ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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31 お縄を頂戴すっ!

「ニャ~ニャッニャァ~!!」

 

 倉庫群に響き渡る、巨大な泥棒猫の鳴き声。

 

 クイナは再びクエストを受けていた。

装備は一回目と変わらない。

だが、その瞳には決意を篭め、油断無く化け猫を射抜いていた。

 

 一回目と一言一句違わぬセリフを吐いて、化け猫は窓から逃走する。

だが、クイナは化け猫が窓から外へ出る前に、梁へ飛び移っていた。

 

 クエスト進行を妨害しない程度の時間短縮である。

クエストはその大筋をあまりにも外れてしまうと、強制的にキャンセルされてしまう。

強制的に操作が不可能である今までのゲームなら、そんなことをわざわざ設定する意味も無い。

 しかし、ここはVRの世界だ。

アバターが強制的に動けなくなる事態は、状態異常の麻痺か、モンスターによる拘束攻撃くらい。

ストレスを感じないよう、アバターの行動を強制的に阻害することは最小限に控えられているのだ。

 

 だが、自由な行動を許して、クエストを簡単にこなされてしまうのも面白くない。

この場合でいえば、化け猫とマスターの会話が終わる前に梁に上がり、化け猫を逃げられなくする、もしくはすぐに捕まえられるようにする、といった具合にだ。

それをさせないため、このVRゲーム特有の設定が存在している。

 

 この場合、化け猫が逃走する前に床から2メートル以上離れると、進行妨害と判断されてキャンセルされてしまうのだ。

 

 だが、会話終了直後に地面を飛べば、ギリギリ、ルールの範疇として黙認される。

これにより、クイナと化け猫の初期相対距離は格段に縮まっていた。

 

 おとといの初挑戦のときよりは乾燥した夜。

満月はわずかに欠けて、そのきれいな曲線を失っていた。

 

 クイナは闇夜に飛び込んで、化け猫を追う。

 

 淡い蒼の月光がやわらかに広がっている。

月の周りには、月を慕うように集まる星たちが見えた。

足元に視線を下げると、溝のような路地を歩く人々の姿。

 

「おっそ! そんニャのならいつまでたっても追いつけないニャよ!」

 

 化け猫の悪口がなければ、見とれていただろう。

 

 クイナがお返しにクナイを投げつける。

そしてまた、屋根を蹴った。

 

 最初にフライングをしたお陰で、一度目よりもはるかに早く化け猫に接近することが出来た。

そして、一回目に寸前で避けられた、手を伸ばせば届く距離へ。

 

 警戒して顔を上げると、化け猫は進路を尖塔に変更していた。

目の前には三毛の尻尾。

背景には、尖塔と蒼い月。

 

(さん、にぃ、いち。今ッ!!!)

 

 ギュルッ! と、化け猫が体を捻り、そのバネで尖塔を回避した。

改めてみると、スピードと方向はそのままに横滑りするような、超人的な機動である。

 

 クイナは右足を屋根に突き刺すように踏みしめて、軸を固定する。 

続けて左足を化け猫へと思い切り突き出した。

無論、蹴りを当てようというわけではない。

突き出された左足が別のベクトルを生み出して、身体を化け猫へと引っ張った。

同時に軸の右足も屋根を蹴って、クイナは飛ぶ。

即座に回転して、化け猫から離れないようベクトルを殺す。

 

 尖塔が網のように広がったクイナの髪を掠めて、後方へ流れていった。

 

「ニュヤッ!?」

 

 クイナがまだ背後にいることに気がついた化け猫が驚きの声を上げた。

そして。

太い尻尾を、握り締める。

 

「捕まえたっ!!」

 

 それも、思い切り。

 

「ニュヤァアアアアアッ!!!?」

 

 静寂の夜に、化け猫の悲鳴が高々と響き渡ったのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「いやぁ~、ほんと助かったよ。まさかこんなデブ猫とは思わなかったけどな」

 

 マスターがほがらかな笑顔を浮かべている。

その手には手綱が握られ、忌々しげに眼を向ける化け猫の首に繋がれていた。

 

「デブって言うニャ! くぅう……このニャン太が小娘風情に不覚を取るとは……」

「おい、静かにしてろ! あんたには感謝してもしきれないよ。町のみんなも喜ぶだろう」

「はい」

「それで、お礼のことなんだが……」

 

 マスターは申し訳無さそうに俯く。 

 

「悪いが、明日パブに来てくれないか、そのとき渡すよ」

「はい」

「そうか。ありがとう。お礼は必ずするよ」

 

 その日は疲れていて、宿屋にたどり着いたクイナはそのまま眠ってしまっていた。

 

 

 

「……んっ……あれ……あさ……?」

 

 目にとてつもない眩しさを感じて、クイナは寝ぼけ眼(まなこ)で顔を上げた。

窓から白い光が差し込み、ピンポイントで顔に当たっている。

 

 どうやらそのまま眠ってしまったらしい。

ベッドに突っ伏したまま寝ていたので、少し目覚めが悪かった。

 

「……あれ?」

 

 身体を起こすと、肩から毛布が落ちる。

さらに机へと眼を向けると、小さな紙切れが置いてあった。

 

 何度か目をこすって、メモを読む。

 

〝最近 なにをしているんだ?

 

 おれは本部で訓練しているよ

 

 疲れているようだが しっかり休んでおくこと

 

 もう少し一人で  レベル上げしておいてくれ

 

 あと 無理をするな

 

     クロス〟

 

 どうやら、この毛布をかけてくれたのはクロスらしい。

きっとエギルあたりから、クイナの居場所を聞いたのだろう。

 

(ってことは……寝顔を見られたってことですかっ!?)

 

 クイナは頬が熱くなるのがわかった。

さらに、頭から湯気が出る過剰なエフェクトが追加される。

 

(う~! 文句を言ってやりますッ!!)

 

 ここにはいもしない彼に、クイナは自分でもわからない怒りを向けた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ッ――――!」

「どうしたましたか?」

「……いや、なんでもない」

 

 不思議そうな表情を浮かべるアスナを見ながら、クロスは悪い予感を感じていた。

 

 




いつもありがとうございます。
クイナ編、いつ終わるかなぁ・・・(おい)
次は速めに投稿したいです。
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