ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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36 疑念と解放への方途

現在の最前線である第63階層は、夕暮れの光を浴びてオレンジの燐光を纏っていた。

大小連なる無数の丘と平野が続くシンプルなフィールドは、どことなく第1階層を彷彿とさせる。

だがそこにはびこるのは、第1階層とは全く異なるモンスターたちだ。

当然、それらの危険性は第1階層のそれとは比べ物にならない。

 

 階層の南西に位置する主街区を出(い)でて半刻。

振り向けば丘の向こうに見えていた主街区も霞んできた頃に、ボス討伐レイドの面々は迷宮区に到達していた。

 

「これから、迷宮区に入ります。各自もう一度確認をお願いします」

 

 アスナの澄んだ声が、今回のボス戦に参加する全てのプレイヤーに浸透していく。

 

「すでにご存知だと思われますが、内部には多くのアイアンアントやレッドアントが徘徊しています。彼らは数で戦うタイプです。囲まれないよう細心の注意をッ」

 

 そのアスナの声に、プレイヤーたちは威勢の良い雄叫び染みた声を上げた。

 

 この階層に存在する多くのモンスターは、大抵がアント系モンスターだ。

つまりアリである。

 現実世界でのアリとほぼ同じ身体構造をしているが、違うのはその大きさだ。

アイアンアントもレッドアントも、その大きさは3メートルを超える。

くわえて、彼らは全身の硬い外骨格を持っているのだ。

現実世界でのアリも同じ外骨格を持っているが、それとは強度が雲泥の差。

並の剣なら通らないほど、その殻は硬く軽いのだ。

 

 アント系モンスターは集団行動をおこない、数でプレイヤーを圧倒する。

個体での戦闘力は高くない。だが、ここまで高い階層となってくると、それすら怪しい。

くわえて、彼らを強敵せしめる要因は、仲間を呼ぶことだ。

顎をすりあわせて奇妙な音を出し、周囲の仲間に敵襲を知らせる。

そうしてどんどん数を増やし、やがてプレイヤーを押しつぶす。

 

「……あいかわらず薄暗いな……」

「キリト。黒ずくめはやめろ。勝手に隠密《スニーク》状態になる」

「生憎それは無理だ。これしか持ってない」

「……不潔です……」

「……いや、下着とかは持ってるぞ? というか、この世界で不潔も清潔も無いだろ!?」

「現実世界に還ってから後悔するなよ?」

 

 軽口を叩き合う友人たちを見て、クロスは兜の中で微笑む。

服装の全てを血盟騎士団カラーに塗り替えられたクロスだったが、そのトレードマークでもある兜だけは、変わらず深い紺色に輝いている。

それだけは、彼が唯一譲らなかった最終防衛ラインだったのだ。

 

(それにしても、あの言葉……)

 

 周囲の喧騒から少し距離を置いたクロスは一人、血盟騎士団の会議で聞いた最後の言葉を思い返す。

 

『どちらにしても、私たちのすることは変わらない』。

 

 彼が以前その言葉を聞いたのは、東都工業大学電気電子工学科重村研究室という、あまりに仰々しすぎる名前の場所にいた頃だった。

 

 茅場晶彦(かやばあきひこ)、須郷伸之(すごうのぶゆき)といった、のちに天才と呼ばれるほどの科学者が所属していた大学の研究室。

そこに比嘉や神代(こうじろ)という、茅場たちほどではないにしろ優秀な学生だった彼らも加わって、とても一端の大学の研究室とはいえない状態にあったその場所で。

クロス――――いや、『アレックス=フォード』は聞いたのだ。彼の言葉を。ヒースクリフと同じ言葉を。

その言葉は、その言葉そのままの意味以上に、大きな意味を持っていた。

仲間を率いるリーダーの号令であり、圧倒的カリスマがなせる技。

それと同じ響きを、ヒースクリフは持っていた。

 つまり。もしかしたら、彼らは――――――――「クロスさんっ!」

 

「っ!?」

 

 突如耳を貫いたクイナの呼び声に、クロスははっとした。

集中がきれて、手を放した風船のように思考が拡散していく。 

 

「――――恐らくボスは……アント系の…………再度アイテムの確認を……して――――」

 

 断続的に聞こえてくるのはアスナの声だ。

そして周囲の光景が一変していることに気づいて、クロスは大まかな現状を把握する。

 

「あ、ああ。そうか。ボスの前についたのか」

「そうですっ!」

「……おいおいクロス。大丈夫か?」

 

