仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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第70話 終わる世界

 

 

 

 

「散れ雑魚がアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ハサミジャガーの斬撃がついにディケイドの装甲を深く引き裂いた。

クリティカルヒットに動きを止めるディケイド、数々の抵抗もすべて蜘蛛男の糸を打ち破る事はできぬままに終わった。

回避をとろうと何度も試みたがサボテグロンや蜘蛛男がそれを許す事は無い、結果としてディケイドはついに抵抗すらできぬ程のダメージを追ってしまった。

膝を着くディケイド、ついに耐えられるダメージの量を超えてしまい変身も解除されてしまう。

敵の目の前で弱弱しい呼吸を続けるだけの司、すでに勝敗は決している。そして敗者に待つのは死だけだ、ハサミジャガーはその刃を振り上げて司を狙う。

 

 

「待ってくれ」

 

「?」

 

 

そこでハサミジャガーの攻撃を止めるCOBRA、彼はずっと立ってばかりだったが遂に行動を開始した。

弱弱しく跪いている司を見下す様にして、彼は司に掴みかかる。そして彼だけに聞こえる音量で呟く。

 

 

「これが現実だ。君の信じていた仮面ライダーは、倒すべき怪人すら倒せない」

 

 

それはつまり、ライダーとして価値を疑う事でもあった。

怪人を倒せない仮面ライダーに存在する価値はあるのか? 人を守れないヒーローに生きている意味はあるのか?

 

 

「――ないよ」

 

「………っ」

 

 

聖司は人を殺す怪人を倒せない。人を守る事はできない。そんな出来損ないのヒーローに意味なんて無い。

その物語を紡ぐ事は無駄なこと、続けるだけ意味の無い旅なんだから。

COBRAは司の胸ぐらを掴み上げる、苦痛に顔を歪める司と仮面が表情を隠すCOBRA。

 

 

「君が――そう、お前が苦労して手に入れた仮面ライダーはこんな物なのかよ……」

 

「―――ッ」

 

「やっぱり期待はずれ、ガッカリ。お遊びレベルの力だったよ」

 

 

悔しさに顔を歪める司。

今まで何度も負けそうになった、負けた戦いはある。しかし試練を全てクリアして実力がついたと自負していただけにこの敗北は彼の心を大きく抉った。

しかしそんな時だった、風を切り裂く音が聞こえてきたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「「!?」」

 

 

女性の叫び声と共に飛来する閃光、それはCOBRAに直撃して司を解放させた。

怯みながら後退していくCOBRAと起きた異変に身構えるハサミジャガー隊、そして司は唖然としながら現れた人物を見ていた。

それは一瞬亘かと思った程キバに似ている。しかしキバとは違い細身である事や胸が確認できた為、すぐにその人物が女性と言う事が分かった。

それに先ほど聞こえた声、聞き間違いがないのならばそれはよく知っている人物の筈。司はまさかと思いつつ口を開く。

 

 

「お前……まさか――!!」

 

 

司の言葉に反応を示す人物。

彼女は彼の方を振り向くと力強く頷いた。

それは答え、やはり間違いではないのだ。目の前に居る女性は、目の前にいる仮面ライダーは――

 

 

「助けに来ましたよ! 司くん!!」

 

「夏美ッ!?」

 

 

仮面ライダーキバーラ、光夏美だと言う事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏美……お前どうしてッ!?」

 

「説明は後です司君。今はとりあえずこの場を切り抜けましょう!」

 

 

キバーラはキバーラサーベルを構え、司をかばう様に立つ。

なんとも凛々しい背中だろうか、司は思わず息を呑んで口を閉じてしまった。

何があったのかは知らないが今の彼女がなんとも頼もしく見える、本当に目の前にいるのは夏美なのだろうかと思ってしまうくらい。

 

 

「ハッ、何だと思えば獲物が一人増えただけか」

 

「ギシャシャシャシャ! すぐにかみ殺すッ!」

 

 

再び動き出すハサミジャガー隊、最初は意表をつかれたが要は倒すべき相手が増えただけの話。

それにディケイドが戦えなくなった以上、先ほどと同じ三対一の状況に変わりは無かった。

 

 

「夏美、気をつけろ……あいつ等強いぞ――ッッ!」

 

「大丈夫です! 私だって強いんですから!」

 

 

そう言ってキバーラは地面を蹴った。

なんとも軽やかな身のこなしだろうか、襲い掛かる刃や棍棒を次々にサーベルでいなし彼女は反撃の突きを叩き込んでいく。

素早い動きと的確なサーベル捌き、成る程確かに彼女の動きは並大抵の物ではない。

三体に囲まれながらもキバーラは冷静に攻撃のルートを狙い、ちゃんと命中をもさせていった。

 

 

「くらうがいいッ!」

 

「きゃ……ッ!!」

 

「まずい!」

 

 

しかしいくら素早い彼女でも相手の攻撃を全て避ける事はできなかった。

蜘蛛男の蜘蛛の巣をキバーラは受けてしまい、その強靭な糸で彼女は動きを封じられてしまう。

何とか引きちぎろうともがく彼女だが、キバーラの力では糸を引きちぎる事はできなかった。

 

 

「ん――……ッ!!」

 

「終わりだッ!」

 

 

ハサミジャガーはそこへ斬撃を発射、クロスの鎌鼬はそのまま彼女を引き裂く筈だったが彼女に焦りはなかった。

キバーラはベルトにいる『キバーラ』を呼ぶ!

 

 

「お願いしますッ!」

 

『オッケー! いくわよ、ドロロスローブ!!』

 

 

『キバーラ』の声と共に藍色の羽衣が出現、キバーラの周りにまとわりついた。

すると蜘蛛の巣に拘束されていた彼女が消えたではないか! 結果として斬撃は虚しく空を切り、ハサミジャガー達はキバーラを姿を見失う。

 

 

「ここですよッ!」

 

 

ハサミジャガーの背後からキバーラの声が聞こえ同時に衝撃が走る。

のけぞりながら振り向いたハサミジャガーの視界にはキバーラの姿があった。何かしたのか、ハサミジャガーは再び刃をキバーラに向けて振るった。

しかし結果は先ほどと同じ、ジャガーの刃はキバーラを捕らえる事はできず虚しく空を切るだけ。

同じく蜘蛛男やサボテグロンが攻撃をしかけるがキバーラは瞬時に消えて彼らの攻撃を通さない。

さらに羽衣を自由に伸縮させて怪人達に乱舞を浴びせていく、嵐の様な羽衣の乱舞に三体の怪人は大きく怯んだ。

 

 

「チェンジです!」『了解! ザッパーヒール!』

 

 

羽衣が消滅し、次はキバーラの四肢に変化が起きた。

両足にはスケートシューズの様な形状をした靴・ザッパーヒールが装備される。

スケートシューズと決定的に違う点はローラの部分が文字通り刃だと言うことだ、そして両腕には逆手の刃がそれぞれ付与される。

刃の形状を一言で表すならばヒレが妥当だろう。透明感を持ったセルリアンブルーの刃がそれぞれキバーラに装備されたのだった。

 

 

「せいりゃァアアアあっ!!」

 

 

キバーラは地面をスケートの様にすべり、両足の刃を存分に振るう。水色の残像がしっかりと三体を捉え、その身体から火花を散らさせた。

そしてザッパーヒールの特殊能力はそれだけではない。キバーラが飛び上がると両足が変化、彼女の下半身が瞬時に魚のソレとなる。

人魚の様な姿になったキバーラはそのまま地面に着地、すると地面がまるで水の様になり彼女は地面を泳ぎ始める。

 

 

「クッ! 何がどうなっている!?」

 

 

サボテグロンがサボテンを生やしていくが彼女には関係ない話、キバーラは地中を潜り猛スピードで辺りを泳ぎ回る。

そして隙を見つけるとイルカの様に跳ね上がり、ヒレの刃でダメージを与えていく。

三体は滅茶苦茶に攻撃を行っていくがキバーラのスピードを捉える事ができない!

そうしている内に彼女は大ジャンプ、空高く舞い上がった。

 

 

「決めますッ!」『了解! ウェイクアップ!!』

 

 

空間にヒビが入り直後弾け飛ぶ。現れたのは夜となった丘に、巨大なセルリアンブルーの月だった。

月と重なり合う彼女の姿は幻想的で美しい、思わず司は見惚れてしまった程だ。そのまま彼女は怯んでいる三体に狙いを定める!

 

 

『ザッパーバイト!』

 

 

光がキバーラの身体に満ちる。

そのまま彼女は勢い良く地面に着水、飛び散る水しぶきの代わりに衝撃波が発生して三体にダメージを与えた。

さらに完全に動きが止まった三体、そこに向かってキバーラは思い切り身体を振るった。

 

 

「シュトロームエッジッ!!」

 

 

水を切り裂く音と共に光を纏ったウォーターカッターが発射される。

それはハサミジャガー隊を全て巻き込み、大きく吹き飛ばす!

 

 

「グァアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「す……凄ぇ」

 

 

凄い、それが一部始終を見ていた司の感想だった。

ずっと守ると思っていた従姉妹だったが、どうやら立場が逆転してしまったか?

大ショッカーの怪人を相手に華麗に立ち回るキバーラを見て思わず自信がなくなると言う物。

 

 

「司君、ココは一端逃げましょう!」

 

「あ、ああ。すまん!」

 

 

武装を解除したキバーラが司を掴む。

ハサミジャガー達は大きく距離を離しており、かつ怯んでいる状態だ。

そしてCOBRAは相変わらず腕を組んで立っているだけ、これならば確実に逃げられる。

 

 

「随分調子がいいな」

 

「!」

 

 

そこでCOBRAは口だけを動かした。

何を突然? しかしキバーラは捨て台詞に彼へ挑発のジェスチャーを取り言い放つ。

 

 

「助け合いが私達の強さです! 大切な物を守る為、私は負けません!」

 

「………」

 

 

キバーラは司を横抱きにすると光の翼を広げ地面を蹴った。

一気に舞い上がりCOBRA達からみるみる距離を離す二人、しかしまあ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この抱き方はなんとかならなかったのかよ……」

 

「ふふん、守られる側の基本ポーズですよ。コレ」

 

 

男なのにお姫様抱っこをされる日がくるとは……司は苦笑しながらキバーラを見た。

なんとまあたくましくなられた事か、これならもう自分と同じくらいの実力になっているんじゃないだろうか?

 

 

「お前……強くなったな――ッ」

 

「えへへ……そうですか?」

 

 

控えめに答えるキバーラだったが内心は今にも踊りだしたい気分だった。

何の力にもなれないと卑下していた自分に終わりが来る。これからはこの力で皆を守っていける、皆を助けて上げられる。

そして何より……彼と肩を並べて戦う事ができる。それがキバーラにとっては何よりも嬉しい事だった。

守られるだけの自分は終わった、これからは一緒に戦う仲間になったのだ。

 

 

「負けませんよ、司君!」

 

「ハハハ……ああ、そうだな」

 

 

司は少し悲しげに笑うと、まっすぐにキバーラを見る。

 

 

「夏美」

 

「はい?」

 

「ありがとう」

 

 

少しの沈黙が二人を包む。

その内『キバーラ』がやれやれね、なんて呟くから一気に恥ずかしくなってしまった。

司としては普通にお礼を言っただけなのだが、どうやら中々気まずい感じになってしまっていたとは――

 

 

「はい!」

 

 

だがキバーラは、その中にいる夏美は満面の笑みを浮かべて言葉を返した。

二人は笑い合うと辺りを見回す。丘からは少し離れた為心配は要らないだろうが、結果として怪人を誰も倒せていない事になる。

この街にはいまだ多くの大ショッカーが存在している筈だ、一端学校に戻ったらすぐにまた体勢を立て直して出撃しないといけないかもしれない。

しかし皆で力を合わせればきっとこの状況を打破できる筈だ。二人は再び頷きあうと、学校目指してスピードを上げた。

 

 

「………え?」

 

 

そして、キバーラは動きを止める。

 

 

「夏美――? ……って、え?」

 

 

司もまた間抜けな声をあげる。彼は何故キバーラが止まったのか分からなかった。

しかし、彼はすぐに理解した。

 

 

「つ、司君――ッ」

 

 

キバーラは止まったんじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

止められたのだ。

 

 

「コレは一体なん――」

 

 

言葉にせずとも気がついてしまった。

これは、"巣"。巨大な蜘蛛の巣。二人が何もないと思って通った場所には巨大な蜘蛛の巣が存在していた。

そして辺りを見回して気がついた、丘を中心にして三百六十度に蜘蛛の巣のホールが形成されていた事に。

光の加減で全く見えなかったソレらは文字通り檻だった。

 

 

「夏美ッ! すぐに蜘蛛の巣を剥がせ!」

 

「やってます! でも剥がれなくて――」

 

 

そのときだった、どこからともなく蝙蝠が現れてキバーラの肩を掠めたのは。

小さく悲鳴を上げるキバーラ、肩からはダメージを受けた証拠である火花が散った。呆気に取られている二人、そこへ再び蝙蝠が突進を仕掛けてきた。

あ……っと声をあげるキバーラ。その蝙蝠の数はざっと50くらいを超えていたからだ。どうしようと司に意見を求め、助けを請おうとしたキバーラ。

残念、それは間に合わず彼女は大量の蝙蝠に包まれる。

 

 

「夏……美?」

 

「―――――」

 

 

