さてエイフマン教授がラビットフット社に授かった加入する事となったのだがオレとクロエは学生の身でもある、その為にこの後は臨海学校の行われる場所まで移動する必要がある
直ぐには引き揚げられないエウクレイデスは無人機のゴーレムを置いておくとして一度海上に停泊してあるノッセルまで戻った
篠ノ之博士達がどうやって此処まで来たのかと思えば小型のカプセルらしき物があり、そこに入ってゴーレムに運んで貰っていたらしい
オレはジェガンを使って一人で戻りゴーレムと共にカプセルの運搬を行う、クロエもバンシィを使えば水中をいけなくはないのだが全身装甲よりも生命維持にエネルギーを消費する為に効率が悪いらしい
だがオレが手伝った事で往復回数は少なくなり、取り敢えずはノッセルの甲板にて全員が集まる
「こうして共にガンダムと行動するとなると不思議なものだな」
「オレの機体は顔だけで、中身は量産機と構造は変わりませんよ。カスタムはしてありますけど」
ストライク・ジェガンならともかくシージェガンでの性能はセンサー系が多少強化されているくらいらしい
言うなればアクア・ジムと水中型ガンダムの違いである、アレもガンダムとは名ばかりで実態はジムだし、ガンダム顔でも中身ジェガンなオレの機体と似ている
「それにしてもインフィニット・ストラトス、ISか。この世界には面白い物が存在するのだな」
「あ、そうだ!お爺ちゃんの実力がまだ分からないから、まずこのISコアの解析からやってみようよ!これ完全にブラックボックスになってて誰も作れないんだよね」
「博士……」
この人、完全に対抗意識から言ってるな
とはいえ確かに篠ノ之博士しかISコアは作れない、この勝負の結果でどちらの能力が上か白黒つけたいのだろう
「ふむ、良かろう。必要な機材はあるのかね?」
「幾つかの道具ならこのノッセルにも載ってるから自由に使って良いよ。それまでの間、ノッセルは移動するね」
「ではその間は部屋に籠るとしよう。到着までの時間は?」
「たまにはクルージングを楽しむってのも良いよね。IS学園のバスが到着する予定時間を考えて、四時間くらいかな?」
という訳で四時間のクルージングが始まった、ノッセルには飛行能力もあるがゆっくりと海上を船のように進む
クルージングなんて洒落た経験はないのでオレは甲板の上で海原を眺めたり、船内のキャビンで仮眠をとったり、クロエと話したりとゆっくりとした時間を過ごした
そして航行から三時間程が経過した時、エイフマン教授が籠っていた部屋から手に一つの端末を持って現れた
「ハード面だけだが一通りの解析はしてみた。これで合っているかね?」
「えっ、ウソ!?本当に終わったの!?」
「ソフト面には一切手を付けてはいないがね。取り敢えず経過報告といったところだ」
篠ノ之博士とクロエと三人でトランプで勝負していた中での事で、篠ノ之博士はそんなエイフマン教授の言葉に信じられないような面持ちで端末を引ったくるように奪うと中のデータを確認していく
オレには何が示してあるのかさっぱりなデータだが、ある程度確認したのか篠ノ之博士は震えるような声で、しかし確かに呟いた
「ちょっと非効率的な部分もあるけど、基本的な機能はちゃんと再現してある……コアは大型化するけど、これを使えばISは完成する……」
「マジか……」
天才だとは思っていた、三百年先の人間だから可能性はあると思っていた、だが実際に天災とも評される篠ノ之博士の生み出したISコアをエイフマン教授は解析してみせた
それはこの世界の誰もなし得なかった偉業、ISという世界のパワーバランスを崩す存在を生み出せるたった二人の人間となる
