ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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なにも言わず、投稿遅れてしまいもうしわけありません!!
なぜ予約投稿をしなかったのか・・・

では、本編をお楽しみください。


3 オレンジ討伐戦

 暗い洞窟の中。

松明だけがほのかにクイナを照らす。

おそらく、ここは彼らのアジトなのだろう。

 

 揺れる松明の光は明るいとは言えず、洞窟の端のほうは暗闇に包まれたままだ。

それは一層クイナの恐怖心を煽り、クイナは身を固くした。

 

 隣では、クイナと同世代と思われる少女がヒクヒクと泣きじゃくっている。

くすんだ緋色(ひいろ)の外套を纏った、大人しげそうな少女だ。

 

 そのほかにも、クイナのいる小部屋には、数人の少女が囚われていた。

彼女らが連れてこられた理由は、そう多くないだろう。

 

 所詮、アンチクリミナルコードなんてものは、デスゲームとなったこの世界では上辺だけのシステムであり、|形骸≪けいがい≫化しているに等しい。

 

 どれだけシステムコードに保護されていても、「殺すぞ」と脅されれば、無力な者は解除するしか手はないのだから。

 

 ドアの向こうから聞こえる、下卑た声と甲高い声に怯え、震えながら、クイナは黒い服の袖を握り締める。

 

 ぎゅっと固く眼をつぶって、隣の少女も、この悲しい現実も、全て忘れ去るのだ。

 

 そしてしばらく経った。

 

 どれほどの時間が流れたのか、時計も日光も無いここではわからないが、少なくない時間が経ったと思う。

隣の少女も、泣き疲れてしまったのか、虚ろな表情で壁の一点を見つめるのみだ。

 

 だが、その不気味な静寂は長くは続かなかった。

突如男の悲鳴が響いたのだ。

そして次の瞬間、鉄格子の扉をぶち破るようにして男が倒れてくる。

 

 確かこの男は、このオレンジギルドの構成員の一人で、クイナたちの見張り役だったはずだ。

見張り役の男はひどく慌てていて、まるでなにかに怯えてるかのようだった。

 

「な、なんだよお前!」

 

 男がドアのほうへ言い放つのを見て、クイナも他の少女たちも破られた鉄格子の向こうを見る。

 

「簡単なことだ。『オレンジ狩り』だよ」

 

 その彼は、呆れたような声とともに入ってきた。

 

 その姿に、クイナは眼を見開く。

同時に、そのきれいな|黒瞳(こくどう)から涙が流れ落ちた。

 

 革を基調とし、要所に金属板を施した蒼いコート。

顔を隠す蒼い鉄兜は無骨な印象を与え、腰に吊られた刀が異色な雰囲気を感じさせる。

だがそれは、見まごうはずが無い「騎士」だった。

 

 そしてそれは、非常に見覚えがある姿でもあった。

 

「騎士、さん……?」

 

 彼は言っていた。

他にも用があって、パーティは組めないと。

 

 彼は言っていた。

オレンジどもがいるらしいが、一人で大丈夫なのかと。

 

 あの時、なぜ疑問に持たなかったのか。

<攻略組>の騎士が、中層まで降りてきていたわけを。

 

 それは、オレンジギルドの討伐ではないのだろうか。

 

「え……お前は……」

 

 クイナを見つけた蒼騎士は言った。

兜の中からは呆れたようなため息を吐く音が聞こえる。

 

 確かに、一丁前にオレンジは大丈夫です! と豪語しておいてこのザマなのだから、そういわれても仕方がなかった。

クイナは打って変わってしょんぼりとした気持ちとなり、俯く。

 

「……お前」

 

 それは、最初にこの部屋に飛び込んできた男のむけられたもののようだ。

クイナに向けられた、呆れて和んだような声音とは違う、冷淡な、蔑むような声だった。

 

 クイナは顔を上げ、蒼い騎士の視線の先を追う。

 

 見ると、先ほどの男はいつのまにか、少女の一人を人質に取っていた。

30代前半であろう男の手には長剣が握られ、それは少女の首へ突きつけられている。

 先ほどまで泣いていた少女だった。

 

「ひぐっ、ひぐっ」

 

 泣きじゃくる痛ましい嗚咽が自他を打つ。

 いかにも小物臭ただよう構図であるが、デスゲームであるこの世界では笑い事ではない。

ゆえに、彼の蒼騎士は気を引き締めている。

 

「う、うるせぇっ!さっさとそこを退きやがれ!」

 

 男は荒々しい所業で、剣を振り、少女の首へとまた突きつけた。

喉元に剣を突きつけられた少女が短い悲鳴を洩らす。

 蒼騎士ですら動かず、ただ堂々と立って男を見ていた。

 

