仮面ライダーEpisode DECADE   作:ホシボシ

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番外編 双護のお嫁さん

 

 

「元の世界に帰れるッ!?」

 

「しっ! 声が大きい。まだ決まった訳じゃない」

 

 

始まりはゼノンの呼び出しだった。司、双護、真由、真志の四人は特別クラスに呼び出されると大きな情報を一つ聞かされる事となる。

それは今の通り、司達が元々いた世界に帰れるかもしれないと言う事だ。ゼノンとフルーラが探索を続けた結果、そして観測者の許しを得て、戻っても構わないと言う結論に至った。

が、しかし、色々と面倒な事は多い。それは時間の都合が主なのだが、一番は滞在期間とその後だ。

 

 

「正直、あまり長居されるのは困る」

 

 

司達は現在Episode DECADEの住人であると見なされている。

それが司達が元々いた世界に居座られると、やはり元々いたと言う情報が強くなっていき、それだけEpisode DECADEの存在力が弱まってしまう。

最悪、長期滞在されるとせっかく得たライダーの力が消えると言う最悪の結末もあるとか。

後は、そう、一番の問題点としてホームシックが考えられる。

 

 

「キミ達の世界は凄く不安定だ。だからサルベージには時間と運がいる」

 

 

つまり一度足を踏み入れ、また転移した後、戻ってこられる可能性が低いのだとか。

一度訪れた世界はEpisode DECADEにしっかりと記録され、それを辿れば再び戻る事はできる。

しかし元々いた世界に関しては別である。何故ならば先程の通り、今現在司達の世界は学校、つまり故郷はEpisode DECADEだ。

なのに同じく故郷の世界があるとなると矛盾が生じる。それは避けるべき事態だ。

 

 

「だから下手に友人や家族と会われると困るんだよ」

 

「あぁ、成る程……」

 

 

もしもそこで未練や甘えが生まれてしまったら大変な事になる。

万が一にも残りたい等と言われるのはゼノン側としては最も避けたいケースなのだ。

しかしゼノンも鬼ではない、一度家族と離れ離れになってずっと会えないのは気の毒だと思っている。

だからこそ今回、元の世界に一時的だけ帰れる機会を設けたいと思っているわけだ。

 

 

「ただ、まだ帰れない。君達はあくまでもEpisode DECADEの所有物だ。元の世界に元の住人として戻るには一時的な書き換えが必要になる」

 

 

言わば、設定変更とでも言おうか。

司の所属世界を『Episode DECADE』から『元の世界』に一時的に書き換える必要があると。

 

 

「面倒なんだな」

 

「そうそう、面倒なんだよ。まあでもそれはコッチでやってあげるよ」

 

 

だがやはり必要な事だろう。

今までは休憩の世界を何度か設けてきたが、やはりまだ言うて司達は子供、元の世界に残してきた未練も多いはず。

それはナルタキとしても理解できる話だった。特に前回までの中には内部側からコブラの様な裏切り者が出ている。

まあ状況が状況とは言え、観測者側にも責任が合った事は認めている話。司達にはなるべくストレスの無い環境を作りたいとは思っているとか何とか。

 

 

「今回君達を呼んだのは他でも無い。テストだ」

 

「テスト?」

 

「そう、まず君達は適応力が高い」

 

 

ディケイドライバーによって司はどれだけ元の世界にいても情報が狂う事は無い。

さらにゼノン達の干渉がなければ司達の世界(ものがたり)の主役は双護と真志だった。故にこの二人と、双護の妹である真由。

 

 

「美歩は?」

 

「もちろん彼女も適応力が高いから世界にある程度長期居座っても問題は無い。ただ――」

 

 

第二の問題であるホームシックが関わってくる。

言わば、この四人は元の世界にそれほど未練が無い、と言うゼノンの独断で選ばれた訳だ。

 

 

「それは――」

 

 

心外だ、と言おうとした所で司は口を閉じる。

確かに祖父には会いたいが、司は魔女との契約で大ショッカーを倒さなければ死ぬ。つまりどの道逃げる事は許されないのだ。

一方で鼻を鳴らす双護達。成る程確かに納得できる話だ。家族に嫌悪感を抱いている真志、同じく双護、何も分からぬ真由。

元の世界に帰れるのは結構だが、簡単に割り切る事ができるのは確かだった。

 

 

「取りあえず君達だけなら数回転送しても世界が離れる事は無いし、何かあったときにコチラに戻す事も簡単だ」

 

「つまりなんだ、オレ達にロケハンさせるってわけか」

 

 

要は下見である。

司達が無事に元の世界に戻れるのかをテストし、うまく行けば他のメンバーも同じ様に設定変更を行なうと言う事だ。

 

 

「どうする? やるかい?」

 

「うーん。つってもなー!」

 

 

頭の後ろで腕を組んだ真志は気だるそうに唸った。

確かにゼノンの言う通り、元の世界には嫌な記憶もある。

同時に良い記憶もある訳で、下手に戻ってしまえば確実に何か引っかかる物ができるかもしれない。

どうせ大ショッカーとは戦わないといけないみなのだから、無理に戻る事も無いのでは? そう思ってしまう。

それは司も同じようでホームシックは危惧する所であった。下手に祖父に会ってしまうと戻りたくなくなるのではないかと。

 

 

「ボクは……どっちでも…いいよぉ…?」

 

 

首をかしげ、ニコリと微笑む真由。

するとそこで隣に座っていた双護がピクリと肩を動かした。どうやら何か思う物があるらしい。

 

 

「ゼノン、転送されるとしたら時間はどうなる?」

 

「えーっと、そうだねぇ、君達が巻き込まれる時間よりも後で――。そう、だいたい放課後だね。午後四時半って所かな。おそらくあの日、特別クラスに巻き込まれなかったと言うテイで話が進んでの放課後って所さ」

 

「なるほど。滞在時間は?」

 

「うん、午後七時までの約三時間だね。まあコッチで強制的に戻すから、そこは気にしないで良いよ」

 

 

頷く双護、次の言葉はすぐだった。

 

 

「分かった。俺は行く」

 

「ッ、マジか」

 

 

身を乗り出す真志。

双護の性格、そして元の世界にある特性上、断るとばかり思っていが。

いや、別にその考えは間違っていない。双護も正直、あまり乗り気ではなかった事は事実だ。しかしそれを超える理由が一つだけあった。

 

 

「実はあの日の放課後、人に会う約束をしていてな」

 

 

それが少し、心残りになっていたらしい。まあ小さな引っ掛かりと言えばそうだが、モヤモヤはモヤモヤだ。それを処理できるのならば良い機会だろう。

となれば司達の答えも変わってくる。真由は当然、双護について行きたいと。司と真志としても双護と真由、二人だけで行かせる訳にもいくまい。

 

 

「じゃあ早速だけど、君達を元の世界に転送するよ。良い?」

 

「い、いきなりだな!」

 

「考える時間があると色々余計な事を思いつくかもしれないだろ。ほら、目を閉じて」

 

 

促されるままに目を閉じる四人。カウント十秒、それが終われば司達は元いた世界に送られると。

 

 

「じゃあ行くよ。10、9、8……」

 

 

目を閉じ、意識を集中させる四人。

そして、それはカウントがゼロになったと同時だった。聞きなれたチャイムの音が耳を貫いたのは。感じる光、司は反射的に目を開ける。

 

 

「がッ!」

 

 

思わず声が出た。

目の前に広がっていたのは同じ教室は教室でも、見える景色は全く違う。懐かしさ、何故か泣きそうになってしまう。

それもその筈だ。司がいるのは、間違いなく司が通っていた十星学園ではないか。クラスメイト達の顔は懐かしいと同時に違和感もある。

知らない人間がいた。その正体はすぐに明らかになる。ユウスケ、薫、夏美、彼等の席がその知らない人間になっているのだ。

なるほど、どうやら『穴』は埋まっていると言う事か。それが何か寂しくもある。

 

