アリーナで行われている試合は更に白熱し、互いに戦闘を行う相手が入れ替わる事がありながらも互角の勝負を繰り広げていた
その中でも当初から連携を行ってきた康太と一秋が場の主導権を握っていたのに対して後半はクロエとラウラも拙いながらも連携を意識するようになり今では自然と背中を預け合うようになっていた
そして康太がクロエの動きを格闘戦で抑えつつ一秋を射撃で援護し、先にラウラから仕留めようと動き出した時、それは起こった
「何だ!?き、機体が私の制御を!?」
「ど、どうしたんだ!?」
「私も知らん!?何だ、バーサーカー?それに、VTシステムだと!?私は知らんぞ、そんな物!クッ、止めろ、止めろぉぉぉぉぉ!!」
突如として起こった異変に一秋は動きを止め、ラウラは何とか機体の制御を行おうと身を捩るもシュヴァルツェア・レーゲンは動かない
そんなラウラの尋常ではない様子にビームサーベルで斬り結んでいた康太とクロエも試合を中止し、シュヴァルツェア・レーゲンに視線を向ける
「あれは!?」
「暴走、とは違うな。何が起こっている?」
何かがこのトーナメントの中で起きるかもしれないというのは康太達も一秋からの話で聞いていた、だがそれがいつなのか、何が起きるのかまでは分からなかった為に反応が遅れたのだ
「違う、こんな物ではない!このような機械任せの力などではない!私が求めるのは全てを斬り伏せる、意思のある剣なのだ!グゥ、ガアァァァァァッ!?」
苦悶の声を上げるラウラ、それと同時にシュヴァルツェア・レーゲンの機体がタールのように溶けていく
そんな機体の中に取り込まれていくラウラは必死に手を伸ばすも、その願いは叶う事はなかった
「助、け…………て……」
そして狂気に囚われた戦乙女はその姿を現す
◆
完全に元の形を失っていくシュヴァルツェア・レーゲン、その中に取り込まれそうになっているラウラは言い様のない恐怖を感じていた
自らの機体に積まれていたシステムは敬愛する織斑千冬の力を完璧に再現するものであり、それは彼女自身が求めていた力でもある
だがそこに加えられている謎のシステム、その存在を認識した時、ラウラは直感的にそのシステムが織斑千冬という存在を否定する代物だと感じた
故に抵抗しようとしたが結果は御覧の通り、何も出来ずに無力なまま、こうして為す術もなく機体に取り込まれてしまった
現在、表向きはどの国もISは無人機の開発に成功していない、可能だとすればISという存在を生み出した篠ノ之束だけである
故にVTシステムを発動するにもISを起動する必要がある、それには人間が乗っている必要があり、ラウラはそのパーツとして乗せられているだけだ、その動きにはラウラの意思は介在しない
(結局、私は何も出来ない、昔の無力な自分のままという事か)
次第に薄れ行く意識の中でラウラはそう独りごちる
思い返すのはこの世界に生まれてからの記憶、機械の子宮から生まれた人造の命、戦う為だけに生み出され、それに疑問を抱くこともなく戦闘訓練に明け暮れる日々だ
ありとあらゆる兵器の扱いでは他の、自らと同じように生み出された者達でさえも追従を許さずスコアの差を伸ばした
しかし順調に成績を伸ばしていたラウラはISの適性が低かった、それどころか左目に移植されたナノマシンの不適合、その制御が出来ずに成績も低迷、出来損ないの烙印を押された
そのまま他の出来損ないとされた個体と同様に廃棄されるのかとも考えた時にラウラは光に出会った
絶望の中で差し込んだ光、圧倒的な強さを誇るその光によってラウラは再び成績を伸ばし部隊でも最強の座を手に入れた
だからラウラは求めた、その光と同じ物を、その強さを自分の物にする為に
そこまで思い返してラウラは自嘲した、そこまでして得た力はどのように役立った?何をする事が出来た?
結局は群れなければ何も出来ないと思っていた相手に一方的に押されていたではないか、それも己と同じ遺伝子情報を持つあの者が居なければ確実に押し負けていた
(無様だな、私は。全てを賭けて戦っていたのは私だけではなかったのに、それを見ていなかった。即席で連携を組んだクロエ・クロニクルも、量産機のカスタム機であれだけの動きを見せる紫藤康太も、そしてただ憎かった
次に思い返すのは自らが隊長を務めていた部隊の面々を思い出す、最強である自分だけで任務を進められると先行しても見捨てずに後方から援護をしてくれていたのを、今になって思い出した
(叶うのならクラリッサを始めとした皆にも謝りたい……最早その資格もないのかもしれないが……)
既に意識が消えそうになっており、いつ完全に呑まれてもおかしくない状態だった
このような自分など誰が好き好んで助けると言うのか、いっそこのまま完全に意識を手放してしまった方が楽になるのではないか、そう考えてしまっていた
だがその時、何も見えない暗闇の中で視界が白く塗り潰されていった
(光……?)
