ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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20 スカウト

「クイナッ! 右に跳べッ!」

 

「はいっ!」

 

 俺、クロスの怒鳴り声に、クイナが身軽に跳んだ。

直後、その地面にブレスが着弾し、地面を(えぐ)った。

 

「グガァァァァァッッ!!」

 

 ヒュドラの不気味な鳴き声が、避けられたことに怒るように響いた。

クイナは華麗に着地すると、その小刀を構え、一閃する。

クイナの斬撃に、ヒュドラの意識が向いた。

同時に、俺は地面を蹴り飛ばす。

 

「よしっ! クロス、いけぇ!」

 

「わかってる!」

 

 後方からアギルの声が聞こえた。

それを合図にするかのように、俺は加速し、大太刀を抜き放つ。

 

「はぁああッッ!!」

 

 大太刀重突撃技<シデン>。

鞘から抜き放った太刀を横に凪ぐ、居合切りに近いスキル。

 

 神速の連撃に、ヒュドラの首、その一本が切断された。

7本あったヒュドラの不気味な首は、今や4本にまで減っている。

今切断したので、残り3本だ。

 

「ゴワァァァァッ!!?」

 

 半分になるほどの数の首を切り落とされたヒュドラが、苦悶の咆哮を放った。

直後波のように迫るサモナーの魔法を回避し、俺はさらにヒュドラを斬りつける。

 

 ――――今回は、前回の反省を含めて、作戦を組んだ。

といっても、俺が囮になって、耐久力に難があるクイナとアギルが狙われないようにする、という簡単なものだ。

下手に作戦を組めばそれに縛られて身動きが取れなくなることは、前回のムラマサが指揮したボス戦で学んでいる。

だからこうしてシンプルな、作戦ともいえないような作戦を行っているのだが、功をそうしたようだった。

 

 現在、ヒュドラのHPはすでに半分を切った。サモナーはもうすぐでレッドに入るかというところ。

サモナーのHPはクイナのスキルで最低でも2割は削れるほど少ないので、俺はヒュドラに集中していても構わない。

スキルの発動時だけ意識を向けて、回避すればいいのだから。

 

 ヒュドラの3つ首から砲弾が放たれる。

同時に俺を狙って放たれる以上、その攻撃範囲は狭い。

どれか一発に当たらない限り、無傷でいられるのだ。

 

 砲弾を跳び避けて、ヒュドラに接近する。

接近されたヒュドラはAIのプログラム通りその鎌首をもたげた。

 

 ヒュドラのAIは単純だ。

遠ければ砲弾を撃ち、近ければ凄まじい勢いで噛み付く。

それだけだ。

だから対処のしようはいくらでもある。

 

「グワァァァァァァァッッ!!!」

 

 おぞましい咆哮とともに3つの首が噛み付いてきた。

 

「っ!」

 

 しゃがみこんでその攻撃をやり過ごし、背後に視線を向ける。

背後には、3つの首が地面に突き刺さっていた。

どれも深く入り込んでいて、なかなか抜けそうに無い。

 

「はぁっ!!」

 

 手近にあった無防備な首に狙いをつけ、一閃。

ヒュドラの腐りかかった首はそれだけで切断され、頭部を失った首が苦痛と共に暴れまわった。

 

 残り2つ。

ここまでくれば、もう怖いものは無いだろう。

 

「ぬぅわあぁぁぁぁ!!」

 

 おぞましい絶叫にふりむくと、クイナの短刀に貫かれたサモナーが朽ちていくところだった。

サモナーの体が腐り、どろどろと溶けていく。

 

「うわぁ……」

 

 アギルが今にも吐きそうな顔をした。

クイナも気持ち悪そうにそれを至近距離で見ている。

 

「おい、まだ終わってないぞ」

 

「は、はい!」

 

「……ほんとに良い報酬、あるんでしょうね、このクエ……」

 

 二人はもう嫌になったのか、苦い顔で武器を構えた。

 

 ヒュドラの残り2本の首は、三人でかかれば一度で終わるだろう。

 

「ゴワァァァァァァァッッ!!」

 

