ジェガン、IS世界に立つ!!   作:RABE

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18話 シャルロット

予想外の相手が来た事に警戒するも、どうにもボーデヴィッヒは落ち着きなく周囲を見渡して此方には気付いていないように見える

 

その様子に何だか毒気を抜かれたが、その視線が合ったから改めて警戒を強める

 

そのボーデヴィッヒはISを歩かせて此方に来た、先日の件も考えると今度はISでの実力を見せてみろとか言いかねないからだ

 

「紫藤康太、お前に訊きたい事がある」

 

「何だ?」

 

何かあった際にはその初動を見逃さない、そう構えていたのだが、ボーデヴィッヒからの質問にそれも吹き飛んだ

 

「教官は、織斑教官は何処だ?」

 

「………………は?」

 

「だから織斑教官だ!このアリーナに来ていると聞き、駆け付けたのにそのお姿が見えないから訊いているのだ!」

 

「あ、あー、そういう……」

 

コイツが織斑教諭の事を慕っているのは初日の自己紹介の時になんとなく察していたが、その為に普段の平静さを失う程か

 

「可憐だ……」

 

そして一秋はそんな様子のボーデヴィッヒの事を見て頬を赤らめていた、お前がボーデヴィッヒの事を好きなのは知っていたがそこまでか

 

とはいえこれでは話しも進まない、取り敢えずは事実を伝えるか

 

「織斑先生なら、さっきまで確かに此処に居た。篠ノ之博士の開発した新型シミュレータの稼働実験に、博士の監視役としてな。その博士のテストが終了して帰ったから今はその付き添いだな」

 

「な、何だと!?クッ、一足遅かったか、あれから成長した私の力を見て欲しかったのだが……」

 

ああやっぱりそういう目的だよな

 

ボーデヴィッヒは暫くの間悔しそうな、悲しそうな表情をしていたが立ち直ると普段の冷徹な表情になり、同時に殺気まで飛ばしてくる

 

「織斑教官が居なかった事はとても残念だが、此処でこうして出会えたのは運が良い。織斑一秋、私と戦え」

 

「えっ?」

 

そんなボーデヴィッヒから告げられた言葉が予想外だったのか一秋は呆けた表情をしている

 

だがその顔が気に食わなかったのか、シュヴァルツェア・レーゲンの右肩に装備されたレールカノンの砲口が白式に向く

 

「織斑教官の名声を傷付けた過去がありながら危機感を持たないその意識、此処で叩き潰してくれる!」

 

「な……あ……」

 

放たれる砲弾、オレはジェガンを駆ってそれを防ごうとしたが間に合わない

 

白式を纏っているから直撃しても死にはしない、だがこんな不意討ち紛いの攻撃を受けて体に何のダメージもないとはいかないだろう

 

だから一秋の被弾は覚悟してその後のフォローに回るつもりだった、しかし聞こえてきたのは一秋の悲鳴ではなく甲高い金属音と()()()着弾音だった

 

「なっ!?」

 

「マジか……」

 

「えっ?えっ?」

 

ボーデヴィッヒは驚愕の表情を隠せず、オレもその光景に目を疑った、唯一それを成し遂げた一秋だけが状況を理解せずに左右を見回している

 

オレは見ていたから分かるがあの一瞬、一秋が持ち上げた通常時の雪片弐型がレールカノンから放たれた砲弾の射線上に入り砲弾を縦に切り裂いて一秋の左右斜め後方の地面へと着弾したのだ

 

一秋の様子からすると完全に紛れ当たりだったんだろうが、何て豪運だアイツは……

 

「す、少しはやるようだな!だが二度目はない!」

 

「させると思うか!」

 

再びレールカノンを放とうとするボーデヴィッヒだが横合いからクレセントムーンを構えた一夏が斬り掛かり妨害する

 

「クッ!」

 

それを後方に下がる事で回避したが完全に一秋へのロックオンが外れている、ならば此処で逃さない手はない

 

「一秋、シャキッとしろ!一夏はそのままボーデヴィッヒを牽制、当てなくて良い!シャルルは好きに動いてくれ、お前の動きよく知らん!」

 

「応!一秋兄はやらせねえ!」

 

