輝きを常に心に   作:たか丸

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あめんぼ あかいな あいうえお
かきのき くりのき かきくけこ
ささげに すをかけ さしすせそ
たちましょ ラッパで たか丸です(?!)

発声練習してましたわ〜()
これ効くんですかね?どうなんでしょ?

さてさて、今回は柚希くんの過去についてお話していきたいと思います。
少しつらく、悲しいお話です。
でも、今の柚希くんを作り上げた過去のお話を、ぜひ皆様にも読んでいただきたいと思います。

それでは今回も最後までお付き合いくださいませ。


高海柚希

柚希side

 

 

俺は親の顔を知らない。

正確には、もう覚えていない。

 

"親"っていうのはもちろん"高海家"の、"今"の親のことを指している訳ではない。

()()()()のことを言っている。

 

顔は愚か、身体的特徴、果てには名前なんかも、俺の記憶からすっ飛んじまってる。

 

千「ゆーーーづにぃっ!」

 

柚「わっ、どうしたの千歌ちゃん」

 

千「へへ、ボーっと外を眺めてるから何してるのかな〜って思って!」

 

千歌ちゃんらしい、なんて言うだけ野暮だね。

でも、柄にもなく物思いにふけっていた俺を、現実に呼び戻してくれたのはありがたかった。

 

柚「ううん、別になんでもないよ」

 

千「……………そっか」

 

あぁ、バレてる。

 

()()()()()()()()、千歌ちゃんには。

稀にだけど、千歌ちゃんが何か俺が隠し事をしているのを気がついてしまう時があるんだ。

 

小2のころ、男友達とやんちゃして学校の花瓶を割って、先生に正座させられて怒られたこと。

小5のころ、小6に絡まれて殴り合いの喧嘩でデカい怪我をしたこと。

中2のころ、先輩にちょっとアダルトな本を借りたこと。

 

全部隠そうとしてバレたんだ。

エロ本に関してはマジギレされたのはいい思い出……

それで志満ねぇや美渡ねぇにバラそうとするもんだから焦った焦った。

中2なんてのはお年頃なんだから、許容してくれてもいいじゃないのと思ったけど、口に出したら千歌ちゃんが最悪まともに目を見て話してくれなくなると思ってやめた。

 

千「ね、ゆづにぃ」

 

柚「ん?」

 

千「ちょっと、2人でお散歩しない?」

 

ちょっぴりネガティブになってた心を晴らしてくれる、明るくて元気な千歌ちゃんの声。

義妹(いもうと)ではあるけれど、ふとした瞬間に姉のような、母のような、安心感を与えてくれる。

女の子っていうのはやっぱよくわかんないなぁ。

 

柚「よろこんで、お付き合いするよ」

 

 

********************

 

 

千「きれい……」

 

柚「うん、きれい」

 

内浦の海。

今までは苦痛でしかなかったこの景色も、今なら好き好んで見られるようになった。

やっぱり素敵な風景だ、気持ちが安らぐ。

 

千「千歌ね、悩んだり落ち込んだりすると、いつも海を見てるんだ」

 

柚「え?」

 

千「海ってすっごく広いでしょ?だからそれに比べて小さな私の、さらにその内側の小さなことなんてバカバカしくなって、笑えてくるの」

 

そう言った千歌ちゃんの瞳は、今まで見た事ないくらいに大人びていた。

"今"じゃなくて、もっとどこか遠くを見ているような。

 

千「ありきたりな言い回しなんだけどね。でも、ほんとにそう思うんだ」

 

かと思うと、今度はいたずらっ子のような笑顔を見せる。

この子はまるで一瞬で顔を変える百面相のよう。

 

千「ねぇゆづにぃ。ゆづにぃのお話を聞かせて欲しいの。()()()()()()()

 

柚「!!!」

 

千「今すぐじゃなくていい、話せるようになったら聞かせて?」

 

