ジェガン、IS世界に立つ!!   作:RABE

2 / 79
取り敢えず書きたくなったから投稿


ジェガン、IS世界に立つ!!
1話 気付けば森(林)の中


「―――此処は、何処だ?」

 

酷く頭が痛む中、オレは目を覚ました。

 

目を開けてみれば焦点が合わずにぼやけた風景が見えている、はっきりとは分からないが視界の大半を緑色のものが占めているという事は、森とか林の中に居るということだろうか、少なくともオレの記憶では最後に居たのは自分の家の自分の部屋の筈だ

 

酒を呑んで泥酔していたから記憶が無い、なんて事はあり得ない、そもそもがオレは未成年である為に飲酒は出来ないからな

 

だがどうしてこのような状況になっているのか痛みで上手く働かない頭でなんとか考えようとして少し経つと頭痛は治まり、ぼやけていた視界もはっきりと認識できるようになってきた

 

それで確認した周囲の風景は予想通り小さな林の中であり、光が差し込む方を見れば舗装された通路が見える、少なくとも人の気配はあるのだ、誰かに声をかけて今の位置を知れば自ずと帰り道も分かるだろう、運転も出来ない俺が夢遊病のように意識のないまま出歩いていたとしてもその距離はたかが知れている、そう遠くまでは来ていない筈だ

 

「ん?」

 

そうと分かれば取り敢えずはと通路に出ようとしたところで視界が普段とは違うことに気付いた

 

普通、人間の視界はありのままを映すものだ、何らかの装置でも身に付けていない限りは計器のような表記は視界に浮かび上がってはこない

 

「ん、んんん?」

 

だがオレの視界に映るのは高度計やらエネルギー残量といった意味の分からない表記が複数表示されており、慌てて顔に手を当てようとし、その手にも異常が起きている事に気付いた

 

ライトグリーンの腕と手の甲、指や手のひらの側は黒い色をした、機械の腕

 

当然であるがオレは人間である、五体満足な身で別に義手だとか、そういう訳ではないのでオレの体に繋がっている手は生身のものの筈

 

だが見えるのは機械の腕だ、オレが意図した通り、例えば上下に振ったり両手でそれぞれ別の手を繰り出してじゃんけんをしたり出来るのでオレの腕には違いないのだが、どうしてこうなった?

 

 

「落ち着け、落ち着け、オレは誰だ?」

 

名前は紫藤康太(しどうこうた)、あと数日後には高校デビューを控える15歳だ

 

家族構成は係長で普通のサラリーマン親父と専業主婦のお袋の三人家族、容姿は平凡、黒髪黒目の産まれも育ちも生粋の日本人であり、成績だって順位は多少は上下こそすれ平凡だった

 

全てが特筆すべき点がなく平凡すぎる程に平凡だが、唯一の特徴であり誇れる、かどうかは別にして間違いなくオレの個性として見れるものがある

 

それは、ガンダムシリーズに対する熱い情熱である!

 

良いよねガンダムシリーズ、全ての始まりである初代は勿論、続編のZやZZといった宇宙世紀の歴史とも言える展開も好きだが、GやWといったアナザーと呼ばれる作品での独立した世界観や展開も好きだ

 

モビルスーツという人型兵器を用いて戦争を描きつつ人間ドラマを重視したあのストーリー、主人公ではあるが元は民間人であるが故の心の脆さとか、初めて初代を見た時には衝撃的だった

 

そして何よりも全ての作品において主力兵器として登場するモビルスーツ、そのデザインや兵装といった見た目は当然のことながら、開発経緯などがちゃんと練られていたり、戦闘機や車などのように時代や技術と共に進化しているのだと感じさせる統一性のある姿にはフィクションでありながらリアルさを感じる

 

オレはその中でもジム系統の量産型モビルスーツが好きだ、ジオンなんかの丸みを帯びつつも武骨さや重厚感を感じさせるデザインも好きだが、やはりバイザー状の頭部カメラを始めとして全体的なシャープさはコストを優先しつつも発展性を考慮し余裕のある設計という、兵器として理想的な性能には機能美さえも感じられる

 

そしてオレ個人のイチオシとして挙げるならば傑作機として君臨するのはRGM-89ジェガンこそを推させてもらう

 

目立った特徴がない?やられ役?馬鹿を言え、戦闘に必要な能力はきちんと揃えつつ量産性があり整備性も良好、余裕のある設計から多数のバリエーションが存在しアップデートを繰り返す事で30年もの長い時間、連邦を支えた名機体だぞ

 

そういえばオレの記憶だと、一番新しいものは確か宇宙での戦闘を再現したジオラマ作成だったな

 

プラモデルで組み立てた多数のジェガンとギラ・ドーガを並べて逆襲のシャアをモチーフにしたシーンを演出しようとしてたんだ、上から見えにくい細い糸を使って吊るす事で宇宙での立体的な戦闘を再現し、高校入学までの余った時間を注ぎ込んで作った大作、確か夜中までやってて、それで寝落ちしたのか、目が覚めたらこの状況か?

