ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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18 極西の廃森

 <極西の廃森>。

この階層の、文字通り最西端にあるエリアだ。

 

 廃森の名の通り、木々は朽ち果てて茶と黒に染まり、草は枯れ草色になり固まっている。

まるで時間が止まり、永久に冬になってしまったかのような、儚い景色が広がっていた。

 

「こんなところがあったんですね……」

「ふーん。知らなかったわ……」

「あぁ。俺くらいしか訪れないところだ。稼ぎも悪くはないが、交通の便を考えるなら、他にいったほうがいいってほどだ」

「それに、なんか、陰気ですね」

「そりゃな。廃森なんて名前だから当然だろ」

 

 枯れ木の枝から強襲してきた<ブラッドフロッグ>を叩き切りながら言った。

 

「ほら、きたぞ」

 

 ブラッドフロッグは集団で動くモンスターだ。

だから一匹出たときは、大抵複数出てくる。

 

「ひぇぇ……」

「うわ、きも……」

 

 枯れ木の枝に乗った無数のブラッドフロッグを見た女性二人の顔が青ざめた。

もう帰りたいとでも言うかのような表情である。

 

「グェッッ!!」

 

 一匹が飛び掛る。

すると、他のブラッドフロッグも次々と枝を蹴り、こちらに突っ込んできた。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 朽ちた森に、二つの悲鳴が響き渡る。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「……解せぬ。ついてくるって言ったのはお前らじゃないか」

「説明不足っ!」

「そうですっ、気持ち悪いモンスターが出るなら先に言ってくださいっ!」

 

 女性二人の理不尽な言い分に、俺はため息を吐いた。

まったくもって、だから女性はあまり好きになれないのである。

 

「まぁ、もう少しでクエストの場所だから、耐えろ」

「……それ、どんなクエ?」

「ん? 『廃した森の記憶』だ」

「……気持ち悪いの、出てくる?」

「知らん」

 

 そんな他愛のない話をしながら、俺たち三人は朽ちた森の中を進む。

女性二人が口うるさいため、気持ち悪い(らしい)モンスターがいるところは避けていた。

 

 俺が最近受注したクエストに立ち向かうには、万全にしていくほうがいい。

クエスト名からして、この森の始まりに関わるクエストなのだろう。

 

 この森には、青々と茂る木が存在しない。

葉が落ちた枯れ木か、茶色く枯れた草か、毒々しい菌類か。

植物はそれだけで、動物、つまりはモンスターのたぐいも、何かに毒されたような外見のものしか登場しない。

そのくせ骸骨や幽霊といったアンデッド系が出てこないのも不思議なところだ。

 

 一体このエリアを造った人は、どういう意図があったのだろう。

 

 そんなことを思いながら、無機質な森を進む。

すると、視界が急に開けた。

 

「うぅ……クロス、着いたぁ~?」

「ああ。気を引き締めろ」

 

 すっかり疲れきった様子のアギルは、小柄なクイナを人形のように抱きながら言った。

人形扱いされていたクイナも疲れてしまったようで、暗殺者らしい気迫はない。

もっとも、いつもの様子も「冷徹な女仕事人」とは言いがたいが。

 

「ほら、来るぞ」

 

 視線を広場に戻すと、広場中央の沼が不気味に泡立っているのが見えた。

もうファンタジー恒例というべき毒々しい光景に、アギルが嫌そうな顔をする。

 

「グ、グガァァァァァ……」

 

 まるで、冥界から蘇った亡者のような声。

それは、まさにこの滅びた森にふさわしいモンスターだった。

 

 黒光りする皮膚と、朽ちかけた鱗。

腐りかけた全身はどろどろと溶け、威圧的な風貌はさらに増して見える。

 

 ――――ヒュドラ。

 

 一つの体に複数の首を持つ、伝説の怪獣だ。

視界、ヒュドラの頭上に<デュース・ヒュドラ>とモンスター名が表示される。

 

 だが、下級階層で出現した<ヒュドラ>とは、さらに異なるところがあった。

<デュース・ヒュドラ>の8つの首の一つ、その頭上に、人影が乗っている。

溶けかけた黒いローブを纏った人影は飛び降りて、こちらにその禍々しい杖を向けた。

同時に、その頭上にも<ドューム・サモナー>とカーソルが出現する。

 