蝙蝠達の攻撃は非常に素早く、静かでスマートだった。蝙蝠たちは黒い雲となりてキバーラを通過する。

すると通過されたキバーラがボロボロになっているだけと言う非常に分かりやすくてシンプルな結末。

さらにふと気がつけばキバーラの足にはいつのまにか無数の糸が絡み合って一本のロープを形成しているところだった。

司は青ざめ、言葉を失いながらもそのロープがどこに繋がっているのかを確認する。すると見えた、丘の上にそのロープの使用者が。

 

 

「駄目よ、逃げちゃ」

 

「え?」

 

「スパイラル・スヴァスティカ」

 

 

それもまた一瞬だった。

空中から猛スピードで飛来してきたのは激しく旋回している影。

影はその足をドリルの様にしてキバーラの肩に刺さりこんだ。その衝撃は凄まじく、彼女を縛りつけていた蜘蛛の巣を引き剥がす程に。

しかし蜘蛛の巣から開放された彼女を待っていたのはロープの持ち主による引き上げだった。

猛スピードで引き戻されるキバーラと司、数十秒もしないうちに二人は再び丘の上へと叩きつけられていた。

 

 

「なん……だよ――コレッ!」

 

「つ……か――さ……くんッッ」

 

 

一瞬で大ダメージを受けてしまったキバーラ、彼女は蝙蝠の群れに囲まれてその後ドリルの様な勢いを持ったキックをその身に受けた。

おかげでこの有様だ、おまけに丘の周りには蜘蛛男の仕掛けた檻があったらしい。

しかしそうなると気になるのは蝙蝠の大群とキバーラにキックを仕掛けた者の正体である。

 

 

「惜しかったな」

 

「ッッ!!」

 

 

COBRAがそこで動き出す。忘れてはいけないのが、彼もまた小隊の隊長であるという事だ。

大ショッカーの小隊はリーダの他に部下二名が一般的である。そう、蝙蝠と影の正体はまさに彼の部下である存在だった。

蝙蝠の群れはCOBRAの右隣に収束していくと徐々に人の形を形成していく。さらにCOBRAの左隣に着地するシルエット、それはまぎれもない女性の者だった。

双方に共通するのは人の形こそしているが見た目は人ではない、COBRAの様な暗い色をしたバトルスーツを身に着けた者達。

 

 

「残念、運命を決める女神(ルーレット)は気まぐれな性格の様ですね! クハハハハハ!!」

 

 

高笑いと共に蝙蝠達が一人の怪人を形成した。

黒いマントを翻して彼はキバーラたちを指差す。

確信できる勝利などこの世には無い、全ては気まぐれなルーレットの目が決める不安定確立。

 

 

「フフフ……!」

 

 

左隣の怪人は他の二人と違って顔の下半分が仮面に覆われていなかった。

彼女はその見せた口をニヤリと吊り上げて仮面から出た長髪をかきあげ、風になびかせる。

スラリとした手足、スリムな体系はまさに彼女の名をあらわす事となる。

 

 

「助かった。BAT(バット)SNAKE(スネーク)

 

「クハハハハ! 貴方にしては珍しく遊んでいる」

 

「そうね、この前の幽霊族だっけ? あの子はすぐに倒したのに」

 

 

その言葉にゾッとする司。

幽霊族と言う単語が示す意味、それは響鬼の試練時に鬼太郎が封印されていた事に重なった。

彼は何故封印される事に至ったのか、それは今この場で答えが示された。彼は、COBRAに負けたのか!?

そう言われると考えられる話ではあった。彼の特殊能力である固定ダメージ、これは相手がどんな種族だろうが纏まったダメージを与えられる。

 

 

「夏美ッ! 逃げるぞ、こいつ等には勝てない!!」

 

「は……はい――ッッ!」

 

 

キバーラは何とか立ち上がると再び翼を広げ、司を抱えて飛び立つ。

しかしこの場には怪人が六体存在しているのだ。そんな事を許す訳もない、それぞれの怪人は夏美の行動を嘲笑していた。

まるで逃げられない事が決定しているかの様に、彼女の行動が無駄だといわんばかりに。

 

 

「SNAKE、これを」

 

「ええ、分かってるいるわCOBRA」

 

 

SNAKEはCOBRAの仮面についている鞭を取り外すと、それを思い切り振るった。

ヒュンっと風を切る音が聞こえてキバーラの背中から火花が散る。それも連続で。

鞭は激しい乱舞を刻みつけてキバーラの翼を粉砕していった。

 

 

「くッぅ! ぁああああッッ!」

 

「夏美ッ!!」

 

 

翼が消えて地面に落ちるキバーラ、だがそのまま落ちるのではなかった。

BATが指を鳴らすと空中から機械でできた蝙蝠達が飛来、黒い雲の様にキバーラと司を覆うと牙や爪、羽で攻撃していく。

 

 

「ぐアアアアアアアッッ!」

 

「キャアアアアアアッッ!」

 

 

追撃を受けて地面に直撃する二人、しかしキバーラはすぐに立ち上がると再び武器を変更。

回避能力に特化し、トリッキーな動きを行えるドロロスローブを纏った。

先ほどはハサミジャガー達を劣勢にさせた武器、キバーラはすぐに自分の身体を消失させて怪人達の隙を狙う。

 

 

「悪いけど、無駄なんだよ」

 

「え!?」

 

 

キバーラは一つ大きなミスを犯していた、それは先ほどまで相手にしていた者の仲にCOBRAがいなかったという事。

だが今は違う。彼は特殊能力であるブラックアウトを発動、相手の状態変化を打ち消す事に成功する。

結果COBRAの目の前で実体化するキバーラ、彼女はすぐにまた姿を消そうとローブを翻すがブラックアウトは継続できる力である。

キバーラがいくらローブを翻してもその姿が消える事は無い。

 

 

「そんな――ッ!?」

 

「フフフ、余所見はいけないわ」

 

「しま――ッ!」

 

 

飛び込んできたのはSNAKE、彼女はしなやかな動きで次々に変則的な蹴りをキバーラに叩き込んでいく。

地面をすべり、回転し、バレエを連想させる動きで蹴りの嵐をお見舞いしていった。

さらに鞭の連撃を追撃に浴びせていく、そのリーチはキバーラの抵抗を許す事は無かった。

 

 

「き、キバーラ! 武器を……ッ!」『わ、わかったわ!』

 

 

キバーラはのけぞりながらもザッパーヒールを発動、すぐに特殊形態に変身して地面にもぐりこむ。

だがすぐにCOBRAはブラックアウトの光を放出、キバーラは地中から地面に打ち上げられる。

何をしても無駄、COBRAはそういいながら嘲笑を。

 

 

「そ、そんな――ッ!?」

 

「残念ね、せっかくの武器が台無し」

 

 

立ち上がる夏美に刺さりこむSNAKEの足、さらに鞭の払いが決まってキバーラは地面に倒される。

叫ぶ司だが、そこで彼のディケイドライバーが再び変身可能状態に変わる。

司はすぐに走り出し、カード発動させてディケイドへと変わった。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」『カメンライド・ディケイド!』

 

「ギシャシャ!」

 

「ッ!!」

 

 

だが敵の数は6、蜘蛛男はすぐにディケイドへ糸を発射して動きを封じる。

そこへ突き出されるハサミジャガーの刃、突きを受けたディケイドはキバーラの所へと転がっていく。

 

 

「死の華を」

 

「「!」」

 

 

二人を囲むようにして現れる華を咲かせたサボテン達。

すぐにジャンプで飛び越えようとしたのだが上空にいる蝙蝠達に妨害されて飛び越えるまではいかなかった。

そうしている間に華が光り輝き――

 

 

「「――――――」」

 

 

大爆発、二人はその衝撃に動きを完全に停止させた。

そこへゆっくりと歩いていくCOBRA、彼はキバーラを掌底で吹き飛ばすとディケイドの首を掴み上げる。

戦力、つまり数が違うと言う事は知っていた、力の問題はすでに理解した筈だ。だからCOBRAは次の理由を――

先ほどの言葉の真意を彼に伝える。

 

 

「お前は自分のやっている事、やってきた事が仮面ライダー"ごっこ"じゃないと言う」

 

「あたり……まえだッ!」

 

 

ディケイドはCOBRAの腹部に蹴りを入れると拘束から抜け出す事に成功した。

だが同時に背中にBATの機械蝙蝠達の攻撃が直撃、動きが鈍ったところに打ち込まれるCOBRAの掌底。

 

 

「それは、これからのお前に対しても言えることなのか?」

 

「――――ッ?」

 

 

別に彼らの実力を否定する訳ではない。

試練をクリアした司の力は大ショッカーにとって充分通用し、脅威となる物だった。

だが肝心なのはソレを使う側にある。つまりディケイドの変身者である聖司にあるのだと。

 

 

「君は運良く、今日まで誰一人仲間を失う事無く試練を終えてきた」

 

「――――ッ」

 

「だけど、本当にソレがずっと続くとでも?」

 

 

COBRAは自分の背後にいるキバーラを示す。

SNAKEやハサミジャガーの攻撃を受けて火花を散らしている彼女、こんな光景がこの先ずっとあるかもしれない。

COBRAは先ほど運よく司が仲間を失わずといったが、逆に言えばソレは運の悪かった事とも言える。それだけ司は希望を持ってしまったのだから。

希望の大きさと同じくして絶望もまた膨れ上がるのに。それこそがCOBRAが彼の戦いを遊びと言った理由だった。

 

 

「ディケイド、お前はまだ……失う怖さを知らないんだ」

 

「ッッ!」

 

 

 

目の前で大切な人が死にそうになった時、または命を落とす時、彼はそれでも仮面ライダーとして戦い続ける事ができるのだろうか?

戦いに迷いが生まれる事はないのだろうか?

 

 

「さっき、彼女は大切な物を守る為に戦うと言った」

 

 

だから負けないと。それはディケイドも同じだろう? COBRAの問いにディケイドは頷く。

今までの試練は助け合いだった、きっと一人じゃクリアできなかったものばかりだ。

自分たちは助け合いながら、絆を紡ぎながら成長していく。それが特別クラスなんだと――

 

 

「だったら、その守る物を全て失ったとき……お前はどうする?」

 

「なに……ッ!?」

 

「助け合い? 協力? 甘いんだよお前ら、学芸会レベルか?」

 

 

協力は大切だ、しかしCOBRAから言わせてもらえばソレは甘えでしかない。

友を守る為の力が強さの源ならば、その守るべき友が死んだ時はどうなる?

さらに言えばその友が死に直面した時、守れないのなら何のための力なのだと。

 

 

「救えない、守れない。その恐怖と現実が突きつけられるかもしれないんだ」

 

 

それは仮面ライダーの力を奪う呪いとなる。

COBRAは仮面の下でどんな表情を浮かべているのだろうか? 彼自身何かとても苦しそうに言葉を紡いでいるのが嫌でも分かった。

 

 

「ディケイド、お前は大切な者を失う覚悟があるのか?」

 

 

その覚悟が無い以上、所詮仮面ライダーごっこをしているだけなのだとCOBRAは言い放った。

失う怖さを無意識に感じず、仮面ライダーになれると言う現実に酔いしれる。

特に司は仮面ライダーが好きだった、ならばなおさらだとCOBRAは付け足す。

どんなに意識をしていなくても、失う事が無かった毎日は彼の心に余裕と自信を生み出した。

 

 

「お前はきっと仮面ライダーの力を信じている筈だ、ディケイドの力を」

 

「ああそうだよッ! この力は全ての悲しみを破壊――」

 

「それが、楽しんでるって事なんだよ!」

 

 

その信頼が毒となる。その信頼が黙々する正義となる。

仮面ライダーの力を信じるのは結構だ、だがそれに裏切られた時に彼はどうする?

その力を見誤ったとき、彼は――

 

 

「!?」

 

 

COBRAの拳がディケイドの胴体にヒットする。

収束して弾ける闇、ディケイドの身体中に痛みが植えつけられる。確かに言われてみればどこかに楽しむ思いはあったのかもしれない。

ずっとあこがれていた仮面ライダーになれる、人を超えた力を手にできると言う優越感、それを感じていたのかもしれない。

だがそれでもディケイドは立ち上がり剣を振るう。確かにその思いがあったかもしれないが、試練を通して得た思いも全て真実だ。

ディケイドを得た者としてこの力を誰かの為に――仲間を、人を守る為に使うと言う気持ちに偽りなどない。それは何度も示してきた事だ。

 

 

「その決意がお前に力を、そして自信と言う毒を与えた」

 

 

その自信は儚い物だったのだとCOBRAが付け足す。

周りを見れば仲間がいて、自分には悲しみを破壊できる力がある。それが聖司と言う人間が変身するディケイドの力を積み重ねていった。

しかしその積み重なった力は簡単に崩れる物だと彼は言う。COBRAは他の5体に囲まれているキバーラを指差した。

全ての答えが彼女に収束していく、先ほどからずっと示してきた答えがだ。

 

 

「今、ココで彼女は死ぬ」

 

「!!」

 

「それでもお前は、まだ戦うのか?」

 

 

今日この場にいなければ、仮面ライダーとして戦っていなければキバーラを――夏美を失う事は無かったのに。

それを知ったとき、彼の積み重なった力は音を立てて崩れるのだろうと。

 

 

「さ、させるかよッッ!!」『ファイナルアタックライド』『ディディディディケイド!』

 

 

ソードを構えてディケイドは走り出す。

COBRAの横を通り過ぎてディケイドは巨大化したライドブッカーを振るった。

キバーラを助ける為の剣、だが彼の心はきっと大きく揺らいだ筈だ。何故か、それは――

 

 

「守れないかもしれないと思ったからだろ?」

 

「!」

 

 

COBRAの言葉に心揺さぶられるディケイド、彼の刃はハサミジャガーが双剣をクロスさせて受け止めていた。

早くキバーラを、夏美を助けないと駄目なのに――その刃は夏美を傷つける者を止める事ができない。

COBRAとしても聞かれてはいけない話なのか、ディケイドがハサミジャガーに近づくと聞かれないように声の音量を下げる。

結果、その言葉はディケイドにすら届かないが、彼は構わず言葉を続ける。

 

 

「君は何のためにライダーになった?」

 

 

COBRAはなんとなく分かっていた。

あくまでも直感の話だが、ディケイドが変身した理由にはキバーラが関わっているのではないかと。

そう、たとえば彼女を守る為に変身したとか――

 

 

「だったら……」

 

 

司は夏美を守る為にライダーになった。

司は夏美を失いたくないから仮面ライダーになれた。

司は夏美が死ぬ事実を壊すためにディケイドへ変身した。だったら、もしもその夏美が死んだ時――

 

 

「お前は、何のためにそこにいるんだ?」

 

 

COBRAはディケイドを見た。彼は必殺技をハサミジャガーに受け止められている。

文字通りハサミの様に双剣を組み合わせているジャガー、彼はそのまま全力を込めてディケイドの剣を挟みこむ!