 

「あ……!」

 

 

そうだ、滞在時間が限られているのだった。

司はザワザワと放課後の予定を立てているクラスメイト達を掻き分けて外の廊下に出た。

すると同じ事を思っていたか、同じくカバンを持った真志と鉢合わせを。

 

 

「おお、司。マジで帰って来たんだなオレ達! 夢じゃねぇよな!?」

 

「ああ。なんだか実感が湧かないよ!」

 

 

服装も制服に変わっていた。司と真志はすぐに双護のクラスに向かい、丁度出てきた二人と鉢合わせを。

 

 

「思ったよりアッサリだったな」

 

「ああ。それでどうするんだ?」

 

 

並んで歩く四人。

司としては正直祖父に会いに行っても良いのだが、何か少し抵抗もある。いずれ全員が帰れるのなら、その時でも良いかもしれない。

やはり下手に深く関わってしまい、この世界に愛着が湧くのは司としても怖かったと言うのがある。今は双護の予定を尊重すれば良いだろう。

 

 

「人に会う約束してたんだよな?」

 

 

携帯を確認する真志。日付、時間、あの日のままだ。

だが巻き込まれた時間、全てが始まった時よりも時間は進んでいる。

あの日、本来進むべき筈だった道に自分達はいるのだ。なんだか感慨深い物がある。

 

 

「つうかよ、誰に会うんだよ」

 

 

玄関を超えた所で真志が問いかけた。

そう言えばまだその部分を聞いていなかった。双護は何の事はなく答えを告げる。

 

 

「ああ、許婚にな」

 

「ほーん。許婚ねぇ」

 

「許婚かぁ。へー」

 

 

ピタリと、司と真志の足が止まる。

一瞬呼吸さえ止まってしまったのではないかと思われる程のフリーズ具合である。

ただ流れる汗は酷く、真っ青になりながら双護の背中を見ていた。二人は冷静に今の言葉をもう一度、いや何度も脳内でリピートしていた。

しかし人間とは面白い生き物で、あまりにも意味が分からない言葉が出て来たとき、理解に酷く時間を掛ける様だ。

 

 

「………」

 

 

 

真志は思う。

いいなずけ、聞き間違いだろう。本当はイオナズンと言ったに違いない。

イオ系の最終形態。後にイオグランデが登場するまでの話だが。さらに爆発の呪文は広範囲で使い勝手が良く――、ドラゴンクエスト三十周年おめでとう。

あれ? ちょっと待って? イオナズンに会いに行く? 双護は頭がおかしくなったのかな?

 

 

「―――」

 

 

司は思う。

いいな漬け。きっと漬物の一種だろう。柴漬け、奈良漬け、ぬか漬け、浅漬け、福神漬け。

いっぱいあるんだ、きっといいな漬けもあるんだろう。自分は知識薄い故に知らなかったが双護は博識だ、それにお金持ちだからきっと色々な美味しい物を知っているんだ。食べているんだ。だからきっとまた食べたくなって、それを売る人、たぶんお婆ちゃん辺りに会いに行くんだろう。

 

 

「ね…、お兄ちゃん……」

 

「ん? どうした真由」

 

 

そうこうしている間に、真由が双護に話しかける。

 

 

「いい……な…ずけって、なぁに…?」

 

「ああ。許婚って言うのは、簡単に言えば親が――、まあ俺の場合は祖母が決めた結婚相手の事さ」

 

「え……! お兄ちゃん…ご結婚するのぉ…? おめでとうぅ」

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?」」

 

 

ギュオン! と音が出る程のスピードで双護の前に走る司と真志。

その驚愕の表情に思わず双護も目を細めて一歩後ろに下がった。一方にんまりと笑う真由、面白い顔だと。

だがそんな事は気にしない。真志は双護の襟首掴みかからんとの勢いで迫ると、疑問の全てをぶつけていく事に。

 

 

「お、お前マジか!? マジで許婚とかいんのかよ! イオナズンじゃねーのかよッ!!」

 

「ああ。どちらかと言うと俺はギガデイン派だ。もっと言うとテイルズ派だ。真の仲間になろう、裂空斬」

 

「ザワつくわ! 止めろ!!」

 

「お、お漬物じゃないのか!」

 

「HAHAHA、おやおや、ユニークだな司は」

 

「止めろその笑い方! なんか腹立つぞ!!」

 

 

どうやらあの許婚で間違ってはいないらしい。

要は親同士が決めた結婚相手とでも言えば良いか。

実は双護の義理の祖母、天王路グループの設立者が酒の席で他の資産家と盛り上がって勝手に決めた話らしい。

全く勝手な話だとは思うが、実は双護は祖母の事は嫌いではない。故にこうして勝手な話を容認して、今日始めての顔合わせと言う事だとか。

 

 

「いやッ! でもお前! このご時勢にだな!」

 

「もちろん許婚とは言え、そんな物はただの口約束でしかないし、法律的な縛りは一切無い」

 

 

つまり本当に形だけと言う事だ。

祖母はどうやら本気で結婚させようとしている様だが、双護としてはゴメンである。

一応写真だけは見たらしいが、だからと言って何か心が揺れ動く事はなかった。人間は中身だ、双護はつくづくそれを知っている。

 

 

「じゃあ断る気なのか」

 

「当然だろう。俺にはまだ早い。それにこんな状況下だ。オーケーした所でどうなる?」

 

「それは、まあ」

 

 

ただ、祖母の顔に泥を塗るのは心苦しい。それに向こうの事もある。

断るならちゃんと会って直接自分の口から断りたかった。それに向こうとしても会った事すら無い男といきなり結婚しろと言われて、はいしたいですと言う訳が無い。向こうも当然断る気であろう。

 

 

「ど、どこで会うんだよ」

 

「今から三十分後。五時に喫茶店、グレースコーヒーだ」

 

 

一店舗しかない喫茶店なので司達にも場所はすぐ分かった。

 

 

「適当に時間を潰してから行くよ。悪いが真由をしばらく預かっておいてくれ」

 

「ああ……、うん」

 

 

そう言うと双護は手を振って歩き去る。

取り残された司達。しばらくは先ほど同じくピクリともせず固まっていたが、その内、ポツリと真志が呟く。

 

 

「司。これからオレ達がどうすれば良いかくらい、分かってるよな」

 

「………」

 

 

 

カランカラン

 

 

 

「真由ちゃん。好きなモン食って良いからな」

 

「ほんとぅ? ボク…チョコケぇキたべたぃ」

 

 

真志が差し出したメニューを見て真由はニコリと微笑み、チョコケーキを指差した。

ご注文である。グレースコーヒーのチョコケーキは美味しいのだ。

 

 

「真由、好きな物も飲んで良いぞ」

 

「本当ぅ? 今日は…オレンジ…ジュースな、きぶん…」

 

 

司が差し出したメニューを輝く目で見つめる真由。ご注文追加である。

一方呼吸を荒げた真志と司は取りあえず水を飲み干してみる。

何はともあれ双護よりも早くグレースコーヒーにつかなければならなかった。途中、変装にと百円ショップで買ったサングラスを身につけ、全ての席が見える場所に居座る。

完全にヤバイヤツ等かもしれないが、誰が他人のスタイルを否定できようか。いいじゃないか、制服姿のグラサン三人衆が来店しても。

しかしなんだ。それほど広くない喫茶店で助かった。喫煙席に行かれたらアウトだが、まあそれはないだろうと言う事で一同は禁煙席を陣取り周りの客を確認してみる。

コーヒー片手にパソコンを弄っているサラリーマン。雑誌を読んでいる主婦。今現在司達を除けば客はこの二人だけ。時計を見ればまだ五時には時間がある。

 