「ボクだけなんか適当じゃない!?けど、やってみせるよ!一夏、ボクが射撃で援護するから目の前だけに集中して!」

 

実際にシャルルの動きはまだあまり見ていないから何が得意とか知らないからな、そういう指示を出すしかない

 

だが手元に二挺のアサルトカノンであるガルムを展開して射撃で一夏の援護を始めた

 

「この、フランスの第二世代(アンティーク)風情が!」

 

「量産化の目処が立たないドイツの第三世代(ルーキー)に言われたくないよ!それに、戦う気のない人をいきなり撃つなんて間違ってると思うしね!」

 

ガルムを撃っていたかと思えば次の瞬間にはショットガンのレイン・オブ・サタデイに切り替わっている、オレと同じ高速切換(ラピッド・スイッチ)

 

「舐めるなよ、たかが二機程度で!」

 

それに対するボーデヴィッヒの反撃は小型のブレードが付いたワイヤーによる攻撃だった

 

しかし、オレへの注意は薄れているらしく、隙があった

 

「残念ながら、三機だ」

 

左右から挟み込むように展開している一夏とシャルルに対してオレは正面から突っ込んだ

 

両手に二本のビームサーベルを持ち、その懐に飛び込もうとする

 

「まだだ!」

 

そう言って空いていた左手を此方へと向けてくるボーデヴィッヒ、オレは嫌な予感がした為に右へ回避する

 

その際、少しだけ機体が重く感じられたがブースターの出力を最大にして抜け出した

 

「避けただと!?」

 

「そうか、今のは慣性停止結界(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)か。捕まっていれば危なかったかもな」

 

以前にシュヴァルツェア・レーゲンのデータを見た時にあった能力であり、AICと短縮して呼称される能力だ

 

ISの基本機能であるPICの発展型であり、対象の動きを止めるという能力だな

 

とはいえ使用者が集中する必要があるとも書いてあった、ならば三機での波状攻撃ならば止められる事もあるまい

 

「それでも!この私に!届くと思うなあ!」

 

「うおっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

だが相手の底力を侮っていたというべきか、右手首に展開したプラズマの手刀により一夏を押し退け、機体を反転させてシャルルへとレールカノンを向けて砲撃、直前で左手のシールドで防いだとはいえ着弾の衝撃だけでシャルルを吹き飛ばした

 

「次は貴様だ、紫藤康太!避けられる物なら避けてみろ!」

 

そうして一時的にとはいえフリーになったボーデヴィッヒは六本のワイヤーブレードをオレへと向かわせる

 

確かに鞭のように動きが読めず、更には自由に軌道を変えられるワイヤーブレードは単体でも避けるのに苦労するし、それが六本ともなれば被弾するのは目に見えている

 

だが、避けられずとも一向に構わん!

 

「なんとぉー!」

 

両手に持っているビームサーベルをしっかりと握り、オレはジェガンの手首を高速回転させる

 

それにより円形の盾のような物が出来、そこに飛び込んできたワイヤーブレードは全て切断された

 

「何なんだその動きは!?」

 

「安心しろ、オレの手は引っ込めてるから捻れる事はない」

 

「そんな事を言っているのではない!」

 

別におかしくはないだろう、ISは確かに人型ではあるが本質は機械だ、ならば人間では不可能な動きでも出来る

 

そしてモビルスーツも人型の機械なのだからその動きがISで出来ない筈がない

 

「それと、流石にこれ以上続けるのはマズイ。貸し切りならともかく、他にも生徒が居る。流れ弾に当たる可能性も低くない。一度、この辺りで手打ちにしよう」

 

一夏とシャルルも再び戻ってきたしこれで三機、戦力差は歴然だ

 

それでもボーデヴィッヒは認めないのか、レールカノンでオレを照準する

 

「何だと!?ふざけているのか!例え武装を失ったとしても、貴様等ごときに遅れをとる私では―――」

 

「―――ふむ、ならば私の権限で止めるとしよう。全員、そこまでだ。下手な真似をすれば処罰を与える」

 

砲撃される前にその砲身を切り落とそうと試みたその時、外から凛とした声により制止された

 

声の方を見ればそこには生身にも関わらず打鉄のブレードを軽々と抱えている織斑教諭の姿があった

 

