模擬戦での勝利により奏はその実力を示した、それにより他の懐疑的だった者達も納得させた奏は自慢気にドヤ顔をしている
が、それは直ぐに終わる
「はい、今回の試合についての反省会を始める。まず自分で悪かった点を挙げてみろ」
「うっ……その、射撃を外しました……」
「よろしい。初めに苦手とする射撃戦に挑んだのは向上心があって良い点だ。だが不意打ちの決まったあそこで、初弾を外すのはどういう事だ?あの状況、初弾命中ならどう状況が動いたか分かるな?」
「命中した場所によっては更に有利に事を運べました……」
「その通り。あの状況で敵の手持ち武器を狙っても良し、射線が通るなら敵のスラスターを狙っても良し、少なくとも敵に大きな弱点を作る事が出来た。という訳で今日は射撃訓練オンリーな」
「はい……」
涙目だが幾ら近接戦闘が得意とは言っても剣の間合いでは出来る事は限られる、だからこそ奏の機体にはコールドソードⅡに加えてコールドソードⅡブラスターも備えられているのだ
仲間のフォローにも射撃でなければ間に合わない時もある、そして撃つにしても腕がなければその仲間に当ててしまうかもしれない
今回の合宿でも敵はデビルガンダム軍団を想定しているのだ、近接戦闘だけで相手にするには心許ない
そんな訳で訓練が開始された後はアリーナ内に的が浮かび出し、それを狙って射撃訓練を行っていく
デスアーミーの物量を想定して的は大量に、そして当ててもまた直ぐに的が現れるように設定されての訓練だ
奏もコールドソードⅡをライフルモードで使用しているが、動かない的でまあまあな命中率である
それも狙ってから撃つのが遅い、隣で同じ訓練を受けているマリー・リードが的確に的を撃ち抜いており、奏に対してドヤ顔を決めている
「ぐぬぬ……!」
「お前ら割りと似た者同士だよな」
「「誰が似た者同士よ、誰が!」」
そういうところが、と言いたいが二人は同時に同じ事を話した為に、またしても同時に顔を背ける
そんな妙に息の合った二人に苦笑しつつ、オレは奏からコールドソードⅡを借りて的に向ける
「距離の近い奴は撃破を優先するが、まずは素早く多く撃つ事からだな。こう、端から端を銃口でなぞるだろう。そして銃口が重なった瞬間に引き金を引けば―――」
試しにオレが同じ武器を使ってやって見せ、十の的を撃ち抜いてやった
「は、早っ……」
「実戦だと的も動くから追い付かねえと当たらねえぞ。その訓練はまた後でやるから、今の内に慣れときな」
「ね、ねえ、それなら動く的でやってみせて。兄さんの機体で良いから」
「別に良いが、オレの機体は複数の敵をロック可能な装備だから、参考にはならないぞ?」
「良いから、やってよ」
「分かった」
シミュレーションのデータを変更、的の姿をデスアーミーに変えて、走ってオレの方に近寄ってくるように設定する
ISのセンサーを利用して表示される仮想の敵、その数は表示されるだけで三十機あり、撃破しても後ろの方から新たに表示されるので数は減らない
地上を移動するしかないデスアーミーだから普通は飛べばいいのだが、そうすると金棒型ビームライフルで全体からの対空砲火に晒される、なので敵が金棒型ビームライフルを金棒のまま使おうとする距離での戦闘を行っているという想定だ
だから早く捌かないと囲まれる、オレはビームライフルショーティーを構え近い順から撃っていく
取り回しの良いこの銃はこういった場合に重宝する、だが本来の仕様と違い荷電粒子ではなくミノフスキー粒子を用いる事でEパック方式に変えた事で威力と引き換えにリロードが必要となる
リロードは直ぐに済むがその短い間にも敵は動き続ける、だからその隙を晒さないように背部のノワールストライカーから2連装リニアガンを展開し繋ぎとする
I.W.S.P.とは違い様々な方向に撃てるようになったノワールストライカーは背後にも撃てる為に敵の多い状況ではビームライフルショーティーと同じく有効だ
そうして五分間の訓練を続け撃破数が三百を超えた辺りで終了となる、まずまずのスコアといったところか
「ざっとこんな物だな。どうした、二人共?」
「いいえ……」
「何でもないわ……」
「ふむ、まあオレのは一対多に適した装備だからな。機体も違うのに比べるなよ」
自信を喪失したような奏とマリー・リードだが、そもそも近接戦闘用の機体と狙撃型の機体とを、オレの万能型と比べるのが間違っている
