「な、なんだ、なんなんだ、アレは……!?」
「あ、あいつ、さっきと全然動きが……!」
霧の中、呆然と立ち尽くしたプレイヤーは恐れるように後づさる。
先ほどの光景を信じたくないかのように。
「み、みんな! 動揺しないでっ! 体勢を立て直すのよ!」
アスナが声を上げる。
だが、それは逆効果だった。
「い、いやだ。し、死にたくない――――うわぁぁぁぁぁぁッッ!!」
「お、おい、逃げるな!」
「お前も逃げろ! 死にたいのかっ!」
一人をきっかけにして、引きずられるようにプレイヤーたちが逃走を始める。
そのあいだにも<ヘイズ・グレイベア>は霧の中を駆け回り、まるで辻斬りのように切り裂いていた。
「くっ……! 速過ぎる……!」
「く、クロスさん……」
心配そうに見上げるクイナに、クロスは刀を構えなおしながら言った。
味方は、もう壊走し始めている。
このままでは撤退して、またやり直しになってしまうだろう。
それなら、またやり直せる。
だが、ここで撤退すると、心が折れてしまう気がするのだ。
もう随分長い間、ボス戦での死者も当然だが、このゲーム全体での死者が減っている。
想定外の事態や、プレイヤーキルによる死者はまだあるが、ゲーム開始当時からするとそうとう減ったのだ。
だからプレイヤーはみんな、忘れかけている。
このゲームが、デスゲームであることを。
もちろん、心のそこから、本心から忘れているわけではない。
だけれども、初期のような、殺伐としたリアルなものとしては、感じていないのだ。
だからこそ、今このように一人の死者でパニックに陥り、壊走している。
かつてなら、悲しみこそするが、立ち上がり、システムに憎悪と怒りで反抗することが出来たのに。
それが、このデスゲームという状態に慣れてきているということなのかもしれない。
だが、今このボス戦という大事な状態に、慣れてもらうわけでは行かないのだ。
だから、クロスは決心した。
静かに息を吸う。
そして、部屋中に響き渡るように、思い切り大きな声で叫んだ。
「おい! お前らぁぁっっ!!!」
「っ!?」
――――こんな大きな声を出したのは、一体いつぶりだろうか。
「くじけるなっ! 戦えっ! それが死者へのたむけだっ! 確かにアイツは死んだ。だから逃げるのか!?」
霧の向こうからは、沈黙しか返ってこない。
それが通じていないのではないか、誰も耳を貸してないのではないかという疑心を持たせる。
「だったら、このゲームをクリアして、助かるっていうアイツの想いはどうするんだ!? 踏みにじるのか! お前らも、帰りたいだろう! だからここにいるし、今までレベルを上げてきたんだろう! なら、アイツの想いを見捨てるな! 逃げるな! この臆病者ッッ!!」
たとえ、あとで扇動者と罵られてもいい。
だから、今は戦ってくれ。
諦めないでくれ。
クロスはその一心だった。
そのとき、霧の向こうから、小さな声が聞こえた。
「……そう……かもな……」
「でも……死ぬのは、こえぇよ……!」
最初はたった二つの、相反する言葉だった。
だが、だんだんと、小さな言葉は増えていく。
「そこまでコケにされると……いらつくなぁ……」
「はは、ちげぇねぇ……」
それはだんだんと、大きく、意志のこもった声になっていく。
「今の奴、このクマ倒した後覚えてろよ……!?」
「そこまでいわれると……あぁムカムカしてきた……!」
「わかった、やってやんよ、クソが……!」
ぞろぞろと、ゆっくりとした足取りで、霧の向こうから帰ってくる。
「すごい……みんな、帰ってくる……!」
アスナの驚きの声。
「あぁ……じゃあ行くぞ」
「はい! ついて行きますっ」
クイナの声に、クロスは走り出した。
戻ってきた戦士たちとともに。
文章力が足りないので、クライマックス感が皆無。