ラウラ・ボーデヴィッヒが目を覚ました時、そこは自分の見慣れない部屋だった
周囲を見渡し、自らが眠っていたベッドとそれを仕切るカーテン、そして消毒液などの独特な匂いから此処が医務室だと理解した
その際、椅子に座ったまま眠っている一秋を発見し、コイツは何故此処に居るのかと疑問に思っているとカーテンが開かれた
そこにはスーツに身を包んだ女性、ラウラの慕っている織斑千冬の姿があった
「教官」
「織斑先生だ。ボーデヴィッヒ、目覚めたところ早速で悪いが何処まで覚えている?」
「それは……試合中に謎のシステムとVTシステムが起動、それにより制御を奪われた所をこの男に救われた。それから……申し訳ございません、それ以上は何も」
「いや、それで十分だ。お前はVTシステムから解放された後、気を失って此処まで運ばれた。どうやら後遺症の類いは心配なさそうだな」
そう言って千冬は手元の端末を操作すると今回の顛末を記した資料を表示する
そこには様々な情報が記されており、更にそれは現在も更新中のものだ
「束の奴が暴走中もシュヴァルツェア・レーゲンのコアにアクセスしていた。制御こそ奪えなかったようだがログは確保していた。その結果、二つのシステムによりシュヴァルツェア・レーゲンは遠隔操作されていた形跡が見付かっている。これによりお前自身が何らかの罪状に問われる心配はない」
「それは、ありがとうございます」
「礼を言うなら相手が違う。が、お前は直接会えないだろうから私から伝えておこう。さて、この判決だがお前個人へ、学園からの処罰に対してだ。ドイツ、お前の祖国からは別の通達が来ている」
「そ、それは……」
「病み上がりの身で辛いとは思うが、今後のお前の進路にも関わる物だからな。色々と形式張って書いているが一言で表すなら『ラウラ・ボーデヴィッヒの軍籍の剥奪』だそうだ」
軍籍の剥奪、それは兵士として生まれ生きてきたラウラにとっては自らの存在意義の否定に他ならず、ラウラは自分の足元が崩れるような感覚に襲われた
自然と心拍数が上がり、息苦しい中でなんとか冷静さを取り戻すと千冬へと訊ねた
「……理由を」
「お前に過失が無かったとはいえコアの喪失が大きかったらしい。何者かが保身に走ってお前に責任を押し付けた。誰がどう見てもそのような構図になる。実際、この動きは早かったよ。事件が終息して一時間経つか経たないかで通知が来た。既に話がついているのだろう、これを覆すのは難しいぞ」
「そう、ですか。クッ、ハハハ……私は、祖国の為にと…………その祖国から見捨てられたのだな……所詮、性能が高かろうと人形は人形だと……ハハ、ハハハ……」
それは絞り出すかのような乾いた笑い声だった、自分の滑稽さを笑う、笑わなければどうしようもなく壊れてしまいそうな自分を繋ぎ止める為の笑いだ
だがそれを止めさせる、大きくはないが相手に響かせる声があった
「ラウラ・ボーデヴィッヒ、お前は何者だ?」
「えっ?」
「お前の出生は知っている。それで、与えられた物以外に、お前は自分を持っているのか?」
「わ、私は……」
「そうだ、軍人としてのラウラ・ボーデヴィッヒ以外にお前は持っていない。ならば此処から始めれば良い」
「……此処から?」
「ああ、与えられた任務でもなく、お前の意思でお前の道を選ぶんだ。そうした時、お前は本当の意味でラウラ・ボーデヴィッヒになる」
「本当の、私に……」
まだその言葉の意味を完全には理解出来ていないラウラだが、今度は優しく千冬が語り掛けた
「それに、そう悲観する事もない。日本には『捨てる神あれば拾う神あり』という言葉がある。割りと近くに希望という物はあるものさ」
