ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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24 力を求めて

「それで、だ」

 

 クイナが買ったアイテムを全てポーチ型ストレージに仕舞いこみ、そして世間話や情交交換に勤しんだあと。

椅子に深々ともたれてのんびりコーヒーを飲んでいたエギルが、ふと呟いた。

 

「――――最近、変わったサブクエストが発見されたって、知ってるか?」

「いえ。どんなクエストですか?」

 

 エギルは答えない。

コーヒーを口に含む。

 

「クエスト名は『朧月と泥棒猫』。第70層の主街区<ロードガル>の東にある酒場のマスターから、一定のステータスを持ったプレイヤーだけが受けられるんだと」

 

 エギルがなぜ突然そんなこと話し始めたのか。

エギルはクイナをちらりと見る。

 

「もう何人も挑んでるらしいが、成功した奴はほとんどいない。だが、成功したらしい奴らもいてな。レベルが上がったわけでもねぇのに、相当パワーアップしてるって話だ」

「ッ!!」

 

 その話はクイナにとって僥倖(ぎょうこう)だった。

それをクリアすれば、クロスの相棒への足がかりとなる。

 

 もっと、クロスの役に立てる。

 

 いつしかクイナはカウンターにかじりつくようにして、エギルの話に耳を傾けていた。

一通り話が終わったあと、クイナがたずねる。

 

「……なんで、エギルさんがそれを? アギルも知らなかったのに」

「……ちょっと伝手があってな。情報屋の間でも一部しか知らねぇ極秘情報だ」

 

 エギルがこの情報をクイナに伝える利点はないはずだ。

こんな気軽に情報を与えてくれるほど、クイナとエギルの間の親交は深くない。

 

「なんで私に、それを教えてくれるんですか?」

「クロスとパートナーになりたいんだろ? 俺も応援しているんだ。……クロスのためにもな」

「クロスさんの、ため……?」

 

 どういう意味なのだろうか。

怪訝な顔をしたクイナに、エギルはごまかすように苦笑した。

 

「詳しくは言えねぇ。ただ、アイツも色々背負ってるってことだ」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 エギルの雑貨屋を出て、表通りへと向かう裏路地を歩きながら、クイナは考えていた。

 

 エギルの教えてくれた情報と、最後の言葉。

 

 クロスは過去に、なにを体験したのだろう。

そのことを考えている時、クイナはあることに気がついてしまった。

 

 

 ――――自分が、クロスのことを何も知らないことに。

 

 

 なぜ、クロスはソロなのか。

それは、彼が人見知りのたぐいだから?

 

 なぜ、兜で顔を隠すのか。

恥ずかしがりやだから?

 

 なぜ、他人を巻き込むことを嫌うのか。

それが彼の性格だから?

 

 クイナがこれまで〝知っている〟と思っていたことは、どれもクイナの想像に過ぎなかった。

それが真実である確証なんて、微塵も無い。

そのことはクイナに、少なからず衝撃を与えた。

 

 こんなに胸が痛むのは、久しぶりだった。

 

 ズキズキと痛む心を守るように、手を胸に当てながら歩く。

 

 少し湿った感じの石畳。

それはクイナの心を表しているかのように感じられた。

今までこんな気持ちになったことなんてほとんど無かった。

だから、どうすれば消えるのか、わからない。

 

 先ほど聞いたクエストをクリアすれば、消えるだろうか。

いや、力を得ても、きっとこの思いは消えないだろう。

 

 いっそのこと、全て吐き出せてしまえば、どれほど楽だろうか。

だけど、それはできない。

 

 これはクイナ自身が勝手に抱いている思いなのだ。

誰にも迷惑をかけるわけにはいかない。

 

 だけどこういうとき、ふと思う。

アスナの心の強さや、エギルの豪快さが羨ましい。

 

 そして、他人にこんな一方的な嫉妬と羨望を抱いている自分が、汚(けが)らわしい。

 

 どろどろとした思考が、クイナの足取りを重くしていく。

 

「おっと待ちな」

 

 威圧的な声とともに、石畳の地面に影が差した。

クイナが顔をあげると、黒髪の男が立ちふさがっていた。

クイナより頭二つ分ほど大きい。

 

 黒髪の隣には、金髪と茶髪の男がクイナを囲むように立っている。

 

 ……またナンパですか。

 

 口を固く結びながら、クイナは呆れた。

金髪が紳士ぶった声でたずねてくる。

 

「お嬢ちゃん、今日は一人でどこへ?」

「……あなたたち、誰ですか」

 

 とげの含んだ声でクイナが言うと、男たちはニヤニヤと気持ち悪く笑った。

クイナの表情が不快感に歪む。

 

「まぁそうトゲトゲすんなって! キミ、〝夜陰〟のクイナでしょ?」

「前も遠くから見てたけど、マジかわいいわー」

 

 金髪と茶髪、それぞれが好き勝手に喋りながら、クイナの顔を覗き込む。

だがクイナは、毅然と正面を向いたまま、彼らに目を向けなかった。

 

「ねぇ、俺たちと一緒に散歩しない?」

「そうそう。俺たちのほうが似合ってるでしょ!」

 

 ……は?