 

そこでふと自分の腕を見る、ライトグリーンの装甲に覆われた機械の腕、その形状には見覚えがあった

 

オレは即座に自分の体を見下ろしてみると、やはり体の方も同じような装甲に覆われていたが、その形状と両の腰に備えられた物を見て確信した

 

「オレが、ジェガンそのものなのか!?」

 

確かにジェガンは好きだとも、好きではあるんだがな……

 

「ふざけるなあァァァァァァァァァァッ!?」

 

折角の現実に現れたジェガンなのに、これじゃあその勇姿を外から客観的に見れねえじゃねえか!

 

確かに夢として叶うなら乗り込んで動かしてみたくもあったさ、けどそれはオレがコックピットに乗り込んで直接操縦するのであって、自らの肉体として動かすとか望んでねえんだよ!

 

「ちくしょう……こんなの、悲しすぎますよ……」

 

あまりのショックに地面に手を着いてorzの体勢になってしまうが気にしない、もし神がこうしたというのなら、オレは絶対にその神を呪ってやる

 

そんな怨念を撒き散らしていたのだが、耳に入ってきた航空機のようなエンジン音に顔を上げる

 

聞こえてくるのは複数、それも凄まじい勢いでこっちに近付いてきている!?

 

「な、何だ!?もしかしてネオ・ジオンか!?それともマフティー!?まさか、クロスボーン・バンガードじゃねえよな!?」

 

だとしたら、この大型ジェガンタイプでは駄目だ!

 

大慌てで逃げようとしたが既に速度の乗っていた向こうの方が早かったらしい、鉄のような色をした機体と緑色の機体が三機ずつ、オレを包囲するように展開した

 

「そこのIS、直ちに武装を解除し、投降せよ!受け入れられない場合、実力を以て排除する!」

 

だが現れた六機の存在は直ぐにオレを攻撃する意思はないらしい、ちゃんと警告と降伏勧告をしてくれた為に少し冷静さを取り戻す

 

急いで両手を挙げて無抵抗である事を示しつつ、混乱する頭で状況の把握に努める

 

「オ、オレは紫藤康太だ!信じて貰えるか分からないけど、オレ自身どうしてこんなところに居るか分からないんだ!だから頼む、撃たないでくれ!」

 

鉄色の機体は日本刀のような刃物を、緑色の機体は銃を装備しているのが見えたが、オレの武装は右腰のビームサーベルと左腰のハンド・グレネードのみ、そもそも話し合いで解決出来るなら使う必要のないものだ

 

何でこんな状況になってしまったのかは分からないが、もしかしたら事情を話せばオレの今のジェガンになってしまった状態も解決するかも

 

「お、男!?」

「二人目、なのか!?」

「まさか、そんな……」

「でも、さっきの名前とこの声は」

 

「へっ?」

 

だが名乗ったりしたにも関わらず、向こうは逆に大きく混乱しているらしい

 

オレは無闇に刺激しないように気を付けて無言で待っていたが、冷静さを取り戻すべきと判断したのか先程警告してきた女性が武器を構え直して告げた

 

「とにかく、まずはISを解除するんだ。妙な動きをすれば即座に攻撃する、良いな?」

 

「あ、はい。えっと、解除?どうすれば……」

 

取り敢えず解除と念じていると、多少の浮遊感と共にジェガンが消えて、代わりに白を基調とした薄めの宇宙服みたいなものに切り替わった

 

それと同時に視界に写っていた計器類も消えており、どうやら解除に成功したらしい

 

体の方も宇宙服、というかガンダムシリーズの内、宇宙世紀の方で主に連邦軍のパイロット達が着ていた軽装型ノーマルスーツだし、顔には風を感じるようになった

 

そして、オレの手元には新たにライトグリーンのバスケットボールくらいの球体が存在しているのだが、それを見た時には苦笑いをしてしまった

 

『ハロ、ハロ』

 