ここに、来る前のこと。

親のことを忘れているって確かにさっき言った。

けどそれは半分本当で半分嘘だ。

名前、身体的特徴、顔、その他諸々のことは忘れている。

ただひとつ、覚えているもの。

 

それは声。

 

威厳があって、強くて、屈強な男を体現したかのような声の父。

おおらかで、優しくて、みんなを暖かく包み込むような声の母。

 

そんな、両親の声だけはいまだに耳に残っている。

 

けれど俺はその声を、最期の声を、聞くことは叶わなかった。

 

この話をするには、相応の覚悟が、語る側にも語られる側にも必要だと思う。

それだけ重たい話だから。

 

だからこそ、大好きな妹にこんなツラい話をするのは躊躇われる。

悲しい顔は見たくないから。

 

でも千歌ちゃんは歩み寄ってくれた。

俺の過去を知りたいと、そう言ってくれた。

 

いずれ訪れる()()()()()()()が、今日だっただけなんだ。

 

柚「……俺がこの家に来たのは11年前――」

 

 

********************

 

 

そう、11年前の夏。

俺が6歳の時。

 

両親が死んだ。

 

殺害された。

 

俺の両親が殺されたこの事件は、あまりにも残虐的な出来事で、全国的に報道された。

 

強盗殺人。

 

それも最悪の手口だった。

 

犯人の証言によると、空き巣目的で侵入した家にたまたま帰宅してきた俺の両親と鉢合わせ、キッチンにあった包丁で父と母を……。

 

そしてそのまま現金や貴金属類を盗み、逃走したという。

 

犯人の証言って言ったからわかると思うけど、ちゃんと捕まっている。

 

その犯人っていうのが――

 

 

 

俺の叔父だった。

 

無類のギャンブル好きで、勝つとこれでもかという程にみんなに振舞ったり、自分で使って豪遊したり、そんな生活をしていた叔父。

 

しかしある時、まったく勝てなくなったという。

 

賭け事に使う額は変わらない故、ずっと勝てないという状態が続けば、もちろん資金は底を突く。

 

金融機関で借金をしてギャンブルをするものの、まったく勝てず返済も出来なくなり、借入も出来なくなった。

 

あの人にとってギャンブルというものは"(せい)"そのもの。

 

生きる上で、息を吸うことのように重要なファクターだった。

 

ギャンブルが出来ない、それは叔父にとって死を意味した。

 

自慢じゃないけど、俺はある程度裕福な生活が出来ていたと、朧気ながら記憶している。

 

食べ物にも、洋服にも、住処にも、自由にも、不便なことは無かった。

 

だからこそ、あの人に狙われてしまったのだろう。

 

 

犯行は平日に白昼堂々と行われた。

 

本当に平日の真昼だったが故、幼稚園に行っていた俺は、不幸というか幸というか、助かってしまった。

 

だが待ち受けていた現実は、6歳の幼子にはあまりにも酷だった。

 

大好きだった両親が忽然と消えたという現実。

 

6歳という幼さ故に、"死"が何を意味するか分かっていなかった。

 

混凝土(コンクリート)を征くアリを踏んでみたり。

生を求めて人間の血を吸うべく飛んでいる蚊を潰してみたり。

蒲公英(たんぽぽ)の綿毛を飛ばすために茎からむしり取ってみたり。

 

"人間の死"というものがそれと同じことを意味するなど、露ほどもわかっていなかった。

 

 

俺はこのまま一人で生きていくわけにもいかず、結論からいえばすぐにこの高海家に引き取られることとなったのだが、なぜこの家だったのか。

 

それは、両親が結婚前も結婚後も好んで沼津旅行に行き、宿泊した旅館がこの十千万だったからだ。

 

沼津の景色と人の温かさに魅了された両親は、移住することも考えていたと、今の母さんから聞いた。

 