「だがミス・シノノノ。あの部屋なのだが、設備の他にこれ見よがしに特殊な鉱石が置いてあった。あれがなければわしでも解析は出来なかっただろう。あれこそがISの核となる物で間違いないな?」
「時空石だね。う~ん、迂闊だったなあ。まああれの精製方法は私しか知らないから量産は無理でしょう?」
「そこはまた長い研究となるだろうな。しかしその歳で凄まじいものを生み出したものだ。だがこの力、元は兵器ではないな?」
どうやらこの短時間で解析してみせたのは環境もあったらしい
だがそれよりもエイフマン教授は的確にISが元は兵器ではないという点を言い当ててきた
「んー、どうしてそう思ったのかな?」
「元から兵器として設計したのであればより洗練されたデザインとなる。武装として転用しても精々がデブリを排除する為の物だろう。わしは兵器であるモビルスーツを開発していたが、それとは違う理念を感じた。少し調べたがISコアにはそれぞれに自我のような物を持たせてある。普通の兵器にはそのような機能はあまり必要ではない。シドウ君が語っていたが、ISとは元はミス・シノノノ自身が宇宙開発の為に開発したのではないかね?」
「……分かるの?」
「少なくとも兵器としてのISは何処か歪なのだよ。元は違う目的を持っていたが何らかの理由によりその在り方を歪められるという事は研究開発を続けていればままある。わしの作っていたモビルスーツとて当初は作業用だったのだ」
ワークローダーと呼ばれる作業用の機械がEカーボンの登場により兵器として有用になった、西暦世界でモビルスーツが主力兵器となった理由だ
エイフマン教授はアニメ本編では登場時からモビルスーツの開発者であり、その過去の設定は少ない
もしかすると教授にも似たような過去があるのかもしれない
「だが本来の目的に沿って生み出されたISは何処まで行けるのか。広い宇宙を旅するのに独りでは寂しすぎる。ISに擬似的な自我を持たせているのはISとは兵器でも道具でもなく、共に宇宙を進むパートナーとして設計したのだろう。わしは兵器を作る事に疑問を抱かなかった。しかしミス・シノノノはまだ世界に抗おうとしている。その歳でな。その事をわしは同じ技術者として心から尊敬しよう」
「お爺ちゃん!」
「ぐふっ!?」
「教授!?」
「束様!?」
次の瞬間、篠ノ之博士がエイフマン教授に抱きつき、鳩尾に頭突きを喰らう形となったエイフマン教授が苦悶の声をあげる
更には篠ノ之博士の勢いに負けて体勢を崩し、床に腰を打ち付けたエイフマン教授を慌てて助け起こしたのだが、篠ノ之博士はしがみついたままだ
「うわあぁぁぁぁぁんっ!!私の、私の想いを全部理解してくれた人なんて、初めてだよ!もうお爺ちゃんが私のお爺ちゃんで良いよ!今日からお爺ちゃんの孫になる!」
「ぐぬぬ、腰が……」
「教授、大丈夫ですか?」
「こんな束様、初めて見ました……」
泣きながら喜んでいる篠ノ之博士という珍しい光景が広がっているが腰を痛めたらしいエイフマン教授を頑張って助けたり、クロエが篠ノ之博士を落ち着かせようとしたり、途端に船内が混沌とした状況になった
だが世界からISの力の部分しか認められなかった篠ノ之博士の事を一端でも理解出来るエイフマン教授という存在は博士にも良い影響を与えてくれるだろう
尤も、目的地までの残りの一時間をずっと篠ノ之博士を宥める事に費やす事になるとは思わなかったが
◆
織斑千冬がバスを降りて海で見付けたのは以前に束から教えられた宇宙船兼航空機兼水上船という色々な機能を盛り込まれた船であるノッセルだった
別行動と伝えられ、ノッセルが無くなっていた事からこれを使って移動していたのは理解出来る、急用というのも康太の事を知っているから漂流物絡みの事だろうと予測は出来ていた、だが目の前で他人に一切の興味を持たない親友の束がとても、それこそ肉親に向けるかのような親しみを持って接している老人に関しては全く予想が出来ていなかった
