ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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もうちょっとタイトル捻れよって?
そういう人には黄金色をお菓子を…… えっ、ネタが古い?


37 第70階層攻略戦 

 〝horrible felony〟――――〝恐ろしい大罪〟といったところだろうか。

 

 錆びた金属が擦れるような体が震える叫び声をかき鳴らして、青白いアリは疾走する。

クイナは小太刀を逆手に構え、壁を這う異質なアリを睨みつけた。

 

 左腕が真一文字に中空を引き裂くように振るわれた。

そのかすんだ残像から放たれたのは、二本の投げナイフ。

 疾駆するアリを的確に捕らえたナイフは、しかしその白い甲殻を貫くことなく甲高い音を立てて弾き飛ばされた。

 

(そこそこ硬いですね……)

 

 それも当然だ。

昆虫は硬い外骨格をもった節足動物の一種で、アリも色こそ違えど全て全身を外骨格で覆っている。

曲面が多く艶やかな外骨格が、攻撃や落下のダメージを和らげ、そして自分自身の体を支えているのだ。

人間がアリをいとも簡単に潰し殺すことができるのは、人間がアリよりはるかに大きく重いからに過ぎない。大きさの立場が逆転した今、潰されるのはむしろ人間なのだ。

 

 右手に構える小太刀でも、あまりダメージは期待できない。

そもそも小太刀がカテゴライズされている「短剣」カテゴリは、一撃の攻撃力より隠密性や攻撃速度、所持重量の軽さに重点を置いた種類のカテゴリだ。

手数の多さを利点にもつ「短剣」カテゴリにとって、防御力と移動速度を両立したアント系の相性は悪かった。

 

「みなさん! 無理に攻めないでください! タンクの人たちより後ろへっ!」

 

 アスナの迅速な指揮が飛ぶ。

即座に重厚な金属鎧と巨大なシールドを持ったプレイヤーが前に出て、大地に盾を突き立てる。

 

 キュヤャァァァァァッ!

 

 アリがその白い身体をよじるようにして、鎌状に変形した前足を振り回す。

防衛線を築くタンクたちに振り下ろされたそれは、シールドの間に硬質な金属音と火花を散らした。

 

「くっ……! でも攻撃はそこまで痛くないッ!」

 

 すかさずロングスピアを持ったタンクが数名槍を突き立てる。

高い筋力値から放たれた穂先は外骨格を突き通して、紅いダメージエフェクトが飛び散った。

 アリが槍の突きを嫌がるように身をよじり、上体が持ち上がる。

白い甲殻の向こうに青紫の内蔵が見えた気がして、クイナは気味悪さに口を苦くした。

 

 そのまま後退したアリは再び走り出し、エリア中央に陣形を敷くプレイヤーたちの周りを駆け巡る。

絶えずプレイヤーを見つめる真紅の複眼には、先ほどよりも怒りの色が濃く見えた。

 

 0と1の連鎖に産み出されたモンスターにそんなものがあるはずがないのに。

この不気味な空間がそんな風に見せているのだろうか。

いや違うだろう。今まで見てきたボスモンスターたちは、みんなこんな目をしていたように思う。

ならこれは、茅場晶彦が生み出したものなのだろう。

クイナたちを異世界に連れ込んだ、()の天才の一部なのだ。

 

 アリは壁を、地面を縦横無尽に疾駆する。

配置されたたまごのようなものや(まゆ)のようなものが踏み潰され、白濁した液や殻の残骸のようなものが飛び散るが、アリはそんなことを気にも留めない。

そうして駆け巡っている内に、アリはその動きを緩慢にして、その(あご)をがちがちと勇みよく鳴らした。

 

 キュワアァァァァッ!

