エースコンバットをやったことがある方には、「エイギル」と読む方もいるかもしれませんね。
あれはつづりが「AEGIR」ですが。
では、本編をお楽しみください!
ボス攻略戦が終わってから、三日が経った。
だが、俺、クロスの疲労は収まるところを知らなかった。
「こらー、開けろー!」
ドン、ドンッ! とドアを叩く音が、部屋にむなしく響く。
なんでここもわかったんだよ……
俺が疲れきっている理由。
それは幾多の<カタナ>使いや情報屋に、文字面どおり三日三晩追い掛け回されたからだ。
ヘイズ・グレイベア攻略戦の後、どうやって調べたのか、借りていた宿には大勢のプレイヤーが押しかけ、出ることも出来ない状態になった。
当然抜け出さざるを得なくなり、できるだけ人が少ない階層で宿を取ったが、俺は結局隠密スキルMAXのストーカーに気づくことが出来なかったらしい。
次の朝、ガンガンと響いたノックの音で叩き起こされたのは言うまでも無かった。
ここが電子とシステムの世界でなかったら、きっとドアはノックによって木っ端微塵になっていただろう。
そういったわけでその宿からも転移結晶で逃走せざるを得なくなり――――そこから俺とストーカーの鬼ごっこが始まったのだ。
入り組んだアルゲードの路地裏を駆け抜け、未だにマッピングされてない辺境のフィールドを駆け抜ける。
当然ストーカーも追跡や索敵、隠密スキルを駆使して追いかけてくるが、その数は少しづつ減っていった。
そして、ここは数ある過疎階層の中でもダントツのプレイヤー人口を誇る層、第28層。
立て札が無ければ廃墟か物置と勘違いしてしまいそうなほど質素な宿だ。
薄汚れた窓のむこうには、霧の立ち込める陰気な街並みと、そのさらに向こうにある広大な湿地帯が見える。
そう、ここは沼地の階層。
夜には霧雨が降り、フィールドの沼地にはアンデッドやゴースト系のモンスターが徘徊する。
到達当時は夏だったため、昼夜問わず尋常ではないほど蒸し暑く、最前線プレイヤーでさえ休む時はわざわざ他階層に転移していたほどだ。
今は夏ではないが、それでも気分は悪い。
どことなくじめじめしていることが多い日本の夏が涼やかに感じるレベルだ。
そしてそんなところをわざわざ選んだにもかかわらず、ついて来る者がいる。
ここ数日で鍛えられた耳で聞き分けたところ、ノックの音からして一人だ。
他プレイヤーが隠れているということもあるかもしれないが、そんなことができる奴らなら俺はとっくにボックス(複数で一人を囲んで動きを封じる非マナー行為)で捕まっているだろう。
「こらー、開け――――うわっ!!」
憂鬱な気持ちでドアを開ける。
どうやらかなり体重をかけてノックしていたようで、空けた途端に彼女が部屋に倒れこんできた。
「……お前には呆れきってむしろ感心したぞ」
「急に開けるなぁ!」
そう怒った赤ポンチョの女性はアギル。
男っぽいネームだが、れっきとした女の子だ。
「で、なんのようだ?」
「決まってるわ! あなたのユニークスキルのことよっ!」
くすんだ赤銅色の短髪を揺らしながらアギルは言った。
とぼけても無駄らしい。
「さぁ、取得条件を教えて! 今回は特別に言い値で買ってあげる!」
「……二日前も言ったが、俺自身にもわからないんだ。身に覚えが無い」
「うそよ! わかっているわ!」
自信満々に言うが、根拠が全く無い。
本当に身に覚えが無いのだ。
<大太刀>を獲得したのは<両手剣>スキルを上げる前だし、<カタナ>スキルをマスターしているプレイヤーは他にもいる。
本当に、ある時メニューを開いたらあったのだ。
アナウンスも特別な表示もなく、まるでずっと前からあったかのように、整然と。
そうありのままの事を話すが、アギルはあまり信用していないようだった。
「ふ~ん……そこまでとぼけるのね……」
「ああ。真実だ」
アギルはホットパンツを穿いた、剥きだしの足を組んで俯いた。
ポリゴン独特のシミ一つ無いきれいな肌に一瞬眼が行く。
基本的に女は心から信用しないことにしているのだが……兜を被っててよかった。
「そう……。なら……」
ふと、アギルは顔を上げて、
「――――なら、付き合ってくれない?」
「……いや、なんでだ。断る」
意味がわからない。
お前は何を言っているんだ。
大丈夫か? と訝しげにアギルを見る。
俯いていて、顔は見えない。
「……即答しなくてもいいじゃない……」
「……悪いな」
「……女の子に誘われて即断るなんて……もしかしてあなた、ヘタレ?」
「……、」
「……ゴメン」
重苦しい空気が、ただでさえ湿気た部屋に流れる。
「いや、いい。事実だ。それより、俺は<大太刀>の出現条件を知らん。これだけは本当だ。信じてくれ」
「……わかった。でも、諦めないわよ。死んでいったみんなのためにも」
アギルは覚悟に満ちた瞳を俺に向けた。
とても悲しげな、悪い意味で大人びた瞳だ。
まだ20にもなってないのにな……
思わず、心が痛んだ。
アギルも重い過去を持っているのは、俺も知っている。
それが空元気の態度と、悲しげな瞳を宿らせているのはわかりきっているし、俺も深くは尋ねない。
アギルもそのせいか俺の過去について言及しないし、なんだかんだで俺たちの交友も続いているのかもしれなかった。
傷の舐めあいとも取れるが、それでも人間助け合いは必要なのだ。
少しの静寂の後、アギルが口を開く。
「……あなたには悪いけれど、せめて、パーティは組んでくれない?」
「……わかった」
クイナという前例もある。
認めないわけには、いかないようだった。
新キャラ、アギル登場。
正直、原作にいた「アルゴ」でもよかったのですが、こういうタイプの人も出してみたかったのです。
クイナやシオン、原作ヒロインたちとも違う人が。
(誰かといえばシノンが一番近いか?)