何気に一万文字超えたの初めてだなあ
目覚めたのは水の中だった
いや、正確には水のような物に満たされた何かに入れられているのだ
呼吸は口に付けられているマスクからホースが伸びているからこれで行われているのだろう、だが何故このような状態になっているのかが分からない
確か、そう、オレはクロエが乗っていた暴走状態のブルーディスティニー1号機と交戦して、それから……
「ぼうば、ばればらぼうばっば(そうだ、あれからどうなった)!?」
状況の確認を、そう思い外に出ようとしたが手を伸ばすとガラスのような物に触れ、完全に閉ざされた中に居るというのが分かる
どうやったら出られるのか、そう悩んでいると電子音と共に蓋が開き外に出られるようになった
横になっていた体を起こして周囲を確認すると、消毒液の匂いなどがするし、カーテンで仕切られているのを見ると、どうやら病室のようだ
さてと起きたは良いが、外には出られないな……恐らくは医療用の物なんだろうポッドから出てきたのは分かったんだが、今の姿は全裸だ
此処が何処であれ、
待っていれば誰か、それこそ治療をしてくれた人が来るだろう、そう思い待っているとバタバタと誰かが駆けてくる音が聞こえた
「うわ、本当に目覚めてる……あれだけの怪我、普通なら全治半年とか、それ以上になってもおかしくないのに……」
現れたのは白衣の女性、何度か訓練中に倒れた一夏を運んだりしているので知っている、IS学園の校医の先生だ
ISを扱っているので事故等でも対応出来るよう医師免許を持つ人だが、その人が居るという事は此処はIS学園の医務室か
「先生、あれからどれだけ経ってますか?」
「ふむ、意識は正常のようだね。まず三日、キミは医療用カプセルの中で眠っていたよ。病状は全身の筋肉に疲労、これはまあ良いね。この学園ならいつもの事だ。問題は二つだ。一つは腹部に受けた衝撃による内臓破裂、特に骨折した骨が臓器を酷く傷つけてね、ISの搭乗者保護機能がなければ即死してもおかしくない怪我だ」
「IS乗りで良かったと心底思いました」
何だその重症、よく生きていたなオレ、篠ノ之博士がISの基本性能としてそこまでの機能を持たせてくれて良かった
「それで先生、もう一つは?」
「それは鏡を見た方が早い。今のキミの状態だが、こんな感じだ」
手渡される手鏡、そこに写し出されるオレの姿は以前と変わらないように見えて一つだけ明確に違う点があった
左頬にかけて大きな傷痕、一直線に何か鋭利な物で斬ったかのような傷だ
「今は塞がっているが、破損したISの頭部パーツで自傷したみたいだね。あの頭突きした時に刺さったみたいで、一部は口内まで貫通していたよ。命に関わる腹部の傷の再生が最優先だったから傷痕が残ったらしい。まあ命あっての物種とは思うけどね」
つまりは消えない傷という事か、ふむ……
「背中の傷以外は男にとって勲章みたいなものでしょう。それに、パイロットとしてスカーフェイスなんて箔がつきますよ。歴戦の戦士みたいでね」
それが女の子を助ける為に負った傷だというのなら尚更だ、初対面の相手には避けられるかもしれないが男であるオレには別に顔に傷なんて惜しくもない
手鏡を返すと先生はからからと声を挙げて笑っていた
「キミならそう言うと思っていたよ。さて、取り敢えずキミの負傷に関しては以上だ。何か他に聞きたい事は?」
「オレが眠っていた間、何が起きました?」
三日だ、クロエの事は篠ノ之博士が迎えに来てくれたかもしれないが、一夏とか他の人間には心配を掛けていただろう
今すぐにでも動けるのなら一度顔を見せた方が良いと思うんだが、今の時間帯なら授業中か?
