ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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待ってくださっていた方には本当に申し訳ないです・・・


4 大太刀

「騎士さんっ!!!」

 

 クイナの叫びが、森にこだました。

アヤメと空色の斬撃が蒼騎士に迫る。

 

 だが。

 

 棒立ちの蒼騎士に当たるかというところで、に二つのエフェクトを纏った鉈と巨剣の斬撃は突如、凄まじい金属音とともに阻まれた。

 

「っ!!?」「エっ?」

 

 二人はそろって目を見開き、弱まり始めたエフェクトの向こうを見る。

 

 男の巨剣を防ぐのは、銀にきらめく長大な大太刀。

それは緑の木漏れ日に煌き、白い刀身と対比するような紅い柄糸が眼に焼きつく。

 

 パララの鉈を防ぐのは、純白の鞘。

つや消しされた白漆喰の鞘は、右の大太刀と同じほど大きく、蒼騎士が握る鯉口に巻かれた紫紺の紐が風に揺れる。

 

「はぁっ!!」

 

 気合に満ちた声とともに、蒼騎士が二人の武器を弾き飛ばした。

 

 大きく吹き飛ばされ、パララと巨剣の男は数メートル跳び退る。

 

「へぇ、見たことないスキルだねェ……ねぇロー、もしかして……」

「……へっ、<ユニーク>、ってか?」

 

 パララの問いに、巨剣の男、ローが答える。

 

 だが、そのやり取りに蒼騎士は応じず、無言で彼は追撃した。

 

 蒼騎士は猛然と大地を蹴ると、その長大な大太刀でローに切りかかる。

 

 大太刀が霞むほどの速度で振り下ろされ、ローはそれを巨剣でガードした。

ガキィィンッッ! と、紅蓮の巨剣と銀の大太刀が凄まじい轟音とともにぶつかり、火花めいたエフェクトが散る。

 

 だが、それで蒼騎士の攻撃は終わらない。

逆手に握られた左の鞘が振るわれ、ローを側面から打ち崩したのだ。

 

 打たれたローは殴られた部位を抑えて後ずさり、ふらつきながらも巨剣を構える。

その顔には、今までに無いほどの焦燥の色が見えていた。

 

 二段構え。

 

 システムの制限により、二つの武器を装備できないこの世界で、それは驚くほどの優位性を持っていたのだ。

 

 そして再び始まった刀と鞘の連撃に、ローは焦りを見せ、その視線を己の左上に向ける。

 

「なっ……」

 

 そして、その視線の先にあるであろう生命残量、HPを見たのか、ローは驚愕と恐怖の声を上げた。

 

「ま、待てっ。俺は悪く――――――」

「失せろ」

 

 突然弁明しだしたローに、蒼騎士は冷たく告げる。

 

 それは、ローやパララ、はては戦っていないクイナですらおののくほど冷たい、死刑宣告だった。

そして、ローは大太刀に薙ぎ払われた。

赤銅色の鎧が真一文字に切り裂かれ、ローは宙を舞う。

紅蓮の巨剣がくるくると回転しながら吹き飛び、少し離れた場所にいたクイナにすぐ近くに突き刺さった。

 

 ローも地面に叩きつけられ、ガラス片となって砕け散った。

 

 紙吹雪のごとく舞うポリゴンの中、蒼騎士はゆっくりと振り向いて、パララを睨みつける。

蒼い兜の隙間の闇から覗く真紅の目が、パララを射抜き、同時にクイナも戦慄した。

 

 それは正義の救世主のようにも、冷酷な死神のようにも見えたからだ。

 

 蒼騎士が、ガラス片を散らすようにして、パララへと歩き出す。

その姿に、パララは怯えているようだった。

焦った口調で喚く。

 

「ま、まってヨ! ここで死んだら、ほんとに死ぬんだヨっ!」

「そうだな」

 

 蒼騎士は、当然のように答えた。

紅い目が不気味に輝き、紺革のロングコートが風に揺れる。

 

 その冷淡な声がとどめだったのか、パララはなりふり構わず駆け出した。

 

 それを見た蒼騎士も駆け出すが、彼とパララは距離も離れており、またパララは敏捷値重視だ。

蒼騎士は追いつけず、パララは逃げおおせるだろう。

 

(あんなやつを、逃がすの?)