 

「しかし本当に良かったのだろうか」

 

 

ふと司が呟く。しかし何を今更だ。気になる物は気になる。それでええじゃまいか。

コーヒーを啜りながら司と真志は自分達の行動を正当化する事に。

そして丁度その時だった。カランカランと来店を知らせる鐘が鳴る。

 

 

「ッ、来たか!?」

 

 

バッと顔を動かして確認に走る二人。

 

 

「「―――」」

 

 

再び呼吸と動きが止まった。

それに構わずジュースを飲んで美味しそうにケーキを食べる真由。見事な対比である。

共通するのは全員サングラスをしていると言う点だけ。なんと間抜けな画であろうか。いやしかし無理は無い。

失礼な話だが、正直こういう話にありがちなのはお相手の女性が化け物みたいな見た目であろうと真志は、司は思ってしまっていた。

モテない男からしてみれば許婚などと言う設定はプラスにしか映らない。しかれどもこう言うのはだいたいオチがあるとも思っていた。

しかしどうだ、司と真志の目には女神が映っていたではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀女学院。司達の世界でも有名な女子高である。

その特徴はまさに一言で言えばお嬢様高校。選ばれた才女しか入れぬとまで言わしめた程、在校生徒たちは皆才能と品性に富んだ面々である。

純白の制服も美しさの象徴とされており、中庭のバラ園は生徒達が管理をしており、その煌びやかさは何度も地元のテレビ局が取り上げている程である。

教室の中もまた下品な喧騒はなく、控えめな笑い声が度々聞こえるぐらいであった。

 

 

「ごきげんよう西園寺さん」

 

「あら、ごきげんよう。今日は良い天気ですわね」

 

「ええ、本当。気分も軽くなってしまいますわ」

 

「………」

 

 

交わす挨拶。いや、しかし西園寺(さいおんじ)絢鳥(あやとり)はその日、酷く憂鬱であった。

確かに天気は良い、こんな日は喫茶店のテラスでハーブティーでも頂きたい所だ。しかれども空に燦々と輝く太陽とは裏腹に絢鳥の心は曇り空であった。

こんな日は珍しい。絢鳥の友人である東雲(しののめ)美咲(みさき)は絢鳥に近づくと、キョトンとした表情で絢鳥を見つめた。

 

 

「何かあったの?」

 

「いえ、ちょっと……」

 

 

正直絢鳥が『悩む』と言うのは東雲にとっては想像も付かない話であった。

天は二物を何とやら。しかし絢鳥には欠点が見つからなかった。家柄は資産家、本人は成績優秀であり、かと思えば体育面もそれなりの結果を出している。

琴やピアノも嗜み、絵ではそれなりの賞を貰っていたのを覚えている。

なによりもその美しさ。白い肌や少し赤みが掛かった髪はまったく荒れておらず、思わず女性の東雲も見惚れる程だった。

スタイルも良く、顔は美しさと可愛らしさを両立しており、どんな人間のストライクゾーンにも触れそうである。

勉学においても将来においても完璧な彼女が何を悩む必要があるのだろう?

 

 

「東雲さん……。私、実は今日、殿方と会う約束をしていまして」

 

「え? 男の人?」

 

「はい。それが、その――、私の許婚なんです」

 

「えッ! えぇ!? い、許婚!?」

 

 

複雑な表情で頷く絢鳥。

驚かれるのは無理も無い話しだ、絢鳥もまたこの話の異質性は十分に分かっている。

そもそもこの現代において許婚の制度など異質極まりない。しかもそれが絢鳥の祖父が酒の席で決めた話となれば絢鳥自身も頭が痛くなる話である。

とは言え大好きな祖父が持ってきてくれた話。無下に扱うのは心苦しかった。

 

 

「でも私、正直、男の人は少し苦手で……」

 

「うん、分かるよ、わたしも」

 

 

皆がそうでは無いと、もちろん分かっているつもりだがどうしても乱暴や下品のイメージが先行してしまう。

ましては礼儀や品行を重要視している学校にいればよりそう思ってしまうのは仕方が無い。

とは言え、交わしてしまった物は交わしてしまった物だ。もちろん断る気ではあるが、それは直接会って断りたいと言うのが本心だった。

故に今日、会う約束を取り付けてもらったのだ。

 

 

「それに、結婚だなんて……。私男の人を好きになった事も無いのに。いきなり過ぎるわ」

 

 

それが絢鳥の唯一の欠点と言ってもいいかもしれない。

今までの人生父親以外の男とは手を繋いだ事も無い。そんな所に許婚など、実感が全く湧かないのだ。

 

 

「どんな人なの?」

 

「あぁ、えっと」

 

 

携帯の液晶画面に指を乗せる絢鳥、画像をスライドさせると、夫候補の写真が。

 

 

「天王路双護さんです」

 

「あ! あの天王路グループの!」

 

 

双護はドラムの前で浮き輪をしながら、ちくわを二本両手に持って構えていた。

コレなんの写真? どこで撮ったの? 何狙い? 東雲は汗を浮かべるが、すぐに双護の顔を見て唸り声を。

 

 

「うわぁお、イケメンさんだねぇ」

 

「確かに美しい顔立ち。でも、殿方の魅力は顔じゃないと思うの」

 

 

ましてや結婚相手ともなれば尚更だ。そもそも絢鳥は相手の顔にはそれほど興味はなかった。

もちろん良くて悪い気はしないが、あくまでも本質は心であると見出している。

もちろん双護がどんな人間かは分からないが、絢鳥としては気が進まない話だった。

 

 

「やっぱり、結婚は、本当に好きになった人としたいから……」

 

「うーん、そうだよねぇ」

 

 

これからの事を考えて再び絢鳥は深いため息をついた。

一方でゴクリと喉を鳴らす東雲、憂いの表情の絢鳥もまた美しい。同じ人間でもココまで違うのかと、ズルイものだとつくづく思った。

そして放課後、絢鳥は双護と話をする為に待ち合わせの場所であるグレースコーヒーにやって来た。

時間は十分前、絢鳥は席につくとダージリンを注文する。しかし緊張と不安が強い、断るとは言え、男の人と二人で話をするのも初めてかもしれない。

ましてやこんな喫茶店で、デートみたいな事を。

 

 

「ハァ」

 

 

ため息が漏れる。男性、男、殿方、オス、やはり抵抗がある。

嫌いな訳では無いが苦手だ。ふと視線を移せばサングラスをかけた男二人がコチラを睨んでいる様な気がする。

怖い、それにやはり男性の考える事は分からない、何故室内でサングラスを? 怖い。でも男性達の前にいる、同じくしてサングラスの女の子は幸せそうにチョコケーキとオレンジジュースを楽しんでいる。可愛い。けどどんな関係? 分からない、世の中は広いものだと絢鳥は思う。

 

 

「なんだよアレ――ッ! 嘘だろ!?」

 

 

一方で司は隣にいる真志に小声で詳細を求めた。喫茶店にやって来たのは想像を絶する程の美しい少女ではないか。

咲夜もそれなりだが、並ぶ程のオーラを感じる。なんか光ってない? と思う程の煌びやかさであった。なんだかココまで良い匂いが届いてくる気がする。

 

 

「あの制服――ッ、白銀か!」

 

「お嬢様学校の!?」

 

 

やはり金持ちの相手は金持ちと言う事か。絢鳥の髪型も巻き髪ロールといかにもなお嬢様キャラではないか。

 

 

「つうか、あの娘なんか見た事あんぜ……!」

 

 

真志は新聞部だ。校内新聞を作る上で他校の情報を仕入れる事もある。

その際、絢鳥の事をそれとなく見かけた事があると。

詳しい事は流石に忘れてしまったが、白銀と言うステータスに加え、他校の真志まで存在を知っていると言う事はそれなりの少女と見て間違いないだろう。

 

 

「め、滅茶苦茶可愛いな! 咲夜はどっちかって言うと綺麗だけど、あの娘は綺麗で可愛いぞ」

 

「くぁー、神はなんて残酷なんだ――ッッ!」

 

 

とは思えど、双護は断る気なのだ。

何か非常にもったいない気がするが、まあ仕方ないだろう。

 

 

「……ッ」

 

 

だがココで一つ気になる事が。時間は十分前ではあるが、双護の姿は無い。

これは非常にいけない事だ。女性を待たせるのは男としてはタブーである。

それにこういうものは十分前にはやって来るのが礼儀では無いか。双護くらいになれば分かっていそうな物だが?