「それに関しては本人達から話を聞くのが早いだろう。機密事項として私の権限では閲覧出来ない情報もあるからね。今呼んでいるから、もう少しすれば来るよ」
それまでは服を着て待っていると良い、と言われて示された方向を見れば男物の下着や入院服がある
下着の方はオレの持っていた下着と同じものだから誰かがオレの部屋から持ってきてくれたのだろう、先生がカーテンを閉めて出ていったので近くにあったタオルで体を拭き、用意されていた服に着替える
これで退院とならないのは経過観察とかでもう少し入院するからか、放課後には一夏達も来てくれそうだな
今の今まで眠っていたからか体が少し重いが耐えられない程ではない、ゆっくりさせて貰おう
と思っていたがまた誰かが駆けてくる足音が聞こえる、なんというか聞き覚えがあるんだよな、この足音
ドンッと勢いよく医務室の扉が開かれる音も聞こえてきたし、恐らく予想通りの人物が居るんだろうなあ
「こーくんが目覚めたと聞いて!」
「あー、篠ノ之博士?足音から察してましたが、どうしてIS学園に?」
三日もあればてっきりクロエを連れてラボに帰っていると思ったんだが
「流石に束さんでもくーちゃんを命懸けで助けてくれたこーくんを見捨てて帰ったりなんてしないよ。あ、その医療用カプセル取りに一回は帰ったけどさ」
「ああ、これ博士のだったんですね」
道理で校医の先生がオレの回復を信じられないとばかりに見ていた訳だ、そもそも学園の備品ではないのだから
「束、無闇に一人で出歩くなと言っただろうが。紫藤もよく目覚めたな。とはいえ一人で無茶をしたのは褒められた事ではないがな」
「織斑先生も。今は授業中だと思ったんですが」
「自分のクラスの教え子が目覚めたんだ。コイツの監視と状況説明を兼ねて私が出てくるのは当然だ。授業は今は山田先生に任せてある。お前が目覚めた事もクラスには伝えたから放課後に誰かしら来るだろう。さて、目覚めたばかりで済まないがあれから何があったのか簡潔に説明してやろう。まずは―――」
織斑先生から語られた今の状況、それを纏めると次のようになる
○強力なジャミングを行いながら不明機が学園を襲撃、撃破するもオレが負傷という結果になる
○学園では諸々の事情から犯人は篠ノ之博士と断定、しかし篠ノ之博士という世界中が行方を探っている人物の為、公表はしていない
○同様にパイロットであったクロエの事も未公表、現在二人の身柄は学園で預り織斑先生が監視している。尤も篠ノ之博士だけは勝手に抜け出して歩き回っているようだが
○学園は現在では日常と変わらない様子を見せている、だが現場検証の為にアリーナは閉鎖、実際に戦闘を行った一夏や鈴、ピットで待機していたらしいセシリア、そしてオレにも箝口令が敷かれるとの事だ
「―――主な点は以上だ。何か質問はあるか?」
「クロエの処遇はどうなりますか?」
「現在それも検討中でな。追って処罰が下るとは思うが、よりによってコイツの関係者だからな……」
どうしたものかと悩む織斑先生の視線の先には篠ノ之博士が
まあそうだよな、これで犯罪者として逮捕とかされる事になれば即座に襲撃してくるな、この人なら
とはいえ対外的にも何らかの発表は必要となるだろう、特に犯人の機体を撃破したとなればパイロットは拘束したと見られる、ISの安全装置から見てそれは確実だろう
「あっ」
そこまで考えて一つだけ抜け道というか、かなり無理矢理な方法を思い付いてしまった
EXAM、そしてブルーディスティニーという機体を知っているからこその策とも言えるが
「おやおや、こーくんは何か思い付いたのかな?」
「まあ、一つだけこの状況で全て丸く収める事が出来る策が、無くは無い、ですかね」
その為には関係者全員の協力が必要となる訳だが、余計な問題を抱えたままにするよりはマシかなと思う
