クロス「なんだと?」
クイナ「わ、私も、ですか……?」
当然。
しばらくはもう一人の主人公(?)を描いていきます。
もしかすればクロスが主人公(笑)になるかもなー
クロス「……、」シャキン
ん?……フハハハ、『破壊不可オブジェクト』である私に大太刀は効かんよっ
???「ふむ………解除」
クロス「ふんっ!!」
ん?――――――――グギャアァァァッッ!!
※突然変な茶番して申し訳ありませんでした。
とある、誰も知らない洞窟の奥。
モンスターも出現せず、ただクリエイターが設置してそのまま放置されたような場所だ。
そんな、「彼」が製作者にすら忘れられた静かな洞窟を見つけたのは、ちょうど半年ほど前。
最初の発見者である「彼」は、そのゲームプレイになんのアドバンテージもない洞窟の価値を、見つけたときからわかっていた。
街やギルドハウス以外の拠点。
そして「彼」が己の仲間を呼び出しそこに居を構えてから、はや半年が経っている。
いまや「彼」の仲間は50人を超えていたが、洞窟には窮屈としている様子は感じられない。
「ねぇねぇ、次はどこ行く?」
松明の薄暗い光の中で、ズタ袋を被った男が言った。
その無邪気な子供のような声に、声をかけられた男がニヤリと笑う。
「そう、だな……。おい、ジン。どう、思う……?」
紙同士が擦れるような声。
それは、ぼろぼろのフーデッドローブを纏った、真紅のエストックを携える男のものだった。
フードの下の顔には髑髏《どくろ》のマスクが着けられていて、眼球の穴からはギラギラとした赤眼が煌々と輝いている。
「……さァな。別にどこでもイイだろォが」
話を振られた白髪の青年、ジンは苛立ったように言った。
そしてだるそうに立ち上がると、目つきの悪い紅い瞳を先ほどから黙りきっている「彼」に一瞥させる。
「……オイPoh《プー》。俺は適当にぶらぶらしてくるぜ。ここじゃァ暇で暇でしかたねェ」
「Oh、せっかちだねキミは。まぁSHOWがないかぁ」
プーと呼ばれた黒ポンチョの青年はやれやれとでもいう様に肩をすくめた。
そして、英語交じりの独特な話し方で、言葉を付け足す。
「ま、オレンジ狩りや『軍』にはAttention(注意)ね」
だが、ジンは白いフーデッドマントを纏うと、何も言わずに洞窟から出て行ってしまった。
「ケッ、なんなんだよアイツ。で、なんでリーダーはアイツを野放しにしてるのさ!」
ジンの白い影が視界から消えると、早速とばかりにズタ袋の男が陰口を言う。
すると、髑髏《どくろ》のマスクをつけたもう一人の男がシュウシュウと笑った。
「そう、いうな、ジョニー。何か、考えが、あるんだ、ろう……?」
そういうと、プーはその整った顔に笑みを浮かべる。
「当然だよザザ。でも、今はまだsecret、だ」
そして人差し指を唇にあてて、小さくウインクした。
◇ ◇ ◇
「……けっ」
洞窟を出てしばらく。
はるか上層の岩山で、ジンは苛立ちを隠さず吐き捨てた。
ジンが殺人ギルド<笑う棺桶《ラフィンコフィン》>に入ったのは、別にプーの考えに賛同したわけでも、殺人衝動に駆られたからでもない。
とある、ジンがこのアインクラッドで果たさねばならぬ責務を果たすためだ。
襲い掛かってきた蜂型モンスターを片手間に屠りながら、ジンは当てもなく歩く。
この岩山に来たのも特に理由があったわけでもなく、ただあの洞窟の狂った空気が嫌いだったからだ。
ザザも、ジョニーブラックも、そしてプーも。
なぜあそこまで狂うことができるのか、ジンには全くわからない。
ラフィンコフィンがあそこまで大きくなった理由に、プーの巧みな話術が大きく貢献していることは言うまでも無いが、やはりそれ以上のなにかがあるのだと感じるのだ。
それはまだわからないし、おそらくジンが「まとも」である限りは永遠にわからないだろう。
だが、人の心には「鍵」がある。
それは通常、理性によって重く閉ざされ、よほど異常な事態でなければ開かないものだ。
確かに今は「ログアウト不可のデスゲーム」という異常な事態だが、現実の戦争のように死があたりに振りまかれているわけではない。
もとより「死の可能性」というものは、安全とか信頼とかいう言葉によって巧妙に隠されているだけで、現実世界にだって平然と存在するのである。
だが、この事態がプレイヤーたちの心を大きく揺さぶったのは確かだ。
そして、プーはそれを利用した。
人は、それを正しいと思い信じればどんな残虐で冷酷なことも当然のようにできる。
与えられ、また信じた正義を盾に、己の行為と思考を正当化するのだ。
歴史では、ナチス・ドイツの総統、ヒトラーがそれを利用したことで有名である。