 

 

「「「………」」」

 

 

来ない。沈黙の時間が流れる。真由はケーキをおかわりし、司と真志もコーヒーをおかわりした。

けれども来ない、絢鳥の紅茶が冷める。来ない。時計の針は気づけば午後5時15分を示していた。

 

 

(来ないの――、かな……?)

 

 

不安が絢鳥の心を抉る。それはそうか、突然決められた許婚等双護にとっても迷惑な話だった筈だ。

できれば関わりたくないとも思っている筈。この話は祖父、祖母を通じていた為、双護自身の口でココに来るとは聞いていない。

もしかしたら双護には既に恋人がいるのかも、であれば二人きりで会うこのシチュエーションは望ましくない筈だ。

 

 

「………」

 

 

絢鳥はため息をついて窓の外を見た。夕焼けが見える。心は晴れない。

双護の電話番号は聞かされていたため、絢鳥は電話をかける事もできる。

しかし勝手に知った電話番号を使うのはどうなのか? それに不安や緊張もあって絢鳥は行動に移せなかった。

それでも彼女は待つつもりであった。たとえ来てくれないとしても、それはそれで一つの答えと知る事ができるから。

 

 

「………」

 

 

それに、やはり許婚と言うのは心が重い。そもそも恋愛に対しても絢鳥は良いイメージが無かった。

今までも絢鳥に言い寄ってくる男はいた、ありがたいとは思うが話を聞けば聞く程に幻滅してしまう。

誰も自分を本当に好きになってくれる様な人はいなかった。ただ見た目がいいから、ただ絢鳥と付き合う事をステータスにしたいだけ、そんな連中ばかりだ。

だから心が閉ざされてしまった。ドキドキする様な事なんて無い。それはきっと今からくる双護に対しても同じだろうと思っている。

 

 

「何やってんだよアイツは!」

 

 

一方の司と真志はそれぞれの携帯で双護に連絡を取っていた。

しかし返答は無し。一瞬何か事件にでも巻き込まれたのかと思ったが、カブトの力を持ち、特別クラスのメンバーでもトップクラスの実力を持つ双護が苦戦するのは信じられない。

であるならば双護は双護自身のミスで遅刻している事になる。グレースコーヒーはこの店舗しか近くには無いし間違いようも無い筈。なのに一体彼は何を――?

 

 

カランカラン。

 

 

「「「!」」」

 

 

来た! 三人は一勢に入り口に視線を送――

 

 

「え?」

 

 

天王路双護。無事、来店。

 

しかし――ッ!

 

 

だがしかし!

 

 

 

しかれども――ッ!

 

 

 

 

全 裸ッッ!!

 

 

「ブゥウウウウ!!」

 

 

霧吹の様にコーヒーを吹き出した司。

夢か? 俺は夢を見ているのか!? どんなドリームなんだコレは!?

震えるカップ、そしてそれは真志も同じだった。彼の場合は目の前にいた真由に思い切りコーヒーを吹きかけており、今は必死に謝りながら紙ナプキンで真由の顔を拭いていた。

カオス。グレースコーヒーと言うコスモに生まれた混沌。サラリーマンは目を見開きコーヒーを天から被っていた。主婦に至ってはケーキを鼻の穴に突っ込んでいる。

いや仕方ない、人間は理解できない物に立ち会ったとき、全く予期せぬ行動をとるもの。そしてそれは絢鳥も同じである。手に持っていたダージリンをテーブルの上に零し、慌てて拭いている。

その中で全裸の双護は確実に絢鳥の下へ歩いていた。安心してください、全裸とは言えどパンツだけははいています。ですが逆にパンツ以外は何も無い。

素足に靴を履いた状態で双護は絢鳥の前に立った。目を見開き大口を開けている絢鳥、とてもじゃないが品性の欠片も無い表情である。

 

 

「か――ッ?」

 

「座っても良いか?」

 

「え!? あ、は、ははははぃいッ!!」

 

 

腕を組んで座る双護。ニコリと絢鳥に向って微笑んだ。

 

 

『何やってんだあの馬鹿はァアアアアアアアア!!』

 

『どんなサプライズかましとんじゃぁああッッ!!』

 

 

小声だった。しかし司と真志は叫んだ。遅れてきておいてパン一とはコレいかに。

一体全体コレはどんなミステリーなのか。数々の修羅場を潜り抜けてきた司と真志も理解に苦しむ状況である。

分かっている事と言えば双護は絢鳥と会う約束をしていた。しかしやって来たのは全裸の双護である。分からない、不思議だ、ミステリー、いやファンタジー。

静寂に包まれた店内。しかし反対に厨房からはザワついた声が。やばい、真志は立ち上がると厨房に向けて走る。

 

 

「店長! 変態です! 変態が来店しました!」

 

「よーし! じゃあ店長110番しちゃうぞ~!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 

 

電話に手を掛けた店長。しかしそこで真志が割り入った。

実は自分は十星高校の新聞部で今度自主制作映画を作ろうと言う事で現在カメラを回しているのだとかなんとか。

かなり無理のあった説明だが店長が熱い性格で、若者の夢を応援したいと言う事で何とか分かってもらえた様だ。

まあ全部嘘なのだが仕方ない、状況が状況だ、許してもらおう。真志が席に戻ると、視線の先では双護達が自己紹介の時間に入っていた。

 

 

「あ、あのッ! 私、あの! えっと! あの、あのッ、さ、さささ西園寺絢鳥ッ、です」

 

 

ガチャガチャガチャとカップを震わせながら、同じく震える声で絢鳥は自己紹介を。

怖いだろう、無理も無い、現れた許婚がパンツ意外纏っていないのだから。男性に免疫の無い彼女にとってはより一層恐怖ってな話しだ。

 

 

「俺は天王路双護だ。遅れてすまない。男として情け無い」

 

「い、いいいいいえッ! お、おきっ! お気になさらずぅぅ!」

 

「ッ」

 

 

そうだ、何故双護は遅れたんだ? 司達は額に汗を流しながら双護の答えを待った。

そもそもこのエキセントリックな状況はきっと遅刻した理由に関係あるに違いない。

双護だって馬鹿じゃない(たぶん)、だからこの状況があまりにも異質だという事は分かっている筈だ。

男が遅れると言う状況、何かきっと理由がある筈なんだ――ッ! 頼む、司は願った。頼むから理由があってくれ!

じゃないと俺達はあんな変態と一緒に旅をする事になるのか!?