手元にあるのはガンダムシリーズを通して多くの作品に大小や設定の差異はあれど登場するマスコットメカ、ハロだ

 

耳のようにも見える普段は腕が格納されている上部の蓋をパタパタと動かしながら目を点滅させてオレを見ている

 

ジェガンが消えてハロが現れたという状況から察するにこのハロはジェガンと何らかの関係があるのだろう、だがそのハロはいつの間にか近付いてきていた緑色の機体の女性に取り上げられ、代わりにオレの手には手錠が掛けられた

 

「大人しく指示に従った事には感謝する。だが貴様が不法侵入者である事に変わりはない。大人しくついてきて貰うぞ」

 

「デスヨネー」

 

自ら解除したとはいえオレの手元に既にジェガンとハロはない

 

こうして手錠を掛けられたオレは周囲を謎の兵器を身に纏った女性達に囲まれつつ言われるがままに連れていかれるのであった、ドナドナ~

 

 

 

「それで、単刀直入に聴こう。お前の目的は何だ?」

 

「目的は無いです。気がついたらあそこに居ました」

 

「……では、お前が所属している国家、もしくは組織は何処だ?」

 

「産まれも育ちも日本です。組織とかは、高校入学前なのでまだ何も所属してないと言えます」

 

「……あまり手間を掛けさせてくれるなよ。正直に話せば直ぐに終わるんだ。このままだと、多少強引な手段を使ってでも聞き出す事になるぞ」

 

「本当に本当なんです!信じて下さい!」

 

「ならそれなりの誠意を見せる事だな」

 

はい、あの後連れてこられた刑事ドラマで見るような取調室において、オレは目付きの鋭いスーツ姿の女性に取り調べを受ける事になりました

 

とはいえ全ての質問にはしっかりと答えているものの、まあ何だか重要施設の敷地内に入ってしまっていたらしく、簡単には信じて貰えそうにありません

 

第一、オレの方が色々と質問したいさ、此処が何処なのかも全く分かってないんだから

 

「ハァ、では質問の種類を変えていこう。お前乗っていたIS、あれは何だ?」

 

「あいえす?そういえば、あのパワードスーツみたいな物に乗っていた人達にも訊かれましたが、何ですかそれ?」

 

「お前の乗っていた機体の事だ。今のこの世界において、よもやISを知らんというつもりは無いな?」

 

「いえ、全く知りません」

 

あれだけの兵器なのだから何らかの情報はあっても良いのだが、生憎と多少の知識はある戦車や戦闘機と違いアイエスなる兵器は聞いた事がない

 

それにジェガンはモビルスーツだ、サイズこそ人間が身に纏うような姿になっているが、略称をアルファベットにするならMSとなる

 

だがオレの回答がお気に召さなかったらしく、スーツ姿の女性は殺気の籠った目をオレに向けてきている、例えジェガンがあったとしても、この人を相手にしたら相手が生身だとしても負けそう……

 

ハッ、もしかしてアイエスとは発表前の新兵器であり、此処はその極秘の研究施設だとか!?

 

ヤバい、それだと非常にヤバい、下手しなくても口封じとして殺されるかも!

 

まだだ、まだ終わらんよ!オレにはこれから先登場するであろう新たなガンダムシリーズやガンプラ、ゲーム、漫画、小説が待っているんだ!こんなところで死ねるか!

 

「そうか、本来ならばこのような手は使いたくなかったのだが―――」

 

「うおっ!?待った待った、暴力反対!ラブ・アンド・ピースの精神で行こう!」

 

だから両手の骨をこれ見よがしに鳴らさないで下さい!

 

「ならば知っている事を全て吐け。あのISは何だ?何処の組織の物だ?」

 

「おっと、そんな事を聞きたいなら先に言って下さいよ。それなら喜んで喋る、いや寧ろ語りますとも!」

 

「む、ならば話せ。例えばだな―――」

 

