ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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34 シノビと騎士の再会

「で、す、か、らッ! 通してください!」

「だ、ダメですよ! 中に入るどころか、クロスさんに会いたい、だなんてっ!」

 

 少しいらいらしている様子の少女は、噛み付かんばかりの様相で門番の騎士に問い詰めた。

騎士はまだ若い。といっても、少女と同じほどだろう。

 白い鎧とマント、そして紅の十字架が、彼が<血盟騎士団>のメンバーであることを物語っている。

だがまだまだ新米らしく、身に纏う気配には精鋭らしからぬ拙さが残っていた。

 

「クロスさんはただでさえユニークスキルの件で追い掛け回されてるんです! 本人の確認無しでは、入れることはできません!」

「くぅ~ッッ!」

 

 そういわれてしまうと、クイナも自分だけではどうすることもできない。

クロスへ確認をとりにいったもう一人の門番が帰ってくるまでは、こうしているしかないのだ。

当然、強行突破など自殺行為である。

 

「はぁ……」

 

 法も規則もいい加減なファンタジー世界では久しぶりの面倒くささに、少女はため息を吐く。

 

 少女は、純白の城の前で立ち往生をしていた。

後頭部の高い場所で結ばれた黒髪が、尻尾のように揺れる。

 

 城のような荘厳さと大きさをもつその建築物は、血盟騎士団の本部である。

 何もかもが白に塗りつぶされた深雪のような外壁に、鮮血で染めたように紅い幕が垂れ下がっている。

 真紅の幕には純白の剣のような十字架が描かれ、そよ風に揺られていた。

 

 

 『解放の日の為に』。

 

 

 その意志がひしひしと胸に響くような、凄絶な紋章だった。

 そのとき。 

 

「――――どうしたの?」

 

 小鳥のさえずりのような、美しい声だった。

 

「ッ! ふ、副団長どのっ!」

「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいですよ」

 

 副団長……?

 

 中に入れなくて拗ねていた少女の耳に、そんな言葉が飛び込んでくる。

少女がその言葉を噛み砕く前に、声がかけられた。

 

「あら、クイナ……?」

「アスナさん……」

 

 アスナは塀の根元に座り込むクイナに気づくと、少し驚いたような顔をした。

 

「突然、彼女がクロスさんに会いたいと押しかけてきまして……いま相方が確認へと」

「そう……大丈夫。彼女はクロスさんの関係者よ。通してあげて」

「は……ハッ!」

 

 少し呆然とした様子の門番騎士は、頬を紅潮させながらぎこちなく敬礼した。

アスナはそれに可愛らしく微笑むと、クイナに手を伸ばす。

 

「さぁ行きましょ。クロスさんに会いに来たんでしょ?」

 

 その姿は、まさしく天使のそれだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 時刻は正午。

本来なら空高くあがった太陽が見えるはずだが、上空に霞む岩の天井に阻まれてそれを見ることはできない。しかし不思議と世界は明るかった。

 

 眩しさはないが明るい、あまりに不自然な状態だ。

だが、そういうゲームらしさに違和感を感じる者は、この世界にはもうほとんどいない。

むしろ昼の時間帯は太陽がなくとも明るく暖かい、というのがプレイヤー間の常識となっていた。

 

(それも、この世界に慣れてきているってことなんだろうな……)

 

 窓際までわざわざ移動させた椅子に腰掛けながら、クロスはそんな感傷に浸っていた。

 

 ここはクロスに<血盟騎士団>からあてがわれた自室である。

自室は血盟騎士団らしく赤と色が多く、またいかにも値が張りそうな木製の調度品がいくつも置かれていた。

日本ではもうほとんど見る事が無くなったコートハンガーには、真新しい血盟騎士団の外套が引っ掛けてある。

部屋の一面には血盟騎士団のタペストリーがかけられ、鮮烈な赤が目が痛い。

 

 現実でもアインクラッドでもそこまで高級な部屋にいたことがない。

だからだろう。ひどく居心地が悪かった。

 

「はぁ……」

 

 ため息。

俯くと目に入るのは、これまた目が痛くなるような純白のローブだ。

逃げ場所を求めるように、クロスは目線を上下左右に交わす。

どこにも逃げ場所がなくて、クロスは眠ることにした。

椅子に浅く腰を下ろして、身体をナナメにする。

 

 目を瞑っていると、だんだん眠気が忍び寄ってきた。

頭がぼんやりとしてくる。

 

 そうしてゆっくりと怠惰な泥に沈んでいく。

 

 バンッッ!!

 

 爆音に目が醒めた。

続けて、カーペットの上を駆ける音。

 

「クロスさんっ!」

 

 聞こえてきたのは、久しぶりに聞く声だった。

とたとたと子犬のように近づいてきた少女に、クロスは驚いた表情を浮かべる。

 

「どうしてここにっ?」

「門の前で立ち往生していたの」

 

 そう言うのは先ほどまで一緒にいたアスナ。

 

「そうか……。それでクイナ。レベルは幾つになった?」

「68ですっ!」

「ふむ……。そういえばエギルが言っていたんだが、何か凄いクエストをクリアしたらしいな」

「っ! はいっ!」

 

 クイナの顔がぱっと明るくなった。

 

「とっても難しかったんですよ! ほら、これがアイテムですっ!」

「ほ、ほぉ……。か、可愛らしいな」

 

 (薄い)胸に手をいれ、服の下に隠していたペンダントを取り出して見せた。

そのデザインに、クロスはなんともいえない答えを返す。

 

「ですよね! 持ち主がちょっとやなヤツでしたけど……でもこれでクロスさんの足手まといにはなりませんっ!」

「そんなに良い効果なのか……。ならありがたい。俺も次のボス攻略から強制参加なんだ。戦力が増えるに越したことは無い」

 

 クロスに褒められたことがよほど嬉しいらしい。

クイナはうっすらと頬を紅潮させながら、首を何度もぶんぶんと振った。

 

「そうだクイナ。お前に渡すものがあるんだ」

「えっ!? な、ななななんですかっ!?」

「……そんなにたいしたものじゃない。……ほらっ」

 

 クロスがメニューを操作して実体化させたのは、和風の帯だった。

暗所にまぎれそうな紫色の帯。

 

「なかなか良いパラメータだ。家に行ってもいなかったから渡せなかったんだが、クイナのスタイルにあっている。持っていろ」

「は……はいっ!!」

 

 クイナは顔をさらに輝かせると、重々しくその帯を受け取った。

恍惚とした様子を隠しきれず、しげしげと眺めている。

 

 その健気な反応が初々しいらしい、クイナの後ろではアスナが優しく微笑んでいた。

 

「だ、大事にします!」

 

 クイナは髪をほどき、改めてその帯で髪を結いとめた。

 

「ど、どうですっ!?」

「ん? どうって……どういうことだ? ステータスか?」

「……これはキリト君以上に大変かもね……」

 

 アスナはクイナの今後を思って、ため息を吐く。

 

 

 

 平和な日常だった。

 

 




投稿が想像以上に遅れてしまいました。ごめんなさい。
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