ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

14 / 42
14 解放戦 終

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

 

 凄まじい怒号。

クロスの鼓舞によって戦意を取り戻したプレイヤーたちは、今までとは比べ物にならないほど生き生きとしていた。

 

 特に決まった戦術も、連携もない。

 

 だが、それは波状攻撃を学習し、耐性をつけはじめていたヘイズグレイベアにとって、想定外の事態だった。

プレイヤーそれぞれの経験則から生み出された、荒削りだが効果的な戦術。

 

 それはとても彼らに合うようで、見る見る戦果はHPゲージの減少となって現れてくる。

 

 元より、特殊な訓練も受けず、軍人のような義務感もない彼らに、軍隊じみた集団行動は能力を縛るものだったのかもしれない。

だから今こうして戦果を挙げているし、なのに被害者は少ないのだ。

 

 タンク、アタッカー、遊撃隊。

その三つの役割分担と、一人の勇敢な指揮官がいれば、全ても物足りる。

 

 ムラマサの提示した、細かい役割分担による戦闘も否定はしない。

単に、通常のMMOとは違うこのSAOでは、こちらのほうが合っていたと言うだけなのだから。

 

 クロスも負けじときりつけ、隙あらば高威力のソードスキルを放つ。

 

 そしてついに、ヘイズ・グレイベアの残りHPゲージが、最後の一本に突入した。

 

 ――――これなら、勝てる。

 

 

誰もがそう思い、安堵した。

 

 

 

 だが、それはむなしく打ち砕かれる。

 

 

 

「グヴォオオォォォォォォォッッッ!」

 

 ヘイズ・グレイベアが咆哮し、大気がビリビリと震えた。

 

 同時に、今まで視界を覆ってきた白い霧が吹き飛ばされる。

そして、ヘイズ・グレイベアの変貌が始まった。

 

「な、なんだ、アレ……!?」

 

 全員の意思を代弁する、誰かの声。

 

 霧が晴れたフロアは、最初子の部屋に入ったときのように無機質だった。

違うのは、薄く張った水溜りの上に、巨大なクマと、それを取り囲む無数のプレイヤーがいることだ。

 

 フロア中央に堂々と立ったヘイズ・グレイベアの巨体は、こうしてみてみると凄まじい。

2メートル以上はありそうな長い腕がだらりと垂れ、赤く輝く瞳は周囲を睥睨している。

 

 そして、変化は始まっていた。

 

 ヘイズ・グレイベアを覆う灰色の毛。

それが、じょじょに赤みを帯びているのだ。

 

 灰色がだんだんと赤く染まっていく。

 

 そして、全身が鮮血のように赤く染まった時、再び咆哮が響き渡った。

 

「グヴォオオアァァァァァァァァァッッッ!!!」

 

 そして、その豪腕を振るう。

それは寸分のくるいなくクロスを狙っていた。

 

「くっ!!」

 

 かろうじて受け止めたが、クロスの体は紙切れのように宙を舞う。

 

「クロスさん!」

 

 クイナの悲痛な声が、吹き飛ばされたクロスの耳に響く。

見ると、満タンだったはずのHPが、今では半分ほど減っていた。

 

 ――――防いでコレかよ!?

 

 立ち直ったクロスは、すぐさま周囲に警告を飛ばした。

 

「気をつけろ! 喰らったら危ない!!」

 

 警告を飛ばしたせいか、ラストアタックを狙って無茶をする者はいない。

だが、攻撃力の大幅なアップは、そのまま損耗率に響いた。

 

イエローに突入して後退する回数が増え、中にはポーションや回復結晶が無くなり、やむなく撤退するしかない者も増えているのだ。

 

「こ、これ、やっぱダメなんじゃ……」

「諦めないで! いくわよ!」

 

 小柄な男性プレイヤーを叱咤しながら、アスナが駆けて行く。

 

(また戦意が、落ちてきているのか……)

 

 ヘイズ・グレイベアの第二形態。

そのときに霧が晴れてくれたのは、茅場明彦の数少ない良心なのだろうか。

 

 

 

「――――はぁ……」

 

 

 

 クロスは深いため息を吐いた。

 

「……ムラマサ、キリト、すまん。20秒ほど抜けるぞ」

「ん? あぁ、わかった。任せろ!」

「了解した!!」

 

 その言葉を聞いたあと、少し下がり、メニューを開く。

 

 ――――いいのか?