「教官!?どうして此処に!?」

 

「織斑先生だ。なに、そこまで離れていなかった時に戦闘をしていれば嫌でも耳に入るさ。それで、私は止めろと言ったがまだ続けるか?」

 

「そ、それは……」

 

言葉に詰まるボーデヴィッヒだがオレは素早くジェガンを解除した

 

少し遅れて一夏やシャルルも同じように機体を解除し、それを見てボーデヴィッヒも渋々ながらシュヴァルツェア・レーゲンを解除する

 

「よろしい。決着を着けたいというのであれば今度の学年別トーナメントで着けろ。それまで、全生徒には一切の私闘を禁止する。以上だ。ああ、それと機体の動作訓練をするなら続けて構わんぞ。そこまでは禁止していない。実弾ではなく、ペイント弾やセンサーを利用した模擬戦も同様だ」

 

それだけ告げると織斑教諭は去っていった

 

ボーデヴィッヒも敬愛する教官に言われては反抗する気はないのかアリーナから去っていく

 

残されたオレ達もまた元より計画していた通りに模擬戦を開始、ペイント弾によって白式やユニコーンが面白い色になって今日の訓練は終了となったのだった

 

 

訓練を終えたオレとクロエは寮にある自室へと戻ってきていた

 

夕食の時間まではまだ時間がある、だがオレ達は今日は食堂ではなく自炊をしている

 

前に考えていたが、クロエのお弁当のお礼にとオレも料理をしようと思い生姜焼きを作っている、既に材料は昨日の内に用意したので後は作るだけだ

 

そしてオレの料理を勉強として見ているクロエと雑談しながらオレは材料の豚肉を焼いている

 

「クロエの動きもかなり様になってきたな。トーナメントでも上位を狙えるんじゃないか?」

 

「はい、最初に比べれば動きは良くなったと思います。でも、今日のシュヴァルツェア・レーゲンとの戦闘では何も出来ませんでした……」

 

「気にするな、複数で一機を狙ったんだ。誤射や味方の動きを阻害しないようにするなんてのは、それこそ経験が必要になる。そこは今から積んでいけば良い」

 

その辺りはゲームでもしていると自然と身に付いたりするぞ

 

味方の動きを見ながら、自分がどう動けば力になれるのか、立ち位置や装備の選択、そういった物は経験し、失敗しながら学ぶしかない

 

威力はあるが当て難い武装も仲間と連携すれば当てられる、逆にどんな武装であれ仲間を巻き込むようなら意味など無くなってしまうからな

 

その辺りはオンラインゲームで学んだ、中には『連携とか知らん、自分にポイントが入れば良いのだ!』なんてゲームもあったけどな、おのれ同業者め、取られるからとコンテナを破壊するなど許さん、オレもやったけど

 

別のゲームで上手く連携出来た時は面白かったし、教材代わりにゲームでも買ってみようかな、ISを操作する対戦ゲームもあるみたいだし、役には立つだろう

 

「と、此処で混ぜておいたタレを投入して、後はタレが無くなるまで煮詰めれば完成だ」

 

一工夫として豚ロース肉を焼く際には小麦粉をまぶして弱火で焼いていた、こうすると柔らかな生姜焼きになるからな

 

煮詰める時は強火で、最初から最後まで強火にしても良いんだがその場合は肉が固くなる、食べ応えはあるが今回は時間もあるし手間暇掛けてだ

 

ご飯も炊けたし付け合わせの野菜も切ってある、後は焦 げないよう見張っていれば何も問題はない

 

「良い匂いですね」

 

「この辺りはお袋直伝の秘伝のタレだな。お袋は婆ちゃんから教わったし、紫藤家代々の味ってところか。最近暑くなってきたし、生姜の辛みが食欲を刺激する、夏バテにも効果のある料理だ」

 

お袋からもこれだけは免許皆伝と言われた、単にオレが好きな料理だから将来独り暮らしの時の為に覚えただけだがこうして別の人間に振る舞う事になるとは思わなかったけど

 

この甘辛い肉とご飯の甘味が最高に合うんだよなあ、そう思っていたら部屋のチャイムが鳴らされた、こんな時間に来客か?

