輝きを常に心に   作:たか丸

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みなさんこにゃにゃちわ、たか丸です。

長いこと、本当に長いこと期間が空きましたが、ずっと書きたかった柚希と梨子ちゃんの出会いを鋭意制作させて頂いておりました。

いつも以上に駄文をつらつらと述べてしまった気がしますが、お時間よろしければ読んでいただきたく思います。


モノクロ→カラフル

梨子 side

 

色のない私の世界を鮮やかに彩ってくれる。

 

いつか、いつかはそんな人に、そんな場面に出会える。

 

そしてその時はきっと、唐突に訪れるものだと思っていました。

 

実際にその出会いはあまりにも唐突でした。

 

?「おーーー、素敵な曲だね」

 

新しく通う学校に手続きに来た際、音楽室に訪れてピアノを弾いていた時でした。

にこにこの笑顔で拍手を送ってくる人。

 

同い年くらいの男の子でした。

黒髪で前髪を少し上げた七三分けみたいな……そんな髪型。

瞳はなにか悲しいものを抱えていそうな反面、優しさに溢れた澄んだ綺麗な黒。

端正な顔立ちは男らしいというより中性的。

細身で背が高い、そんな特徴の男の子。

 

梨「あ、ありがとうございます……」

 

なかなか男の人と1対1で話すことがないから少し緊張。

いつもより少し速い鼓動がそれを物語る。

 

?「もしかして、自分で作った曲?」

 

梨「あ、いえ、これは"バダジェフスカ"の"乙女の祈り"っていう曲です」

 

?「……?」

 

あ、なんだそれって顔してる……

頭の中がハテナマークでいっぱいになってそうな顔してる……

 

?「あはは、ごめんわかんないや……でも素敵な演奏だったよ!」

 

梨「ど、どうも……」

 

屈託のない笑顔で私の演奏を褒めてくれる名前も知らない男の子。

なんだか悪い人じゃなさそう。

 

?「キミ、この学校の制服着てるけど……この学校の人じゃ……ない、よね?」

 

梨「は、はい。えっと、東京から引っ越してきて……」

 

?「東京?!すごいなぁ!え、なんでまたこんな田舎に?」

 

梨「うーん……なんというか、少し環境を変えるため、ですかね」

 

なんでだろう。

素性も知れない男の子だけど、少し踏み入った話でも喋っちゃって大丈夫だなって思えちゃうんです。

 

?「ふぅ〜ん……てかごめん、キミの名前聞いてなかったね。ここの制服着てるし、これからここに通うんでしょ?」

 

梨「あ、はい、私は桜内梨子です。高校2年生です。東京の音ノ木坂学院高校から転入してくる予定です。この学校に通うのは手続きとかでもう少し後なんですけど……」

 

?「音ノ木坂?!ほぇ〜、そりゃすごい……っと、俺は高海柚希!この浦の星学院高校の同じく2年生!これからクラスメイトになると思うからよろしくね、梨子ちゃん!」

 

太陽のような眩しい笑顔。

心の底から笑えているような素敵な笑顔。

 

そんな笑顔に自然と惹かれたように思います。

触れなくても頬が紅潮しているのが分かるから。

 

フランクな話口から、最初は少しだけ、ほんの少しだけ嫌な感じがしたけれど、話していくうちに彼のあたたかさに触れ、そんな気持ちは微塵も感じなくなっていました。

 

……いきなりファーストネームで呼ばれたのはさすがにびっくりしたけれど。

 

なんだか彼には不思議な縁を感じました。

 

 

**********

 

柚希side

 

 

千「ゆづにぃただいまぁ〜!」

 

柚「ん、おかえり千歌ちゃん。なんだかご機嫌だね?」

 

千「うん!さっきそこの浜辺で東京から来た女の子に会ったんだ!」

 

東京から来た女の子かぁ。

千歌ちゃんみたいなどこか抜けててちょっぴりドジなこっちの田舎娘とは違って、しっかり者でおしとやかでおっしゃれ〜な感じなんだろうなー。

 

千「ゆづにぃ、絶対に失礼なこと考えてるでしょ?」

 

柚「んえっ?!そ、そんなことないよ!」

 

千「ふぅ〜〜〜ん……」

 

どうして心の内が読めるんだこの子は……

 

千「ま、いいけどさ。その子、()()()()()っていって、ピアノをやる環境を変えるためにこっちに来たんだってー」

 

ん……?梨子ちゃん??