「に、2体同時……!」

「き、気持ち悪いです……」

「そういうな。それ、来るぞッ!」

 

 ヒュドラの8つの首、その解けかけた獰猛な口から、8発のブレスが発射された。

強く地面を蹴って、それを避ける。

 

「arva,dibula.slrbaenai!!」

「くっ! アイツもかッ!!」

 

 不吉な、まるで呪文のような謎の言語を呟いたサモナーは、その手を地面にたたきつけた。

叩きつけられた手から扇状に泥と毒の波が広がる。

 

 アインクラッドには一般に魔法と呼ばれるものは存在しない。

しかし、それはプレイヤー側のみで、モンスターに関しては生物学を超えたブレスや魔法じみたものを撃ってくるのだ。

プレイヤー側には遠距離攻撃が無いので、そういう技を持っている敵は意外と強敵になったりする。

 

「え、きゃっ!」

「アギルッ!」

 

 反応しきれなかったアギルが泥と毒の波に触れ、弾き飛ばされた。

視界に表示されたアギルのHPがイエローに突入する。

 

「下がれ、クイナ、気をつけろ!」

「わかってます!」

 

 クイナは敏捷値重視の能力を使って、サモナーの背後を取る。

 

 発動したのは、短剣スキル<ヘメリッジスプラッシュ>だ。

<ヘメリッジスプラッシュ>は、超至近距離でなければ当たらないほど範囲が狭いスキルで、代わりにかなり大きな攻撃力を持っている一長一短のスキルだ。

発動までの時間も1.5秒とかなり長く、当たれば強いが非常に使い勝手が悪いスキルである。

 

 赤紫の閃光がサモナーを貫き、そのHPが一気に6割ほど減少した。

俺も噛み付いてきたヒュドラの頭を切りつけて、クイナに攻撃が集中しないよう援護する。

 

「ゴガァァァッッ!!」

 

 ヒュドラがおぞましい咆哮を上げ、8つある首の一つが噛み付いてきた。

ぎりぎりで飛びのいて回避し、すかさず身動きの取れないその頭を切りつける。

その一撃で削りきれたのか、首は半ばでちぎれとび、頭は無数のカケラとなった飛散した。

 

「グゴォォォォッ!」

「ッ! まずい!」

 

 本体の方を見ると、先ほど倒した首以外の7つ、その全てが俺に向けてブレスを放とうとしていた。

俺はまだ行動したばかりで、身動きできない。

 

「クロスさんっ!」

 

 クイナの声とともに、7発の白い火球が放たれた。

レベル差がどれほどあるのかわからないが、7発ももらえばただではすまないだろう。

動かない体を憎らしく思いながら、俺は目をつむった。

 

「まったく、世話が焼けるわねっ!」

 

 だが、直後襟の辺りを思い切り引っ張られ、浮遊感を感じた。

眼を開けると、赤いケープがすぐ前でなびくのが見える。

 

「アギル……!」

「そうよ! ったく、それでも『大嵐』ッ!?」

 

 『大嵐』。

非常に遺憾ながら、<大太刀>使いクロスこと俺の二つ名だ。

どうやら、鞘と太刀の二つを振るい、嵐のように剣戟を撒き散らすかららしい。

ちなみに、名付け親は前回のボス攻略戦を取り締まっていたムラマサだ。

 

 当然そんな二つ名を名づけた彼には報いを受けてもらうが、それはそれとして。

 

「アギル、その名前で呼ぶな」

「はいはい! じゃあね! 私まだ回復できてないんだからっ!」

 

 助けた勇士はどこへ行ったのか、あっさりと退散するアギルに、俺は感心する。

 

「クイナッ! 油断した、一旦引くぞっ!」

「っ! はいっ! はあぁッ!!」

 

 クイナは一発追撃したあと、素早い身のこなしで後退する。

 

 意外に苦戦するかもな。

 

 俺は意志を堅くして、三人で安全地帯まで後退した。

まだ、夜は遠い。

 

 




前回のフラグが見事に建ってしまいました。申し訳ありません。
・・・あれ? 毎回謝ってないか?
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