「あの機体はRGM-89ジェガン、劇場版アニメである機動戦士ガンダム 逆襲のシャアに初登場した地球連邦軍の量産型モビルスーツです。本来ならモビルスーツとしてのサイズで、全高20メートルを超えるサイズなんですけど、何故かアレは人の着込むパワードスーツみたいになってました。まあ初代ガンダムでは初期案のモビルスーツが人間が着込むパワードスーツだったという事を考えればある意味原点回帰とも言えますね。と、話しはそれましたがジェガンの特徴は高い完成度を誇る量産型としての性能にあります。装備は基本的に見えますが後に多数のバリエーション機を生み出す素体としても有用であり、D型なんかは最初からスターク・ジェガンとして換装する事を前提としたアタッチメントが追加されて任務に応じて切り替える事で様々な状況に対応する事が可能です。他にもR型やM型といった初登場から30年の月日が経ってからも運用されており、正に量産機としての完成形と呼べるでしょう。まあ、その頃には旧式化して殆んどやられ役という悲しい事になってましたが。それでも、ガンダムUCでは一話目にして前述のD型とスターク・ジェガンの活躍は一度見れば忘れられないものです。量産機の特務仕様でありながらNT用のワンオフ機であるクシャトリヤとの激戦、素のD型はリゼルと協力してバンシィに組み付くという戦術次第で量産機でもやれるのだと示したのは、ジェガンもまた可能性の獣なのだと言えるでしょうね。他にも―――」

 

「長いわ」

 

「グフっ!?」

 

ジェガンについて教えろというから話してたのに理不尽にも頭にチョップを叩き込まれてオレの話しは強制的に中断させられた

 

だが、それで止まるようならガンダムファンとしては二流だ!

 

「な、殴ったね」

 

「ふん、腑抜けたことを言うな。それより妙な事を言っていたな。アニメだと?少なくともアニメを基にしたISなど聞いたこともないな」

 

「え、そこはもう一発殴るところじゃないの?折角『二度もぶった、親父にもぶたれたことないのに!』って台詞に繋げたかったのに」

 

「やかましい」

 

「ドムっ!?」

 

な、殴るタイミングが違う……

 

けど、ジェガンはアニメの機体だからそうとしか言えないしなあ

 

「でもいくらなんでもガンダムって名前くらいは聞いたことありますよね?1979年から放送された日本が世界に誇るロボットアニメ、リアル系ロボットの先駆けとも言えるアレですよ?」

 

「知らんな」

 

「ハハハ、ご冗談を」

 

「いや、本当に知らんぞ。ほれ、試しに検索してみたがそんな物は存在していない」

 

「へっ?」

 

スーツ姿の女性が取り出したスマートフォンの画面、世界的に有名な検索エンジンを使い『ガンダム アニメ』で検索されているものの、検索結果は0件となっている

 

何でだ?何で何でなんでナンデ―――

 

「おい、どうした!?」

 

「ハハハ、ガンダムが存在しない。存在、しない。アニメも、ゲームも、漫画も、小説も、なによりガンプラも……」

 

全て全て全て、この世に存在していない

 

「鬱だ、死のう……」

 

何だその苦行しかない世界、そんな世界に価値など無い、消えろ消えろ、もしくは夢なら覚めろ

 

『ミトメタクナイッ!ミトメタクナイッ!』

 

「織斑先生、待機状態の筈のISが勝手に!?」

 

そうして世界の全てを呪おうとした時、取調室の扉が開いて緑色の球体、ハロが入ってきた

 

追ってきたのはさっきのアイエスとか言うのを動かしてた人かな?どうでも良いけど

 

「おお、ハロ。どうやらこの世界に残ってるガンダム要素はもうお前とジェガンだけみたいだ」

 

『ミトメタクナイッ!』

 

「そうだなあ、認めたくないよなあ。どうしようか、これから」

 

ガンダムが無ければ再現しようにも、ジェガンだけじゃ敵もいないもんな、いっそのことOOみたいに世界を敵に回そうか?

 

ああ、それも良いかもなあ、少なくともオレが死んでもジェガンという存在は永遠に世界に刻まれるもんなあ、アハハハハ

 

が、その瞬間大きな衝撃音と共に地面が揺れた

 

大地震のように立っていられない程ではないがしっかりと揺れが感じられる程の衝撃だ、まあ何でも良いか

 

「クッ、さっきから何なんだ!?」

 

「お、織斑先生、大変です!?」

 

「今度は山田先生か。何があった?」

 

「それが、この建物の近くに巨大なニンジンが落ちてきましてッ!」

 

「待つんだ山田先生、大丈夫か?疲れてはいないか?」

 

「で、ですからぁ、そのニンジンからですね、きゃっ!?」

 

「やっほ~ちーちゃん!大親友の束さんだよ!」

 

「束か。此処は関係者以外立ち入り禁止だ。何しに来た」

 

「そりゃあ勿論、大大大好きなちーちゃんに会いに!って、ウソウソ、ウソだからその今にも掴みかかって来そうなアイアンクローは止めて!?」

 