どうやら家族ぐるみで親交があったようで、俺が赤ん坊のときも実は母さんだけでなく、志満ねぇも美渡ねぇも知っているみたいだ。

 

その強い繋がりがあったから、俺はこの家に引き取ってもらえた。

 

初めのうちは両親の死を理解していない俺だったため、母さんからは「仕事の都合で2人とも海外に移住するから、柚希を預かっていて欲しいって言われてる」と伝えられ、()()()が来るまでそれを信じきっていた。

 

()()()

 

俺が10歳になった時。

 

母さんから伝えられた真実。

 

両親は死んでいる。

 

叔父に殺された。

 

もう、帰っては来ない。

 

6歳の頃に比べたら多少は成長しているが、それでもまだ10歳。

 

悲しみや怒り、様々な感情が混ざって、どこにぶつけたらいいかも分からず、酷く母さんに当たってしまった。

 

真実は残酷、嘘は優しい。

 

優しい嘘に踊らされ、突然残酷な真実を突きつけられた10歳の少年。

 

その現実を受け入れるのに時間はかかった。

 

高海家での生活もかなり慣れ、今までの生活を忘れかけていたそのタイミングで。

 

俺は浅はかな考えから、自分も死んでみようと考えた。

ここで死ねば父さんにも母さんにも会える。

そうすればまた3人で仲良く暮らせる。

 

いざキッチンのナイフを逆手に持ち、自分の胸に突きつける。

これを押し込めばまた会える。

 

でも。

 

出来なかった。

 

 

俺の手を止めたのは、両親だった。

 

正確には、両親と思われる人。

 

この時既に俺は、真実を伝えられたことによるショックで記憶が混乱状態にあった。

 

結局この記憶の混乱は回復することはなく、今も両親の記憶はほぼない。

 

しかし何故かこの時だけは、死のうとする俺の手を止めたのは両親だったと自信を持って言える。

 

理由は今でもわかっていない。

 

だけど、あれは間違いなく両親だった。

 

おかげで今もこうしてピンピン生きていられる。

 

 

 

俺がこの家に来た時、唯一持ってきたものがある。

 

それは、前の家に飾ってあったとある(がく)

挟んであるものは、おそらく父が書いたであろう書。

 

"置かれた場所で咲きなさい"

 

そう(したた)めてある。

 

なぜこれを持ってきたのかはっきりとは覚えていないけど、確か父に日頃から教訓のようにこの額の前で言われていたからだったと思う。

 

もちろんちゃんとした意味なんて分かっていたはずがない。

 

でもなぜかあの時は、おもちゃより、お菓子より、なにより、これが必要だと感じたのだろう。

 

いやはや、子供というのはやはりわからない。

 

その額は未だに持っていて、俺の部屋に飾られている。

 

千歌ちゃんに「誰かにもらったの?」とか聞かれても、なんだかんだ誤魔化してた。

きっと怪しんでたよね。

 

俺は、この言葉を胸に日々生きている。

 

それは、覚えていないなりに両親のことを忘れないようにしているから。

 

あっちでの生活を、記憶が混乱したからといって無かったものにしたくないから。

 

 

********************

 

 

千「そう……だったんだ……」

 

柚「これを話すのに、すごく勇気が必要だった。どうしても千歌ちゃんの悲しむ顔を見ることになっちゃうと思ったから」

 

頬を伝って流れ落ちる涙。

腰掛けていた砂浜の色が涙で変わっていた。

 

やっぱり悲しませてしまった。

心苦しいけど、千歌ちゃんには知る権利が、義務がある。

家族に隠し事は無しだと決めているから。

 

俯いて涙を流す千歌ちゃん。

小刻みに体を震わせているところを見ると、やはり堪えるものがある。

 

柚「ごめん、ごめんね」

 

後ろから千歌ちゃんを抱きしめ、震える手を握る。

 

千「千歌、決めたよ……ゆづにぃのこと、ずっと離さない。ずっと守り続ける。ずっと……愛し続ける……」

 