クイナは黒髪の言葉にびっくりして、思わず顔をあげた。

 

 黒髪の顔つきはお世辞にも優れているとはいえない。

だからといって自分に『似合う』容姿の人物が誰かと言われれば答えられないが、少なくともこの三人ではないことは断言できる。

クイナにはいったいそんなセリフがすらすらといえる自信がどこから沸いてくるのか、全く理解できなかった。

 

 見ると、男たちの隙間から見えるプレイヤーたちも、笑みを隠しきれない様子だ。

しかし男たちは己の行動が周囲の視線を集めていることに気がついていない。

 

 こんな馬鹿が一年半近くどこでどうして生き延びてこられたのか。

 

 クイナはそんなことを思った。

 

 だが男たちはクイナが何も言わないことをいいことに、好き勝手喋り続ける。

そのほとんどを聞き流していたクイナの耳に、金髪の言葉がふと入った。

 

「あんな不気味な奴といるより、ゼッタイ俺たちのほうがいいって!」

 

 その言葉には、さすがに頭がきた。

 

 この男たちに、クロスの何がわかるというのか。

 

 クイナもクロスのことは何も知らない。

だが、オレンジに捕まったクイナを助け、手を差し伸べてくれたクロスの優しさは知っている。

 

 現実世界にいるような、髪型と態度でしか自分を表現できないちゃらついた奴らに、そのなにがわかる。

 

 こういうのは、まともに取り合うことすら馬鹿馬鹿しい。

そう思っていながらも、クイナは止まれなかった。

 

「……あなたにクロスさんの何がわかるんですか」

「……はァ?」

「あなたなんかに、クロスさんを語る資格はありません。まず私、あなたみたいな人、嫌いです」

「ッ、ンだとッ!」

 

 金髪が怒りに任せて手を伸ばした。

クイナの華奢な肩が乱暴につかまれる。

 

「っ……」

 

 触られた不快感に耐えながら、クイナは即座に視界に表示されたハラスメント警告のウィンドウへ手を伸ばした。

気づいた金髪がそれを静止するよりも早く、クイナは「Yes」を選択する。

 

「おい、何して――――」

 

 金髪の怒鳴り声が、ふいに途切れた。

クイナのハラスメント警告により、黒鉄宮に転送されたのだ。

 

 金髪を排除された残り二人が、クイナにたじろぐ。

 

「て、テメェ! よくも!」

「どいてください。邪魔です」

 

 クイナはかなりいらいらしていた。

今すぐにでもエギルに聞いたクエストに挑戦したいというのに。

このわけのわからない男たちを斬り捨てたいほどに、クイナは不機嫌だった。

 

 だがそんなクイナの怒りに気づかない男たちは、なおを無意味な口上を続ける。

 

「おい、お前調子のってんだろ」

「俺たちはな、お前一人なんてすぐに殺せるんだよ! わかったらさっさと来い!」

「街中では殺せないでしょう?」

「あぁん!?」

 

 茶髪が剣を抜いた。

クイナの喉元に突きつけて威圧する。

だがそれにも怯えないクイナに我慢できなかったのか、黒髪が言った。

 

「……デュエルだ。俺たちが勝ったら、俺は手を引こう。ただし……」

「俺たちが勝ったら、ついてきてもらうぜ!」

「……、」

 

 一方的な言い分だ。

そんな勝負を受ける理由は、クイナに無い。

だが、話の通じない馬鹿といつまでもここで話すのも時間の無駄だ。

 

「……わかりました。ですが、もしあなたたちが負ければ、黒鉄宮へ入ってもらいます」

「ッ……! なんでだよ!」

「条件が対等ではないからです」

「はぁ、なに言ってんだ!」

 

 茶髪が怒鳴った。

本当に頭が悪いらしい。

 

 だがそんな茶髪を、黒髪がとどめた。

 

「わかった。その条件でいい」

「兄貴ッ!」

「大丈夫だ。あれを使う」

「……、」

 

 趣旨のわからない会話をクイナは無視して、表通りへ向かった。

 

 




切る場所が中途半端ですが、ちゃんと次話は書き終わってます。
いわゆるストックという奴です。
まあ、書いてるのは次だけなのですがw

8月30日 主街区の名前と階層を変更。
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