングフィッシュ。成る程、オルフェノクでい続ければいずれはああなる可能性があると言う事か。

これは奇術師について正解だったかもしれない。あんな化け物になるなんて冗談じゃない! あれじゃただの馬鹿、人間じゃなくて野獣だ。

低脳無能の糞野郎、生きてる価値なんてない醜い化け物だと!

 

 

(………)

 

 

タイガーオルフェノクは既に息絶えた女性徒の生徒手帳を発見する。名前は血で隠れて見えないが苗字だけならば。

そこに書いてあった名前は百瀬、助けると約束してみすみす死なせた名前は百瀬、自分の事を化け物と言った名前は百瀬。

剣にその身を貫かれて尊い命を落とした少女の名は、百瀬――

 

 

「オレ決めたわ、飛針」

 

 

そう言って奇術師は生徒手帳を思い切り投げる。

死体の山に隠れていく手帳、もう二度と誰も目にも触れる事の無いそれ。

 

 

「?」

 

「奇術師とは別の名前」

 

 

ああ、そういえば。

飛針に戻った彼はタイガーへ早速詳細を問うた、彼の新しい名前は何なのか。

 

 

「オレは百瀬(ももせ)って呼んでくれ」

 

「ふぅん、分かったよ百瀬くん」

 

 

二人はもう一度絶命した少女を見ると、複雑な表情でオーロラを出現させる。

そして先ほどの光景を焼き付けながら世界を移動していくのだった。次はどこへ? そう聞く飛針だが百瀬の表情は暗い。

 

 

「デモンストレーションだそうだ」

 

「ああ……!」

 

 

またか、殺人の連鎖に思わず飛針は苦笑した。

殺したくないと願えば殺さないといけない状況がやってくる、殺したいと願えばそれはもう人でなくなる。

目指すべきゴールはどこへ行くのか。

 

 

(いっそ、全部殺してやるのも悪くないかもな)

 

 

称号は名前も無い人々、それがオルフェノク。

自分達は何の為に生まれたのか、何のために生きればいいのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてまた、ここにも悩めるオルフェノクが一人。

カウボーイの様な風貌の彼は悩む、どうしてこの世界はこんな――

 

 

「弱い奴しかいないのかねぇ」

 

 

発砲音、黒服を着た男の眉間に風穴があく。

様々な液体を撒き散らしながら倒れる男達、彼の前に死体の山が構成されていく。

それでも奥からは同じような黒服が銃を構えてコチラに向かってくるのは褒めてやりたい。

 

 

「ハハハ! いいね、かかって来いよッ!!」

 

 

その男、バットオルフェノクは二丁拳銃を構えて引き金を引く。

放たれる無数の銃弾はその一つ一つが確実に黒服の頭を捉えていた、所謂ヘッドショットである。

さらに黒服の男も銃を構えるのだが、バットオルフェノクは相手の銃の銃口にも弾を命中させていった。

そのまま数秒もしない内に全滅する黒服達、バットオルフェノクはそのまま今いる屋敷の中を進んでいく。

そして最後の部屋となるのだが――

 

 

「はーい! お久しぶりでーす!!」

 

「………」

 

 

中にいたのはスマートレディ。

バットオルフェノクは構えていた銃を下ろすとその部屋にあったテーブルへ乱暴に座り込んだ。

ガンマンをイメージさせるバットオルフェノク、彼の特徴は既に人を捨てている事だった。

オルフェノクは飛針達の様に日常へ溶け込む為に人の形態を持っている。しかし彼にはソレが無い。

元々は人間だった彼も今は昔がどんな姿だったのかまるで覚えていなかった。このオルフェノクの体こそが全て、彼はそう言う男である。

この屋敷にきたのも依頼をこなす為だ、オルフェノクとしての。

 

 

「スラム街の奴らに頼まれた。ここにある宝石全てを奪ってくれと」

 

 

ガードマンは皆殺し、主人は既にスマートレディの後ろで息絶えている。

バットは大きな袋を抱えると手当たり次第に宝石を詰め込んでいった。

その途中でバットはスマートレディが何故ココにいるのかを聞いた。相変わらずのテンションで彼女もまた答える。

 

 

「はぁい! このたび大ショッカーの誕生を祝ってデモンストレーションを行う事にしました!」

 

「ああ、そういえばんな事言ってたか」

 

 

オルフェノクは自由だ、故に何が起こっているのかを知る事もまた面倒である。

スマートレディはなるべく情報を与えてくれるのだが、バットの様に大ショッカーに入った事を知らないオルフェノクもまた存在しているだろう。

 

 

「だから! "殺し屋"さんにも来てほしいなぁ! 来てくれなきゃお姉さん悲しい……エーン!」

 

 

成る程とうなずくバット、面白そうではないかと彼は笑った。

 

 

「いいぜ、行ってやるよ」

 

「やったぁ! お姉さん感激!」

 

 

多くの猛者達が集まるその場所になら自分の悩みを解決してくれる相手がいるんじゃないかと。

淡い期待を抱いてバットオルフェノクは袋をスマートレディに投げ渡す。

同時に出現させるオーロラ、きょとんと沈黙するスマートレディ。

 

 

「それを依頼主に渡しておいてくれ、先に行っている」

 

「ちょ! ちょっと待ってください! お姉さんは――」

 

 

その言葉を無視して消えていくバット、スマートレディはため息をついて袋を持ち上げる。

 

 

「おっもーい!!」

 

 

しかし律儀にスマートレディはそれを届けにいくのであった。

だってそうだろう? 彼女はオルフェノクにとって優しい優しいお姉さんなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして世界は超えていく。