柚「……っ、千歌ちゃん」

 

千「これからもずっと、笑顔でいてほしいから、千歌は……」

 

柚「千歌ちゃん……」

 

嗚咽混じりのか弱い声で、ずっと愛し続けるって言ってくれた、大好きな義妹(いもうと)

 

自然と力が入る俺の両の腕。

 

柚「情けないね、妹に励まされるようじゃ……」

 

千「そんなことないっ、ゆづにぃは情けなくなんてない!」

 

さっきまでのか弱い声が一転、熱のこもった力強い声になった。

少し涙声ではあるけど。

 

千「それに、千歌たちはもう、()()なんだよ?妹だって、弱気になってる兄なら励ましてあげたくなるに決まってるじゃん!」

 

柚「!」

 

ハッとした。

疑っていたわけじゃないけど、深層心理ではおそらく考えていたのだろう。

高海家の一員ではあるが、俺だけ血の繋がりは当然ない。

養子という形でこの家に来たのだから当然である。

 

だからこそ、勝手に感じている疎外感があった。

急に来た血の繋がりのない男。

きっと煙たがられているんだ、受け入れられやしないんだ。

この家に来た頃は何度もそう思って枕を濡らした。

 

今はまったくそんな気持ちはないと思っていたんだけど、どうやら心の奥底で考えていたみたい。

 

柚「家族、かぁ……」

 

千「だからさ、隠さないで弱いところも出していこうよ、ゆづにぃ」

 

柚「……より一層、カッコ悪い兄貴になるけどいいの?」

 

千「元がかっこいいからへーき」

 

柚「悲しい時はハグとか頭なでなでとか求めるかもよ?」

 

千「いっぱいしてあげる」

 

柚「…………ありがとう」

 

 

キスをした。

 

 

もちろん頬に。

 

 

親愛と感謝の意味を込めて。

 

 

柚「かっこいい兄貴になれるように、頑張るから」

 

千「……うん、がんばれゆづにぃ!」

 

 

俺は、"高海柚希"。

過去の姓は残念ながら忘れてしまった。

親の顔も、名前も、姿形も忘れてしまった。

微かに耳に残る両親の声。

千歌ちゃんの力強くあったかい声が、2人の声に重なる。

あぁ、両親はきっと千歌ちゃんと一緒に、俺を見守ってくれてるんだなと、感じた。

 

 

形見代わりのあの額に記されている言葉のように。

今この場所で、きれいな花を咲かせるべく、俺は今日も必死に生きていく。

 

柚希side off

 

 

 

To be continued!




さてさて、いかがでしたでしょうか?

人の死を実は私は知りません。
とはいっても、死というものが何を意味するかというのはさすがに分かります。
幸か不幸か、身近な人が亡くなったという経験がまだ生まれてこの方なく、その悲しみはまだ感じたことがないのです。
きっと想像もできない悲しみに明け暮れ、前を向くのも難しいのではないかなと思っています。

そんな中、今回作品として柚希くんの両親が亡くなるという描写をさせていただきました。
人の死を知らない私がこういうことを書くのにはすごく躊躇いました。
「現実ではないから……」という軽い理由でもちろん書いたわけではありません。
死を描くというのは、非常に重いものだから。

でもきっと、絶対に誰もが行き着く最後の出来事。
向き合わないわけにはいかない時が来るはずです。
慣れておけ、なんて言いません。
身近な人がその最後の出来事に行き着いた時、いかに前を向けるか。
その人のためにも前に進めるか。
この度、ゆっくり考えて描きました。

しんみりしてしまいましたね。
このお話は柚希の過去とは切っても切り離せないものになっていくと思います。
過去無くして今は無し。
しかし向くべきは前。
作者共々この作品を通じて、まっすぐ前を見て歩み続けていきたいと思います。
応援のほど、よろしくおねがいします!

それでは、また次回お会いいたしましょう!

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