とはいえ、それを言っても気休めにしかならないだろう、二人はそのままああでもない、こうでもないと戦い方を見直しているのだった
◆
取り敢えず訓練の初日が終わり、今日は基本的な技能の向上に努めた
そんな中で問題となるのが、明日以降の訓練メニューに関してだ
今日と同じく射撃訓練をするか、イギリスの機体が軽視しがちな近接戦闘をするか、だな
デビルガンダム軍団の機体は近接戦闘が強い機体が多い、だからいざという時にはその場を凌げるだけの技量があった方が良い
高機動狙撃型という戦闘スタイルがイギリス機の特徴である、エネルギーの割り振りも移動用に多く割かれている為に格闘に使うパワーが少ない
オレの機体は全身装甲なのでシールドに張る分をパワーに割り振っている為、機動性と機体出力の両立がされている、その違いも問題だな
「防ぎ方だけでも教えるか」
身を守る術があるとないとでは大きな違いがある、パワーが無いのであれば打ち合うのではなく受け流す方向に持っていこう
「何にせよ、本命は三日目からのシミュレータ訓練だな」
今回の訓練でラビットフット社から持ち込んだシミュレータ、全てはそこに辿り着く為の前準備、そう結論付けてオレは与えられたホテルの一室で眠りにつくのだった
◆
「ふふん、今日はまさに私の独壇場ね」
「そうだな、だから相手はオレがやるぞ、奏」
「あー、ちょっとは手加減してよね?」
「お前相手に手を抜ける程、まだオレの技量も高くないからな」
翌日、再びアリーナに来たオレは近接戦闘の訓練と聞いてやる気に満ちている奏に釘を刺す
そもそも近接戦闘用の機体で狙撃型の機体と近接戦闘しても苛めにしかならないだろうに、マリー・リードをライバル視している奏は昨日の射撃訓練でドヤ顔を決められた事を余程根に持っているらしい
「では私の相手もして貰うぞ、コウタ・シドウよ」
「王女殿下はクロエとやってください」
「な、何故だ!?」
「機体のパワー的に丁度良い相手だからです。オレの機体と奏の機体だとパワーでゴリ押ししますよ」
機体のパワー的には奏、オレ、クロエ、王女殿下、セシリアの専用機の順番になる
量産機に関してはセシリアのブルー・ティアーズと同等なので、相手にするならそうしなければ訓練にならない
まあ、慣れてきたらパワーが上の機体を相手にして貰う気ではあるが、まだ早い
取り敢えず実演、という事もありまずはオレと奏で模擬戦をする
模擬戦と言っても飛行なし、武器は剣のみ、牽制として装備しているならバルカンといった小口径の火器のみだ
アリーナの地面スレスレのところをブースターで飛ぶのはありだが、一定の高度を超えれば失格、といった感じで始める
オレは装備をキャリバーンストライカーに変更し、奏に相対する
奏は早速バスターソードⅡを構えている、オレもシュベルトゲベール改を抜いて構える
リーチ的には大差ないが刀身が分厚く幅広い為に重量では奏の持つバスターソードⅡの方が勝る、まともに打ち合えば押し負けるのは必然、だからこそ受け流す事が鍵となる
互いに上段に構えての振り下ろし、だがオレは初めから真正面ではなくバスターソードⅡの側面に叩き付けるように振り下ろした
それにより僅かに横に逸れるバスターソードⅡ、オレはそのまま刀身の横に滑り込み、肩部スラスターを使い回転、一度引いていたシュベルトゲベール改を横薙ぎに一回転しながら振るう
奏も奏であっさりとバスターソードⅡを捨て、両脚からヒートカタールを引き抜く
その手数にシュベルトゲベール改では不利な為、オレは背中に背負い直した後、今度は大型ビームサーベル【カラドボルグ】を引き抜く
威力、リーチ共に優れ本体は柄のみである為に取り回しにも優れるこの武装、エネルギー消費量による連続使用時間の短さがなければかなり使い勝手の良い武装である
それに加えて左腰から通常のビームサーベルも抜き二刀流で構える、そこから先は剣劇の嵐であった
小回りの利くカタールの二刀流という奏と、一撃の威力に優れるビームサーベルで牽制し、更に小型のシールドによる防御もある為に有効打を許さない
状況が動いたのは大型ビームサーベルのエネルギーが切れた時である、エネルギー消費の多さからエネルギーCAP内のミノフスキー粒子が切れたのだ
「もらった!」