プーはそれをおそらく知っていて、このアインクラッドで利用した。
『ゲームならPKして当然』で、『殺しても殺すのはナーヴギアと茅場明彦であり、プレイヤーではない』という正義。
そして、この二つを偽りの正義に掲げて、殺人ギルド<ラフィンコフィン>は結成された。
「……ん、もォここか」
いつの間にか周囲の景色は変わり、山のふもとに広がる階段状の渓流に差し掛かっている。
岩の灰と、梢の緑のコントラストが、ジンの立つ小高い崖の下に広がっていた。
無数の滝が下に落ちていき、白い霧が拡散していく。
ふと、ジンは左手を掲げて、その甲を見た。
革の手袋に包まれたその下には、あの忌々しいラフィンコフィンの紋章が刻まれている。
棺桶から顔を出して嗤《わら》う、死神のような骸骨。
その邪悪な紋章を刻んだ者たちが手始めに狙ったのは、小さなギルドだった。
まるで友人だけで組んだような、2パーティ分ほどしかいないギルド。
レベルも装備も経験も最前線には及ばず、ただ中層で生活を楽しむ者たちだ。
攻略に血眼になるわけでもなく、死の恐怖に怯えて<はじまりの街>に篭るわけでもない彼らは、もしかしたら最もこのアインクラッドでの生活を楽しんでいた者たちなのかもしれない。
そんなプレイヤーたちの1ギルドがピクニックに行くのを見て、プーは言った。
「ねぇ、ちょっとアイツら、KILLしてみない?」
たったそれだけの、まるでイタズラをしかける子どものような口調で言ったその言葉で、そのギルドに所属していた9人が惨殺された。
それを茂みの影で怯えてみていたジンは、その光景をよく覚えている。
そのギルドの名は、<イエローアイリス>。
花の名で、日本ではキショウブと呼ばれる黄色い花だ。
今はそのギルド名も、その言葉に込められた意味も、知る者は少ない。
ある理由で知っているジンがラフィンコフィンに入ったのは、そのギルドが消えた1週間後だった。
適当に捕まえてきたオレンジを無理やりグリーンにしてからプーの前に連れて行き、そして自らの手で殺す。
そうしてラフィンコフィンに入れてもらい、そしてそれからも同じ手段で「人殺し」を演じているのだ。
「そォイや、アのクロスとか言ウ奴……」
ふとこの前出会った蒼い騎士のことを思い出す。
クロスの手に握られていた、刀というにはあまりにも大きい剣。
あれは、未発見のエクストラ……もしかしたらユニークスキルだったのではないか。
そう思うと、あの時デュエルを挑んでいればよかったと、ジンは嘆息した。
「……ん?」
いつのまにか、あたりが騒がしくなっている。
聞こえるのは、複数の人の声と、甲高いモンスターの声だ。
誰かが戦闘しているのだろうが、それにしても叫び声が多い。
「な……コ…ツ、……ぞッ!……うわッ!」
「きゃ!…の……え、……シャさ…、大丈…!?」
声だけなのでよくわからないが、これは苦戦しているのではないか。
「はァー。めんどくせェが、しゃねェか」
ジンは槍を抜いて、声の聞こえる方へ走り出した。
高い敏捷値に裏打ちされた走力は、走るほどに加速し、また聞こえる声も大きく、鮮明になっていく。
敵の甲高い声からして、相手にしているのはこの区域最強のモンスター、<イーヴル・ダークコボルト>のようだ。
<イーヴル・ダークコボルト>は確認されている中で最強のコボルト族であり、黒い毛と紅い目が特徴である。
出現率は低いが、まず出会わないというほどではなく、運悪く出会って撤退する者も多い。
うっとおしい茂みを槍で切り払うと、突如視界が広がった。
どうやらそこは渓流にできた岩棚の下のようで、木が生えず小さな広場になっている。
その中心では、4人のプレイヤーと2体の<イーヴル・ダークコボルト>が武器をぶつけ合っていた。
数の上ではプレイヤーが有利そうに見えるが、そうではない。
<イーヴル・ダークコボルト>は個々の戦闘力が並外れて高く、並みの中層プレイヤーなら一体でも撤退するはめになるのだ。
この階層が最前線だった頃は『小さな死神』と恐れられたものである。
それが2体とは、もはやこのプレイヤー側に勝ち目は無いだろう。
さすがに全滅は無いだろうが、まず負ける戦いである。
見ると、4人のプレイヤーはみな疲労していて、二人の壁役《タンク》によって辛うじて維持されているようだ。
(……結構やばかったみてェだな。来て正解だったぜ)
ジンは内心思いながら、一番近く、ちょうど華奢な青年に鉈を振り上げていた<イーヴル・ダークコボルト>に槍をたたきつけた。
今回は早めに更新できました。
これもサブ主人公の特殊効果かもしれません。