「一応は聞いてみよう。どんな策だ、紫藤」
「全部架空の犯人に罪押し付けて篠ノ之博士は正義の味方として登場するとかで良いのでは、と。まず篠ノ之博士に訊ねますけど、もしもパイロットの事を一切考慮しない、それこそ乗れば死ぬような性能を発揮するISが居たらどうします?」
「そんなの絶対壊すね。あと作った奴等全員殺すと思うよ。データも何もかもこの世から消滅させてね」
「まさにそんなシステムなんですよ、EXAMは。で、だったらパイロットは機体の負荷で死亡した事にして、篠ノ之博士はそんなシステムを作った人間に対する怒りで表舞台に出てくる。そんな脚本はどうですか?」
これなら一般的な民衆にも受け入れられやすいエピソードだ、そもそも宇宙開発用に作ったISを軍事転用されてご立腹なのだから無理なエピソードではない
実際に犯人が居る訳ではないし、名前だけ適当に付けて公表して殲滅したとかすれば誰にもバレない、関係者のオレ達が黙っていればな
そう思っていたのだが、オレは少し篠ノ之博士の事を理解していなかったようだ、具体的には彼女が天災と呼ばれている所以を
「んん~、良いねえ、やるなら盛大にやっちゃおっか!あのシステムって何故かいっくんやこーくんを集中して狙ってたから、女尊男卑主義者のせいにして、アリーナのカメラ映像を一部使って、ブルーディスティニーはジェガンの改造機って事にしておこう!そういえば最近、私の名前を大義名分に使ってるイヤなテロリスト集団が居たんだよねえ、女尊男卑主義の団体だし、目障りだから生け贄にしちゃおうか。規模もそれなりだし、関係者全員始末しちゃえば分からないよね!」
「あー、博士?」
「待て束、私の前でそのような計画を立てて止められないと思っているのか?」
なんだか篠ノ之博士の中の闇が見えてきているがそこに織斑教諭が待ったをかける
流石は織斑教諭、頼もしい
「えー、相手はテロリストだから良いじゃん。なんか色々言ってるけど、海外の男子校に爆破テロ起こすような連中だよ?居なくなっても誰も困らない、寧ろ世界の為だよ」
うわぁ、標的が標的だけに止められない
流石に相手がそんな組織だと知らなかった為に織斑教諭も沈黙している
「私とくーちゃんは無実になれてハッピーだし、ちーちゃんも面倒な後処理が少なくなってハッピー、世界もテロリストが減ってハッピー、誰も損はしないね!」
正確には身に覚えのない罪で殲滅されるテロリスト達が不幸だがやってる事が事なので因果応報と思って貰おうか
ウキウキとまるで遊びの計画を立てているような篠ノ之博士を置いて、オレはポツリと呟いた
「オレ、余計な真似しましたかね?」
「言わなくて良い、紫藤。アイツは元からああいう奴だ。遅かれ早かれ、似たような事になっていたさ」
寧ろ一般市民を巻き込まないだけマシだ、とまで言われた
この数日後、それなりに大きなテロ組織が壊滅する事になり、篠ノ之博士からのメッセージが添えられる事になるのだが、まだ少し先の話だ
そして、同時にクロエの罪もなくなる事となった、学園には謝罪と見返りとして、表向きは今回の事件から今後の警備として篠ノ之博士からISコアが五つ機体ごと提供された
しかもその機体がジェガンであり、ラビットフット社の経営者が篠ノ之博士本人である事まで世界中に暴露する始末である
更に付け加えると篠ノ之博士が世界中から追われているのに対する布石として身元がIS学園預りになっていた、小さいながら研究室を設けて基本的に常駐する形となったのだ
当然、世界中から篠ノ之博士とコンタクトを取ろうと色々な手段でIS学園に取り次ぐよう連絡が来たらしいが、オレは知らない
テストパイロットという事で何処から聞いたのかオレにまで連絡を取ろうと電話に着信が来る事になるのだが、オレには知る由も無かったのだ
それはともかくとして、篠ノ之博士達が帰った後、暇になったので手元にあったハロを使ってガンダムシリーズを観ていた