「束、この人は誰なんだ?」
「レイフ・エイフマン教授だよ。私のお爺ちゃん!」
さてこの天災はいつから自分の祖父の事を認識出来なくなったのだろうか、そう千冬が考えていると事情を知っていそうな康太が来る
「教授、もうちょっと頑張って下さい。宿には温泉があるらしいので湯治が出来ますよ」
「ぐっ、よもや此処まで響くとはな。わしも老いたか」
が、腰を痛めているらしい件の老人に肩を貸して宿まで向かっているところだった、流石に老体に無理をさせるつもりは千冬にはなかった
ならば他に誰か居ないかと見渡し、クロエに視線を合わせる
その後、クロエから無事に事情を聞き出す事に成功したのであった
◆
取り敢えず旅館の女将さんに事情を説明してエイフマン教授を温泉に連れていった後、オレ達もIS学園の生徒なので一度クラスに合流した
色々な説明事項があったり、旅館の女将さんに改めて挨拶したりだ
そして今日は夕方まで自由時間という事もあり早速海で遊ぼうという事になった
あとエイフマン教授はまだ温泉である、服は何故かアニメ本編で教授が着ていた物がエウクレイデスの中に幾つかあったので着替えには困らない、今はゆっくりと休んで貰おう
IS学園の生徒達もそれぞれ水着に着替えて砂浜に来ている、オレもこの間購入した水着に着替えているが、さてこれからどうするかな
気ままに海の中を泳ぐか、久しぶりに来た海にオレは手持ちぶさただった
「康太、向こうでビーチバレーやるっていうから一緒に行こうぜ」
「ん?ああ、分かった。今行く」
だが一夏に呼ばれてそちらに行くと専用機持ちの面々が集まっていた
三対三で別れてやっているらしい、バレー自体あまりやった事はないが、こういうのはノリだ
「来たわね康太!いつも訓練で負けてばっかだけどこれなら負けないわよ!」
「そうですわね。たまには勝たせて貰いますわ」
「お前らな……」
そして砂浜に即席で描かれたコートには既に鈴とセシリアが居てオレを待っていた、一夏を見れば苦笑いしながら手を合わせている事から知ってたな
まあいいや、少し相手しておこう、経験少ないから上手く出来ないだろうがたまには二人に花を持たせるのも良いだろう
という訳で一夏と一秋を巻き込んで男三人でチームを組み、鈴とセシリアは適当にその場に居たシャルロットを入れた三人で組んで勝負となった
なったのだが、展開は一方的である
「受け止めましたわ!」
「上げるよ、鈴!」
「任せて!喰らいなさい康太!」
「お前オレばっか狙うの止めろよ!?」
こうして執拗に鈴から狙われるのである、どうやら日頃の訓練で負け続けている事への仕返しらしい、あまり一夏と一秋もオレと技量は大差ないがオレだけ狙われてるのはそういう事だろう
「ふふん、その程度かしら?」
「くそ、小さいくせによく跳ねる」
バレーって身長高い程に有利なスポーツだったと思うんだが鈴はそんな事関係ないとばかりにジャンプ力を駆使してスパイクを打ち込んでくる
「けど、一部は跳ねてないよな」
「それな」
「コロス」
が、不用意な発言をした
巻き込まれないよう可能な限り息を殺して嵐が過ぎ去るのを待つ、残ったのは顔面レシーブをして倒れる男が二人だけだ
「これは一体何があったんだ?」
「アホが二名、口滑らせて倒れただけです、織斑先生」
と、そこに織斑教諭がやってきて目の前の惨状に困惑した声を発した
「成る程、おおかた一夏の辺りが原因だろう。適当な場所に運んでおくといい」
「了解です」
という訳で二人を適当なパラソル下に引き摺っていく
だが運んだ後で二人を気絶させた当の本人はどこから持ってきたのかスコップで砂を掛けていた、頭は出ているから砂風呂みたいになっている
