クロスの話が中途半端で終わりすぎです。
でも次話でジンの話は一旦途切れるので、なんとか修正できるかもしれません。
できないかもしれません。
こんな無計画な小説を読んでくださって、本当にありがとうございます。
「キシャァァァッ!!」
ジンの槍に叩き潰された<イーヴル・ダークコボルト>は、甲高い叫び声を上げながら蒼いガラスになって飛散する。
「……ア?こいつらってこんなに弱かったかァ?」
風に舞う蒼いガラスの中で、ジンは拍子抜けして思わず呟いた。
周りではプレイヤーもコボルトも、突然の乱入者に唖然としている。
だが、ジンにとってそんなことはさしたる事であった。
そのままガラス片を蹴散らすように地面を蹴ると、そのまま右手の槍で前を薙ぎ払う。
呆然としていた最後のコボルトがそれに直撃して地面に転がるが、すぐさま身軽な動きで起き上がった。
どうやら、さっきのコボルトほど削られていなかったらしい。
コボルトの上に表示されたゲージは残り三分の一ほどで止まり、黄色く変色している。
「オイ!ボケっとしてねェで動けっ!」
「は、はいっ!」
ジンが唖然としていたプレイヤーたちを怒鳴りつけると、彼らは慌てて陣形を組んで動き始めた。
そのノロノロとした動きに舌打ちしながら、再びコボルトに突進する。
さすがにコボルトのAIも学習したのか、ジンの槍を紅い鉈でいなして防御し、そのまま鉈を滑らせてソードスキルを発動させた。
紅い鉈が緑色の光を纏い、一気に加速する。
ジンの身体を的確に捉えた一撃。
このままではジンは鉈の一撃を食らい、切り飛ばされるだろう。
だが、ジンは白いフードの下で、口角を吊り上げて嗤った。
「……甘ェな」
ジンの身体が、霞むほどの速さで移動する。
―――――ザンッ!
緑色の剣閃が振り下ろされるが、そのときコボルトの胸にはすでに槍が貫かれていた。
「キィャ……!?」
驚きの声を最後に、<イーヴル・ダークコボルト>はガラス片となって砕け散る。
そのときのジンの顔は、おぞましいほどに歪められ、笑っていた。
<イーヴル・ダークコボルト>を形成していた蒼いポリゴンの破片を槍で散らして、ジンはプレイヤーたちに向き直る。
「へっ、大丈夫みてェだな」
「は、はい……ありがとう、ございました……」
華奢な青年が心身ともに疲れきった様子で礼を言った。
HPはもう全快しかかっているだろうが、精神面での疲労が大きいのだろう。
「礼はいらねェ。それよりテメェら、なんで逃げなかったんだァ?」
ジンは呆れた様子で訊いたが、プレイヤーたちはみなその言葉の意味を理解していないようだった。
どうやら、<イーヴル・ダークコボルト>の危険性を知らずにこの渓流に来ていたらしい。
それを知って、ますますジンは呆れてしまった。
ゲームでは、基本的に未踏の地を行く時は情報を集めるものなのだ。
初見でクリアできるなんていうのは普通のゲームでもそうそう無いし、特にその重要性はアインクラッドならより顕著に現れているのである。
さっきのだって、ジンが来なければ彼らは全滅とは行かなくとも、もしかすれば一人くらい死んでいたかもしれないというのに。
無知は罪、と言った人は、あながち間違いではないのかもしれない。
そんなことを思いながら、ジンはダルそうに言った。
「……あのなァ。さっきの<イーヴル・ダークコボルト>は一応最前線級のモンスターなんだぜ?
そんな奴にテメェらみてェな中層プレイヤーが勝てるかってよ。しかも2体。ヘタすりゃ誰かが死んでたかもしれねェってこと、わかってんのか?」
誰かが死んでた。
その言葉に、プレイヤーたちがビクッとしたのは、当然の事だろう。
このゲームは、死が本当の死を意味するのだから。
そんな空気の中、華奢な青年がおどおどとした様子で言った。
「あ、あの、なんで僕らが中層プレイヤーってわかったんですか?」
「んなこと装備でわかる。それ、『ゼファーソウル』シリーズだろ?武器もそこそこの『アイシクルブレード』だし、どれもここらの階層で手に入る装備だ」
ジンが当然のように言った単語は、全て青年が装備している物の名で、青年が驚愕する。
改めてみてみると、青年のパーティはタンク二人、援護二人で構成されていた。
武器構成はタンクが両手剣とメイス。援護の二人は少女の方が槍で、青年は片手剣というものだ。
バランスとしてはまぁまぁで、別に悪くは無い。
だが、先ほどの戦闘(といっても少ししか見ていないが)からすると、どうやら槍のタンクと援護の少女が弱いように見えた。
それが装備の差か、レベルの差かはまだ乱入者であるジンにはわからないが、もしそれがなければ先ほどの戦闘もあれほどの苦戦にはなっていなかっただろうと思う。
「……そこの女と、メイスのタンク。テメェら、レベルが遅れてねェか?」
「ッ!」
釣りで言ってみただけなのだが、どうやら図星らしい。
どこか申し訳無さそうな声音で、槍の少女が言った。
「は、はい……。エリュヤ……彼は装備が整っていないだけなのですけれど、私がまだまだレベルも低くて……ごめんなさい……」
「……もし謝るんなら、俺じゃねェよ」
ジンはそう言って、何となく空を見上げる。
いつのまにか日は傾《かし》いでいて、階層の隙間から入る斜光が美しい。
「大丈夫だよシオン。そんなに謝らなくてもいい」
青年が少女・シオンに励ますように言った。
シオンは長いウェーブの金髪を揺らすと、力なく微笑み返す。
見ると、彼女の槍はショヴズリ、もしくはコルセスカと呼ばれる種類の物のようだ。
両刃の穂先の根元の両側に戦闘機の前進翼のような、穂先の方へ生える刃が付けられているのが特徴的な槍である。
このアインクラッドに来る前までは剣や鎧というより、銃とか戦闘機が好きだったジンには、そう形容するのが最もしっくりと来るのだ。
シオンの恰好は援護役らしい軽装で、厚い革の胸鎧に薄革の腰巻《フォールド》を装備している。
だが、その装備のランクがいささか仲間と比べると1、2ランク低い。
そういうところを見ると、彼女は新参者なのだろうか、と思う。
「なぁ、とりあえず街に戻らねぇか?こんなとこじゃおちおち話もできねぇよ」
先ほどエリュヤよ呼ばれたメイス使いのタンクが、待ちかねた様子で言った。
両手剣使いのタンクの方も、無言で頷いている。
やはり、この青年がパーティのリーダーらしい。
青年は頷いて、
「よし、じゃあ帰ろうか」
と呼びかけると、4つの転移結晶を取り出した。
そして街の名を呼ぼうと口を開いた時、ふと思い出したようにジンへ向き直る。
「あの、もしよかったら、あなたも来ませんか?お礼も、したいですし……」
「…………あぁ、わかったよ」
ジンはかなり迷ったが、ここで断ると怪しまれそうなので、おとなしく受け入れることにした。
それを聞いた青年はうれしそうに微笑んで、5つ目の転移結晶を取り出し、ジンに渡す。
そして青年が街の名を声高に叫ぶと、数秒後、ジンの視界は蒼と白の光に包まれた。