 

 

「実は、ココに来る前に、お地蔵さんが寒そうにしていたから服をパンツ以外渡したんだ。ハハッ」

 

 

どうやらそれが遅れた理由らしい。司と真志はウンウンと首を動かす。なら仕方ないな。

 

 

「まったく、仕方ないヤツだなぁ双護は」

 

「やるじゃねぇか、見直したぜ双護」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なんて言う訳ッねぇえええだらぁあああがぁああぁあぁぁッツ!!」」

 

 

叫ぶ。叫ばずにはいられなかった。

しかし割りと小声で。しかししっかりと叫ぶ。叫ばせてくれ、これはもう好きに叫ばせてくれ。

 

 

「何の話だよ! 何年前の逸話だよ!」

 

「何ドヤ顔してんだ! 何ちょっと良い事して来ましたみたいな顔してんだ! それ普通に服捨ててきただけだぞ馬鹿が!!」

 

「つーか今日別に寒くねーし! 雪も降ってねぇし! だいだい上はまだしも下は渡す必要性ねーだろうが! どこにかぶせんだ! お地蔵様も苦笑いだよ!」

 

「まさか現代で昔話なぞるヤツがいるとは思わなかったわ! 終わった! ドン引きだわコレは!」

 

「ちょっと待て! これがアイツの復讐じゃねーだろうな! 違う意味で天王路家終らせる気じゃねーだろうな!」

 

 

頭が痛くなる。さぞ絢鳥も引いている事だろう。

怖いが見るしか無い、恐る恐る司と真志は絢鳥の表情を覗いてみた。

するとどうだ、やはりそこには真っ青になっている絢鳥が――

 

 

「あれ?」

 

 

いやッ、違う。真っ青ではなく絢鳥は真っ赤になっていた。

 

 

「素敵……! カッコいい――ッ!」

 

「「ええええええええええええええええええええッ!?」」

 

 

予想外。全くもっての予想外。なんと絢鳥は引く所か頬を桜色の染めて恥ずかしげに肩を竦めたではないか。

そして心臓を押さえている。絢鳥自身、自分が抱いた大きな感情にまだ困惑している所だ。

なんだこの胸の高鳴りは? 何故心臓がこんなにも早く鼓動のリズムを刻むのか?

 

 

「て、天王路さん? 貴方は寒くしているお地蔵さんの為にお洋服を!?」

 

「双護で良い。まあそうなるな」

 

「周りからきっと奇異の目で見られるかもしれないのに? 下手をすれば警察の方に逮捕されるかもしれないのにッ!?」

 

「俺は、お地蔵さんさえ温かければ、それで良い――ッ!」

 

 

嘘つけよ!! 聞いた事ねぇよお前の地蔵好きキャラ!

唐突なキャラ付け止めろや! 司と双護は目を見開くが対して絢鳥の目はより一層輝きを増す事に。

 

 

「な、なんて優しい人なのッ! まるで聖母マリアッ!!」

 

「嘘でしょこの娘ッ!?」

 

 

絢鳥は唇をワナワナと震わせて双護を見る。

しかしそれは先ほどとは違い、完全なる尊敬の眼差しであった。

いや尊敬のほかにももっと大きな感情が入っている様に見えるのは気のせいだろうか?

 

 

「すまなかったな絢鳥。俺としても女性の前に出る格好としてはどうかと思ったんだが、約束を破るわけにはいかなくてな」

 

「気にしないで双護さん! わ、私思うんです。初めて貴方を見た時ちょっと驚いちゃったけれど、すぐに別の意味で視線が離せませんでした! 貴方の裸体は下品なものではなく、ある種ギリシャの彫刻像の様な気品さと力強さがあって、まるで一つの芸術(ルネッサンス)、もう一つのパリに招待されたような気分でした。洗練された肉体美と逞しく鍛え上げられたソレは例えるなら(ワイルド)の具現、最後にして最高の地球(ガイア)が生み出した芸術(レコード)と認識しておりますわ! あ、貴方の事はお写真で先に拝見していましたが、美しさは目の前にしてみればより一層私の心に打ち込まれたようです。そして今のお話を聞くに貴方はもしかして地上に降り立ちし天使(ミカエル)なのではなかと、この絢鳥一抹の疑問を抱いてしまいました! 忙しく動き回るこの社会(はこにわ)にて貴方の振る舞いはまさに音速(モーメント)の中に咲いた名も無き(キセキ)。まるで全ての美しさを黄昏(トワイライト)に忘れてきたかの様に振舞うわたし達人間の前に、美しさが愚かさであると教えてくれた様です。もし許されるのなら私の哀れさと言う愚直(メビウス)を貴方の行動(リユウ)と言うタナトスに同調(リンク)させていただければなと思います!」※全部読まなくて結構です

 

 

どういう事!? 何言ってんのあの娘!? 司と真志は怪訝そうな目で絢鳥を見ていた。

もしかしてもしかすると、いやもはや疑う必要は無いだろう。

そう、アレだ。類は友を呼ぶと言う言葉があるが、まさしくそれだ。流石は双護の許婚、絢鳥も『アレ』なのだ。

 

 

「ああそうだな、俺はタナトスで、ガイアだからな」

 

「分かって無いよぉ、あの人全然理解して無いよぉ、なのに何でドヤ顔してるのぉおお!?分からないよォォォ!」

 

 

双護は絢鳥にウインクを返すと先ほどちゃっかり注文していたのだろう。運ばれてきたコーヒーに手を伸ばした。

パンツだけをはいた男がコーヒーを啜っている。もはやファイナルファンタジーである。

しかし絢鳥はウットリとその姿を見つめ、直後モジモジと視線を様々な所へ送る。

 

 

「あの、双護さん。突然ごめんなさい。祖父が勝手に」

 

「いや、謝るのはコチラだ。俺の祖母が迷惑をかけた。だがどうが許してくれ、彼女も俺を思ってのことだろうから」

 

「それはもちろんです! あはっ、お優しいんですね双護さんは」

 

「キミもだろ。来てくれてありがとう。こう言う話だ、さぞ驚いた事だろう」

 

「確かに初めは驚きました。正直、恐怖もありました――」

 

「あ? もしもし真由? どうだ? 司達と仲良くやってるか?」

 

「気に障ったらごめんなさい。私男の人にあまり良いイメージがなくて。偏見ですよね、今なら分かります。私が愚かでした」

 

「そうかそうか、ケーキが美味いのか。良かったな! ハハハ!」

 

「でも双護さんは随分イメージと違って、その、あの、素敵……です」

 

「キュリプアの映画? 良いぞ、行こう行こう! お兄ちゃんグッズも買ってあげるからな!」

 

「だから、あの、驚かないでくださいね? 私お爺ちゃんに感謝しないと駄目かも」

 

「お兄ちゃんな、今ラップ作ってるんだ。聞くか?」

 

「このお話も、今は、受けてもらって良かったなって思い始めてきて。私、はしたないでしょうか……?」

 

「YOYOYO俺は双護、お前は早朝! YO、ウゲラップ。ヒアッ! ヒアッ!」

 

「双護さんは……今、何を考えているのかしら? 私気になります」

 

「ああ。俺も悪い気はしていないさ。君の様な品のある女性の相手に選ばれるのは光栄だよ」

 

 

聞けよッ!! 話を聞けよォオッッ!! 途中完全に真由と電話してただろ! よくあんなクソラップ披露しておいてナチュラルに話戻せたな!

絢鳥さんも絢鳥さんだ! 怒っていいよ? ウチの双護怒って良いんだよッ!?