絶好の機会とも言える大きな隙に奏はカタールを繰り出そうとする、だが甘い
「なっ、白刃取り!?」
「ヒート化するのは刃の部分だけ、なら刀身に触れなければ!」
カタールが振られる前に刃を挟むように手で掴み、奏の攻撃を防ぐ
「ふっ!」
「きゃあっ!?」
そこから更に膝蹴りを放ち奏の体勢を崩すと右手にアーマーシュナイダーを展開、投げて奏の右肩の稼働部の隙間に突き立てた
刺さったアーマーシュナイダーにより右腕の動きが制限された奏の首に左手に握っていたビームサーベルを突き付けて終了する
「うぅ、勝てると思ったのに……」
「これでもお前より長く乗って実戦も経験してるんだ。簡単には負けてやれないな」
悔しそうにしている奏にそう返しつつ、観戦していた代表候補生達に向けて告げた
「それじゃあ同じようにやってみろ。あそこまではいかなくても、同じような技量の相手で始めると良い」
流石に奏レベルを求めるつもりはない、奏の技量は殆んど天性のものだ、そうでなければ乗り始めて一月も経っていない人間が此処まで戦える筈がない
それを理解しているのかイギリス代表候補生の子達は自分達で相手を探して模擬戦を行う、オレもそれを手助けしたり、クロエに勝ったからと調子に乗ってきた王女殿下を斬り伏せたり、クロエと軽く模擬戦をしたりと、過ごしていく
そしてその日の訓練を終え、迎えた翌日はオレ達がこの訓練に参加して三日目である
予定時間より早めに着いたオレ達はアリーナ内のミーティングルームにて準備を行っていた、此処に来た時にノッセルに積んできていた積み荷の一つであり、この三日目から使用する為の物だ
「コウタさん、全ての機材のセッティングが終わりました」
「こっちも状況設定が終わった。これでいつでも使えるぞ」
クロエには機材のセッティングを担当して貰い、オレは訓練で使用するデータの設定を行っていた
とはいえ状況設定は複数の種類を用意してある為に、色々大変ではあったがな、主に状況に対して齟齬が出ないようにするのに
「おはようございます、康太さん、クロエさん、奏さん。今日は一段とお早いですわね」
「ああ、セシリア、おはよう。見ての通り、三日目から使う機材を用意してたところだ」
「そうでしたの?それで、これはどのような機械なのですか?」
「それを説明するのは全員が揃ってからにしよう。だが、今までの訓練で培った事が存分に活かせる物である事に間違いない」
「それは楽しみですわね」
朝は訓練内容を話し合う為にミーティングルームに一度集まる為、ちらほらと人が集まり始める時間となってきた事からセシリアがやってきてオレ達が弄っている機械に興味を示す
直ぐに説明しても良いが、どうせならまとめて全員に説明した方が効率が良い
そうこうしている内に設定も完了し、参加メンバーも集まってきた
「ふむ、ラビットフット社の設備か。どのような物か、興味深いな」
「王女殿下が待ちきれないみたいだし、早速説明をするとしよう。これはISの電脳ダイブを応用して作ったシミュレータだ。今日からこのシミュレータを使って訓練したいと思う。随時質問は受け付けるぞ」
「はい」
「ではサラ・ウェルキンさん」
「電脳ダイブってアラスカ条約で使用に規制が掛かっていたと思うのだけど?」
「アレはISを用いての電脳ダイブであって、ISを用いない電脳ダイブは対象外だ。つまりは何の問題もない」
「じゃあ、はい」
「はい、マリー・リード君」
「そのシミュレータを使ったとして、何が出来るのよ?」
「良い質問だ。その辺りを少し実践してみせるから、よく見ておけ。クロエ、後頼んだ」
百聞は一見に如かず、とも言うし何が出来るかは実際にその目で確かめて貰った方が良いだろう
オレは頭にシミュレータ本体と接続した機械を装着し、用意しておいた寝袋に入る
床に寝転がる事になるから体に負担が掛からないようにしての対処だ、クッション性が高くしてあるから下手な布団より寝心地が良い
全ての準備が整うと頭の上半分を覆う形となる装置の目に掛かったバイザーにカウントダウンが表示され、ゼロと共にオレの視界が暗転した
◆
康太が装置を装着した後、イギリス代表候補生達はシミュレータに備えられた大型のモニターを眺めていた
白い部屋が映っていたそのモニターには康太が現れる、そこにクロエが身に付けたインカムから通信を行う