 それを自分に対する恐れと判断したのか、男はにやりと笑う。

 

「へっへっへ。動くなよ? じゃねぇとコイツを……」

 

 男の言葉は、最後まで口にされることは無かった。

男が吹き飛び、洞窟の壁に叩きつけられたからだ。

 

「ぐはっ!!」

 

 唖然とした男はとっさに顔を上げる。

そこには蒼い騎士が立っていた。

 

 吹き飛ばされた男はもちろん、ただ見ているはずのクイナですら、その動きを捕らえることはできなかった。

 

 男は蒼騎士を見上げ、男は「ヒッ」とヒステリー気味な声を洩らす。

だが、蒼騎士はそんなことも気に留めず、懐から結晶を取り出した。

 それは、普段見慣れたブルーサファイアの転移結晶でも、濃紺の回廊結晶でもない。

どこまでも黒い闇をたたえたかのような、漆黒の結晶。

蒼騎士はそれを男の胸に押し付ける。

 

 すると、男の身体が黒い闇に包まれ、パンッという音とポリゴンとともに消え去った。

全員がその現象に唖然とする中、蒼騎士は明るい声で言う。

 

「さて。みんな、大丈夫か?」

 

 鳴り響いていたはずの声は、いつのまにか止んでいた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 クロスたちはあの後、洞窟を出て、入り口の広場に集まっていた。

みな、街に帰ることよりも、ひとまず助かったことを喜びたかったようだ。

 

 クロスとしても、外で転がっていたオレンジを黒鉄宮に送らなければならないので、特に異論はない。

 

 とりあえず麻痺させていたオレンジを漆黒の結晶、<監獄結晶>で送る。

 

 これは、黒鉄宮内で受けられるクエストの報酬としてもらえる物で、オレンジプレイヤーに当てるとそのプレイヤーを監獄に入れることができるアイテムだ。

 「軍」の人はこれを使ってオレンジを送ることが多いのだが、いかんせん彼らは(謎の)正義感に燃えていることが多いので、オレンジたちに無闇な事をすることが多い。

 

(椅子に押さえつけて、斧で首を切りつけるとか、いつの時代だよ……)

 

 まぁ、倫理的にアウトなので、首にはいつもどおりの切断跡が残るのみなのだが、やはり謎は謎である。

そんな処刑事情はどうでもいいとして、クロスはこれを軍の知り合いなどから譲り受け、時おりオレンジ狩りに勤しんでいるわけなのだ。

 

「あ、あのっ」

「ん?」

 

 話しかけてきたのは、囚われていた少女の一人だ。

くすんだ緋色の外套を羽織った、大人しげな印象を持つ茶髪の少女は、たどたどしい様子で頭を下げた。

 

「助けていただいて、ありがとうございました!! 一生忘れません!!」

 

 まだ14歳ほどの、真面目そうな少女に、そこまで言われると、なんだかむず痒くなってしまう。

そんな少女にクロスは兜越しに頭をかきながら言った。

 

「……依頼受けただけなんだがな」

「それでもですっ!!」

 

 その少女は眼をキラキラと輝かせ、尊敬や憧れらしき感情が宿る瞳でクロスを見る。

 

「はぁ……まぁ、次は気をつけろよ」

 

 とりあえず無難な答えを返す。

そうして時おり礼を述べに来る律儀な少女たちを軽く流していると、草を分ける音がクロスの鼓膜を振るわせた。

 

「フッフッフーン、ふ……てアレ?」

 

 そう鼻歌を歌っていたのは、趣味の悪い仮面を付けた男。

 

 幼児化したのかと思う口調は、狂ってるとしか言いようの無い響きだ。

後腰に差された毒々しい鉈は、噂どおり麻痺毒が仕込まれているのだろう。

 

「あ゛ん?」

 

 ドスの効いた声を響かせたのは、仮面男の隣に立つ、大柄な男。

 

 ヤクザを思わせる巨躯は無骨な赤銅の鎧に包まれ、背負う剣は背中越しでも見えるほど巨大だ。

 顔に刻まれた無数の傷跡は、キャラメイクをそのまま受け継いだものだろうが、それを感じさせないほど似合っており、威圧感を放っていた。

 

「……おい。女どもが逃げてんぞ。殺すか?」

「えー、もったいないヨー。数少ないんだシィ」

 

 仮面の男は悪寒がするような猫なで声で言うと、クロスを指差す。

 

「それニィ、アイツがやったみたいだカラ、アイツだけヤれば大丈夫だヨ」

「へっ、そうだな」

 

 大柄の男は逆立った赤髪をかきながら答えると、背の巨剣を抜く。

両手剣というのにすら、あまりにも巨大な紅蓮の剣。

全長は一メートルを超え、剣の幅も50センチを超えているような両刃(もろは)の剣だ。

 