経過観察という事で入院したが体調は至って健康的、それでも動き回れないのでたまには見返してみるのも良いかと思いハロの中のデータを観ていたのだ
特に動きの参考にという事で対ニュータイプ、強化人間戦の部分を入念に、またEXAMのような事があるかもしれないから手本にはなるだろう
そうして趣味と今後のイメージトレーニングを兼ねた一人観賞会をしているといつの間にか放課後だ
やはりというか一夏達が見舞いに来てくれた
「思ったより元気そうだな」
「まあな、そっちは変わりないか?」
ハロの映像を停止して一夏達に向き直る、来てくれたのは一夏と一秋と箒、セシリアに鈴だ
他にも相川さんや谷本さん、のほほんさん達も来てくれていたらしいが病室に大勢で押し掛けるなと校医の先生から止められたらしい、なので今は専用機持ちで共に訓練している時間も長いメンバーから集まったらしい
「康太が居ないのでな、何故か皆訓練が温く感じるようになった」
「そうですわね、一夏さんや鈴さんも腕は良いのですが、何かもの足りませんわ」
「私もアンタと早く戦ってみたいんだから、さっさと退院しなさいよね」
「そうか、なら早く復帰しないとな。とはいえ体は問題ないから、経過観察だけなんだが」
女性陣からはそんな言葉を掛けられる、心配してくれているのか分からないが、変に気を遣われるよりは楽でいい
そして最後の一人、一秋だが見てわかる程に沈んでいた
「その、康太。すまない、自分がもっと早く見えていれば……」
「ハァ、何を気にしているかと思えば……一秋、お前が教えてくれたお陰で敵に早く気付けたんだ。そこからオレが一夏達に警告をしてなければ、あの時に一夏達は死んでいたかもしれないんだ。その後でオレが奴と交戦してれば、この怪我で済まなかったかもしれない。お前は敵の襲撃を防げなかったんじゃない。オレや一夏、鈴を救ったんだ」
一秋があの時に発してくれた警告、アレがなければ一夏達はブルーディスティニーのビーム・キャノンに貫かれていただろう
そしてオレは武装の残っているフルアームドの状態を相手にしていただろう、下手すればEXAMの暴走もあり得たかもしれない、全てはたられば論だが結果として被害は無かったんだ、オレの怪我くらいは必要経費と受け止めるさ
「そうか、ありがとう……」
少しは持ち直したようだが、根本的な部分では納得していない様子の一秋、コイツが悪い訳ではなく、今回の件は全て事故なんだがな
「はいはい、折角皆無事なんだから暗い話は無しよ」
「そういえば一夏と鈴は仲直りしたんだな」
「うっ、その件では迷惑を掛けたわね……」
「けど進展は無さそうだな」
「煩いわよ!仕方ないでしょ、相手が一夏なのよ!」
「俺がどうかしたのか、鈴?」
「な、なんでもないわよ!」
あー、コイツ等もまた前途多難だな、主に一夏の察しの悪さのせいで
とはいえそれに対して箒が不機嫌になったり、セシリアとはまた訓練での模擬試合の約束をしたりと話している内に寮の門限が迫り、皆帰っていった
それからは一人で病人食を食べてベッドに寝転がるだけ、自室なら特に感じないんだが病室だと少し寂しくなるな
またガンダムシリーズを観ながら眠るか、そう考えていたら部屋の扉が開かれた
校医の先生かな、と思っていたのだがカーテンに映る影はそれより小柄だ
暫くの間、何か躊躇するような仕草を見せていたが意を決したのか遠慮がちではあるもののカーテンが開かれる
そこにはいつもの格好をしたクロエが居た
「見た感じ、何処も怪我はなさそうだな。体は平気か、クロエ」
「はい……でも、コウタさんは、私が……」
「オレは平気だ、ISのお陰で命に別状はない。そしてクロエがこの怪我を気に病む必要もな。あれはEXAMがやった事だ」
「それでも!私が束様にあんな機体をお願いしなければ……」