「希望、ですか?それは―――」
「失礼します」
その希望とは何か、訊ねようとしたところで医務室に誰かが入ってくる声がした
聞き覚えのある男の声、その人物はラウラが寝ているベッドの近く、千冬の元へとやってきた
「織斑先生、シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていた例のシステム、バーサーカーシステムに関するオレの知る限りの情報です。篠ノ之博士が言うにはオレの知る物とはかなり違ったみたいですけど、参考までに」
「分かった、後で確認しておく。それと紫藤、ボーデヴィッヒが目覚めた。あの話を通すなら早くしておけ」
「了解しました」
その人物とは紫藤康太の事だった
康太はラウラの顔を見ると一つ頷き口を開く
「ボーデヴィッヒ、お前の処分について織斑先生から聞いたか?」
「ああ、問題ない。それと、お前にも迷惑を掛けたようだな。済まなかった」
「気にするな、一秋をサポートしてやっただけだ。それよりも本題なんだが単刀直入に行こう。お前、ラビットフット社に入る気はないか?」
「は?」
それは普段のラウラからは考えられない程に間の抜けた声だった
だが康太は気にせずに続けた
「知っての通り、ラビットフット社は篠ノ之博士の会社だ。だが如何せん人数が少ない。特に手勢として使えるのはオレとクロエくらいだからな、一夏はその辺りは使えない。で、軍で隊長務めたような人材がそこに転がってるなら、是非とも確保しておきたいと思ってな」
「待て、何を言っているのだ貴様は!?私はあのような事件を引き起こしたのだぞ!それを身内に引き入れるなど正気か!?」
「さっきも言ったが別に気にしてないからな。アレは馬鹿やった連中が原因だし、お前は不器用なだけだ。なんか角が取れてるし、引き入れても問題ないとは思う。因みに給料は日本円で約五十万、専用機も支給されるぞ。で、どうだ?無理にとは言わないが、悪くない条件だとは思うぞ」
実際にそれは悪くないどころか破格の条件である、何よりも篠ノ之束という世界のパワーバランスを簡単に左右出来るような存在の下で、更には専用機も用意される等、例え現役のIS操縦者で国家代表だとしても迷わずに飛び付く程だ
しかし今まで築いていた自信を失ったラウラは直ぐには首を縦に振らなかった
「今の私にはそのような期待に応えられるとは思えない。そもそも、どうして私にそこまでしてくれる?同情なら余計なお世話だ」
「まあ、そうだよな。けど、それを言えばオレとかクロエもそこまで突出した技量がある訳でもないし、そういった意味ではお前も十分に活躍出来る。あと、クロエの願いでもあるからな」
「クロエ、あの者が?何故私に構う?」
「本当ならもうちょい上を狙うつもりだったみたいだが、結果としてシュヴァルツェア・レーゲンのコア消滅させたのを気に病んでいてな。それと伝言も一件ある。『妹とは思ってませんが、同じ顔で路頭に迷ってる姿を見るのは気分の良いものではありませんから、仕方なくです』だとよ。素直じゃないよな、どっちも」
それを伝えた時のクロエを思い出しているのか康太は苦笑していた
実際のところ、クロエの珍しいお願いに、頼られた篠ノ之束は一も二もなく許可を出したのだ
その時までクロエは普段とは違ってオロオロとした様子だったので康太には本気で心配していたのだとバレバレだった
「……分かった、少し考えたいから一晩時間をくれ」
「分かった。まあ、ラビットフット社以外には一秋のところで永久就職って手もあるしな」
「む?何故そこでこの男が出てくる?」
「あー、まあ気付かないか。一秋だが、お前の事を好きだぞ」