 

「私が出ます」

 

「頼んだ、とはいえ直ぐそこだけど」

 

この学園の寮って入ったら玄関とキッチンが見えるからな、此処で料理してると玄関開けた時に相手も見える

 

なのでクロエがドアを開けた際にはオレにも来客の姿が見える、そこに居たのは一夏とシャルルだった

 

「あー、悪い、出直した方が良さそうだよな?」

 

オレが料理しているのを見て一夏が気まずそうに謝ってきたが、こんな時間に大した用もなしに来るとは思えない、夕食に誘いに来たならもう少し遅い筈だ

 

となれば大事な用件という事だろう、オレは料理が焦げないよう注意しつつ二人に提案する

 

「良かったら食べながら話すか?」

 

久し振りに作るから失敗した時の為に多めに材料は買ってきており、付け加えるとオレが沢山食べたいが為に二人前ではなく四人前作ってあるのだ、二人に分けても問題はない

 

なので提案したのだが、二人はおずおずと頷いたのだった

 

そんな訳で二人には部屋の中で待ってもらい、仕舞ってあった簡易テーブルに完成した料理を並べて食べ始めたのだが

 

「う、うめぇ!この生姜焼き、何でこんな肉が柔らけえんだ!?」

 

「ほ、本当だ……しょうが焼きっていうのは初めて食べたけど、康太って料理が出来たんだね……」

 

「本当に美味しいです。私もいつかこのレベルまでなってみせます」

 

「唯一と言っても過言じゃない得意料理だからな。久し振りに作ったが、まあ上手く出来たよ」

 

その反応は三者三様ではあるものの総じて好評なものだった

 

少しは不安もあったのだがこの反応ならば問題はないな、作った甲斐があったというものだ

 

なお一夏とクロエは箸で食べており、まだ箸の使い方に慣れていないシャルルだけはフォークで食べている、切る必要もないサイズにしてあるからナイフも出してはあるが使ってはいない

 

話しは食べながらと思っていたが他の皆が夢中で食べているので食事の後にするとしよう、そう考えてオレも生姜焼きを口に運ぶ、うむ美味い

 

そうして食事を終え、皿洗いを引き受けた一夏とシャルルが部屋に来たところで本題に入る

 

「いやぁ、あんな美味い料理をご馳走して貰って悪いな」

 

「何て言うか、温かかった味だよ」

 

「お袋の味だからな。それより、何か相談があって来たんじゃないのか?」

 

「「あっ」」

 

……まさか本題を忘れていたとは思わなかったが、一夏が気を取り直して咳払いを一つしてから口を開く

 

が、それをシャルルが手で制した

 

「これはボクの問題だからボクから話すよ。その、ボクは本当は女の子なんだ」

 

「ああうん、知ってた」

 

というかその胸見れば分かるわ、此処に来たときは一夏の上着で隠してたけど、食事の時とか外してたからな、普段との違和感で直ぐ気付く

 

「えぇっ!?い、いつから?」

 

「前々から男にしては線細いとか、声高いとか、なんか感覚がずれてる事があるなあ、とかは感じてたが、確信したのは今さっき、その胸を見てからだな」

 

「えっ?……ああっ!?」

 

どうやら隠しているのを忘れていたらしい、それなりに豊かな脹らみがあるのを今更になって両腕で隠した、その胸で男は無理でしょう

 

と同時にオレの左頬に痛みががが

 

「今のは流石にコウタさんでもデリカシーがないです」

 

ふみまへんへしは(すみませんでした)

 

確かにデリカシーがなかったが事実なので仕方がない、なのでクロエさん頬をつねるのは止めてくださいお願いします

 

数秒後、解放されてもまだ少し痛む頬を擦りながら話を元に戻す、その際にクロエが『私だって遺伝子設計的にはもっと大きくなります……』とか呟いていたのは無視する

 

「すまん、それで何で性別を偽って転入して来たんだ?」

 

「う、うん、それはね―――」

 

その後に語られたのはシャルルの身の上話だった

 

自分の母親はフランスのISメーカーであるデュノア社の社長であるアルベール・デュノアの愛人であった事

 

その母親の死を切っ掛けにアルベール・デュノア引き取られ、その高いIS適性からデュノア社のテストパイロットとなった事

 

