「お姉様に何かお返しをしたいな…」
せっかくカルデアという場所でお姉様──ブリュンヒルデと出会うことができたのに、何も返せない自分が不甲斐なく思える。
そんな時マスターに教えてもらったプレゼントという言葉を思い出した。お世話になった人に日頃の感謝の意を込めて物を渡すのだと、そして自らの手で作るものは喜ばれやすいのだと。
「プレゼント…食べ物なら形に残らないし良いかもしれないわね。なら、お菓子……シナモンロールかしら?」
そうと決まれば善は急げ。食堂へ行って事情を説明すると快く場所を貸してもらえた。だが、材料を買いに行こうとした時に赤服のアーチャーが
「お菓子なら冷蔵庫の中にひと通り入っているぞ。材料もそこから探すといい」
と言っていたのが気になる。実際、そこにシナモンロールに必要な材料が揃っていたのだ。誰が?いつのまに?オルトリンデとヒルドには言ってない、はずだけど。
「まあ、いいわ。とりあえず作っちゃいましょう」
しかし、作り始めたはいいが中々上手く作れない。卵の殻が入り込むわ塩と砂糖の分量を間違えるわ…私には料理の才能が無いのだろうか。少し息抜きするため食堂を出ると何故かマスターが立っていた。
「あれ、スルーズどうしたの?」
「マスター!?えと、その…お姉様にプレゼントをしようと」
「へえいいじゃん!何作ろうとしたの?北欧って言ったら…ごめん、リコリスしか出てこない」
「いえ、別に大丈夫ですよ。シナモンロールを作ろう、としたのですが…中々上手く作れず、どうしたものかと思っているところです」
「ふぅん、なるほどね。ねえ、もし良ければだけど手伝おうか?」
「マスターが、ですか!?」
「うん…ダメかな?」
「いえ、その、嬉しいです。ですが、その…ヒルドやオルトリンデにも言ってないのに」
「あーそれなら…」
マスターからの話を聞くには、2人は元々、各自でお姉様にプレゼントを渡す予定だったが私の予定を知ってサポートすることにしたらしい。オルトリンデはマスターにも事情を説明し、無理そうなら手伝ってもらいたいと頼まれたそうだ。ヒルドはパールと共に材料を買いに行ったとのこと。
「じゃあ、あの材料は…」
「そういう事なんだ、黙っててごめん。ほら、2人も」
マスターが背後に声を掛けるとオルトリンデとヒルドが申し訳なさそうな顔で出てきた。
「ごめんなさい」
「別に大丈夫よ。ヒルドはよく分かったわね」
「だって私達がよく食べてて美味しかったものといえば、ねえ?パールさんとも色んなこと話せて楽しかったよー!」
「それは良かったわね…少しくらい手伝ってくれても良かったのよ?」
「だって一人でやろうとしてたし口は出せないじゃん?それに手際がどんな感じか見てみたかったしね!まあ結果は、うん」
「し、仕方ないじゃない慣れてないのだから!」
「まあまあ、それより作業を再開しましょ?私達の作ったシナモンロールをお姉様に食べてもらうまでがミッションですから!マスターも大丈夫ですか?」
「うん。それじゃ頑張ろっか」
そこからは先ほどまで全く進まなかったのが嘘ではないかと思えるほどにあっという間に終わった。元々1人から4人に増えた、というのもあるがそれ以上に各々の役割がぴったりと当てはまっていたのだ。
「すごい…あとは焼けるのを待つだけだなんて」
「いい匂いしてきたね。沢山作れたし一つくらい味見してもいい?」
「ええ、お礼と一緒で悪いのだけど、良いかしら?2人もちゃんと食べてお姉様に渡しても大丈夫か確認するわよ!」
「分かった!」
「勿論です」
チン、と音を立てて焼きあがったお菓子たちはキラキラして見えた。
熱々のうちに渡せないのは悔しいが、この3人と作った達成感と充実感は何ものにも代え難い経験となった。
「手はちゃんと洗ったわね?それじゃ──」
「「「「いただきます!」」」」