「なっ!?ななななな―――」
康太が暴露した一秋の想い、それを聞いたらは途端にラウラは顔を真っ赤にして言葉は意味を成さなくなる
「な、何を根拠に!」
「いや実際そうだしな。でなければ命懸けでお前を助けようとはしないさ。その想いの強さに応えて白式も二次移行した。今もこうして心配で近くで見守っているだろう?一切疑問の余地もなく、一秋はお前を好いている」
「あ、う、あ……」
「ああ、それと初対面が最悪だったとか気にするな。好きの反対は嫌いじゃない、無関心だからな。好き嫌いなんて簡単に引っくり返る、良くも悪くもな」
「―――ッ!?」
「ん、あれ、眠ってたか……」
最早言葉を発する事さえ出来ずにただ口を開閉する事しか出来なくなったラウラ、そしてタイミング
それを見た康太は千冬と目配せすると共に無言で医務室から立ち去った
そんな二人にすがるように手を伸ばすラウラだがその手は届かず、一秋は寝惚けていた意識がはっきりとしてきていた
「あっ、ラウ……ボーデヴィッヒ、目が覚めたんだな!」
「うっ、あっ……グッ、煩い!少しの間、私にその顔を見せるな!」
「えっ、えぇっ!?」
堪らずに取り敢えず手元にあった枕を一秋に投げ付けるラウラ、一秋は自分が目覚めて突然の事に混乱して枕を顔面で受けていた
そんな喧騒を背に廊下に出ていた康太は多分に笑いを含んだ声音で話す
「いやあ、青春してますねえ、織斑先生」
「フッ、焚き付けておいてよく言う。だがあれでボーデヴィッヒも多少は前向きになれただろう。礼を言う」
「いえいえ、オレも自分の所の戦力の為なので。そういえば織斑先生はそういった相手は居ないんですか?クラスとかでもそういった話って聞きませんけど」
「手の掛かる弟が二人居るからな。なに、いつかは私もそんな日が来るさ」
「いつかは、やがていつかはと、そんな甘い毒に踊らされ一体どれほどゴォッ!?」
この日、廊下で口を滑らせた一人の馬鹿が床に沈んだ、何故だ?坊やだからさ
織斑千冬、家庭の事情があったとはいえ今まで一人も恋人が居なかった過去に少しは危機感を感じ始めるお年頃なのである
なおその馬鹿は後に風呂上がりの一夏とシャルロットに発見されるまで廊下に倒れたままであったとか
◆
学年別トーナメントが中止となり、試合をしていない生徒は第一試合のみを行う事となったが、それらが終わって週末の土曜日となった現在、オレ達は青空をノッセルに乗って移動していた
乗客はオレとクロエと一夏とシャルロットの四人、ノッセルのキャビンも四部屋なので丁度良い数となった
オートで飛行を続けるノッセルはこの世界に流れてきた物を回収した物で、サイズは完全にクロスボーンガンダムで出てきた物そのままである
なので原作通り移動拠点として使える本機を使って向かうのはフランス、シャルロットの実家であるデュノア社だ
予てより計画していたデュノア社との提携の為の面会、その実現が叶ったのだ
交渉役がオレとクロエ、シャルロットは仲介、一夏は正直必要ないのだが本人の希望とシャルロットからの懇願で参加となっている
既に日本を発って12時間、通常の航空機と同じ程度の速力で飛行していたのでそろそろ到着の時刻だ
当面の目的地はフランスの首都であるパリにあるシャルル・ド・ゴール国際空港である
オレ達も既にシートに着席してベルトで体を固定している、ノッセルの試験飛行を兼ねての移動であり、色々と手探りながら機体はオートで飛行を続け着陸まで行う
この辺りは流石は宇宙世紀の代物といったところか、パイロットの訓練時間短縮の為にオート化が進んでいる
その後は指定された格納庫にノッセルを停めてオレ達は入国手続きを済ませる
