普段は静かな図書館に荒々しい足音が鳴り響く。
「紫式部!…はここにいるのかしら?」
よく通る声で言葉を放ったのは、普段はここに来ることも無いであろう英霊──ジャンヌ・ダルク・オルタであった。
何人かが入り口を見たが、関わらない方が良いと判断した為か目を本に戻す。
「私はここに…図書館ではお静かに、お願いします」
「あら悪かったわね。んじゃ、場所を移動しましょう。さらに五月蝿くする自信しか無いから」
「はあ……」
困惑しつつも防音性優れる部屋へと案内した。普段は映画やライブ鑑賞をする部屋であるためか2人だととても広く感じる。
「それで、早速だけどアンタに頼みがあるの」
「はい、なんでしょう?」
「私と一緒に乙女ゲームを作りましょう!シナリオは頼むわ!」
「乙女、ゲーム?」
「そうよ!」
まさか彼女の口から乙女ゲームという単語が飛び出てくるとは。何度か言葉を噛み砕き、ようやく理解した頃には既に話が飛んでいた。
「……それはまた、大変そうですね」
「まず前回の反省点として親友キャラを入れたのは良くなかったわね!まさかあんなになるとは思わなかったもの。それとここにいるサーヴァントも増えてきたことだしどどんと追加しちゃっても良いわよね!あと─」
目を瞬く式部を置いてけぼりにし、ジャンヌオルタは自らの世界へダイブした。普段の高飛車な性格からは考えられないほどの乙女な発想にこちらの思考回路がショートしてしまいそうになる。
──そういえば、ダヴィンチが苦笑しながら話していた。[私の贋作]どころか贋作の英霊達をも従えて立ち塞がった彼女のことを。彼女の作った物語がチグハグな形で暴走してしまったらしい。
なるほど。それならば私の出番、なのかもしれない。
「わかりました。私に出来ることがあれば、お力添えいたします」
「ホントに!?ありがとう!…って、当然よね。精々私に尽くしなさい」
「ええ。必ずや、貴女の想いを形に載せましょう。うふふっ」
…この方の嘲笑以外の笑顔を初めて見た。こんなにも素敵な笑みを浮かべるのですね。おそらく指摘したら速攻で否定するのでしょうが。
こうして2人の友情は固く結ばれた。尚、この合作は精魂こもった作品となった。しかし、夜通しで語り合った2人は性癖をこれでもかと詰めてしまい─所謂深夜テンションになり─最終的にお蔵入りとなった。
ちなみに、図書館の司書さんに「一人で遊べるゲームを教えてくださいな」とコッソリ言うと赤面しつつもソレを渡してくれる、という噂が立ったのは、別の話。