 

 

「シッッザアアアアアアアアアアアアアアアアアアス!!」

 

「――――ッッ」

 

 

ディケイドは言葉を失った。

ハサミジャガーの一撃はディケイドの必殺技であるディメンションスラッシュを断ち切った。

そして、ライドブッカーまでも切断してみせたのだ。剣の部分が切り取られ虚しく地面に落ちる。

今まで通用しなかった事はあれど,

破壊される事は無かっただけにハサミジャガーのこの一撃はディケイドの心に大きな傷を作った。

そしてその光景を冷静に見極めるCOBRA、何故ライドブッカーが破壊されたのか? それは――

 

 

「迷ったからだろ? 怖かったからだろ? 今お前は信じていたライダーの力を疑った」

 

 

夏美を守れないことは彼の変身した理由に反する行為でもある。

夏美を失うかもしえれないと言う恐怖、夏美を守れないかもしれないと言う恐怖、それらが彼の心を通してディケイドを弱体化させる。

同時、ハサミジャガーの攻撃を受けてディケイドがCOBRAの隣に着地するように吹き飛んだ。そこで彼は止めの一撃(ことば)をディケイドへ浴びせる。

 

 

「君は、彼女(なつみ)を失ってまで仮面ライダーとして戦い続けたいかい?」

 

「………!!」

 

「もしも戦いたいと願うのなら、戦い続けると誓うのならば、仮面ライダーごっこなどと言った事を謝ろう」

 

 

彼女がいない世界を守りたいと願うのならば。

彼女を失ってでも守る価値のある世界ならば、きっとディケイドは自分の世界を救う為に戦うだろう。

仲間の為、友達のため、残した家族のために。だけど世界を救っても隣にはいつも笑ってくれる彼女はいない。

 

 

「ッッッ……!!」

 

 

ディケイドの視界に映るのはメキシコの花を体中に咲かせているキバーラだった。

スローモーションになる世界、彼女はディケイドに向かって手を伸ばしていた。心臓が嫌な鼓動を刻み吐き気がディケイドを襲う。

伸ばした手を掴もうと彼も手をキバーラへと、そこで彼の耳に入る夏美の声。

 

 

「つかさ……くん――」

 

 

大切な人の声。

 

 

 

「たすけて」

 

 

 

直後凄まじい爆発がキバーラを包む。

目を見開くディケイド、爆煙の中から姿を見せた彼女は伸ばした手を弱弱しく下げて倒れてしまった。

守ると決めた彼女、だから変身したのに――

 

 

「うわアアァアアアアァァアアアァアァアアアアアァアアアアッッ!!」

 

「………」

 

 

気がつけばディケイドは全ての力を振り絞り駆け出していた。

COBRAを突き飛ばして彼はただひたむきに彼女の所へと走る。ライドブッカーはまだ銃なら使える、彼はひたすらに乱射を繰り返して叫ぶ。

 

 

「どけぇええええええええええッ! 夏美から離れろッッ!!」

 

 

しかし悲しいかな、ライドブッカーの銃弾は蜘蛛男が素早く張った巣を貫く事ができない。

結果彼は5体の怪人に囲まれる事になってしまった。そうなればディケイドに勝ち目など無い、彼はすぐに地面に倒れることになる。

 

 

「まだだ……まだ終わってないッ!!」

 

 

足掻くディケイド、それを見ながらCOBRAはまたも小さく呟く。

 

 

「俺たちはどんなに強がっても、強くなっても――」

 

「な、なんで――ッ!? なんでだよ!!」

 

 

COBRAの視線にいるディケイドは信じられないと叫んでいた。

その姿は焦りに満ちている、どうしたのだろうか? 気になる所だがCOBRAは言葉を乱す事は無い、まさかもう知っているのか。

 

 

「俺たちは、どんなに見た目が同じでも」

 

 

その根本にいるのは――

つい最近まで戦う事からかけ離れていた生活を送っていた。

 

 

「仮面ライダーじゃなく、ただの弱い弱い人間なのさ」

 

「なんでなんだよッッ!!」

 

 

ディケイドが焦る理由、やはりそれをCOBRAは理解していた様だ。

ディケイドは、司は、夏美を失う事に大きな恐れを抱いている。それは彼が思っているよりも大きく強大な恐怖なのだ。

それはライダーの力を左右する程に。司はライダーとして、ディケイドとしての覚悟や責任、確立した存在を持っていると自負していた。

そして今天秤にかけられているのはライダーの存在と夏美の存在、どちらが彼の行く末を決めるのか?

ライダーが大切なのか、夏美が大切なのか。両方? それは無理だ、なぜならば彼は今その一つを失う事を前提としているのだから。

それは未来の決断、これからの彼らの道。その姿を見てCOBRAは彼を弱いと称した。

いや、むしろそれが正しい事なのだが。だからこそ彼は仮面ライダーにはなれない。

それに――

 

 

「なあディケイド、仮面ライダーってそもそも本当にいるのかな?」

 

 

唐突に言い出すCOBRA。今の状況で何故そんな事を?

 

 

「黙れぇえええええッッ! どけよ! どけって言ってるだろうガァアアアアアアア!!」

 

 

夏美を助けたい、助けなきゃいけない。

ディケイドは我武者羅に、ただひたすらに彼女の所へと向かおうとする。

しかしCOBRAはそんな彼の首を掴むと、怪力でさらに夏美から離れた所へと投げ飛ばした。

そして彼は地面を蹴り、一瞬で倒れたディケイドの所へとやってくる。

 

 

「質問をしてるのは俺だ、答えてくれよ」

 

「あぐぅうあぁああ!!」

 

 

COBRAはディケイドを掴みあげて強制的に地面へ立たせた。

悲痛な叫びをあげるディケイドだが、状況は何も変わる気配を見せない。

そこで少し話を変えてみようかとCOBRA。

 

 

「お前は本当にライダーがいるなんて思ってたのかい?

 高校生にもなって、まだ本当のヒーローが、純然たる正義が存在していると信じていたのか?」

 

 

大人になると言う事は現実を知り、それを受け入れると言う事だ。

にも関わらず司はそこから目を背けていたのではないかと、COBRAはディケイドの腹部に重い膝蹴りを食らわせて笑う。

 

 

「教えてくれ、ディケイド――ッ!」

 

「俺は……俺はァァアアアアアァアァ!!」

 

 

倒れたディケイドはありったけの力をこめて立ち上がる。

耳には少し離れた所で攻撃されているキバーラの悲鳴が聞こえてきた。

ディケイドの脳裏に激しい怒り、焦り。そして見下した様に、煽る様に、小馬鹿にした様に言ったCOBRAの質問が強く浮かぶ。

 

 

「俺だって……知ってるさ――ッ! 知ってたさ!」

 

 

自分のライダーの楽しみ方は子供のソレとは違う。

そんな高校生が普通の教室で語る特撮への感覚をディケイドはこの命をかけた異世界での戦いと言う場で口にした。

好きなものを馬鹿にされれば、誰だって少し我を忘れるから。

 

 

「"仮面ライダーが、いない"って事くらいッッ!!」

 

「………」

 

 

その時、COBRAが仮面の下で笑った様な気がしてディケイドは急に冷静さを取り戻す。

一瞬であったが、今自分が感情に任せて吐いた言葉の意味を彼は知ってしまった。

 

 

「ディケイド……今、君は――」

 

「ち、違う! そういう意味じゃない! 違うんだッッ!!」

 

 

COBRAの拳がディケイドの顔面をしっかりと捉えた。

重い衝撃の中で司は尚も繰り返す。違う、そう言う意味じゃない。

子供達は仮面ライダーが本当にいると思って楽しんでいる。でも自分はそれがフィクションだと知った上で、エンターテイメントとして――

 

 

「何を言っているんだ、お前は」

 

「ち、ちが――ッ! 違う!!」

 

 

ディケイドは駄々をこねる子供のようにただひたすらに違うと言う言葉を連呼する。

殴られ、蹴られ、地面に倒される時も彼は抵抗より弁解の方に走った。

 

 

「ディケイド、じゃあもう一つ教えてくれよ」

 

 

ディケイドが見上げたCOBRAの仮面。

仮面が故に表情は全く分からないが、目の部分がギラついている様に感じた。

それが何よりも怖くて、ディケイドは倒れたままCOBRAから距離をとる様に後退していく。

乾いた悲鳴をあげながら。

 

 

「今のお前は、何なんだ?」

 

「お、俺は――ッ! 俺は……俺は俺は――! 仮面ライ――」

 

「ライダーなんて、いないって君が今言ったんじゃないか」

 

 

違う。COBRAの蹴り上げを受けながらディケイドはまたも必死に頭の中でそれを連呼する。

しかし感じたダメージは先ほどよりもずっと重たく、大きく感じた。

それは自分が今、たった今その言葉を言ったからなのだろうか?

 

 

(違う、そういう意味じゃない――ッ!)

 

 

だがどんな理由があろうと、どんな意味があろうと、たとえそれが誘導されて仕方なく言った言葉であっても。

今のディケイド、司にとってその言葉を言う事は何よりも重い事であった。心に突き刺さる事であった。

矛盾、仮面ライダーになった自分が仮面ライダーの存在を否定した。

 

 

「ふざけんな、揚げ足とるなよ!!」

 

「へぇ」

 

「お、俺は……俺はライダーはいないって思ってた」

 

「………」

 

 

そう、だがそれはあくまでも最初の話。

 

 

「でも俺は世界を知って、本物に会って! ライダーが本当にいるって知ったんだ!!」

 

 

だからこの力は本物だ。ディケイドは今までめぐってきた世界を思い浮かべて拳を握った。

なんとか一発でも報いれば、その想いと共に彼はCOBRAに向かってパンチを放った。

自分が信じた正義は、感じた正義は、知った正義は確かにそこに――

 

 

「でも君は違う」

 

「!!」

 

 

否定。

 

 

「俺は、今の君を仮面ライダーだとは欠片とて思わない」

 

「ッ!」

 

 

否定。

 

 

「偽りを偽りで塗り固めた、滑稽なピエロだ」

 

 

否定。

 

 

「弱い正義の味方なんていらない、悪に屈する正義はもはや正義ではなく弱者なんだよ」

 

 

COBRAはディケイドの拳を簡単に弾くと、カウンターのキックで彼を地面へ倒した。

 

 

「う……ぁ! ぐぅう!」

 

「でも、俺は違うよディケイド」

 

 

胸を張っていえる事がある。COBRAは君とは違うと言う部分を強調して倒れているディケイドの所まで歩いた。

そして彼は倒れているディケイドの頭を掴み、自分の顔を思い切り近づける。

耳に直接言葉を放るようにして。

 

 

「ショッカーは、確かに存在している!」

 

「……ぅうう!」

 

 

なんだよ、なにが違うんだよ。

お前だって最初はショッカーなんていないって思ってたんじゃないのかよ。

同じ試練者なら――! ディケイドの目が語っているのをCOBRAはよく理解していた。

そしてディケイドも感じている。どんな過程があろうとも、再び過去にある否定を掘り返した事に対する複雑な思いを。

 

 

「俺は、ショッカーによって改造手術を施されてココにいる」

 

「ぐぐ……ッ!」

 

「この身はもうショッカーによって染まり切っている」

 

 

ショッカーは恐怖の具現だ、それは仮面ライダーに登場する存在に在らず。

そう、ここにあるのは恐怖の具現。自分の世界に対する未練はない、今ここにいる事実があればそれでいい。

そしてそれはショッカーによって作り出された未来、運命だ。

 

 

「強化補正、そしてガワだけそっくりになった所で君達の根本は巻き込まれた時と何も変わらない」

 

「違う……違うぅぅぅ!」

 

「心のどこかで、それを分かってた筈だ。所詮は巻き込まれた外部の人間、本物になんかなれる訳が無い」

 

 

どこかで達観してる。

COBRAはディケイドを開放すると声のトーンを落として、どこか疲れた様に振舞う。

なぜならそれは自分にも言える事だからだ。

 

 

「もう一度言うぜディケイド、俺達は弱い人間だ」

 

「俺は、俺は仮面ライダーだ!!」

 

 

たとえ改造された身でも、たとえ変身できた身でも。世界の壁がそこにはある。

ディケイドは否定する様に叫び、一枚のカードを抜き取った。それを見て呆れた様に首を振るCOBRA。

 