 

 甲高(かんだか)い咆哮。

外骨格がこすれ合い、体節が動く音が聞こえる。

そして身体を静かに曲げると、まるでジェットコースターのようにゆっくりと加速し始めた。

 

「タンクッ! 防いで!!」

「よっしゃあ任せろォ!!」

「アリ風情、止めて見せよう、ホトトギスッッ!!」

「余計なこと言ってっと舌噛むぞ!!」

 

 アスナが指揮棒(タクト)のようにレイピアを振るうと、猛進するアリの前にタンクたちが殺到した。

地面にシールドがたたきつけられ、鉄に包まれた足がアンカーのように突っ張る。

 それを貫かんと、坂道を駆け下りたアリは(あご)を閉じてそれを槍のように尖らせた。

 

 二者が激突した瞬間、凄絶で重厚な衝撃音がこだまする。

 

 アリの巨体に押されたタンクたちの苦悶(くもん)が、クイナの耳にも届く。

タンクたちの足が地面を滑って、靴裏を削る。

 

 一瞬両者の力が拮抗(きっこう)し、白いアリは停止したように思われた。

 

「まずい……!」

「くっ……!」

 

 だが先に顔色を変えたのは、タンクたちのほうだった。

 

 アリの槍のように閉じられた顎が開かれると、タンクたちの堅固な防壁は強引にこじ開けられ、弾き飛ばされる。

弾かれたタンクたちは重厚な鎧を纏っていることを忘れてしまうほど吹き飛び、地面を転がった。

 驚きに目を見開き、声を震わせるのはアスナだ。

 

「どうして……!?」

「……アリは、自分の体重の50倍もの物を持ち上げ、体重の500倍もの物を引っ張ることができる。こんな大きなアリの顎は、もっと強いだろうな」

「おいおいマジかよ……」

 

 クロスが呟くと、キリトが顔をしかめてこれ見よがしに(あご)を鳴らすアリに目をやった。

クイナはクロスの知識に感心しながら、(あご)の一撃に警戒しようと肝に銘じる。

 

「イエローに達した人は後退! 限界なら無理せず脱出を! アタッカーの中でも重装備の人はタンクに回ってくださいっ! アリが旋回しているうちに、早くッ!」

 

 アスナの指揮が飛ぶと、吹き飛ばされたタンクたちは重そうな身体をよろよろと持ち上げる。

彼らのほとんどが扉のあたりまで後退していったが、数名は結晶で町へと離脱したようだった。

悔しそうに結晶を握り締め、街の名前を叫ぶ声がいくつか聞こえる。

 アスナはそれを恨み言一つ言わずに見送って、残りの戦力とそれに合った戦術を思案し、勝率を計算しているようだった。

 

 アリは奇声を上げながら壁を旋回する。

 

 クイナも何か方法がないかと、情報整理に思考を裂く。

 

 プレイヤーが中央で密集陣形を取っているからか、それとも元々のプログラムか、このアリは一撃離脱の戦法を使ってくる。

そして顎の力はとても強く、6脚による機動力も、外骨格の防御力も高い。

 

 多くのボスモンスターが持つ特殊能力もまだ見ていないのだ。

敵の実力は未知数である。

 

 だがこちらにも勝機はある。

 

 

 それは、この世界がゲームであるということだ。

 

 ゲームとしても自然界の法則としても、全てが揃った〝森羅万象において最強の生物〟は存在しない。

ゲームのモンスターにも、自然界の生き物にも、必ず弱点が存在する。

自然界で様々な分野において最強と呼ばれる生物たちは、環境や食性、生態特化して適応した者や、自らの身体を大きくして天敵を退けてきた者たちだ。

逆にそれは、その環境でしか生きられなかったり、繁殖力が低かったりする弱点を背負い、そして衰退していったのだ。

 

 ゲームでも、ただパラメータが異常に強いだけのモンスターでは、昨今の舌が越えたプレイヤーを満足させることはできないことから、そういうモンスターはバランス調整の名の下に淘汰されていき、万能の存在はそのまま器用貧乏に直結していくことだろう。

 

 茅場晶彦も言っていた。「これはゲームではあっても、遊びではない」と。

そう、これはゲームなのだ。茅場晶彦が(うそぶ)こうが、ゲームオーバーが現実世界での死と直結していようが、世界初のVRMMORPGであろうが、これはゲームであり、商品なのだ。