数日前に浦の星で会ったあの子?

 

柚「その子ってなんというか、静かそうな美人さん?」

 

千「そうそう!……ってなんでゆづにぃ知ってるの?」

 

柚「この前浦の星でたまたま会ってね。今度から浦の星にかよ──」

 

千「なーーーんで鼻の下少し伸びてるのーーー?」

 

柚「え゙っ゙」

 

思わず手で隠したけど、逆にそれが怪しまれたみたいで……

 

千「ふーんだ!どうせゆづにぃは都会の美人さんにしか興味のない面食い男なんだよねーだ!かんかんみかんだもんねーだ!!!」

 

よくわかんない言葉を残して自室へドタドタと向かった。

美渡ねぇに途中で「うるせぇぞバカチカ!」とお叱りの言葉を頂戴してたけど。

 

にしても。

 

柚「……伸びてたかなぁ?」

 

だとしたら何故だろう?

やましい事なんて何も考えてないのになぁ。

 

とはいえ、千歌ちゃんも梨子ちゃんに会ったんだ。

しかもそこの浜で会ったってことは、越してきたのはこの近くなのかな?

学校で会えるのはもちろんだけど、普段も会えるなら嬉しいや。

 

柚「……いや、何が嬉しいのか全然わかんないケド」

 

まだ1回だけ学校であっただけの人なのに。

 

だけどそんな考え方をするとなぜか、心が少し、チクチクする。

 

柚「疲れてんのかな……晩御飯まで少し横になろう」

 

 

**********

 

梨子side

 

 

梨「ふ〜……」

 

力が抜けるように私はベッドに倒れ込みました。

 

梨「今日も疲れたなぁ……でも今日はピアノの調子がいつもよりよかった。いつもより弾けた」

 

東京では思うように弾けなかったピアノも、ここに来てから少しだけ調子が出てきたと思います。

 

目を閉じると思い出すあの光景。

 

ステージ上、圧倒的な存在感を放っている大きな楽器。

 

ライトに照らされ黒光りしているその楽器は、いつも私が相対しているものとは、どこか違う。

 

感じたことの無い恐怖に、身体を支配されているようでした。

 

深呼吸をひとつして、私はその楽器と向かい合います。

 

美しき白と黒のコントラストを持つ鍵盤。

 

その鍵盤に手をかけようとしても、身体が言う事を聞きません。

 

私は、"ピアノ"という楽器に取り込まれそうになります。

 

私が思うままに弾くのではなく、ピアノに弾かされてしまうのではないかと、そんなことまで考えてしまいます。

 

身体が震える。息が苦しい。

 

次の瞬間には、私の視界は、

 

 

白黒。

 

 

鍵盤を弾く度に溢れる色鮮やかな音は、その日以来、見ることも感じることも叶いませんでした。

 

私の世界から色は消え、全てがモノクロに変わってしまったのです。

 

 

ハッとして目を開くと、私の頬を涙が伝っていました。

 

梨「私……また泣いて……」

 

全く弾けなくなった当時に比べたらマシになったものの、私はまだ過去の出来事に囚われ、怯えているのです。

 

──また弾けなくなるかも、と。

 

幼い頃からピアノを弾くことは、私にとって人生を華やかにする唯一の楽しみでした。

弾くことが出来れば出来るほど、私は空を飛ぶような心地がしていました。

自分がキラキラと輝いて、まるでお星様になっているかのように。

 

そんな楽しみが苦しみに変わったのは、高校に入学してしばらくがたった頃でした。

 

国立音ノ木坂学院高校。

 

古くから音楽に力を入れるこの学校で私は、ピアノの才を更に伸ばそうと決意して入学しました。

 