そこからは車で移動となるのだが、そこには既に一台の車が手配されていた、デュノア社からのお迎えだ
それに乗り込んでパリの街を進む、デュノア社はISの実験施設も含めてパリの郊外へと本社を置いてあるらしい、そこまでの足としての車だ
「此処がパリか。海外に来た事はないが、可能なら後で観光したいものだな」
「あ、うん。もしも時間があれば案内出来るよ。希望はあるかな?」
「なら国立中世美術館を頼む。あそこには確かあのタペストリーがあった筈だ」
「タペストリー?国立中世美術館と言えば……あっ、『貴婦人と一角獣』の事かな?」
「タペストリーって、何で康太はそれを見たいんだ?なんか、いつもの様子からすると芸術とか関心なさそうなのに」
「そりゃ勿論、聖地巡礼だよ。というか一夏よ、お前のユニコーンとクロエのバンシィ、その二機のモデルになってるタペストリーだぞ。そしてお前、今遠回しにオレのこと馬鹿にしただろ?3号機としてフェネクス作って締めるぞ。同性能の機体ならなお、お前には負けん」
「あ、いや、それは……」
当然ながらガンダムファンとしては実物を見てみたい一品である、眺めながらビスト邸の光景に思いを馳せたい
まあそれは兎も角として、今ので少しは空気を和らげる事が出来た
パリに近付いてからずっと気を張り詰めていた一夏とシャルロットの二人はもう少し肩の力を抜いた方が良い
「まあ何にせよ緊張するな、とは言わないがもう少し肩の力を抜け。交渉はオレの担当、お前は黙って座ってれば良いんだよ」
「えっ?あ、ああ、悪い」
「それとシャルロットもだ。例の装備のテストは良好だった。なら後はそれを認めさせるだけだからな」
「うん、そうだね。ありがとう、康太」
改めて指摘すると一夏とシャルロットの表情は多少は改善されたが完全に緊張が解れる事はなかった
とはいえ適度な緊張感を持つのは良いことだ、後はどうにかするのがオレの仕事だからな
それにストライカーパックの運用試験も上手く行っている、技術概念検証としてオレのジェガンを改装、背部をストライカーパック対応型にした
その後は実際にI.W.S.P.を装備して試験を行い空中換装といった試験でもストライカーパックの優位性を証明出来たのだ
ならば後は如何にそれを売り込むか、性能を疑っていないからオレはそこしか心配していない
車はいつの間にか街を抜けて郊外に出ている、そこから三十分程経つとオレ達は広大な敷地を持つ施設の中に入った
いよいよ直接相対する時だ、本社受付のロビーに入ると迎えに来た車の人が先に受付を済ませてオレ達はすんなりと奥のエレベーターを乗り降りして重厚感ある扉の部屋へと通される
そこには一人の男が座っていた、かなり太ったカエルみたいな面の男だ、少なくともアルベール・デュノアではない
「ようこそ、デュノア社へ。私は―――」
「デュノア社長は何処だ?」
相手が名乗るよりも先に、オレははっきりと告げた
今回の面談に関して、事前にシャルロットが確認をしたところアルベール・デュノア本人とロゼンタ夫人が応対すると言っていた
その事に間違いがない以上、こうして木っ端の人間が出てきても相手にする必要はない、今回の交渉に当たって篠ノ之博士からは『仮にも私の名代として行くんだからしっかりと対応してね。その社長とやらは知らないけど、こーくんが信用したなら社長だけを相手にしてね。向こうも社長が出るって言ってるんだから』と言われている、元よりシャルロットの事に関しても話す予定だったのだ、本人でないなら相手にする必要もない
「そ、それはだね、デュノア社長は多忙の為、なかなか手が離せないだろうから、こうして私が―――」