ココはとある洋館、そこにいたのはショッカー大首領の椅子に座っていたビシュムと呼ばれる少女だった。

それにしてもこの少女、先ほどから大声を上げて泣いているではないか。

彼女を抱きしめて頭を撫でているのはメイドの倉持カタナ、彼女の言葉がビシュムをこの状態にさせたのだ。

ソレは――

 

 

(しおり)様……残念ですが、イワガメ怪人の命が尽きる事を確認しました」

 

「うぅううぅぅぅうううううううううッッ!!」

 

 

栞、それがビシュムのもう一つの名前だった。

彼女はどうやらイワガメ怪人の所属していたグループだった様だ。

その死亡を聞いて彼女は堰を切ったように泣き始めた、その死を悲しむ為に。

 

 

「栞様……仕方のない事だったのです」

 

 

月影もまた残念そうに顔を伏せて栞のそばに立つ。

また望まぬ死が彼女を苦しめる、月影はそのジレンマに怒りを覚えながら外の景色を見ていた。

その後も栞は中々泣き止まず、ついには泣きつかれて眠ってしまった。それを確認するとカタナと月影は彼女をベッドへと移す。

 

 

「ああ、何て可哀想なんでしょうか……」

 

「栞様は優しすぎる。気の毒な程に……」

 

 

だからこそ栞を苦しめる障害には虫唾が走る、月影とカタナは部屋を移動してエントランスへと向かった。

シャンデリアの明かりが二人を照らし、そこでカタナが大きく声を発する。

 

 

「ハチ怪人! ツルギバチ怪人!」

 

 

カタナを命を受けて現れるのは二体の蜂を模した怪人だった。

ハチ怪人、ツルギバチ怪人は共にカタナの前に跪く。

カタナは頷くと二体の怪人に強く言い放った、どうやら近々大きなイベントがあるらしい。

 

 

「栞様を苦しめる害悪を排除するッ! 共に力を合わせよう!」

 

「ブブブブブブッ!!」

 

「ブブブブブブッ!!」

 

 

二体のハチ怪人は頷くと同時に構えを取る。

それを見て頷く月影とカタナ、どうやら今回はカタナが舞台に上がる様だ。

彼女は赤い髪をなびかせて強い眼差しを向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって次々に連鎖していく悪意と想い、それはやがて強大な一つとして成り立つものなのだ。

ここはとある世界の一角、病院の様な……? いや病院その物といってもいい建物に彼はいた。

これもまた一つの世界、終りかけの、いや既に終った世界。

 

 

「COBRA、出動よ」

 

「……ああ」

 

 

少年『COBRA』は見ていたテレビを消し、腰掛けていたベッドから立ち上がると深いため息をつく。

誰もいない病院、全体的には綺麗なものだが所々は壊れていたり荒れていたりとアンバランスな内装だった。

COBRAは目の前にいる笑みを浮べた少女に視線を向けた、自分と違って楽しそうな彼女のにだ。

 

 

美夜(みや)、どれだけの人が死ぬと思う?」

 

「決まってるじゃない、それはもう沢山よ」

 

「そうだな……君はそれをどう思う?」

 

 

おかしな事を聞くものだと彼女は笑う、そして答えた。

特に感情なんてない、それはごく当然の事なのだからと。それに殺すのは自分達ではないか、ならば強いて言おう。

 

 

「楽しみだわ」

 

「………」

 

 

複雑な表情で頷くCOBRA、彼は窓の外にある花壇に視線を反らした。

そこには色とりどりの花がある訳じゃない、たった一つ大切な花が植えられているだけだ。

彼はそれを見て自虐的な笑みを浮べる。あの花に言おうか、それとも彼女に言おうか?

 

 

「今日も綺麗だね、美夜」

 

「フフ、貴方は花が好きなのね」

 

 

しかし、と。

美夜と呼ばれていた少女は首を振る。

 

 

「その名前は捨てたわ、私の名はSNAKE。あなたもそうでしょう? 秋人(あきと)――」

 

「ああそうだね。僕の名はCOBRA……!」

 

 

二人は笑いあい病室を後にする。

だがその笑顔は間逆の物だ、SNAKEと呼ばれた少女は嬉しそうに――

そしてCOBRAは哀しげに笑いながらもう一度窓の外にあったガーベラの花壇を見たのだった。

 

 

「本当に……綺麗だ」

 

 

君には、どう見えているんだろうね?

 

 

「それにしても、貴方は本当に好きなのね――」

 

「?」

 

 

SNAKEは先程までCOBRAが見ていたテレビの事を言う。

彼は昔からずっとそれが好きだった、自分に構ってくれず夢中になっていた時は寂しかったものだとSNAKEは笑う。

そう言いながら手を差し出す彼女、今度はコッチに集中してもらいたいと。

 

 

「仮面ライダーが」

 

「ああ、そう……だね」

 

 

COBRAもまた寂しげに笑うとSNAKEの手を握るのだった。

二人は手を繋いだままオーロラへと向かう。

 

 

終わる世界へと。

 

 

 





今回は二部で結構大事な、と言うか重要な人達をピックアップしたつもりです。
ただまあ、もっといると言えばそうなんですがね。

基本前振りみたいなモンです。
まああんまり僕の作品は伏線とかは無いんで。そんな難しく考えないで起こってる事を頭空にして見てもらえればなと。

あと関係ないけど鎧武のナレーションがデネブの人だったから、戦極ドライバーもデネブの人だと思ってたら全然違ったわw
ゲネシスはジークだとは思うんだけどね。いや、似てるから勘違いしてた。


はい、まあいいや。次は金曜か土曜辺りに。
ではでは
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