しかし現実はそう甘くはなく、高い高い"壁"にぶつかることになるのです。

 

「思うようにピアノが弾けない」「弾けても楽しくない」

 

次第に"ピアノ"という存在が私を苦しめるものに変わってきたのです。

 

そうしてそんな感情を抱いた私は、さっき述べた出来事が最大の原因となり、鍵盤に手を置くことを辞めていました。

 

ピアノから離れようとする私を心配してくれた母が、内浦に引っ越すことで環境を変えようとしてくれました。

 

事実、都会の喧騒とはかけ離れた小さな田舎町でのびのびと数日間過ごしただけで、私は再びピアノに向き合うことが出来ました。

 

とはいっても、苦しい気持ちが完全に消えた訳ではなく、易しい曲を軽く弾く程度まで克服してきたレベルです。

 

梨「はぁ……」

 

溜め息がひとつ、夕日の明るさが少し残る部屋にこぼれます。

 

梨「お風呂入ってスッキリしてこようかな……」

 

ぽつりと独り言を呟き、体を預けていたベットに別れを告げ立ち上がる。

 

少し皺の付いた制服を脱ぎ、ラフな格好になりました。

というのも、隣の家がどうやら旅館であるらしく、温泉だけの利用も出来るみたいなので行ってみようと思ったのです。

母に温泉に行くと伝え、ふらふらと重たい足取りで私は家を出ました。

 

家を出て僅か10数秒、旅館『十千万』に着きました。

旅館の名前にはもちろん何か意味があると思うんですけど、さすがに何を意味しているのかは分かりませんでした。

 

梨「ごめんくださ――きゃっ!」

 

?「わっ、ごめんなさい!怪我はないですか?」

 

梨「は、はい、大丈夫で……って、柚希、さん?!」

 

柚「ん?……ありゃ梨子ちゃんだ!」

 

旅館の暖簾をくぐった瞬間、旅館から出てきた人とぶつかってしまいました。

誰かと思えば柚希さん。

数日前に会って以来の再会でした。

 

柚「こんなとこで会うなんて奇遇だね。どしたの?温泉入りに来たの?」

 

梨「えと、は、はい。母にここの温泉が評判だって聞いて、近かったから来てみたんです」

 

柚「ほ〜!そりゃなんともありがたい!」

 

ありがたい……?

なぜ柚希さんがありがたがるんでしょう?

 

柚「ん?ああ、実はここ俺が住んでる家なんだ」

 

梨「えっ、旅館がお家なんですか?!」

 

柚「へへ、そうなんだ〜。てか梨子ちゃん、タメなんだし敬語じゃなくていいんだよ?」

 

梨「そ、そうですよね……じゃなくて、そうだよね」

 

旅館がお家なんて羨ましい。

毎日温泉入り放題なのかな?

 

柚「っと、こんなとこで立ち話してちゃいけないね。ささ、入って入って!」

 

梨「お、お邪魔します…」

 

柚「お客様一名様ァ!ご案内ィ!」

 

えっ、えっ、えっ?

厳かな雰囲気の旅館なのに、もしかして結構ガテン系な掛け声使うの?

 

?「バカ柚希!その掛け声居酒屋でやるやつだろーが!静かにしろ!」

 

柚「あひー!美渡ねぇごめんなさーい!」

 

梨「ぷっ……!」

 

多分柚希さんのお姉さんなんだろうけど、注意してる側も声大きいし、すぐ素直に謝る柚希さんが面白くって、つい吹き出してしまいました。

 

柚「ひー……あ!梨子ちゃんやっと笑った!」

 

梨「えっ?」

 

柚「最初に浦の星でピアノ弾いてる梨子ちゃん見た時も、さっきばったり会った時も、すごく寂しそうな……何か少し楽しいことを忘れちゃってるような顔してたからさ。ちょっと元気づけてあげたくて……見当違いだったかな?」

 

梨「……」

 

正直、驚きました。

まだ出会ったばかりの、お互いのことをほとんど知らない男の子に、私の感情を読まれてしまったから。

 