それはかつて見た光に似ていた、無意識にその光へと手を伸ばしたラウラ、そしてその手を掴む力強い手があった
「ラウラァァァァァ!!」
「お前……!?」
それは彼女の敬愛する教官と同じ剣を持つ者、織斑一秋の姿だった
◆
時間は少し遡りシュヴァルツェア・レーゲンが完全に変化を終わらせた時の事だ
VTシステムにより変化したシュヴァルツェア・レーゲンは暮桜の姿を取るとバーサーカーシステムによる外部操作で最優先目標をクロエに設定、リミッターを外されパイロットの負担を無視した加速でバンシィ・ノルンに迫る
「狙いはオレ達、いやクロエか!」
しかしそこに零落白夜を警戒して対艦刀を持ったコウタが上段からの一撃を交差させた剣で受け止める
「グッ、重い!?」
だがリミッターが外れたその一撃は通常のISとは比べ物にならない程に重く、ジェガンの間接部が軋みを上げる
何とか堪えたところで康太の背後から出たクロエがビームマグナムを発砲、暮桜を後退させるも、ダメージはなく再び加速する
『こーくん、くーちゃん、聞こえる!?』
「束様、聞こえます。コウタさんも聞こえてる筈ですが戦闘中です」
『見てるから状況は分かるよ。それで、アレの事について情報を教えるね。あれはVTシステム、モンド・グロッソの優勝者である各ヴァルキリーの動きをトレースして繰り出すシステムだよ』
「えっ?束様、確かそれは……」
『うん、アラスカ条約で使用どころか研究も禁止されてるね。でも目の前の機体は搭載してる。しかも改造されてるのか、やけに機体出力が高い。まず普通のISだと剣を合わせても簡単に押し負ける筈だよ』
「それではコウタさんが―――えっ?」
どれだけの技量があろうとも機体性能の差が決定的では不利だ、相手が織斑千冬のコピーという事はその技量もずば抜けている
だがクロエが見た光景は今の情報を覆す物だった、暮桜の左足、それを足首の辺りで康太が斬り飛ばしたのだ
「確かに動きはコピーですけど、やれなくはないですね。博士、これ不完全なシステムだったりします?」
『こーくんの言うとおり、不完全なシステムでもあるけど、見た所はまた別に要因があるね。混ざってるもう一つのシステム、どうにも外部からISを操作可能な物みたいだけど、それが原因かな?それにしてもこーくん、かなり冷静だね』
「入学試験の時に織斑先生が相手で助かりましたね。あの時と比べれば目の前の相手はフェイントにも引っ掛かるし、何よりも気迫がないから怖くもありません。あと、外から何か操作してるって言ってましたけど、それが原因なのか動きがちぐはぐな時があります。そこを突けば善戦出来なくはないですよ」
康太はかつて打鉄を駆って試験の相手をした人物の事を思い返す
当時、康太はその人物に全く敵わなかった
だが目の前のコピーはその技こそ盗めているが絶対に勝つという思いがない、そして此方の動きに反応して動くだけだからフェイントにも引っ掛かる、少なくとも織斑教諭ならば絶対に引っ掛かる事のない動きで釣れる
おまけに何処かでコイツを動かしている何者かは戦闘経験が少ないと見た、何故なら動きに合理性がなくその場その場で動いているに過ぎない
その機体出力こそ脅威ではあるが、言ってしまえばそれだけの敵だ
『ふふーん、なら大丈夫そうだね。それじゃあこーくん、その見るに堪えない贋作、完膚なきまでに叩き潰してくれる?元のVTシステムさえ私の気に障るのに、それを更にダメダメな存在にするとか、それでちーちゃんの姿を取るとか、逆に感心しちゃうくらいなんだ。この私をそこまで怒らせたい人が居たんだってね』
「了解しました。パイロット、ラウラ・ボーデヴィッヒに関しては?」
『んー、どうでも良いよ。生きてても死んでても、私は気にしないからね。まあ、あの加速だと常人はとっくに意識を失ってるよ。その後生きてるかは本人の頑丈さ次第かな』
あくまで自分の事が優先な篠ノ之束の言葉に一瞬だけ呆気に取られた康太だが、即座に暮桜を瞬殺すれば済む話だと考え直し対艦刀を構え直す
だがそこに一秋が割って入った
「康太、自分にも協力させてくれ!」
先程までの通信は一秋にも通じていた、故にラウラの生死を問わない篠ノ之束の方針に反射的に出た言葉だったが、篠ノ之束は普段と変わらない笑顔を浮かべたまま一秋に告げた
『やあカズくん、こうして直接話をするのは久し振りだねえ。けど大丈夫だよ、アレならこーくん一人でも時間を掛ければ制圧出来る。キミの出番は必要ないよ』
