「クイナッ! 右に跳べッ!」
「はいっ!」
俺、クロスの怒鳴り声に、クイナが身軽に跳んだ。
直後、その地面にブレスが着弾し、地面を
「グガァァァァァッッ!!」
ヒュドラの不気味な鳴き声が、避けられたことに怒るように響いた。
クイナは華麗に着地すると、その小刀を構え、一閃する。
クイナの斬撃に、ヒュドラの意識が向いた。
同時に、俺は地面を蹴り飛ばす。
「よしっ! クロス、いけぇ!」
「わかってる!」
後方からアギルの声が聞こえた。
それを合図にするかのように、俺は加速し、大太刀を抜き放つ。
「はぁああッッ!!」
大太刀重突撃技<シデン>。
鞘から抜き放った太刀を横に凪ぐ、居合切りに近いスキル。
神速の連撃に、ヒュドラの首、その一本が切断された。
7本あったヒュドラの不気味な首は、今や4本にまで減っている。
今切断したので、残り3本だ。
「ゴワァァァァッ!!?」
半分になるほどの数の首を切り落とされたヒュドラが、苦悶の咆哮を放った。
直後波のように迫るサモナーの魔法を回避し、俺はさらにヒュドラを斬りつける。
――――今回は、前回の反省を含めて、作戦を組んだ。
といっても、俺が囮になって、耐久力に難があるクイナとアギルが狙われないようにする、という簡単なものだ。
下手に作戦を組めばそれに縛られて身動きが取れなくなることは、前回のムラマサが指揮したボス戦で学んでいる。
だからこうしてシンプルな、作戦ともいえないような作戦を行っているのだが、功をそうしたようだった。
現在、ヒュドラのHPはすでに半分を切った。サモナーはもうすぐでレッドに入るかというところ。
サモナーのHPはクイナのスキルで最低でも2割は削れるほど少ないので、俺はヒュドラに集中していても構わない。
スキルの発動時だけ意識を向けて、回避すればいいのだから。
ヒュドラの3つ首から砲弾が放たれる。
同時に俺を狙って放たれる以上、その攻撃範囲は狭い。
どれか一発に当たらない限り、無傷でいられるのだ。
砲弾を跳び避けて、ヒュドラに接近する。
接近されたヒュドラはAIのプログラム通りその鎌首をもたげた。
ヒュドラのAIは単純だ。
遠ければ砲弾を撃ち、近ければ凄まじい勢いで噛み付く。
それだけだ。
だから対処のしようはいくらでもある。
「グワァァァァァァァッッ!!!」
おぞましい咆哮とともに3つの首が噛み付いてきた。
「っ!」
しゃがみこんでその攻撃をやり過ごし、背後に視線を向ける。
背後には、3つの首が地面に突き刺さっていた。
どれも深く入り込んでいて、なかなか抜けそうに無い。
「はぁっ!!」
手近にあった無防備な首に狙いをつけ、一閃。
ヒュドラの腐りかかった首はそれだけで切断され、頭部を失った首が苦痛と共に暴れまわった。
残り2つ。
ここまでくれば、もう怖いものは無いだろう。
「ぬぅわあぁぁぁぁ!!」
おぞましい絶叫にふりむくと、クイナの短刀に貫かれたサモナーが朽ちていくところだった。
サモナーの体が腐り、どろどろと溶けていく。
「うわぁ……」
アギルが今にも吐きそうな顔をした。
クイナも気持ち悪そうにそれを至近距離で見ている。
「おい、まだ終わってないぞ」
「は、はい!」
「……ほんとに良い報酬、あるんでしょうね、このクエ……」
二人はもう嫌になったのか、苦い顔で武器を構えた。
ヒュドラの残り2本の首は、三人でかかれば一度で終わるだろう。
「ゴワァァァァァァァッッ!!」
目測どおり、ヒュドラは突っ込んでくる。
もうヤケクソとばかりの蛮行だ。
もう慣れてしまった6回目の跳躍、そして攻撃。
俺の大太刀と、クイナの短刀が、それぞれヒュドラの首に振り下ろされる。
数秒が過ぎて舞うのは、蒼いガラス片のようなポリゴンの嵐。
ヒュドラはあまりにもあっけなく、その姿を散らした。
「……完全に、作業だったわね……」
アギルの言葉が、あまりにも哀れに、静かな森に響いた。
◇ ◇ ◇
「まずい……」
朝日が差し込む馴染みの部屋で、俺は焦っていた。
先日ヒースクリフに言われた、血盟騎士団への加入申請。
その期限が、まさに今日なのだ。
逃げ場を探すように部屋に視線をめぐらせ、テーブルの上でぴたりと止まった。
視線の先には、真っ黒な得体の知れない物が無造作に置かれている。
あまりにも味気なく、アギルに「作業クエ」と言い放たれたヒュドラとサモナーのクエスト。
その報酬で獲得したものだ。
食料アイテムなのだが、どうみても黒く炭化したブロック肉にしか見えない。
おいしそうな匂いも色彩もない、謎の食べ物。
むしろ何か毒々しい模様か色でもしていればいいのにと思うほど、黒一色のそれは、美しい朝日に照らされて滑稽にすら見える。
ちなみに試しにクイナが試食したところ――――倒れた。
『ぐ、ぐぼぇ、く、クロ、スさ……ん。み、水……』
クイナにしては珍しい、必死そうなの声と表情が脳裏に焼きついて離れない。
さすがにそんな前例を見て食べることなどできるわけもなく、仕方なくテーブルの上に放置されているのである。
「いや、それより、だ。どうしたらいいんだ……」
血盟騎士団からのスカウト。
普通のプレイヤーなら、こだわりがない限り喜んでイエスと答えるだろう。
それほど、<血盟騎士団>の名は大きい。
創立以降、全てのボス戦に参加し、その撃破に多大な貢献をしている、<聖竜連合>と並ぶ超大手ギルド。
少数精鋭のギルドで知られる<血盟騎士団>は、ある意味<聖竜連合>や<軍>よりもプレイヤーにとって英雄の理想像として、羨望の眼差しを浴びていた。
<聖竜連合>はその評判の悪さを、<軍>はそのハリボテぶりを批判され、嫌煙されているのに対し、<血盟騎士団>には現在、何一つの悪評も無く、信頼性も高い。
団長であるヒースクリフは一部のプレイヤー内で英雄とすら呼ばれ、このアインクラッドを制するのは<血盟騎士団>だと言う者もいるほどだった。
そして事実、血盟騎士団に入るメリットは少なくない。
消費アイテムの補充に苦心することも無く、レベル上げと武具の強化に資金を当てることが出来る。
ギルドの特性からパーティも組みやすくなり、生存率が劇的に上がるし、さらに何かの時、組織の名を借りることもできるだろう。
自慢ではないが、スカウトされるほど腕前を買われているなら、下っ端などではなく、もっと上、幹部クラスとなれる可能性もある。
安定した物資供給と名声を借りた権力。それがメリットだ。
だが、当然デメリットもある。
日本の法で権利と義務があるように、組織である<血盟騎士団>にもそれと似たシステムが存在するのだ。
代表として、『ボス戦などでの強制召集』や、『納金の義務』がある。
当然、リーダーの命令も絶対だ。
上下関係のしがらみと、義務という名の束縛。それがデメリットだ。
今までそういうしがらみを嫌ってソロで活動していたのだから、俺にとって<血盟騎士団>に入るのはデメリットのほうが大きい。
――――そう、俺は……
いつもご愛読ありがとうございます。
とうとうこの小説も、20話となりました。
このペースならどれくらいかかることやら・・・