そしてデュノア社はラファール・リヴァイヴという名機を生み出したが第三世代機の開発に難航、欧州の統合防衛計画、イグニッション・プランから外され、フランス政府からの資金援助も危うく経営難である事

 

この学園に男装して転入したのは数少ない男性IS操縦者としての広告塔としての役割と、同性である事を利用して他の男子のISのデータを盗み出す事が目的だったとの事だ

 

そして同室になっていた一夏によるちょっとしたハプニングか原因で性別がバレたが、一夏が『IS学園の関係者はどのような国家、組織の干渉も受けない』という国際規約を思い出した事で、取り敢えずの時間稼ぎにはなったという事、そしてその状況を打開する方法をオレにも相談したというのが現在の状況らしい

 

「成る程な」

 

食後に温かい緑茶を飲みながら一通りの事情を聞き終えたオレはそう述べた

 

シャルル改め本名をシャルロット・デュノアという彼女は不安そうな表情をしながらオレの出方を窺っている

 

「取り敢えず、大まかな事情は分かった。それで一夏、お前は何故オレが協力すると考えた?」

 

「えっ?」

 

「正直に言えばこれは一介の学生の手に負える問題ではないぞ。より高度な、政治的な内容が多分に含まれている話だ」

 

「だからって、シャルロットが牢屋に行くのを見過ごせるかよ!」

 

「とはいえ学生の身で何が出来る?成る程、三年はフランスからもデュノア社からも干渉されないだろう。だがどうやって三年も隠し通す?忘れているようだが、学生の身なんだ。当然ながら定期的に身体検査もあるぞ」

 

「それは……」

 

一夏は己の正義感からシャルロットの事を助けたいのだろう、だが具体的な策がない、三年は猶予があるとはいえ、三年も隠し通せはしない、二学期には身体検査もあるのだから、そこで確実に露見する

 

「それと、オレの所属も関係する。お前はその意識が薄いだろうが、オレ達はラビットフット社の所属だ。オレがこの情報を利用してデュノア社から口止め料として多額の金銭を要求する可能性とか、考えなかったのか?」

 

その事を伝えて返ってきた一夏の拳をオレは受け止める

 

「康太、お前がそんな奴だとは思わなかったよ!」

 

「人を無条件に信用するなという良い教訓になっただろう?」

 

怒りの籠った目でオレを睨む一夏、分かってはいたがコイツは純粋で真っ直ぐな奴だからな

 

「い、一夏、大丈夫だよ。ボクはもう諦めてるから……」

 

「けど……」

 

「と、まあ一介の学生ならば諦めるだろうな。が、一夏、忘れたか?オレ達もラビットフット社の所属、単なる一介の学生とは違うだろう?」

 

さて本題に移るとしよう、さっきまでとは違うオレの言葉に一夏とシャルロットは困惑した表情を見せている

 

「いやなに、お前の真っ直ぐな所は美点だが欠点にも成りうるという事だ。好ましく思うが、罠に嵌めるのも容易い。勉強になっただろう?」

 

「もしかして、わざと俺を怒らせるように仕向けたのか?」

 

「さっきも言ったが、この件は政治的な内容を多分に含んでいる。そんな権謀術数渦巻く世界を相手取るんだ、お前も少しは学ばないとな」

 

その感情に任せて交渉で不利になる事もあるのだ、その辺りの事を勉強させなくてはならない

 

まあ憎まれ役が必要だったのだからオレが引き受けただけだ、しかし一夏は腰を九十度折ってオレに深々と頭を下げた

 

「済まない、康太。少しでもお前を疑った」

 

「構わないさ、必要だからやっただけだ。とはいえオレもそこまで頭が良いわけではないからなあ……因みに一夏、お前はどうやってシャルロットを保護するつもりだったんだ?」

 

まさか自分では何も考えておらず、オレに丸投げするつもりだった訳ではあるまい、もしそうだった場合は迷わず殴るが

 

「えっと、ラビットフット社から給料は出てるから、それを使えばシャルロット一人養うくらい訳ないと思ってたけど、その後は……」

 

その言葉を聞いてオレは少し頭を抱えた、が確定ではないからより詳細を聞き出す

 