「コウタさん、そちらの状況はどうですか?」
『動作に問題なし。いつでも始められるぞ』
「分かりました。状況設定01、シミュレータ開始します」
モニターから返ってくる康太の声、それを確認するとクロエは端末を操作して何らかのデータを送る
すると画面内の康太が立っている場所が切り替わっていく
そこは荒廃した都市であり、康太が立っているのは東京タワーの真下である
「最優先目標はデビルガンダムの撃破、第二に敵戦力の漸減になります。当然、撃破されれば作戦失敗になります。良いですか?」
『問題ない。これより状況を開始する』
「分かりました。以降、コウタさんをアルファと呼称します。御武運を」
そう言うと康太はISを展開し飛翔する
目標を示す表示が新宿駅のある北西に向かって存在している為に、そちらに向かう康太
その道中に別の敵性存在が現れる
「アルファ、敵部隊と接敵、数三十」
『全てデスアーミーか、迂回してやり過ごす』
だが康太は戦闘を避けて先に進む、康太ならば即座に殲滅可能だろう数をわざわざ避けて進む事に代表候補生達は首を傾げるが、康太は更に奥へ奥へと進む
その後も数によっては迂回したり、極少数の敵のみを突破したりと康太らしくない動きが続く
何故そのような動きをするのか、理由が分かったのはセシリアが画面内の表示に気付いたからだ
「もしかして、エネルギーを温存していますの?」
表示されているのは康太の動きだけではなく、それが纏うISのコンディションからエネルギー残量まで表示されている
そして康太は移動にエネルギーを使っているのみで戦闘には殆んどエネルギーを割いていない
それにより殆んど万全の状態を維持しているのである
そのような動きをしている理由はその直ぐ後に分かった、目的地である新宿駅の近くに辿り着いた時、康太の下へと砲撃が殺到する
何が起きたのか、小さく画面が分割されるとそこには康太に向けて砲撃を連射しているデスグランドの姿があったのだ
更に問題となるのはその数であり、臨海学校では一体だけでも専用機複数と渡り合ったデスグランドが広い道路に三体並んでいるのだ
「四天王級を三機確認。他、後方よりデスアーミー、数七十。上空からもデスバーディ、二十が接近」
「囲まれましたわね……」
康太が単機に対して敵は多数、しかも四天王が居るという状況にセシリアは自分に置き換えて考える
結果は敗北、少なくともそれだけの数を相手に勝てると思える程に自惚れてはいないセシリアは康太の動きに注視する
他の代表候補生達も似たり寄ったりであり、無言でモニターを見詰める
そして康太は動き出す、それまでの温存した動きではなく全力で動いていた
まず砲撃を回避しながらデスグランドの砲や背部から伸びている巨大な角に対して攻撃を行う康太、装備もノワールストライカーではなくサムブリットストライカーに変更し、アグニ改ではなく通常のアグニにより薙ぎ払うような砲撃で武装を立て続けに失うデスグランド
放電攻撃を行う為の武装でもあるデスホーンを失った事により康太は更に装備を換装し、仕掛ける
キャリバーンストライカーに装備されていたシュベルトゲベール改、量子化していたそれを手に、背には機動性に優れたスペキュラムストライカーを装備し、一気にその懐に飛び込むと生体ユニットの存在する胸部を切り裂く
だが一体を倒して終わりではない、残る二体も再生を行い武装を修復しようと動き出している、しかし修復用のエネルギーや素材となるデスアーミーはまだ周囲には居ない為にその速度は臨海学校の時のものとは比べ物にならない程に遅い
そうしている内に康太が懐に飛び込み、残された二機もまた一機目と同じ運命を辿るのだった
デスグランドを最低限の労力で仕留めた康太は装備をノワールストライカーに戻すと遂に目的地へと到達する
そこに待ち受けていたのは地面から大量のチューブのような物を伸ばして地上に現れたデビルガンダム第二形態の姿だった
「あれがデビルガンダムか……」
「私もシミュレータとはいえ初めて見ましたわ。一体、どれ程の力を想定しているのでしょうか?」
デビルガンダムの脅威というのはIS学園を通じて各国に広く知らされているが、かといってそれがどれだけの力を持つのかと言われると誰も知らない
だからこそセシリアもレイネシアもラビットフット社がどの程度まで想定しているのかを知りたがっていた