「けど!それだと時間が掛かって、アイツが……」
『どうても良いよ、あんなの。くーちゃんに取って邪魔になるだけの相手だし、それにカズくんは知らないと思うけどアレは人間じゃない、人形だよ。戦う為だけに生み出されて、それを何とも思わない人形。それが死んでも誰も困らないじゃないか』
「そんな、アンタは!」
『これ以上、余計な事はしない方が良いよ。今ので向こうの再生の時間は終わる。余計な口を出して、むざむざアレを討つチャンスを逃した。他の誰でもない、カズくんが余計な口出しをしたからね』
戦闘に於いて康太は対艦刀で暮桜の片足を斬り飛ばしていた
それにより暮桜は機体の修復に専念、斬り飛ばされた片足を使い修復していたのだ
剣を使う上で踏み込みは重要な要素となる、織斑千冬ならまず機体の修復が出来ないので片足でも剣を振るうが真似るだけのシステムには出来ない、その違いから生まれた隙だったが一秋と篠ノ之束のやり取りの間に暮桜は完全に復活を果たした
『もう良いね。こーくん、見ての通り相手は修復するけどそれにもエネルギーを使う。再生出来なくなるまでエネルギーを消費させれば勝ちだよ』
「了解、斬って斬って斬りまくれば良いって訳ですね」
話は終わりとばかりに篠ノ之束が康太へと指示を出す、だが一秋は食い下がる
「待ってくれ!」
『ハァ、カズくん、キミがどれだけすがっても、そうやって迷ってる間に事態は動くんだよ。例えば―――』
「チッ、一秋退け!」
復活した暮桜、それが再びクロエを狙おうと動き出すがまずは間にいる相手を排除しようと、一秋の背後から雪片を振り下ろす
そこに康太が対艦刀を伸ばすが、それより先に一秋が掲げた雪片弐型がその刃を止める
「自分が、俺がやる。束さん、アンタが俺をどう思っていても関係ない。けど、例え康太やクロエを使って俺を止めようとしても、俺は自分でアイツを止めてやる!」
受け止めた剣を跳ね返して即座に反転、遠心力の乗せた刃で暮桜の左腕を飛ばす一秋
その目には普段とは違う、信念を込めた光があった
「アアアァァァァァァァァァァッ!!」
そのまま烈火の如く雪片弐型を振るい暮桜と互角以上に斬り結ぶ一秋、康太は対艦刀を握っていた両手を下ろして通信を繋げ直す、今度は広域通信ではなく相手は篠ノ之束のみだ
「それで、どういうつもりなんです?」
『ん~?何の事かなあ?』
「わざと通信を一秋にも聞こえるように繋げて、そこでラウラ・ボーデヴィッヒを見殺しにする発言。少なくとも合理的ではないでしょう。目的は一秋に発破を掛ける事ですか?」
『ふふ~ん、こーくんも分かってきたね。ちょっと昔話をしようか。とある所に最強の姉と双子の兄弟が居て、途中から双子の兄は剣を捨てた。最強の姉を助けたかったからね』
それを聞いて直ぐに康太も織斑家の話だと気付き、黙って続きを促す
『姉は余計な事をと思いつつも兄弟の心遣いを有り難く思いそれまでよりも心に余裕を持てるようになった。けどある日、世界大会に出た姉を応援に行った双子の兄は何者かに誘拐される。何とか助け出された双子の兄だけど、姉が助けに行った事で大会は不戦敗になった。姉にとっては優勝なんて些末な事、兄弟を自らの手で救い護れた事こそが何よりも誇りとなった。でも、その周囲は違った。「お前さえ居なければ」、姉の栄光を汚した存在だと誰もが双子の兄を責めた。そして双子の弟と比べられた。弟は兄のお陰で剣を捨てずに己を磨き続けて頭角を現していた。それが余計に双子の兄を貶めた。こーくんならこんな時、どうする?』
「一度挫折した身では兄の気持ちは何となく察する事は出来ますけど、逃げた、ですか?」
『そうだよ。大きい挫折かもしれないけど、折れたなら打ち直せば良い。私はね、その三人の事を刀みたいに思ってる。日本刀のように強くありながら美しく、ね。だから赦せないんだよ。折れたまま放置して、錆びにまみれた刀なんて意味はない』
「だから打ち直した。憎まれ役を買って出ても、ですか?」
『うん、そうだよ。私はね、面白い人間が好きなんだ。折れても躓いても前に進む、止まらない、足掻いてでも夢に、目指す場所に向かう人間が。その歩みだけが私には輝く宝石のように見える。それがないならそれは人間じゃない、そう思える程にね』