やはりというべきか、クロエはオレに怪我を負わせた事に対して責任を感じていた
今はどのような扱いになっているのかは知らないがわざわざ自分から謝罪に来てくれた、そしてさっきも言ったようにEXAMのせいだからとオレが気にしていなくてもだ
「篠ノ之博士の事だ、いつか組み上げていたさ。それに、サイコフレームの影響かは知らないがアレはオレを明確な敵と認識した。つまりは目指しているニュータイプとしての片鱗がオレにも備わっている事になる。オレとしてはそれが分かっただけでも十分だ」
オレでもやれる、条件さえ整えばニュータイプのコピーを相手に戦える、特に秀でた能力の無かったオレにそれがどれだけの自信に繋がった事か
それでもクロエは俯いたままだ、立ち直るには時間が掛かるかもしれない、だけど一つだけ聞いておきたい事があった
「なあ、クロエ。どうして戦う為の力が欲しかったんだ?」
「それは……」
「力を求めるからには、それなりの理由がある筈だ。それが攻める為でも、守る為でもな」
オレは宇宙開発に備えて篠ノ之博士の手伝いをする為に、ならばクロエは何を思って戦いたいと思ったのか、それが知りたかった
話すべきか悩んでいる様子のクロエ、だが少し経つとしっかりとオレを見据えて話し出した、その瞼の下に隠していた眼を開いて
「私は羨ましかったんです。コウタさんの戦闘データはこの世界の誰も知らない、未知の塊でした。兵器としての運用方法がまだ明確に固まっていない、研究中のISを確固たる兵器として運用出来るコウタさんが。訓練や試合の時に新たな発見をするコウタさんの事を話す束様の姿を見て、私も同じように戦えるのだと証明したかった。そして、結果としてコウタさんにこんな怪我を……」
「成る程」
それだけでクロエが力を求めた理由は分かった、突如として現れたオレが彼女の居場所を奪うかもしれないと、そう思ったのだ、自分は戦えないからと
だがそんな物はクロエが呟いた一言で吹き飛んでしまった
「結局、私は失敗作だったんですね……」
「何だって?」
本人は言うつもりは無かったのかもしれない、だがしんと静まり返るこの部屋でその呟きは大きく聞こえた
だからなのか、オレに聞かれたと知ったクロエはどうせならと諦めるような形で話し出した
「コウタさんにはお伝えしておきますね。私は普通の人のように両親が居て生まれたのではありません。遺伝子を操作して最適な兵士として生み出された遺伝子強化試験体、機械の子宮から生み出された人造人間です」
「遺伝子、操作?」
「はい。他にも体内にナノマシン等を取り込んだり、様々な処置がされています。この眼もその内の一つです。尤も、私はこれに適合出来ずこうして異形の眼になってしまいましたが」
「そうだったのか
つまり、コーディネイターだな!」
「えっ?」
「いや、その後の処置を考えると強化人間か?まあ広義的な意味では同じような物か」
「その、気持ち悪くはないのですか?」
「何でだ?生まれが特殊なだけで、クロエ・クロニクルという人間である事に変わりないだろう?」
「こんな普通とは違う眼をしているんですよ?」
「個性だろ。個性がないオレが言うのもなんだが。いや、この傷のお陰で少なくとも印象が薄いとかは言われなくなるけども」
「そんな事を言ってくれたのは束様に続いてコウタさんが二人目です」
「オレは何も特別な事は言ってないさ。それに、ガンダムシリーズではそういう生まれの人間も居る。特に遺伝子操作で生まれた人間が主人公のシリーズもある。憧れこそすれ、憎悪や差別する気はないさ」
それではブルーコスモスと同じだ、才能の有無を卑下して排除など馬鹿げている
それにクロエが悪い人間ではないなんて分かりきっている事だ、今更生まれが何だと言うのか