司と真志の鬼気迫る表情も双護や絢鳥には届かない。絢鳥はうっとりと双護を見ており、どうやら周りの景色や音は完全にシャットダウンされている様だ。

 

 

「双護さんって、とっても……」

 

「ん?」

 

「あ――、ごめんなさい。恥ずかしい……」

 

 

桜色に染まった頬を押さえる絢鳥。

双護もニヒルに笑って腕を組んでいた。もちろん現在進行形で全裸だが、そこはまあ置いておこう。

 

 

「構う事は無い。何でも言ってくれ」

 

「あ……じゃあ、その、双護さんって、とっても出し巻き玉子みたいな人」

 

「ハハハ、照れるな。カキフライの様な女性に言ってもらえるなんて」

 

「まあ、お上手なんですね双護さんって。褒めても何もでませんよ?」

 

「ハハハハ!」

 

「ウフフフフ!」

 

 

意味分かんねェエエエエエエエエエエエエエッッ!!

司と双護は頭を掻き毟りながら何度も頭をテーブルに打ちつけていた。

何だコレは? 誰が一体何を褒めたと言うんだ。何故会話が繋がっているんだ。なんで二人とも楽しそうに笑っているんだ――ッ!?

これが金持ち同士の会話と言うものなのだろうか。教養の無い一般人では理解できないステージに双護達は立っているのだろうか。

そもそも今現在絢鳥は本当に全裸の双護に何も思っていないのだろうか?

 

 

「ウッ! ウッ! 二人の出会いはキセキやで――ッ! うぅぅ!」

 

 

何で泣いてんだよサラリーマンのオッサンは!!

お前にあの二人の何が分かるんだよ!

 

 

「やるねぇ、カントリーボーイのおままごとかと思ったら、中々熱いじゃないのさ」

 

 

誰だよ! 普通の主婦じゃねーのかよ! なんだよコレ、お前本当に誰なんだよ!

つか、これ、なんの時間だ!? 周りを次々に巻き込むカオスに司達の疑問はますます深くなるばかりである。しかしココで話は少し真面目なものに。

 

 

「絢鳥さん。許婚の話なんだが――」

 

「あ……、はい」

 

「申し訳ないが、俺は断ろうと思っている」

 

「ッ!」

 

「気を悪くしたらすまない。だがキミも、人生を勝手に決められるのは嫌だろう?」

 

「わ、私は――!」

 

 

その時だった。クルルルルルルルルルルと音が鳴る。

 

 

「?」

 

「あ! あぁ! えっと、あの、その……! コレは――ッ、その!」

 

 

真っ赤になってお腹を押さえる絢鳥。

どうやら時間も時間だ、生理現象が絢鳥を襲ったらしい。湯気が出るのではないかと錯覚する程体は熱く、羞恥の心が身を震わせる。

 

 

「ご、ごめんなさい! 私、なんてはしたない!」

 

 

安心しろよ絢鳥さん! お前の目の前にいるヤツの方がよっぽどはしたねーよ!

なんて、司と真志がそう思った時、その双護が指を鳴らした。

何を? すると店の奥からウエイトレスがおぼんを持ってやって来る。

 

 

「お待たせしました、海老ドリアです」

 

「うぉ! い、何時の間に!」

 

 

どうやらコーヒーを頼む際にウエイトレスに耳打ちで海老ドリアを注文していたらしい。

やられた、これには素直に司たちも感心せざるをえない。双護はこれを見越して料理を注文していたのか。

いやはや、やはり気遣いができる男が天王路双護か。

 

 

「はふはふっ! 気にするな。ハフッ! 誰でもなる事だ」

 

「「お前が食うのかよッッ!!」」

 

 

思わず立ち上がり声を揃える司と真志。

絢鳥の為に注文したんじゃねぇえぇのかよぉおぇああああ!!

なんでお前がハフハフ言わせてんだよ! 理解できねぇええ!! もっと好感度気にしろよ!!

 

 

「素敵な食べっぷり……! キュン」

 

「嘘だろ! 絢鳥さぁあんッ!!」

 

 

俺達がおかしいのか!?

司と真志の中にある常識が崩壊した所で双護が水で口の中のドリアを一旦流し込む。

 

 

「絢鳥さんも、何か食べると良い」

 

「あ、でも――」

 

「そうだ、丁度良い。最近料理に凝っていてな。良かったら俺の手料理を食べてみてくれないか?」

 

「え? よ、よろしいんですか!?」

 

「ああ、待っててくれ。五分足らずで良い」

 

「五分!? でもそんな短時間で――」

 

 

大丈夫だとジェスチャーを送る双護。彼は調理場まで歩いていき、何の事は無く中に入っていく。

 

 

「すまない店長。少し調理場を借りたい」

 

「え? あぁ、別に良いけど」

 

 

良くねーだろ断れよ!

真志と司は調理場を覗き込む。すると双護は店長に一礼するとパンツの中に手を突っ込んだ。

止めて止めて何々何何々? 火山の用に爆発する疑問。すると直後双護はパンツの中から冷凍食品、王様チャーハンの袋を取り出した。

 

 

「分かってたけどありえねぇだろッッ!! どこ入れてんだ! ケツがキンキンだったろうが! 何で今まで平気だったんだよ! うぇえええん、分からないよぉぉ、双護が分からないよぉ!」

 

「泣くな真志! だいたい双護! 絢鳥さんに見えてるぞ! いくら袋とは言えパンツの中に入れてたなんて完全に引かれ――」

 

「秘密のポケットには、夢と希望が詰まってるんですね。素敵です、双護さん……!」

 

「お前何言ってんだ! 本気で何言ってんだ!?」

 

 

上流階級の考えている事は分からないよぉぉ、司と真志が涙を流して呻く中で響き渡るレンジの音。

チン! となったら双護はお皿に盛った王様チャーハンを取り出し、それを絢鳥の前に持っていく。

いい加減双護に服を着せてやれと思わなくは無いが、まあそこはいいだろう。

冷凍食品など口にした事の無い絢鳥にとって、目の前に置かれたチャーハンはなんとも新鮮なもの。目を輝かせ、思わずゴクリと喉を鳴らす。

 

 

「凄い……!」

 

「どうぞ、食べてみてくれ」

 

 

スプーンをさし出す双護。絢鳥は期待に満ちた眼差しでスプーンでチャーハンをすくうと早速一口。

 

 

「!!」

 

 

パァッと明るくなる絢鳥の表情。

 

 

「あ、貴方は天使様じゃなく、王子様でもなく、魔法使いさんだったんですね……!」

 

 

訳すると『美味しいです』である。

まあ滅多に味合わないものだ。そもそも最近の冷凍食品はかなりクオリティが高い。

普段から良い物を食べている絢鳥ですら感動を覚えるものだった。まあ彼女の場合は双護が作ってくれたと言う点が大きく響いているのかもしれないが。

しかし、ふと、咀嚼のスピードが緩む。ゆっくり噛み締める絢鳥。その心に大きな黒が宿った。

 

 

「!?」

 

 

だからだろう、ポツリと、一粒の涙がテーブルに落ちる。

気づけば絢鳥の目からは美しく輝く涙が零れていた。

 

 

「ごめんなさい――ッ、双護さん」

 

「絢鳥?」

 

「私――ッッ、こんな美味しいもの、作れる自身がありません!」

 

「いや、それ冷凍食品……」

 

 

司の言葉は届かない。絢鳥は思うのだ。この短い時間で双護の才能を嫌と言うほど知った。

それに比べて自分はどうだ? 少し勉強ができるから、少し運動ができるから、少し他の知識を持っているからと調子に乗っていたと。

今の自分は本当に双護と肩を並べて歩けるのか? 答えはノーだ。双護もそれが分かっているから許婚を断っているのだろう。

当然か、当然だ、こんな石ころの様な女に妻として価値がある訳が無い。

 

 

「ごめんなさい――ッ! 双護さん、いえ双護様! 本当にごめんなさい!!」

 

