ソードアート・オンライン 蒼騎士の太刀   作:ロングボウ

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40 二人の少女

 ジンはけだるく息を巻いた。

先日解放されたばかりで、どこも人ごみばかりだ。

 

「あっ、これすっっごくかわいいですっ! でもちょっと値段が……」

 

 祭りのように人が渦巻き、見知らぬ人の肩が時おりぶつかる。

自分の領域が他人に侵されているようで、そのたびに不快感が胸を差した。

 

「あれ、みんなどこっ!? ――――あ、いました」

 

 久々に街に出てみればこの様子で、すっかり気は滅入っている。

あいかわらずボサボサの白髪を掻きながら、ジンは眼前の光景を眺めた。

 

「うわ、これすごくいいですっ! ねぇどう思います!? あっ、あっちにも――――」

 

 ウェーブの髪の頭が通りに連ねる店を羽虫のように飛び回る。

それは時おりこちらに振り向いて、小動物を思わせる笑顔をばらまいた。

 

「……オイ。誰かアイツ止めろ」

「それはちょっと無理ですかね……」

 

 ジンの隣に並ぶ青年、ラファルは呆れたように言った。

 

 彼らが呆れながらもひとりの少女に付き合っているのは、特に深い意味は無い。

買いだめていた消費アイテム類が底を尽きかけ、補充する必要があったためだ。

 

 その買出しのメンバーに選ばれた三人は、情報収集もかねて解放されて間もないこの町へ転移してきたのだが。

 

「買出しくれェで、なんでアイツはあれなんだ?」

「女の子だし、買い物は好きなんじゃないかな?」

「……めんどくせェ」

「まぁそう言わずに。回復結晶は何個くらい買うんだっけ?」

「……30個もありゃあ十分だろ。それよりポーションだ」

 

 全身のポケットから小さなメモを探すラファルにそう言って、ジンは通りを歩き始める。

もちろん、ちょろちょろと小刻みに動き回るシオンの頭を把持しておくのも忘れない。

 

「ッ!? い、イタっ! 痛いです!」

「だったら大人しくしとけ」

 

 このアインクラッドにおいて、消費アイテムは二種類に分けられる。

 

 <結晶系>と<ポーション系>だ。

それぞれ四角錐を二つ会わせたような形と、小さな試験管のような形をしている。

 

 結晶系のアイテムは<回廊結晶>や<転移結晶>など、貴重だが非常に高性能、そしてリキャストタイムが長いものが多く、一方ポーション系のアイテムは<解毒ポーション>や<回復ポーション>など、安価でリキャストタイムが短いが、効果はそれほどでもないものが多い。

 

 それは回復アイテムにおいても同じで、<回復結晶>は高価だが体力を一瞬で回復させ、さらには部位欠損をのぞく全ての状態異常を消してくれるが、安価な<回復ポーション>は一定時間少しづつ体力が回復していくのみである。

 

 どちらが優秀というわけでもなく一長一短で、プレイヤーはそのどちらも持っておく必要があるのだ。

 

「――――あっ!!」

「…………なんだ」

 

 シオンが立ち止まって、その白魚のような指を指し示すのを見て、ジンはうんざりした。

 

「……なんでそんな反応するんですか」

「理由がホントにわかんねェなら、小学生からやり直せ」

「なんですかそれ! ひどいです!」

 

 不満げな表情をするシオン。

ジンはそれを眼だけ動かして見下ろすと、今気づいたかのように淡々と言った。

 

「お前なら混じってもバレねぇだろ。最近のガキはでかいからな」

 

 ジンが小柄なシオンを見下して言うと、彼女は顔をフグのように膨らませて、

 

「っ~! なんですかッ、当て付けですか!? ええ、どうせ小さいですよ私のはッッ!!」

「……なにいってんだお前」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「クロスさん、急に急用ができたとか言って帰っちゃうし……むぅ」

 

 クイナはひとり街をさまよいながら、早急に帰ってしまったパートナーに愚痴をはいた。

不満が募る余り、その言葉の意味が重複していることに気づかない。

 

 ひとりで街を歩くのはつまらない。

発見の興奮を分かち合う相手も、どれがいいかと楽しく会話する相手もいない。

 

(はぁ……) 

 

 つれない人だ。

 クイナは心の中で身勝手ながらもそう呟いた。

 

 それは彼が、クイナを単なるパートナーとしてしか見ていないからだろうか。

ともに戦い、勝利の喜びを分かち合う。それは十分に親しいといえるだろう。

理想的な戦友(パートナー)の姿だ。

 

 この閉鎖的な世界においては、本当に気が合う人間は相対的に少なくなる。

どれだけ気さくでも、どれだけ気があっても、常に死が散在する戦闘と言う状況の中で的確に互いを把握しカバーし合える戦友となれるとは限らない。

 

 長い間戦友と出会えず斃れた者も、諦めてソロを突き進む者も少なくない。

生きるために妥協して、<軍>や<ギルド>などの組織に属したものは数多い。

最高の戦友と出会えたことは、ただそれだけで幸運なのだ。

 

 だが、それだけでは足りない。その先に行きたい。

 

 戦い生き抜くための、背中を預けあう『戦友』ではない。

 その先へ、『戦友』や『親友』といった言葉の先へ、クイナはクロスとともになりたいのだ。

 

 だけど、クロスはそうではないかもしれない。

クイナはただの戦友であり、それ以上でも以下でもない。そう思っているかもしれない。

 そう思うと、なんだか自分が場違いな思考をしているような気がした。

 

 通り過ぎる人は、クイナがそこにいないかのように通り過ぎていく。

パーティらしいグループが談笑している。カップルらしき男女が腕を組んですれ違っていく。

 

 死があまりに身近なこの世界でも、人は笑うことができる。

友人がいなくなっても、いつの間にか笑える様になっている。

時間が苦しみや悲しみを希薄にして、やがては意識しなければ思い出さないようになって行く。

 

(今日私が死んだら……)

 

 クロスさんは泣いてくれるだろうか。

そして、いつまでもクイナを憶えていてくれるだろうか。

 

 自分だけが孤独なことに、クイナは心が押しつぶされるかのようだった。

現実世界ではまったく気にしなかったのに。

アインクラッドでもまったく気にならなかったのに。

 

 あの森でクロスさんに救われて、その背中に憧れた。

そんな彼となかば強引にパーティを組んで、クイナの生活は一変した。

 

 拙かった戦術は洗練され、レベリングの効率もはるかによくなった。

ちぐはぐな装備は専一化され、クロスとの共闘を前提としたものとなっていた。

 

 それだけではない。

クロスとの出会いは、クイナの精神にすら影響を与えた。

 

 口数も増え、他人に怯えることもなくなった。

人と会話する楽しさを知った。

現実世界ではできなかった、本当の友だちができた。

 

 それはクイナひとりでは絶対に実現しなかった現実。

この空想と電子と欺瞞の世界(アインクラッド)で、たった一つの現実(リアリティ)。

 たとえこの身体が、力が、世界が、全て仮初のものだとしても。

それだけはクイナにとって、〝現実世界〟よりも大切な本当の現実だった。

 

 クイナは顔をあげる。

 

「あっ、ど、どいてください~~!!」

(えっ――――)

 

 鈍い激突音が、クイナの額で炸裂した。

 

 




ご愛読まことに感謝いたします。

失踪しません、最終話までは!

現在プロットの歪みを縫合中・・・。これも経験です。
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