「それに、力はただ力だ。どう振るうも、その本人に委ねられる。ああ、それとオレの力が羨ましかったって言ってたが、オレからすればクロエの方が羨ましいよ。生まれだとかではなく、今の役割がな」
「私の、役割?」
「そうだ。オレには戦う力があると言ったが、逆に言えば戦うしか能のない人間だ。宇宙開発に協力すると言っても、オレが手伝える事なんて殆んどない。こうしてIS学園でジェガンを駆って戦い続けるしかない。その点、クロエは篠ノ之博士の研究の手伝いをしている。オレにはそんな頭はないからな、それだけの事を出来るお前が羨ましいよ」
かつて見た夢を追い掛ける事も出来なかったオレからすれば、今もその夢に向かって駆ける事の出来るクロエは眩しすぎる
オレが彼女を羨ましいと思える要因があるとすればそれだけだ
そして、ようやくクロエは笑ってくれた、まだ儚げだが心からの笑顔だろう
「同じだったんですね、コウタさんも。お互いに無い物を、お互いに羨ましいと思っていたなんて」
「まあな。そして、それが人間だ。オレも、クロエも、同じ人間だったって事だ。それと、オレの怪我に関しては改めて気にするな。そもそもEXAMなんてシステムのデータを持っていた事を言わなかった篠ノ之博士が悪い。ガンダムに関する知識ならあの天災とは天と地程の差がある。一言相談してくれればそれがどんなシステムか、どんなメリットデメリットがあるのか、ちゃんと説明出来る」
誰かが一言伝えてくれるだけで防げた事故だ、オレ達の意志疎通がもっと上手くいっていれば起きなかったさ
「それに、戦い方なら少しは教える事も出来る。オレも手探りだし、まだまだ修行中だけど、誰かに教えるのも復習になるからな。そこから新しい発見もあるかもしれない。まあ、何だ。もっと頼ってくれ。その方がオレとしても嬉しい」
「はい、その時はそうさせて貰いますね」
もうその笑顔に陰はない、ちゃんと自分を許せたのだろう
さて、そろそろだろうな
「話は終わったか?」
「居るとは思ってましたよ、織斑先生。例え故意による事故であったとしても、責任感の強い貴方がクロエを放っておくとは思えない」
クロエがオレと話したかったのか、理由は分からないがクロエが此処に来るのに織斑教諭が居ない筈がない
恐らくは篠ノ之博士も近くに居るだろうな
「それが大人としての役割だからな」
「そうですね。クロエ、戦闘訓練の件、篠ノ之博士にも伝えておいてくれ。それと、ガンダム関連の技術なら一言相談して欲しい事も」
「はい、しっかりと伝えておきます。ではコウタさん、またお会いしましょう」
「ああ、またな」
こうしてクロエは織斑教諭と共に医務室から出ていった
これでオレが気掛かりだった件は全て解決した事になる
明日は丸一日精密検査だったな、それで問題なければ退院して明後日から普段通りに登校する
まあ、何にせよ今日はゆっくりと眠れそうだ、おやすみ
◆
翌日、検査の結果特に異常は見られないという事でオレは退院、そして登校の日となった
それでもやはりというべきか、多少は体の疲労が溜まっていたのかもしれない、少しいつもより寝坊する形となってしまった
遅刻ではないが朝のSHRまでの時間も少ない、殆んどの生徒は既に教室に居るだろう
数日間入院していたからな、しかもこうして最後に教室に入るとか妙に緊張する
とはいえ早く入らないと織斑教諭から出席簿が頭に降ってくる、覚悟を決めて入るしかない
「おはよう」
「あ、紫藤くんだ!体はもう平気なの?」
「おはよう、紫藤くん!」
「しどっちおはよー」
教室の扉を開けて挨拶をしながら中に入ると、クラスの皆からそう声を掛けられる
温かく迎えてくれた皆に感謝し、取り敢えず何か返そうと思ったがもう一つの扉から織斑教諭が現れた
「諸君、おはよう。知ってると思うが今日から紫藤が復帰する。紫藤、休んでいた分のノートは誰かに写させて貰え」