 

「"俺達"は、クウガの様にみんなの笑顔を守る事はできない」

 

 

意図せずとも、きっと心の中でそう司も思っている筈だ。

COBRAはクウガのカードを持って叫んでいるディケイドを見て確信する。

彼が焦る理由はクウガを否定してしまったから、否定されてしまったから、諦めてしまったから、迷ってしまったから。

 

 

「どうしてクウガが消えてるんだッッ!?」

 

 

そう、ディケイドはクウガにカメンライドする為カードを取り出した。

しかしクウガの絵柄がそこから消えていたのだ。いるべき場所にクウガはいない、という事は当然その力を使えない事である。

COBRAはそれを理解し、言葉を続ける。

 

 

「アギトの様に、明るくいる事もできない」

 

「う、嘘だッ!!」

 

 

ディケイドが次に取り出したカードはアギト、しかしアギトもまたその姿を消していた。

この瞬間、ディケイドからアギトの力が失われる。

 

 

「龍騎の様に、意思を通す強さも無い」

 

「どうしてッ!! どうしてなんだ!!」

 

 

龍騎のカードも同じだった。

意味が分からない、理解できない、受け入れる事ができない。

ただ分かるのはこの瞬間ディケイドから龍騎の力が失われたという事だけ。

 

 

「ファイズの様に、現実と戦う事もできない」

 

「くそ……ッ! くそッッ!! ふざけんなよッ!!」

 

 

もうここまでくればそうなのだろう。

ディケイドが取り出したファイズのカードに彼の姿が映っている事は無かった。この瞬間、ディケイドからファイズの力が失われたのだ。

 

 

「ブレイドの様に、運命に抗う事もできない」

 

「有り得ない……なんでこんな――ッ! ちくしょうッッ!」

 

 

ブレイドは姿を消した。

どこにもいないのか、ただ現実はこの瞬間ディケイドからブレイドの力が消えたと言う事。

 

 

「響鬼の様に、心は強くなれない」

 

「グアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

敵の猛攻を受けてディケイドは地面を転がる。

そんな彼でもわかる事は、この瞬間ディケイドから響鬼の力が失われた事だった。

 

 

「カブトの様に、選ばれし者では無い」

 

「俺が……俺が間違っているのか?」

 

 

カブトのカードも例外ではない。

そこにいたヒーローは姿を消し、この瞬間ディケイドからカブトの力が消えた。

 

 

「電王の様に、未来を守る事はできない」

 

「クソォオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

無茶苦茶に走り出すディケイド、しかしすぐに蜘蛛男の糸で動きを封じられてSNAKEの蹴り、ハサミジャガーの斬撃に沈む。

その手には無地のカードが見えた、この瞬間ディケイドから電王の力が消えたのだ。

 

 

「そしてキバの様に、大切な人を失っても戦い続ける強さが、意思が無いッ!!」

 

 

この瞬間、ディケイドからキバの力が消滅する。

同時に動き出すCOBRA、彼はディケイドの腹部に蹴りを入れると立ち上がるのを防ぐ。

ひれ伏すディケイドを見下して彼は言葉を続ける。

 

 

「お前が見ていた存在は本物だったかもしれない」

 

 

現に司は真司と、良太郎と出会って会話をしている。

その存在をハッキリと感じている。

 

 

「でも、その存在がフィクションである事が常識だった"俺たち"にとっては、どこまで行ってもニセモノなんだよ」

 

「―――」

 

「なれないんだよ、いないんだよ!」

 

 

仮面ライダーなんてな。

COBRAはうずくまるディケイドの顔を、仮面を蹴り飛ばした。

苦痛の声を上げて弱弱しく倒れるディケイド。無様だな、これがヒーローの姿とは思えない。

 

 

「お前は今、戦う理由を疑問とした」

 

 

迷う事が、ディケイドの力を奪う。

 

 

「見ろ、お前の戦う理由が無くなる時を」

 

「!!」

 

 

COBRAはディケイドを掴み上げて視線を強制的にキバーラへと向かせる。

そこには怪人達の攻撃を一勢に受けてボロボロになっている彼女の姿があった。

叫ぶディケイドだがCOBRAの拘束を外す事ができない。そうしている内に遂にその時がやってくる。

 

 

「フフ、さようなら」

 

 

飛び上がるSNAKE、彼女は身体を旋回させながらとび蹴りを繰り出した。

闇の奔流を纏った回転キック、それはドリルの様なエフェクトを纏い完成する。

スパイラルスヴァスティカ、彼女の必殺技が無防備なキバーラに直撃する。

 

 

「ア―――ヵ……!!」

 

 

連続で攻撃を受けていた事もあってか変身が解除されるキバーラ、『キバーラ』自身も吹き飛ばされてしまい気絶する事に。

夏美はすぐに『キバーラ』をポケットに隠して体勢を立て直そうと試みる。

しかし周りには無数の怪人、彼女に一片の希望も無かった。

 

 

「……ぁ」

 

「我ら大ショッカーの障害となる存在は、全て死んでもらう」

 

 

それは夏美とて例外ではない、ハサミジャガーは笑みを浮かべて手を引いた。

その血にぬれた刃が夏美を狙う。叫ぶディケイド、彼は全身の力を込めてCOBRAの拘束を解き放った。

彼は走る。一番初めに変身した時と同じだった、あの時も彼女を守る為に戦うと心に決めて。

 

 

「夏――」

 

 

ディケイドはその時動きを止める。

それは彼が走るのを止めたからではない、走れなくなったからだ。

糸、ディケイドはまたも蜘蛛男の笑い声を耳にする事となる。蜘蛛男が放つ糸はディケイドの動きを完全に停止させ、さらに拘束を重ねていった。

 

 

「司くん……もう、いいですよ」

 

「!」

 

 

彼が目にした従姉妹は確かに笑っていた。

何故、何故その状況で笑えるんだ? ディケイドには分からなかった。

まるで彼女は全てを諦めたように、悲しげながらも確かに微笑んでいたのだ。

彼女は目に涙を浮かべながらもまっすぐにディケイドを見ている。もっと……もっと格好良く、華麗に、上手に彼を助けられると思ったのに――

 

 

(悔しいですね)

 

 

だけど最期まで彼は自分を助けようとしてくれた。悔しいけど、悲しいけどそれはとっても嬉しい事。

だからせめて彼だけは助かってほしい、彼女はあれだけ無意味だと嘆いていた神頼みをもう一度行う。

どうか、お願いだから、私はもう駄目だけど、せめて彼だけは助けてください。

神様、お願いします。私の最期のお願いですから――

 

 

「司君――」

 

 

最期に、言いたい。

 

 

(好きでした)

 

 

ううん、だけどやっぱり恥ずかしいから。

 

 

「今まで……ありがとうございます」

 

 

コチラに手を伸ばしながら叫ぶディケイド。

しかし彼がどれかえ足掻こうとも蜘蛛男の糸は千切れない。

さらにメキシコの花がディケイドにダメージを追加させていく。お願いだから、彼は助けて。彼女は何度も祈りを捧げる。

最期に、せっかく助けに来たのに役に立てなくて――

 

 

「ごめんね、司く――」

 

「シザアアアアアアアアアアアアアアアアアスッッ!!」

 

 

赤い血が舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハサミジャガーの刃が、その時夏美の胴体を貫いた。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

 

叫ぶディケイド。退け、消えろ、無くなれ、何度も心にフラッシュバックする言葉達。

今すぐ夏美の所へ行かなければと彼は叫ぶ、しかしどれだけ叫んでもその糸が切れる事は無かった。

どれだけ手を伸ばそうとも彼女には届かない、彼女を救う事も守る事もできなかったのだ。

 

 

「待ってろ夏美! 今、今行くからッッ!!」

 

「づ……がざ――ぐん……うれ――じ……い…です――ッ」

 

 

夏美の口からは大量の血が溢れていた。

同時に刃を引き抜くハサミジャガー、彼は満足そうに笑うと後退していく。

そして倒れる夏美、彼女の呼吸は弱弱しい物に代わっていき顔色も青白くなっていく。

違う、いやだ、違う、それは駄目だ、有り得ない! などとその事実を壊すために彼は言葉を紡ごうとする。

だがそれを否定するのは、やはりCOBRAだった。

 

 

「無駄だ、君は彼女を守れなかった。それを理解したほうがいい」

 

「ッッッ!!」

 

 

COBRAは巣に捕らわれているディケイドの胴に拳を打ち込んだ。

闇が収束し、弾け、ディケイドの体内にダメージが流れ込んでくる。脳が思考を停止し、事実だけが土石流の様に流れ込んできた。

夏美を守れなかった。夏美を――

 

 

「これで分かっただろ? 仮面ライダーはこんな想いをしてまで戦い続けなければいけない存在なんだ」

 

「――――」

 

「それだけの重さがその名にかかっているんだ。本当に……迷惑な重さが」

 

 

ディケイド――いや、聖司にその強さと覚悟はあったのか?

答えは見れば分かるとCOBRA、彼は夏美を失う事実を恐れて否定の言葉を羅列している。

目の前に居る死に向かう彼女を受け入れまいと必死だった。

 

 

「今まで、お前は恵まれすぎていたんだ」

 

 

恵まれた環境、恵まれた仲間、恵まれた世界。だから勘違いをしてしまった。

仮面ライダーとして戦い続けると言う事を誤認してしまったのだと彼は言う。

これが現実、大切な人を目の前で失うかもしれない恐怖に怯え、そして失う真実を受け入れなければならない時が来る。

それが戦い続けるという事なのだろう、COBRAは過去を思い出しながら歯を食いしばる。

戦うと言う事は甘さを捨てる事、なれば本当の仮面ライダーとは大切な者を失ってから初めて名乗れる物ではないか?

それがCOBRAがたどり着いた答えだったのだ。

 

 

「ディケイド、やはりお前には仮面ライダーを名乗る資格はない」

 

 

まして変身する意味も無くなる。

いや、変身したいとも思わなくなるだろうきっと。COBRAはディケイドに声を掛けつつ手をディケイドライバーへと移動させる。

彼はただ機械の様に夏美の名を呼ぶだけ、夏美の所へ行こうとするだけ。

 

 

「もう目を覚ませ。いい夢だったろ? お前の仮面ライダーごっこは、ココで終わりなんだよッッ!!」

 

「うぐッッッ!!」

 

 

COBRAはディケイドライバーに手をかけて力を込める。

すぐに闇が収束して弾け、ディケイドライバーが司の腰から引き剥がされた。

変身が解除される司、彼は見開いた瞳でCOBRAを――いや、彼の先にいる夏美を見ている。

 

 

「SNAKE、これを」

 

「ええ。それにしても、コレはどういう玩具なの?」

 

 

COBRAはSNAKEに向かってディケイドライバーを投げ渡す。

彼女はそれをすぐに腰に持っていくが司とは違い何の変化も起こらなかった。

その事に疑問を抱きつつも、COBRAは司を掴んだまま夏美の下へ向かう。

 

 

「止めはお前が?」

 

「ああ、終わらせる」

 

 

COBRAは右手で司を掴み、左手で夏美を掴み上げる。そしてそのまま彼はゆっくりと崖の端へと足を進めて行った。

そこで司は横目に夏美を見る事となる、見えたのは顔色が悪くなり腹部から多くの血を流している彼女の姿だった。

司からは見えなかっただろうが、目は虚ろになっておりそこには一筋の光も無い。

 

 

「安心しろ、まだ死んでない」

 

「!!」

 

 

崖の端、下には流れる川が見えた。そこでCOBRAは動きを止めてまたも司だけに聞こえるように呟く。

ゼノンとフルーラが施した補正はかなり強力な物、よって普通の人間ならば即死であろうハサミジャガーの攻撃に彼女は耐え切ったのだと。

とはいえ瀕死状態である事に代わりは無いが、もう一つ彼女の命をつなぎとめている要因があった。

 

 

「今は傷口を俺の力で塞いである。もうしばらくは死なない筈だ」

 

 

見ただけでは分からないが、夏美の身体の奥では彼の発生させた闇が破損した臓器を塞ぐ様にして存在している。

つまりCOBRAは彼女が刺された時点ですぐに傷を塞ぐ手段をとったのだった。しかし一度貫かれたという事実は変わらない。

普通の人間ならば即死であろう傷を彼女は受けた。まして防御力上昇と言う補正があったとしても死に至る傷と言う意味では何の代わりも無い。

今の彼女は死までの時間が延びただけにしかすぎないのだ。この世界のありとあらゆる医療技術を持ったとしても救う事は難しい筈。

だがそれはあくまでもこの世界の、と言う意味で。

 

 

「俺は今から君たちを下の川へ落とす。まあ、この高さなら死にはしない」

 

「―――」

 

 

あくまでの司だけに聞こえるように。

 

 

「そこからお前は彼女を連れてすぐ拠点に行け。分かるな? 治療装置を使うんだ」

 

 

お前たちにも当然用意はされているんだろう? COBRAは少し早口でそれを伝えていく。

確かにこの世界では夏美を助ける事はできないかもしれない、しかし彼らに用意された学校には治療器具があるのだ。

COBRAは言う、あの装置に入ればどんな傷だったとしても完治するのだと。それは夏美の傷であったとしてもと言う事、瀕死だったとしてもまた元の彼女に戻る。

 

 

「さあ、覚悟するんだな」

 

 

COBRAはそれを皆に聞こえる様に言い、司と夏美を持ち上げて丘の端へと身を乗り出す。

司達の下に地面は無い、COBRAが手を離せば下にある川へと落下していく状況だった。

 