そして、モニター内ではデビルガンダムが動き出す、それと同時に地面から複数のデビルガンダムヘッドが現れ蛇のような動きで康太へと殺到し、その巨大な頭部から開いた口で噛みつき攻撃を仕掛けてくる
康太はそれを避けると同時にデビルガンダム本体と繋がっているチューブをノワールストライカーのフラガラッハ3ビームブレイドを抜いてすれ違い様に斬り裂いていく
しかしデビルガンダム本体からのエネルギー供給が行われており、更には自己増殖により新たなデビルガンダムヘッドが出現、康太が反撃に転じる隙がない
「デビルガンダムに高エネルギー反応を確認、来ます」
『くっ!』
クロエからの警告を聞き、康太はその場で真横に瞬時加速を行う
康太が離脱した次の瞬間、デビルガンダム本体の口が開き内部から極大の閃光が放たれる
それは康太を囲んでいたデビルガンダムヘッドを巻き込み、その更に奥に広がっていた荒廃した街へと向かっていく
「街が、割れた……!?」
その惨状を言い表すのであればまさにレイネシアの言葉が適当であったであろう
デビルガンダムから放たれたビーム砲は荒廃した都市を真っ二つにするかのように地面を融解させ、射線上にあったありとあらゆる物を消滅させた
予想だにしなかった信じがたい程の威力にモニターを見ていた代表候補生達は絶句する
「アルファ、機体ダメージ蓄積率三割を超過。戦闘能力に支障有りと判断、撤退を推奨します」
『避けきれなかったか……一時後退する』
現実に引き戻されたのはクロエの状況を知らせる声だった
モニターにはノワールストライカーに被弾したのかブースターの部分から煙を吐いているストライク・ジェガンの姿があった
康太はノワールストライカーをパージするとスペキュラムストライカーに換装し離脱を開始した
その背を狙いデビルガンダムが再びビームを放つが、先程と違い機動性に優れたスペキュラムストライカーを装備した康太は余裕こそないものの回避を続け戦場を離脱していった
完全に離脱し、海へと出たところでシミュレータが終了、最初の白い部屋に変わった後、康太の姿がモニターから消えた
「んぐ……」
それと同時に現実世界で寝袋に入っていた康太がビクッと震えた後で頭に着けていた装置を外し、一度深呼吸をした後で寝袋から出てくる
「ふぅ……取り敢えず、これが対デビルガンダム用シミュレータだ。今回はオレ一人での出撃という普通有り得ない状況だったが、複数人のISでの出撃、既存兵器との共同作戦等、様々な状況を設定する事でよりリアリティーのある戦場を想定する事が出来る。その有用性は分かって貰えた事と思う」
「あの、康太さん。デビルガンダムとは、本当にあのような存在なのですか?」
あれ程の威力、ISの絶対防御が通じるかも怪しい程の威力のビーム兵器を目の当たりにしたセシリアは康太に問う
それは他の代表候補生達も全く同じ気持ちであった
「オレの知る限り、あれ位は可能な筈だ。少なくとも強く見積もって損はない。あれより性能が低ければ取り越し苦労で済む。だが、もしも想定を超える程の力を持っていたのならば……」
それは想像もしたくない事態であろう、最強の兵器として君臨しているISを遥かに凌ぐ性能を持つ存在という事実でさえ彼女達は受け入れ難い事実であるからだ
「ふむ、ならば対抗策を身に付けるしかあるまい。有事の際は我々がアレを相手にする事になるのだからな」
「その通りだ。次の状況設定はロンドン防衛戦にしておく。想定としては海からテムズ川を通りロンドン中心部への侵攻が行われる設定で行こう。参加者は五人、一国のIS戦力としては一度に展開可能なのはその辺りだろうからな」
ISは国力に比例して配備数を決められており、欧州であれば一国に約十機が配備されている
イギリスに与えられているISの数も同じようなもので、そもそも五機ものISを同時投入するような戦闘などこれまで想像もされなかった事態だ
だが康太が見せた戦闘を見れば嫌でも理解出来る、アレはISの性能云々でどうにかなる相手ではないという事を
その後、二つに分けられた代表候補生達に、レイネシアとセシリアの二人の専用機持ちが一人ずつ付いた六人での参加が決まる
まずはレイネシアを含むチームの参加からであり、残りは現実の方で見学に回る
そうしてラビットフット社のシミュレータによる訓練が始まった