「俺がアイツを殺る。パララは女どもを見張ってろ」

「りょーかーいっ。じゃあお嬢さん方、よろしくネぇー」

 

 紳士ぶって少女たちに頭を下げる仮面の男、パララに苛立ちながら、クロスは刀を抜く。

 

「ぬぉりゃぁぁっっ!!!!」

 

 大男は叫ぶと、その巨剣を振り上げる。

大きく後ろに振り上げられた巨剣がオレンジのエフェクト光を発し、両手用大剣スキル<アバランシュ>が発動される。

 <アバランシュ>は非常に優秀な突進技で、いくら刀であろうとも受け止めればただではすまない。

 刀はその武器特性上、耐久値が低いので、下手をすれば武器を壊されかねないだろう。

 

 だからクロスは受け止めない。

 

 スキルに上乗せされた速度で迫るオレンジの斬撃を横に滑るようにして回避したのだ。

そのままクロスは刀を切り上げて、がら空きの胴を斬り付ける。

 

「なっ……!!!」

 

 よほどHPが減ったのか、それとも避けられたことへの驚愕か、男の表情が歪む。

 

「なめるなよッ!!!」

「っ!!!」

 

 男は身体をひねると、それに無理やり引っ張られるようにして、巨剣が薙ぎ払われた。

ガキィィンッッ! という凄まじい金属音が鳴り響き、クロスの身体は数メートル後退する。

 

(凄まじい筋力値だな……!)

 

 己の身体ほどもある巨剣を扱うとは、今まで筋力値に全振りしてきたのかと思うほどだ。

 

「オレンジだからって舐めてたか? これでもレベルは<攻略組>レベルだぜっ!!」

「そうか。だが、それがどうしたっ!」

 

 クロスは猛然と地を蹴り、霞むほどの速度で刀を振るう。

その高い敏捷値の補助された高速の斬撃は男を襲うが、男もその巨剣で防いだ。

紅蓮の巨剣は、その陰に人一人を隠せるほど大きく、それゆえに防御範囲も広い。

だから男は低い敏捷値でも、クロスの斬撃を防ぐことができた。

 

 さらに、どんな仕掛けかわからないが、男の動きも緩慢とはいいがたい。

 

 だが、それでもクロスの斬撃は少しづつダメージを与えていく。

大男はそのダメージが看過できないらしく、ついに後退した。

 

「ち、ちぃ! お前……」

 

 焦燥を隠せない男は、突然きょとんとした表情を浮かべ、ニヤリと邪悪に笑う。

その様子に怪訝な顔を浮かべるクロスに、あの忍び少女の叫びが響いた。

 

「危ないっ!後ろ!!!」

「ッ!!」

 

 クロスが咄嗟に身体をひねったのと、クロスがいた場所を鉈が通り過ぎたのは、ほぼ同時だった。

無理にひねった視界から見えたのは、鉈を振るう仮面の男。

 

「およ!?」

「外すなよ、パララッ!!」

 

 パララに叫びながら、大男が切りつけてくる。

 

 クロスはすぐさま後ろに跳んで、二人と距離を取った。

どうやらギリギリ当たっていなかったらしく、ダメージも状態異常もない。

 

「一対一、なんて誰もいってないよォ」

 

 パララは子どものように飛び跳ねながら言った。

その言葉を半分聞き流しながら、クロスは思考する。

 

 〝アレ〟を使うべき、かと。

 

 だが、あれはあまり晒したくない。

あれはあまりにも目立ちすぎる。

 

 クロスはオレンジの二人と一定の距離を保ちながら、それを使うべきか否か考えていた。

 

「ねぇねぇ、どうしたの? いまどんな気持ち? だまし討ちされたからビビってるノ?」

「かかってこいよぉ? じゃねぇと女どもをやっちまうぜぇ?」

 

 オレンジの男たちがクロスを罵倒する。

 

(迷ってられそうに無いな……!)

 

 そして、クロスは決断した。

 

 メニューを開き、スキル欄とアイテムストレージを可能な限りの速度で操作する。

すると、抜いていた刀と腰の鞘が消えた。

 

 だが、クロスに焦りは無い。

 

 引き続きウィンドウを操作する。

 

 だが、それを武器解除を降参と見たのか、パララは鉈を、大男は巨剣を振り上げ、無防備なクロスに襲い掛かった。

 

「ヒァアャッ!」

「おりゃあぁっ!!」

 

 緑の鉈が紫の、紅蓮の巨剣が水色の光を纏い、クロスに迫る。

 

「騎士さんっ!!!」

 

 忍び少女の叫びが、森にこだました。

 

 

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