「分かりました」
詳しく話をするのは次の休み時間だな、そう思いつつ席に着くとSHRが始まる
だが今日はいつもとは違った
「それとSHRに入る前にまた転入生の紹介だ。入ってこい」
織斑教諭がそう言うと教室の扉が開かれ、一人の少女が、見慣れたいつものゴスロリ系ドレスではなくIS学園の制服を身に纏ったクロエが現れたのだ
「自己紹介をしろ、クロニクル」
「はい、ラビットフット社所属、クロエ・クロニクルと申します。未熟者ではありますが、これからよろしくお願いいたします」
「席は紫藤の隣だ。紫藤、同じ会社の人間なんだ。お前が面倒を見ろ」
「りょ、了解です」
まさかクロエが入学してくるとは思わなかっただけに反応が遅れた
だが予想外だったのは、その後のクロエの行動だった
「織斑先生、その前に一つだけクラスの皆さんにお伝えしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「手短にな。まだ自己紹介の範疇だ」
「はい、それでは」
未だに教壇近くに立つクロエは一つ深呼吸をすると瞼を開いた、気味悪がられるからと閉じていたその眼をクラス全員の前でだ
「私は生まれつき、こうして目に普通の人とは違う特徴を抱えています。見た目もですが、見えないのではなく目が良すぎるのです。普段は眼を閉じて、調整したセンサーを使っているので問題ありません。その、気味が悪いと思われるとも思いますが、よろしくお願いいたします」
その事を告白するのにどれ程の覚悟が必要か、奇形は排斥されるものが多々ある、虐めに繋がる可能性だってあっただろう
だがクロエはそれを包み隠さずに話した、これから共に学ぶクラスメイト達に隠し事をしたくなかったのかもしれない
そしてもしも虐めになるならオレは守るつもりでいる、だがその必要はないだろうと思っている、このクラスならば
「気にしなくて良いよ、クロエちゃん!そんなの個性だって!」
「そうそう。それに、お月様みたいで綺麗だし」
「月見うどん食べたいねー」
最後ののほほんさんの言葉はともかく、他のクラスの皆も好意的に接してくれている
良くも悪くもこのクラスの皆は多少の奇異など気にしない
「皆さん、ありがとうございます」
「うむ、では席に着け、クロニクル。これよりSHRを始める。連絡事項を伝えるから、全員きちんと聞くように」
織斑教諭が教壇にて声を掛ける事で全員の意識が切り替わる
そしてクロエもまた自分の席、オレの左隣の席に着く
織斑教諭が幾つか連絡事項を話しているが、オレはこっそりとクロエに声を掛けた
「入学おめでとうな。これからよろしく、クロエ」
「はい、コウタさん。約束通り、色々と教えて下さいね」
笑顔を浮かべて言うクロエ、色々とあったがこれからは共に学ぶ仲間だ
「紫藤、私が話している時に余所見とは余裕だな。病み上がりでも私は容赦しないぞ。休んでいた分だけ他より遅れているんだ。取り戻す為にも気を緩めるなよ」
「了解です、織斑先生」
本当に色々あった
知らない世界に迷い混んで、ISという存在に触れ、こうして女子校とも言えるIS学園に通い学んで、ジェガンを駆って実戦を行って、将来はかつて諦めた宇宙を目指している
これだけでも波乱万丈だ、平凡だった今までの生活とは比べ物にならない程に目まぐるしい時が過ぎている
だけどもこれだけはしっかりと言える、オレはこの世界に来れて本当に良かったと
康太達の戦いはこれからだ!
RABE先生の次回作にご期待ください(大嘘)
という訳でメインヒロインはクロエでした、クロエがヒロイン作品って少なくない?
次からは二巻分の内容に入ります
コウタくんのジェガンもまた微妙に強化されてますし、クロエの戦闘用の専用機も出てきます
それと関係ないですが、私はシャルロッ党です(コウタくんのハーレムメンバーにはならないよ)