 目測どおり、ヒュドラは突っ込んでくる。

もうヤケクソとばかりの蛮行だ。

 

 もう慣れてしまった6回目の跳躍、そして攻撃。

俺の大太刀と、クイナの短刀が、それぞれヒュドラの首に振り下ろされる。

 

 数秒が過ぎて舞うのは、蒼いガラス片のようなポリゴンの嵐。

ヒュドラはあまりにもあっけなく、その姿を散らした。

 

「……完全に、作業だったわね……」

 

 アギルの言葉が、あまりにも哀れに、静かな森に響いた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「まずい……」

 

 朝日が差し込む馴染みの部屋で、俺は焦っていた。

 

 先日ヒースクリフに言われた、血盟騎士団への加入申請。

その期限が、まさに今日なのだ。

 

 逃げ場を探すように部屋に視線をめぐらせ、テーブルの上でぴたりと止まった。

視線の先には、真っ黒な得体の知れない物が無造作に置かれている。

 

 あまりにも味気なく、アギルに「作業クエ」と言い放たれたヒュドラとサモナーのクエスト。

その報酬で獲得したものだ。

 

 食料アイテムなのだが、どうみても黒く炭化したブロック肉にしか見えない。

おいしそうな匂いも色彩もない、謎の食べ物。

むしろ何か毒々しい模様か色でもしていればいいのにと思うほど、黒一色のそれは、美しい朝日に照らされて滑稽にすら見える。

 

 ちなみに試しにクイナが試食したところ――――倒れた。

 

 

『ぐ、ぐぼぇ、く、クロ、スさ……ん。み、水……』

 

 

 クイナにしては珍しい、必死そうなの声と表情が脳裏に焼きついて離れない。

 

 さすがにそんな前例を見て食べることなどできるわけもなく、仕方なくテーブルの上に放置されているのである。

 

「いや、それより、だ。どうしたらいいんだ……」

 

 血盟騎士団からのスカウト。

普通のプレイヤーなら、こだわりがない限り喜んでイエスと答えるだろう。

 

 それほど、<血盟騎士団>の名は大きい。

創立以降、全てのボス戦に参加し、その撃破に多大な貢献をしている、<聖竜連合>と並ぶ超大手ギルド。

少数精鋭のギルドで知られる<血盟騎士団>は、ある意味<聖竜連合>や<軍>よりもプレイヤーにとって英雄の理想像として、羨望の眼差しを浴びていた。

 

 <聖竜連合>はその評判の悪さを、<軍>はそのハリボテぶりを批判され、嫌煙されているのに対し、<血盟騎士団>には現在、何一つの悪評も無く、信頼性も高い。

団長であるヒースクリフは一部のプレイヤー内で英雄とすら呼ばれ、このアインクラッドを制するのは<血盟騎士団>だと言う者もいるほどだった。

 

 そして事実、血盟騎士団に入るメリットは少なくない。

消費アイテムの補充に苦心することも無く、レベル上げと武具の強化に資金を当てることが出来る。

ギルドの特性からパーティも組みやすくなり、生存率が劇的に上がるし、さらに何かの時、組織の名を借りることもできるだろう。

自慢ではないが、スカウトされるほど腕前を買われているなら、下っ端などではなく、もっと上、幹部クラスとなれる可能性もある。

 

 安定した物資供給と名声を借りた権力。それがメリットだ。

 

 だが、当然デメリットもある。

日本の法で権利と義務があるように、組織である<血盟騎士団>にもそれと似たシステムが存在するのだ。

代表として、『ボス戦などでの強制召集』や、『納金の義務』がある。

当然、リーダーの命令も絶対だ。

 

 上下関係のしがらみと、義務という名の束縛。それがデメリットだ。

 

 今までそういうしがらみを嫌ってソロで活動していたのだから、俺にとって<血盟騎士団>に入るのはデメリットのほうが大きい。

 

 ――――そう、俺は……

 

 

 




いつもご愛読ありがとうございます。

とうとうこの小説も、20話となりました。
このペースならどれくらいかかることやら・・・
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