ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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32 一歩

「おっ。来てくれたか」

 

 相変わらずの喧騒。

軽い木のドアを抜けると同時にけたたましく響くそのBGMを聞き流し、さらには入店を合図に声をかけてくる男性客にも無作法な会釈。

もう4回目となったそれだが、クイナはまめまめしくきちんとこなしていく。

 それはクイナの丁寧な性格を体現しているといえた。

 

 カウンターにクイナが座ると、マスターがほがらかな表情を浮かべた。

足が空中をぶらぶらしているのは愛嬌である。

 

「準備してきた。改めてありがとな」

 

 マスターのその言葉とともに、クイナのウィンドウが勢いよく開く。

 

 

《〝猫のペンダント〟 を入手しました》

 

《〝ブラッドサーペントの蒸留酒〟 を入手しました》

 

《〝ロードガル栄誉憲章〟 を入手しました》

 

 

「ありがとな、助かったよ。――――アンタの歩みに天空の加護があらんことを」

 

 マスターは小さく会釈して、仕事(通常の行動)へ戻っていった。

つまり、クエスト終了ということだ。

化け猫との激闘と比べて、あまりに呆気ない終わり。

 

 だがそれがある意味、このソードアートオンラインにおけるクエストの特徴でもあった。

 現実世界でなら、幾百幾千の繋がりが絡み合って頼み事(クエスト)を『受注』し、そして待ち受けるであろう幾多もの選択肢から分岐して、多種多様な頼み事(クエスト)の『完了』を迎える。

 

 しかし、その人の繋がりのほんの一部を模倣したに過ぎないゲームのクエストは、通りすがりの冒険者に対し、時にはペット探しを、時には国家危機レベルの危機解決を迫る。

 現実世界では到底ありえない、驚くほど突飛な始まりだ。

 

 そしてクエストとは、一期一会の関係がほとんどである。

クエストを頼んで、解決したら報酬を払う。

それがすんだら、例え共に強大なモンスターを屠ったとしても、もう『顔見知り』というレベルの関係にまで落ちてしまう。

そんな異質な関係。

 

(けど、それがズレてるように感じられるのは、いつまででしょうか……)

 

 現実世界の泥沼化した関係など微塵も無い、そんな一期一会の出会いが当たり前に感じる。

それは、このアインクラッド――――ひいては『ゲームの中の世界』に慣れてきているということなのだろう。

 それが良いことなのか、悪いことなのかは、クイナにはわからない。

 

 慣れるということは、現実と似通った対処能力と反射神経、精神状態が養われ、生存率の向上に直結する。

 逆に慣れてしまうと現実とゲームの区別がつかなくなり、いつか《・・・》現実世界に帰還したとき、なんらかの悪影響が引き起こされる。

 

 どっちもどっちだ。

だから、善悪は語れない。

 

 クイナは席を立ち、パブを出る。

 

(エギルさんにはあとで教えてあげないと……)

 

 でもさきに、噂のアイテムを拝見することにした。

ウィンドウを開き、ストレージをスクロール。

目的のアイテムをダブルクリックして、詳細情報を読み出した。

 

 

 

 〝猫のペンダント〟

 ロードガルを駆ける大泥棒、ニャン太の俊敏さと忍びの証。

 装備者に闇夜に紛れる隠密性と猫の如き俊敏性を授ける。

 

 〝ブラッドサーペントの蒸留酒〟

 ブラッドサーペントの体液から作られた酒。

 高い酒精を持ち、酒の強い者でも一口で酔ってしまう。

 

 〝ロードガル栄誉憲章〟

 ロードガルの街に多大な貢献をした者に贈られる憲章。

 豪華な装飾が施されており、持つ者はあらゆる者に認められる。

 

 

 

 エギルが言っていたステータス強化アイテムは、恐らく〝猫のペンダント〟のことだろう。

クイナは猫のペンダントを装飾品の欄にセットしてみる。

 

「うわぁ……!」

 

 思わず吐息を洩らしてしまった。

敏捷値がはるかに上がっている。

レベルで表すと、たとえ敏捷値に全て振り分けたとしても、10レベル分は必要だ。

それほどの数値である。

 

 正直言って、現実世界でも欲しい。

偏差値がこのくらい上がれば、もう少し勉強以外のこともできるのに。

 

 クイナが咄嗟に偏差値と比べてしまうのは、彼女が本来学生の身分だからだろう。

――――天空城に住まうクノイチと違って。

 

 何よりも、クイナは歓喜していた。

 

(だけどこれで、クロスさんとも……!)

 

 並べるかもしれない。

クイナは胸が熱くなって、いてもたってもいられなくなった。

 

 思わず小躍り。

軽快なステップを踏んで、くるりと一回転。

 ルンルンである。

 

 だがここで(おご)ってはいけない。

これはただの性能であり、クイナはまだそれ相応の技術を持ち合わせていないのだ。

『心技体』。その言葉を改めて噛み締めて、ウィンドウを閉じる。

 

 全てはクロスに追いつくための手段に過ぎない。

 やっと、ここまで来たのだ。

 あとは、レベルと己自身の技術を磨くだけ。

 

 だがその前に。

クロスに会いに行こう。

 

 どうしても彼の動向が気になって。

 

 どうしても彼の思いが知りたくて。

 

 どうしても彼の強さに憧れて。

 

 

「転移、グランザム!」

 

 蒼い光が、クノイチを花と水の白城へいざなった。

 




9月9日から、修学旅行です。
なので、遅い更新速度がさらに今度低下します。
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