 

「何か言い残すことはあるか?」

 

 

それを言ったところで再びCOBRAは小声に戻る。

 

 

「司……だったか、もう分かったろ? 戦いはこういう事なんだ」

 

 

彼は隣にいる夏美を見てそう言う。

守りたい人を守れない状況が何度もやってくる、運よく切り抜けたとしても戦い続ければ当然また同じ状況がやってくる。

それはそれだけ危険があると言う事だ。だから――

 

 

「いいか? もしこの世界を無事に切り抜ける事ができたのなら――」

 

 

COBRAは言葉のスピードを上げる。

 

 

「リタイアを選んだ方がいい」

 

「―――ッ!」

 

「それがお前の、最後の試練だ」

 

 

リタイア、つまり戦いの放棄。

 

 

「大丈夫だ、昔から水落ちっていうのはおなじみの生存フラグだろ?」

 

「――ッ」

 

 

その時、その時ほんの一瞬だけCOBRAの声が優しくなって気がした。

尤も、本当に一瞬だけだったが。

 

 

「仮面ライダーは"子供"が憧れるものさ、子供が夢見るものさ」

 

 

子供のままで終わっておけばいい。

その言葉には裏の意味がある。司はそれをヒシヒシと感じている。

 

 

「お前はもう"大人"だろ――?」

 

「……っ」

 

「卒業しろ」

 

 

そしてCOBRAは手を離した。

司と夏美が丘の上から落下していき川へと消えていく光景、彼はソレを見て踵を返す。

 

 

「ずいぶんアッサリした止めなのね」

 

「この高さなら、普通の人間なら間違いなく死ぬ筈だ」

 

「……そう、フフフ」

 

 

同時にSNAKEは決着を確認すると持っていたディケイドライバーを彼へと投げ渡す。

 

 

「しかし奴等は何者だ? この世界に人間以外の存在がいるとは聞いていないが」

 

「把握しきれていなかったんだろう、多分」

 

 

COBRAはそう言ってディケイドライバーを見る。

さて、これをどうするかだ。彼は少し考えた後に思い切り力を込めディケイドライバーを破壊しようと試みる。

だがドライバーの強度はそれなりに高くCOBRAの力を持ってしても粉砕する事はおろかヒビを入れる事すら叶わなかった。

 

 

「それを持ち帰り調べてみましょう」

 

 

BATの言葉に同意する一同、彼が指を鳴らすと少し離れたところにオーロラが出現する。

COBRAたちは頷くとオーロラに向かって足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ――ハァ……ッ! クソォ……ッ」

 

 

一方、川に落とされた司達はCOBRAに言われたとおり無事ではあった。

司はすぐに夏美を引き連れて川原の方へ身を乗り出す。しかし無事なのはあくまでも司だけ、抱え込んだ夏美はぐったりと動きを止めていた。

 

 

「夏美……ッ! しっかりしろッ! ほら、もう少しだから――」

 

 

涙を浮かべて彼女に言葉をかける司、しかし彼だって馬鹿ではない。

彼女が受けた攻撃の重さ、そしてそこからあふれ出てくる血液の量を見て絶望しきっているところだ。

彼女は呼びかけには応えない、もうすでに顔は青白く染まっている。

 

 

「クソッ! クソッッ!!」

 

 

ディケイドライバーを奪われ、夏美も守れない。前回の試練がうまくいっただけに今回の出来事が司の心を抉る。

やはりCOBRAの言っていた通り甘かったのか、ただ自分は調子に乗っていただけだったのか、彼女が死に向かうその様が司の心を傷つける。

 

 

卒業(リタイア)しろ』

 

「ちくッッしょう!!」

 

 

自分は――、結局。

 

 

「待ってろよ……今――ッ! 今助けてやるからな……ッッ!」

 

 

返事の無い夏美を抱えて司はよろよろと足を進める。

すでに彼もまた体力の限界を感じていた、加えて川に入った事で全身が濡れて重く感じる。

しかも彼らは今大ショッカーの進撃の中にいるのだ、それはつまり脅威が去っていないと言う事である。

 

 

「イーッ!!」

 

「!!」

 

 

林の奥から声が聞こえたかと思うとそこからショッカー戦闘員が姿を見せる。

最初は一人だったが司達を見ると彼(?)らは仲間を呼びあっという間に集団へ。

歯を食いしばる司、大きな絶望が彼を包んでいた。ショッカー戦闘員といえど数でこられれば変身できない自分に勝機はないだろう。

まして自分ひとりならまだしも隣には絶対に攻撃を受けてはならない状況の夏美がいる。

ならば抱えて逃げられるのかと言えばそれは難しいだろう。すでに体力は限界、今にも倒れてしまいそうなのだから。

 

 

(クソッ! クソォ……ッッ!!)

 

 

変身できない自分はこんなにも弱いのか。

ああそうだ、COBRAが言っていたじゃないか。

自分たちはどんなに強い存在を纏おうが結局は弱い人間であると、何も守れない存在であると。

絶望に立ち尽くす司、終わりなのか――ココで。

 

 

(嫌だ……嫌だッッ!! 俺は夏美を、夏美を守―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが同時に忘れてはいけない事もある。

絶望があればまた、希望も確かに存在しているのだと言うことを。

 

 

「ハァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「イ゛ーッ!?」

 

「ッ!」

 

 

突如突風が吹いたと思えば緑の竜巻が空から飛来してくる。

それは地面に着地し、暴風で戦闘員達を吹き飛ばす。何が起こったのか、司が目を凝らすとそこには――

 

 

「ごめん、遅くなった!」

 

「クローク……さん――ッ!」

 

 

黒いローブをなびかせるのは仮面ライダーウィザード・ハリケーンスタイル、彼は怯んでいる戦闘員達にめがけウィザーソードガンを振るう。

風を纏いながら逆手に剣を持って飛び回るウィザード、その素早い動きを捉えられる筈も無く戦闘員達は次々にダメージを受けて消滅していく。

全ての戦闘員が倒されるのに時間はそうかからなかった。ウィザードはすぐにへたり込んでいる司の元へと駆け寄る。

 

 

「大変なんだ! 夏美が……夏美が――ッッ!!」

 

「!」

 

 

夏美の状況を確認するウィザード。

成る程、確かにコレは危険だと彼も一目で分かるものだった。

かなり危険な状態と言ってもいい、ウィザードは夏美に声をかけるが反応は無い。それだけではなく――

 

 

(まずい……息をしてない――ッ)

 

 

ウィザードはすぐに夏美の手に指輪をつけるとハンドオーサーを起動して魔法を発動させる。

 

 

『プリーズ・プリーズ』

 

 

光が夏美を包んだかと思うと、彼女の顔色が肌色に戻り呼吸をしっかりと確認できる様になった。

驚く司、ウィザードが言うには自分の生命力を分け与える魔法らしい。これで夏美の状態も少しはいい物になってくれただろう。

彼はすぐに別の魔法を発動、コネクトは学校までの道を形成する。

 

 

「さあ、行こう! 治療器具を使えばいいんだろ?」

 

「は、はいッ!」

 

 

ウィザードに連れられて司達は魔方陣の中に消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼんやりと意識が覚醒していく。

ユウスケはその中で過去の事を思い出していた。

思い出すのは彼女の姿、初めて会ったときはハッキリ言って良い出会いとは言えなかったか。

いや、アレは自分が悪いのだ。幼いとは言え女の子のスカートをめくるなんて失礼を果たしてしまったのだから。

 

それからは半強制的な謝罪と友情の誓いを果たし、彼女との付き合いが始まった。

いろいろと乱暴な所もあったが、彼女といる時間はとても楽しいものだった。その中で様々な出来事が起こっていく。

心が揺れたのは彼女の姉が亡くなった時だ、彼女は気丈に振舞っていたがやはりその背中が寂しそうで壊れそうで。

だから守りたいと願った。いつも、いつでも、いつまでも守りたいと。その笑顔を、彼女の笑顔を守りたいのだと。

 

 

「ユウ……スケ」

 

 

彼女が自分の名を呼んでいる気がする。

小野寺ユウスケはゆっくりと目を開けて映る景色を確認した。

それは空、曇天の空からは細い雨が降り頬をぬらしていく。冷たさが思考を冷静にさせてくれる。

ユウスケはすぐに身体を起こそうと力を込めたが、全身が重くソレは叶わなかった。

 

 

「――――ッッ」

 

 

思い出す。自分は大ショッカーの怪人に負けたのだという事を。

トカゲロン、彼の力に自分はなす術無く敗れ去った。ぼんやりとした記憶だが彼に言われた言葉がユウスケの心を貫く。

 

 

『己が無力を悔やむがいい』

 

 

無力。そう、だから負けたのか――ユウスケは拳を握り締めて歯を食いしばる。

だがそこで気づく彼、今時分が寝ているのは建物の影になっている場所だった。

周りを見ても彼女が、薫がいない。

 

 

「薫……?」

 

 

ユウスケは全身の力を込めて何とか立ち上がる。

全身に痛みが走り思わずユウスケは苦痛の声を漏らす。

トカゲロンの蹴りを生身で受けたのだ、ただ身体を動かすだけで気絶しそうになる。

 

 

「―――ッ」

 

 

それでもユウスケは動きを止める事は無かった。

彼とて今の世界の危険性は重々承知している。薫には戦えるだけの力が無い、そんな彼女がこの世界で姿を消しているのだ。

心配するなと言う方が無理な話だろう。それに気のせいかもしれないが彼女の声が聞こえた気がする、ユウスケは這う様にして移動を始めた。

 

 

「う――ッ! グ……ッッ!!」

 

 

骨が軋む。恐らく骨折をしているのかもしれない。

全身から嫌な汗が吹き出てくるのを感じながらもユウスケは移動を止めない。

そうやって少し移動をした時だった。ユウスケの目に探していた彼女が映りこむ。

案外簡単なものだった、ユウスケは彼女が無事だという事に一瞬の安堵を浮かべる。

 

 

そう、一瞬の安堵だった。

 

 

「え……?」

 

 

同時、彼の脳裏に彼女の笑顔が蘇る。

遊園地で見せた彼女の儚げな雰囲気を見て、自分は心から彼女を守りたいと願った。

それに約束だってしたじゃないか、ユウスケは自分が言った言葉を思い出す。

 

 

『だからさ、薫も笑えよ。おれが守ってやるからさ』

 

 

そうだ、約束したんだ。

薫は守るって――。ユウスケはその言葉をもう一度頭に浮かべた。守る、そう約束したんだ――なのに。

 

 

「あ――ユ………ケ」

 

 

彼女は自分を見て安心したような笑みを浮かべた。

それだけならばどんなによかった事か、ユウスケは思わずその光景に言葉を失い思考を停止させる。

目に飛び込んで来た情報は端的な物。へたり込む薫、そんな彼女が守る女の子はただひたすらに涙を流すだけ。

そして何より見えるのは異形、グロンギ――。

 

 

「ユウ……スケぇ」

 

 

彼女は声を震わせる。

安心したのだろうか、それとも痛いから? ユウスケの頭に確かな矛盾と言う言葉が駆ける。

自分は彼女を守ると約束した、なのに今の彼女はどうだ? 彼女の背中には無数の針が見えた。

それはまるでハリネズミの様に彼女の肌を貫き生える禍々しい針、それは時間と共により鋭利に、より巨大になっていく仕組みだったのだ。

彼女の背中からは多くの血が、それを見てジャラジは楽しそうに笑っている。

 

 

「あは……あはは。まだ、持つんだ……!」

 

 

じゃあもう一本針を追加してみよう。

ジャラジは新たな針を構えて薫の背中を狙う。殺さない程度に苦しめる、それがジャラジの美学であり快楽。

彼はどれだけの針をさせば、どれだけ針を鋭利にしていけば薫が死ぬのかを実験している様だ。

途中で自殺を選ぶのならそれも良し、しかし彼女は女の子を守る為に必死に耐えてきたのだ。

一体どれだけの針を薫は受けたのだろうか? 痛かっただろう、苦しかっただろう、怖かっただろう。

まだ子供と言ってもいい彼女にとってソレは地獄の様な時間に違いなかった筈だ。

しかし彼女はユウスケを見つけた瞬間、確かに笑った。しかし安心が彼女の心を解き放ち恐怖と苦しみをハッキリと具現させる。

薫は子供の様に泣きじゃくりユウスケの名を呼ぶ。

 

 

「ユウスケ――ぇ」

 

 

守ってやる。守って――守……

 

 

「痛いよ……ぉ」

 

 

守ると誓ったんだ。

彼女はそれを聞いて笑ってくれた、そして自分に向かって確認の言葉を投げかけたんだ。

期待していい? 彼女は言った。だから自分は必ず守ると言い返した。

 

必ず守る? 必ず?