「なら早く要件を言え。こっちはこの侵入者の件で忙しいんだ」

 

「うぅ、ちーちゃんに会いたかったのは本当なのに……でも束さんもその侵入者の件で来たんだよ。束さんの知らない、世界で468個目のISコアを持つ、その子のね」

 

「何だと!?それは本当なのか!?」

 

「うん、私は全てコアをちゃんと記憶してる。でもそんな私の知らないコアが突然コア・ネットワークに現れたんだよ?ならそれを確認しない訳にはいかないよね。ねえそこのキミ、そのISちょっと見せてくれる?というか見るね、それっ!」

 

「あ、オレのハロが……」

 

どうやって世界を滅ぼそうか計画していたら抱き締めていたハロが横からウサミミに童話みたいなワンピースとかいうふざけた格好の女性に奪われた

 

『ハロ、ハロ』

 

「うわぁ、アクセサリーとかでもなくペットロボみたいな形の待機状態にしてるって面白~い!束さんも今度やってみよっと!でもでも、今は中身のデータの確認からね!」

 

ハロに手を伸ばすが、女は何かのデバイスを操作するとハロと接続、空中にディスプレイが浮かび上がる、なにそれカッケェ

 

「ふむふむ、記録は……えっ、今さっき生まれたばかり!?それに、武装とかのデータも、こんな材質に理論、見たことないよ!?ミノフスキー粒子?ナニソレッ!?こんなの、今の素粒子物理学に完全に終止符が打たれちゃうよ!?」

 

と、そのディスプレイを幾つか見ていたウサミミの女性が驚愕の声を上げているが、オレの耳はそんな事よりも大事な単語を捉えた

 

「ミノフスキー粒子は主にレーダーの阻害を目的として散布する事で敵の長距離誘導ミサイルの無効化を可能とします。それだけでなく、戦艦の主砲の他ガンダムからはモビルスーツに携行可能なビーム兵器として使用されており、これによりモビルスーツの機動性に戦艦並みの火力という、既存の兵器を上回る性能を得ました。そもそも、幾ら宇宙空間での使用が前提とはいえ、人型兵器というある意味では合理性を捨てた兵器が全ての兵器の頂点に立ったのは(ひとえ)にミノフスキー粒子によってレーダーが使用不能になり、有視界戦闘という近距離での戦闘が主流になったからになります。その為、ミノフスキー粒子を用いない戦闘では長距離誘導ミサイルにより一方的な攻撃によりモビルスーツは地上では鈍重な的となってしまいます。またミノフスキー粒子には反重力を発生させる能力もあり、航空力学を無視した飛行を可能とするミノフスキークラフトも存在します」

 

他にも圧倒的な加速力を生み出すミノフスキー・ドライブというF-99やV2ガンダム、ファントムといった機体に搭載された光の翼があるが、それは後回しでいいだろう

 

それよりも面白い話を聞いた、ハロの中にはガンダムに関するデータが存在しているだと?

 

「ふーん、そんなに知ってるってことは、このデータはキミが作ったのかな?」

 

「いやまさか。オレが知ってるのは単にガンダムの設定資料集を読み込んでいたからですよ」

 

「キミ、変なことを言うね。設定資料集っていうけど、この子の中にはちゃんとミノフスキー粒子の精製方法もあるんだよ?」

 

「へっ?」

 

今日何度目だろうか、間抜けな声が漏れてしまう

 

ミノフスキー粒子の精製方法?いやいや、流石に架空の物質なんだからいくら設定を見ても精製方法なんて存在する訳がないでしょうに

 

「それにほら、これはスペースコロニーの図面だよ。寸法に材質、建造用のコロニービルダーって設備まで用意されてる。それから現行のロケットなんかとは比べ物にならない重量を宇宙に打ち上げられるHLVと、コロニー建造用の資材を火星との間にある小惑星帯から運んでくる為のエンジンとかね。この世界の技術を何十年どころか何百年も超えてそうな技術だって、凡人には理解出来ないだろうけど天才の束さんなら今にでも実現可能なレベルだよ。それでもキミは、これらの知識が全てアニメだって言うのかい?」

 

「間違いない、確かにオレが知っているのはアニメとしてのものだけなんだ。それこそ、宇宙世紀だけじゃない。新暦や正歴、リギルド・センチュリー、未来世紀、アフターコロニー、アフターウォー、コズミック・イラ、なによりも西暦の、その全てのガンダム知識がオレにはある。連続性のない世界を幾つも知っている、それがオレの知るガンダムがアニメだという事への証明だ」