「ッ、絢鳥!?」

 

 

絢鳥は零れる涙を拭いながら震える声で別れを叫び、グレースコーヒーを飛び出していく。

手を伸ばす双護だがもう遅い、カランカランと音がして、絢鳥は完全に外へ走り去ってしまった様だ。

同時に大きく息を吐く音が。双護が視線を移すと、そこには伸びている司と真志が見えた。

 

 

「お前達、いたのか……!」

 

「今気づいたのか。って言うか、俺達は何を見せられていたんだ?」

 

「………」

 

 

沈黙する双護。ふと、司が尋ねる。

 

 

「追わなくて良いのか? お前の許婚だろ」

 

「それは形式だけだ。俺も彼女も本気になんてしちゃいないさ」

 

「本当にそう思うのか?」

 

「………」

 

 

双護は一瞬沈黙し、直後司に向けて手を伸ばした。

 

 

「よし、司、相撲しよう」

 

「え?」

 

「いくぞ、のこった!」

 

「お、おう!」

 

 

双護に釣られて組み合いをはじめる司。

あまり派手には動けないので、席と席の間の通路だけで競り合いが続く。

 

 

「どすこい!」

 

「うわっ! あいッた!」

 

 

双護に投げ飛ばされて司は床に両手をついた。

双護はゆっくりと息を吐き、窓の外の景色を見る。

 

 

「俺は迷っているのかもな。絢鳥を『見る』事を」

 

「迷ってる? どういう事だそりゃ」(今の相撲はなんだったんだ……?)

 

「真志、お前も分かるだろ。俺達は先の見えないゴールに向って走らなければならない」

 

「それは、まあ……」(今の相撲はなんだったんだ?)

 

 

真志は沈黙する。

しかし立ち上がった司は尚、真っ直ぐな視線で双護を見た。

 

 

「それでも――、いやだからこそ後悔無く、ありのままを生きるべきだ」(今の相撲は何だったんだ?)

 

「ッ、司」

 

「行けよ双護。答えはその後で出せば良い」(今の相撲は何だったんだ?)

 

「………」

 

「ジャージ貸してやるから、ほら!」(そもそも俺相撲する意味あった?)

 

「ッ、悪いな司」

 

「良いって。気にするなよ双護」(相撲する意味あった?)

 

 

そこでふと、双護は一つの違和感を覚える。

 

 

「真由は?」

 

「「え?」」((お相撲――))

 

 

一同の視線の先。

そこに、いる筈の真由がいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ!」

 

 

グレースコーヒーから飛び出した絢鳥は少し街中を駆けた後、膝に手を置いて呼吸を荒げた。

零れる涙を拭い、けれどもまた新しい涙が瞳から零れ出る。駄目だ、ふさわしくない、彼は月、自分はスッポン。釣り合う訳が無い。隣に居る資格は無い。

 

 

「双護様……」

 

 

痛みが胸が刺さる。

まさかこんな事になるなんて思わなかった。ギュッとなる、切ない、そう思えばまた涙が零れた。

 

 

「はい」

 

「!」

 

 

そんな絢鳥に差し出されたハンカチ。

絢鳥がハッと顔を上げると、そこにはニコリと微笑む真由がいた。絢鳥よりも身体能力は低いが、真由もまたゼノン達が齎した強化の恩恵は受けている。

故に少し疲れはしたものの、絢鳥を追いかける事はできた。一方で絢鳥は一瞬沈黙していたが真由の事も事前に知らされてはいる。写真で見た事もあり、双護の妹だと言う事はすぐに分かった。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

受け取ったハンカチで涙を拭う絢鳥。しかし気になるのは何故真由がココにいるのかと言う事だ。

 

 

「絢鳥…さん」

 

「あッ、はい?」

 

「お兄ちゃんの事…嫌い、に、なっちゃったの……?」

 

「えッ?」

 

 

悲しげな表情で問いかける真由。

どうやら絢鳥が出て行ったのは、双護の事を嫌いになってしまったと言うストレートな風に捉えてしまったらしい。

真由は呆気に取られている絢鳥に、深く頭を下げた。

 

 

「お兄ちゃんが、変な事をしちゃったのなら……ごめん…なさい」

 

「い、いえッ! そんなまさか!」

 

 

むしろ逆だと絢鳥は言う。双護は凄い、魅力的だ(?)、だからこそ自分と比較してしまうのだと。

許婚とは当然妻になる者、絢鳥の中では夫婦は平等の力と才、むしろ妻は夫を支える為、より有能でなければならないと思っている。

しかし双護は凄い、絢鳥は自信が無い、何をしても双護一人で良いのでは無いかと思ってしまう、思われてしまうのが怖かった。

 

 

「料理だって、私少しはできますけど、あんな美味しいチャーハン作れるかどうか……」

 

「美味しいよね王様チャーハン…ボクも……好き。あれなら、ボクも…作れる」

 

「!!」

 

 

やはり双護の妹である真由も凄まじい才能を持っているんだ。

より一層ショックが絢鳥の心を打つ。まあそう意味ではないのだが、言葉は魔法だ、真由もあのチャーハンが冷凍食品であるとは言わなかった為、誤解が深くなるのは仕方ない。

しかし問題はそんな事ではない。真由は一つ、絢鳥に質問を。絢鳥は双護のことが嫌いで飛び出したのではないと説明した。と言う事はだ。

 

 

「じゃあ、絢鳥さんは…お兄ちゃんの事、好き…?」

 

「あ――、えっと、その! す、好きだなんて、そんなっ」

 

 

赤くなった絢鳥は体の火照りを沈めるために頬を手で押さえた。

好き――、とはまだ分からない。ただ双護の事を考えると体が熱くなるのは確かだった。

そして双護に許婚を断られたとき、自分もそうしようと思っていたにもかかわらず悲しくなった。

 

 

「好きかはまだ会ったばかりですから、ね。でも素敵な人だと思いますわ、本当に素敵な人」

 

「本当ぉ……? ありがとう!」

 

 

自分の事の様に喜ぶ真由。

それが兄妹の絆を表している気がして、絢鳥は温かい気持ちになった。

ただ反対に真由は不安そうな表情に変わって、少し目線を下に向けた。

 

 

「ボクはお兄ちゃんが好き……大好きだ…よ」

 

 

しかし同時に思う所もある。

以前は自分のせいで双護が双護のやりたい事ができないのではと思っていた真由だが、今は別の不安があった。

双護が真由の事を可愛がってくれるのは真由としても嬉しいところだ。しかしその愛情が強いのは、また一つの問題があるのではないかと真由自身少し思っているところだ。

つまりの話、双護にはもう少し異性に対して興味を持ってもらいたいと言う訳である。

真由だって特別クラスにいればゼノン達の思惑、ヒーローとヒロインの関係性は理解している。

司には夏美がいるし、真志には美歩がいる。その中には友情以外の感情もあるのだと何となく理解している。しかし真由と双護の間にあるのはあくまでも家族愛だ。

 

 

「だから、お兄ちゃん……の、お嫁さんがいるって分かった時、嬉しかった……」

 

「お、お嫁さんだなんて、そんな」

 

「やっぱりボク…ね、たまに…だけど、考えちゃう時が…あってぇ」

 

「え?」

 

 

鏡治には気にするなと言われた。

真由もそうではないと割り切った。しかし、やはりふと事実が前にやって来る。

 

 

「ボク、少し……皆…と、違うのぉ」

 

 