「ならば待たせて貰おう。デュノア社長以外の人間には興味がない」
なのでアルベール・デュノアとしか交渉はしない、これは篠ノ之博士の面子もあるが、もし商談が纏まれば『アルベール・デュノアが商談を纏めた』という外への分かりやすい功績を示す事で彼の地盤を固めやすくする、援護射撃のような物だ
だから待つ、オレは表向きは泰然とした態度を崩さず、クロエも涼しい顔をしている、落ち着きのない動きをしてるのは一夏とシャルロットだけだ
だが今回の対談で全権を握っているのはオレだ、二人が慌てふためこうが逆にオレの冷静さを相手に意識させるカードになる
「た、確かシドウ君と言ったね。君は何か勘違いしているようだが、子供の御使いで社長が出てくると思っているのなら、それは思い上がりというものだ。だからこうして私が―――」
「シャルロットを通じて本人が応対すると約束している以上、それが筋というものだ。それとオレを子供扱いか。学生服を脱ぎスーツで此処まで来たのは子供ではないという意思表示だったが、無駄だったか」
仮にも全権を委任されたのだ、ならば年齢等は関係ない
その為にスーツを着込んで此処まで来た、意識を切り替えるにも格好からというのは悪くないしな
と、そこで背後の扉が開かれた
「専務、此処までの応対、ご苦労だった。後は私が代わろう。元より私の客だ」
「グッ、社長……」
「初めましてデュノア社長。ラビットフット社より篠ノ之博士の名代として参りました、紫藤康太と申します。本日は宜しくお願い致します」
「ああ、デュノア社社長のアルベール・デュノアだ。今日は遠いところをわざわざご足労頂き感謝する。此処ではなんだ、社長室にて詳しい話をするとしよう」
「ええ、是非ともそうさせて頂きます、デュノア社長」
部屋に入ってきた相手が誰か分かった瞬間にオレはにこやかな笑顔を浮かべてアルベール・デュノアへと挨拶をする
さっきまでの無愛想な受け答えとは違い丁寧で友好的に振る舞ってだ
その変わり身の早さには専務と呼ばれたカエル顔の男も呆気に取られていた、こうすればデュノア社長との仲が良いように見えるもんな
そして社長自らに案内された社長室、そこに入るとオレとデュノア社長は揃って安堵の息をついた
「全く、抜け目のない。済まなかった紫藤君。どうやら受付か送迎の者が取り込まれていたようだ」
「いえ、お気になさらずに。寧ろ利用してやったのは此方ですので」
「えっ?えっ?」
「康太、その、シャルの親父さんと知り合いなのか?」
互いに今の状況を確認し合うオレとデュノア社長、その雰囲気に一夏とシャルロットは混乱している
「教えなかったから仕方ないが、実はシャルロットを介さずに一度だけ、篠ノ之博士も交えて画面越しに通信をしているんだ。そして実を言えばその時点で既に交渉は殆んど済んでいる。今回のこれは、言ってしまえば対外的なポーズに過ぎない」
「えぇっ!?」
「アレは中々に強烈な対談だった。私の理想とする光景から何から、全てを暴かれたのだからな」
「それじゃあ、俺達の覚悟は……」
強いショックを受けた一夏とシャルロットだが、実を言えばラビットフット社とデュノア社の提携は決まっている
それというのも対談の方法が電脳空間を作ってそこで対談するという物だ、オレ達の意識もそこに入り込んでだ
ISの技術を応用した電脳ダイブは理論上は可能なのだ、そこで対応機器をデュノア社長とロゼンダ夫人に送り電脳空間で対談した
そして更に加えると、そこでクロエのISである黒鍵の【ワールドパージ】と呼ばれる能力を使い二人の理想とする世界を見た
そこではアルベール・デュノアとロゼンダ・デュノアの他にシャルロットと、そのシャルロットの母親であるサラという女性が共にデュノア邸で笑い合いながら過ごす光景が広がっていた