柚「あれ……ほんとに違ったかな……?」

 

梨「えっ?あ、違くて……じゃなくて、違くないの……」

 

突然の事で、話していて私自身ちゃんと意味のある言葉を使えているのかわかりませんでした。

 

柚「……何かわけありなのかな?」

 

梨「なんていうか、私の気持ちの、心の問題なの」

 

柚「話しづらい事だったりする?」

 

本当は話しづらい。

ピアノに怯えているだなんて話をしても、変な人だと思われるかもしれないし、からかわれてしまうかもしれない。

東京にいる時でさえ誰にも話さなかったそれを、ほとんど素性もしれない男の子に話すだなんて考えられない。

 

そんな感情には驚くべきことに、一切駆られなかったのです。

 

私は柚希さんに案内された旅館のロビーで、東京で私が体感したことを赤裸々に話しました。

 

ピアノが大好きだったこと。高校に入ってからその感情を失いかけたこと。

そして、沼津に来たこと。

 

どちらかというと内向的な性格の私にとって、身の上話を出会ったばかりの男の子に話すということは、正直想像すら出来ませんでした。

 

だけど柚希さんは、柚希さんだけには、そんな話をしても大丈夫だという根拠の無い確信がありました。

 

事実、柚希さんは私が話している間ずっと私の目を見て、時折何かを考えるような顔をして、私の話を真摯に受け止めてくれました。

 

一通り話し終わった私の目尻には、涙が少しだけ溜まっていました。

 

柚希さんはそんな私を見てそっと、ハンカチを差し出してくれました。

 

柚「こんなこと言うと"お前に何がわかるんだ!"って言われちゃうかもだけど、すごく大変な思いをしてきたんだね」

 

外の方に顔を向け、少し目を閉じる柚希さん。

 

その横顔がとても整っていて、少しだけ鼓動が早まるのを感じました。

 

梨「ごめんね、まだ知り合って日が浅いのに、こんな話急にしちゃって……」

 

柚希さんが差し出してくれたハンカチで涙を拭いながら、柚希さんに話しかける。

 

ゆっくりと目を開いた柚希さんはこちらに顔を向け、優しく微笑みました。

 

柚「謝らないで。むしろデリケートなことなのに話させちゃってごめん。つらい思いを掘り返しちゃってごめん」

 

梨「ううん、大丈夫だよ。私が聞いて欲しかったから話しちゃっただけだし、謝らなきゃいけないのは私の方」

 

そう言って私は外の方に目をやり、夕日が完全に沈んだ海を眺めていました。

 

そんな私を見て柚希さんも視線を外に移しました。

 

やっぱり言わなければよかったんだと、少しだけ後悔している自分が心の中に現れ、誰かに話して少しでも気を楽にした方がいいという自分と争いをはじめました。

 

以降、私も柚希さんも口を開くことなく、ただ気まずい沈黙がこの場を支配していました。

 

時計の秒針が動く音。外から聞こえる波の音。時折走り去る車の音。

 

全ての音が鮮明に聞こえるほどの静寂でした。

 

柚「……これは俺の勝手な考えだから、気分を悪くしたら申し訳ないんだけど」

 

そう言って静寂を切り裂いた柚希さんは、立ち上がって私の目の前に跪き、優しく私の手を柚希さんの手が包み込みました。

 

あまりに突然の事で、一瞬で頬が紅潮したのが分かりましたが、そのことに柚希さんは気付いていないのか、そのまま話し始めました。

 

柚「楽しくピアノが弾けないっていう気持ちは常に持っていていいんじゃないかな?」

 

梨「えっ?」

 

柚「俺がずっと続けてきたことに"演劇"があるんだけど、梨子ちゃんと一緒、でいいのかわからないけど、1回とっても高い壁にぶつかっちゃったことがあったんだ」

 

少し俯きながら柚希さんは、私に語りかけるように優しく話してくれます。

 

