遅かったくせに、まったくストーリーが進攻しておりません……
「え、エェェェェェェェッッッ!!?」
エギルの驚愕した声が狭い店に響き渡った。
クロスはもう諦めたのか、開き直った声で咎める。
「うるさいぞエギル。いや、〝壁〟と言ったほうがいいか?」
「いや言わなくていいって!」
エギル、信頼のツッコミ。
そんなくだらないことが脳裏に流れたが、クロスは黙ってクイナを見た。
横に立つクイナには、もう先ほどの驚きの怒りの感情はなく、むしろ「やってしまった」とでもいう表情である。
「ク、クイナちゃん……!?」
「『ちゃん』って言わないでください……もう17なんですから……」
クイナがクロスの後ろに隠れて、顔だけをぴょこっと出しながら言った。
「え、マジかよっ!てっきり14歳くらいかと……」
「17だったのかクイナ。俺も中学生だと思ってたぞ……」
クロスとエギルは驚きの声を上げると、まじまじと改まってクイナの体を眺める。
クイナの身の丈は150センチと少しほど。
クロスの身長の187センチや17歳女子の平均身長と比べると、いささか低いだろう。
「うぅー!クロスさんもひどいですーっ!!!」
まじまじと眺め続けるクロスにクイナはポコポコと何度も殴りつけるが、クロスは痛む様子もなく飄々《ひょうひょう》としていた。
「ま、まぁ、コイツがクイナだ。よろしく頼む」
「おう。よろしくな!クイナちゃん」
「『ちゃん』付けしないでくださーい!!」
クイナが喚くが、もうエギルも慣れてしまったのか、衝撃のあまり忘れていた生産作業を再開している。
クロスものんびりと目的もなく店内を眺めていて、ときおり和風な物を見つけてはしげしげと見ていた。
「――――あ、そうだクイナ。お前もエギルに短剣見てもらえ……って、なんだよ」
クロスが訝しげに見るが、クイナは頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いてしまう。
どうやら拗ねているらしい。
「はぁ……」
◇ ◇ ◇
それから数時間後。
何とかクイナの機嫌を取り戻したクロスは、適当にフィールドを散歩していた。
クイナはソロでレベリング中なので、クロスの隣にいない。
少し心配ではあったが、単独での戦闘経験も重要だと思ったのだ。
今にして思えば、別行動なら機嫌取りのためになかなか高価なデザートを奢る必要はなかった。
だが後々になって蒸し返されても困るので、おとなしく献上したのである。
寂しくなった所持残額を嘆きながら、クロスは最近熟練度上げをしている大剣を担ぎ上げた。
目の前には、中層にしてはなかなか入手コルが多いモンスター、<ゴールドシーフ>。
バンダナとマフラー、動きやすい足袋と革鎧といういかにも盗賊らしい風体のコボルトだ。
だが、その色はその名の通りこれでもかというほど黄色と金で統一され、とても隠密を重視する賊のようには見えない。
金色のカットラスを構えてこちらを睨む<ゴールドシーフ>は、まるで何かの喜劇かギャグのようである。
クロスも手に持った長大な大剣、<へヴィブラックブレイド+2>を下向きに構えて、片手で兜の向きを調整した。
「アアアアアアアアアア!!!!」
<ゴールドシーフ>が奇声とともに振り下ろした金のカトラスを、その十倍以上も長大な黒い大剣で弾く。
よほど反動が大きかったのか、<ゴールドシーフ>はカトラスを持った手を頭上に弾かれて、後ろに仰け反った。
「はぁっ!!!」
クロスはそのまま大剣を横に薙ぐが、流石は58層級モンスター。
仰け反った身体に引きずられるようにして後ろに跳び、クロスの斬撃をかわした。
状況がふりだしに戻って、クロスは舌打ちする。
(すばしっこい……。まぁ、特殊なモンスターだ、仕方ないか)
そう思いながら、クロスは大剣を掲げた。
それが発動キーとなって黒い大剣がオレンジに輝き、ソードスキルが発動する。
両手剣スキル、<アバランシュ>だ。
両手剣使いの誰もが用いる基本技で、簡単に言えば「垂直振り下ろし」である。
基本技のサガとして威力はほどほどだが、リキャストタイムが短く好きも少ないことからクロスを含め多くの両手剣使いが重宝していた。
「はぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
渾身の力を込めると、システムアシストにプレイヤースキルが上乗せされる。
加速した<アバランシュ>に反応し切れなかったのか、カトラスを振り上げていた金色の盗賊は防ぎきれずに切り裂かれた。
<ゴールドシーフ>の華奢な身体が盛大に吹き飛んで、木の幹にぶつかる。
HPバーが凄まじい速度で減っていき、その生命残量が赤く染まる。
だが数ドット残ってしまったようで、<ゴールドシーフ>は再び短剣を手に立ち上がった。
「アバランシュじゃあギリギリ無理か……」
クロスは少し驚きながら、心のノートに結果を記録する。
現在、クロスの<両手剣>スキルの熟練度は512。
<カタナ>、<大太刀>の2スキルが最高の1000であるので、ちょうど半分くらいである。
しかし、一種類の武器カテゴリを極めている者は多くても、三つ以上もの武器の熟練度を上げているものは数えるほどしかいない。
それは通常のゲームではなく、このアインクラッドだからこそだろう。
ここでは「己の強さ」と「生き残る力」がほぼイコールだ。
己の力の具現ともいえる武器を極めることは、生存力に直結する。
「……あ」
残り数ドットとなった<ゴールドシーフ>が、逃走を開始していた。
<ゴールドシーフ>の厄介なところは、そのエンカウント率の低さもあるが、もう一つ。
HPが三分の一を切ると、一目散に逃走を開始するのだ。
見ると、クロスの前でへばっていたはずの<ゴールドシーフ>は、さっきの消耗や好戦的な態度はどこへやら、こちらに背を向けて猛然とダッシュしているではないか。
「ちょ……!」
クロスは慌てて大剣を担いで、今できる最高の速度で追いかける。
しかしいくら防具が軽装――――頭の鉄兜は健在だが――――といっても、大剣を背負っている身だ。
さらにクロス自身の敏捷値がさして高くないこともあって、金の盗賊との距離はみるみる開いていく。
「まずい、こいつを逃がしたら金が……!」
兜の中で小さく毒づくが、<ゴールドシーフ>との距離は縮まらない。
懸命に駆けるクロスだが、ふと金色の盗賊の姿が森の闇に消えてしまった。
そして同時に表示された≪ENEMY LOST≫のそっけない文字。
それは、あの金の盗賊を取り逃がしたことを、無情に告げていた。
こんな亀更新の小説を読んでいただいて、本当にありがとうございます。
友人にも「亀更新すぎワロタww」と言われてしまい、ますます危機感を感じている有様です。