康太はそれが偽りのない篠ノ之束という人間の価値観なのだと理解した、そしてお気に入りだったからこそあそこまでしてでも打ち直したいと思ったのだと、納得した
「なら、オレも負けてられないですね。取り敢えずは一秋が足りなかった時の為に後詰めとして―――」
いつでもフォローに回れるように控えておく、そう決めて一秋の様子を確認した康太は白式と暮桜が繰り広げる剣劇の舞台に目を奪われた
康太とて一秋の剣の腕は知っている、ブランクがあったとはいえ剣道を基礎とした剣術は隙の少ないものだった
しかし今はそのような型通りの動きは見られない、それどころか暮桜の雪片を手で逸らし、時として足技でもって暮桜の体勢を崩そうとしている
更にはその表情である、普段の気弱な表情とは一変して険しい物となり、言葉も発する事もなく唸り声を漏らすだけだ
『羅刹とか修羅とか、カズくんが本気で剣を振るった時の評価はそんな感じだよ』
「確かに頷ける物ですけど、あれはどちらかと言えば……いや、まさかな」
後半の康太の呟きは激しい剣劇の音に掻き消される
康太の脳裏に浮かんだのはとある世界では虎に狂戦士と呼ばれた、
しかし一秋の動きに対して白式の出力は暮桜に劣っている、徐々に力負けする場面が見え、損傷が増えてくる
そろそろ援護するか、そう思った時、ジェガンのバイザー部分に届いたメッセージが表示された
「これは、白式から?」
「コウタさんもですか?私にも来ました」
一秋は戦闘に専念している以上このメッセージを送る暇はないだろう、ならば誰が送ったのか、それは白式のコアに他ならない
ISには疑似人格がある、それは篠ノ之束から教わった内容であるから真実だと康太とクロエは知っている、だから二人は即座にそのメッセージに応えた
「グッ……」
「白式に、届いて下さい」
康太の方に届いたのは康太の記憶へのアクセス許可、そしてクロエに届いたのは装備の提供であった
両者がその申し出を了承した次の瞬間、康太は頭に鈍い痛みが走り、クロエは量子化していた予備のシールドを取り出して白式に向けて投げる
一秋はそれを認識すると一度暮桜を引き離して後退、投げられたシールドをキャッチしたその瞬間、白式が光に包まれた
そこに暮桜が接近しようとするも目の前をビームが貫く、康太とクロエが手に持ったビームライフルで牽制したのだ
「変身中の攻撃は御法度だろう、空気を読めよ」
「その法則はよく分かりませんけど、今の一秋さんを邪魔してはいけない事は分かります」
連続して放たれるビームによって後退を余儀なくされる暮桜、その間に白式の光は収まり、そこには生まれ変わった白式の姿があった
「
「あれが……」
大型化したウイングスラスターを二機背部に備え、両肩にも同様に大型スラスターを備えており、手に持つのはメインの武装であった雪片弐型であるがその姿は刀身を更に長くした大太刀のように変わっている
また背部にはスラスターとは別に形状の変化したシールドを備えており、アームによって新たに追加された専用ライフルと共に保持されている
「白式・
そう名乗りを挙げた一秋は新たな雪片を手に駆ける
暮桜も向かってくる白式・刃風に雪片を向けて構えるが、刃と刃が激突した後、鍔迫り合いになったのは少しの間だけであり、次の瞬間には暮桜の雪片は刀身の半ばから両断される
得物を失った暮桜はそのような状況など想定していなかったのか動きを止め、その時間は今の一秋相手には致命的な隙となった
再び構え直さした雪片から繰り出される一撃、それは暮桜の表面を薄く切り裂き、その中に居たラウラには届いていない
「ラウラァァァァァ!!」
「お前……!?」
一秋は左手をラウラに向けて伸ばすとその体をしっかりと掴み引っ張り出す、暮桜が抵抗しようとするがそこに接近してきた康太が対艦刀でラウラと繋がっている部分を切り裂き、全員が離脱すると康太が叫んだ
「クロエ!」
「はい、ビームマグナム、リミッター解除。撃ちます!」
全員が余波の及ばない所まで退避した事を確認するとクロエがビームマグナムを構える
一拍置いて放たれたビームは試合中の物とは比べ物にならない火力を引き出し、暮桜の上半身を跡形もなく蒸発させた
そのまま地面に倒れたまま活動を停止する暮桜、こうして学年別トーナメントにて起きた騒動は幕を閉じるのだった
白式・刃風、外見やら武装やらはSEED系列のとあるガンダムタイプがモデルです
次回、色々と事後処理になります