柚「多重人格者の役で、何個もの性格とか語り口とか、果てには声音まで変えるようなすごく難しい役で、何やっても複数の人格の役を作ることが出来なくて、そんな自分に腹が立って、小学生の時から大好きだった演劇が嫌いになった瞬間があったんだ」

 

確かに多重人格を演じ分けるのは難しそう。

何も出来なくなって、そのもの自体が嫌になるっていうのは私も同じだから、すごく共感できる話。

 

柚「でも、俺は途中で投げ出して諦めることだけはしたくなかった。だからめちゃくちゃ努力して、寝る間も惜しんで役作りに没頭したんだ」

 

梨「寝る間も惜しんでって……すごい努力をしたのね」

 

柚「あはは、ありがと」

 

にこっとはにかむ彼を見て、また少し鼓動が早まります。

 

柚「それで結局役作りが完璧じゃないまま本番を迎えることになっちゃって、わけがわからないまま演技をせざるを得ない状況で、頭の中ごちゃごちゃになって舞台上でぶっ倒れちゃって」

 

梨「倒れっ……ええっ?!」

 

柚「役に飲まれちゃったんだよね。そんでこんなことになるなら演劇なんてやらなきゃよかったー!って、一時期考えちゃって……」

 

確かに、そんなことがあったら大好きなことも嫌いになっちゃいそうです。

 

柚「でもね、そうなっちゃったのは全部自分のせいだなって、冷静になって考えてみたらそう思えたんだ。自分じゃまだまだ完璧に演じられない役があるって気づけたし、だからこそ努力のしがいがあるって気づけた」

 

すごい……

ピアノが上手く弾けなくて、嫌になって逃げ出した私とは正反対。

 

梨「柚希さんは、強い人だね」

 

柚「ん、そんなことないよ。今でも上手く出来ないことに直面すると絶対に1度は逃げ出しちゃうからね」

 

あはは、と苦笑いを浮かべる柚希さん。

 

きゅっと私の手をさっきより少しだけ強く握った柚希さんは、顔を上げて私の目を見て、また話し始めました。

 

柚「だからね、どれだけ好きなことでも"これは出来ないな"って壁にぶつかる瞬間は絶対にあると思うんだ。でもそれを乗り越えた先にはきっと、素敵な景色が待ってるって思って、俺はいつも努力をするんだ」

 

梨「つらくはないの?」

 

柚「もちろんつらいよ。けど、そのつらさを乗り越えればまた一歩成長した自分になれる」

 

梨「……私に、できるかな?」

 

柚「突き放しちゃうかもだけど、それは梨子ちゃんの気持ち次第かな。"自分を信じないやつなんかに努力する価値はない"って、俺の心の師匠も言ってたしさ。だから、梨子ちゃんは梨子ちゃんを信じてあげて」

 

柚希さんはニコッと私に微笑んで、そう伝えてくれました。

 

彼の優しい言葉の数々で、少しずつ、胸につかえていた何かが取れかけたような、そんな気がしました。

 

梨「柚希さん、ありがとう。こんな私だけど頑張ってみるね!」

 

柚「うん、いい顔になった!」

 

先程までの静寂が嘘のように、私たち2人の弾んだ笑い声がロビーに響き渡ります。

気づけば旅館の看板に明かりが灯るほど、空は暗くなっていました。

 

梨「ところで柚希さん。心の師匠ってどなたなの?」

 

柚「えっ?!あー……わ、笑わない?」

 

梨「……?笑わないと思うけど……?」

 

柚「実は好きな漫画のキャラクターなんだ。忍者を題材にしてる漫画で、主人公の先生のライバルみたいな人……デス……」

 

梨「……ふふっ」

 

柚「あ゙ーーーっ!!!梨子ちゃん笑ったなぁ!!!」

 

梨「ご、ごめんなさい!バカにしてるつもりはなくて、なんだか柚希さんが急に可愛らしく見えちゃって、思わず……ふふっ……」

 

どことなく柚希さんから感じていた弟のような、守ってあげたくなるような雰囲気は、こういう一面があるからなのかもしれません。

 