その人柄を見てオレ達はデュノア社との提携を決めたのだ、デュノア社ではなくアルベール・デュノアという人物を信用してだ
今回来たのはその大詰め、提携の証明となる契約書とストライカーパックのデータの受け渡しである
紙の契約書はアナログだがそれだけに偽造もし難い、篠ノ之博士が認証用のICチップを埋め込んでいるから余計にだ
後はストライカーパックの方だが送信するよりは漏洩の危険が少ない為、データ端末に入れて持ってきた、後はデュノア社長が信頼する人間に渡すだろう
なので此処でオレ達の目的は殆んど完遂したような物である、後は別の目的を果たすだけだ
「これが契約書です。後はデュノア社長の署名で終わります。それとこれが新システムのデータです。扱いは任せます」
「ありがとう、紫藤君。篠ノ之博士にも宜しくお伝えして欲しい。我々も博士の期待に応えられるようにパーツを早く送り出すとしよう」
「お願いします。あのパーツは博士の悲願です。実験が成功すれば本格的に建造に入りますので、宜しくお願い致します」
そして篠ノ之博士がデュノア社と提携するに当たり、まずラビットフット社からは技術提供を、そしてデュノア社にはマスドライバー施設のパーツの製造を請け負う事になっている
此方でも製造可能だが小型のマスドライバーで実験するにもそれなりに大きな施設となる
それだけにパーツの量も増えるので、それなら簡単なパーツは別けて製造した方が早い、少数の精密なパーツはラビットフット社で、多くの大型なパーツはデュノア社で、そういう契約だ
契約書にデュノア社長が署名し、控えとして片方はデュノア社が預かる
これにて契約は完了、後は商談を続けているように見せる為に暫く部屋の中で時間を潰すのだが、そこは予め考えてあった
「シャルロット、何か言いたい事があるなら今だぞ」
「あ……お、父、さん……」
「シャルロット……」
此処で離れていた親子の仲を取り持つ、それはシャルロットの願いだ
本人は商談が終わった後だと思っていたかもしれないが、こうしてオレ達は早々に契約を交わしたので時間はたっぷりとある
「ボク、私は……」
「済まなかった、シャルロット。護る為と言いながら、お前を傷付けてしまった。本当に済まなかった」
「お父さん……私は、この国を出た時は貴方を恨んでいました。でも、IS学園で大切な友人達に出会って、本当は私は誰よりも愛されていたんだって気付けたんです。一夏に相談して、康太とクロエに出会って、三人のお陰で私は過ちを犯さずに済みました。あの日、飛行機に乗った時に再生されたメッセージを、私は最初は見ずに直ぐに消してしまったんです」
「それは……!?」
「その後は男として過ごして、言われたままに産業スパイの真似事をしようとしてました。でも、それを一夏が止めて、康太が論理的に推理して、クロエがメッセージを復元してくれた事で、私は最後の一線を越えずに済みました」
「そんな事が……私は、そこまでお前を追い詰めて…………」
「でも、今はお父さんに感謝しています。だって、今の私には本当に信じられる友人が三人も出来たから。一つでも違っていたら私は三人と今みたいな関係にはなれなかったと思います。だからお父さん、自分を責めないで。そして、私を愛してくれてありがとう」
「ああ、シャルロット……サラ、私は……」
それは紛れもなくシャルロットの本心なのだろう、確かに辛いと思った事も多かったかもしれない、だがシャルロットが勘違いをせずに最初から女の子として入学してきたとして、オレ達はそこまで仲良くなっただろうか?