「あー、養うって、具体的には?」

 

「えっ?うーん、もし学園を追い出されたら何処か部屋を借りて、俺の給料の中から生活費を渡して、かな?あ、でもデュノア社の人間が無理矢理連れ戻そうとかしてくるなら俺が守るつもりだったぜ!安全な場所まで逃げて、そこで隠れて生活すれば大丈夫だろう!」

 

「……シャルロットは、まあこうなるわな」

 

途中の方はかなり適当で無計画もいいところだが、一夏の語った内容は世間一般で言うところの駆け落ちだ

 

当然、一夏にそんなつもりは無いんだろうが、シャルロットはそれを聞いて顔を真っ赤にしてる、恐らくは駆け落ちだと気付いたんだろうな

 

もうコイツ等放っておこうかな、と一瞬思ってしまったが頼まれた以上は最後までやり遂げるさ、面白そうだし

 

「取り敢えず一夏が微妙に考えが足りないって事は分かった。それで解決策だが、幾つか思い付きはしたぞ」

 

「本当か!?」

 

「ああ、どれも難易度高いけどな。一つはシャルロットの秘密を知った事を条件に、その事をバラすぞとデュノア社を脅す。さっきオレが挙げた悪どい方法だが、要求は金銭ではなくシャルロットのラビットフット社への移籍だ。まあ、出来なくはない策だな」

 

バレればデュノア社もイメージダウンは免れない、なら乗ってくるとは思うが跳ね除けられる可能性もある、シャルロットに全て押し付けて知らんぷりとかな

 

後はこの方法だと向こうの恨みを買うのもデメリットになる、まああまり良い手段とは言えない

 

「二つ目は金でシャルロットを移籍させる方法だ。とはいえ金銭の用意はオレ達には無理だからISのデータを代わりに対価とする。シャルロットは盗めと言われたが、別に交換でも向こうとしては喉から手が出る程に欲しいだろう。本来なら国に帰される所を取引しようと言うんだから」

 

メリットは向こうに貸しを作れる事だ、わざわざ慈悲を与えてやったとな

 

そして前述の策に比べると恨みは少ない、だがシャルロットを救いだすというのが目的だと知られれば足元を見られかねない、交渉する時に注意が必要だ

 

取り敢えずはこの二つ、出来るなら後者が望ましいかな、それが一番波風を立てなくて済む

 

他にもあるにはあるが、それは条件が居る

 

「流石は康太だ!これなら行けそうだぜ!」

 

「ハハハ、そう褒めるな。と、まあ良い面だけを見た策なんだよなあ。デメリットが、それもデカい障害があるんだ」

 

「障害?そんなの、頑張って乗り越えられるようなものなのか?」

 

「ああ、頑張ればいけるかもな。本当に、本気で頑張れば」

 

「俺に出来る事なら協力するぜ。元はと言えば俺が言い出した事だからな」

 

「そうかそうか、なら篠ノ之博士との交渉頼んだわ」

 

オレがそう言った途端、一夏の表情が固まった

 

そう、ラビットフット社を利用する以上は決して避けては通れない最大の難関、それが篠ノ之博士である

 

まあ端的に言って身内でも何でもないシャルロットの為にといって動く人じゃないよな、それどころかオレが始めに挙げたように研究費目的に脅迫するかもしれない

 

それには付き合いの浅いオレよりは一夏の方が適している、とはいってもあの人が自分の組み上げた機体のデータを素直に渡すとは欠片も想像出来ないしな

 

その辺りの篠ノ之博士の性格は一夏もよく分かってるだろう、今も額に冷や汗を流しながら必死に考え込んでいた

 

さて、オレはこの間に別の策を考えるか

 

だがその前に頭の回転で言えばオレより上であろう人物に訊ねた

 

「それでクロエは何か気付いた事はあるか?例えば、変な違和感とか」

 

「恐らくはコウタさんが感じている物と同じような物を私も感じます。一見、筋が通っているように見えて引っ掛かる部分を」

 

どうやらクロエも気付いていたらしい、なら続きはISのコアネットワーク経由で会話するとしよう

 

先に挙げた二つの下策、中策よりもより良い未来を掴める可能性のある上策の話を

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