事故で記憶を失い、知識も一部が欠損した。

そのせいで精神年齢は低く、言葉もまだハッキリと喋る事ができない。

日常生活を送る上で今は特に問題は無いが、双護が過保護になった理由が自分にあると真由は自覚している。

一時はそのせいで双護が自分を嫌っているのではないかと不安になった時もあったが、それは鏡治が誤解を解いてくれた。

ただそうなると逆に嬉しい反面、やはり別の申し訳なさもある訳で。たまには兄も他の女の人に興味を持っても良いのでは? と。

 

 

「別に今のままでも良いんじゃないかしら」

 

「え?」

 

「だって、妹を大切にする人はとっても素敵だと思いますし」

 

 

良いじゃないかシスコンでも。兄妹の仲が悪いよりは余程信頼できるし印象も良い。

それに真由がココまで双護の事を考えるのは、逆に双護が真由の事を考えてきたからだ。人を愛する事ができるなら、それはとても素晴らしい才能では無いか。

 

 

「やっぱり、双護様は素敵な方。確信しましたわ」

 

「絢鳥さん……!」

 

 

絢鳥は一人っ子だ。だから色々羨ましくなってしまう。

もちろん兄妹がいると色々面倒な事も知っている。だからこそ仲が良い二人はこのままでいいじゃないか。

 

 

「だから真由さんも今まで通り双護様に甘えたらいいんですわ。変に気を遣わないでも良いと思うわ」

 

「うん……! じゃあ、そぅするね」

 

「はい、それが良いですね」

 

 

嬉しくなったのか真由は両手を広げて絢鳥に抱きついた。

柔らかい感触が手に伝わる。絢鳥も思わず微笑んで真由を抱き締めた。温かくて良い匂いだ、絢鳥も自然に笑みが零れた。

 

 

「それにね、真由さん。私思うの」

 

「なぁに?」

 

「人間は中身だわ。真由さんは胸を張ってこのままで居れば良いと思います」

 

「ほぁ、そっかな?」

 

「ええ。貴女も素敵な人、柔らかい空気を作ってくれる」

 

「……! あり、が…とう!」

 

 

皆色々考えている。そして各々の答えと言うものを出すのだな。

絢鳥は当たり前の事を真由から教えられた。表情が変わり、丁度その時ジャージ姿の双護と司達がやって来る。

 

 

「双護様……!」

 

 

両隣にいたのが友人と察したか、絢鳥はまず司達に深々と頭を下げた。

 

 

「はじめまして、私、西園寺絢鳥です」

 

「あ、どうも。双護の友達の聖司です」

 

「条戸真志。よろしくお願いします」

 

 

思わず釣られて深く頭を下げる司と真志。その中で絢鳥は一歩前に出て双護を見る。

それは先程まで大きく慌てふためいていた雰囲気を一切感じさせない凛とした表情だった。

 

 

「あの、双護様」

 

「ん?」

 

「一つ、お願いがあります」

 

 

少し唇を噛む絢鳥。

 

 

「正直、初めは私もこのお話はお断りするつもりでした」

 

 

どこの誰だか分からない人と将来を約束する。そんな馬鹿な話があって良い物かと。

だが今日こうして会ってみて一つ想う所があるのだ。

 

 

「貴方の様な人に、私は初めて会いました」

 

 

だろうなと司と真志は思う。

悪く言えばアホだが、良く言えば全く予想できない人物とも取れる。

どうやら絢鳥は後者と取ったようだ。後は先ほどの通りであるが、その実、絢鳥も中々の『アレ』である。

 

 

「だから、もっと、貴方の事を知りたいと思いました!」

 

「!」

 

「ですから、どうかお願いです。もしも双護様さえよければ、このお話を断るのはもう少しだけ待ってもらえませんか……?」

 

 

頬を赤くして訴える絢鳥を、双護は驚いたような表情で見ていた。

一体どう答える? 司達の視線が双護に集中し、返答を待つ事に。

すると双護は少し何かを考えたように沈黙した後、絢鳥の肩に両手を置く。

 

 

「すまない。俺には今、どうしてもやらなければならない事がある」

 

「ッ」

 

 

グッと歯を食いしばる絢鳥。思わず目が潤んでくる。

 

 

「だが――」

 

「!」

 

「だがもしも、全てが終わり、それでもまだお前が待っていてくれるなら――」

 

 

まだ絢鳥の事は何も知らない。だから何の感情も抱けない。

だがしかし先程の真由を抱き締める時の絢鳥の優しい表情は、双護の心に確かな感情を齎したのかもしれない。

それはあまりにも小さな感情だが、しいて言うのであれば『興味』――、かもしれない。

 

 

「一緒に食事でも行こう。そこで君の事を教えて欲しい」

 

「ッ! はい! 永遠(とわ)にお待ちしております!」

 

 

嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ね、絢鳥は後ろに下がった。

 

 

「私ッ、勉強します! 料理とか、貴方に美味しいって言って貰える様に」

 

 

ココで別れたら中国に向うつもりだ。四千年の歴史を吸収し、チャーハン道をまずは極めると。

 

 

「あとは、その、私得意料理が一つあって」

 

「?」

 

「サバの味噌煮。今度、食べてみてください」

 

「――ああ。必ずな」

 

 

そこで大きなジャミングが起こった。

 

 

「!」

 

 

気づけば、双護達は皆特別クラスに戻ってきていた。

教卓では肘を突き頬を手に乗せているゼノンが。

 

 

「お帰りぃ」

 

「おい、まだ時間じゃないだろ」

 

「早まったんだよ。やっぱり何かちょっと変なんだ」

 

 

だがしかしコレで良いデータが取れたと、おそらく特別メンバー全員を送るだけの事はできる筈だとか何とか。

ただ一応他のメンバーには黙っていてくれと釘を刺す。まだ元の世界に必ず帰れるとは限らない。現に今だって半端な時間で強制撤退となったのだから。

 

 

「ゼノン、今、向こうの時間はどうなった?」

 

「んー、たぶん君達があくまでもキーポイントだから進んでも一日くらいで時間は止まるんじゃないかな?」

 

「……そうか」

 

 

双護は手を上げゼノンに挨拶を済ますと特別クラスを出て行った。それを少しポカンとした表情で見つめるゼノン。

 

 

「ッ、珍しいね。カブトが笑うなんて」

 

「は? 別に珍しくもないぞ」

 

「いや、そう言う事じゃなくて、なんて言うのかな」

 

 

もちろんゼノンだって双護が笑う所なんて山程見ている。

だがそれでも今双護が浮べた笑顔は珍しい――、ああいやもっと言えば初めて見る様な笑顔だった。

そう、まるでニヤけているかの様な笑顔など。

 

 

「………」

 

 

それを聞くと司と真志もニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「良い事でもあったんじゃないのか?」

 

「ふぅん」

 

 

同じく特別クラスを出て行く司と真志と真由。

その中で三人は顔を見合わせる。自分達は一気に学校に戻る形になった。であれば、いきなり絢鳥の前から消える事になったのだろうか?

そうなるとさぞ驚かせてしまったのでは無いだろうか? 心配である。

 

 

「何事もなければ良いんだけど――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い!一瞬にして消えるなんて! ああ、やっぱり双護様達は魔法使いだったのですねぇ! あぁぁ、私の秘密の部屋も開けてもらいたい――ッ! 待っててくださいませ双護様! この絢鳥! 必ず貴方に相応しい淑女になってみせますッッ!!」

 

 

※何事もありませんでした

 

 

 

 






もしかしたら今回の話はEpisode FULL・BLASTの方にも関係ある、かも?
ちょっとまだ未定ですが。


もうすぐバトライド・ウォー創生の発売ですね。
一応昭和ライダーはほぼ全て見てきたんですが、一番好きなのはやっぱりRXだったりします。ちなみに現在ニコニコ動画で1号配信しているんで、興味のある方は是非。

ではでは
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