 キリトの呆れ顔から目を放して、クイナを見下ろす。

クロスの胸あたりまでしかない背丈の少女は、白くやわらかな喉首をさらすように至近距離でクロスを見上げていた。

その表情は、『不満に思っている』ときの顔だ。

 

「……悪かったよ。ほら、アスナの話を聞いてやれ」

「んー……またそうやって子供みたいに……むっ」

 

 クイナの肩に手を回して、彼女の身体をぐるんとアスナの方向へ向ける。クイナちゃんはまだ子どもじゃないか、誰かのそんな言葉にクイナが毛を逆立てていた。

 

 クロスはステータスを開いて、アイテムや装備の確認をした。

ポーションの数も、結晶の数も十分。装備の耐久力も問題ない。

今回は恐らくアント系のボスモンスターだろうが、念のため解毒ポーションも使いやすい場所に入れ替えておく。

 

「よし。準備できたぞ。クイナは?」

「とっっっくにできてますぅっ」

 

 まだ拗ねているのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

少なくとも『不満に思っている』顔ではなかった。

 

 ふと、しゃらんという、美麗な音がなった。

見てみると、それはアスナの剣が鞘から抜かれた音だった。

 

 戦女神と見まごうような凛とした美しさを纏うアスナは、ゆっくりと口を開く。

 

「――――解放の日のためにッ!」

「「「解放の日のためにッ!」」」

 

 血盟騎士団員だけではない、この場にいるほとんどのプレイヤーが、己の手に摑まれた剣を、斧を、盾を、槍を掲げて復唱した。

 

 荘厳の扉が開かれる。

天空の城を制覇せんとする者たちを試す為に。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 クロスたちがボス部屋になだれ込む。

そこはまさにアリの巣だった。

低い天井に、楕円形の部屋。壁にはよくわからない網状のものや、たまごのようなものが偏在し、その中央には天井に届くほど大きな繭があった。

 

 グジュッ

 

 どこからともなく、寒気がするような音が空洞に木霊する。

それは繭から聞こえているようだった。

 

 重厚な轟音が響いて、みんなが背を向ける。

扉が閉まった音だった。少なくない回数聞いたはずのその音ですら、この異質で不気味な空間にいると驚いてしまう。

 

 沈黙。

ひとりであれば不安のあまり叫んでいたかもしれないその沈黙を破ったのは、アスナでも、他のプレイヤーでもなく、中央に鎮座する(まゆ)だった。

幾十にも重なっていたらしい膜が破られ、どろりと白濁(はくだく)した液にまみれた足が飛び出す。

 

「ひっ……」

 

 思わず声を洩らした。

 

 膜がさらに大きく破られ、足だけでなく、他の足や、体もゆっくりとした動作で繭から這い出てくる。

その光景に、生命の誕生による感動や神秘性はない。むしろ、歪められたナニカ、この世の者ではないものが生まれ出ているかのように、不気味で空恐ろしかった。

 

 キィヤッ、キィヤッ

 

 繭から生まれ()で、無邪気な赤ん坊のように鳴くそれは、純白の甲殻を持っていた。

自然界の物とは思えないほど白いそれは、青白いというべきほどで、そしてその複眼は真紅に染まっている。鮮やかな血の色だ。

 

「……アルビノ個体……?」

 

 その単語は誰が呟いたものだったろう。

 アルビノ。遺伝子の異常によって発現する個体の事だ。

その特徴としては、色素の欠乏により毛や皮膚の色が白く、そして瞳は淡紅色、つまり血の色となることである。

その特徴をそのまま体現した〝アリのように見える異形〟は、ゆっくりとこちらを見据えた。

 

 

 ――――来る。

 

 

 キュヤャァァァッッ!!

 

 不快な甲高い咆哮が耳に鳴り響く。

唯一ゲームらしさを残すフォントが示す名は、

 

 〝horrible felony〟。

 

 




ポッキーの日ですね。近頃ではプリッツも同じ扱いだとか。
たけのこ・きのこ戦争のように、ポッキー・プリッツ戦争もいつか勃発するかもしれません……!
もしそうなら、ポッキー軍に参戦します。どっちかというとポッキー派なんで。
ポッキーカラーの迷彩服、ポッキーを模したライフル、軍旗、ミサイル……!
迫り来るプリッツカラーの軍隊を迎え撃つのだッ!
これはかなり燃え――――ないなぁ……
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