「ふん! はぁッ!!」
「どりゃあぁぁッッ!!」
無数の裂帛。
後を追うように剣戟が繰り返され、金属音と火花が後を追う。
剣と槍、盾と斧をぶつけあい戦うのは、共に白い鎧を纏い、真紅の十字架を背負う騎士たちだ。
時おり煌めく残光はソードスキルのものだろう。
赤、橙、黄、緑、青。
様々な閃光が爆発のように輝いて、それぞれの戦いを鮮やかに彩っていた。
その光景――――血盟騎士団第2中隊の〝対人〟訓練を眺めながら、鉄兜の騎士は簡単の吐息を洩らす。
「……さすがだな」
「ありがとうございます」
隣に立つ美しい女性騎士が微笑みを浮かべた。
二人の間に敬語はいらない。
肩書きこそ〝副団長〟と〝新米〟。
だが、その実力が拮抗していることは誰の目にも明らかであるからだ。
他ならぬ副団長アスナ自身が敬語を使わせることを拒んだためでもある。
アスナは責任感が強い、生真面目な性格だ。
飴とムチを使い分け、また権威の使い方を歳相応以上に知っている。
単なるマスコットにならないため努力を怠らず、時には厳しく、時には優しく団員に接していた。
とても聡明だ。
そうでなければ、この騎士団の副団長は務まらないのかもしれない。
そのとび色の瞳が、いつしか自分に向いていることに気づいたクロスが、怪訝そうに尋ねた。
「……どうした」
「いえ。クロスさんは、その……」
「なんだ」
どうも迷っている様子のアスナに、クロスは重ねて尋ねる。
「……人を殺したことが、ありますか……?」
そのときのアスナの声は、年さながらの乙女のものだった。
色恋の類というわけではない。
人殺しという、まだ高校生の彼女にとってはあまりに大きすぎる現実に対しての、恐れと不安だ。
「……ある」
「…………そうですか……」
そう言ったアスナの顔はうつむいて見えない。
ただ、その声音は重かった。
「……アスナはあるのか?」
「……いえ。ですがいつかは……」
――――誰かを殺す時が来るのかもしれない。
口に出なかったあとの言葉は、きっとそんな言葉だろう。
だがその答えを聞いて、クロスは少し安堵した。
この少女の手が、まだ血に濡れていないことに。
彼女は恐れているのだろう。
いつか、自分がこの手で人を殺す時が来るのではないだろうかと。
そしてそのとき、自分は相手を殺すことが出来るのだろうかと。
それがいつなのかはわからない。
そして、なぜそうせねばならないのかも、当然まだわからない。
何もわからない不安。
その幻想ともいえる不安に、アスナは怯えているのだ。
「……〝いつか〟といえる間は大丈夫だ」
「えっ……?」
そう。
「だから、余計な心配はするな」
それが考える以上に大事な事だと気づいたときには、もう失っているのだから。
アスナは少し驚いた様子で、数秒の間クロスの顔を見つめた。
まるで、そこから表情や真意を探ろうとしているかのようだ。
彼女からすれば、ただの鉄兜だというのに。
「……、」
クロスはふと思った。
自分が初めて人を殺したのは、いつだったか。
思い出せるようで、思い出せない。
似た状況が多くて、どれが最初だったか、絞りきれないのだ。
それほど多くの人を殺めているという事実に、クロスは少し罪悪感を抱く。
殺人者であった彼らを殺すことは、本当に正しかったのだろうか。
彼らにも家族があり友人がいる。
恋人が居たかもしれない。
彼らの生還を待ち、そして彼らの死に泣いた者が居たかもしれない。
その命を断ち切ったのは、他ならぬクロス自身だ。
それはどれほど言いつくろうと、理由を並べようと変わらない。
だがそれは、彼らに殺された者たちも同じなのだ。
今、現実世界では、多くの遺族が涙を流していることだろう。
頭にナーヴギアを被ったまま、脳だけを破壊されたきれいな遺体を前にして。
一人が死んでも、一万人が死んでも、その遺族にとっては、どちらも同じ悲しみだ。
遺族の人数が増えても、悲しみの大きさまでは変わらない。
殺人者への裁きは、ただの自己満足だったのではないのか。
クロスがしたことは、ただその悲しみを無闇に増やしただけではないのか。
その答えは、未だに出ない。
いや、永遠にでないだろう。
「俺も奴らと同じ……ってことか」
呟きが兜から漏れることはなかった。
今回は更新速度重視で投稿したので、短めです。