柚「んも〜……と、とにかくさ、梨子ちゃんが持ってる"ピアノが楽しく弾けない"って感覚は、梨子ちゃんがさらにレベルアップできるってことを暗示していると思うから、その感覚は持っていていいんじゃないかなって俺は考えたよ」

 

私のレベルアップに必要な感覚。

成長するために、つらさや苦しさが伴うのはもちろん分かっていたけれど、それ以上に自分が成長出来る喜びの方が強いんじゃないかなと考えていました。

 

事実、小さい頃は色んな曲が弾けるようになっていく楽しさを味わったからこそ、また新しい曲に挑戦しようという気持ちが芽生えていました。

 

そんな感覚を私は大きくなっていくにつれて失っていたのかもしれません。

 

梨「ええ、私も柚希さんに言われてそう考えることが大切なのかなって思えた」

 

まだ怖さはあるし、私の性格上すぐにはそんな考えにシフトできるとは思えません。

 

けれど、少しずつ。

どれだけゆっくりでも。

 

まだまだ成長出来る伸びしろがあります。

 

梨「目の前の壁は、壊せるし、倒せるもの、よね」

 

柚「……さすが、音ノ木坂に通っていた人だね

 

梨「……?何か言った?」

 

柚「んーにゃ、なんでも……それよりさ、気持ちも少しは晴れたところで、よかったらうちの温泉、浸かっていってよ。温泉入ればさらに気持ちもスッキリできるよ」

 

あ、そういえば私、ここの温泉に入ろうと思って来たんだった……

すっかり忘れてた……

 

時刻はだいたい19時。

帰りが遅いから、お母さんからメッセも来てるみたい。

 

梨「うん、それじゃあ入らせてもらおうかな」

 

柚「まいど〜!あ、でも、今日は俺の奢りでいいから、好きなだけ堪能してきてねっ」

 

梨「ええっ?!そんな悪いよ!」

 

柚「いーのいーの!大切なお話聞かせてもらったお礼ってことで、受け取ってちょーだい」

 

梨「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

初対面の時にいきなり私の拙いピアノを褒めてくれたり、今もこうして重たい話をしっかり聞いて答えをくれたり。

なぜここまで出会ったばかりの人に尽くしてくれるのか、とても不思議です。

 

でもきっとそれは、彼が持つ優しい心があるからこそなんだと思います。

 

初めて会った時に瞳から感じた優しさに、間違いはなかったみたいです。

 

柚「それじゃ梨子ちゃん、ごゆっくり〜」

 

梨「ええ、ありがとう……柚希、くん……!」

 

柚「ふぇっ……?」

 

今日は温泉に浸かって、身も心もスッキリさせて、明日からまた少しずつ、ピアノと向き合おうと思います。

 

家を出た時の重たい足取りではなく、浴場へ向かう私の足取りはとても軽くなっていました。

ピアノを楽しく弾いていた、あの時のように。

 

柚希くん、勇気をくれて、ありがとう。

 

私の世界に少しだけ、明るい色が付きました。




いかがだったでしょうか。

ブランクはありながらも、ある程度は気持ち悪くならないような文章になったのかなと思います。

ちなみに柚希の心の師匠について。
もちろん、かの有名な八門遁甲の使い手として名高い、木ノ葉の気高き蒼い猛獣です。
ちなみにちなみに、同じ作品におけるたか丸の心の師匠が言っていたセリフは、「忍の才能で一番大切なのは持ってる術の数なんかじゃねェ……大切なのは、あきらめねェど根性だ」ですね。
マジでかっこいい人です。尊敬してます。

さてさて、たか丸はただ今絶賛就活中でございまして、正直さっさと終わらせて卒論もやって遊び回りたいんですが、来年以降就職先が自宅の警備のみだと些か不安ですので、納得のいく就活をして、時間を見つけてまた執筆しようと思います。

また少しオマタセシマシタさせちゃうかもしれませんが、どうかたか丸は就活に励んでいるんだと思って、温かく見守っていただければなと思います。


それではまた次回のお話でお会いしましょう。
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