 

 メニュー欄を見たところで、一瞬迷った。

だが、迷うわけにはいかない。

 

 改めて、画面の操作する。

 

 アイテム欄を開き、アイテムを一つオブジェクト化。

 

 そしてスキル設定で、いくつかのスキルを入れ替える。

 

 これで、操作は終わりだ。

これだけでこの戦いを終わらせられるなら、安い物である。

 

「終わったぞ!!」

 

 そう叫ぶと、キリトとムラマサが同時に振り向いた。

 

「あぁ! ――――ってお前っ!?」

「うぬ!?」

 

 驚きの言葉を無視して、二人の間を駆け抜ける。

そして、白刃が煌めいた。

 

 大太刀重突撃技<シデン>。

 

 爆発的な速度に乗った、居合い斬りだ。

 

両手の太刀と鞘で、クロス自身でも見えないほどの神速のニ撃を見舞う。

 

 その威力を受けて、ヘイズ・グレイベアの身体が仰け反り、HPゲージが眼に見えて削られた。

 

「グガァァァッ!!」

 

 ヘイズ・グレイベアが絶叫し、紅いエフェクトを纏わせた爪を振るう。

交差するように振るわれた爪をそれぞれ太刀と鞘で防ぎながら、クロスも兜の中で叫んだ。

 

「うぉおぉぉぉっ!!」

 

 そして構えを変え、再びスキルを発動。

蒼い光を纏わせる。

 

 大太刀重単発技<オロチ>。

 

 左の鞘と右手の太刀を一つにあわせ、袈裟切りに振り下ろす。

それを受けて、ヘイズ・グレイベアは思わず体勢を崩した。

 

 そして、今までの借りを返すかのように、ラッシュを開始する。

 

 右の太刀で中段から切り払い、逆手に持った左の鞘で側頭部を殴打した。

そのまま回転し、今度は振り向きざまに真上から太刀を振り下ろす。

 

 右、左、右。上下左右、縦横無尽。

自分が嵐そのものになったかのような錯覚を感じながら、無心で剣を振るった。

 

 交互に、不規則に高速で連撃を放ち、動けないボスを徹底的に斬りつける。

そのたびに視界の端に表示されたヘイズ・グレイベアのHPゲージが削り取られていく。

太刀と鞘が纏った紫の残光が舞い、周囲の景色を彩った。

 

 これが、今クロスが使える最高の剣技である、上位剣技<タケミカズチ>。

 

 計14連撃の、嵐のような猛攻だ。

 

「グヴァアアアァァァァァァッッッ!!!」

 

 絶叫していたのは、ヘイズ・グレイベアだけではなかった。

クロスも絶叫し、最後の一撃をその眉間に叩き込む。

 

 ――――ヘイズ・グレイベアが硬直した。

 

 そして次の瞬間、その巨体は蒼いガラス片となって消滅した。

通常モンスターとは比べ物にならない膨大な破片に、視界が覆われる。

 

 勝った、のか……?

 

 クロスはいまだ加速した視界に目が眩みながら、無意識に太刀を鞘に収める。

 

 周りは静寂だ。

なにも聞こえない。

視界には、今だ残留するガラス片と、岩壁が映っている。

 

 いや、もう一つ。

 

 『congratulations!』という白い文字が、中空に浮かび上がっていた。

 

「や――――」

 

 視界の端にいた、名も知らぬ青年が呟いた。

その続きの言葉も思い浮かばない。

 

 クロスがその続きを考える前に、答えが莫大な音量で返ってきた。

 

「やったぞおぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」

 

 周囲が歓声で満たされる。

大音量に気を失いそうだったクロスは、力なく周囲を見渡した。

 

「やったなぁ!!」

「すげぇ、すげぇよお前っ!!」

 

 見知らぬ短剣使いと槍使いに称えられ、ばんばんと肩を叩かれる。

そのあとも何十人ものプレイヤーに囲まれて、身動きが出来なかった。

 

 だが、それでもよかった。

 

 これ以上被害者が増えなくて、本当によかった。

 

 音を少し遮断してくれる兜に感謝しながら、クロスは心の底からそう思ったのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。