 

 

「こわいよ……たすけてぇ」

 

「―――――」

 

 

その時、ユウスケの中で音を立てて切れた物があった。

心に灯るのは黒い光、ユウスケはその光を迷わず受け入れる。

ボトリと――音が。

 

 

「………」

 

「………」

 

「え?」

 

 

それはあまりにも一瞬で。

 

 

「なにこれ」

 

 

それはあまりにも――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いゃあぎゃぁあぁああぁああぁぁぁあッッ!!!」

 

 

腕が落ちていた、針を握っていた腕が地面に転がっていた。

叫びを上げたのは他の誰も出ない、ジャラジ本人だったのだ。

何故? どうして? 自分が叫び声を楽しむ筈だったのにどうして自分が叫んでいるの? それはジャラジ本人にすら分からない事だった。

ただ分かるのは激痛とあるべき所に腕が無いと言う事、それに噴水の様に流れ出る血。

 

 

「ぼくのッッ!! ぼくの腕がぁああぁあああああぁッッ」

 

 

信じられないのか、彼は落ちた腕を拾い上げると断面を合わせる様にして何度もくっ付け様と必死だった。

だが当然そんな事をしても腕は繋がらない、彼の腕は再び地面に落ちる事になる。

 

 

『聖なる泉―――時、凄―――戦士――の如く――太陽は闇に―――』

 

 

ジャラジの目に映ったのはユウスケではなく、クウガだった。

彼はトカゲロンに受けたダメージが大きすぎて変身できなかった筈、なのに彼は確かに変身をしてペガサスボウガンを構えていた。

身体からは黒い電撃が迸っている、今の彼はペガサスボウガンを持てど色は緑ではなかった。

ましてペガサスボウガンはどこから出したのか、その答えは黒いクウガだけが知っている。

 

 

そのクウガ、名をアメイジングと呼称する。

 

 

「………」

 

 

彼は無言で立ち上がるとゆっくりジャラジに向かって足を進めていく。

その姿は恐怖その物、ジャラジは反射的に逃走を図ろうと立ち上がる。

しかしクウガはそれを許さない、黒いボウガンの引き金を迷わず引いた。

 

 

「アギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

風を切り裂いて黒い弓矢がジャラジの足に直撃する。

それは彼の足を射抜くと、衝撃で周りの肉を吹き飛ばして文字通り身体と足を分離させるに至った。

先ほどもこうやってクウガはジャラジの腕を吹き飛ばしたのだろう。右腕と左脚を失ったジャラジはバランスを崩し、血を撒き散らしながら地面に倒れる。

 

 

「………」

 

 

尚も無言で足を進めるクウガ、彼はへたり込む薫を無視して一直線へジャラジへと足を進めていく。

守るべき彼女を無視して、彼は憎悪の力を存分に振るう。その想いが彼の身体に黒い電流を走らせる。

そして、彼の持っていたボウガンが巨大な剣へと姿を変える。黒いタイタンソードを構えてクウガはジャラジを跨る様にして立つ。

 

 

「お、お前……ッ! アアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

仰向けのジャラジは自分を見下す様にして立つクウガを確認する。

彼は今剣を振り上げている所、ジャラジはすぐに理解する。剣を振り上げると言う事は、つまりそういう事なのだと。

クウガは蹴りでジャラジの左腕を弾く。そして振り上げた剣を、振り下ろした。

 

 

「イゲェアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

振り下ろされたタイタンソードはジャラジの左腕を容赦なく切断する。苦痛に絶叫するジャラジ、しかしそれが更にクウガの怒りに触れたのだろう。

クウガは無言のままタイタンソードをドラゴンロッドへと変化させる。相変わらず色は黒、そしてクウガ自身は全くフォームチェンジを行っていない。

彼は無言であったが、確かに雰囲気で語る言葉をジャラジへ向けた。

 

 

『黙れ』

 

 

ゴッと音がしてクウガは禍々しく変貌したドラゴンロッドをジャラジの喉へ打ち付ける。

それは一撃でジャラジの喉を潰し、さらにクウガは追撃を行った。ドラゴンロッドはジャラジの見ると言う行動、話すと言う行動を遂行する部分を完全に破壊する。

それはもう大ショッカーとなんら変わりない凄惨な暴力だった。しかしクウガは行動を止める事は無い、再びロッドをソードに変えるとジャラジの残っている最後の脚を狙った。

肉が切り裂かれる音が聞こえる。クウガはそれを確認するとソードを投げ捨ててジャラジに馬乗りになった。

彼はココに来ても無言だった、そしてそのまま拳を握りしめると思い切りジャラジの顔を殴りつける。

 

打ち込む拳は一つなどではない、クウガは何度も拳をジャラジへ打ち付けていく。

その暴力はしばらく間続く事になる、傷だらけの薫に視線を送る事も無くクウガはジャラジにひたすら拳を向けるだけだった。

そしてジャラジの顔が変形して血まみれになった時、彼は地面に落ちているタイタンソードを拾い上げる。

 

 

「――――ァ」

 

 

彼は剣先を下にして思い切り振り上げる。

そこで初めて零す声、もうジャラジに抵抗するだけの気力など無い。

見る部分はもうない、聞く部分ももうない、ジャラジは何も分からない状況でただ恐怖に包まれるだけ。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

叫びと共にクウガはソードをジャラジの腹部中心に突き立てる。

同時に彼の体中に封印の紋章が浮かび、彼は粉々に爆発した。

 

 

「ユ……ウ…ス――ケ」

 

 

薫は彼へと手を伸ばす。しかしクウガがその手を取る事は無い。

黒いクウガはジャラジを"殺害"すると白く染まり、直後変身を解除してユウスケに戻ってしまった。

そのままユウスケは倒れ気絶、再び場を静寂が包む。いや最初から気絶していたのだろう、彼を動かしていたのは純粋な殺意。

 

 

「―――ぁ」

 

 

薫もまた出血からか意識が薄れていく、ついには彼女も耐え切れずに気絶する事になった。

気絶する二人と混乱に泣くだけの少女、これが彼らの望んだ勝利なのだろうか。

 

 

この凄惨な勝利が? ただの暴力が生んだ死が?

 

 

「………」

 

 

そしてソレを遠目に確認している人物がいた。

その名は――

 

 

「愚かな」

 

 

トカゲロン、クウガを倒した超本人だ。

進行を続けていた彼が再びこの混乱の中でクウガを発見するのは不思議なことではない。

確実に殺したと思っていたクウガが生きていた、それはトカゲロンとしても驚くべきことだったが――

 

 

「下らん、殺す価値も無い」

 

 

彼は倒れているユウスケと薫を見過ごすと、そのままオーロラの中に消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――……!!」

 

 

目を開けるとそこには知っている天井があった、司は跳ね上がる様に起きると回りの景色を確認する。

知っている。ココは学校の保健室、司は首を振って記憶を辿っていった。思い出すのはCOBRAに負けた事、夏美を守れなかった事、ディケイドライバーを奪われたこと。

それから自分たちは川に落ちて、ウィザードに助けられ、そして彼の力で学校へ戻ってくる事ができた。

 

それから混乱する皆を落ち着けて、夏美を治療器具の中に入れる事ができた。そこで自分は安心して気絶したのか――

司はゆっくりとため息をついて頭を抑える。

 

 

「ッ! 大丈夫かい司君!」

 

「!!」

 

 

聞こえる声、司が顔を上げるとそこには翼の姿があった。

すぐに司は夏美の無事を彼に問いかける。翼は複雑に笑みを浮かべると司の隣にあるベッドを指差した、カーテンで隠れてはいるが彼女はそこにいるのだと。

 

 

「夏美ちゃんは無事だよ。かなり危ない状況だと思ったけれど、やはりあの装置は凄いね」

 

 

翼は静かにカーテンを開ける。するとそこには彼の言うとおり眠っている夏美の姿があった。

その姿を見て涙を浮かべる司、今の夏美は顔色もよく呼吸もリズムよくしっかりと確認できたのだ。

伝わる確かな命、確かな生が彼女から感じられたのだから。

 

 

「よかった……」

 

 

司は安堵の笑みを浮かべるとその場にへたり込む。

翼も同じ様に笑みを浮かべたが、やはりどこか複雑な物を表情からは感じた。

そんな事に気がつかず司は夏美の隣のベッドがカーテンに隠れている事を発見する。保健室のベッドは元々四つあったのだが今はどれも使用中だ。

では、あそこには誰が? 司が問いかけると翼は表情を暗くしてメガネを整える。

 

 

「ユウスケと薫ちゃんが」

 

「ま、まさかあいつ等も……?」

 

 

司の言葉に翼は複雑そうにうなずいた。

あいつ等も、つまり二人も大きな傷を負ったのかと言う意味だ。

 

 

「今はもう大丈夫だけど……ね」

 

 

とは言いつつも悔しそうに表情を曇らせる翼、二人の方は葵がずっと診てくれていたらしい。

今は落ち着いたので彼女も図書室にいるというのだが、中々状況は厳しいものだった。

 

 

「……司君には悪いけど、今から図書室に来てもらえないかい?」

 

 

どうやら皆がそこにいるらしい。翼が言うには重要な話があるとの事、それは司も同じだった。

ずっと翼に言いたかった事があるのだ、司はすぐにその事を軽く口にする。なんとなくだったが予想していた通り翼も同じ様な事を口にするつもりだったらしい。

 

 

「とにかく……行こう」

 

「は、はい――ッ!」

 

 

重々しい雰囲気を感じながら司達は保健室を出て行くのだった。

 

 

「え……ッ!?」

 

 

そして廊下に出た瞬間、司の表情が一変した。それは窓の外の景色が原因だった様だ。

それに気がついたのか翼がすぐに説明してくれる。元々説明する程の事ではない、見れば分かる話なのだが今の司にはソレが受け入れられない筈だから。

 

 

「気がついたかい……」

 

「せ、先生――ッ!」

 

「ああ、君が眠っている間に学校は世界移動を開始したよ」

 

 

窓の外は無の空間が広がっていた。

それはいつも世界移動をする際に見ている景色だ、それが見えると言う事は学校が別の世界へ向かう準備をしていると言う意味。

そしてそれが翼の口から司に告げられる。要するにあの世界から離れたと言う事だったのだ。

 

 

「あ、あの世界はどうなったんですか!?」

 

 

正直完全に敗北した戦い、あれから自分たちは世界を守れたと?

 

 

「………分からない」

 

「えッ!?」

 

「――いきなりだったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翼は語り始める。

それは司が気絶してから少し時間が経った後の事だ。突如校庭にオーロラが出現したかと思うと、そこから我夢とアキラが現れたのだ。

 

 

「「!?」」

 

 

意味が分かっていないと表情が語る二人、そんな二人の背後にはまた別のオーロラが。

中から出てくるのは双護と鏡治だった、戦いの最中だったのだろうか? カブトとガタックだった二人はいきなりの転送に動きを止める。

 

 

「ッ! どうして学校に?」

 

「何がどうなって――」

 

 

そして友里もまたオーロラから校庭に帰還した。

だが彼女は人を避難させていた途中だったらしく、少なくとも彼女が自ら望んでオーロラを経由してきた訳ではないという事がすぐに分かった。

それは我夢や双護、彼らも同じだと言う。彼らは一瞬で学校へと強制的に移動させられたのだ。

そして一同は何が起こっているのか、どうなっているのか分からないまま世界の移動に巻き込まれた。

つまり強制的に学校に戻ってきたかと思えば、もう学校は世界を移動していましたとの事だ。

 

 

「………ッ」

 

 

心に引っかかる物を感じながら二人は図書室の扉を開く。中には既にクラスメンバーが集まっていた。

彼らは司が戻ってきたのを確認すると心配の声を掛ける、ある程度はそうやって司と話した後に本題へと流れていった。

 

 

「あ! その前に少しいいかな?」

 

「?」

 

 

亘が声をあげる。

彼は呆気に取られている司に向かってある物を差し出した。それを見た瞬間司の目が大きく見開かれる。

 

 

「コレ――ッ! どうしてお前が!?」

 

「実は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は巻き戻り、場面は司に勝利した男へと移る。

COBRA、彼は受け取ったディケイドライバーを破壊しようとしたがソレは失敗に終わった。

彼は出現したオーロラに向かう途中、ふいにディケイドライバーを自分の腰に押し当てる。

だがベルトは展開せず、何の変化も起こらない。

 

 

「………」

 

「フフッ、どうしたのCOBRA」

 

 

それを見ていたのかSNAKEが声を掛けた。

口元がニヤついている彼女、自分は仮面を着けているのだが彼女にはどんな表情を浮かべているのかが分かった様だ。

 

 

「悔しそうにして」

 

「………」

 

 

"悔しい"か、COBRAは当たらずとも遠からずな言葉に沈黙する。

無意識だったのもしれないが少なくとも自分にだってその想いがあった事は確実だったのだ。

しかし自分は途中で折れた、そういった意味では(かれ)よりも弱かったのだろうと。

だが今更それを考えたところで何になると言うのか、COBRAは首を振って再び歩き出そうと――

 

 

『Clock Over』

 

「―――ッ!!」

 

 

だがその時、彼の手にあったディケイドライバーが文字通り"消える"。

何がどうなっている!? そして聞こえた謎の音声、COBRA達はすぐに周りを確認して異変が無いかを確認する。

そして見つけた、ディケイドライバーを手で弄んでいる男の姿を。

 

 

「お前は……」

 

「何者ッ!」

 

 

ハサミジャガー隊とCOBRA隊が再び戦闘態勢に入る。

そんな彼らを見ても男は怯む様子を見せなかった、COBRAから奪ったディケイドライバーをくるくると回している。

 

 

「僕かい? 僕はトレジャーハンター、全てのお宝を手にする者さ」

 

 

その男、仮面ライダーディエンド・海東大輝は確かにディケイドライバーをCOBRAから奪っていたのだ!