 

 クイナは自問する。

しかし、レベルはともあれ、装備が攻略組レベルではないクイナに、いったい何ができるというのか。

 

 クイナは歯を食い縛り、初めて己の無力を呪った。

その間にもパララは森の出口へと駆けて行く。

 

 だが、彼は逃げ切ることが、できなかった。

 

「『狂面のパララ』ねェ。ま、死ぬんだからイイかァ」

 

 パララとは違う、だが通常とも違う声。

その声の主は、茂みから姿を現し、パララの前に立ちはだかった。

 

 それは白銀の短髪に、苛立ったように細められた紅い目をもつ青年だった。

整った中性的な顔は不機嫌そうに歪められ、その美貌を台無しにしているように思える。

白系統の色に統一した革鎧を纏い、手に持つのはそれに退避するような黒い槍。

 

 槍は岩石から削りだしたかのような無骨なシルエットで、グリップはシャフトに隠されて見えない。

黒槍は青年の身長ほどもあり、とても片手で持てそうにないが、その銀髪の青年はいとも簡単にぶら下げていた。

 

「だ、誰だお前っ! どけ!」

「ん~? 何を焦ってるんですかァ?」

 

 銀髪の青年は侮蔑するように口角を吊り上げて問う。

 

 その余裕そうな様子に苛立ったのか、それとも背後から迫る死神の如き蒼騎士から逃げたかったのか。

 

「らぁぁぁぁあっっ!!!」

 

 それはわからないが、パララは狂ったように叫びながら鉈を抜き、棒立ちの青年に切りかかった。

 

「……けっ。つまんねェ奴だ」

 

 青年はそれを見ても物怖じひとつせず、他愛も無いというように槍を構える。

そして、ひどく簡単な、スキルさえも発動させていない突きを放ち、パララの腹を貫いた。

 

「っ……!?」

 

 パララも、そしてクイナも唖然としたように硬直する。

そして次の瞬間、パララの体は砕け散った。

 

 あまりにも軽い決着だった。

 

 パララのことなど些細なことであるかのように、青年は槍を下げる。

銀髪の青年は「ちっ」と舌打ちした後、蒼騎士に話しかけた。

 

「オイ。お前がこのギルドをやったのか?」

「……ああ」

「ちっ。先取りされちまったか。しゃアねェ、別をアたるか」

 

 それだけ言うと、青年は身をひるがえす。

 

「最後にいいか」

「アン?」

 

 顔だけを振り向かせ、苛立った声で返した青年に、蒼騎士は言った。

 

「名前は?」

「……ジン」

 

 それだけ言うと、彼は今度こそ立ち去った。

蒼騎士も、それ以上何も言わず、ただ立ち去る彼の白い背を見つめている。

 

 日が暮れ始め、オレンジの斜光に彩られた森には、立ち尽くす蒼騎士と、クイナたち少女が残されているのみだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 麻痺鉈使いパララと、巨剣使いローが率いるギルドが壊滅して数日。

 

 蒼騎士ことクロスは、21階層にあるNPC料理店で少し早い昼食を取っていた。

ここは低階層ながらなかなかに味がよく、有名ではないがなかなか人気のある店だ。

 

 だが、今日は一人ではない。

 

 クロスはサラダを口に運びながら、反対側にちょこんと座る忍び少女、クイナにため息を吐く。

 

「クロスさん、どうかしました?」

「……はぁ……」

 

 再びため息。

 

 そう。

 

 この漆黒の髪を持つ忍者風少女は、なぜかいつまで経ってもクロスに付いてくるのだ。

最初は無視していたクロスも、さすがに声をかけざるをえなくなり、今に至る。

 

「なんで付いて来るんだ? レベル上げしたほうがいいだろう」

「い、いえっ! レベル上げはもう大丈夫です! レベルもかなり上がりましたしっ」

 

 クイナは元気良く答えるが、あいにくそれは答えになっていなかった。

 

「パーティなら他を当たってくれ。お前なら誘われることは多いだろう?」

 

 クイナは美少女だ。彼女をパーティに誘おうとする男衆は数多いだろう。

だが、クイナは首を振る。

 

「クロスさんとパーティを組みたいんですっ! それに、あんまり他の人は……」

 

 クイナはそこで口をつぐむ。

クロスとしても、理由は概してわかっているので、特に問わなかった。

 

 だが、クロスは<ソロプレイヤー>だ。

 

 1年半近くずっとソロなのには、当然理由がある。

それは<ユニークスキル>持ちだということもあるが、やはりギルドには縛られてしまうが嫌だったというのが大きいかもしれない。

やはり、仮想世界くらいでは自由に動きたいと思うのだ。

 

 パーティプレイも悪くないと思うのだが、やはり自由を妨げてしまう。

 

 そういうわけで、クロスはソロを続けていたのだ。

 

 だから、クイナの頼みは丁重にお断りしたいのだが……

 

 クイナは助けてもらってからの数日間、ストーカーもかくやというほど逃げ回るクロスを追いかけ、こうしてアプローチをかけてくるのだ。

 

 最前線の迷宮区にでも逃げ込めば諦めるかもしれないが、下手に忍び込まれて死なれるのも悪い。

つまり、詰んでいるのである。

 

「ああ、わかったわかった。組んでやるから……」

 

 クロスが観念したように手を振りながら言うと、クイナは無邪気にも

 

「やったー!!」

 

 と、可愛らしい笑顔で喜んだ。

 

 まったく、のんきな奴である、とクロスは今日何回目かわからないため息を吐いた。

 

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