ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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11 攻略戦

 最前線の主街区。

その転移門広場には、数多くのプレイヤーたちが集っていた。

 

「わぁ!こんなにいたんですね、攻略組って!」

「あぁ。お、キリトもいるぞ」

 

 クイナが嬉しそうな声をあげる。

クロスはその中にキリトの姿を見つけて、声をかけた。

 

「ん?ボス攻略に出るなんて珍しいな、クロス」

 

 装備はもちろん、背中の剣すら黒一色に統一した、影のような少年。

いっけん少女に見間違う線の細い顔立ちだが、その年上にも物怖じしない飄々とした態度は間違いなくキリトだ。

 

「まぁ、色々あるんだよ。……おいクイナ、どこ行くんだ戻って来い」

 

 子どものようにふわりと消えそうだったクイナを連れ戻し、クロスは嘆息する。

 

「へぇ。てか、まだ被ってるのか、その兜。印象わりーぞ?」

「真っ黒のお前に言われたくはない」

「ま、まぁまぁ!仲良く行きましょうよ!」

 

 クロスとしては冗談半分だったのだが、クイナに真剣な表情でたしなめられた。

 

「ん?この子誰だ?」

「あぁ、俺の連れだ」

「はい!クイナですっ!」

 

 不恰好な敬礼(しかも左手)をするクイナ。

そんなクイナからキリトは視線を外し、クロスを見つめる。

そして重く、口を開いた。

 

「……大丈夫なのか?」

「……あぁ。装備やレベルの面では問題ない」

 

 クロスは「大丈夫だ」とは言わなかった。

レベルや装備面では万全でも、万が一ということがあり、またクイナは今回が初めてのレイド戦であり、ボス戦なのだ。

通常のモンスターより巨大なことが多いボスモンスターに恐れを抱くプレイヤーは数多く、またそれによるパニックで命を散らす者もまた多いのだから。

 

「……そうか。わかった。俺はキリト、よろしくな」

 

 キリトもクロスの言いたい事を悟ったのか、小さく頷いた。

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 それから数十分くらいキリトと話していたのだが、いつのまにかリーダーが到着していたようだ。

 

「よし!では皆の者聞けぇ!!」

 

 どこか古風な、潔さそうな声。

三人がその独特な声の方向を向くと、一人のプレイヤーが立っていた。

 

 直ぐ目に入るのは、全身に纏う武者鎧。

鎧は赤系統の色で統一され、額にはU字のクワガタが見える。

クワガタの下にある顔も無精髭に精悍な灰色の目、ほりの深い顔と、まさにサムライの理想像のよな顔立ちだ。

腰に佩《は》いた黒塗りの刀はレア物のようで、見るからに高性能で、おそらくそれなりに名のあるプレイヤーなのだろう。

 

「ほう、見たことない……レアドロップかな?」

 

 キリトも刀の凄さに気がついたのか、口角を吊り上げて不気味に笑っていた。

 

(クラインとは大違いだな……)

 

 目の前の威風堂々たるサムライと、友人であるクラインを比べて、クロスは思わず微笑む。

クイナは「つ、強そうですね……」とのけぞり気味にありきたりな感想を述べていた。

 

「――――我輩がこたびの(いくさ)の采配を振るうムラマサである!!以後よろしくお願いいたす!」

 

 赤武者鎧――――ムラマサは戦国武将のような言葉で挨拶し、広場のプレイヤーたちが歓声でそれを迎える。

 

「うむ。ではこたびの戦の策を提示させていただく。まず、偵察隊の話によると、こたびの大将の名は<ヘイズ・グレイベア>。

我輩はカタカナに詳しくないが、恐らくは熊であろう。そしてこたびの戦場は滑るそうだ。皆、足元には十分気をつけてくれ」

 

 ムラマサの説明を、全員が真摯に訊く。

クロスもただ一つでも情報を脳髄に深く刻み込もうと、ムラマサのサムライ言葉に耳を立てた。

 

 そのあともムラマサの説明が続き、その後パーティの編成。

クロスの希望通りクイナと離れることはなく、パーティも知り合いの顔がある。

 

 そして今は、迷宮区へ向かう退屈な道のりだ。

 

「なぁクロス。今回のボス、どうだと思う?」

 

 同じパーティになったキリトが声をかけてきた。

 

「とりあえず、足元とHPに気を使えばいいだろう」

「あぁ。クマだから<ソードスキル>はないだろうが、ブレスとか、謎の専用スキルのことも考えないとな……」

 

 ムラマサの言った、<ヘイズ・グレイベア>の攻撃方法。

その中、ただ一つだけ不明だった点は、専用スキルについてのことだった。

 

 ムラマサの話によると、偵察隊の一人が謎の輝きを目撃しているのだ。

 

それは霧の中でよくわからなかったそうだが、放った体の大きさからしてボスモンスターのスキルであることは間違いない。

しかしそれが霧の中だったことと、そして偵察の限界時間が迫っていたことから、最後までよくわからなかったそうだ。

 

 そのため偵察隊を非難する者もいたのだが、それはムラマサの一喝で全て防がれていた。

いわく、「彼らの勇気に感謝もせずそのような戯言を言うとは何事か!?」だそうだ。

 

 その意見にはクロスもまったく同意見だが、やはりムラマサの独特な言葉づかいには困惑してしまう。

 

「ってか、あのおっさんの言葉、なんとかできないのか?」

「まぁそういうな」

 

 キリトも同じ考えのようだ。

 

「でもあの人、とっても強そうです!頼りになりますよ!」

「そうだな。どっかのLA(ラストアタックボーナス)盗りよりは頼りになりそうだ」

「な、なんだよ」

「いや。なんでもない」

 

 クロスは肩をすくめると、ゆっくりと歩き出した。

目の前では準備を終えた者たちがつぎつぎと迷宮区のほうへと歩を進めている。

 

 

 第61層へ伸びる、黒曜石の塔。

 

 

 それはクロスたちの眼前に憮然と立ちふさがり、そしてその頂ではムラマサが言ったボスが待ち構えているのだ。

攻略レイドのみんなもそわそわしていて、落ち着きがない。

みんな、この戦いに多かれ少なかれ緊張しているのだろう。

 

 列の後方で思いにふけりながら歩いていると、突然声がかかった。

特徴的な、一度きいたら忘れないだろう声。

 

「お主、少しいいだろうか?」

「ああ。どうしたんだ?」

 

 いつの間にか後列に下がってきていたムラマサをクロスは訝しげに見る。

 

「うむ。お主ら、なかなか手練に見える。名を聞かせてもらえぬか?」

「クロスだ。真っ黒がキリトで、忍者風なのはクイナ」

「よろしくお願いします!」

 

 クイナが頭を下げると、馬の尻尾のようなポニーテールが揺れた。

 

「ほぉ、そこのキリトとやらもいい腕のようだ。お嬢さんも、悪くは無さそうであるな。みな一丸となって頑張ろうぞ」

「ああ。こちらこそよろしくな、ムラマサ。ところでその刀なんだが……」

 

 キリトが興味深げに刀の事を訊くと、ムラマサはカッ! と目を見開く。

 

「おう!お主、この刀の素晴らしさがわかるのか!?そう、これは先日手に入れたものでな……」

 

 よほど嬉しいのか、ムラマサは夢中になって語りはじめる。

 

 キリトも予想外だったようで、ムラマサに驚くほど詰め寄られて顔をしかめている。

そのムラマサの話は迷宮区のボス部屋直前になるまで、止まることはなかった。

 

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