 

 

「このお宝は僕が司から奪うと決めた物、君達が手にしていい代物じゃない」

 

「何を言っているのかは分からないが、お前も大ショッカーの害となる存在ならば――」

 

 

殺す! その言葉と共に走り出す怪人達、だがディエンドはノーリアクション。

それもその筈、彼の背後から飛び出してくる光があったからだ。

 

 

【ラタラタァ~! ラトラーター!】

 

「「「!?」」」

 

 

獅子の咆哮と共に強烈な熱線と光が場を包んだ。

その衝撃に大きく怯む怪人達、すぐにCOBRAが力を発動して無効化するが既に光を放ったオーズ・ラトラーターコンボは走り出している所だった。

 

 

「フ……ッ!! ハァッ!!」

 

「ウグッ! ガアアアアアッッ!!」

 

 

トラクローで激しい斬撃を怪人達に刻み込んでいくラトラーター。

すぐに蜘蛛男やサボテグロンが動きを封じようとするが糸やサボテンでは素早く走り回るラトラーターの動きを捉える事ができない。

さらにディエンドはブラストを発動、シアンの弾丸が全ての怪人を打ち抜きダウンさせる。

 

高速で駆けるラトラーターはそのまま流れる様に爪を刻み込んでいく。

だがCOBRAは力を発動、彼の高速移動を無効化して同速に変えてみせる。どうやらCOBRAだけがブラストを防御しきっていたようだ。

 

 

「ッ!」

 

「くらえッ!!」

 

 

動きが鈍ったラトラーターへCOBRAは跳躍しながら殴りかかった。

だがいきなりの減速であったも彼は冷静だった。COBRAの拳をバックステップで交わすのだが、その時にスキャナーを手にしているのだ。

 

 

「すばらしい能力ですね、嫉妬します」

 

 

分かる、ラトラーターは全く焦っていないと言う事が。

それがCOBRAにとっては堪らなくイライラする。まるでこうなる事が分かっていた様な雰囲気だ。

 

 

「ですが……攻撃をくらうのは、どうやら貴方の方ですよ」『スキャニングチャージ!!』

 

「!!」

 

 

ラトラーターとCOBRAの間に黄金のリングが三枚出現する。

着地して爪を構えるラトラーター、だがCOBRAもまた冷静である。どんな攻撃が来ても拳さえ打ち込めば固定ダメージを与えられるのだから。

 

 

「―――ッッ!!」

 

 

ラトラーターが走り出す。

 

 

「!?」

 

 

だが彼は一歩足を踏み出した所で踏みとどまった。

つまりフェイント、ラトラーターはそのまま走るのではなく逆にバックステップを行い更にCOBRAとの距離を離す。

どういうつもりなのか、攻撃がくると踏んでいただけにCOBRAにも予想外の行動だった。

 

 

「フッ、戦うだけが戦闘ではありませんよ」

 

「僕達はお宝さえ頂ければそれでいい」『アタックライド』『インビジブル!』

 

「では、これで失礼します」

 

 

やられた! すぐに走り出すCOBRAだが既に二人は電子音と共に消滅している所だった。

COBRAはすぐに能力を発動させるが、それであったも周りには何も残っていない状況だった。

 

 

「クッ!!」

 

 

どうやら最初からディケイドライバーのみが目的だった様だ。COBRAは拳を握り締めてその場に立ち尽くすのだった。

 

 

「………」

 

 

あのドライバーはきっと『彼』の元に戻るのだろう。

だがその時、再び彼がドライバーを使用する決意を持つ事ができるのだろうか?

可哀想な話ではないか、中途半端に力があるから余計に迷う。諦めてしまえば楽になれる訳でもない。

 

 

自分がそうだった様に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ……コレは海東達が?」

 

「うん、それにユウスケと薫ちゃんを助けてくれたのも彼らだよ」

 

 

気絶したユウスケと薫を見つけたのは朱雀達だった。

薫の傷を見た彼女達は、まず巳麗が麻酔を施しリラが重力を操作して針を全て抜いた。

それから二人をココまで運んでくれたと言う事だ。

 

 

「あいつ等は……?」

 

「今はもういない、彼らは――」

 

 

司が目覚める少し前に彼らは帰ったのだという。

海東は亘から大体の事情を聞くと彼にディケイドライバーを差し出したと言う。

受け取ろうとする亘、しかし彼がドライバーに触れると言う所で海東は一歩身を引いてドライバーを引き離した。

 

 

「ッ?」

 

 

亘が疑問の表情を浮かべると海東はすぐに言葉を紡ぐ。

確かに自分は司のディケイドライバーを取り返した、そしてそれは司から奪うものだ。

当然彼に返す事になるのだが、タダで助けてやる程甘くはないと。海東はトレジャーハンターだ、決してボランティアでディケイドライバーを奪った訳じゃない。

 

 

「これを返すには、君達もソレ相応の物を差し出してもらう」

 

「相応って……例えば何を?」

 

 

海東は少し考えた様子を見せる。

そしてゆっくりと口を開いた、それは静かな声で。

 

 

「君達は、ゼノンとフルーラの主人ってヤツに会ったんだろう?」

 

「あ、ああ。まあ一応は」

 

 

ナルタキには会えなかったが、ゼノンたちの主人となればソレは魔女の事だろう。

ならば海東の望む答えではある筈、ソレを聞いた海東は何度か頷くと鋭い眼光で亘を見る。

どうやら狙うべき報酬を決めた様だ、今の彼はその目をしている。

 

 

「君達がその魔女ってヤツに聞いた話を全て教えたまえ」

 

「ッ? 海東さん達は会った事ないんすか?」

 

 

亘は確か海東たちも試練をクリアした者達だと教えられた筈、なのに彼らはメタ世界の事を全く知らない様だった。

その事を聞くと海東は頷く、彼が言うにはゼノンたちの主人に会ったのは司達だけだと言う。

もちろんそれは彼の予想でしかないが、少なくとも上位世界に立ち入った人間はかなり少ないと。

 

 

「でもいいんすかね? 勝手に教えたりして」

 

 

亘が言う事は尤もだ。

もし勝手に教えたりして魔女からおしおきを受けるなんて事も考えられる。

彼女は自分たちの行動を観測できる筈、ならばどんなに隠れて情報を教えたとしてもソレは魔女の目に止まるだろう。

 

 

「大丈夫だと思う」

 

「ッ?」

 

 

それを言ったのはクロークだ、彼もメタ世界に脚を踏み入れた者のひとりである。

尤も魔女にあった事は無いがナルタキや魔女の友人であるシャルルから話を少し聞いている。

その情報から察するに魔女はかなり気まぐれな性格だ、たとえどんな事が起ころうともソレを楽しめるだけの人物だと。

 

 

「じゃあ……わかった」

 

 

亘は頷いて海東たちにメタ世界で聞いた事を話し始めるのだった。

そうやって話が終わり海東たちもまたEpisode DECADEと試練の大まかな内容を把握する事になる。

大きなリアクションを取っていたのはリラと朱雀だけで、海東たちは冷静なものだった。

 

 

「なんだ、随分つまらない情報だね」

 

 

そう言ってドライバーを亘に投げ渡す海東、彼としてはもっと面白い物が聞けると思っていたらしいが実際は何の意味も無い情報だという。

まあ収穫が無いわけではない為に興味があると言えばそうだが。

 

 

「神なる世界とか、世界構造とか気にならないんですか?」

 

「僕は僕だ、そんな情報に踊らされる程愚かではないよ」

 

「………チッ」

 

 

海東の言葉に舌打ちを漏らす真志、どいつもコイツも――ッ!

結局それだけを聞いて海東たちは帰っていった。それから先ほど話したように強制転移が始まり世界が強制的に移動を開始したのだ。

 

 

「結局よ……あ、あの世界はどうなったんだ!?」

 

 

椿の言葉に沈黙する一同。

何せ強制的に学校へ移動させられただけに誰もあの世界がどうなったのかが分からなかった。

友里や我夢に至っては人を避難させていた途中だっただけにかなり引っかかる物がある。

だがちょうどその時だった。皆がその疑問を抱いたとき、図書室に二つの影が現れたのは。

 

 

「ゼノン、フルーラ……ッ!」

 

「やあ、大変だったね。ククッ! クハハハ!」

 

「でも皆が無事でよかったわ! お見舞いのフルーツも持ってきたのよ!」

 

 

相変わらずの調子に少し苛立ちを覚える司。

知っていたのか知らないのか、二人はいつにもまして明るく振舞っているじゃないか。

 

 

「お前ら……ッ! コレはどういう事なんだよ!!」

 

「どうもこうも、そういう事だよ!」

 

「ええ、ちょっと予想外な事が続いたのだけれど」

 

 

二人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

二人の計画ではキバーラに覚醒した夏美が司を助け出すというのが計画だったのだが、まさか夏美が負けるとは思わなかった。

初変身と言う補正がありながらも勝てない、それは夏美が弱いからではなく大ショッカーが強いという事なのか?

 

 

「君達には大ショッカーがどういう組織なのかを知ってもらう必要があった」

 

「かなりショッキングな光景を見せる事になったのは謝罪するわ」

 

 

しかしコレで分かった筈だ。大ショッカーの実力、大ショッカーの恐ろしさ、そして何よりも現実と言う物が。

それには司達も押し黙るしかない、確かにゼノン達に対する苛立ちはあったが実際は八つ当たりに近い物。

彼らは何もここが休憩の世界とは一言も言っていなかった、いつものちゃんと告げるのに。

自分達が勝手に勘違いして、よりダメージを受けた。それだけなのだ。

 

 

「さて、本題といこうか」

 

「ッ?」

 

 

ゼノンは急に真面目な表情に変わる。

響鬼の試練でも思ったが普段ヘラヘラしている彼が急に浮かべる真剣な表情はギャップが合わさり迫力が桁違いだ。

彼は鋭い眼光でゆっくりと司を指し示す。

 

 

「会ったんだろ? COBRAに」

 

「ッッ!!」

 

 

司は歯を食いしばりながらも頷く。

どうやらゼノンたちとしても思い入れのある人物だったらしい、彼らは静かに頷くと天井を見上げて呟く。

それはCOBRAに言われた事とほぼ同じ、というよりも司自身が口にすべきことだった。

 

 

「決めたのかい?」

 

「………」

 

 

司は意を決した表情を浮かべる。

そしてココにいる全員を見渡して司は一度深呼吸を行った、その様子を見るになにやら言いにくい事のようだが?

しかし頷く翼、彼は司が何を話そうとしたのか理解していた様だ。それは彼だって考えていた事でもあるのだから。

 

 

「なあ、皆――……」

 

「?」

 

 

不安げな表情を浮かべて司を見る一同、その中で司はハッキリと口を開く。

 

 

「提案があるんだ」

 

「提案……?」

 

 

頷く司、その様子を見て中には彼が何を提案しようとしているのかを理解した者もいただろう。

しかし誰もが沈黙して司の言葉を待つだけで決して口を挟む事は無かった、それはその人自身が望む提案だったから?

それとも、その人も何を望めばいいか分からなかったから?

 

 

「リタイア……しないか?」

 

「「「!!!!」」」

 

 

重くその言葉が辺りを駆ける。リタイア、彼が言った事はつまり戦いを止めないかと言う事だった。

ゼノンはその言葉を聞くと一瞬口を吊り上げ、すぐにまた真面目な表情へ戻る。

司の言葉に沈黙する一同、迷っているのか理解していないのか、それを見てゼノンはリタイアの情報を一同へと告げる。

 

 

「リタイア、君達は戦いを降りて平和な世界へ転送される」

 

「それは戦いを止めると同時に放棄、貴方達の――」

 

 

フルーラは少しタメて、ニヤリと。

 

 

「貴方達の変身能力、及び身体強化の補正が全て失われるわ」

 

「………ッッ」

 

 

しかもリタイアの条件はそれだけではない、転送された世界は平和な物を用意してくれるらしいが、あくまでも暫定で平和なだけ。

そこに大ショッカーが攻めてくれば話は別なのだ、今回のような惨劇を自分達が受ける事になる。

 

 

「まあ世界なんて腐るほどあるからね、可能性は低いだろうけど」

 

「逆にリタイアした翌日に滅ぼされるかもしれないの」

 

 

世界の数は司達が計り知れる範囲ではない。

例えば、司達がいた世界にいる全ての人間が世界の数を数えたとしよう。そうすると全ての世界を数え切れる前でに人間は全員滅びるだろうと。

つまりそれだけ世界の数は多いと言う意味だ、何故ならば世界は今日も生まれ続けるから。それらは全て神なる世界から創造される物、司達の世界も。

彼らがリタイアしたとして送られる世界も全ては神なる世界からの派生。

 

 

「もしもそうなった場合、君達は無力を嘆くのかい?」

 

 

リタイアしなければ良かったと思うのか、それともリタイアした責任を感じて死を受け入れるのか。

そしてリタイア最大の特徴が待っていた、それは戦いをやめた彼らに掛けられる最後の魔法。

 

 

「もしも君達がリタイアを選択するのなら――」

 

「貴方達の記憶を消させてもらうわね」

 

「!!」

 

 

元の世界があった事も忘れてもらう。

そうすれば彼らは自分たちの世界に負い目を、責任感を、守れなかった後悔を感じる事無く過ごせるのだから。

だが同時に今まで過ごした世界での絆が失われるという事、親や友人の記憶も当然失われるのだ。

 

 

「おっと、でも君達同士の関係は崩さないから安心してほしい」

 

 

要するに友情や我夢とアキラの関係は壊れないという事、ゼノンはそう笑うが我夢は複雑な表情を浮かべている。

都合のいい記憶をすり込まれ、平和な世界で生活を続ける。それは果たして正しい選択なのだろうか?