 もちろんここは70階層。いくらゲームといっても、かなり強いモンスターが存在していて当然だ。

だから考える。体力、攻撃力、機動力、防御力、そのどれが弱いのかを。

 

 アント系の特性として真っ先に浮かぶのは、硬い外骨格と集団戦法だ。

だが、このアリはあまりに常軌を逸しているからか、仲間を呼ばない。つまり数で押される心配は無いわけだが、それを補って余りある機動力と攻撃力を備えている。

 

 つまり、最後に残ったパラメータが低いはず。

 

「……クロスさん、お願いがあります」

「なんだ」

「……すれ違いざまに攻撃をできませんか。できれば外殻の隙間、関節部分に」

「……、」

「あの、クロスさん……?」

 

 私なんかが、いくらなんでも、無茶な要求だったろうか。

 クイナはクロスの沈黙に不安になって、兜の向こうを見つめた。

 

「……よく気がついたな。よし、狙ってみよう。スキルは重突撃技でいいか」

「……はいっ!」

 

 クロスはクイナの頭にぽんと一瞬手を置くと、大太刀を構えた。

右手の刀身と左手の柄が薄く光を帯びる。

 

 アリはもう何度目から突撃を敢行してきていた。

タンクでは防げないことは学んでいるので、全員がモーゼを前にした紅海のように飛び退いていく。

 

 その花道にクイナとクロスは躍り出た。

 

「ふんッッ!」「はぁぁっ!」

 

 スキルが発動し、小太刀が輝いた。

世界が加速して、視界がアリの装甲に埋め尽くされたとき。

 

 小気味良い斬撃音が耳を掠めた。

大きなダメージエフェクトが、過ぎ去って行くクイナの目にすら映りこむ。

 

 背後からアリの甲高い悲鳴が轟いた。

踏ん張って速度をゆるめながら振り向き、アリの頭上に表示されたそれを睨みつける。

 

 アリの頭上――――空中に表示された無機質なHPゲージは急激に減少していた。

 

「やったっ!」

 

 自らの予想が的中したことにクイナは歓喜の音を上げた。

 

 アリの体力は少なく、そして関節部分への攻撃は防がれない。

鎧や生物を含めて、硬い装甲を持つものは、総じて関節部分は補強できない。それはこのアインクラッドにおいても同じで、重厚な鎧に身を包んでいても、関節部分への攻撃はクリティカルヒットとして扱われ大ダメージとなるのだ。

 

 アリの瞳は怒りによってさらに紅く輝き、その眼球には一際大きなダメージエフェクトが刻まれていた。

 

「すまんクイナ。関節は狙えなかった」

 

 右からクロスの謝辞が飛んできて、クイナは恐縮に頬を(せき)らめる。

 

「い、いえっ! そ、それに、ありがとうございますっ」

「いや、俺のミスだよ」

「いえ、クロスさんは悪くありません、私がもっとちゃんとしていれば……」

 

 すっかり恐縮していると、クロスはクイナに厳しい口調で言いつけた。

 

「クイナ。お前は俺のパートナーだ。今更そんな気遣いは必要ない」

「……え?」

「言いたいなら遠慮なく言え。俺とお前は対等だ。俺にできないことはお前に助けてもらうし、お前ができないなら俺が助けてやる。いいな?」

 

 クロスはそういうと、大太刀を構えなおして走り去っていった。

そのまま数秒の間、呆然としていたクイナは、一際大きく返事を返して走り出す。

 

 クイナの表情は、怒られたのにも関わらず、とても輝いていた。

 

 




いつもご愛読有難うございます。

来年は受験なので、勉強が本格的に始まる前には書き終えたいですね。
そうでないと間違いなく失踪とか言われちゃうので。
いや、多分今までも言われてると思うんですが、それについては土下座して詫びるしかありません。某東京中央銀行の銀行員のように。
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