「ふふふ、これで起きた時が楽しみね」
「これ本当に周りの助けがないと抜け出せないからなあ」
目覚めたら体が動かせないとかパニックになるだろうが口は災いの元という言葉もあるように今回は一夏達の自業自得なので放っておくとしよう
とはいえビーチバレーの人数が足りなくなったのでオレは端で見学に回る、織斑教諭と一緒に篠ノ之博士と山田先生が来たので教師チーム+αで組んでビーチバレーを再開したようだしそれを眺める
そして普段は研究室に籠っていて全く予想出来なかった事だが篠ノ之博士の動きが凄い、体を動かすのが得意だと分かる織斑教諭に劣らない動きでボールを捌いている
さっきまでオレ達を圧倒していた鈴、セシリア、シャルロットの三人が手も足も出ないとは思わなかった
「うっ……あれ?俺、何で寝てるんだっけ?」
「あー、頭がガンガンする……」
「おっと、意外と早く目覚めたな、二人共」
そんな試合を眺めていると一夏と一秋が目を覚ました、どうやら衝撃で記憶が飛んでいるようだ
「あれ、何で砂に埋まって……抜け出せねえ!?」
「それ鈴が埋めたんだよ。理由は覚えてるか?」
「えっ?あっ……ヤベェ……」
「という訳で助けたらオレまで巻き込まれそうなんだ。自力で抜け出してくれ」
一応片方の手の付近だけ砂を少し崩しておく、頑張れば自力で抜け出せるようになるだろう
後ろの方で二人が何か言っているのを無視してオレはその場を離れた、が何をしようか……適当に泳ぐかな
「お暇ですか?」
「ん?ああ、クロエか。まあな、折角の海だから少しは泳いでいこうかと思ってな。さっきので体に砂もついたし」
シャワーで洗い流すにしても海に入ってからだと二度手間だしこのまま入ろうか、そう考えていたらクロエが近くに来ていた
「そういうクロエは良いのか?篠ノ之博士とかあっちで盛大に砂煙上げてるけど」
篠ノ之博士がスパイク打つと地面に当たった時にかなりの勢いなのか砂煙が大きく舞うのだ
セシリアとかが受けた時でも威力が強すぎて受け止めきれていない、普段が研究ばかりではあるが篠ノ之博士の身体能力の高さが伺える
「束様は織斑先生と一緒に遊べて楽しそうなので邪魔をしてはいけないと思いまして。コウタさんは今から泳ぐのですか?」
「そのつもりだぞ。クロエも泳ぐか?」
「そう、ですね。あの、コウタさん。実は私、泳ぐのが初めてなんです」
「そうなのか?」
「はい。普段はこうして外に出る事も少なかったので……なので泳ぎ方のコツとか教えて貰ってもよろしいですか?」
「それくらいならお安いご用だ。とはいってもオレも人並み程度だけどな」
25メートルプールを泳ぎきる事なら簡単だが何度も往復出来る程に得意という訳ではない、それでも初心者のクロエに教えるくらいは出来る
海は波があるが塩分が高いからプールよりな浮きやすい、流石にテレビで見た死海のような浮力はないが気休め程度にはなるだろう
「それではお願いします」
そう言ってクロエは海に入る為に上に羽織っていたパーカーを脱いだ
そして露になるのは黒のフレアビキニに身を包んだクロエの素肌、普段はあまり肌を見せる事はないが白色人種特有の白い肌が黒の水着と対になるようでより強調されている
「あの、似合ってるでしょうか?」
「あ、ああ……何と言うか、綺麗だ……」
「そ、そうですか……」
つい素直な感想を述べてしまうが仕方のない事だと思う、それだけクロエが魅力的に見えたのだから
だからといって顔を赤らめて俯かないで欲しい、こっちまで余計に恥ずかしくなってくる
「と、取り敢えず海に入るか!」
「そ、そうですね!時間は有限です!」