 

 

「もしもリタイアを選ぶのなら、次の世界で答えを出してほしいの」

 

 

次の世界が最後の世界移動となるのか、それとも彼らは戦い続けるのか、それは彼ら自身が決める事。

世界転送まで1日の時間を設ける為、ゆっくり考えてほしい。ゼノンとフルーラはそう言い残すといつもの高笑いを繰り返し消えていくのだった。

 

 

「………」

 

 

残された司達はしばらく無言を続ける。

誰も何も分からない、何を話していいのか分からないからだ。はっきり言ってしまえば、ソレは誰もが常に頭の隅においておいた考えでもあった。

戦いを止めてしまえば楽になれるのか、多くを知ってしまった今となってはそれはとても曖昧なライン。

だがそれでも今回の出来事を経験すれば其方に流れてしまいそうになるのも仕方ない。

 

 

「考えたんだ――……」

 

 

司はゆっくりと口を開く。

もちろん彼だってこの選択が何を意味するのか、どういう結末を齎すのかを考えていないわけではない。

しかしそれであったとしても彼はこの選択を見出した。目を閉じれば焼きつく光景がすぐに浮かんでくる、夏美が目の前で――

 

 

「今回の戦いで……俺はショッカーに完敗した」

 

 

司の言葉に反応する数名のメンバー、彼らも思うところがあるのだろう。

それにと司はライドブッカーからカードを取り出してみせる。彼はクウガからキバのカードを取り出した筈なのだが、そこには何も描かれていない無地が見える。

それだけじゃなく、なんとディケイドのカードまでもが。

 

 

「お前……ソレ」

 

「ああ、俺は……戦いの中で自分の意思を曲げてしまった」

 

 

戦う理由に疑問を持ち、戦いそのものに疑問を持った。

それは結果として仮面ライダーであると言う事を自身で否定してしまったのだ。

COBRAの言葉に揺らぎ、自らの道を誤った司に待っていたのは力の剥奪と言う結果だった。

 

 

「そんな! ど、どうしてカードが!?」

 

「俺にもわからないんだッ! だけどもう俺は……俺は変身できないのかもしれない」

 

 

亘の言葉につい声を荒げてしまう司、ディケイドは司を変身者として見捨てたのだろうか? 明確な答えが分からなくて司も苛立ってしまう。

だが何を喚こうが現状として司が変身できないという事に変わりは無い、その状態で戦いを続けられるとでも?

 

 

「司……リタイアを選ぶという事の意味、分かっているのか?」

 

 

咲夜が司を睨みつける様にして前に立つ。

思わず目をそらしてしまう司、しかし言葉は反らす事無く。

 

 

「分かってる。でも俺も考えた結果の一つなんだ」

 

「………」

 

 

咲夜もまたショッカーに負けた側の人間、強く言い放つ事はできない。

それに彼女だってリタイアの考えを持った事はある。とはいえ戦いを放棄すると言う事は自分たちの世界を諦める事になる。

だったら、その世界に住む家族は? 友人は? 咲夜だって他の皆だってそこが一番に思うところだろう。この特別クラス以外にも友人はいる、家族はいるのだから。

 

 

「く……ッ」

 

 

拳を握り締めて下に視線を落とす咲夜、彼女だって司の言いたい事が嫌でも分かる。

夏美や薫が運ばれてきたときにソレを強く感じた、それはココにいる誰もがそうだろう。

友人である咲夜がそうならもっと関わりの深い司や翼、葵は特に強い想いを抱いたのだろう。

 

 

「皆いろいろ思うところがあると思う」

 

 

翼は目を閉じて静かに口にした。

彼にとって生徒達は絶対に守らなければならない存在だ。しかし今はその自信が無い、現に今こうしてボロボロになっている状態ではないか。

もし海東達がいなかったら、もしクロークがいなかったら、果たして今この場に全員が揃っていたのか?

分かる、それは違うのだと。

 

 

「僕も……正直に言ってしまえばリタイアを選びたい所だよ――ッ」

 

「………」

 

 

だがあくまでもそれは小野寺翼個人の意見でしかない、決して強制はできないのだ。

もしもリタイアが叶うとすればソレはココにいる全員がリタイアを選ぶ時だろう。だから彼は言う、次の世界で答えを出したいと。

 

 

「皆よく考えてほしい……ッ」

 

 

悔しそうに、悲しそうに、誰もがそれを否定する事無く、同時に肯定する事無く押し黙る。

司もまた何も言わずに保健室の方向を見つめるだけ、彼女が助かった事が幸いだが同時に自分は大きいものを失った。

それで尚、自分はまだ戦い続けられるのだろうか? その答えが誰も分からなかったのだ。

 

 

「夏美、祖父さん……俺は――」

 

 

司は目を閉じる。彼女の笑顔がそこにある、それを守りたいと思っているんだ。

だから自分は戦いを諦める決断を取ろうと思う。たとえ自分の世界を犠牲にしたとして、たとえ愛する祖父を犠牲にしたとして――?

 

 

「俺は……間違っているのか?」

 

 

教えてくれよ、テレビの中にいたヒーロー。

疲労しきった司のその表情をクロークは無言で見つめ続ける。そうしている内に段々と皆が散り散りになっていく、時間は有限だ。

今からもうそのカウントダウンが始まったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労様でした」

 

「おかえりなさい、クローク様」

 

「ああ、ただいま……」

 

 

メタ世界にある来客室。そこに現れるクロークと彼を待っていたシェリー、シャルル。

クロークはため息をつきながら用意されたソファにすわり目を覆った。その様子を見てシャルルは全てを理解した様だ。

彼自身何が起こっているのか、そしてゼノンとフルーラでさえ今回の世界はイレギュラーなのだから。

 

 

「あまりいい結果では無かったみたいですね」

 

「ああ、そうだね――いやかなり」

 

 

クロークが再び目を開放させる。モノクルの奥に光る鋭い眼光がシャルルをしっかりと捉えていた。

彼はいつの間にか置かれていた紅茶を手にしながら静かに口を開く。その目は相変わらずシャルルを見ている。

 

 

「あの世界は……どうなった?」

 

「………」

 

 

無言のシャルルを見てクロークは再び首を振った。

どうやら言葉にしなくとも答えを理解した様だ、それを見てシャルルは口だけを吊り上げる。

彼も多くは知らないが、知っている事は確実にあるのだから。

 

 

「流石ですね。そうです、あの世界は滅びました」

 

「えっ!?」

 

「そんな気がしたよ。全く、嫌な予感ほど当たってくれる」

 

 

まあ、想像に難しくは無かったけど。クロークはそう言ってため息をついた。

司達が世界を強制的に移動させられた後、あの世界は数時間もしない内に滅んだのだと言う。予想が当たり表情を曇らせるクローク。

しかし同時に気になる所でもあった。確かに大ショッカーの進行は凄まじい物だったが、わずか数分であの状態から世界を滅ぼせるものなのか?

そもそもクローク自身世界を滅ぼすと言う大ショッカーの目的は聞いていれど、実際にどうやって滅ぼすのかまでは聞いていない。

 

 

「だけど猫さんは知ってる。……だろ?」

 

「ええ、よろしければあの世界の結末をご覧になりますか?」

 

 

目を細めてクロークを見るシャルル。

少し戸惑うクロークとシェリーだが、クロークには全てを知らなければならない責任がある。

彼はシェリーに退出する様に言い、自分はその映像を見る事を告げる。

 

 

「く、クローク様……私も――」

 

「大丈夫だよシェリー、君は紅茶に合うクッキーをもらって来てくれないか?」

 

「………わ、わかりました」

 

 

少し複雑な表情ではあったが、彼女はクロークに頭を下げると部屋を出て行く。

残されるのはシャルルと彼だけだ。よろしいのですか? シャルルの言葉にうなずく彼、彼女がその光景を見る必要は無い。

 

 

「そうですか、わかりました」

 

 

シャルルは立ち上がると指を鳴らしマントを翻す。

同時に現れる映像、その様子を見て唸るクローク。やはり彼は普通の猫とは違っている。

彼の正体も気になるところではあるが今は映し出された映像を見るだけだ、彼は視線を映像の中へと――

 

 

「な……ッ!」

 

 

そして数分後、クロークは言葉を失った。

そこに見えた光景は彼の想像をはるかに超えていたからだ。彼は沈黙の時間をしばらくすごした後、それを否定する様に声を荒げる。

 

 

「これは一体……ッ!?」

 

「これが世界を壊す邪悪なのです。尤も、これはあくまでも方法の一つでしかありませんが」

 

 

それは巨大な船、それは全てを破壊し、世界を終わらせる剣。

映像が見せた光景は、突如空を巨大なオーロラが包んだかと思うと、そこから巨大な船――の、形をした戦艦が現れた。

それは空を飛び、何も知らない街に現れる。

 

 

「魔法とは対になる存在とでもいいましょうか? 邪悪なる科学が生み出した英雄達の船」

 

 

シャルルは既に情報をナルタキから得ていた。

大ショッカーの智を結集させて製造された巨大戦艦、多くの砲台を所持し前方部と後方部の左右にそれぞれ巨大な円盤状の武器を所持している。

そして艦隊に輝く黄金の大鷲、それこそが――

 

 

「このテセウズ・ノアと聞いています」

 

「―――ッ」

 

 

苦悶の表情を浮かべるクローク。

ノアと呼ばれた戦艦は巨大な姿を持ち、そこからミサイルや粒子砲、ビームを発射して次々に世界を破壊していった。

人を、ビルを巻き込みながら街は炎に包まれていく。これならばわずか一日で世界が無になったと言う事も頷ける。

 

 

「結局、この世界の人達を守れなかったって事か――ッ」

 

「そうですね、悲しい話です」

 

 

しかし、とシャルルは目を細める。

一番の問題は大ショッカーがこれほどの武力を所持していると言う事だろうと彼は言った。

相手が怪人ならば。つまり等身大の相手ならばまだ対処の使用はあるだろうが、流石にこんな大きさの相手をすると言うのは無理がある話だ。

まして毎回これを持ち出されたらコチラに勝機は無い。

 

 

「現在このノアには致命的な欠点があるといわれています」

 

「欠点?」

 

「ええ、駆動する為のエネルギーがあまりにも大きすぎると言う事です」

 

 

ノアの全長はざっと見積もって約400メートル辺り、その巨大な戦艦を移動させるためには多くのエネルギーを消費する事となる。

おまけに世界移動の際にも大きなエネルギーを消費するため、通常の戦艦の比ではない負担があると言う。

要するに大ショッカーもその欠点を克服する事ができないでいると言う。ノアを自由に移動させ、かつその力を振るうまでに至っていない未完成品の状態だと。

 

 

「今回の世界で起動テストを行ったのでしょう。そして結果がコレです」

 

 

未完成の状態であると言うのにも関わらずノアは世界を一つ滅ぼすまでの力を見せ付けてくれた。

おそらくエネルギーの問題がある為、次の使用までには多くの時間を要する事になるだろうが――

 

 

「大ショッカーがノアを自由に動かせる燃料(コア)を手に入れるとも限りません」

 

「厄介な……ッ」

 

 

多くの命を奪う恐怖の船、それが本当の力を手にした時――それこそが絶望の時だ。

クロークは守れなかった悔しさと大ショッカーの力を感じて歯を食いしばる。映像はしばらく破壊の様子を写し、そのうちにブラックアウトして終了を迎えた。

以上があの世界の結末であると告げるシャルル。

 

 

「この事は司達は?」

 

「知りません。教える必要も無いでしょう……」

 

 

今の彼らにこの真実は残酷すぎる。シャルルは彼らを無意味に傷つける必要は無いと言う。

今の彼らは非常に不安定な心情にある、司がリタイアを選ばないかと持ちかけていたのをクロークは思い出した。

 

 

「リタイア……か」

 

「選ぶのは彼らです。勝手に巻き込んでいて申し訳ない話ではありますが――」

 

 

進むのか、それとも止まるのか、それらは全て彼らが決める事。

もしかしたら既に答えは決まっているのかもしれないし、決まっていないのかもしれないし。

そこでハッとするクローク、そういえばCOBRAと言う人物は――

 

 

「司がそれとなく言っていたんだ、COBRAって言う元試練者がいたって」

 

「………」

 

 

知っていると反応を示すシャルル。

しかしその表情から察するに何か複雑な事情があるのかもしれない。

 

 

「彼もまた……悲しき最後でした」

 

「………」

 

 

試練者が得る力と、いずれ知る現実、そしてその先に迫られる決断。まだ彼らの試練は終わっていないと。

 

 

「試練と言う意味ならば、次が最後かもしれませんね」

 

 

彼らの物語は続きを記載するのか、それとも終わりの文字を刻むのか。

全ては次なる世界が決める事、それはまさに最後の試練といってもいい。そういえばとシャルル、今までの戦いで多くの人物が試練の中で変身を行ってきた。

しかし彼だけは、彼だけは試練と言う名の下では変身していない。

 

 

「最後に残されたのが、彼の試練なのかもしれませんね」

 

 

そう、それは――

 

 

「始まりますよ。"ディケイドの試練"が……ね」

 

「………」

 

 

クロークは無言で紅茶を口へ運ぶ。

最後の試練となるのか、それともまだ尚彼らは足掻き続けるのか?

 

 

 





キバーラはフォームチェンしではなくウエポンチェンジでございます。
原作で設定が存在している種族から参考にさせて頂きました。
他にもチラチラとオリジナル要素はありましたが、それらはまた別のあとがきに掲載します。

はい、では次もちょっと未定で。
すこしだけ遅くなるかもしれませんが、なるべく早くしますので。
あと次回の番外編で終わる世界編は終わりです。

ではでは
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