答えは否だ、そこまで積極的に関わろうとはしなかっただろう、全ては偶然の積み重ねだがこうして最後には父娘の不幸な誤解は無くなったのだからこれが最善の結果なのだろう
デュノア社長は人目も憚らずに涙を流していた、その背を撫でながらロゼンダ夫人もシャルロットと対面する
「随分と良い顔になったじゃない。それと、あの時はごめんなさい。何も知らない貴方に酷い仕打ちをしたわね」
「はい、あの時は本当に心が折れそうになりました。でも、あれからずっと考えていました。ロゼンダ夫人は私のお母さんの事を知ってるんですよね?」
「えぇ、勿論よ。平民の生まれながら同じ相手を好きになって学生の時から張り合った仲ね。けど疎んだりなんかしていないわ。私は名家の生まれ、周囲の女の子達は私の太鼓持ちだったわ。そんな中で正面から対等に渡り合う相手なんて後にも先にもあの子だけよ。だからなのかしら、初めて貴方を見た時に、貴方があの子の娘だなんて認めないと思ったの、あまりにも鬱ぎ込んでいてとてもあの子とは、サラとは似ても似つかなかったから。気付けば先に手が出ていたわ」
「私の知ってるお母さんは優しくて争いなんて考えられない人でした。そんなに張り合ってたなんて信じられません」
「そうね。貴方の前だとそうだったのかもしれないけど、かなり積極的だったのよ?例えばこの人に手作りのお弁当を作って来て胃袋をガッチリ掴まれたわ。他にも、やたらと距離が近かったり、胸を押し付けるような真似をしたり、ね。一番困惑したのは、スポーツの後でこの人がシャワーを浴びている時に、シャワールームに水着とはいえ乱入していった事ね。あの時は寧ろ感心した程よ」
「お母さん!?」
「ロ、ロゼンダ!?その話は……」
「お黙りなさい。大体、あなたが優柔不断だからこんな事になったのよ。愛人ではなく、さっさと側室として迎えていれば良かったのよ。あの日も、此処を立ち去ろうとしたサラを引き留めようか迷うだなんて、男として失格よ。その他にも―――」
どうやらシャルロットの母親はかなり積極的な人物だったらしい、それはシャルロットの中の母親のイメージともかけ離れているからかシャルロットでさえ困惑している
それにしてもシャワールームに乱入か、最近似たような事をやった人を知ってるな
「つまりシャルロットが一夏の入浴中に乱入したのは母親譲りという事か」
「なっ!?ばっ、康太!?何で今それ言った!?」
「ちょっと康太!お父さん達の前でそんな事バラさないでよ!?」
「シャルロット、貴方、末恐ろしい娘ね……」
「ハ、ハハハ、そうか、娘と入浴を……織斑一夏君、少し屋上で話そうじゃないか。なに、直ぐに済むよ。直ぐにね」
「あの、親父さん?その手に持ってるのって、ペーパーナイフじゃ?」
「選びたまえ織斑一夏君。死ぬか、殺されるかを」
「そんなのどっちも一緒だ!康太、笑ってないで助けてくれ!お前のせいだろう!」
「一夏、聞こえていたら自分の女難の相を呪うがいい。君は良い友人だったが、君の唐変木さが悪いのだよ。フフフフ、ハハハハハ」
篠ノ之博士のラビットフット社との提携により今後、世界中から注目される事になるだろうデュノア社、その社長室ではとてもではないがそんな雰囲気は全く感じられない有り様となっていた
だがそれまであった暗い雰囲気はなく、シャルロットの顔にも今は笑顔が浮かんでいる
親子が気兼ねなく笑い会える光景、それは真っ当な親子の関係に他ならない
後日、デュノア社とラビットフット社は同時に業務提携の声明を発表、篠ノ之束というISの第一人者が関わるという事でデュノア社の株価は急激に上昇、フランス政府もデュノア社への補助金打ち切りを撤回、また第三世代機としてラビットフット社からの技術協力により【ストライク・ラファール】の開発を発表、ラファール・リヴァイヴの汎用性を伸ばす機体として開発が開始された
同時にラビットフット社も試作のマスドライバー施設建設を発表、追加でHLV、トロハチ、コロニービルダーといった宇宙開発に必要な物を次々と発表、世界に宇宙開発が本格化するという可能性を見せる事に成功、その他にもミノフスキー・イヨネスコ型核反応炉の発表によりエネルギー関連に革命を起こす事となったのである
余談ではあるが核反応炉の発表の際、篠ノ之博士が「ミノフスキー博士に感謝だね!」とコメントした為に、世界中でミノフスキー博士なる人物を探しだそうとした動きが見られたりした
何にせよラビットフット社は、篠ノ之博士は本格的に宇宙を目指す事を決めた
当面の目標はマスドライバー施設の試作と、それが成功した後は月面都市の開発が予定されている
最早止まる事は出来なくなった、それでもオレは止まるつもりなんて全くない、後は突き進んであの
次回から第三章、中ボスやら明確な敵の出現が予定されてます
そしてラウラの新たな機体が次話で登場(予定)