そのまま無言で居るのも気まずいので無理矢理にでも流れを変える、一先ずは足がつったりしないようによく準備運動をしてから海に入る
泳ぎは初心者という事なのでまずは水に慣れるところから、プールとかなら水中で目を開けたりと練習するのだが海水だと難易度高いか
なのでゴーグルをと思い持ってるか確認したのだが
「私は黒鍵のお陰で目を開けずとも周囲の様子を目視と同じ感覚で知覚出来ますよ」
「やっぱ便利だな、黒鍵」
という訳でゴーグル要らずとなった、黒鍵は生体同期型、つまりはクロエの肉体の一部となっているのでクロエがゴーグル等を必要とする必要もないだろう
なので初めから泳ぐ練習に入れる、まずは水に浮かぶ事からだ
水面が胸の辺りになるくらいの水深の場所で練習を始める事にした
「体を真っ直ぐにして力を抜いておけば自然に浮けるぞ。こんな感じだ」
試しに脱力して水面に浮かんでみる、少ししてから顔を上げクロエにも同じように促してみると、まだ力が抜けていないのか足の方から沈んでいく
そして足がついた辺りで立ち上がった、少し落ち込んだ様子だ
「初めは誰でもそんなもんだって。気にするな」
「はい……」
「まだ不安そうだったから手を繋いでおくか?何かあれば直ぐに助けられるって分かっていれば力も抜けるさ」
という訳でついでにばた足の練習を含めてクロエと両手を繋いで浮かぶ練習をする
クロエはコツを掴むのが上手いのか浮くのは直ぐに出来た、後はばた足やら手で水を掻いたりすれば取り敢えず前には進める
そんな訳でオレが教えられる泳ぎ方であるクロールと平泳ぎでの息継ぎ方法を教えたら直ぐに習得し一人でも十分に泳げるようになっていた
「やっぱりクロエは運動神経も良いんだな」
「コウタさんが教えてくれたお陰です。でも水の中で泳ぐ事がこんなに気持ちのいい事だとは知りませんでした」
「そうだな。此処の海は綺麗だし、海の中も色々な光景が広がってる。プールとはまた違った自然の魅力がある。けどプールはプールで色々な種類があるからな。流れるプールに、波の出るプール、ちょっとしたスリムの楽しめるウォータースライダーとかな」
「楽しそうですね。コウタさん、夏休みになったら一緒にプールでも泳ぎませんか?」
「良いな、それ。じゃあ夏休みの予定に一つ追加だ」
この臨海学校が終われば後は期末試験の後でIS学園も夏休みに入る、少し早いかもしれないがプールに行くくらいは普通だろう
他には夏の風物詩と言えば山でキャンプとかだが、そういえばラビットフット社でも色々と予定があった気がする
プールは一日あれば行けるから確実として夏休みに入る前に一度確実に予定を見直しておいた方が良いかもな
「コウタさん、何だか潮の流れが変です」
「ん?そう言えば、波が高くなってる?」
そんな夏休みの事を考えているとクロエからの指摘で周囲の波が高くなっているのに気付く、それに流れも速くなっているし、太陽の方向から見ると陸から離れるような流れだ
「あ、コウ、タさ、ん!?」
「クロエ!」
次の瞬間、大きな波が来てクロエがそれに飲み込まれる、オレは急いでその行方を追い、水中でもがくクロエの姿を見付けて水の中を進む
うねるような水流の中、なんとかクロエを抱き留めたオレは必死に水を掻いて水面を目指す
「ぷはっ!?大丈夫か、クロエ!?」
「けほっ、けほっ、コウタさん……」
「大丈夫だ。落ち着いて対処すれば何とかなる」
水流は強く岸からどんどん遠ざかるようにオレ達を押し流していく、それに対してオレは敢えて流れに逆らわず太陽の位置から割り出した陸地の海岸線とは並行方向に泳ぐ
するとそこまで幅が広くなかったのか直ぐに流れからは抜け出し、そこからゆっくりと岸に向けて泳ぎだした
「コウタさん、今のは何だったんですか?」
「離岸流だ。海岸に打ち寄せた波が沖合いに戻ろうとする時に起きる事がある」