 

ターンエーとか幾つの世界と繋がってるのか知らないが、少なくともSEEDやOOの世界は宇宙世紀と繋がっていない

 

だからそれを根拠にウサミミの女性に伝え、それから少しの間、誰も言葉を発しない状態が続いた後で、そのウサミミの女性がため息を一つ吐いた

 

「な~んだ、残念。もしキミが宇宙世紀から来た人間だったらとっても面白いことになりそうだったのになあ」

 

「オレだって行けるならガンダム世界には行ってみたいけどな。モビルスーツでの戦闘云々は抜きにして」

 

多分オレには戦闘は無理だから、SEED世界で知識を身に付けてジャンク屋とかやってみたい、まああの世界のジャンク屋、割りと自衛の為に戦闘してるけども

 

「それじゃあ、やっぱりこれはダミーって訳じゃないんだね。このデータ、キミが言ってたアニメの方のガンダムでしょう?」

 

と、ウサミミの女性が一つのディスプレイを大きくするとそこには懐かしの手書き作画による昭和のアニメ、初代ガンダムの姿が映し出され、更にBGMやSE、声優の演技と共にガンダムが立ち上がっていくところだった

 

ああそうだ、あれこそがオレの愛して止まないアニメ、それこそが―――

 

「ガンダァァァァァァァァァァムッ!!」

 

「やかましい」

 

「ゲルググっ!?」

 

気分は(ガンダム)を見た刹那の気分、その後でスーツ姿の女性から一撃食らわなければ最高だったのだが

 

だが今のオレにその程度の攻撃、痛くもなんともないわぁッ!

 

いや、痛いには痛いんだけど、そんなことよりも優先すべき事があるのだから!

 

「あの、それって他の作品もありますか!?」

 

「そうだね、幾つもの作品が入ってるけど、これ全部ガンダムなの?」

 

追加で表示されたディスプレイに書かれていたのは作品のリスト、そこには今まで映像化されたガンダムの全てが並んでいた

 

「ひゃっほう、やったぜ!やっぱりガンダムは消えてなかったんだ!」

 

この作品があるだけで、オレはあと十年は戦える!ガンプラや新作があるなら追加で死ぬまで行ける!

 

「束、一人で納得していないで説明しろ。結局、アイツは何者なんだ?」

 

「ん~、簡単に言うなら平行世界人って感じかな?詳しくはこっちの世界に来た方法が分からないから流石の束さんもお手上げだけど、まず間違いないと思うよ」

 

「それは本当なのか?」

 

「うん!だって既存の技術体系を凌駕したデータの数々が否定のしようもないからね。彼の世界ではフィクションだったみたいだけど、何かの拍子にそれまで流れてきてISの形を取ったみたい。そしてそれは私の夢にとって非常に有用な物だったの。でも、一つだけメッセージがあったよ」

 

「中身は?」

 

「『私のたった一つの望み』ってフランス語で書かれてたよ」

 

「『貴婦人と一角獣』!現実でもフランスの博物館にあるタペストリー!ガンダムUCにおいて物語の重要な要素を為す一節!ガンダム関連ってオレのことをお呼びかな!?」

 

「分からないが、無関係ではないのかもな。それにしても、平行世界人だと?俄には信じがたい話だが……」

 

「この天才束さんの名にかけてそれだけは保証するよ。それでちーちゃん、この子の扱いってこれからどうなるの?」

 

「普通ならば目的等を徹底的に調べた後、不法侵入として警察に突き出して終わりなのだがな、恐らくは戸籍すら存在していないのだろう?ましてや世界で二人目の男性IS操縦者だ。正直に言ってこれから荒れるな」

 

「そうだよね~。広告塔として操縦者にするならまだマシ、最悪研究材料として解剖されちゃうかもね~」

 

おや、何やら不穏な単語が聞こえてきたような……

 

ウサミミの女性のお陰で侵入者としての罪はなんとか晴れそうだけど、解放されてからが大変な事になりそうだぞ?

 

「それでなんだけどね、そんな諸々の問題を一気に解決する手段があるんだよ!」

 

「お前の言う手段が今までまともであった試しがないが良いだろう、話してみろ」

 

「うん、この子の身柄なんだけどね、私にくれない?」

 

だがウサミミの女性のお陰でまた助かりそうになってきた

 

そしてこれがオレとウサミミの女性、この世界で【天災】と呼ばれている科学者、篠ノ之束との出会いだった


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。