その流れの速さはオリンピック選手でも抗えない、だがその流れの幅は大きくても三十メートル程度、横に向かって泳いでその流れから抜け出せばそれ以上押し流される事はない
「とはいえ少し流されたな。オレに掴まってろ。岸まで泳ぐ」
慣れてきたとはいえクロエは初心者だ、体力も少ない方だからオレが引っ張っていく方が良い、背中から首に手を回してオレにしがみついたクロエを連れて水を掻いていく
岸を目指すのに今度は追い波だから楽だ、ゆっくりでも確実に岸に近付いている
そして流されてから体感で十分くらいだろうか、ようやく足が届きそうな場所まで戻ってこれた
「ふぅ、此処まで来れば一安心だな」
「ありがとうございます、コウタさん」
「気にするな、当然の事だ」
「それでも助かったのは事実です。それにしても、海にあんな現象があるなんて知りませんでした」
「オレもテレビでたまたま見て知っただけだからな、運が良かった」
夏場が近いからか水難事故特集をやっていたのだ、離岸流に関してもそれにあったから対処出来た
そういった意味では運が良かったと言える
と、海から上がった時に胸元でチェーンが小さく音を立てた、オレが首から下げているドッグタグ、ISであるジェガンの待機形態だ
「あ」
そして思ったのだ、最初からIS展開して飛んでいけば泳ぐ必要なかったじゃん、と
オレはドッグタグを手に持ってクロエに見せる、クロエも首からバンシィの待機形態である獅子を模したペンダントを掛けているのでオレと同じように「あ」と呟いている
どうやらオレも焦ってまともな判断を出来ていなかったらしい、簡単な方法があった事に全く気付かなかったという事実に自然とオレもクロエも笑っていた
一頻り笑い終えた後、気を取り直そうとした時、砂浜の方で誰かが声を上げているのが聞こえてくる
「かんちゃーん!どこー!?」
それは狐か何かの着ぐるみ、型の水着らしい物を纏ったのほほんさんだった
だが普段のおっとりした様子からは考えられない程に声に焦りが見えた
「のほほんさん、どうかしたのか?」
「あ、しどっち!かんちゃんが、かんちゃんがぁ!」
「落ち着いてくれ。そのかんちゃんって子がどうかしたのか?」
その切羽詰まったような様子にオレが声を掛けるとのほほんさんは涙目でオレに抱き着いて来た
そんなただならぬ様子に非常事態だと察したオレは意識を切り替える
「うん、実はさっき海で速い流れがあってね、そこに一緒に居たかんちゃんが巻き込まれたの。私、何も出来なくて……それで、どうしたら良いか分かんなくて、私、私……!」
さっきの離岸流か、どうやらオレとクロエだけでなく他の生徒も巻き込まれていたらしい
「分かった、オレが探してくる。クロエ、のほほんさんについてあげてくれ。それと先生達に連絡を」
「分かりました。コウタさんもお気をつけて」
「分かってる。のほほんさん、そのかんちゃんって人の特徴は?」
「えっと、水色の髪で赤い目をした女の子だよ。浮き輪を持ってたから大丈夫だと思うけど、でも遠くに流されていって……」
「分かった、ありがとう。大丈夫だ、浮き輪があるなら溺れたりなんて絶対してない。直ぐに見付けて帰ってくる」
「うん、お願いね、しどっち」
「ああ、任せろ!」
さっきは使わなかったがジェガンを身に纏う、背中には機動性重視で普段使っているI.W.S.P.ではなくスペキュラムストライカーを装備する
「紫藤康太、スペキュラム・ジェガン、
戦闘ではなく人の命を救う為に、オレは群青の海へと飛翔した
隙あらばイチャついていく二人、そしてしれっと登場する新型ストライカー、普段はI.W.S.P.ですがコウタくんにはアナザーストライカーが用意されているのです